【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
衛兵に先導され、ドラゴンズリーチへ続く階段を昇ってくるリータ達を、デルフィンは驚愕の目で見つめていた。
「まさか、こんな幸運に恵まれるとはね……」
この部屋の主であるドラゴン狂いの宮廷魔術師は、ドラゴンが倒されたことを知り、一目散に部屋を飛び出していった。
彼にとって、ドラゴンの襲来は、望外の幸運だったのだろう。
それは、デルフィンにとっても同じだった。
自分達が求め続けていた存在。それが、目の前に現れたのだから。
「急がなくちゃいけないわね。あのドラゴンボーンを、導くためには、色々と用意がいるわ」
こうしてはいられないと言うように、デルフィンはいそいそと荷物をまとめ始める。
彼女がここに来たのは、ドラゴン狂いの宮廷魔術師の依頼を果たすためだったが、既にその依頼も終わっている。
この場に残り続ける必要はないし、本来彼女はホワイトランの人間ではない。
宮殿内にいる事が広まれば、余計なトラブルになりかねない。
とにかく今は、時間が惜しかった。
「ブレイズの為に……」
荷物をまとめたデルフィンは今一度、今代のドラゴンボーンの姿を目に焼き付けると、スッと音もなく、部屋を後にした。
夜の闇に包まれたホワイトラン。
蝋燭の灯が二本の列を成し、厳かな雰囲気の中、布に包まれた遺骸たちが、キナレス聖堂の横に設けられた死者の間へと下りていく。
死者の間。
スカイリムにおける共同墓地であり、大都市には必ず設けられる、九大神アーケイの領域。
この地の埋葬手段は多様であるが、その中でも最も一般的なのが土葬である。
埋葬場所である死者の間にはアーケイの神官が常駐し、死者たちが亡者となって甦らないか、監視をしている。
そこで今、ドラゴン襲撃によって亡くなった人達の埋葬が、厳かに行われていた。
見送る人々が手に持つ蝋燭の明かりが、まるで陽炎のように揺らめいている。
「こういうところは、地球とも変わらないんだな……」
遺体はアーケイの司祭の先導の下、涙を浮かべた親族たちに見送られながら、次々に暗い冥府に続く地下へと消えていく。
健人はその光景を、どこか淡々とした様子で見つめていた。
彼にとって、死者を送ることは別段初めではない。
だが、どこか第三者として見ていることを自覚するたびに、自分がどうしようもなく遠くに来てしまっていることを思い出してしまう。
「リータはどうするつもりなのかな……」
ドラゴンズリーチでバルグルーフ首長と話をした結果、リータはこのホワイトランの従士に任命された。
これは非常に名誉な称号で、首長がリータをホールドにとって重要な人物であると認めた証だった。
同時にリータはホワイトランに家と私兵を与えられることも決まった。
また、リータはバルグルーフ首長から、ハイフロスガーへといくべきだと言われていた。
自分がまだドラゴンボーンとして自覚が薄い彼女はその時は答えを渋っていたが、健人は彼女がハイフロスガーに行くと、何となく思っていた。
「俺は、どうするべきなんだろうな……」
「おい、よそ者」
無礼な声に、健人の眉がつり上がる。
「……ドルマか。いい加減」
健人が言い返す前に、ドルマはコップを突き出してきた。
戸惑いながらも、健人はコップを受け取る。
良く見えないが、コップの中には何かの液体が満たされていた。
甘い香りが、健人の鼻につく。
「これは?」
「いいから、飲め」
ドルマに促されるまま、健人はコップの縁に口を当てて中身を喉に流し込む。
「ごほごほ! これって酒じゃないか!」
「ああ、ハチミツ酒だ」
それも、かなり度数が高い。
喉を焼く強い酒精に、健人は思わずむせ返った。
「ハチミツ酒って、なんで……ああ、そうか」
健人はそこで、自分がハドバルと交わした約束を思い出した。
次に会ったら、ハチミツ酒を一緒に呑もうと約束していた。
「ありがとう」
「ふん」
ハドバルの遺体は、既に埋葬の為にリバーウッドに送られており、もうホワイトランにはいない。
ホワイトランに命からがら戻ってきたカシトも、ハドバルの遺体に付き添ってリバーウッドに行った。
カシトの話では、彼はその後にすぐソリチュードに向かうらしい。
ハドバルの代わりに、ドラゴンの脅威をソリチュードに届けると言っていた。
ハドバルは健人にとって、リータ達と同じくらい、かけがえのない恩人であったが、カシトの方も、ハドバルに対して何か思うところがあるようだった。
しばしの間、別れた人達を想いながら、二人は静かにコップを傾ける。
やがて、ドルマがおもむろに口を開いた。
「余所者、俺はお前を信用しねえ。あんな止血や魔法攻撃ができるやつが、記憶喪失なんて信じられねえしな」
「…………」
「だが、リータがお前を気にかけているのは確かだ。だから、お前がリータを裏切らない内は黙っていてやる」
そこまで言って、唐突に健人の胸倉をつかみ上げた。
猛烈な力がかかり、健人は思わず呻く。
「ぐっ」
「だが、リータを裏切るなら、必ず俺がお前を殺してやる」
ドルマは常人なら身震いするほどのプレッシャーを、至近距離から健人にぶち当てる。
ドルマにとって、最も大切な幼馴染。それを傷つけるなら容赦はしないと、殺気まで籠めてドルマは健人を睨み付ける。
彼は本気だ。
もし、健人がリータを裏切るようなことをすれば、たとえそれがどんな理由であれ、ドルマは問答無用で健人を斬り殺すだろう。
だが健人も、至近距離から睨みつけてくるドルマの視線を正面から受け止めていた。
ドラゴンという究極の個と戦ったことで、ハドバルから教えられた戦士としての芯が、健人に根付き始めている。
「……分かってる」
まっすぐに見返してくる健人に、ドルマは無言で手を離した。
再び明後日の方向を向いたドルマだが、その背には健人を拒絶するような雰囲気はもうない。
健人もまた、無言のまま、崩れた服を直している。
互いに言葉はなくとも、二人の間に確かな誓いが生まれた瞬間だった。
「ケント、ドルマ」
その時、死者の間から出てきたリータが二人に歩み寄ってきた。
「あの子の方は、もういいの?」
「……うん」
リータは、身寄りのなかったルシアの介添人として、彼女の葬儀に立ち会っていた。
埋葬を行う司祭に対し、リータ自身が申し出たのだ。
何もしてあげられなかった少女に、少しでも何かしてあげたかったのかもしれない。
リータは涙が浮いていた瞼を拭うと、改めて健人とドルマに向かい合った。
「決めた。私はハイフロスガーに行く」
腹の奥から決意を絞り出すように、リータはそう宣言した。
「私がどうしてドラゴンボーンとして生まれたのか、その意味を知りたい。なにより、この力を使えるようになりたい。二度と、私やルシアのような境遇の人を作らないために」
涙の跡が残る瞳には、既に両親を失った悲しみはない。
あるのは、己の目標を定めた強い意志。
「分かってる」
「そうなると思っていた」
健人とドルマは、守ると誓った少女の決意を前に、改めて己の誓いを胸に刻み込んでいた。
これで、第一章は終了です。
第一章は物語の発端という事で、このような形となりました。
次章開始は、第二章を書き終えてから投稿する予定ですが、物語としては、もう少し時系列が先に進んだ状態になると思います。
もしよろしければ、感想等をよろしくお願いいたします。