【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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お久しぶりです。
続きです。


第十六話 共同戦線

 ヴォルキハル城がある島の海岸を、隠れるように進む三人の影があった。

 カシトとガンマー、そしてソリーヌである。

 追っ手の吸血鬼を撃退した後、彼らは刺客たちの船を奪い、再びヴォルキハル城に来た。

 目的はもちろん、健人の奪還である。その為に彼らは、小舟を岩陰に隠してこうして陸に上がってきたというわけだ。

 

「で、ここにケントがいるの?」

 

 よいしょと背負った背嚢を背負い直したカシトが、ヴォルキハル城を見上げながら小さく呟く。

 風と波の音が響いているとはいえ、相手は感覚の優れた吸血鬼。出す音は小さいほうがいい。

 

「ああ。多分な……だが、本当に生きていると思うのか?」

 

 カシトの質問にガンマーが答えるが、その声色には疑念の色が含まれている。

 吸血鬼の根城に一人取り残されたのだ。普通に考えれば、死んでいると思うだろう。

 

「うん。健人にとっちゃ、このくらいの騒動は日常茶飯事だったからね。話を聞いたところ、その吸血鬼の王様が殺そうとしていたのはアンタ達だけだったみたいだし」

 

 そんなガンマーの憂いを、カシトは一蹴する。

 健人がどんな人間であるか、よく知るが故の言葉だった。

 とはいえ、ガンマー達がこの城に戻ることはリスクでしかないとも言えた。それでも戻った理由の一つは、健人に対する後ろめたさ。

 元々監視のために同行していただけにもかかわらず、健人は二人を守るために、刃を抜いた。そのまま大人しくしていれば、無事に逃がしてもらえたにもかかわらず。

 そんな彼を、一人残して逃げることしかできなかった。その忸怩たる思いが、彼らを再びこの陰鬱な城に足を向けさせていた。

 

「運命に選ばれたドラゴンボーン故か……」

 

 もう一つは、健人の正体をカシトから聞いたからだ。

 健人がドルマ、そしてリータの義弟であることから、ガンマーとソリーヌもおおよそ察してはいたが、改めて健人が伝説のドラゴンボーンの一人と知り、なんとしても助けなければと思いに駆られた。

 色々な意味で、ドラゴンボーンの存在は大きい。それが吸血鬼の手に落ちることは、なんとしても避けなければならなかったのだ。

 

「運命とか言っても、ケントはいい顔しないだろうけどね。色々持ってきて正解だったかな……」

 

「そういえば、お前が背負っている背嚢、何が入っているんだ?」

 

 今のカシトは大きめの背嚢を背負っている。

 旅をするには確かに必要だが、今は潜入しようとしている段階だ。身軽な方が有利にもかかわらず、多めの荷物を持っていることが疑問だった。

 

「何かトラブルに巻き込まれているかもと思って、念のために用意していたんだ。大丈夫、運んでいて音が出るようなものはないよ」

 

「なら、少しは大丈夫だと思うが……」

 

「とにかく、ここは目立つわ。急いで城の中に入れる場所を探しましょう」

 

 ソリーヌの言葉にカシトとガンマーも頷きつつ、三人は進入路を探す。

 正門は見張りがいるだろうから、当然無理。となると、裏口などを探すしかないだろう。

 

「こういう城は大抵、城の排水なんかを出す場所があると思うんだけど……」

 

「こっち側にはなさそうだな。西側に行けば、もしかしたらあるかもしれんが……」

 

「もしなかったら、かなり面倒なことになるわね」

 

 ガンマー達がいる場所は、ヴォルキハル城の東側であり、そちらには排水路などはなさそうだった。

 となると、北側か西側に回る必要があるだろう。もっとも、排水路が水中にあった場合、かなり面倒なことになることが予想できた。

 

「戻ってきたのですね」

 

 そんな中、三人の者とは違う、鈴の音のような声が強風の中から流れてきた。

 姿を現したのは、彼らの姿を見て自室を飛び出してきたセラーナだった。

 

「っ!」

 

 吸血鬼に見つかったと思ったカシトが、黒檀の短剣を引き抜いた。腰を落とし、セラーナめがけて地を這う影のように一気に肉薄。そして炎の刃を彼女の首に走らせようとする。

 

「ちょっと待った!」

 

 黒檀の短剣がセラーナの首を切り裂く前に、ガンマーがカシトの背嚢を引っ掴まえる。

 勢いよく踏み込もうとしたところに思いっきり制動がかかり、カシトは地面に尻を強打。「ぎゃん!?」と耳障りな悲鳴が荒波の中に響く。

 

「いたたた……。ちょっと! 何するのさ!」

 

「す、すまん。そいつだ。ケントが護衛をしていた吸血鬼……」

 

「……え、マジ?」

 

 尻をさすりながら尻尾を逆立てるカシト、ガンマーは平謝りしつつも、健人が護衛をしていた吸血鬼が彼女であることを説明。

 カシトは何度か視線をガンマー達と行き来させた後、とりあえず納得したのか、短剣を納めた。戦意が消え、ソリーヌとガンマーはホッと胸をなでおろす。

 

「セラーナ。アンタ、無事だったのね」

 

「一応、ここの城主の娘ですからね。お二人もご無事で何よりですわ。私のような者が吸血鬼ハンターの無事を喜ぶというのも、変なお話ですが」

 

「まったくだ」

 

 軽口をたたきながら肩を竦めるセラーナに、ガンマーとソリーヌも思わず苦笑を漏らす。

 吸血鬼と吸血鬼ハンター。元々、血で血を洗う殺し合いを続けてきた者同士である。そんな双方が、こうして顔を突き合わせて再会を喜んでいるのだ。愉快な気分にもなるというもの。

 そんな中、仲間外れにされているカシトがムスッとしながら、セラーナに詰め寄る。

 

「そんなことより、ケントはどこ? オイラ、親友を助けに来たんだけど?」

 

「ああ、そうですわ。そのことについて、皆さんにお願いがあるのです」

 

 一度言葉を切り、真剣な表情へと変わるセラーナ。

 他の三人は、次の言葉を待つかのように息を飲む。

 

「モラグ・バルの生贄にされそうな彼を助けるために、力を貸してほしいのです」

 

 放たれるビックネーム。吸血姫の口から出てきたデイドラロードの名前にガンマーとソリーヌは目を見開き、カシトは「またか……」と天を仰ぐ。

 そしてセラーナから一通り健人の状況について話を聞くと、ガンマーとソリーヌは再度頭を抱えた。まだ完全に魂を捧げられていないとはいえ、状況は確実に悪くなっているからだ。

 

「相変わらず、健人はデイドラに好かれるな~~。本人は物凄く毛嫌いしているのに、あの神々も懲りないよ」

 

 そんな深刻な空気の中、割と緩い雰囲気を醸し出しているのはカシトである。

 ソルスセイムでハルメアス・モラとの騒動や、メリディアの誘拐未遂を経験しているが故の慣れだ。

 

「デイドラに好かれるって、前にもあったのか?」

 

「うん。ソルスセイムでちょっとね。その“嘆きの首輪”を外すことはできるの?」

 

 ガンマーの質問を流しつつ、カシトはセラーナに目を向ける。

 

「はい。ですが、専用の儀式を行わなければなりません。何より、その儀式には、首輪を作った際に使われた父の血が必要ですわ」

 

「あの吸血鬼の王の血って……無理じゃない?」

 

「…………」

 

 ソリーヌの言葉に、セラーナは押し黙る。

 ガンマーも腕を組み、額にしわを寄せていた。

 ハルコンが持つ絶大な力を直接目の当たりにしているだけに、いくら優れた吸血鬼ハンターの二人も、方法が思い浮かばない様子だった。

 

「まあ、そっちの方は行きながら考えたほうがいい。ラジンになりたいなら拙速になれってね」

 

 しかし、そんな凝り固まった空気を、カシトの軽い声が洗い流す。

 健人と一緒に、散々デイドラやら古代のドラゴンプリーストやらドラゴンやらの騒動を体験しているが故の切り替えの早さ。

 そんな彼の前向きさが、今のセラーナ達にはありがたかった。

 

「そうだな。行先もわかったことだし……」

 

「そういえば、もっと早い船に心当たりがありますわ。もし、残っていれば、ですけど」

 

 セラーナがヴォルキハル城を囲む壁に目を向け、歩き始めた。

 見張りに見つからないように正門がある南側の海岸を通り過ぎ、白の西壁へと向かうと、岩場にコの字型の桟橋が見えてくる。

 かなり古く、所々崩れた岩が散乱しているが、大型の船も接岸できそうなほど立派な桟橋だった。

 

「ここは元々、船で城に荷物を運び入れるための場所ですの。この桟橋の奥に……」

 

 セラーナの案内の元、カシト達は中央に大きな船着き場をもつ桟橋の、さらに奥へと進む。

 そこには、もう一つ、別の桟橋が設けられていた。

 小さいながらも、しっかりとした石組みの桟橋。潮風で色あせながらも、カシト達の目には比較的小綺麗に見えた。

 岩が散乱していた荷役用の桟橋とは違い、しっかり管理されている様子が見て取れる。

 そして艀には、一隻の小舟がつけられていた。

 

「ありましたわ。さ、乗ってくださいまし」

 

 外見は、ガンマー達がこの城に来た時に乗っていた小舟と同じ。

 先にセラーナが乗り、続いてほかの三人が、確かめるように、恐る恐る足を船底の板にのせていた。

 

「では、参りましょう」

 

 セラーナが船の縁に軽く指を走らせる。すると、小舟はマジカの光を帯びて船底の海面に魔法陣を展開。まるで水面を走る魚のような速度で走り出した。

 

「すごいすごい! これならあっという間に追いつけるね!」

 

「こんな速さで走れる船まであるとは……」

 

「セラーナ、この船は一体なに?」

 

 よいしょ! と背嚢を船底に敷いて上に座り込んだカシトが風を切るように走る小舟に興奮した様子で髭を立たせ、ガンマーは茫然。

 一方、技術者であるソリーヌは興味深そうに、この小舟についてセラーナに尋ねていた。

 

「半月の船と呼ばれる、特別な魔法の船ですわ。亡霊の海の荒波をものともせずに、走ることができます。城に来るために使った船を元に、昔の魔法使いが改良したものですわ」

 

「随分古い品ね」

 

「そうですわね。何千年も前、まだ私が吸血鬼になって間もないころの船ですわ。元々父が私と母のために作らせた船の一つですの。正直、今となっては、あまりいい思い出のある品ではありませんけど……」

 

「…………」

 

 セラーナの数千年前という言葉にソリーヌは絶句し、続いて瞳を輝かせる。

 それほど昔の魔法の船ともなれば、使われている魔法や技術はどのようなものか。技術者として、興味をそそられるのは当然だった。

 何より、この舟は当時の王族によるオーダーメイド品。その価値はどれほどになるのか……。おそらく、値段など付けられないだろう。

 

「ねえ、セラーナ。この船、どんな魔法で動いているの? 私、すっっっっっっっごくになるんだけど!!」

 

「え、ええっと。マッサーとセクンダから降ってくるマジカを使っていると聞きましたわ。詳しい術式となりますと、専門外なのでわからないのですが……」

 

「へえ~~~~! そんな凄い船なんだ。オイラ、まるで王様になった気分だよ!」

 

「ちょっと、揺らさないでよ! 調べられないでしょうが!」

 

「お前ら、もうちょっとは気を張れよ……」

 

 やいのやいのと騒ぐ三人に苦笑しつつ、セラーナは静かに後ろを振り返る。

 荒波の海の中に立つ、巨大で陰気な城が、少しずつ遠くなっていく。

 別に彼女自身、あの城に帰りたくはなかった。しかし、帰るしかないと思ったのだ。吸血鬼である自分の事情に、蒼の艶百合の人達を巻き込んだから。

 あの一件は、自分自身が人とは違う存在であることを、改めて彼女に突き付けた。

 だから、帰りたくもなかった家に帰ったのだ。

 吸血鬼という己の運命を受け入れ、再び諦観と共に、悠久の停滞の中で、ただ生き続けるつもりで。

 だからだろうか。こうして出ていくことを実感すると、後ろ髪を引かれる感覚を覚える。

 また、自身が誰かの災いになるのではないか。そんな気持ちがこみ上げてしまう。

 実際、命の危機を救ってくれて、さらに家まで送ってくれた恩人にいらぬ業を背負わせてしまっているのだ。

 

(だから、行かないといけませんわ。あの人を、父の魔の手から解放してあげるためにも……)

 

 己の胸の内に巣食う後ろめたさを押し殺しながら、セラーナは母が記した“嘆きの首輪”に関する書をギュッと抱きしめる。

 そして、懐かしい家から目を放して、前を見据える。

 先へと広がる亡霊の海にかかる霧はまだ濃く、先の見えない航路が続いていた。

 

 

 

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
今回はセラーナさん視点のお話。カシト達と合流しました。


ちょっと短めですが、続きは明日投稿予定。

以下、用語説明

半月の船
本小説オリジナルの魔法具。
双子月であるマッサーとセクンダの力を受けて移動する船であり、ハルコンが娘のために作らせた。
夜間限定ではあるが、地球の小型動力船に匹敵する速力を出すことができる。
しかも、波浪を抑える関係から、効率だけなら地球の船舶すら比較にならない値をたたき出す。
ヴォルキハル城で使用されている波よけの船とは比較にならないほど高度な技術が使われており、三隻しか存在せず、前話に登場した闇月の船もその内の一隻である。

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