【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第二十三話 最高の援軍と最悪の援軍

 メリエルナの提案に不快感を覚え、健人の目がこれ以上ないほど吊り上がる。

 彼としては無意味な質問だ。そんな気があるなら、ハルコンを怒らせてまでガンマー達を逃がしていない。

 そんな健人の気持ちを察しながらも、メリエルナは言葉を続ける。

 

「ヴォルキハルは長年、陰湿な勢力争いが続いている様子。ここで生き残るには、どこかの勢力に属するのが定説です。ですが……」

 

 しかし、それでは生き残るのは難しいと、メリエルナは続ける。

 寿命が長く、構成員の地位が固まっている以上、新参者が地位を上げるには数百年単位の時間がかかる。

 だが、今回の聖杯奪還の調子では、そんな長期間生き残ることは難しいだろう。

 メリエルナは元々戦士でも魔法使いでもない。隠密などの身を隠す術もない。

 かろうじて簡単な死霊術である“幽鬼作成”を使えるようだが、吸血鬼としてのスペックでごり押ししているだけなのだ。

 また、吸血鬼の従徒であるレキナラも、古傷により十分戦えるとはいいがたい。

 

「ならば、新しい第三勢力を作ることが必要となります。ケント様なら、それが十分可能だと思うのです」

 

 メリエルナの提案は、自分たちが新しい勢力をヴォルキハルの中に作り、そのリーダーを健人が担うこと。

 

「正直に申しまして、その首輪を外すことはもう不可能ですわ。なにせ、デイドラロードが血鬼の王のために作ったものですもの。で、あるなら、少しでも助かる可能性のある道を選びませんか?」

 

(こいつをつけたアンタが言うのか!?)

 

 健人は思わずメリエルナを睨みつけ、その胸倉を掴んでいた。

 視線に射殺されるのでは、と錯覚するほどの怒気にメリエルナの肩がびくりと震え、怒りを向けられていないレキナラもまた、思わず腰の剣に手を伸ばす。

 だが、剣を抜くことはできない。抜いたところで、敵わないと理解しているから。

 

「そう、ですわね。虫のいいことを言っているのは、重々承知しております」

 

 一方のメリエルナもまた、先ほどまでの伽藍洞の目を恐怖に震わせている。

 しかし、同時に歓喜もしていた。

 異質な強さと強靭な意思、そして吸血鬼すら助ける優しさと、己を律するための確固たる“芯”を持つ男。

 多くの男達を見てきた彼女から見ても、健人は『最上の雄』であり、高みへと至る確信を持てる人物。

 そんな稀有な者が、すぐそばにいるのだ。彼女も必死だった。

 

「先の牢獄での私の狼藉が気に入らないと申されるのなら、謝罪いたします。這いつくばれと申されるのなら、泥に顔を付けて謝意を示します。私の体も、お好きになさってかまいません……」

 

「メリエルナ……!」

 

「しかし、それでも欲しいのです。貴方様の力が……」

 

 止めるようなレキナラの呼びかけを無視しながら、メリエルナはどこか追い詰められたような声色でそう語ると、身に着けているドレスの肩紐に手をかけた。

 はらりとドレスが落ち、白く美しい裸体が露になる。

 あのクレティエンが率いていた女たちの筆頭だけあり、彼女の美しさは確かに息を飲むほどだった。

 

「大丈夫です。私のような下位の吸血鬼は、噛まない限り相手を吸血病にできません……」

 

 現代の地球なら、数十年に一度の美女と形容されてもおかしくないほど。

 そう言い切れるだけの魅力。人の目を惹きつける何かを、今の彼女は持っていた。

 縋るような目で見上げながら、メリエルナは健人の体にしなだれかかる。

 革の鎧越しからでも伝わってくる柔らかい感触。

 吸血鬼となったからだろうか。それとも、彼女なりの『本音』を口にしたからだろうか。

 痺れるように甘い彼女の魅力はヨルグリム湖の時よりもずっと蠱惑的であり、今のメリエルナは、恋人であるレキナラですら見たことがないほど『女の顔』をしていた。

 それほどまでに、彼女は本気で健人を求めていた。

 

「どうぞ、ケント様のお怒りを、存分にぶつけてくださいませ」

 

「…………」

 

 だが健人は、彼女の肩に手を置くと、ゆっくりと彼女の体を離して首を振る。

 そして、黒板にゆっくりと白墨を走らせ、彼女の前に掲げた。

 

『俺が望むのは、家に帰ること。吸血鬼にはなれない。なる気はない』

 

 健人の意思は変わらない。

 彼が求めるのは、身近な人たちの温もりと、日常的な幸せ。

 たとえどれほど苦しむことになろうと、痛めつけられようと、自分の心に嘘はつけない。

 いつの間にか、健人の目からも怒りの色は消えていた。

 彼が本来持つ静謐さと確固たる意志を湛え、メリエルナを見つめている。

 その瞳が、向き合う彼女達に彼の意思をより鮮明に示していた。

 そんなまっすぐな目に、メリエルナは唇をかみしめながら目を伏せる。

 

「……そんなに、あの方がよろしいのですか?」

 

(何の話だ?)

 

「いえ、なんでもありませんわ。忘れてくださいまし」

 

 意味が理解できなかった健人が首をかしげる。

 しかし、彼が問い返す前に、メリエルナはスッと身を離すと、健人の視線から逃げるように背を向け、先程脱いだドレスを羽織る。

 

「さ、先を確かめましょう」

 

 そして目を伏せたまま健人の脇を抜け、広間の奥へと消えていく。

 少し遅れて、レキナラが彼女の後を追う。

 去り際に、健人に向けられる糾弾の視線。だが、それも一瞬で、悔しさと悲しさをまぜこぜにしたような表情に顔をゆがめていた。

 

(……仕方ない、よな)

 

 何とも言えない胸苦しさを覚えながら、健人もまた先へと進む。

 広間の奥の扉は、古代ノルドの遺跡によくある、ドラゴンを模した扉であった。

 奥へと進むと、中は円形の赤い泉が広がっている。

 正面の岸からは反対側への足場が設けられ、中央からはとめどなく薄紅色の水があふれだしている。

 まちがいなく、ここがレッド・ウォーターの泉だろう。

 

「あれですわね」

 

 三人は足場の上を歩き、泉の中央へと進む。

 泉の源泉には、ヴェナルスの研究記録に描かれていたものと同じ杯が置かれていた。

 そばには、二つの白骨死体が浮かんでいる。

 

「これはおそらく、ヴェナルスの研究記録の中にあった、レンガイア司祭とその恋人の遺体でしょう。第一期の高名な司祭も、死んでしまえば骸になるだけですのね」

 

 白骨化した死体をかき分け、メリエルナは聖杯を手に取って持ち上げる。

 杯を満たしている水は徐々にその濃さを増し、やがて本物の血と変わらぬ色と粘り気を帯びるようになっていく。

 おそらく、これがドルシッラに力を与えていた水だろう。

 その時、健人の目が泉の奥へと向けられた。

 

「ケント様、どうかしましたの?」

 

「…………」

 

 無言で健人が前に出て、腰を落とす。

 その様子に、レキナラもまたメリエルナを庇うように彼女を後ろに移動させ、片手剣を抜いた。

 

「オースユルフ様、いました。ヴィンガルモの下っ端に、主様の生贄です」

 

「いたか」

 

 泉の奥から、三人の吸血鬼が現れる。

 大柄なノルドの男と、その両脇を固める男女の吸血鬼。

 三人とも、ヴォルキハルの吸血鬼が身に着けていた、黒と赤の装飾が施された鎧をまとっていた。

 特に真ん中の男は、健人にも記憶がある。

 ヴォルキハル城の広間での戦闘時に投槍で彼の盾を半壊させ、牢屋では血をつまみ食いしていた、ハルコンの腹心だ。

 

「これはオースユルフ様、こんな場所でいったい何用ですか?」

 

「なに、新米では荷が重いと思ってな。後詰めのために来たのだ」

 

 メリエルナが、突然現れたオースユルフに向かって、恭しく頭を下げる。

 既にオースユルフは右手に槍を持ち、他の二名も抜身の片手剣を手に提げていた。

 警戒のためと言われればそうかもしれないが、向けられる目が明らかに無事を喜ぶものではない。笑顔を浮かべてはいるものの、寒気が走る視線だった。

 他の二人も同様。見たところ、彼らもオースユルフと同じくノルドの吸血鬼であるが、オースユルフ以上に殺意を隠そうとしない。

 

「……にしては、随分と剣呑ですね。聖杯を奪った者とその協力者は始末しましたから、援護はもう必要ありませんわよ?」

 

「いや、必要だったさ」

 

 尋ねるメリエルナの声色も、自然と警戒を帯びたものになっている。

 下がっていたオースユルフの穂先がゆっくりと持ち上がり、聖杯を持つメリエルナに向けられる。

 

「新米は聖杯を取り戻すも、その力を見て離反を決意。後詰であった私達に倒される、というところか」

 

「あら? ハルコン卿が直々にお命じになられた任務を邪魔するおつもりですの?」

 

「仕方ないだろう。裏切りを目にした以上、放置はできんさ。スタルフ、ラルガル。お前たちは聖杯を奪え」

 

「分かりました」

 

 スタルフとラルガルと呼ばれた二人の吸血鬼が、メリエルナとレキナラめがけて駆け出す。

 

「メリエルナ、下がれ……!」

 

 レキナラが口元を噛みしめつつ、迎撃のために前に出る。その表情に余裕はない。

 当然だ。足に爆弾を抱えた彼女が相手にするには、過ぎた脅威だ。

 健人もまた前に出て、ブレイズソードを引き抜く。だが……

 

(ぐっ……!?)

 

 ヴォルキハルに属する吸血鬼に戦意を抱いたことで、嘆きの首輪が反応し、思わず顔をしかめる。

 そんな健人の様子に、オースユルフはニンマリと口元を釣り上げた。

 

「お前の相手は私だ。大人しく死んでもらうぞ、定命の者」

 

 頭に針を刺したような痛みが走るなか、オースユルフが突き出した槍が健人に迫る。

 健人は頭痛に耐えながら、背負った半壊の盾を取り出し、迫る槍の軌道に割り込ませた。

 続いて走る強烈な衝撃。健人の体は数メートル後ろに流され、思わずたたらを踏む。

 

「ふ、むん! ぜい!」

 

 オースユルフの追撃が健人に襲い掛かる。

 その傲慢な性格はともかく、オースユルフの槍の腕は確かだった。

 上下左右、狭い洞窟内とは思えないほど正確に、停滞なく繰り出される槍撃の群れが、瞬く間に半壊の盾をさらに削っていく。

 

(ぐ、この……!)

 

 頭痛が増し、視界が滲んでいく中、健人は必死にオースユルフの攻勢をしのぎ続ける。

 嘆きの首輪をかけられた健人に反撃する余裕はなかった。

 

「ケント様!?」

 

「奴隷の心配をしている暇があるか?」

 

 メリエルナが声を上げる中、スタルフが彼女に斬りかかる。

 元々娼婦でしかないメリエルナに、戦闘能力はほぼない。

 武器を持った格上の吸血鬼相手に戦えるわけもなかった。

 

「彼女に近づくな!」

 

「脇ががら空きだぞ!」

 

「ちい……!」

 

 当然、レキナラが割り込むも、そもそもが二対一の状況である。

 意識がスタルフに向いたところで、ラルガルが挟み込むように斬りかかり、レキナラの軽装鎧の脇を裂く。

 幸い、体には届かなかったが、レキナラはラルガルとスタルフにあっという間に劣勢に追い込まれていく。

 

「レキナラ! くっ……」

 

 メリエルナは幽鬼作成の魔法で、泉の中に沈んでいた白骨死体を蘇らせる。

 この場には、これくらいしか死霊術で使える死体がないのだ。

 

「彼女を援護しなさい!」

 

「は、たかが骨を蘇らせた程度で何ができる!」

 

 当然、そんなスケルトン程度でどうにかできるはずもない。

 スタルフに数秒で破壊されてしまう。

 レキナラは必死で二体の吸血鬼を食い止めようとしているが、長くは持たないことは明白だった。

 

(くっ……!)

 

 視界の端で追い詰められていくレキナラとメリエルナに、健人は唇を噛みしめる。

 二人がやられれば、その後は健人だ。当然、今の彼に吸血鬼三体と戦う余力などあるはずがない。

 

「よそ見をしている暇があるか!?」

 

「っ!?」

 

 意識がメリエルナ達に一瞬それた隙に、ひときわ強烈な突きが放たれた。

 半壊状態だった盾がさらに砕かれ、衝撃で健人の上体が浮く。

 

「むん!」

 

 そこに、オースユルフ渾身の横薙ぎが放たれた。

 黒檀製の槍が激しくしなり、大気を引き裂きながら健人に迫る。

 

(避けるのは……無理。なら、せめて……!)

 

 大気を引き裂きながら放たれる薙ぎ祓いを前に、健人は体をひねりながら打たれる場所を調整。残り三割ほどしかなくなった盾を体に密着させるように構える。

 直後、車に追突されたかのような衝撃が走り、盾は完全に粉砕。強烈な衝撃に左腕の感覚が一瞬で無くなり、健人の体は小石のように吹き飛ばされた。その先にいたのは……。

 

「なっ?」

 

 何とレキナラを追い詰めていたスタルフ達がいた。

 健人は意図的に打たれる場所を調整し、レキナラたちの所に自分を飛ばさせたんのだ。

 三人の顔に驚愕の色に染まる。

 

(あああああああああああ!)

 

 そのままスタルフに右のブレイズソードを振り下ろし、刃を防がれた瞬間に組み付く。

 嘆きの首輪がもたらす痛みは、既にこれまでとは比較にならない。

 視界の八割は砂嵐に染まり。こめかみから頭頂部までが千々にちぎれてしまうのではと思えるほどの激痛になっている。

 それでも健人は、痺れる腕に力を込めてしがみつく。

 身体能力では到底勝てる相手ではないが、一瞬でも動きを止められれば十分。

 

「ふっ!」

 

「がふ!?」

 

 レキナラの片手剣がスタルフの喉を切り裂く。

 自分に起きたことが信じられない様子で目を見開くスタルフだったが、その体はすぐに力を失い、組み付いていた健人ごと崩れ落ちる。

 これで、三対二。だが、ここまでだった。

 

(がっ!?)

 

 起き上がろうとした健人の左肩に衝撃と激痛が走った。

 黒い刃が背後から肩甲骨を貫き、切っ先が飛び出す。オースユルフの槍だ。

 

「よくもやってくれたな、劣等種ども……!」

 

 結果的に部下が殺される片棒を担がされたことに激怒しているのだろう。

 オースユルフは気炎を吐きながら健人の肩を貫いた槍をねじり、さらに『嘆きの首輪』に命じ、干渉力を極大まで引き上げる。

 

(ぐ、あああああああああああああああああああああああああ!)

 

 健人の体がピン! と張り、続けてビクビクと痙攣を始める。

 強制的に刺激された痛覚が他の神経節にすら影響を及ぼしているのだ。過度に刺激された自律神経が心拍数を三倍以上に跳ね上げ、過剰に送られた血が毛細血管から肉体を破壊し始める。

 視界を埋めていた砂嵐が真っ赤に染まり、自分の意思とは関係なく悶える肉体。

 こうなると、もはや抵抗など不可能だ。

 

「死ね、人間……!」

 

 オースユルフが健人の側頭部めがけて、拳を振りぬく。

 古の吸血鬼の膂力なら、人間の頭を粉砕する事などたやすい。

 レキナラもメリエルナも間にあわない。

 ザクロのようにはじけ飛ぶ脳髄を思い浮かべ、オースユルフは歪んだ笑みを浮かべる。

 

「ぐあ!? な、なんだ!?」

 

 だが、振りぬこうとしたオースユルフの腕は、突如走った激痛に止められた。

 視線を落とせば、二の腕に黒い短剣が突き刺さっている。

 

「ぐおっ……!?」

 

 直後、突き刺さった短剣から炎が噴き出した。

 まるで蛇のように絡みつき、腕を焼いてくる炎。

 オースユルフが思わず悶え、槍を取り落とす。

 そして、オースユルフたちが入ってきた入口から飛び出してきた影が、大声と共に彼を蹴り飛ばした。

 

「こら~~~~! おいらの親友に何しやがるんだ~~~!」

 

「ごあ!?」

 

 広間に跳び込んできたのは、背嚢を背負ったカジート。

 石床にザリザリと後頭部を擦りながら滑っていくオースユルフを見て、その場にいる者たち全員が呆然とする中、健人だけは闖入者の姿に見覚えがあった。

 

(カシト……)

 

「ケント、お待たせ! おいらが来たからにはもう安心……って、うおわ!?」

 

 ニパッと満面の笑顔で駆け寄ろうとしたカシトの眼前に、今しがた自分が投げた短剣が飛んでくる。カシトは身を逸らしながら、器用に返された短剣をキャッチ。

 そのままクルリと身を翻し、短剣を投げ返してきた者……オースユルフに向き合う。

 

「汚い猫風情が。何者か知らんが、邪魔をするなら殺すまでだ」

 

「へん、洞窟にこもりすぎて体にカビが生えた蝙蝠がよく言うよ」

 

 黒檀の短剣の炎で焼かれながらも、オースユルフは痛痒を覚えた様子はないが、一方のカシトも不敵な笑みで短剣を構え直す。

 

「おいカジート! 勝手に飛び込むんじゃない!」

 

「せっかくの奇襲の機会が台無しよ!」

 

 そんな中、さらに二つの影が広間に飛び込んできた。

 ガンマーとソリーヌだ。

 ガンマーが腰に差した二本の斧を抜き、ソリーヌが装填済みのボルトを、今しがた打ち合っているレキナラとラルガルに向かって放つ。

 

「む!」

 

「くっ……!」

 

 ちょうど組み合う二人の眼前を通り過ぎるように放たれたボルト。必然、レキナラとラルガルは健人から離れる形で距離を取る。

 

「仕方ないだろ! ケントが危なかったんだから!」

 

 その間に、二人はカシト合流。健人を守るように、三人は背中合わせで彼を囲む。

 ガンマーの顔を見て、オースユルフは呆れたように鼻を鳴らした。

 

「ふん、あの時尻尾を巻いて逃げた吸血鬼ハンターどもか。まさか殺されに来るとはな」

 

「あの時の雪辱を拭わせてもらうぞ」

 

 ガンマーとしても、ヴォルキハル城で何もできずにオースユルフに敗れたことは、屈辱であった。

 再戦の機会に、意気高揚といった様子で気炎を吐く。

 その間に、最後に広間に入ってきたセラーナが健人に駆け寄っていた。

 

「大丈夫ですか!?」

 

(セラーナ、さん?)

 

「よかった、間に合いましたわ……」

 

 肩を貫かれ、首輪の激痛に動けない健人にセラーナが肩を貸す。

 軽装とは言え、武装した男性を、たおやかな女性がまるで小荷物を担ぐように持ち上げる様は、第三者が見たら目を疑うだろう。

 

「さ、逃げますわよ」

 

 その時、彼女の目に当惑しながら見つめてくる二人の女性の姿があった。メリエルナとレキナラだ。

 元々、蒼の艶百合で同僚であり、ヴォルキハルに属することを決めた者達。

 しかし、同時に彼女達がヴォルキハル城の中で碌な目に遭わないだろうという確信もあった。

 セラーナにとっては自分の実家のことである。自分達よりも下位であると断じた者達への仕打ちがどれだけ悲惨で陰湿になるか。良く、知っていた。

 

「メリエルナ、レキナラ、貴方達も……」

 

 それは慈悲だったのか、それとも憐憫だったのか。セラーナ自身も分からない。

 ただ、呼ばなければならないと思ったのだ。彼女達が完全に、ヴォルキハルの闇に囚われる前に。

 だが、セラーナが言葉を紡ぎきる前に、冷淡な第三者の声がレッド・ウォーターの泉に響き渡った。

 

「おやおや、いけませんね、セラーナ様。ご自分の立場を理解していただかないと……」

 

「ヴィンガルモ……!」

 

 泉の間に現れた、さらなる吸血鬼の集団。

 それは、ハルコンの命を受けたヴィンガルモ達だった。

 




ということで、続きです。
かなり場が混沌としてまいりました。
大人数の描写はめちゃくちゃ疲れる……。


以下、登場人物紹介

メリエルナ
娼婦旅団「蒼の艶百合」の元筆頭娼婦であり、数多くの男を魅了しつつも、直接的な力を求めて吸血鬼となる。
実際、その美貌は確かなもので、セラーナ、リータクラスの美しさを持っている。
力を求める理由を本人は語らないが、健人を求めているのは本当であり、ヴォルキハル内に第三の勢力を作ろうというのも本意である。
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