【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
光を纏った竜人。
ヴィンガルモ達がその男を形容するのは、そんな言葉しか浮かばなかった。
贄だった青年とは、明らかに違う。纏う魔力も、瞳に宿る冷淡な光も、何もかもが。
いったい何者なのか。その場にいる吸血鬼達全員がその疑問に答えを出す間もなく、蹂躙が始まった。
撃ち放たれる無数の魔法。
炎、氷、雷。全て属性のあらゆる破壊魔法が、まるで狼の群れのように吸血鬼達に襲い掛かる。
「なんだ! いったい何が起きている!」
「知らないわよ! 私が聞きたいくらいで……! がああああああああ!」
まず討たれたのは、ヴィンガルモの配下のサロニアだった。
瞬きの内に放たれた“エクスプロージョン”が彼女の下半身を粉砕し、続く二、三発目が全身を粉みじんに消し飛ばす。
『次は貴様だ』
「がふぅ!!」
続けて二人目の犠牲者が、破壊魔法の群れに蹂躙される。
標的にされたのは、炭化した肉片が舞い散る様に目を奪われたオースユルフの部下、スタルフ。
襲いかかったのは、無数のアイススパイク。
スタルフもまた魔法の使い手であり、魔力の壁で防ごうと試みるも、障壁が発動する前にその体を串刺しにされた。
あまりに高速で放たれた氷柱にスタルフの体は吹き飛ばされ、そのまま壁に貼り付けにされてしまう。
当然、即死だ。
「サロニアとスタルフがやられたぞ! ヴィンガルモ、いったいどうするんだ!」
「ぐう……ええい! 障壁を張れ!」
サロニアとスタルフがやられている間に、ヴィンガルモ達はなんとか障壁を展開していた。
無詠唱による破壊魔法のつるべ撃ちは止まらない。
マジカの壁に次々と着弾する破壊魔法が障壁を揺らし、まるで驟雨を受けた傘のように耳障りな音を響かせ続ける。
「くそ……この私が、防戦一方だと……!」
絶えず衝撃を受け、揺れ続ける障壁。撃ち込まれる魔法一つ一つが、ヴィンガルモですら少しでも気を抜けばたちまち障壁ごと貫かれる威力を保持している。
数瞬で古の吸血鬼を即死させるほどの威力の破壊魔法。それが詠唱すらせずに撃ち込まれ続けていく。
圧倒的な数と質の暴力だった。
「これは、いったい……」
「何、何が起きているの!?」
事態を理解しきれないのは、ガンマー達も同じ。
蹂躙されていく吸血鬼達を、ただ泉の間の端で茫然と眺めることしかできていない。
「ご無事ですか……!」
そんな二人に、混乱に乗じて吸血鬼陣営から逃げてきたセラーナが合流する。
「セラーナ! いったい何が起きているの!?」
「私にもわかりません。ただ、今の彼は、彼ではないような気が……」
セラーナも現状が理解できていない。
ただ、今の健人が明らか別人であることは明確に感じ取っていた。
異常な魔力と高位の破壊魔法を連発し、古の吸血鬼達を一方的に追い込む姿。口調もプライドの高さを匂わせるものになっている。
そもそも、声を失っていたはずの彼が、普通にしゃべっているというのも不自然だ。
初めから話せたのかとも一瞬考えたセラーナだが、そもそも声を出せないと偽る理由がない。
事実、彼はそのせいでかなりのハンデを背負い、苦労をしてきた。その姿を間近で見ていただけに、今の健人の異質さは彼女にはより強く感じられた。
「噓でしょ……なんであの男が健人の体を使ってるのさ」
そんな中、セラーナ達とは違う言葉を漏らしたのは、今しがた吸血鬼を圧倒している竜人の正体を唯一知っているカシトだった。
炎、氷、雷の破壊魔法を詠唱すらせずに縦横無尽に放つ者。カシトが知る限り、そんな存在は一人しかない。
ミラーク。
世界最初のドラゴンボーンにして、かつてスカイリムを支配していた竜教団に反旗を翻した司祭。ソルスセイムで自らを使役していたハルメアス・モラとの戦いに敗れ、その魂と知識を健人に譲った男だ。
「おい! お前、アイツは何者なんだ! いったい何が起きているのかわかるのか!?」
「え、ええっと、多分ケントが昔倒したドラゴンボーンだと思うけど、いや、その、何が起きているのかはさっぱり……」
光鱗を纏う男の正体を匂わせる言葉にガンマーが詰め寄るが、生憎カシトも今何が起きているのかを理解はしても、まともな説明することはできなかった。それほどまでに衝撃的だったのだ。
「っ、とにかく、みんな頭を下げて!」
粉砕され、飛び交う瓦礫がカシト達の頭の上をかすめる中、ミラークの攻勢は絶え間なく続く。
『どうした、蝙蝠ども。今は夜。貴様らの時間だろう。狼に追われた狐のように閉じこもるだけか?』
「貴様、言わせておけば……」
「よせ! 気を散らすな!」
『ふん……!』
挑発に乗せられたヴィンガルモの部下が無理やり反撃しようとした瞬間、その者の胴体を極太の雷が貫いた。反撃に意識が削がれ、障壁が僅かに緩んだ隙を突かれたのだ。
『未熟だな。力はもとより心が弱い。この程度の挑発に乗せられて精神を乱すとは』
熟練クラスの破壊魔法、サンダーボルトに心臓を肺ごと撃ち抜かれ、体に大穴を開けて崩れ落ちる三人目の吸血鬼を前に、ミラークは冷静に、かつ辛辣な言葉を叩きつける。
太古の時代に、ヴァーロックという規格外の魔法使いを相手に激戦を繰り広げた彼からすれば、目の前の吸血鬼達はあまりにも力不足。
『血に酩酊したか? それとも、弱者をなぶる快楽に耽溺したか? いずれにしろ、永き時を堕落に沈んでいた貴様らに、私は倒せん』
「おのれ、言わせておけば……! お前達、全力で障壁を維持しろ!」
「は、は!」
ヴィンガルモが障壁の展開をやめ、魔力を全力でひねり出し始めた。
立ち上る青白いマジカが空気を揺らめかす。
左右の手のひらにマジカを収束させ、詠唱により魔法を展開。
両手を腰だめに構え、展開した魔法を重ね合わせる。生み出された二つの紫電球が一つに融合し、まばゆいばかりに光を放ち始める。
二連の構え
同じ魔法を両手に展開し、融合させることで威力を劇的に跳ね上げる技法。
緻密な魔力制御、術式制御を要求される高度技術だ。
「劣等種が、その言葉、後悔させてやる……!」
ドゴゥ! と、人の身の丈ほどの雷が、閃光と共に放たれた。
サンダーボルト二つを融合させて放った一撃。現状、ヴィンガルモができる最大の反撃であった。
「片手間にこれを防ぐことなど、どのような熟練の魔法使いにも不可能だ! 防いだ瞬間に攻守を逆転させて……」
今、ミラークは攻撃にすべての意識を集中している。少しでも防御に意識を向けさせれば、人数が多い自分たちが有利になると思ったのだろう。
だが、ヴィンガルモの考えは、紫電はミラークが一瞬だけ展開した『魔力の砦』の前に霧散した。
「は……?」
『見た目はともかく、術の組成が甘いな。これなら、あのダークエルフの魔法使いの方が上手だぞ』
さらに、ヴィンガルモの目を奪う光景が展開される。
霧散したサンダーボルトのマジカが、そのままミラークの右手に収束。同じような紫電球を生み出したのだ。
吸収シールド。
展開した障壁が受けた魔法のマジカを吸収し、術者に還元する技術だ。
当然回復魔法を高次のレベルまで修めなければ扱えない。
秘術師ヴァヌス・ガレリオンが大衆に広められるようにしたとはいえ、魔法という分野は才能と努力が嚙み合わなければ大成することがない。
そのため、一つの魔法系統に集中して究めるが普通だ。
だが、ヴィンガルモの眼前に立つ敵は、あらゆる分野の魔法をヴィンガルモ以上に極めている。
その事実が、ヴィンガルモを打ちのめした。
「ば、ばかな……!? あり、ありえ、ありえな……」
『そら、返すぞ』
茫然自失としているヴィンガルモをよそに、ミラークが無造作に雷を放つ。
チェインライトニング。連鎖する天井に当たり、反射した雷が展開された障壁を回り込み、障壁を展開していたヴィンガルモ達に次々に襲い掛かった。
「ごふう……!?」
「がは……!」
「し、しま……」
連鎖する雷に悶絶した瞬間、障壁が崩れる。
致命的な破壊魔法の驟雨から守ってくれていた盾の消失に、ヴィンガルモ達の顔が、恐怖に引きつった。
「ぬおおおおおおおお!」
しかし、ヴィンガルモ達がミラークの破壊魔法の嵐に飲まれる前に、大柄の吸血鬼が雄叫びを上げながら吶喊する。オースユルフだ。
吸血鬼達の中でも特に頑強な肉体の持ち主であるオースユルフは、破壊魔法の驟雨の中を、被弾していく。
雷の槌が鎧を打ち砕き、氷柱に足を貫かれ、炎弾に肉を抉る。それでも、オースユルフは吸血鬼としての全気力と生命力をつぎ込んで突き進む。
そしてミラークを間合いに捕らえた彼は、渾身の力で黒檀の長槍を突き込んだ。
このタムリエルでも特に硬質な黒檀の穂先。それが、烈風のごとき速度でミラークに迫る。
その一撃は、攻城兵器であるバリスタの一撃にも比肩し、岩すらも容易くつき砕くほどの威力を秘めていた。
『ふん……!』
「ぐっ!?」
その穂先を、ミラークは右手に即座に生み出した『魔力の剣』で跳ね上げる。
(ば、ばかな……。この私の一撃が、これほど容易く……!)
自身の渾身の一撃をいとも簡単に弾き返された。腕に走る衝撃と目の前の光景に、オースユルフは目を見開く。
ドラゴンアスペクトによる膂力強化。ドラゴンと同等の筋力をもたらすシャウトの効果は、力に長けた古の吸血鬼の腕力を容易く上回っていた。
「ごふ……!?」
次の瞬間、ミラークが手をかざすと、オースユルフの喉が強烈な力で締め上げられた。
百キロを超える大柄な体躯が持ち上がり、まるで貼り付けのように空中に固定される。
『大きいな、貴様。邪魔な虫を払うのにちょうどよさそうだ』
「な、なんだと……ぬお!?」
息苦しさに暴れるオースユルフの体が、弾かれたかのように後衛の吸血鬼達めがけて弾き飛ばされる。
オースユルフを捕らえて吹き飛ばしたのは、精鋭クラスの変性魔法、『念動力』だ。
元々小物などを引き寄せたり飛ばしたりする、魔力効率のすこぶる悪い魔法。だが、ミラーククラスの使い手の念動力となれば、人程の大きさの岩ですら動かすレベルとなる。
案の定、飛ばされたオースユルフはヴィンガルモとその部下達を巻き込みながら、地面に叩きつけられ、悶絶。
トドメとばかりに、ミラークは両手にマジカを収束させる。
『もろとも消し炭に……む!?』
しかし、追撃の魔法は、横合いから繰り出された剛撃に中断された。
とっさに掲げた魔力の剣とデイドラの片手斧が激突し、火花を散らす。
フーラ・ブラッドマウスだ。
オースユルフの吶喊に合わせて気配を消しながら、素早くミラークの側面に回り込んでいたのだ。
「貴様、強いな……戦ってもらうぞ!」
左手のメイスが降りぬかれ、ミラークは反射的に魔力の剣を引き戻してフーラのメイスを弾く。
しかし、フーラも当然、弾かれるのは想定していた。
魔力の剣はマジカで構成される関係から、重さがほぼない。武器を切り返すのも容易だと理解しており、三撃目、四撃目と攻勢を続ける。
吸血鬼として最上位クラスの身体能力と、永き時に渡って磨き上げた体術を存分に活用し、ミラークに張り付きながら連撃を加えていく。
「むん! せい! はああああ!」
『ぬ……』
手数を活かした片手斧とメイスが、まるで双頭の犬のように交互に襲い掛かる。
ミラークは防戦一方。彼は元々司祭であり、魔法使い。もちろん、剣の扱いでも一流と呼べるクラスの実力はあるが、最上位の中でもさらに上澄みに踏み込んでいるフーラには及ばない。
「魔法の腕は大したものだが、剣の方は今一だな!」
事実、フーラは即座にミラークの剣腕を見抜き、一気に攻勢に出る。
二連猛撃。
あの健人を追い詰めた技が再び放たれ、まるでハリケーンのごとき勢いでミラークに襲い掛かる。
三十合ほど受けたところで、ミラークが展開していた魔力の剣が打ち砕かれた。
『ち、ウルド!』
魔力の剣を砕かれたミラークは単音節の“旋風の疾走”で一時的に距離を取った。
フーラは当然、すぐさま距離を詰めるべく再度踏み込む。間合いを開けられたら一方になぶり殺しにされるのが目に見えているからだ。
一方のミラークは、左手で牽制のファイアボルトを放ちつつ、右手を後ろ手に構えていた。
念動力が発動。先ほど健人がもたれかかっていた壁面近く落ちていた『落氷涙』を左手に引き寄せて構える。
『お前の相手は少々面倒だ。さっさと終わらせてもらうぞ。ティード、ウル、グロ! スゥ、グラ、デューン!』
ミラークが立て続けにシャウトを発動する。
時間減速、激しき力。
周囲の時間を遅くしながら、風の刃を落氷涙の刀身に纏わせ、迫るデイドラのメイスと片手斧を迎え撃つ。
「むっ!?」
瞬撃八閃。
刹那の間に振るわれた八連撃が、フーラの双刀を弾き飛ばし、得物の柄を両断。さらに彼女の手足に裂傷を刻み込む。
シャウトの重ね掛けによってもたらされる、圧倒的な剣速は、フーラの本気の攻勢すらはじき返していた。
「ぐっ……!」
『ち、浅いか』
しかし、四肢を両断するには至らなかった。フーラが反射的に僅かに身を退いたからだ。
一瞬で攻守を逆転させられたにもかかわらず、致命傷を避けられるあたり、彼女もまた異常な次元に到達した武芸者といえる。
また、ミラークの得物が普通の片手剣ではなく短刀であり、先の魔力の剣と比べて間合いが短くなっていたことも、フーラが比較的軽傷で済んだ理由だった。
(これが主なら、少なくとも二、三回は仕留められたな……)
『吹き飛べ』
だが、それでもこの場での決着は既についていた。
四肢を負傷して動きが鈍ったフーラに、ミラークは左手を突き出し、容赦なくエクスプロージョンを叩き込む。
「ぐううう……!」
反射的に直撃を防ごうとしたのだろう。フーラは両腕を射線に割り込むように掲げるも、ミラークのエクスプロージョンはその腕を体ごと吹き飛ばした。
爆風でもげた彼女の両腕が、鮮血と共に宙を舞う。
「フーラ!?」
吸血鬼達の嘆声が響く中、ミラークが右の落氷涙を掲げると、フーラが吹き飛ばされた先の地面にいくつもの魔法陣が展開される。
赤、青、紫。すべて、設置型の罠系破壊魔法だった。
「これ、は……勝てんな」
そして、フーラの体が地面に落ちた瞬間、すべての罠魔法が起動。耳をつんざくような六つの炸裂音が響き、炎と氷、雷が舞い踊る。
そして爆風が収まった後、吸血鬼達の目に飛び込んできたのは、四肢を失い、体の8割を焼かれ、二割を氷漬けにされたフーラの姿だった。
「そ、んな……」
ピクリとも動かず、生きているのか死んでいるも分からない状態。
自分たち最強の武芸者があっさり敗れたことに、吸血鬼達の顔が凍り付く。
『さて、終わりにするか……』
そしてさらに、彼らを絶望に突き落とす光景が展開された。
ミラークの両腕に、これまでとは比較にならない規模の雷が生み出される。
バチバチと空気を焼き、荒れ狂う雷。ミラークの腕に巻き付き、既に彼の身の丈を上回る大きさとなったそれは、吸血鬼達に咆哮をあげる二頭のドラゴンを想起させた。
巨大な雷の竜たちは互いに絡み合い、一つとなりながら、眩いばかりの紫光で泉の間を塗り潰していく。
『消し飛べ、蝙蝠ども!』
そして、巨大な神鳴が解き放たれた。
ライトニングテンペスト。
開放された雷は極太の光線と化し、射線上にいた吸血鬼達を消滅させながら直進。そのまま泉の間の壁を洞窟ごと貫き、大穴を穿ちながら闇夜の空へと延びていく。
数秒か、十数秒か。やがて雷の奔流は途切れ、静寂が戻ってくる。
後に残ったのは、漂う砂塵と人の身の丈を超える大穴。
ミラークが放った達人魔法、ライトニングテンペストはレッドウォーターの洞窟の岩盤を貫通し、巨大なトンネルを穿っていた。
穴の先には、はるか先にそびえる山の影が見える。
「これは……これほどの魔法を使う者がいるとは……」
「ええっと、なに、これ? 私達、夢でも見ているの?」
「は、はは、ははは……」
壮絶な戦いを見せられたセラーナは言葉を失い、ガンマー達は乾いた笑いを漏らす。
すでに頭はとっくの昔に思考することを放棄してしまっている。
数多くの異形と対峙し、先のヴォルキハル城で驚異的な力を見せつけられても冷静さを失わなかった吸血鬼ハンター達だけなく、己も優れた魔法を操れるセラーナもが茫然としてしまっている事実が、いかにミラークが規格外の魔法使いであるかを示していた。
一方、ミラークは自らが穿ったトンネルの脇で震える者たちに目を向ける。
そこでは、奇跡的に射線から逸れていたヴィンガルモがいた。
「ひっ、ひい……!」
あまりの隔絶した力の差に、彼はすっかり戦意を喪失していた。
震える声を漏らし、地面にへたり込むその様は、永い時を生きた吸血鬼とは思えない。
少し前まであふれていた自信や高慢さは、影も形もなくなっていた。
しかし、ミラークは未だに生きているヴィンガルモ達を見て訝しむ。
(確かに、直撃させたはずだ。なぜこの者達が生きている……)
視線を穿ったトンネルに向ける。トンネルの向きは、ヴィンガルモ達の前からほんの少し、斜め上にズレていた。
ライトニングテンペストの射線を、ほんの僅かだが上方に逸らした者がいるらしい。
そのせいで、ヴィンガルモ達はライトニングテンペストの直撃を免れた。
しかし、余波だけでヴィンガルモの部下たちは焼き尽くされて全滅。オースユルフも体の半分を焼かれて動けなくなっていた。
ヴィンガルモが無事だったのは、彼の部下がたまたま壁になったおかげだ。
まともに動ける吸血鬼は、戦いに参加していなかったガレン・マレシと、元々戦力としては数えられていなかったメリエルナとレキナラのみである。
『私の魔法をそらしたのは、お前か……』
ミラークは生き残った吸血鬼達を見渡し、己の魔法をほんのわずかとはいえ逸らしたと思われるものに目を向ける。
そこにいたのは、ハルコンの執事、ガラン・マレシだ。
ミラークの覇気に当てられたのか、ガランの頬に一筋の汗が伝う。
「い、いえ、私ではありません……」
ガランの口から出た否定の言葉に、ミラークは眉を顰めた。
現状、ミラークから見た“ヴィンガルモ以外で多少魔法を使えそうな吸血鬼”は、ダークエルフであるガランだけだ。
そしてガランは、ミラークが放ったライトニングテンペストの射線上にいた。
彼以外で、ミラークが放った魔法をそらせる者はいない。
力を隠しているのか、それとも何らかのアーティファクトを所持しているのか。
『ほう、ならば何者だ?』
「私だ」
ミラークの目がさらに細まったところで、低く、威圧感を伴った声が泉の間に響く。
同時に、ガランの目の前の空間がゆがみ、一匹の黒い蝙蝠が姿を現した。
蹂躙される吸血鬼達。
永き時を生きた彼らは確かに強者ではありますが、ハルメアス・モラの下でひたすら知識の習得と研鑽を行ってきたミラークには到底及びません。
魔法だけでも圧倒されており、彼の力の本質であるシャウトを使わせることができたのは、フーラのみという状況。そのフーラすら、自分の間合いで圧倒される始末。
まさに格が違う。ミラークさんマジファーストドラゴンボーン。