【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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ドーンガード編第一章 エピローグ

深海を思わせる深い闇の中を、俺の意識はまるで海に浮かぶ木片のように揺蕩っていた。

 不思議と不安感はない。むしろ暖かく、安心感さえ覚える優しい闇。

 やがて闇の中から、数えきれないほどの虹色の魂が姿を現し、俺の周りを舞い始める。

 ミラークが、そして俺が取り込んでしまったドラゴンソウル達。

 彼らは俺を覗き込むかのように周囲を飛び交い、そして近づいては離れるを繰り返していた。その様子はなんとなく、興奮しているように感じられる。

 

『意識が戻ったか? 主よ』

 

 ミラークが姿を現す。

 此奴が何をしていたのかは見えていた。まるで窓越しに景色を観るような視点だった。

 俺の代わりに戦ってくれた戦友。もう消えてしまったと思っていたが、どうやらそれは違ったらしい。

 

「ミラーク……」

 

 安堵と興奮、喜びと驚き。それらがまぜこぜになり、強烈な熱情となってこみ上げる。

 

「説明しろ。なぜ、ドラゴンソウルを感じ取れなくなっていた。なぜお前が表に出ているときは、シャウトが使えた。俺に一体、何が起きている!」

 

 聞きたいことは山ほどあるためか、ついつい声が荒くなってしまう。

 そんな俺を前に、ミラークは神妙な雰囲気を醸し出す。どこか、急いているようだった。

 

『残念だが、説明している時間がない。手早く話を済ませるぞ。主がかけられたモラグ・バルの魂縛はまだ活きている。痛覚に干渉されることはもうないだろうが、殺されれば再び魂をオブリビオンに送ろうとしてくるだろう』

 

「マジか……」

 

『この魂縛は相当質が悪い。一度魂縛に失敗すると、魂を縛る力がより強くなるようになっている。次はおそらく、抵抗することはできんだろう』

 

 まだ薄氷の上にいることを知らされ、思わず項垂れる。

 

『主よ、牙を研ぎ直せ。そして新たな力を身につけるのだ。今の主には、再び力が必要だ。その為にも、今一度向き合うのだ。己自身と、この世界に対して』

 

「待て、せめてもう少し説明を……」

 

 説明を求める俺を無視し、ミラークは矢継ぎ早に言葉をまくしたてる。

 そうこうしている間にも、深く温かい闇に白い光が差し込み、ミラークやドラゴンソウル達の姿がかすみ始めた。

 

『ち、………が……し始めたか。主よ、発動……魂縛に抵抗………のは“我ら”の干渉と“奴”の………が………から……あったからだ。だが、“我ら”にこれを今………ことはできない。そも……、“我ら”に……の力は引き……るものではな…』

 

 ミラークの声も急速に遠のき、あっという間に虫食いのような状態でしか聞こえなくなってしまう。

 何か、重要なことを伝えようとしてくれているのだろうが、肝心の部分がわからない。

 

『奴の…は、……らではなく、………が……れたもの。…は、石となった…の生命線だ。世界の再誕を……主なら、……れ…………を……でき………………る。だが、……は……だ。』

 

 既に周囲はまぶしすぎるほどの光に包まれ、ミラーク達の姿は白光に塗りつぶされてみることができなくなってしまった。

 意識も遠のき、覚醒が近いことが如実に感じとれる。

 なんとか彼らの声を拾おうとするが、まったく抗うことができない。

 

『ドラール、ロク、コガーン、スゥーム……。主よ、幸運を祈っている』

 

 ようやく聞き取れたその言葉を最後に、ミラークたちの姿は完全に消えてしまう。

そして俺の意識もまた光に塗りつぶされ、現実へと戻されていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ハッと意識が現実に戻り、健人は跳ねるように体を起こす。

 最初に目に飛び込んできたのは、カジートの親友の顔だった。

 

「ケント、良かった無事?」

 

 既に日は昇り切り、明るい太陽が青い空を照らしている。

 ちゃぷちゃぷと水が揺れる音に合わせて、上下左右に揺られる体。どうやら、船の底に寝かされているらしい。

 覗き込んでくるカシトが映る視界の端には、ガンマーとソリーヌ、そしてセラーナが心配そうに窺ってくる顔が映っていた。

 

(カシト……。それに、ガンマーさん達も……)

 

「生きて、おりますのね……。本当によかった……!」

 

(セラーナさん……)

 

 目を覚ました健人を見て、セラーナが安堵の表情を浮かべる。

 

「でもケント、首に跡が……」

 

「っ、見せてください!」

 

 カシトの指摘に、セラーナが跳ねるように健人の首元を覗き込んできた。

 傷跡の残った彼の首にそっと触れる。

 入れ替わるように迫る、美しい顔。感覚の鈍った肌に走る、柔らかい指の感触。気恥ずかしさとくすぐったさから、健人は思わず身をよじる。

 

「暴れないで、大人しくしてくださいまし!」

 

 しかし、セラーナはそんな健人の羞恥をよそに、セラーナはぐいぐいと身を寄せてく。

 そういえば、彼女の胸の傷は大丈夫なんだろうか?

 いくら本人から頼まれたとはいえ、気にするなというのは無理である。

 恥ずかしさを誤魔化すように健人の思考があちこちに飛ぶ中、一通り健人の首の様子を確かめたセラーナは、その顔を痛ましげに曇らせた。

 

「これは、どうなっている?」

 

 ガンマー達も、健人の首に残った『嘆きの首輪』の傷跡に気づいたのだろう。確かめるような視線をセラーナに向けている。

 

「……嘆きの首輪は壊れましたが、施された術式はまだ消えていません。いえ、むしろ魂を縛る力自体は、より強くなっております」

 

 セラーナの見立ては、ミラークが夢の中で語っていた内容とほぼ同じだった。

 やはり、モラグ・バルの魂縛は完全には解けていないらしい。

 とはいえ、痛覚を思うがまま刺激され、行動不能にされる心配は無くなっただろう。

 

(とりあえず、良しとするか)

 

 確かに、再度殺されたら間違いなくヤバいことになるが、今は生きていることを喜ぶべきだろう。すでにミラークから伝えられていたこともあり、健人はそれほどショックを受けなかった。

 健人が重い異物が無くなったことにすっきりした気持ちで気楽に首をさすっていると、セラーナが今までにないほど沈痛な表情を浮かべて俯いてしまった。

 

「……ごめんなさい。私では、貴方を解放することは……できませんでしたわ」

 

 唇を噛み締め、涙を目に浮かべながら謝罪の言葉を口にする。

 セラーナとしては、父と自分に連なる負の鎖から、なんとしても彼を開放したかった。

 だができなかった。ハルコンの血なら、きっと魂縛も解くことができただろう。しかし、血のつながりはあるとはいえ、不完全な儀式がこのような中途半端な結果を生み出してしまった。

 どうしようもない無力感と罪悪感が、彼女の胸を締め付け、健人の胸元に添えられた手が、ギュッと握りしめられる。

 そんな彼女の手の甲に、健人の手がそっと重ねられた。

 ビクリと震える肩。顔をこわばらせながら、彼女は恐る恐る顔を上げる。

 そこには負の感情など一切なく、穏やかに微笑み返してくる健人がいた。

 

 ありがとう、助けてくれて。

 

 声はなくとも、万感の思いで向けられる感謝の念に、セラーナは声を震わせる。

 

「わた、私は……」

 

 感謝される人間ではない。そもそも原因は、あんな吸血鬼の父を持ったセラーナ自身にある。触れる手の温もりも、自分には過ぎたもの。

 絶え間なく浮かび続ける、卑屈な感情。

 しかし、重ねられた手が、セラーナの硬く凝り固まった罪悪感を流していく。

 何度も、何度も、何度も……。

 岸に打ち付けては引いていく荒波のような感情のうねりに振り回され、セラーナは体を震わせる。

 言葉も出て来ず、口は何度も開きかけては閉じることを繰り返す。

 

「よかった、生きていてくださって……」

 

 そんな中、彼女はようやく、彼の生存を喜ぶたった一言だけを、静かに絞り出した。

 後は只込み上げる無数の感情に押し流され、俯くのみ。

 すすり泣く声が流れていく。

 その間、健人はずっと彼女の手を握り続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

「さて、これからどうする?」

 

 セラーナが落ち着いたところで、ガンマーが口を開いた。

 

「ウィンドスタッドに行こう。解決策を考えるにしても、休息が必要だよ」

 

 彼の声に、カシトが答える。

 確かに、健人もセラーナも、かなり消耗していた。体も心も休息を欲していた。

 それに、彼らが乗っているセラーナの船を使えば、そう時間もかけずにハイヤルマーチに行ける。

 健人もセラーナも、カシトの提案を拒否する理由はない。

 そんな中、話を切り出したガンマーは神妙な顔を浮かべていた。

 

「……すまない、俺達は少し別行動をとる」

 

「どうして?」

 

「イスランに話をして、協力を取り付ける。対吸血鬼に関して、俺が知る限り一番の知識を持っているのはアイツだ。俺達の知らない魂縛の解除方法とか知っているかもしれない」

 

 ドーンガード。

 吸血鬼ハンターを自称する集団であり、特にリーダーであるイスランの実力は、古の吸血鬼相手に正面から戦えるほどだった。

 扱う魔法との相性を考えれば、むしろ有利になる場合の方が多いだろう。

 

「それに、あれほどの力を持った吸血鬼が相手なら、私達やドーンガード単独で戦っても勝ち目はないわ。協力体制を作らないと。その上で聞きたいのだけど……あの吸血鬼の王は、星霜の書で何をしようとしているの?」

 

「父の目的は、吸血鬼の時代を手に入れることです。遥かな昔、父は星霜の書に、吸血鬼達が太陽を専制し、地上を支配するという予言が書かれていることを知りました。以降、父はその予言に取り付かれているのです」

 

「なるほど、太陽の専制か。確かに、吸血鬼達がこの世界を常夜に変えてしまえば、世界は吸血鬼達に支配されるだろう。闇の時代の到来だ」

 

「その具体的な方法は分かりません。しかし、事は星霜の書に書かれていた予言です。きっと、その方法がこの世界に存在しているのですわ」

 

「洞窟を吹っ飛ばしたあれは? 見たところ、ハルコンの剣と誰かの血、それから、あの紅い水の源泉のどれかが原因と思うけど……」

 

「あれはケントの血ですわね。吸血鬼にとっては特上の血でありますが、詳しいことは分かりかねます。しかし、父のやろうとしていることに何か関係があるとは思いますわ。少なくとも、碌なことではないでしょう」

 

 セラーナの言葉に、健人達は皆眉を顰めた。

 事は予想以上に深刻だ。ともすれば、世界の危機に直結しかねない話だろう。

 

「ならなおのこと、イスランには話を通しておかないといけないわね」

 

 健人としても、協力を得られるならこれ以上ない選択である。

 問題は、吸血鬼絶滅を掲げている彼らが、セラーナの存在を容認するかどうかだ。

 

「そこは、私とガンマーで何とか説得するわ。味方に吸血鬼がいることの利点が、今回の一件でよくわかった。イスランも、今回の相手が伝説に出てくる吸血鬼の王となれば、さすがに無視はできないはずよ」

 

 確かにイスランは優れた戦士であるが、あのハルコンをどうにかできるとは思えない。

 その脅威をイスランに理解させるとなると、知り合いであり、吸血鬼の王の力を間近で実際に見たガンマーとソリーヌ以外にいないだろう。

 

「……そうだね。その、ドーンガードがいる場所に心当たりはあるの?」

 

「ああ。スカイリムの南東にある、ドーンガード砦だろう。数年前、俺達がまだ協力している頃から、イスランが修復して拠点にしようとしていた場所だ」

 

「話がついたら、ハイヤルマーチのウィンドスタッドに来てよ。そこの従士に話を通しておくから」

 

(……従士? はて、あの僻地に俺のほかに従士っていたっけ?)

 

 話が一通りまとまったところで、カシトの言葉に健人は疑問符を覚える。

 はて、“ウィンドスタッドにいる従士”とはどういうことだろうか?

 あそこには農家が一軒あるだけで、従士が複数赴くような場所ではなかったはずだが……。

 

「ソフィだよ。今あの場所は村になっているからね。その村を治めているのが、彼女だよ」

 

(……は? ソフィが従士? え、どういうこと?)

 

 アルドゥインとの決戦から三年経っていたとしても、ソフィはまだ十三歳ぐらいのはず。

 いくらハイヤルマーチが貧乏ホールドで人も金も物も不足しているとしても、従士の任を仰せつかるような年齢ではないはずだが……。

 

「その辺りは、首長のごり押しだね。あの婆さん。何やら色々と企んでいるみたいだし……」

 

「すみません、その、ソフィという方は……」

 

 カシトが何やら不穏な言葉を口にする中、セラーナはソフィについて尋ねてきた。

 健人にはその声色が、僅かに震えているように感じられたのだが……。

 

「ケントの義妹だよ。ウィンドスタッド村の村長兼ハイヤルマーチホールドの一番新しい従士さ。詳しい話は船で行きがらにでも」

 

「そういえば、妹さんがいらっしゃるとおっしゃっておりましたわね」

 

 じ~~~~。

 向けられる、窺うような視線。健人は思わず寒気を覚え、背筋を震わせた。

 

「それじゃ二人とも、協力体制の取り付けよろしく」

 

「ああ、分かった」

 

「任せておいて。あの石頭のイスランが何を言っても、力づくで連れて行くから」

 

 そしてガンマーとソリーヌは手近な岸から陸へと降りる。

 彼らが向かうのは、ドーンガードの拠点となっているドーンガード砦。それは健人達が向かおうとしているハイヤルマーチとはちょうど逆方向である。

 故に、ここで別れる必要があった。

 岸に船をつけると、二人は改めて、健人とセラーナに向き合う。

 

「いい経験をさせてもらった、ドラゴンボーン。ドルマが言っていたことが、なんとなく分かった気がする」

 

「人の心を残した吸血鬼がいる。そんなこと、考えたこともなかったからね」

 

「私は、そんなことは……」

 

「卑屈になるな。お前は確かに原因の一端を担っていたのかもしれないが、それは俺達も同じだ。吸血鬼ハンターであることをハルコンに見抜かれたことが、彼が余計な業を背負う切っ掛けだったんだからな」

 

「それに貴女は、彼を救おうとした。その身を傷つけ、あの吸血鬼の王に逆らってまでね。あの時、貴方を殺さずに済んで本当に良かったわ」

 

「まったくだ……」

 

 セラーナは息を飲み、目を見開く。

 まさか命を狙ってきたこの二人から、そんな言葉をかけてもらえるとは思っていなかったのだろう。

 

「まだ状況は予断を許さない。でも、理解はしておいてセラーナ。貴方は独りじゃない」

 

「あ……」

 

 一人ではない。

 その言葉に、セラーナの瞳が大きく揺れた。

 数千年間、ずっと抱いていた孤独。それが、まるで嘘のように消えていく。

 唖然とする彼女を前に、ソリーヌとガンマーは苦笑を浮かべる。

 裏表のない、純粋な笑みだった。

 

「ふふ、綺麗ね貴方。吸血鬼をそんな風に思える日が来るとは思っていなかったわ」

 

「また会おう真のドラゴンボーンと、友たる吸血鬼よ。次は本当の仲間として」

 

「ありがとう、ガンマー、ソリーヌ」

 

 そして二人は、手を振りながら、森の中へと歩んでいった。

 この後、ホンリッヒ湖へ向かう崖を上り、ドーンガード砦へと向かうのだろう。

 一方、健人達が乗る船は川岸から離れ、ダークウォーター川を下っていく。

 状況はまだまだ芳しくない。だが、僅かな希望が見えた。

 紡がれた異種同士の絆。今は小さくとも、いずれ大きな火になりえる種火。

 同じ温もりを胸に、彼らは再び自分達の道を歩み始める。

 

 

 

 

 

 

「おかえりなさい……って、お兄ちゃん、その人だれ!?」

 

 そして、兄妹は再会を果たす。

 生まれ変わった世界の中で、時計の針がまた一つ、先へと進むのだった。




と、いうわけで、ドーンガード編第一章終了となります。
次回から第二章となります。
文字数20万文字近くと長かったですが、ここまで読んでくださりありがとうございました!次章もお付き合い頂けたら幸いです。
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