【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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ドーンガード編 第二章
第一話 ウィンドスタッドへの帰還


 一年中荒々しく波打つ亡霊の海だが、春から夏にかけては、比較的穏やかになる。

 これは、陸地と海水の温度差が比較的小さくなるからだが、それでも小型のボートが航海するには、いささか厳しい海域と言わざるを得ない。

 しかし、セラーナの半月の船は、そんな荒れた海をものともせずに進んでいく。

 周囲の波を打ち消す力を持った船の上は常に穏やかで、まるで静かな湖面に浮かんでいるかのようだった。

 その船の上で、健人は見張りをしながら、舵を持って操船を続ける。

 一日中、海の上を走る船では、常に交代で見張りと操船を行う必要がある。

 グジャランド船長のノーザンメイデン号に乗っていた時期に見張りや操船を手伝った経験があり、その辺りのコツは一応身に着けていた。

 もちろん、技術や経験は現役の航海士には及ばず、波の見極めはまだまだ甘いが、この特別な半月の船なら問題にならない。

 とはいえ、暗岩などの波に隠れた岩や浅瀬などには十分気を付けなければならないし、夜は視界も悪くなる。念のため、岸からは距離を取って西に進んでいるが、油断することはできない。

 

「ケント、見張り代わるよ」

 

『頼む』

 

 そうこうしている間に、交代の時間が来た。

 健人は見張り役をカシトと交代し、休憩に入る。

 ひじょ~~~~に船に弱いカシトだが、この波よけの付呪が施されたこの船では、船酔いになることもなく、普通に生活できており、健人としても正直ありがたかった。

 おまけに、カジートは視力が良く、夜目も効く。

 セラーナと並んで、夜間の航海には非常に頼りになった。

 

「お疲れ様です」

 

 見張り役を終えた健人を、セラーナが微笑みながらねぎらってくれる。

 

「ケント、お腹すいていませんか?」

 

 セラーナがそう言って、パンを差し出してくる。

 時間的には昼時。ちょうどお腹もすいてきていた頃だった。

 

『ありがとうございます。いただきます』

 

 セラーナは笑みを浮かべたまま、手にしたパンを二つに分け、半分を健人に差し出してくる。健人が受け取ったパンを口にすると、ビスケットのような歯ごたえが返ってきた。

 保存用に難く焼き固められたものだが、小腹を満たすには十分。何度も噛めば、ほんのりとした小麦の甘味も感じることができる。

 セラーナもまたケントの隣に腰を下ろし、同じようにパンを食む。

 健人が横目でセラーナの様子を覗き見ると、彼女もまた、様子を窺うようにチラリと横目を向けていた。

 視線が交わり、互いに示し合わせたかのように苦笑を漏らす。

 

「封印されている間に、世界は色々と変わったようですが、パンの味は数千年経っても変わりませんのね」

 

『数千年ぶり?』

 

「ええ。血を飲んでいれば生きていられますから。封印から脱した後も、普通の人間が食べるような食事はしておりませんでしたの」

 

 そう言って、セラーナは今しがた自分が食していたパンに視線を落とすと、心底残念だと言うように、へにゃりと肩を落とす。

 

「正直、もっとおいしくなっているのかと期待しておりましたのに……」

 

(まあ、農業が発展しづらい世界だからな……というか、パンだけではどのみち味気ないでしょうよ)

 

 技術発展や品種改良できるのかという問題もあっただろうが、戦争や動乱による技術失伝もあるだろう。

 健人は苦笑を浮かべつつ荷物を探り、小箱を取り出す。

 中には乳白色の塊が入っていた。バターだ。

 保存を考えて塩分が多めのそれを、セラーナのパンの齧り跡に塗る。

 

「ん……。やっぱり何かつけると、ちょっとは美味しくなりますわね」

 

『スノーベリーのジャムとかあるともっといいんですけどね』

 

(なんというか、セラーナさんってかなりの天然さんだよな……)

 

 バターを付けたパンを小さな口で一口一口、確かめるように食むセラーナを眺めている健人の脳裏に、そんな言葉が浮かぶ。

 基本的に知的で穏やかな性格なのだが、時折妙な言動が目立つ。

 王の娘であり、更に数千年封印されていたことを考えれば無理ないのだが、本人の気質の部分も多分にあるのかもしれない。

 しばしの間、パンを食む音が、静かな船上にながれる。

 食事を終えても二人は並んで座ったまま、静かに空を見上げ、聞こえてくる波音に身をゆだねていた。

 

(…………?)

 

 二の腕に感じられる、ほのかな熱。健人がチラリと横目で隣を確かめると、セラーナとの距離がほんのすこし、近づいていた。

 

『あの、どうかしましたか?』

 

「お邪魔でしたか?」

 

『いえ、そんなことはないですけど』

 

「なら、よかったです」

 

 そう言って、セラーナは静かに笑み深くする。

 嘆きの首輪とレッド・ウォーター洞窟での戦い以降、なんとなくだが、健人にはセラーナが変わったように見えた。

 互いにあった透明な壁。それが無くなったように感じられるのだ。

 不快感はない。むしろ、ふんわりと暖かい毛布に包まれたかのような温もりが伝わってくる。

 ある種の居心地の良さ。

 それはセラーナも同じなのか、以前に比べて笑うことが多くなった。

 それも、これまで見てきたような、影のある笑みではなく、とても自然な、年頃の少女のような笑顔だ。

 ついでに言えば、彼女は絶世の美女である。

 そんな女性に至近距離で微笑まれれば、健人としては色々と滾ってしまうのだが……。

 

(いや、そんなに見られると気になるんですけど……)

 

 ちなみに、セラーナの視線は健人に完全固定。

 向けられ続ける視線に健人は思わず身じろぎし、そんな彼をセラーナは楽しそうに苦笑を漏らしては、また見つめるを繰り返している。

 無限に振りまき続けられる、甘酸っぱい空気。

 見張りをしていたカシトの呆れ声が響くまで、この空気は半月の船の上を漂い続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 久し振りのハイヤルマーチは、相も変わらず濃い霧に包まれていた。

 早朝の朝日を浴びた湿地帯からは湯気が立ち上り、屹立する針葉樹林が並んでいる。

 幽玄な……人によっては陰気に見える地。

 レッド・ウォーターの洞窟での戦いの後、ミラークの転移魔法で脱出した健人達は、セラーナの半月の船で、今ようやくハイヤルマーチに到着していた。

 船が着いた場所は、ウィンドスタッドの端。南側の入り江になっているところで、遠目には霧の中から、ウィンドスタッド邸の尖塔が顔を覗かせているのが見えた。

 

(帰ってこれた。にしても……なんか、結構な数の建物が建っている?)

 

 霧の隙間からはウィンドスタッド邸だけでなく、いくつもの家々の屋根も垣間見える。

 近づいていくと、うっすらと見えていた村の様子が、かなり鮮明となってきた。

 建物の数は五十ほどだろうか。ウィンドスタッド邸がある丘から西、そして南東にかけて並ぶように建てられている。

 空いた土地には田畑が造られ、黒々とした土から青い新芽が顔を覗かせており、畑の端には抜かれたと思われる雑草が山のように積まれていた。

 その草の傍で、体のあちこちを土で汚した人達が談笑している。

 

「ここが、貴方の土地ですの?」

 

『ええ、まあ。こんなに人が集まっているとは思ってなかったんですけど……』

 

 みたところ、数十世帯。百人以上は間違いなくいるだろう。

 健人がこの地を旅立った時、あったのはウィンドスタッド邸のみだったが、今ではすっかり立派な村にまで成長しているようだった。

 たった三年、されど三年。ホワイトランでリータ達に再会したときもそうだが、やはり年月の経過を実感させられる。

 

(カシトから、村になったとは聞かされていたけど……)

 

 健人がなんとも言えない心持ちで眺めていると、談笑している人達が健人達に気づいた。

 皆一様に驚き、若干のしかめっ面を健人達に向けつつ、指を刺したり隣の人の肩を叩いたりしている。

 まちがいなく、突然の訪問者を警戒しているのだろう。

 無理もない。日本人にカジート、それからノルドの女性とはいえ、息を飲むような美人の三人集だ。否応にも人目をひく。

 ちなみに、今のセラーナは『蒼の艶百合』にいた時のように、ローブと眼帯を身に着けている。

 その容姿と虹彩の色から、色々な意味で目立つために必要な措置だが、元々持っている美しさと高貴な気配は隠しきれていない。遠目からでも違和感を覚えるくらい、異質な気配を振り撒いてしまっていたりする。

 そんな中、畑の奥から馬に乗った一人の少女が姿を現した。

 彼女は休憩していた農民たちに近づくと、笑顔で挨拶をしている。

 

(彼女は……)

 

 年齢的には13歳くらいだろう。

 遠目ではあるが、長い焦げ茶色の髪を頭の後ろに流し、健康そうで整った顔立ちをしている。

馬に乗っているところを見ると、かなり身分があることが窺えた。

一方、村人たちは話かけてきた少女に気づくと、少し慌てた様子で頭を下げ、続いて健人達を指さした。明らかに不審者を通報しているといった雰囲気。

少女の視線が健人と交わると彼女は驚いたような表情を浮かべ、続いて茫然とした表情を浮かべた。

そんな彼女の様子に村民たちが首を傾げる中、彼女は馬を降り、一目散に健人達の方へと駆けてくる。

 

(ソフィ……)

 

ソフィ・サカガミ。

健人がウィンドヘルムで引き取り、この地で待たせていた義妹。

綺麗というよりは、つつましやか、という印象。また、ピンと伸びる背筋が淑やかさと凛々しさを醸し出している。

成長した彼女は健人が覚えている姿よりもずっと大人びていた。

 

「おかえりなさい……って、お兄ちゃん、その人だれ!?」

 

(あ、ええっと……)

 

 満面の笑顔で駆け寄ってきたソフィが、健人の隣に立つセラーナを見つけて叫ぶ。

 咎めるような口調。なんとなく気まずい感じがして、健人は視線を彷徨わせた。

 

「あら、可愛らしい子ですわね。貴方の妹さん?」

 

一方のセラーナはソフィを前にして、柔和な笑みを浮かべる。

元の美貌と振りまく雅な気配も相まって、非常に人目を惹く笑顔だった。

 

『ええ、そうです』

 

「お兄ちゃん、説明して。それにどうして筆談なの?」

 

 頷きながら黒板を掲げる健人に、ソフィはやや釣り目になりながら説明を求める。

 先ほど村人と話をしていた時は、年不相応に落ち着いた雰囲気を醸し出していたのに、急に子供っぽくなった。

そんな彼女に、健人は苦笑を浮かべつつも、黒板に白墨を走らせる。

 

『声が出せなくなってね。俺も色々話をしたいし、ゆっくりできるところに行かないか?』

 

「分かった……いえ、分かりました。とりあえず、私達の家に案内します」

 

 ソフィはそう言いながら、カポカポと小走りで彼女を追いかけてきた馬の手綱を取る。

 しっかりと躾けられた馬だ。それに毛並みもいい。きちんと馬の手入れができるくらい、生活の余裕がある証である。

 

『とりあえず、彼女の名前はセラーナ。俺の恩人だよ。アルドゥインとの戦いの後、リフトホールドに身一つで飛ばされた時に何かと世話してくれた』

 

「それは……失礼いたしました。兄さんのお客様に無礼な態度を……」

 

「いえ、お気になさらず。助けられたのは私も同じですわ」

 

 頭を下げるソフィに、セラーナもまた穏やかに挨拶を返す。

 実際、健人とセラーナは、互いに持ちつ持たれつの関係だった。彼女がいなかったら健人はリフテンで路銀稼ぎに困っていただろうし、セラーナも彼がいなかったらドーンガードのイスランに殺されていた。

 その後に一連の問題も今さらである。

 

「それも、後ほど聞きましょう。カシトさんもお疲れさまでした」

 

「やほ~~、ソフィ。ただいま~~」

 

「スクロール、役に立ちましたか?」

 

「うん! めちゃくちゃ爆発してくれて、結果的にはすっごく助かったよ!」

 

「そ、そう、ですか……」

 

 カシトが無邪気で悪意のないセリフを口にする一方、ソフィは頬を引きつらせながら視線を彷徨わせる。

 自分の失敗作が良かったと言われて、気持ち的には複雑なのだろう。

 

「ああ、あの召喚した精霊が爆発するスクロールは、貴方が作ったものでしたの?」

 

「え、ええ。まあ……それが何か?」

 

「いえ、随分と個性的で印象深かったものですから」

 

「個性的……」

 

 セラーナはセラーナで、ニコニコと無自覚にソフィの傷を抉っている。

 最近、健人も気づいてきたが、セラーナは時折、かなり天然な発言をする。

 元々、太古の王族に連なる血筋であることを考慮すれば無理もないかもしれない。

 天然二人からの無自覚攻撃に思わず肩を落とすソフィ。とはいえ、彼女はハイヤルマーチの従士としての矜持ゆえか、「んん!」と短く喉を鳴らすと、すぐに気持ちを切り替えた。

 

「改めて、私はソフィ・サカガミ。ハイヤルマーチの従士で、この村の村長代理です。兄さんがお世話になりました。とりあえず皆さん、私達の家、ウィンドスタッド邸にご案内します」

 

 そう言って、ソフィは手綱を握る自分の馬に目を向ける。

 

「兄さんは、この子に乗ってください」

 

(へ? なんで? ウィンドスタッド邸まではそれほど距離はないし、ソフィが乗っていた馬にわざわざ俺が乗る必要は……。)

 

「ほら、ケント早く」

 

「多分、村人に貴方の立場を示すのに必要なのですわ」

 

 健人が首を傾げていると、隣のカシトとセラーナもソフィに同調してきた。

 セラーナのセリフを聞いて、健人もようやく三人の考えを理解する。

 ソフィが馬を引き、その背に健人が乗っていれば、必然として、村人は彼がソフィより上の立場と理解するだろう。その方がソフィとしても、後々兄を紹介するときに好都合なのだ。

 三人に押されつつ、健人が馬の背に乗ると、一行はゆっくりとウィンドスタッド邸へと歩き始めた。

 農道を抜け、居住区を進んでいく。必然として、村人たちはケントの姿を見て一様に驚いていた。

 

「おい、あの男……」

 

「見たことない人ね。ノルドじゃなさそうだけど……」

 

(やっぱり、慣れないなぁ……)

 

 健人は元々地球では只の一般人であり、タムリエルに来てからも衆目を浴びることは少なかった。

ウィンドヘルムでの対ヴィントゥルース戦以降、割と他人から注目される機会は増えたが、それでも幼い頃から培ってきた一般人感性はなかなか消えない。

 

「兄さんはそのまま。できるだけ胸を張って、偉そうにしてください」

 

(ええ……。そこまで取り繕う必要あるの?)

 

 妙に気合の入っているソフィに対して、あまり乗り気でない健人。

元々威勢を張るとか、威厳を保つとかやったことないだけに、苦手感が出てしまう。

 

「なんで、ソフィ様が引いている馬に乗ってるんだ?」

 

「もしかして、あの人がソフィ様の良い人?」

 

「いや、兄貴の方じゃないか? ソフィ様、自分を助けてくれた兄のことはよく話をしていたし……」

 

「え!? じゃあ、あの人がこの村の村長!?」

 

 とはいえ、村人の反応は健人以外の三人が予想したとおり、健人の立場をある程度理解してくれた。中には、彼をソフィの兄だと見抜く者もいる。

 村人たちの話を聞く限り、ソフィは普段から彼らに、健人のことを話していたらしい。

 従士である彼女の立場を考えれば、かなり民との距離が近い。それも、人口の少ない小村であるゆえだろう。

 それに、村人達がソフィに向ける目に悪意は感じられない。普段から、積極的に民の言葉を聞いて、行動している証だ。

 権威を気にする者は目を顰める光景かもしれないが、健人はむしろそんな義妹の姿勢に感心する。

 もっとも、変な誤解が生まれかけているのも気にはなるのだが……。

 

「まあ、悪い関係の相手じゃないでしょ。ソフィ様、なんだか嬉しそうだし……」

 

 嬉しいのだろうか?

 村人の声に促され、健人は義妹の後ろ姿に目を向ける。

 三年の間に随分成長した妹は、心なしか、心地よさそうな足取りをしていた。

 長くなった茶色の髪もピョンピョンと小さく跳ねている。

 そんな義妹の様子に小さく微笑みつつ、健人はウィンドスタット邸へと向かっていくのだった。

 

 




というわけで、主人公がようやくウィンドスタッドに帰還しました。
そして、義妹との再会。本編EDのラストに当たるシーンとなります。
以下、用語説明

セラーナ
レッドウォーターの泉での一件以降、無意識に張っていた壁がなくなり、健人との距離が近づいている。
そのため、彼女本来の天真爛漫さが垣間見えるようになった。
しかし、見た目は絶世の美女なので、グイグイ来る際の破壊力は抜群。数千年ぶりに心を許せる人物に出会ったこともあり、その圧力はお察し。
当然、基本朴念仁の健人にも効果を発揮している。

ソフィ・サカガミ
ハイヤルマーチで最も新しく、歴代最年少の従士。
新興の村、ウィンドスタッドの村長代理でもある。
普段は従士として礼儀正しくも威厳のある言葉遣いをしているが、兄関係では割と歳相応に戻る。
村人たちにとっては、行き場のない自分たちを受け入れてくれた恩人であり、ほぼすべての村民たちから敬愛されている。

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