【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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お久しぶりです。



第四話 残された老人との再会

 エズバーン。

 元ブレイズの公文書管理官であり、リータを利用してドラゴンの絶滅を画策していた老人。

 健人の師匠であったデルフィンとは仲間であり、三年前は世界のノドの頂上で隠居しているドラゴン、パーサーナックスの命を狙い、敵対したこともあった。

 そして、あの「大戦」とその後のサルモールの執拗な追跡を逃れ続けた、きわめて有能な人物でもある。

 

「お知り合いですか?」

 

(ええ、まあ……)

 

 事情を知らないセラーナに質問され、健人は平静を装いながら小さく頷く。

 命を狙われたり敵対したりと色々あったが、健人はエズバーンに対して、特に隔意は抱いていない。

 そもそも、健人とエズバーンはほとんど言葉を交わしたことはない。

 ハイフロスガーで戦った時にエズバーンの相手をしたのはカシトとリディアであり、健人は直接戦闘をしていない。

 世界のノドでアルドゥインと戦った後も会話することなく、彼はハイフロスガーを後にしており、直接は顔を合わせた時間はほぼなかったのだ。

 そんなこともあり、そもそも健人はこの老人がウィンドスタッドに来ていることすら想像できなかった。

 

「色々と説明が必要だろう。さ、かけてくれ」

 

 一方のエズバーンは健人を前に、妙に興奮した様子を見せている。

 瞳孔が開かせ、口元に隠し切れない笑みを見せながら、ガタガタとテーブルの上に積まれた書物を部屋の隅に片付け始める。

 そして急いだ様子で台所に行くと、人数分のお茶を淹れ始めた。

 

『ソフィ、どうして彼がこの村に?』

 

 とりあえず、健人達はエズバーンに促されるまま席に着くと、エズバーンがお茶を淹れている間、傍に立つソフィに疑問を投げかける。

 

「少し前にイドグロット首長から、ちょっと預かって欲しい人がいると言われまして……」

 

(イドグロット首長? 元ブレイズと一体どんなつながりが……)

 

 健人はハイヤルマーチの食えない老首長を思い出す。

 飄々としつつも、油断ならない目をした老女であり、健人も色々と世話になった人物である。

 彼女なら、もしエズバーンがホールドの利益となると判断した場合、匿うくらいやっても不思議ではない。

 

「そのあたりも説明しよう」

 

 各々の前にお茶を入れたカップを置くと、エズバーンは健人の前に座った。

 既に初老という歳をゆうに超えているとは思える老人。しかし、その年齢を感じさせぬ姿勢の良さで、自分が淹れたお茶を一口啜る。

 

「一言で言ってしまえば、君の姉のお陰だな」

 

(リータが?)

 

「アルドゥインとの戦いが終わった後、私はスカイヘブン聖堂で、これまでのブレイズの歴史や技術の発掘や編纂、記録をしていた。それがひと段落したところで、君の姉から手紙が来て、君の帰還を知った」

 

 そう言って、エズバーンは懐から真新しい手紙を出してテーブルに乗せる。

 宛名を確かめると、確かにリータの名前が記してあった。

 

「彼女の手紙には、あの時ソブンガルデで何があったのか、君が何を成したのかが克明に記してあった。それを知り、改めて君に会いたいと思ってここに来た。ハイヤルマーチの首長も彼女の手紙を見たら納得して、君の村に話を通してくれたよ」

 

 リータからの手紙を懐に戻すと、エズバーンは改めて健人を見つめる。

 そして万感の思いと共に胸に手を当て、深々と頭を下げた。

 

「まずは、礼を言わせてくれ、異端のドラゴンボーンよ。この世界を救ってくれて、本当に感謝している」

 

 ブレイズであった彼にとって、アルドゥインの脅威を取り除くことは、至上命題であった。だからこそ、エズバーンはそれを成した健人に対して、最大級の礼を示す。

 

『お礼を言いに来た、ということですか?』

 

「むろん、それもあるが、それだけではない。手紙には、君の現状もある程度記されていた。声を失った君に、私達の知識が役に立つかもしれない」

 

 エズバーンが、ちらりと健人の隣に座るセラーナに目配せをする。

 おそらく、手紙の中にセラーナに関する情報も記されていたのだろう。

 健人としては、エズバーンがセラーナに対してどのような態度を取るのか気になるが、とりあえず、話を進めさせる。

 

『具体的には?』

 

「そうだな、デルフィンが君に伝えきれなかった技、などはどうだ?」

 

「…………」

 

「君はデルフィンの弟子だが、習ったのはあくまで戦士としての基礎的な技術に留まっていた。もちろん、君が彼女を超える戦士に成長したことは間違いないが、それでも知らない技術や知識は多いはず」

 

 そう言って、エズバーンは部屋の隅に並べた本の山を指さす。

 事実、健人がデルフィンから学べた技術は、極一部に過ぎなかった。当時素人だった健人が数か月の訓練程度で、歴戦の諜報員の技術や知識全てを学びきれるはずもない。

 

「彼女が伝えられなかった技も含め、長い歴史を歩んだブレイズには、それ相応の知識が多数残されている。それを可能な限り持ってきた」

 

『ありがとうございます』

 

 健人の礼に、エズバーンは嬉しそうに笑みを浮かべる。

 ドラゴン殲滅に固執していた老人と同一人物とは思えない、穏やかな……好々爺を思わせる笑顔だった。

 

「だが、これはあくまで補助的なものだ。後々見せるものの参考程度に考えて欲しい」

 

(参考?)

 

「紙とペンだけで学んだだけでは片手落ちになると思ってな。他にもスカイヘブン聖堂で色々と面白いものを見つけた。用意に少し時間がかかるが、期待して欲しい」

 

(面白いもの?)

 

「それで、そちらのお嬢さんが一緒にいる吸血鬼か?」

 

 改めて、エズバーンの視線がセラーナに向かう。

 やはり、彼はセラーナの正体を知っていた。長い沈黙が小さな居間に流れる。

 セラーナは警戒心を漂わせた目でエズバーンを見つめた後、健人に目配せをする。

 健人が頷くと、セラーナは静かに口を開いた。

 

「……ええ、そうですわ」

 

 セラーナがフードを脱ぎ、吸血鬼特有の輝く虹彩を晒す。

 静かな、しかし大きなため息がエズバーンの口から漏れた。

 

「なるほど、厄介な事態に首を突っ込むのは、相変わらずのようだな。詳しい事情を聞いてもいいかな?」

 

 詳細を求めるエズバーンに、セラーナは一拍を置いたのち、静かに話し始める。

 星霜の書が示した血の予言と、それに固執する危険で強大な吸血鬼である父の存在。

 そんな父に愛想を尽かせた母の手で、星霜の書ごと数千年間封印されていたこと。

 しかし、その封印も父の配下の手で解かれ、紆余曲折を経て星霜の書を父に奪われたこと。

 セラーナが話し終えると、エズバーンは深刻そうな表情で口元を歪めながら、大きく息を吐く。

 

「ハルコン。そしてヴォルキハル……か。確かに、古の時代に生きていた強大な統治者だ。一夜にして国が滅んだと聞いてはいたが、まさか吸血鬼になっていたとはな。そして、この時代に混沌を巻き起こそうとしている」

 

『奴が奪い取っていったセラーナの星霜の書。それがカギのようですが……』

 

「星霜の書は、普通の者には読むことすらできない。それを成せるとしたら、聖蚕の僧侶のみだ」

 

「確かにそうですが、聖蚕の僧侶はシロディールにある聖蚕会の聖堂から出てこないのでは?」

 

 セラーナの言葉に、エズバーンが頷く。

 聖蚕会とは、星霜の書を管理している集団である。その中で星霜の書を読むことができる者が、聖蚕の僧侶だ。

 第三期のセプティム朝が起こる遥か以前からシロディールで活動しており、彼らは厳しい修行を重ねることで星霜の書を「読む」ことを可能としている。

 そして、彼らは目の光を代償に読み取った予言によって、タムリエルに降りかかる多くの危機を時の為政者や勇者たちに知らせてきた。

 

「そうだな。だが、風の噂に聞いたことがある。聖蚕の僧侶が、このスカイリムを訪れると……」

 

『理由は?』

 

「どうも、星霜の書に新たに付け加えられた記述が関係しているらしい」

 

 星霜の書に新たに付け加えられた記述。

 健人、ソフィ、カシト、ヴァルディマーの四人が首を傾げる一方、その内容を知らされていたセラーナは息を飲む。

 各々の反応。特に健人の様子に、エズバーンはテーブルに肘をついていた手を組みつつ、笑みを浮かべながらゆっくりと口を開く。

 

「夜のとばりが降り、血の霧に包まれた冬の地で、雪の春が訪れる時、竜の咆哮と共に、創世の片割れが帰還する」

 

 創世の片割れ。

 この場にいる者達の視線が、一斉に健人に向く。

 

「なるほど。色々と心当たりのある話だ。君達が敵を追うなら、聖蚕の僧侶を探すといい」

 

「……そうですわね。確かに現状、唯一の手掛かりです。でずが、たった一人の僧侶を探すには、このスカイリムは広すぎますわ」

 

『情報を集めないといけない』

 

「私も協力しよう。一応、盗賊ギルドとのコネも残っているからな。聖蚕の僧侶の居場所がわかったら、知らせよう」

 

『ありがとうございます』

 

「感謝いたしますわ」

 

「なに、ドラゴンボーンへの礼さ」

 

 話を切るように、エズバーンはお茶をすする。

 健人とセラーナも思い出したかのように、目の前のお茶に手を付けた。

 軽やかな草の香りが鼻腔に漂い、僅かな渋みと優しい甘みが口の中に広がった。思わずほっと息が漏れる。

 どうやら、お茶というより薬湯といった類の物らしく、蜂蜜か何かで甘みをつけているらしい。

 

「ところでドラゴンボーン。彼女の正体、村人たちには……」

 

『知らせていない』

 

「ああ、それがいいだろう。誰も彼もが、君のように受け入れられるわけではないからな」

 

 吸血鬼はこのスカイリムだけでなく、タムリエル全体で恐怖の対象であり、脅威だ。

 それは圧倒的に個体数が少なく、伝説上でしか語られていなかったドラゴンと比べても、より現実的ともいえる。

一般的な感覚を持つ人間だったら、即座に討伐を望むだろう。

 かつて、ドラゴンの完全殲滅を公言していたエズバーンが語ると、妙に説得力がある。

 

「さて、それでは私はさっそく準備を始めよう。こっそりとな。エルフ達に見つかっては困る」

 

『サルモール、ですか?』

 

「ああ。君も、彼らの追跡対象だろう? 一応、死亡していると思われているようだが、気を付けた方がいい。準備が出来たら連絡するから、北東の海岸に来てくれ」

 

 エズバーンは目の前の一気にお茶を飲み干すと、席を立って入口のドア近くに掛けてあった外套を手に取り、そのまま駆けるように小屋を出て行ってしまった。

 キィ……と軋むドアがパタンと閉じる。

 一拍の後、健人はため息とともに席を立つ。そして、エズバーンが残していった本の山に歩み寄り、その中の一冊を手に取った。

 題名は「影の戦士」。デルフィンが得意とし、ハイフロスガーで健人を追い詰めた隠形の技と同じ名前である。

 本の中身に軽く目を通すと、人間やエルフ、カジートやアルゴニアンといった、タムリエルに住む各種族が持つ視覚野の限界と、錯覚の誘発方法について記されていた。

 エズバーンが置いて行った本の中には、他にも毒に関する書物やブレイズが保持していたと思われる禁呪、諜報に関する技術書など、どれも一般には決して出回らない本が散見される。

 

「これほどの知識。普通なら、秘伝として決して表には出さないものですわね。漏洩が知られれば、下手をすれば粛清されるほどの……」

 

 感嘆の声を漏らすセラーナの声に健人も沈黙のまま頷く。

 同時に、これほどの書物すらもついでのように語っていたエズバーンの様子が気にもなった。

 健人はこっそりと義妹の方に視線を向ける。

だが、ソフィも知らないのか、小さく首を振るのみ。

 

(一体、なにがあるんだろう……)

 

 健人は期待と不安の入り混じった何とも言えない顔で、老人が出て行った扉を見つめる。しかし、確かめようにも、肝心の人物はもうこの場にいない。

 変な代物でないといいと思いつつ、この世界に来てから基本的に碌な目に合っていないという事実が、彼を不安にさせた。

 ドラゴンに襲われたり、諜報組織の残党に弟子入りしたり、正気を失いそうな本に飲み込まれたり等々……。

 脳裏に浮かぶこれまでの苦労を振り払うように、大きく息を吐く。

 

(考えても仕方ない。とりあえず、今できることからするか。とりあえずは、村の問題の解決と、ハルコンについて、首長に連絡だな……)

 

 健人は次に会った時に確かめようと大きな息を吐くのだった。

 

 

 

 




いかがだったでしょうか?
久しぶりの投稿ということで、これでいいのかちょい不安……。

以下、登場人物紹介

エズバーン
元ブレイズの公文書管理官。
何十年もサルモールの追跡を逃れてきた人物。
一時はデルフィンと共にドラゴン殲滅を掲げていたが、デルフィンが世界のノドで討ち死にした後はスカイヘブン聖堂にこもり、これまでのブレイズの歴史や技術、知識の研究や記録、編纂などを行っていた。
その後、リータからの手紙で健人の帰還と彼の現状を知り、彼の力になるためにモーサルを訪れて首長と秘密裏に接触。ウィンドスタッドにて健人の帰りを待っていた。
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