【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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前回、エズバーンと再開した健人達ですが、少しの間ウィンドスタッド村でのシーンが続きます。
本当なら第五話としたかったのですが、ちょっとストーリーが進まなかったので閑話としています。



閑話 ウィンドスタッド村での一時

 エズバーンと会った翌日から、健人はさっそく行動を開始した。

 老人が残していった書物から知識を得つつ、鍛練を再開。また同時に、ソフィから村の状況と統治について聞きつつ、村内の問題に対処する。

 とはいえ、ブレイズの歴史は長く、それに伴った知識も膨大。今すぐ読み切れる量ではないが、身に付けない理由はない。

 久しぶりに蝋燭に火を灯して、夜なべしている。

 同時に、吸血鬼の脅威についての対応も行う。

 まず健人は、モーサルにいるイドグロット首長に手紙をしたため、それをヴァルディマーに頼んでモーサルに持って行かせた。

 手紙には古の吸血鬼クラン、ヴォルキハルについてだけでなく、その関係者であり、ヴォルキハルを止めようとしているセラーナを匿っているということも記している。

 わざわざ一度手紙で伝えるという形にしたのは、セラーナが吸血鬼であるため、モーサルに直接赴くには問題があると考えたからだ。

 モーサルは過去に一度、吸血鬼の脅威に晒されたことがある。モヴァルスの一件だ。

 本格的な襲撃前に健人が潰したため、被害自体は軽微であったが、吸血鬼に対する悪感情は残っているだろう。

 

(とりあえず、これでヴォルキハルに関しては首長の反応待ちと。次はこの村の問題への対処か……)

 

 村の現状については、ソフィからすでに説明を受けている。

 この村が抱える問題は、主に三つ。

 一つは慢性的な人手不足。百人単位の人が集まったとはいえ、まだまだ必要な人員は足りていない。

 特に専門分野での職人が不足している。

 二つ目は、農地不足。

 村が急激に大きくなったことで、食料を生産する畑が不足しているのである。

 そして三つめは山賊。

 ここ最近、ハイヤルマーチとペイルの間の国境付近で、山賊による襲撃が頻発しているとのこと。

 元々内乱で廃墟と化した砦や、山間の洞窟を根城とする山賊はいた。

 しかしソフィの話では、三か月まで前まで山賊の活動は限定的で、ほとんど被害は出てなかったらしい。

 原因は、三年前にこの国境付近を通過していた健人とドラゴンの間に起きた戦闘、そして帝国とストームクロークの間交わされた休戦である。

 

(いや、まさかあの時襲ってきた山賊が、ハイヤルマーチとペイルに跨る山賊達の元締めだったとは……)

 

 ウィンドヘルムからモーサルへの道中で健人達を襲い、ヴィントゥルースとの戦闘に巻き込まれて壊滅した山賊は、どうやら国境付近を根城にする山賊団のなかでも、かなりの勢力を持つ一団だったらしい。

 結果、頭を無くした山賊同士で小競り合いが頻発。

 その後、休戦によって各ホールドに余力ができたこともあり、治安を乱す山賊団の討滅が行われた。

 内輪もめをしていた山賊団に正規軍の相手ができるはずもなく、一時ほぼ壊滅状態にまで勢力が激減。

 だが、ここ最近、これらの山賊団が勢力を取り戻しつつあるとのこと。

既に主要街道での被害も出ているらしく、ソフィもイドグロッド首長から直々に警戒する旨の書簡を受け取っていた。

 

(まずは足元を固める。その為に必要なものを作っていかないとな……)

 

 山賊と聞いて、何やら嫌な予感を覚える健人だが、とりあえず今日の予定を思い出しながら、作業を始める。

 今彼がいる場所は、屋敷の脇にある鍛冶場だ。

 時間帯は、日がまだ上らぬ早朝。村がまだ寝静まっているにもかかわらず、彼は据え付けてある炉に立ち、火を入れていた。

 火口から干し草へ、そして焚きつけの薪へと火が移ったところで、炭を投入。

 赤々と燃える炭をじっと見つめ、炉の温度を確かめながら、彼はこれから作る道具を頭の中で思い浮かべていく。

 

(目標は鍬十本、家畜が引く鋤五本、スコップと斧も要るな……)

 

 地球の日本のようにコンバインやトラクターなどがない以上、農業ではクワや鍬など、人力や家畜に頼る農具を使うしかない。

 だが、ウィンドスタッドで使われている農具は大半が木製か、粗悪な鉄製の農具のみ。

 専門的な鍛冶を担える人材がいないのだ。先に述べた、ウィンドスタッド村の問題点の一つである。

 少し前までは老いた鍛冶師がいたらしいが、一年前に亡くなってしまったとのこと。

 なので、健人がやることは、必要な農具を作ること……なのだが。

 

(なんでソフィが朝っぱらから鍛冶場にいるんだ?)

 

「んふ、ふふふ……!」

 

 にこにこ、にこにこ。笑顔の視線が背中に刺さる。

 健人がむずがゆさから振り返れば、義妹が笑みをこぼしながら健人を見つめていた。

 いったい、こんな早朝から鍛冶場で何をしているのか。

 

『ソフィ、村の様子を見にいかなくていいのか?』

 

「はい、今日は兄さんのお手伝いをするって決めていましたので。なので、何でもおっしゃって下さい!」

 

 丁寧な言葉使いでありながら元気いっぱいの返事に、健人は気恥ずかしさを覚えて頬を掻く。

 

(でもな~~。俺、声が出ないから、その場に合わせた細かい指示とかできないんだけど……)

 

 やる気いっぱいのソフィには申し訳なく思いつつも、すぐに上手い手段が思いつくわけでもない。

 仕方なく、健人は脳裏にこれから作る道具の設計図を思い浮かべながら、作業を開始した。

 とにかく量が必要なので、金具の部分のみを作り、柄などは村民たち各々で作ってもらう予定だ。

 まずは鉄の鉱石と鋼玉の鉱石を溶かして混ぜ、鋼鉄を作る。

 鋼鉄はシンプルでありながら強度が純粋な鉄よりもあり、地球でも昔から使われている素材だ。

 一方で、混合物の微妙な比率の違いで硬さや粘りが変化するため、作成する品に適した割合を見極めるには、かなりの知識や経験が必要となる。

 村で粗悪な鉄製品が多いのは、このあたりの見極めが素人ではできないからだ。

 

(鉄は含有する炭素や合わせる金属の比率、焼き入れの温度や冷却工程など、様々な要因で特性を変化させる。鍛冶の技を鍛え直すのにはちょうどいい)

 

『鍛冶の技術とは、金属を自在に操る業である』と考えれば、これほど手に入れやすく、そして教材にふさわしい金属はない。

 また健人自身、鍛冶の技を磨きなおすには都合がよかった。

 スコール村で鍛冶を学んでからそれなりに時間が経っているが、必死に学んだ技術は錆びつくことなく、要望に応えてくれている。

 

(よし、このくらいだな)

 

「はい兄さん、型枠です」

 

(あ、うん……)

 

 溶けてドロドロになった素材に石灰などを混ぜて不純物を除去し、ソフィが持ってきた型枠に入れていく。

 型枠は粘土製。村人たちが元々自分達で何とか作ろうとしていたものを提供してもらい、健人が微調整した品だ。

 しかし、なぜ型枠に入れるタイミングが分かったのだろう。

 義妹の察しの良さに驚きつつ、健人は型枠を注ぎ、冷えるまでしばし待つ。

 

(炉が冷えないように燃料追加しておこうか……)

 

「兄さん、炉が冷えるといけないので、炭を追加しておきますね」

 

(あ、うん……)

 

 さらに、健人が燃料の追加を考えたところで、ソフィが炭を持ってきた。

 これまた妙に手が速く、適切なタイミング。健人から向けられる視線に、ソフィは穏やかに微笑む。

 

「兄さんが鍛冶をしているところは、よく見ていましたから」

 

(そういえば、そうだった……)

 

 このウィンドスタット邸を作るとき、健人は釘やヒンジなどを作っていた。

 その時の様子を、ソフィはよく覚えていたのだろう。

 

(とりあえず、型枠に注いだ素材が冷えるまでに、次の品を作る準備をしておくか)

 

『ソフィ、これから武具を作るけど、鉄より重めの素材ってある?』

 

 健人の問いかけにソフィは少しの間考え込むと、倉庫の奥から木枠箱を持ってきた。

 中には、濃緑色のインゴットが数本入っている。

 

「これならどうでしょう。偶々手に入ったのですが……」

 

 ソフィが持ってきたのは、オリハルコンのインゴット。二年ほど前に、商人との取引の中で手に入れた品らしい。扱える人がおらず、倉庫の奥に眠っていたとのこと。

 

『ありがとう』

 

 炉にインゴットを入れて熱し、薄く延ばす。そして水に入れて急冷した後、細かく割る。

 そして断面の光沢から、それぞれの破片を刃材用と心材用に選別し、脇にまとめておく。これらは新しく作るブレイズソード用の素材である。

 

「兄さん、型枠の方も冷めてきたみたいです」

 

(あ、じゃあ、そっちをやっちゃうか)

 

 そうこうしている間に、型枠の熱も冷めてきた。

 型枠から素材を外したら、再加熱しながら槌で打ち、さらに不純物を除去しながら形を整えていく。

 この際も、混ぜた金属と炭素の比率を意識しながら、適切な個所を打っていく。

 本来なら、試行錯誤を重ねて身に着ける目付け。それを、健人は驚くほどの精度で身に着けていた。

 その辺りの見極めは、ソルスセイムでの経験や、ミラークが持っていた記憶、ブレイズの書物から得た知識が糧になっている。

 ミラークの知識は魔法に偏りがあったが、それでも彼が数千年間貯め込んだ知識は膨大だ。健人自身も、正直把握しきれていない部分が多い。

 そしてエズバーンが持ってきたブレイズの知識には、当然のごとく、彼らが使ってきた鍛造技術についての記載があった。

 知識があれば、実践の効率は劇的に跳ね上がる。無知の暗い霧中を迷わずに済むからだ。

 また、振るわれる槌も正確だ。

 こちらはスコール村の鍛冶師、バルドールから受けた師事と、デルフィンの鍛練が礎になっている。

 スコール村で健人は初めて鍛冶を学び、そこでバルドールが種々様々な金属を扱う様子を観察し、そして実際に打ってきた。鍛冶の基礎を学んだのもこの時である。

 そしてデルフィンが健人に仕込んだのは、「自分自身の体を思い通りに、正確に動かす」というもの。

 元々戦いの素人であった健人をそれなりに使える戦力にするためであったが、そもそも、『思考と肉体の動きの合一』など、普通の人間に教えることなど不可能だ。

 無論、健人自身の努力はあれど、それを教えられるほどブレイズの技に精通し、己の中で咀嚼しきったデルフィンが、どれだけ凄かったのか。

 彼女が剣と隠形の巧者というだけでなく、唯一無二の優れた教師でもあったということを、改めて健人は意識していた。

 

(本当に、ありがたい限りだ……)

 

 同時に、そんな彼らの助力に、感謝の念がこみ上げる。

 確かに健人はシャウトを無くした。しかし、彼が厳しいこの世界でもまれ、身に着けてきた“もの”は確かに活きていた。

 そして、槌を振るい続けること数時間。健人はようやく腕を下した。

 脇の作業台には、できたばかりの農具が並んでいる。

 

「いい出来ですね。さすが兄さんです」

 

 まだ熱を持つそれを見て、ソフィはうれしそうな声を上げる。どうやら、満足してくれているらしい。

 

(ありがと。とはいえ、実際に使う人の意見も聞きたいところだよな……)

 

 手は抜かなかったが、それでも人によって使い勝手は異なる。

 健人としては、使う人それぞれで微調整は多少必要だろうと考えていた。

 とりあえず、出来た農具は運びやすいように、近くの荷車に積んでおく。

 

(さて、それじゃあ、炉と火床が冷めきらないうちにもう一つの方を打っておこう)

 

 ある程度カンが戻ったところで、本番の準備をする。

 これから作るのは、新しい刀と盾だ。

 今度は型枠を使わない。とにかく強度を高くするため、すべての工程を鍛造で行う。

 

「炭、また追加しておきますね」

 

 ソフィが三度炭を入れた。送風機で風を送り、一気に炉の温度を上げる。

 まず一纏めにしていた刃材と心材の内、刃材の方を投入。素材が十分熱されたところで火床から取り出し、慎重にハンマーで打つ。

 形を整え、折り返し、そして熱して伸ばし、再び折り返す。

 刃材が出来たら次は心材だ。心材用のオリハルコンの破片にわずかに鉄の粉末を混ぜ、刃材と同じように熱して一つの塊にし、オリハルコンの合金を作る。鉄を混ぜることでさらに粘りを出し、強度を上げるのだ。

 こちらも折り返して形を整えたら、あらかじめ作っていた刃材にはめ込み、叩きながら伸ばして形を整える。

 最後に焼き入れ。

 再度刀を熱し、刀身の色が鈍い紅から白い光を全体から放ち始めたところで、スカイリムの冷水に一気につける。

 ジュ~~~~! と水が一気に気化し、刀身から熱を奪う。

 急激な冷却の中で刃材は硬質化し、一方で心材はゆっくりと冷やされ、刀身全体がしなやかな曲線を描いていく。

 やがて水が発していた音が消えると、健人はゆっくりと刀身を引き上げる。

 刃渡りとしては70センチ強。健人が以前使っていた愛刀『血髄の魔刀』と同じ長さである。

 

(いい出来だ。重さも悪くない。切れ味はどうかな?)

 

 砥石で軽く刃を入れ、近くに置いてあった薪を放り投げて一閃。

 カン! と小気味よい音を立てて、薪は真っ二つになった。

 

(……ちょっと鈍いか? それでも、十分実用的な範囲内)

 

 二つに分かれて落ちた薪の断面を確認しつつ、健人は頷く。

 オリハルコンはオークが好んで使う素材であるが、比重が重く、メイスや両手斧など、重量のある武器に使用されることが多い。

 健人が碧水晶やエルフの合金ではなく、オリハルコンを使ったのは、以前使っていた愛刀に感覚を寄せるためだ。

 

「やっぱり、兄さんの鍛冶の腕は相当なものですね。この三年間、村の人達が作ってきた品を見てきましたし、商人が運んできたソリチュードや帝国の剣も見ましたが、兄さんには遠く及びません」

 

(そうか?)

 

 脇からオリハルコンのブレイズソードを覗き込んできたソフィが呟く。

 一方の健人は、ソフィの言葉に軽く首を傾げる程度の薄い反応。

 彼自身、他の鍛冶師と自分の腕を比較したことがないので、正直よく分からない。

 比較できるのは、鍛冶を教えてくれたスコール村の鍛冶師、バルドール・アイアンシェイパーか、スカイフォージを取り仕切るエオルンド・グレイメーンくらいであり、彼らから見れば自分はまだまだだと言う印象を持っており、これは純然たる事実である。

 

(血髄の魔刀を直せたら良かったんだけどな)

 

 健人が視線を横に滑らせる。

 先ほどまで鉄を溶かしていた炉の傍。小さな木台の上には小ぶりな袋と、半ばから砕かれた元愛刀が、むき出しの刀身をさらしたまま、寂しげに置かれていた。

 

(そもそも、黒檀のブレイズソードすら満足に作れない現状、無理なんだが)

 

 血髄の魔刀の基本素材である黒檀は、かなり特殊な金属だ。

 合金にすることは難しく、鉄などと混ぜると、強度が著しく落ちてしまう。

 これを解決するには、黒檀と同質でありながら異質な存在と言われるスタルリムが必要になる。だが、生憎とそのスタルリムがない。

 手に入れるには、ソルスセイムに行く必要がある。

 

「兄さん。あの剣、直したいですか?」

 

(そうだね。でもスタルリムはおろか、黒檀自体がないからな……)

 

 曖昧な笑みを返し、健人は折れた魔刀を手に取った。

 断面には幾重にも折り返された金属層が顔を覗かせ、施された付呪は完全に喪失している。

 ソルスセイムを出てから、何度も激戦を耐えてきた相棒の悲惨な姿に、思わず小さく唇を噛む。

 

(落ち込んでいても仕方ない。色々と新しい試作品も作ってみたから、こっちも使い勝手を確かめないとな)

 

 健人は気持ちを切り替えると、今度は血髄の魔刀を置き、傍に置かれた小袋に目を落とす。

 こちらもまた、彼が今後必要と思って作成した“もの”が入っている。

 中身は五本の杖と、十本ほどの銀の針。杖の方は小杖と呼んだ方がよく、羽根ペンより短い簡素な木杖だ。

 込めた魔法は回復魔法が二本、変性、幻惑、召喚魔法を込めた杖が一本ずつである。

 

(杖は使うのもの作るのも久しぶりだ。きちんと使えるといいけど……)

 

 健人自身、杖の作成方法自体は知っていた。ソルスセイムに住んでいるダークエルフ、ネロスから学んだからだ。

 タムリエルに戻れなかった当時、健人はかのテルヴァンニ家のマスターウィザードに色々と頼まれ、ソルスセイムを走り回っていた時期がある。その礼として、付呪の知識を学んでいたが、その際に杖の作成法についても勉強していたのだ。

 とはいえ、今まではシャウトが使えたこともあり、杖を使用する機会も作る機会もなかった。

 健人は試しとばかりに、幻惑魔法を込めた杖を取り、込めた魔法を発動させてみる。

 鎮静の幻惑魔法。杖の先にマジカが収束。淡い光を放つ。

 だがその光は、通常数秒で四散してしまった。

 

(……う~~ん、だめか。他の杖も同様。やっぱり専用の付呪器で作らなかったからか?)

 

 健人が杖の付呪を学んだ時は、ネロスの工房に置いてあった専用の付呪器を使った。

 しかし、ここに杖の付呪器はない。

 仕方なく、アルケイン付呪器で代用したのだが、上手くいかなかったようだ。

 他の杖も同様。数秒で魔法が散ってしまう。

 

(仕方ない、次だ)

 

 健人は次に、杖の脇に置かれた銀針に目を向ける。

 長さとしては十センチほど。太さもそこそこある。外見的なイメージとしては畳針とか、棒手裏剣が最も近いだろう。

 こちらも小杖と同様、淡い光を帯びており、何らかの付呪が施されていることが窺えた。

 

(ソリーヌさんの付呪ボルトを見て思いついたから作ってみたけど……)

 

 健人が作った銀針は、ソリーヌが使っていた爆発ショックボルトを参考に作った、投擲用の小剣だ。

 一度で込めた魂力を使い果たす代わりに、爆発力を可能な限り強化してある。

 炎、冷気、雷属性それぞれ三本ずつで、合計12本。

 その内一本。氷の付呪が施された投剣を、鍜治場の傍に岩に投げつける。

 着弾の瞬間、はじけるような音と共に、周囲三十センチほどが凍り付く。

 

(よかった、こっちは使えそうだな)

 

 想定通りの機能が発揮したことに、ホッと安堵の息を漏らす。

 健人は残った小剣を、あらかじめ剣帯に施しておいた溝に差し込む。

 魔法が使えない今の彼にとって、貴重な遠距離攻撃手段となってくれるだろう。外見がなんとなく、西部劇に出てくるガンマンのような感じになったのに、思わず苦笑が漏れる。

 

(とはいえ、この程度であの吸血鬼達に勝てるかといわれると……)

 

 正直、難しい。

 ヴォルキハルの吸血鬼達は誰も彼もが数百年クラスの怪物だ。幹部クラスに至っては千年を優に超える年月を生きている。当然、その能力もその歳月に見合うもの。

 少なくとも、ヴォルキハルの最高戦力であるフーラ・ブラッドマウスには間違いなく通用しない。

 ハルコンに至っては絶無だ。傷一つ与えることすらできないだろう。

 健人自身が、数多の強敵たちと戦ってきたからこそ分かる。

 胸がギュッと締め付けられ、腹の中に毒を孕んだ百足が這い回るような気持ち悪さがこみあげる。

 心身を蝕んでくる焦りと不安を落ち着けるように、静かに深呼吸を繰り返す。

 

(今は悩んでも仕方ない。とにかく、できることをしよう)

 

 再度気持ちを切り替え、オリハルコンのブレイズソードを鞘に納めると、再び槌を手に取った。

 次に作るのは盾。扱いやすさを重視した、軽量なエルフの合金を使った盾だ。

 当然、健人が以前使っていた竜鱗の盾に合わせた大きさになっている。

 

(あとは、鎧の修理っと……)

 

 こちらは先の二つに比べて、ずっと簡単だ。砕けた金属板を熱して溶かし、再度板状に整えたら、破けた部分を縫い直して差し込むだけ。

 普段行っていた鎧のメンテナンスとさほど大差はない。

 

(そういえば、セラーナさんも今日から仕事だったな。何事もなければいいけど……)

 

 吸血鬼達の脅威への不安を払しょくするように、一心不乱に手を動かす。

 しかし、その作業も小一時間ほどで終わってしまった。

 ふと脳裏にセラーナの姿が思い浮かび、視線が村の方へと向かう。

 彼女も、今日から医者として仕事を始めている。

 元々『蒼の艶百合』でも娼婦たちの体調管理をしていたから、腕に関しては問題ないだろうが、抱えているものが“モノ”なだけに、心配になってしまう。

 

(……な~~に保護者目線になってんだ、と言われれば、そうだけどな)

 

 余計な心配、と言われればそうだろう。

 彼女は(大半の間封印されていたが)数千年を生きた吸血鬼だ。

 少なくとも、この世界の在り方はよく心得ている。

 

(とはいえ、なんか気になっちゃうんだよな……)

 

「に、兄さん……」

 

(あっ)

 

 ぼーっと思考の底に沈んでいた健人だったが、背中から聞こえてきた義妹の声に、はっと我に返った。

 振り返れば、額に皺を寄せ、ギュッと胸元を握りしめた義妹の姿。

 

(ごめん、ほったらかしになっちゃってたな……ん?)

 

 よく見ると、赤みを帯びた頬に黒ずんだ汚れがついている。

 鍛冶場にいたのだから無理もないが、美少女に成長したソフィが土方の仕事で顔を汚している様は、健人としては何となく微笑ましい。

 とはいえ、年頃の女の子が小汚い姿でいるのはよくないだろう。

 

(ええっと、確かハンカチがあったはずだよな……)

 

 持っていた血髄の魔刀を置き、健人は先ほどの不安や焦りも忘れ、ポケットから取り出したハンカチでソフィの頬についた汚れをぬぐい始める。

 するとソフィは、なぜか驚いた声を漏らし、体を硬直させた。

 

「ふえ!」

 

(ん?)

 

 健人は一体どうしたのかと思いつつも、かまわず彼女の顔に着いた汚れを吹いていく。

 ムニムニと柔らかいもちのような感触が手ぬぐい越しに返ってくる度に、ソフィはフルフルと震わせる。

 瞳にもじんわりと涙が浮かんできていた。そこに来て、健人はようやく自分の過ちに気づく。

 

(しまった、年頃の妹にすることじゃなかったか!)

 

 自分の失敗を悟りつつも、今更手を止めるわけにもいかない。

 とりあえず、手早く汚れをふき取り終えると、慌てて黒板に白墨を走らせてソフィの前に掲げる。

 

『ごめん。不躾だったな』

 

「ふわぁ……い、いいえ! 大丈夫です! 全然気にしていません! むしろ、できるならもっと……」

 

(はい?)

 

「な、なんでもありません兄さん! わ、私、出来た農具を村の皆さんに届けてきますね!」

 

(え? ちょっと!)

 

 涙目だったソフィがバッと跳ねるように後ろに跳び、そのまま荷車をひっつかんで村の方へと駆け出してしまった。まるで悍馬のように土煙を上げて消えていく。

 

(あちゃ~~。嫌な思いさせちゃったかな~~)

 

「……何をしていますの?」

 

(あ、セラーナさん……)

 

 一瞬のうちにいなくなってしまった義妹に、茫然としてる健人に、別の女性の声がかけられた。

 それは村の方で仕事をしているはずセラーナだった。彼女は二つのコップとポット、そして小皿を乗せたトレーを持ち、眼帯越しに呆れた視線を健人に向けていた。

 

 




いかがだったでしょうか?
ちょっと長くなったので分割しました。しばらくはウィンドスタッド村での描写が続きます。
以下、用語説明

オリハルコンのブレイズソード
壊れたブレイズソードの代わりに健人が作った品。
ブレイズの知識による補完により、質が上昇している。

エルフの盾
失われた盾の代わりに作成した品。
此方は取り回しを考えて軽さを重視している。

投擲用小剣
棒手裏剣を思わせる形状の小剣。炎、氷、雷の付呪が施されており、それぞれ三本のストックがある。
一度の攻撃で込めた魂力すべてを使う代わりに、威力を引き上げており、ソリーヌの爆発ボルトを見た健人が作成した品。

小杖
此方も吸血鬼用に健人が用意した杖だが、杖専用の付呪器がなく、代わりにアルケイン付呪器で代用して作成したため、失敗作となってしまった。
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