【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第五話 残されていた遺物

 エズバーンと再開してから数日後、健人達はウィンドスタッド村北北東の海岸を訪れていた。

 一緒に来たのは、セラーナ、ソフィ、カシトの四人。

 これだけしか同行者がいないのは、エズバーンからできるだけ少人数で来てくれと頼まれたからである。

 元々サルモールに追われる身である老人の状況を考えたら、当然でもあった。

 

「来たか……。こっちだ」

 

 先に来ていたエズバーンは健人達の姿を確かめると、砂浜の端にある岩場へと案内する。

 ちょうど岩の陰。砂浜からは見えない死角へと入っていく。

 エズバーンを追って岩陰へと入ると、健人達の目に、石造りの奇妙な灯標が飛び込んでくる。

 魔法が使われている品特有のアルケインの青白い炎を揺らめかせた、大きなランタン。

 高さは人の背丈ほどで、なんとなく地球の東洋で用いられていた灯篭を思わせる造形をしていた。

 

『これは何ですか?』

 

「これは、一種のポータルを生み出す装置だ」

 

「ポータル?」

 

「体験してもらった方が早いだろう。触れてみてくれ」

 

 エズバーンの言葉にソフィとカシトが疑問の声を漏らす中、エズバーンは軽く手を挙げて健人を促す。

 若干心配になりつつも、健人はアルケインの炎が揺らめく灯篭に手を伸ばした。

 指が触れた瞬間、アルケインの炎が揺らめき、健人の視界が一瞬暗闇に包まれたかと思うと、眩い星々が映りこんでくる。

 同時に全身を包む浮遊感。続いて、暗闇に星が星座を結び、はじけるような閃光を放つ。

 視界を包む白一色の光景。やがて光が収まると、健人の目の前には岩壁に囲まれた洞窟と、石造りの門が飛び込んできた。

 洞窟の天井は開いており、差し込んだ早朝の太陽光が洞窟内を照らしている。

 門の前には五重の円を模した飾りが施されており、これも何らかの装置であることがうかがえた。

 傍には、ウィンドスタッドの海岸にあったものと同じアルケインの灯篭。

 

(ここは……)

 

 健人があたりを見渡していると、灯篭の傍に白い光が集まり始めた。

 その数は4つ。やがて光は大きくなり、中から四人の人影が現れる。エズバーンとセラーナ達だ。

 

「え? なに? 何が起きたんですか?」

 

「ここどこ? 見たところどこかの洞窟みたいだけど」

 

「転移装置の一種ですか。この時代にも残っておりましたのね」

 

 ソフィとカシトが当惑した様子を見せる中、セラーナだけはこのアルケインの灯篭がどのような魔法装置であるかを理解していた。

 

(こんなものもあるんだな……)

 

 ほえ~~、と呆けるソフィとカシトの様子を眺めながら、健人もまた、内心感嘆の声を漏らす。

 転移装置などは、日本でも映画やアニメ、その手の創作物でよく語られていたものである。しかし、実際に体験するとなると話は別だ。

 異なる場所に跳ぶという経験は、健人自身もあまりない。

 ソルスセイムでアポクリファへ、スカイヘブン聖堂でソブンガルデへ行った時くらいだ。

 

「ご老人、ここはどこですの?」

 

「リーチだ。そしてその門の先がスカイヘブン聖堂。見せたいものというのは、聖堂の中にある」

 

 石造りの門の先を指さすと、エズバーンは台座の傍に用意されていた松明を手に、門の方へと歩みだす。

 健人達も松明を手に取り、火をつけて後に続いた。

 老人を先導に門をくぐり、石の階段を上っていく。階段の側面には、多種多様な浮彫りの装飾が施されており、この場所がブレイズ達にとってとても重要な場所であることを示していた。

 

「それは古代アカヴィリの浅浮彫。この寺院が建てられた第二帝国の頃のものだ」

 

 アカヴィリ。

 タムリエル大陸の東側にある大陸であり、ここに住む蛇人たちは第一期2702年から2703年頃にタムリエル大陸に侵攻した。

 突如として大陸に攻め入った蛇人たちであるが、レマン・シロディールがドラゴンボーンであることを知ると突如として降伏する。

 後に蛇人たちは第二帝国を作り上げたレマン・シロディールに仕え、発展に大きく寄与。以降第二期の混迷期まで、この大陸で様々な足跡を残すことになる。

 そして、彼らが皇帝護衛のために作り上げた組織がブレイズの前身、ドラゴンガードである。

 時代的には、第四期よりも千年以上前の事。このスカイヘブン聖堂も、それだけの年月を経ているはずだが、健人の目には壁面の浮彫りの質は、千年を経ているとは思えないほど状態がいいように見える。

 エズバーンの話では、蛇人はタムリエルとは異なる優れた魔法と技術を持ち、長寿であったとのこと。

そうこうしている内に階段は終わり、大きな広間へと出た。

 

「ようこそ、スカイヘブン聖堂へ」

 

 歓迎するよう両手を広げながら、エズバーンは得意げな表情を浮かべる。

 初めて見たスカイヘブン聖堂は、確かに、この老人が自慢するほど荘厳な聖堂だった。

 長い年月を経た壁面にはアカヴィリ特有の東洋を模わせる精巧な文様が彫られ、それは数十メートルの天井まで続いている。

 広間の中央にはこれまた巨大な石の大卓が置かれ、十数人がまとまって会議を行えるようなになっていた。

 だが、何より健人の目を惹いたのは、大卓の後ろに描かれた壁画だった。

 

(あれは……)

 

「気になるかね?」

 

 横は十五メートル、縦は三メートルほどだろうか。

 この広間の中でひときわ大きく、かつ精緻な彫刻が施された壁画。そこに刻まれた巨大なドラゴンの姿が彫り込まれている。

 

「これはアルドゥインの壁だ。太古の竜たちによる暴政と人間たちの反乱、アルドゥインの封印と復活。そして最後のドラゴンボーンによってアルドゥインが討たれるという、古代アカヴィリの予言を記したもの」

 

 世界の8番目の地方が無秩序になった時

 真鍮の塔が歩き、時代が再構築される時

 3回目の祝福が失敗に終わり、紅の塔が揺れ動く時

 ドラゴンボーンの支配者が失脚し、白い塔が崩れる時

 雪の塔が崩れ落ち、王も存在せず、血が流れる時

 世界を喰らう者は目を覚まし、運命は最後のドラゴンボーンへと向かう

 

 エズバーンがそらんじるアルドゥインの予言に、その場にいた者達の視線が健人へと向く。

 

「もっとも、この予言は現実とは少々異なるものとなったが……」

 

 確かに世は乱れ、アルドゥインは復活した。

 しかし、運命は最後のドラゴンボーンではなく、一人の異端者へと収束することになった。

 結果、世界は一度食い尽くされるも、異端のドラゴンボーンが行使した“創造”によって再構成され、救われることとなる。

 アルドゥインの最後を思い出し、健人は何とも言えない表情を浮かべた。

 かつて、夜明けの時代よりもはるか昔、世界が混沌に包まれていた頃に犯した罪。それを思い出し、この世界と同族が背負った罪科を濯ごうとした竜王。

 たとえその行動は世界を滅ぼすものだったとしても、根底にあったのは慈悲と贖罪だった。なにせ彼は、どのような結果であれ、自身の消滅を覚悟したうえで世界を食い尽くしたのだから。

 自分以外の全てを見下し、世界を恐怖と畏怖、そして圧倒的な力で支配しようとした竜とは思えない理由である。

 スゥームを通して知り、理解してしまったからこそ抱くもの悲しさ。

 そんな健人の雰囲気に、ソフィたちは声をかけることに戸惑いを浮かべる。

 しばらく寂寥に沈んでいた健人だが、他の面々の様子に気づくと苦笑を浮かべ、エズバーンに話を促す。

 

『それで、何を見せてくれるんですか?』

 

「あ、ああ。まずはこれだ」

 

 エズバーンが取り出したのは、奇妙な仕掛けが施されたクロスボウだった。

 外観はドーンガードが使っていたものとほとんど変わらない。レバーを引くことでボルトを発射する、一般的な弩だ。

 ただ、持ち手の部分に奇妙な仕掛けがある。

 何かを巻き取るような装置と、円形の滑車とリール。よく見ると、細めのロープがリールにまかれ、一端が装填されているボルトの尾部に取り付けられている。

 

(この構造……もしかして)

 

「グラップリングボウ。古代のドラゴンガードが、ドラゴン討伐の際に使用していた道具だ。これで、あそこに設置している杭を撃ってみてくれ」

 

 エズバーンが指さしたのは、広間の端に一本だけ立てられている木杭だった。

 大きさはソフィと同じくらいと、かなり大きめ。距離は二十メートルほど。

 ブレイズの老人が促すまま、健人はその木杭に狙いを定め、引き金を引いた。固定されていた鉄製の板バネが開放され、ボルトが勢いよく飛び出す。

 飛翔したボルトは木杭に命中。直後、強烈な力で健人が持っているクロスボウを引っ張り始めた。

 

(やっぱりか!)

 

 健人は慌ててクロスボウの持ち手を両手で掴み直す。その瞬間、彼の体は飛ぶように木杭めがけて引っ張られた。

 わずか数秒で迫る木杭。健人はとっさに激突しないよう身をひるがえし、両足を地面に叩きつける。地面を削るように滑りながらも、勢いは木杭の手前で止まり彼はホッと息を吐いた。

 

「これはスゥームを持たなかったドラゴンガードが、ドラゴンと戦うために使っていたらしい。見ての通り、人ひとりなら軽く引っ張ることが可能だ」

 

「へえ、便利そうじゃん!」

 

 珍しい物に目がなさそうなカシトが、目をキラキラさせる。隣にいるソフィも、このようなものが珍しいのか、好奇心に満ちた目をドラゴンガードのクロスボウに向けていた。

 確かに、ボルトが突き刺さるものを見つけられれば、機動力を大幅に上げてくれるだろう。

 ドラゴン退治用らしいが、吸血鬼相手にも何か使えるかもしれない。

 

(ただ、少し大きい。携帯するには不向きだな)

 

 難点を挙げるなら、健人が使うには少し大きすぎること。

 彼は元々、軽戦士だ。それに、今の敵は膂力にも魔力にも優れた吸血鬼。動きの邪魔になるものは、極力避けたいのが本音だ。

 とはいえ、健人もこのドラゴンガードのクロスボウには興味が出てきていた。

 なにせ、人ひとりを軽く巻き上げることができるのだ。色々な場面で応用できそうである。

 

(使われているボルトは鉄製、ロープも植物性のものだ。伸びたロープを巻き取る滑車は……ゼンマイに似ているな。一定の長さまで進出したら、自動的に巻き取る機構か)

 

 健人は木杭に突き刺さったボルトを回収すると、仲間たちの元に戻りながら、手の中のクロスボウの構造を改めて確かめていく。

 そんな健人の様子にエズバーンは嬉しそうな苦笑を浮かべながら、少し席を離れ、広間の端にある筆記台へと行くと、複数の羊皮紙を持ってきた。

 

「これがそのグラップリングボウの設計図だ」

 

 エズバーンが持ってた羊皮紙には、健人が持つグラップリングボウの全体図と、各部品の詳細が書かれていた。

 

(構成している部品のほとんどは鋼鉄製か。リールを巻くバネもだ。上手くいけば、小型化できるかも……)

 

『貰っていいんですか?』

 

「ああ、元々君のために写しておいたものだ。それからこっちに来てくれ」

 

「まだ何かあるんですの?」

 

「ああ。むしろ、此方の方が本命だ」

 

 まだ何かあるらしいエズバーンは、一度聖堂の奥へと消えると、何かを持って戻ってくる。

 大人が一抱えするほどの大きなもの。一見すると、篝火の台座に見えた。

形は小さいが、なんとなくここに来るときに使用していたポータル装置にも似ている。

 台座の中央には石の器が置かれ、中は琥珀色の液体に満たされている。

 台座には見たことのない奇妙な文様が刻まれているが、健人がこの地に来てからよく見ていた、古代ノルドのものとは明らかに異なる。

 だが、エルフ由来の魔法系統とも違う。

 また、満たされている琥珀色の液体からは、甘い香りが漂っていた。

 さらに器の中央には真鍮色をした六本の金具がはめ込まれ、その頂部には青白い水晶が置かれている。

 

「これは、ヒストの樹液ですわね。刻まれている文様も、アルゴニアンによく見られる様式ですわね」

 

(アルゴニアンの魔法?)

 

「彼らの魔法は、エルフ由来の魔法とはかなり様相が異なります。アルゴニアン達はヒストと呼ばれる巨大樹木や、その地に生きる植物と繋がることで、摩訶不思議な現象を生み出します。特に記憶や魂については、普通の魔法では考えられない現象を引き起こしますわ」

 

 セラーナの説明では、アルゴニアンは“変化”を受け入れることにはとても柔軟で、生も死も彼らにとっては等しく同じものだと……。

 しかし同時に、彼女は「ですが……」という言葉も続ける。

 

「一方で、水晶を支えている部材に使われている技術はアルゴニアンのものではありませんわね。この形はドワーフのものですわ」

 

「そうだ。これは太古のドラゴンガードが、アルゴニアンとドワーフの技術を組み合わせて残したものだ。何が目的で、どういう理由で残したのかは知らないかもわからない。水晶はウェルキンド石に似ているが、その実、まったくの不明のものだ。ハイエルフ由来の元とは思われるのだが……」

 

 セラーナの分析に頷くエズバーンが、説明を引き継ぐ。

 

「この装置は、聖堂の奥。厳重に隠された小部屋にあった。よほど重要なものだったのだろう。小部屋の中に残されていた物や記録の中に、ドラゴンガードの中興の祖、サイサハーンの名前があった」

 

 サイサハーン。健人達は聞いたことのない名である。

 

「サイサハーンはレッドガードの優れた戦士だった。第二帝国が崩壊した混乱時、壊滅状態だったドラゴンガードを再結集し、エルスウェアで暴れていたドラゴンを討滅した。サイサハーン直筆と思われる署名もあったことから、おそらく彼自身が残した物だろう。その記録によると、この魔法装置は水晶に刻まれた人物を再現するものらしい」

 

「人物の再現? 一種の投影装置ですの?」

 

「そうだが、私達が知る物の中でも、かなり異質であり、かつ高度なものだ」

 

 通常、この手の投影装置は、幻影により、媒体に記録されていた記憶を再生する。

 しかしエズバーンの話では、この魔法装置は幻影というよりも、召喚魔法に近いらしい。

 

「この装置で出力された人物は、現世の物質にも干渉できる。また、その人物の戦闘技術や思考も再現される。もしかしたら古代のドラゴンガード達は、訓練にこの魔法装置を使っていたのかもしれんな」

 

 現実にすら干渉可能な投影装置。

 さらに思考すら再現されるとなれば、限りなく個人を復活させることに等しいだろう。

 いったい、どうやってこれを作ったのか。

 そもそもこの投影装置、見たところ、ドワーフとアルゴニアン、さらにハイエルフと、異なる三つの技術が使用されている。

 古今東西、このような品は極めて異例だ。歴史的にも技術的にも、相当な価値になるだろう。

 

「どうやって使うの?」

 

 健人達が眼前の魔法装置の価値を察して言葉を失う中、好奇心旺盛なカシトが、ふんふんと鼻を鳴らしながら台座に近づく。

 

「器に満たされた樹液に火をつければいい」

 

「そうなんだ~~。えい」

 

 エズバーンの説明を聞いている中、突然カシトが持っていた松明を魔法装置の中に放り込んだ。

 

「ちょっと、カシトさん!?」

 

(おまえ、いきなり何やってんだ!)

 

「え? マズかった?」

 

 カシトの奇行にソフィが甲高い声を上げ、健人が慌てて止めに入るも、松明の火はあっという間に樹液に引火し、燃え上がる。

 

「もし不具合があったらどうするつもりでしたの? いきなり爆発したり、突然氷漬けになったり、大量のチーズに埋もれたりしてもおかしくありませんのよ?」

 

「チーズだったら、オイラ大歓迎……」

 

(そういう問題じゃないだろ!)

 

 こめかみを押さえたセラーナに呆れるも、肝心のカシトは頓珍漢なセリフを吐く始末。

 健人は思わずフサフサで狭いカシトの額をパン! と叩き、すぐさま魔法装置から引き離す。

 

「大丈夫だ。予め確認したが、壊れているわけではなさそうだった。問題なのは、再生される人物と戦う者が必要ということだな」

 

(……はい?)

 

「待ってください。なんでいきなり戦うことになるのですか?」

 

「訓練用と言っただろう? この装置で再生された人物は、樹液に火をつけた者を襲うようになっている」

 

 周囲の視線が、一斉に元凶であるカシトに向かう。

 いつの間にか迫っていた危機を感じ取ったのか、彼の髭と尾がピンと立ち、毛がぞわぞわと逆立ち始める。

 

「え? どういうこと!?」

 

「元々は、訓練生に過去の達人と戦わせ、その技術を習得するために使用されていたのだろう。当然、記録されているのは古の強者だ。第二期の混迷期。魔法技術も今よりも多彩で発達していた頃のドラゴンガードの中でも、随一の使い手。エルスウェアで、シャウトも使わずドラゴンと戦っていた人物だ」

 

「そう言うことは先に言ってよ!」

 

「言う前に君が火をつけたのだろう?」

 

 続くエズバーンの絶望的な言葉に、カシトは思わず大声を上げた。

 逆立っていた毛がいよいよ全身に及び、まるで束子のようになっている。

 健人達もまた、エズバーンの話に思わず天を仰いだ。

 再生される人物はどのような戦い方をするのかは不明ではあるが、シャウトも使わずドラゴンと戦っていたとなると、間違いなく生半可な相手ではない。

 そうこうしている間にも、事態は刻一刻とカシトにとって絶望的な方向へと進んでいく。

 燃え上がった樹液が煙となり、装置全体を包み込む。

 続いて、水晶がアルケイン特有の青白い光と共に輝き始めた。

 水晶を支える部材が、共鳴し合う音叉のように鳴り響く。

 

「ケント、助けて!」

 

(ああ、もう!)

 

 警告音を思わせる共鳴音の連鎖の中、やむを得ず、健人は得物を抜いて構えた。

 真新しいオリハルコンの刃がアルケインの光を鈍く照り返す。

 腰を落とし、煙の奥で繰り返される明滅を睨みつける。

 

「まあ、元々ドラゴンボーンの訓練用として用意していたものだから。予定通りといえばそうか。ちなみに、怪我は普通にするから、気を付けるように」

 

「それって、下手をしたら死ぬってこと!?」

 

「可能性は……ゼロではないな。もしかしたらそれが、この装置が封印された理由かもしれん」

 

「ちょっとおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 直後、魔法装置を包む煙から、いくつもの小さい影が勢いよく飛び出してきた。

 狙いは、今現在悲鳴を上げているカシト。

 健人はすぐさま飛んでくる影とカシトの間に割り込み、オリハルコンのブレイズソードを振るって影を弾き飛ばす。正確無比な一太刀と共に、キン、キン!と鳴る甲高い金属音。

 どうやら、跳んできたのは投擲用の小剣らしい。

 石床に落ちた小剣は、すぐにまるで存在しなかったようにかき消える。

 いつの間にか明滅していたアルケイン光は消え、代わりに強烈な戦意が煙の奥から健人に叩きつけられる。

 どうやら、カシトを庇ったことで彼も戦闘対象に加えられたらしい。

 姿は見えない。ただ、背筋に氷柱を突き立てられたような悪寒を覚える。

 

(これは……とんでもない相手だぞ)

 

 全身に走る寒気に、健人は思わずゴクリと息を飲む。

 ハルコンやミラーク、リータのような、全てを押しつぶす威圧感ではない。

 獲物が知らぬ間に忍び寄る蛇のような、冷たさを伴う緊張感。油断すれば、一瞬で命を刈り取られる。そんな予感がひしひしと感じられる。

 

「しかし、そのサイサハーンという方。よくこのような遺物、作って残しましたわね」

 

「なぜ、彼がこれを残したのかはわからない。この聖堂が封印されたのは第一期から第二期初めの事。第二期580年代の混乱期に活躍したサイサハーンがどうやってこれを封印されたスカイヘブン聖堂に隠せたのかは不明だが、何等かの手段でこの聖堂に入り、この装置を残したのだろう」

 

 スカイヘブン聖堂は、レマン・シロディールの血族によって封印されていた。

 しかし、サイサハーンが活躍した混乱期には、すでにレマンの血は絶えている。

 そんな中、どうやってサイサハーンは、スカイヘブン聖堂に入ったのか。

 考えられる方法は、ポータルなどの転移魔法だ。

 第二期の魔法技術は、第四期よりも多彩だった。これは現在と違い、魔術師ギルドが残っていることが理由だ。

 当時の魔術師ギルドの勢力はタムリエル中に広がっており、あらゆる魔法知識が集約されていたのだから。

 エズバーンが考察を重ねている間にも、健人に向けられる戦意は圧を増していき、煙がゆっくりと晴れ始めた。

 そこにいたのは、一人の男性。

 召喚魔法にも似た紫色の体を持ち、両手には赤い光を帯びた大小二本の曲刀を持っている。

 目深くフードをかぶり、全身には革や金属を張りつけた鎧を纏い、明らかに身のこなしも鋭いことが窺える風体だ。

 

(…………)

 

 二刀の相手に対し、健人も落氷涙を抜く。奇しくも、二人は似たような構えを取っていた。

 

「それで、記録されていた人物の名前は?」

 

「サイサハーンの盟友とのことだが、名前はなかった。ただ、こう記録されていたよ」

 

“面影”

 

 直後、紫色の影の姿がぶれ、閃光と共に健人に襲いかかった。

 

 

 

 




と、いうわけでようやくストーリーの続きです。
スカイヘブン聖堂再び。使われた転移装置は今話を最後まで見た人は分かると思いますが、ESO時代で使われていたポータルです。
以下、人物紹介および用語説明

サイ・サハーン
第二期の混乱期に活躍したレッドガードであり、ESOに登場する人物。
皇帝の護衛の一人であり、ドラゴンガードの中興の祖。
転移装置
第二期の混乱期に使用されていた転移装置。
同様の装置間での転移を可能としており、第二期には世界中に存在していた。
しかし、当時から千年経って劣化していたり、魔術師ギルドの閉鎖、世界環境の激変などにより、第二期ほど自在な転移はできなくなっている。

投影装置
エルフ、アルゴニアン、ドワーフの技術を融合して作られた遺物。
本小説オリジナルの装置。
特定の記録を再現する。
ヒストの樹液と台座により水晶の中の記録を読み込み、それを共鳴する音叉で増幅、マジカにより再構築する形式。
ただ再現するだけならこのような複雑な装置は必要なかったが、記録しようとしていた人物が人物だけに、この様式を取らざるを得なかった。

面影
説明不要、ESOの主人公であり、プレイヤーの分身。

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