【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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というわけで、第八話です。
今回はつなぎの回なので、ちょっと軽め?


第八話 追跡と合流

 

 

 エズバーンから聖蚕の僧侶の情報を得た健人達は、モーサルで馬を借り、ドラゴンブリッジへと向かっていた。

 空には晴れてはいるものの、所々に積雲が昇り、曇りそうな雰囲気を醸し出している。

 

(雨になるかもしれないな)

 

「ドラゴンブリッジに着くまでは、降らないで欲しいですわね」

 

 日よけのフードをかぶったセラーナに、健人も同意するように頷く。

 ドラゴンブリッジはハーフィンガルとハイヤルマーチを結ぶ要衝であり、リーチとの境界にも接する重要拠点である。

 常に兵が配置され、ハーフィンガルへ入ってくる者達を監視している場所でもあるが、そこに向かう街道を進んでいる最中、丘の稜線から、黒々とした煙が立ち上っているのが見えた。

 

(あれは……)

 

「野焼きでもしているのかな?」

 

 カシトの疑問に、ソフィが首をかしげる。

 

「春のこの季節に野焼きをするとは考えづらいですが……」

 

「それに野焼きにしては、煙が妙に黒いですわ。草木を燃やしているようではございませんわね」

 

 健人の胸に嫌な予感がよぎった。

 眉を顰めつつ、健人は他に三人に目配せする。彼の憶測を悟ったのか、セラーナ達も頷くと、健人は乗っていた馬の腹を蹴った。

 石づくりの街道を、四頭の馬が風を切りながら駆けていく。

 徐々に近づいてくるにつれて、煙の色が濃くなってくる。

 やがて、煙の発生源を視認した健人は、視線の先の光景に思わず目を細めた。

 倒れた馬と横倒しになった荷車。

 そして磔にされたまま焼かれている人たちと、そこで奇声を上げながら踊っている小型の人影。

 

(デイドラ!?)

 

「スキャンプですわね。どうしてこんなところに……」

 

 スキャンプ。

 デイドラの中でも最下級の存在であるが、体格も見た目もゴブリン等とよく似ているが、小さいながらも魔法を使うため、一般人にとっては油断ならないデイドラである。

 だが、問題はそこではない。どうしてデイドラが、こんな街道の真ん中で馬車を襲っているのかという点である。

 

「ギャ、ギャ、ギャ!」

 

 だが、考えている間もなく、死体を弄んでいたスキャンプたちが近づいてくる健人達に気づいた。

 仲間達に知らせるように叫んだかと思うと、スキャンプたちは次々に火球を生み出していく。

 

「兄さん、気づかれました」

 

「初撃は私が防ぎますわ。その後は……」

 

(分かっている!)

 

「任せて!」

 

 セラーナの言葉に健人は首肯し、カシトは威勢のいい声を返す。

 その時、スキャンプたちの火球が、健人達めがけて放たれた。その数、十二。

 

「飲み込みなさい」

 

 迫る火球を前に、セラーナもまた右手を突き出し、魔法を発動させる。

 放たれるのは氷の嵐。渦を巻く冷気の塊は地面を凍らせながら直進し、スキャンプたちの火球全てを飢えた蛇のように飲み込む。

 それだけでなく、セラーナのアイスストームは進路上にいたスキャンプ四体を飲み込み、一瞬で氷漬けにしてしまった。

 

「ギ!?」

 

 自分達の火球を一方的にかき消されただけでなく、四体の仲間が屠られたことに動揺するスキャンプたち。

 そこに、健人とカシトが狩る馬が飛び込んだ。

 

「ガギャ!?」

 

「ゲグゥウ……!」

 

 馬から飛び降り、振るわれる四本の刃。瞬く間に六体のスキャンプが解体される。

 残り二体。

 容赦なく屠られる仲間を前に、残された最後のスキャンプ達は健人達に背を向けて駆け出した。

 元々、オブリビオンでも最下級の存在であり、常に他の上位デイドラ達から蔑まれ、只の小間使いや餌としか認識されていない彼らに、命よりも高いプライドなど存在しない。

 早く、早く逃げなくては! 恐怖を隠すことなく、まるで猿のように逃げていく。

 

「ギ、ギイギイ……!」

 

「逃がしませんよ」

 

 だが意識が健人達に向けられている間に、既に彼らは退路を塞がれていた。

 逃げるスキャンプ達に、馬を操るソフィが並走する。

 体格の小さいスキャンプの走力など、たかが知れている。魔法が使えるとはいえ、馬に勝てるほどの足は持っていない。

 ソフィは手に魔力の弓を生み出すと、逃走を続けるスキャンプを容赦なく撃ち抜く。

 

「しっ!」

 

「ガッ……!」

 

 放たれた二射が逃げようとしていたスキャンプの胴体を貫き、続く二射が側頭部を貫通。力を失った小さな悪魔たちの体が地面に倒れ込み、そのまま滑りながら動かなくなった。

 

「ふう、終わりましたわね」

 

「お疲れさん!」

 

『ソフィ、お疲れ様』

 

「はい、兄さんも」

 

 全てのスキャンプを倒したことを確認した後、健人達は襲われていた一団を調べる。

 

「服装から見ると、帝国兵も交じっているね。でも、テュリウス将軍の兵じゃない。シロディールの部隊だね」

 

 そう言いながら、カシトは兵士の鎧に刻まれた紋章をカンカン! と叩く。

 組織的な軍隊である帝国軍には、各々の所属を示す徽章がある。

 カシトは元帝国軍であり、シロディールにいた。だから、彼らの徽章に見覚えがあったのだ。

 

「それから、こんなものを見つけましたわ」

 

 セラーナが手にしているのは、一冊の本。

 題名は、星霜の書の効果について。

 中身を確認してみると、星霜の書を読んだ者にもたらされる効果と代償、そして、星霜の書から運命を読み取るために必要な素養についての言及がある。

 明らかに、兵士が読むような本ではない。おそらくスカイリムに来た聖蚕の僧侶、デキソン・エヴィカスのものだろう。

 

(嫌な予感はしていたけど……)

 

「ほぼ間違いなく、この人たちは聖蚕の僧侶を護衛していた兵達ですわね。一歩、遅かったようですわ」

 

「吸血鬼達に先を越されたってことか~~」

 

 重い沈黙が健人達の間に流れる。

 

「あのデイドラたちは……」

 

「ヴォルキハルの手の者が、この護衛の兵達を襲う手勢として召喚した者達でしょう」

 

 吸血鬼は強大な魔力を持つ。また、ヴォルキハルはデイドラロード、モラグ・バルを主と崇める集団。支配下にいるデイドラを借りることができても、不思議ではない。

 

「問題は、攫われた聖蚕の僧侶がどこに運ばれたか、だね」

 

 健人達は倒された馬車や、辺りの地面に吸血鬼達の痕跡がないか確かめる。

 だが地面には争った形跡はあるものの、どこかに向かっていく足跡や人を引きずった痕跡はない。

 

「霧化して飛んでいったか、岩場を昇って行ったのでしょう。もしくは、街道を少し進んで現場から離れた後に、道から離れたか。どちらにしろ、すぐに後を追うことは難しそうですわね」

 

 街道は基本的に平たい石を並べているため、歩きやすいうえに足跡が付きにくい。

 それに、吸血鬼が持つ異能を使われた可能性も十分ある。

 逃走手段が複数ある場合、追跡は難航するのが常だ。時間が惜しい健人達にとっては、非常にまずい。

 そんな時、ソフィが口を開いた。

 

「なんとかできると思います」

 

 ソフィはそう言うと、手早く詠唱を済ませ、召喚魔法を発動。

 呼び出されたのは、狼のウィルトゥス。

 

「セラーナさん。本を貸してください」

 

「どうぞ」

 

 ソフィは受け取った本の臭いを、ウィルトゥスに嗅がせる。彼は「ウォン!」と一鳴きすると、街道を東へ向かって駆け出した。

 

「あっちですね。ヴィーヘンは上から周りを観察して」

 

「ピュイ!」

 

 ソフィがヴィーヘンを飛ばし、上空からさらに広範囲を監視させる。

 ヴィーヘンもきちんとソフィの意図を理解しているのか、先を行くウィルトゥスの動きに合わせて、旋回する範囲を少しずつ移動させていた。

 その手際の良さに、健人とセラーナは思わず感嘆の息を漏らす。

 

(すごいな……)

 

「見事ですわね……」

 

 

「ん、んん!」

 

 大切な想い人と恋敵から向けられる驚きの感情に、歓喜と優越感がこみ上げる。

 ソフィは思わずにやけそうな顔を、必死に堪えつつも、奇声を漏らしてしまっていた。

 そうしている間にも、ウィルトゥスは街道を逸れ、南へと向かい始めた。

 岩と砂、そして雑草が僅かに生える丘を登り、続いて緩やかな谷へと降りていく。

 

「ピューーーーーイ! ピュイ、ピュイ!」

 

 谷へ降りる道の半ばまで差し掛かったところで、上空を旋回していたヴィーヘンが大声で鳴き始めた。

 ヴィーヘンはそのまま進路の先へと飛び、ちょうど丘と丘がぶつかる山間の上で再び旋回を始める。

 

「ヴィーヘンが何か見つけたみたいです」

 

「行きましょう」

 

 セラーナの言葉に頷き、健人達は馬の腹を蹴って速度を上げる。

 両側に丘を眺めながら賭けること数分。谷間に溜まった泥の上に、複数の足跡が見え始めた。

 

「あった、足跡だ!」

 

「ここを通ったことは間違いありませんわね。足跡も比較的新しいですわ」

 

 はっきりと形が残っている足跡を見て、健人達は聖蚕の僧侶を攫った犯人に近づいていることを確信する。

 だが同時に、健人の目は数ある足跡の中で、奇妙な形の者が混じっていることに気づく。

 他のものよりも踵の部分が小さく、深い跡をつけている足跡。

 その持ち主を想像し、健人は眉を顰めた。

 そうしている間にも、一行はヴィーヘンが示す地点へと近づいていく。

 やがて、距離百メートルまで近づいたところで、彼らの前に薄暗い洞穴が姿を現した。

 

「……ここですわね」

 

 一行は馬を降り、洞窟の前に立つ。

 

「足跡も、中の方に続いていますね」

 

「洞窟。吸血鬼達が考えることって、皆同じなんだね~~」

 

(やっぱり、この足跡……)

 

 複数の足跡が洞窟の中へと入っている中、健人が気になっていた靴跡も入口へと続いている。健人の様子に気づいたセラーナも彼の視線の先を追い、その「妙な足跡」に気づく。

 

「これは……まさか」

 

「兄さん? セラーナさん? お二人とも、どうかしたんですか?」

 

「ん? なんか、山の中を歩くにしては変な足跡だね」

 

「これって、もしかしてダンスシューズですか? こんな山の中で?」

 

 踊るための靴。到底、こんな山道を歩くには向かないもの。

 そんな靴を履いている吸血鬼など、健人は一人しか知らない。

 

「メリエルナ……ですわね」

 

「アレ、確かその人って、リフトの遺跡でケントと一緒だった吸血鬼だっけ?」

 

「…………」

 

 メリエルナ。

『蒼の艶百合』の元筆頭娼婦。そして吸血鬼となり、ヴォルキハルの一員となった女性だ。

 健人とセラーナにとっては、複雑な相手。一時は共闘もしたが、結局は敵対することになった。

 

「ええ。最近吸血鬼となり、恋人と共に力を求めてヴォルキハルに入った者ですわ。そして……元、蒼の艶百合の娼婦だった女性です」

 

 メリエルナについて知らなかったソフィは驚きの表情を浮かべると、続いて心配そうな目で健人を見上げる。

 そんな義妹に気を使わせまいと、健人は苦笑を浮かべつつも、その思考はかつての元同僚達のことを考えていた。

 

(レキナラさんもいるだろうな……)

 

 メリエルナがここにいるということは、彼女の恋人であるレキナラも当然いるだろう。

 彼女達に対しては健人としても思うところがある。

 確かに敵対してはいるが、未だに同僚だった時の感覚は抜け切れていない。

 

「兄さん……」

 

「ケント、気を許すことはなさらずに。相手は貴方に、モラグ・バルの呪いをかけた一人です。たとえどのような“理由”があろうと、越えてはならない一線を越えた者達ですわ」

 

(分かっている)

 

 セラーナの正論に、健人は込み上げる不快感を飲み込むように、一度大きく深呼吸をする。

 確かに、ここで止まるわけにはいかない。

 ハルコンが求める予言を成就させるわけにはいかないのだ。

 

『行こう』

 

 荒々しく黒板にそう書き込んで掲げると、健人は覚悟を決めて洞窟の中へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リフトホールドの南東。

 古い遺跡の傍にある『ステンダールの灯』と呼ばれる見張り塔跡には、二つのテントが張られていた。

 テントの傍には焚火が焚かれ、炎が風に揺られながらパチパチと火花を上げている。

 焚火にはノルドの男性とブレトンの女性が座り込み、暖を取っている。吸血鬼ハンターのガンマーとソリーヌだ。

 二人はこの見張り塔跡でテントを張って宿営しながら、呼び出した人物が来るのを待っていた。

 

「イスラン、来ると思う?」

 

「来るだろう。自分が追っている吸血鬼の情報だ。あいつが来ないとは思えない」

 

 二人がここにいる理由は、イスランに事情を説明し、健人とセラーナに協力してもらうためだ。

 イスランは優れた吸血鬼ハンターである。その実力は、ガンマーとソリーヌを足してなお上であろう。

 強力な古の吸血鬼を相手にするなら、絶対に引き込んでおかないといけない人物である。

 可能なら、彼らが組織しているドーンガードも一緒に。

 とはいえ、ドーンガードがどの程度組織として成長しているかは不明。袂を分かってから、組織編制がどれほど進んでいるかは不明だが、少なくともイスランと古参のデュラックとセラーンだけでは、マンパワーが足りないだろう。

 たとえ他の組織に協力を仰ぐとしても、イスランの性格上難しい。

 彼はとにかく警戒心が強く頑固だ。レッドガードらしいと言えばそうだが、彼の場合は特に慎重だった。

 同時に合理的でないことに対する拒絶反応も強く、だからこそ生き残っているともいえるし、ステンダールの番人には収まらなかったともいえる。

 おまけに健人の話では、内部に吸血鬼が潜入していた時もあるとのこと。とするなら、彼の警戒心はさらに強くなっていることが窺えた。

 

「それにしても、よかったね。ちょうどいいトロールが見つかって」

 

「ああ」

 

「フシュルルルル……」

 

 ガンマーの後ろには、武装したトロールが三体控えていた。ここに来るまでに見つけ、飼いならしたトロール達である。

 リフトはスカイリムにしては温暖で植物が多く、トロールなどの動物たちも豊富にいる。

 それでも、この短時間でトロールを従えることができる辺りが、ガンマーの動物使いとしての腕が確かであることを示している。

 

「とはいっても、やっぱり俺一人じゃ三体が限界だな。これ以上増やすには人手が足りない」

 

 傍に控えるトロールの首元を撫でながら、ガンマーはそう独白する。撫でられたトロールは、グルグルと心地よさそうにガンマーの手を受け入れていた。

 

「トロールと戦って勝てるくらいの人材か。中々難しいわね」

 

「ケントやセラーナなら問題ないと思うけどな。おっと、来たようだ……」

 

 そうこうしていると、見張り台がある高台から下へと続く坂道から、三人の男達が近づいてくるのが見えた。

 

「イスランとデュラックね。もう一人は誰かしら?」

 

 イスランとデュラックに同行するノルドの若者を見て、二人は首を傾げる。

 おそらく、別れた後にドーンガードに参加した若者だろう。

 彼の視線はガンマーの後ろにいるトロールに向けられていた。警戒しているのだろう。

 歩き方から多少の修羅場は潜っているのか、努めて表情を崩さないようにしているが、まだ緊張している様子が見受けられる。

 

「久しぶりだな。ガンマー、ソリーヌ」

 

「ああ、そうだなイスラン。デュラックも」

 

「懐かしいな」

 

「そっちのノルドは、新しいメンバーか?」

 

「ああ、最近入った新人だ。アグミルという」

 

「…………」

 

 一方、二人と面識のないアグミルは、未だにガンマーの後ろに控えるトロールにくぎ付けになっていた。その顔には脂汗が浮かび、明らかに緊張している様子。

 トロールはスカイリムでは人食いの野獣として、よく物語にも出てくる存在だ。

 しかもそれが三体。重武装までしている。

 この瞬間にも襲われ、頭から齧られる光景を思い浮かべてしまうのも無理なかった。

 全身を強張らせているアグミルにガンマーとソリーヌは苦笑を漏らし、イスランとデュラックは呆れたように首を振った。

 

「それじゃあ、話をしよう」

 

「分かった。だが、話をするその前に……」

 

 一人を除いて比較的温和な挨拶を交わせたこともあり、ガンマーは話を切り出そうとする。

 だがその前に、イスランはおもむろにステンダールのオーラを発動した。

 太陽を思わせる白い光が、幻炎のようにガンマーとソリーヌを包みこむ。吸血鬼に対しては特効ともいえる効果を発揮するが、生憎と二人は人間。

 特にイスランが害意を持っていないこともあり、何の効果も発揮しない。

 その様子に、イスランは小さく頷く。

 

「なるほど、吸血鬼にはなっていないか」

 

「相変わらずだな」

 

「私たちが吸血鬼みたいな薄汚い蝙蝠なわけないでしょ」

 

「すまないな。だが、どうしても確かめずにはいられんのだ。性分だと思ってくれ。それで、何の話だ?」

 

 イスラン自身、ガンマーとソリーヌが吸血鬼になるとは思っていない。

 しかし、そんな意志の強い戦士達ですら、屈服させるのが吸血鬼なのだ。

 ガンマーもソリーヌも十分理解していることもあり、文句を言いつつもイスランの行動を黙認。これ以上話が逸れる前に本題に入る。

 

「吸血鬼クラン、ヴォルキハルが動き始めた。この世界を常夜の世界へと変えようとしている」

 

「……詳しく聞かせてもらおうか」

 

 吸血鬼ハンターとして、当然ながらイスランもヴォルキハルについては知っている。

 第一期から続く最古の吸血鬼クランにして、暴力的かつ狡猾な集団。

 千年以上、一切尻尾を見せなかった存在である。

 イスランの目が細まり、重苦しい空気を纏い始めた。真剣にこちらの話を聞く様子に、ガンマーは話を続ける。

 ヘルゲンの復興を手伝っている時に、強大な力を持つ吸血鬼に出会ったこと。

 それを退治しようとしたら、ケント・サカガミと名乗る見たこともない異邦人に止められ、今代のドラゴンボーンに説得される形で襲った吸血鬼と異邦人の旅に同行。

 その過程でヴォルキハル城にたどり着き、件の吸血鬼セラーナがヴォルキハルクランの主、ハルコンの娘であったことを知る。

 そして、ハルコンの目的が、星霜の書に刻まれた予言の成就であること。

 

「なるほどな。もし本当なら、由々しき事態だ。こうなる前に止めたかったのだが……。しかし、吸血鬼を倒すためとはいえ、吸血鬼と共闘しろ、か」

 

「正確には、吸血鬼ともう一人のドラゴンボーンと、だ」

 

「分かっている。あの男だろう? 吸血鬼を庇った異邦人。私も刃を交えたから知っている」

 

 ガンマーの話全てを聞いたイスランが、額に皴を寄せながら、重苦しい声を漏らす。

 しかし同時に、その顔には隠しきれない迷いが窺えた。

 吸血鬼ハンターが持つ、吸血鬼に対する敵愾心は強い。それがイスランともなれば、その存在自体を許容することなど不可能だろう。

 実際、彼はセラーナを見つけた瞬間、全力で襲い掛かった。

 吸血鬼とは伝染病であり、完全に消滅させなければならない存在なのだ。

 イスランの中でぶつかる理性と警戒心。激しく揺れ動く『選択』という天秤を前に、彼は珍しく押し黙る。

 沈黙し続ける彼を前に、ガンマーはさらに言いつのる。

 

「ガンマー、リフト北西にある山の一部が丸ごと抉られたのは知っているか?」

 

「……ああ。ストームクロークが抑えているが、噂はあちこちの町や村で立っている。どれも信憑性がないものだったが」

 

 レッド・ウォーターの泉で、ハルコンが行った何か。それにより、周囲一帯が巨大なクレーターと化した一件だ。

 当然、イスランも突然巨大な穴が出現したことは知っている。直接確認もした。 

 しかし、その原因についてはまだ知らなかった。

 曰く、サルモールの侵攻、曰く巨大な流れ星の落下、曰く邪悪な魔術師の陰謀。

 どれも信じるに足る証拠はなく、ただ調査の障害にしかならないものだった。

 

「俺達はその場にいた。起こしたのはハルコンだ」

 

 ハルコンが“もう一人のドラゴンボーンの血”と“自身が所有するアーティファクト”、そして“レッド・ウォーターの泉”と呼ばれる、古から不思議な力を発している場所を利用して起こした天災。

 城が丸ごと入るのではと思えるほど巨大な穴。それが年月を経た吸血鬼とは言え、たった一人の手で引き起こされた。

 その事実に、ただでさえ強面のイスランの顔が、まるでオーガのごとく歪んだ。

 

「……そうか。もう、本当に猶予がないのだな」

 

「ああ、そしてその最中にいて、最前線で止めようとしているのが……」

 

「ケント・サカガミ。それにセラーナか……」

 

「以前、お前が彼女を退治しようとして、彼と刃を交えたことは本人達からも聞いている。だが、この話を彼らにした時、二人は迷うことなく了承したよ」

 

 自身の命を狙った者にすら、協力を仰ぐ。

 それを聞いたイスランの中で、今度こそ天秤が一方へと完全に傾ききった。

 

「……いいだろう。私が直接、二人に会うことにしよう」

 

「よし!」

 

 最も難しい関門であったイスランが提案を受け入れたことで、ガンマーは思わずガッツボーズをした。

 それだけ、イスランを説得できるかどうか分からなかったのだ。

 

「一応、ドーンガード城に一報を入れておく。準備も必要だ。そうだな、二日……いや、明日にでも発つとしよう」

 

「わかった。砦にいるのはセラーンか?」

 

 セラーンはデュラックと同じく、長い間イスランと共に吸血鬼退治をしている歴戦の兵士だ。

 ブレトンの男性で、戦士としても指揮官としても非常に有能な人物。

 リーダーであるイスランが動けない場合、実質的に部隊を指揮している。

 今回の会合で留守を任されているのも彼である。

 それだけで、イスランの彼に対する信頼の高さが窺えるだろう。

 

「ああ、他にも補充した団員が五十人程な」

 

「ほう……」

 

「思った以上に大きくなっているわね。私達と大喧嘩して出ていかれた時とは大違い」

 

 ガンマー達がドーンガード城を離れたのは三年ほど前。その時点では、イスランを含め数名しかいなかった。

 随分と仲間を集めたものだと、ガンマーとソリーヌは感心する。

 イスランが良くも悪くも頑固であることを知っているので、その驚きはひとしおである。

 元々、二人がイスランの元を去ったのは、彼の融通の利かなさが理由だった。

 あのままだったら、ドーンガードには誰も参加せず、そのまま消えていただろう。

 

「……伊達に数年間、力を蓄えていたわけではないさ」

 

 一方のイスランは、二人から向けられる生暖かい視線に、どことなく不満そうに鼻を鳴らす。ガンマーとソリーヌがチラリと隣に立つデュラックに目を向けると、彼もまたしょうがないというように肩をすくめた。 

 

「分かった。俺達もここを片付けたら合流する」

 

「ベッドの準備はしておこう。そろそろ日が落ちる。早く来るのだな。デュラック、アグミル、行くぞ」

 

「は、はい!」

 

「分かった。じゃあ、二人ともまたあとでな」

 

 そう言って、イスランはデュラックとアストンを連れて、ドーンガード城へと戻っていく。

 

「まさか、ダークライトタワーで仕留め損ねた奴らと会って、言葉を交わすことになるとはな」

 

「おや、まだ共闘すると決めたわけではないのか?」

 

「九割はそうなるだろう。だが、現実がどうなるかは常に分からん」

 

「その慎重さは相変わらずか」

 

 道中、イスランとデュラックは軽口を交えつつ、今後の対応について簡単に意見を交わす。

 一方のアグミルは、ホッとした様子で肩を落としていた。

 そんな彼を見て、教育係だったデュラックは苦笑を漏らす。

 相変わらずやや頼りないところがあるが、これでも大分マシになっていた。少なくとも、戦うことに関しては迷わなくなっているのだから。

 そうしてイスラン達は、ドーンガード城へと戻っていく。

 だが、彼らは気づいていなかった。

 ガンマー達と話し合いに行く途中で、黒い影の群れとすれ違ったことに。

 

「ここが、奴らの巣ですか……」

 

「そうらしいな。すべて焼き尽くすぞ」

 

「貴方に言われるまでもありませんよ……!」

 

 主に追い詰められた二つの蝙蝠が、白い城を黒い悪意で押しつぶそうとしていた。

 

 




いかがだぅたでしょうか?
先を越された健人達、そしてドーンガードの協力は得られそうでしたが、何やら不穏な空気が……。
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