【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第九話 ドーンガードの壊滅

 

 

 

 夜の闇の中、灼熱の炎がヴェロシ山脈の一角を赤く照らす。

 リフトホールドの南東。ミストヴェイル砦の東の洞窟の奥にあるドーンガード城は、今まさに焼き尽くされようとしていた。

 年月を経た白亜の城は既にほとんどが炎に包まれ、真っ赤に染まっている。

 その城の正門から、三つの影が姿を現す。

 レッドガード、オーク、ノルドの男達。吸血鬼ハンター、ドーンガードの指導者イスランと幹部のデュラック、そして最近この組織に参加した若い戦士のアグミルである。

 彼らが纏うラメラアーマーは傷つき、欠け、黒く煤けている。顔には汗と血で汚れ、濃い疲労と悲痛な色で塗りつぶされていた。

 

「完全にしてやられたな。いつか奴らが来ることは確信してはいたが……」

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

「アグミル、大丈夫か?」

 

 壮年のオークが、肩を貸していたノルドの若者を気遣う。

 

「は、はい、なんとか。他のみんなは……」

 

「フロレンティウスとモグルルはやられていた。他の者達もおそらくは……」

 

 イスランは燃え上がるドーンガード城を振り返りながら、悔しそうな声を漏らす。

 襲ってきたのは吸血鬼の一団。それも、在野にいるような吸血鬼ではなく、相当古い吸血鬼達であり、偶々イスラン達が砦を不在にしている間に奇襲する形で攻め込まれたのだ。

 もちろん、守りは固めていた。砦のホールにアーケイの光を呼び込み、吸血鬼達を焼き尽くす仕掛けなど、出来る限りの防備を施していた。

 しかし、結果はこのありさまである。

 ようやく組織としての形ができ始めていたドーンガードだが、再起するその半ばで壊滅寸前となっていた。

 

「どうする、イスラン」

 

「残念だがこの砦はもうもたん。残された手は、逃げるしかない。逃がしてくれるかどうかは、奴ら次第だが……」

 

「まだ生き残りがいましたか、本当にしぶといですね」

 

 吐き捨てるような声と共に、燃え上がる砦内から複数の影が姿を現す。

 数は十五人ほど。闇夜のような黒と、怪しく輝く虹彩を持つ者達。吸血鬼だ。

 先頭に立つのは、鮮血を思わせる鎧をまとったヴォルキハルの元幹部、ヴィンガルモとオースユルフ。

 二人が放つ濃厚な血の気配に、イスランは思わず眉を顰める。彼らが古から生きる吸血鬼であると見抜いたのだ。

 

「吸血鬼か……。しかもその鎧、ヴォルキハルの者だな」

 

「ええ、そうです。百年ほどしか生きられない定命の者が、よく知っていますね」

 

「まあな。カビの生えた死体共だと」

 

「生意気な……。もっとも、その不愉快な口も、すぐに利けなくなるでしょう。貴方達のお仲間のようにね」

 

 ヴィンガルモの隣に立つオースユルフが、後ろの腰に手を伸ばして何かを掲げる。

 それは、ドーンガード砦を守っていた者達の首だった。それをオースユルフは、無造作に放り投げる。

 ゴロゴロと階段を転がり落ちた首たちはイスランの足元で止まる。その全てが、苦悶と恐怖に塗りつぶされた表情で虚空を見上げていた。

 

「掃除は手早く行わなくてはなりません。特に蟲の駆除は念入りを要します」

 

 共に戦いながら、少しずつ絆を深めていた戦友達。その死に、イスランは己の視界が真っ赤に染まった。

 だが、それでもイスランは歯を食いしばり、失いそうな理性を必死に繋ぎ止める。

 我を失ってどうにかなる相手ではない。

 いや、そもそも、逃げることすら至難な状況だ。

 敵は強大かつ多数。対して、こちらは負傷者1名を抱えた合計3名のみ。

 ここで理性を失えば、本当に何も出来ぬまま、無意味に朽ち果てることになってしまう。

 

「さあ、別れは済ませましたか? 安心しなさい。すぐに、同じ場所に贈って差し上げます。我らが神の元にね……」

 

「デュラック、アグミルを連れて逃げろ。そして、この危機をガンマー達と、少しでも多くの人に伝えるのだ」

 

 イスランは覚悟を決めた。

 もはや、どう生き残るかというレベルの話ではない。自分はここで死ぬ。それは確定だ。

 であるなら、少しでも奴らに傷を刻み、吸血鬼の脅威を知らせなくてはならない。

 

「で、でもイスランさん!」

 

「アグミル、行くぞ!」

 

「逃がすな!」

 

 迷うアグミルを、デュラックが引きずるように走らせる。

 当然、吸血鬼達は逃がすまいと二人を追おうとしてきた。

 離れようとする最後の仲間達の気配を背中で感じ取りながら、イスランはドーンガードの戦槌を構え、全力でマジカを猛らせる。

 

「ステンダールよ! 我が呼びかけに応えよ!」

 

 詠唱と共に、ステンダールのオーラが発動する。

 その名の通り、エイドラの光で不浄なるものを焼き尽くす魔法。純粋な吸血鬼であればあるほど効果を発揮する、吸血鬼に対して特に効果的な術だ。

 

「ぐわ!」

 

「うぐうう!」

 

「ち、エイドラの光か! 面倒な……!」

 

 真夜中の山中に突如出現した、太陽を思わせる光の塊。

 聖なる光に焼かれ、デュラック達を追おうとした吸血鬼達の足が止まる。

 いや、それだけではなく、半数以上の吸血鬼達が膝をついた。どうやら、かなり若い吸血鬼も相当混じっているらしい。

 当然、イスランはその隙を逃さずに踏み込み、戦槌を振り抜く。

 

「がぁあああ!」

 

「ぐぎゃ!」

 

 薙ぎ払われた戦槌が、動きの鈍った吸血鬼の一体を捕らえた。

銀色の金属塊が胴体にめり込み、そのまま隣を並走していた二体目を巻き込む。

 同時に、戦槌に付与されていた付呪が発動。二体の吸血鬼の胴体を焼きながら、真っ二つに断ち切る。

 茫然とした間絶命した二体の吸血鬼を他所に、イスランはそのまま流れるように戦槌を持ち替え、三体目に打ち下ろしを放つ。

 狙われた吸血鬼はステンダールのオーラに焼かれながらも戦槌を防ごうと魔法障壁を張るが、イスランの槌はその盾ごと、敵の頭蓋を砕いた。

 頭を潰され、崩れ落ちながら灰となる吸血鬼。

 一息に三人。それも、ヴィンガルモ達に及ばずとも、ヴォルキハルに属する高位の吸血鬼達を屠ったイスランは「フウウウウ……!」と戦意に満ちた息を吐きながら、四体、五体と、襲い掛かってくる吸血鬼達を次々に討ち取っていく。

 

「見苦しいですね。諦めてさっさと死ねばいいものを……!」

 

 その様子に、ヴィンガルモとオースユルフは不快そうに口元を歪めた。

 ハルコンに『嘆きの首輪』を付けられた彼らに、もはや失敗は許されない。少しでも失点があれば、ハルコンは躊躇なく二人を殺すだろう。

 逃げることもできず、かといって逆らうこともできない。

 凋落した彼らも後がないのだ。

 

「もういい! 退け!」

 

 我慢できなくなったオースユルフが、うずくまる部下達を突き飛ばしながら前に出てきた。そして背負った黒檀の槍を抜き、全力で薙ぎ払う。

 埒外の膂力から繰り出される横薙ぎが風を引き千切り、土を舞い上げながらイスランに迫る。巨人の一撃に匹敵するそれを、イスランは槌を掲げて受け止めた。

 

「ぐ……!」

 

 直後、強烈な衝撃が両腕に走り、あまりの力に戦槌の柄がミシリと悲鳴を上げる。同時に、定命の者としても大柄なイスランの体が横に二メートル以上滑った。

 

(これは……正面から受けてはダメだな)

 

 ステンダールのオーラに焼かれているにもかかわらず、この膂力。

 まともに受け続ければ武器が壊されると判断したイスランは、続けざまに繰り出される槍撃を前に、両足に力を込めて踏み込む。

 槍の間合いの更に内側に滑り込むと同時に、迫る槍の軌道に対して、戦槌を直角ではなく斜めに掲げて受け流す。

 

「ち、小賢しい真似を……!」

 

 滑り込んできたイスランに対し、オースユルフは構わず全力で槍を繰り出し続けた。

 サーベルキャットすらも容易く屠る一撃が、何度も何度も撃ち込まれる。

 しかし、その連撃をイスランはすべて受け流していく。

 腕を畳み、脇を締め、重量のある戦槌を器用に操り、円を描くように振るう。

 繰り出される攻撃を正面から受けぬよう、薙ぎ払われた槍の腹を打ち、突き込まれた切っ先を打ち上げる。まさに、超一流の防御術。

 イスランが類まれな才能と血の滲むような修練を乗り越え、そして吸血鬼との戦闘を重ねてきた巧者であることの証左だ。

 

「貴様、ちょろちょろと姑息な……」

 

 同時に、その奮闘が、後のないオースユルフの焦燥を掻き立て、より攻撃を単調にさせていく。

 いくら身体能力で優れようと、こうなればイスランの術中だ。

 反撃はできないが、吸血鬼達の意識はほとんどイスランに向けられている。完全に彼の思い通りだ。

 しかし、中にはこの隙に乗じて、デュラック達を追おうとする者も出てくる。

 案の定、ヴィンガルモの背後に控えていた一人の吸血鬼が、体を霧に変えながら高速で脇を抜けようとしてくる。

 

「行かせん!」

 

「があ!」

 

 その吸血鬼を、イスランは後ろの腰に持っていたクロスボウで器用に打ち抜く。

 吸血鬼用の銀のボルトが霧化していた吸血鬼の異能を貫き、そのわき腹に穴をあける。

 銀は吸血鬼にとっては猛毒だ。その毒を深々と体内に撃ち込まれた吸血鬼は、苦悶の悲鳴を上げながらのたうち回る。

 イスランはさらにマジカを猛らせ、発動していたステンダールのオーラに注ぎ込む。

 一気に輝きを増したエイドラの光は、周囲の木々まるで昼のように照らし出す。

 のたうち回っていた吸血鬼は内側と外側から焼かれ、泡を吹いたのち、燃え尽きて灰と化した。

 

「小癪な奴め!」

 

「なっ……!」

 

 だが、その間隙にオースユルフがさらなる攻勢に出てきた。

 威力を増したステンダールのオーラに焼かれながらも、槍を振り抜き、イスランのクロスボウを破壊する。

 イスランは戦慄した。

 既にオースユルフの皮膚にはあちこち腫れ、煙を上げながら血が滲み出している。にもかかわらず、動きに一切の衰えが見えない。

 長く吸血鬼と戦い続けてきたイスランでも、これほど頑強な吸血鬼は見たことがなかった。

 さらに悪いことは続く。

黒い闇が地を這い、イスランの体に巻き付いた。同時に強烈な重圧が全身にかかる。

 

「これは……」

 

 幻惑魔法“威圧”

 マジカにより相手の精神に重圧をかけ、その動きを極端に鈍らせる魔法だ。

 同時に真昼のように輝いていたステンダールのオーラが、目に見えて衰えていく。

 

「何を手間取っているのです、オースユルフ、さっさと殺しなさい!」

 

「煩い! 貴様に言われるまでもないわ!」

 

 イスランの動きを鈍らせたのは、ヴィンガルモ。いい加減、イスランの抵抗に我慢の限界が来たらしい。

 オースユルフもまた、この好機を逃さんと、全力で槍を突き込む。

 かつての政敵同士であり、今でも互いに気に食わないと思ってはいるが、ハルコンがかけた『嘆きの首輪』ともう後がないという状況が、この水と油の両者をまかりなりにも共闘させていた。

 

「ぐ……!」

 

 肉体と魔力。両方の動きを鈍らされたイスランに、オースユルフの渾身の突きを逸らすことはできない。

 かといって、避けることも不可能。一か八か、受けるしかないと判断したイスランが戦槌を掲げる。その手はヴィンガルモの魔法の影響を受け、細かく震えていた。とても繊細な受け流しができる状態ではない。

 絶体絶命の状況。

 だが、その時……。

 

「「「グオオオオオオオオ!」」」

 

 空気を震わせるような叫びと共に、三体の毛むくじゃらの獣が戦場に乱入してきた。

 突然現れたのは、全身を鋼鉄の鎧で武装した三体のトロール。

 

「なんだ!? ぐうう!」

 

 トロール達はオースユルフに飛び掛かり、イスランから引き剥がす。

 続いて、イスランの背後の暗闇から飛翔してきたボルトが、幻惑魔法を維持していたヴィンガルモに襲い掛かった。

 飛んできたボルトはヴィンガルモの足元の地面に突き刺さると、炎と衝撃波をまき散らしながら炸裂。爆風にあおられた結果、ヴィンガルモが維持していた幻惑魔法が消滅する。

 

「貴様ら……!」

 

 邪魔してきた者達の姿を確かめ、ヴィンガルモは思わず怒りの声を上げる。

 ガンマーとソリーヌだ。

 デュラックからドーンガード城が襲われたことを伝えられ、援護に来たのだ。

 

「お前達、なんで来た……!」

 

「なに、純粋な戦力差を考えてだ」

 

「悔しいけど、私達二人を合わせても、イスランの方がこいつらの脅威になれそうだからね」

 

 二人がここに来たのは、純粋に自分達とイスランを比べた結果だ。

 彼を生き残らせた方が、この後の戦いの為になると考えたのだ。たとえ、自分達がここで死ぬとしても。

 

「ほらイスラン、さっさと逃げなさいよ」

 

「お前が残ってると、俺達も退けないからな!」

 

 ガンマーがイスランの襟首をひっつかんで後ろに放り投げると、トロールの一体が彼を担ぎ上げ、来た道を逆走し始めた。

 一方のガンマーは、残ったトロール達を従えながら前に立つ。

 

「ほざくな、クズ共が!」

 

 かつて二度も逃した定命の者達。たった今イスラン相手に溜まっていたフラストレーションもあり、オースユルフは怒髪天をつきながら、黒檀の槍をガンマーめがけて突き込む。

 

「ぐっ!」

 

 オースユルフの槍はガンマーが掲げた双斧を削り、彼の肩を鎧ごと裂く。

 金属片とともに血しぶきが舞い、その様にオースユルフはニヤリと口元を歪める。

 能力的にも武器の性能的にも、圧倒的に劣る相手。多少手駒は増えたようだが、それでどうにかできる戦力差ではないと。

 だが次の瞬間、ガンマーの右手の斧から突如として炎が噴き出した。

 オースユルフの顔が驚きに染まり、彼は思わず身を逸らした。

 舞い上がった炎は黒檀の槍を伝い、オースユルフの鎧と髭を焦がした。

 

「ち、炎の付呪か!」

 

 自慢の髭を焼かれたことに激怒しながらも、即座に槍を切り返そうとするオースユルフ。

 

「それだけじゃないぞ!」

 

 しかし、その僅かな間隙に、ガンマーは既に左の斧を振り抜いていた。僅かに紫色の光を帯びた刃。右わき腹に迫るそれを、オースユルフは槍を回転させて防ぐ。

 だが、黒檀の柄と斧の刃が激突した瞬間、雷が炸裂した。

 

「ぐうう! 雷の付呪までか……!」

 

 柄を通して伝わってきた雷が、オースユルフの体を纏うマジカを打ち消し、痺れさせる。

 ガンマーの左斧に施された付呪の効果だ。

 いくら吸血鬼でも、電気信号で肉体を制御している点には変わらず、乱されれば肉体制御に不具合が生じることは変わらない。

 その隙に回り込んだトロールが、鋼鉄の爪を振るう。

 

「グフゥウウ!」

 

 いくら吸血鬼とはいえトロールの巨体から繰り出される一撃の重みは無視できない。

 純粋な腕力に任せて振り下ろされる鉄の刃。

 しかし、体が痺れていても、オースユルフは古く強力な吸血鬼。

 脳天に迫る鉄爪の軌道を見切り、最小限の動きで躱す。

 オースユルフの眼前を通り過ぎる分厚い鉄塊。そして、彼の瞳が、黒々とした鉄の中に輝く青い光を捉える。

 

「……!」

 

 その光に気づいた瞬間、オースユルフはなりふり構わず後ろに跳躍していた。

 鉄爪が地面に突き刺さった瞬間、一瞬で地面から氷塊が屹立し、凍り付く。

 

「まさ、か……! トロールの武器にまで付呪を……!」

 

「おかげで財布がすっからかんだがな! だがお前達を始末できるなら、十分お釣りがくる!」

 

「ええい、なめるなよ!」

 

 オースユルフ、ガンマー、トロールの三者は、三つ巴の乱戦を繰り広げる。

 その間、最後のトロールは後方にいるヴィンガルモへと突撃していた。

 

「オオオオオオオ!」

 

「ち、獣風情が……!」

 

 ヴィンガルモは素早く詠唱を済ませ、右手に炎の塊を生み出す。

 炎系の破壊魔法、エクスプロージョンだ。

 再生能力に優れたトロールだが、火での傷は再生が難しいという弱点がある。

 

「させない!」

 

 だが、一番後ろに控えていたソリーヌが、それを阻む。

 クロスボウから放たれる爆裂ショックボルト。ヴィンガルモはあらかじめ開けていた左手で障壁を展開するも、魔力の壁に突き刺さったボルトは紫電を放ちながら炸裂。

“魔力を散らす”という特性を存分に発揮し、ヴィンガルモの障壁を用意していたエクスプロージョンごとかき消してしまう。

 

「ぐっ!? 貴様!」

 

「威力を上げた爆裂ショックボルトよ。元ハイエルフのアンタには効くでしょ!」

 

 しかも、炸裂の余波は展開していた魔法だけでなく、ヴィンガルモの体にも影響を及ぼす。

 彼は吸血鬼ではあるが、元々はハイエルフであった。そのため、“体自体が魔法に干渉しやすい”という特性がそのまま残っている。

 結果、魔法障壁を挟んでいるにもかかわらず、体中に痺れが走ってしまっていた。

 

「小癪な!」

 

 全身の感覚が曖昧な中、それでもヴィンガルモは憤怒の表情でソリーヌにアイスジャベリンを放つ。

 この辺りの咄嗟の地力は、さすが古の吸血鬼と言える。

 ソリーヌは地面を転がって迫る氷の槍を回避。その間に、接近していたトロールが鉄爪を薙ぎ払う。

 

「グオオオオオオオオ!」

 

「ちぃ……!」

 

 ヴィンガルモは体を霧化し、離脱。トロールの鉄爪は彼の体を捉えることなく、空を切った。

 距離を離したヴィンガルモは再度魔法を放とうとするも、その間に装填を終えていたソリーヌが再度爆裂ショックボルトを放つ。

 その間、僅か数秒。本人の練度もあるが、装填機構を改良しているのだろう。これまでとは比較にならない発射速度である。

 

「この……!」

 

 ヴィンガルモは再度霧化して離脱するも、数の差で攻撃の機会を得られず、歯噛みした。

 それは、オースユルフも同じだった。身体能力としては圧倒しているが、とにかく守りが硬い。

 鎧を削られようと致命傷は受けず、むしろ炸裂する炎と雷が、的確にオースユルフの攻撃を寸断する。

 

「しかし、お前ら二人が連れて来た吸血鬼がこの程度とはな。他の取り巻き達はどうした!?」

 

「ガンマー、見なさいよ。あの薄汚い蝙蝠たちの首」

 

「ケントが付けられていたものと同じ首輪か、なるほど。アイツらもモラグ・バルの生贄にされたってことか。ざまあないな!」

 

「きさまらあ!」

 

「ぐう!」

 

 オースユルフの剛撃が薙ぎ払われ、ガンマーは咄嗟にしゃがみ込んで躱す。

 当然、武装トロールが割り込んでくるが、オースユルフは二対一状況をものともせず、狙いをガンマーに絞って攻め立ててくる。

 彼がトロールの統率者である彼を殺せば、トロール達の制御もできなくなると踏んでの行動だ。

 

(なんとか拮抗しているが、やはり俺達では無理か……)

 

 オースユルフの猛攻を必死に跳ね除けつつも、ガンマーは内心で歯噛みする。

 やはり、この状況は致命的だ。抵抗は長くは続けられない。

 ガンマーが動けなくなるか、双斧の付呪が切れるか、ソリーヌのボルトが尽きた時点で破綻する。

 

「ぬうううううん!」

 

「くうぅうううう!」

 

 そして、ついにその時が来た。

 オースユルフ渾身の突きを防いだ直後。双斧が帯びていた魔力光が霞のように消えた。魂力が尽きたのだ。

 

「ぜえええい!」

 

「ギャウウウウウウ!」

 

 さらに、返す刀で薙ぎ払われた槍が、トロールの片腕を深々と切り裂く。

 切られたトロールの腕は完全に断ち切られてはいないが、皮一枚で何とかつながっている程度の重傷。当然、これ以上戦闘などできるはずがない。

 これで、ガンマーはオースユルフを押さえておくことが不可能となった。

 

「はあ、はあ、はあ……。餌風情の分際で……!」

 

「よくも、やってくれたわね……!」

 

 ここで、さらに状況が悪化する。

 ステンダールのオーラで動けなくなっていた配下の吸血鬼達が回復したのだ。

 

(ここまでか……)

 

 ガンマーは覚悟を決めた。

 亀のように畳んでいた両手を広げ、双斧を握り締める。

 防御を捨てた構え。

 既に、イスランが逃げる時間は十分稼げただろう。後は、命が尽きるまで、敵を屠るのみ。

 ソリーヌの方も、腰のポーチに手を伸ばし、残り全てのボルトを握り締めていた。

 最後に一矢報いる。せめて、この古の吸血鬼二体は確実に屠ってやろうという気概が、その顔にありありと浮かんでいた。

 決死の覚悟を全身から放つ二人に、オースユルフとヴィンガルモは一瞬たじろぐも、一瞬でも定命の者達に気圧された事実にプライドを刺激され、その表情を憤怒に染めた。

 

「望み通り、一撃で葬ってやろう!」

 

 とどめを刺さんと、オースユルフが踏み込む。

 迫る巨体を前に、ガンマーもまた双斧を振り上げた。

 大気をねじ切りながら突き込まれる黒檀の槍。それを迎え撃つ斧。そして、両者が激突しようとしたその時……。

 

「がっ!?」

 

「ぎゃああ!」

 

「なんですか!?」

 

 突然、ステンダールのオーラから回復しかけていた吸血鬼達から、悲鳴が木霊した。

 彼らの背後から現れた影が、次々に背後から斬り殺し始めたのだ。

 

「ガンマー! ソリーヌ!」

 

「セラーン、生きていたのか?」

 

 吸血鬼達の背後を強襲したのは、ガンマーとソリーヌの戦友であり、殺されたと思っていたドーンガードの古参兵、セラーン。

 彼は額から血を流し、ドーンガードの鎧も真っ赤に染まっている。

 どの程度かは分からないが、浅くない傷を負っているのは明らかだった。

 だが卓越した双剣使いである彼は、ステンダールのオーラで負傷した吸血鬼達の背後を強襲。次々と屠っていくと、そのままヴィンガルモに斬りかかる。

 

「ちっ……!」

 

 ヴィンガルモは早々に霧化して離脱。距離を離した上で、アイススパイクを次々にセラーンへと放つ。

 氷の矢の群れがセラーンを襲い、肩、腿に容赦なく突き刺さる。

 しかし、セラーンは撃ち込まれるアイススパイクをものともせず、続いてガンマーの傍にいるオースユルフへと全力で斬りかかった。

 渾身の一撃。それを、オースユルフは容易く受け止める。

 

「ええい、死にぞこないが……!」

 

「ガンマー! ソリーヌ! お前達も逃げろ! ここは俺がどうにかする」

 

「死ね!」

 

「がふっ!?」

 

 オースユルフはセラーンをまるで子犬を払うように容易く跳ね除けると、携えた黒檀の槍で彼の胸を容赦なく貫いた。セラーンの口から大量の血が溢れる。

 

「セラーン!」

 

 ガンマーの絶叫が響く。

 オースユルフの一撃は、セラーンの心臓と左の肺を完全に破壊していた。

 命の流れを完全に絶たれ、両腕が力を無く垂れ下がる。

 両手から滑り落ちた剣が地面に落ち、カランと乾いた音を響かせる中、オースユルフは忌々しくも抵抗を続けたブレトンの男を、血走った眼で睨みつけた。

 

「手こずらせてくれたな。その代償として、その血を一滴残らず吸い尽くしてやる」

 

ついでに、吸血鬼にも変え、守ろうとした仲間を殺させてやる。

そう告げながら、オースユルフはこれ見よがしに牙をむき出しにした。

 

「あ、ああ……吸、えよ。吸える、もの、な、ら……な」

 

「っ、オースユルフ、離れなさい!」

 

 ヴィンガルモの警告が響いたその時、完全に力を失っていたはずのセラーンの両腕が動き、纏う己の鎧を力強く叩いた。

 直後、閃光が走り、爆炎がオースユルフを包み込む。

 セラーンは鎧の下に、エクスプロージョンのスクロールを何枚も仕込んでいたのだ。

 

「ぐおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 舞い上がった炎はオースユルフの体を吹き飛ばし、炎で包み込む。

 近くにいたガンマーも衝撃波であおられ、数メートル吹き飛ばされた。

 

「セラーン!!」

 

 なんとか受け身を取って身を起こしたガンマーが戦友の名を叫ぶ。

 しかし、セラーンがいた場所には黙々と煙が上がるだけで、彼の体は既に跡形もなくなっていた。

 爆風の直撃を受けたオースユルフは、少し離れたところで膝をついている。

 荒い呼吸を繰り返している様子を見る限り、死んではいないが、今すぐ動ける様子でもない。

 ステンダールのオーラとエクスプロージョンで立て続けに負った熱傷は、いくら吸血鬼の中でも随一の肉体を誇るオースユルフとはいえ、無視できないダメージだった。

 

「ガンマー、撤退するわ!」

 

「くそ! 分かってる!」

 

 剣戟と炸裂音が響いていた戦場に流れる、一瞬の静寂。それはセラーンが命懸けで生み出した、脱出の好機だった。

 ガンマーは荒れ狂う心を抑えながら、間を入れず、トロールに指示を出すべく口笛を吹いた。

 トロール達は主人の命に忠実に従い、二人を抱えて一目散に逃走を開始する。

 

「逃がしません!」

 

 しかし、それをヴィンガルモが許すはずもない。

 両手に紫電を生み出し、ガンマーとソリーヌを運ぶトロールの背めがけて最大威力のサンダーボルトを放とうとする。

 立ち上るマジカが風と共に舞い上がり、バチバチと紫電が空気を鳴らしながらヴィンガルモの両腕に集束する。

 ミラーク相手には圧倒されたヴィンガルモだが、その魔法の威力は定命の者など消し飛ばして余りある。

 

「この……!」

 

 しかし、ヴィンガルモのサンダーボルトが放たれる前に、ソリーヌが持っていたボルト全てを両者の間に放り投げた。

 ボルトが落ちた瞬間、魂力が開放され、炎と氷、雷が次々と炸裂。地面を抉り、土煙を舞い上げてヴィンガルモの視界を完全に塞いでしまった。

 

「ええい……!」

 

 ヴィンガルモなそれでもかまわず、サンダーボルトを放つが、二条の天雷は空を切り、土煙の中に空しく消えていった。

 全くない手ごたえに、ヴィンガルモは怨敵を逃したことを悟り、歯噛みする。

 

「く、劣等種がまたしても私の顔に泥を塗るか……!」

 

 確かにドーンガード城は壊滅し、その戦力のほぼすべてが壊滅した。

 目的は果たしたと言え、なんとか命は繋いだと言えよう。

 しかし、ほんの数人に逃走を許してしまった。

 相手は定命の者。古の吸血鬼にとっては、本来脅威に等ならない相手のはず。

 さらには、ガンマーとソリーヌ。二人の邪魔者にも介入され、それも取り逃す始末。

 その事実が、ただでさえヴォルキハルの相談役を解かれ、生贄に堕とされたヴィンガルモのプライドを、更に容赦なく砕いていく。

 心臓を抉られ、全身を焼かれたような羞恥の中、ヴィンガルモは手の平から血を流すほど拳を握り締めるのだった。

 




いかがだったでしょうか?
今回、オースユルフとヴィンガルモの奇襲により、ドーンガードが壊滅状態になりました。
生き残りはイスラン、デュラック、アグミルの三人のみ。他は全滅です。
ゲーム本編ではイスランが時間を稼いでいる間に主人公が救援に来ますが、このお話ではそれがないため、このような惨事に……。

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