【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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お久しぶりです。いや、時間がかかってすみません……。


第二章エピローグ Side”D”

 

 聖蚕の僧侶を救出した健人達は、そのまま馬を回収してモーサルに帰還。

 道中、傷を負った聖蚕の僧侶は眠っていたが、首長の館へと運んだところで目を覚ました。

 

「ううん……」

 

「目を覚ましましたわね。あの洞窟でのこと、覚えていますか?」

 

 首長の館のベッドに寝かされたデキソン。その顔を覗き込みながら、セラーナが単刀直入に尋ねる。

 メリエルナの手で掛けられていた魅了はセラーナが解除済み。

 そしてこの場には、健人達の他にイドグロッド首長と執政であり、彼女の夫であるアスルフルが同席していた。

 

「ええ。随分と頭がすっきりしています。まるで、冬の朝のように。ですが……」

 

 キョロキョロとあちこちに視線を動かすデキソン。

 声をかけているのに視線が合わない様子に、セラーナは首を傾げる。

 

「どうかいたしましたの?」

 

「申し訳ありません、目が見えなくなったようです」

 

 よく見れば、デキソンの瞳は白く濁っている。

 星霜の書は、読む者に未来の知識を与えるが、同時に目から光を奪うことで知られており、既にその影響は出てしまっていた。

 沈痛な空気が場に流れる。

 

「いえ、吸血鬼に魅了され、胸を刺されたのです。生きているだけでも、御の字でございますよ」

 

 しかし、意外なことにデキソンは前向きだった。

 元々、聖蚕会の僧侶として幼い頃か修行を積んできたのだ。星霜の書を読む名誉と代償に関しては、この場にいる誰よりも理解している。

当然、覚悟もとうにできていた。

 失明しても微塵も後悔の念を感じさせないデキソンの様子に、健人達もそれ以上の言葉は不要と考え、本題に入る。

 

「ならば、それ以上の慰めは無粋ですわね。それで、聞きたいことがあります」

 

「何なりとお尋ねください。恩人様の為に、出来る限りのことを語りましょう」

 

 そう言ってデキソンは、白く濁った瞳で静かに微笑む。

 先ほどまで宙を泳いでいた彼の虚ろな視線は、いつの間にかまっすぐ健人を捉えていた。

 既に目が見えないはずなのに、一度も言葉を発していない健人を見つめるその姿に、セラーナは違和感を覚える。

 それはこの場にいる者達すべてが感じていたが、まずはメリエルナ達が彼に星霜の書から何を読ませたのかを知るのが先決だった。

 

「……とりあえず、本題から入りましょう。貴方はあの吸血鬼達に見せられた星霜の書から、何を読み取りましたの?」

 

「見えたのは、太陽を失った冷たい世界。そして、巨大な白い弓でした。アーリエルの弓です。間違いありません」

 

 アーリエルの弓。その名前に、一同は息を飲む。それは神話の時代に名前が出てくる、古の弓の名前だったからだ。

 アーリエルはエルフの神であり、九大神アカトシュと同一視されている神である。

 そして、アーリエルの弓は、アダマンチンの塔で神々を騙した罪でロルカーンが捌かれた際、彼の心臓を番えて放つ際に使われた。

 以後、この弓は伝説の中に消えている。

 

「ハルコンの予言成就に、そのアーリエルの弓ってものが必要ってこと?」

 

「可能性はありますわ。アーリエルは太陽神。彼の弓には、その力が込められていると言われています。父が求めている“太陽の専制”には、うってつけの神具ですわ」

 

 アーリエルの弓について、今一歩よくわかっていないカシトの疑問に、端正な眉を曲げた厳しい表情のセラーナが答える。

 

「ですが、アーリエルの弓の場所は分かりませんでした。それを知るには他に二つの書が必要です」

 

 デキソンの説明が続く。

 どうやら、アーリエルの弓がカギだと分かっても、肝心の場所は全く不明らしい。

 健人達にとっては幸いだった。現状、吸血鬼側に一歩リードされている状態だからだ。

 

「他の書とは?」

 

「まずは、竜の星霜の書。ドラゴンと太陽神は、互いに深いかかわりがあります。それから、血に関する書も必要なようでした」

 

「竜の星霜の書は、確かグレイビアードが持っているよね?」

 

 カシトからの視線に、健人は頷く。

 竜の星霜の書は現在グレイビアードが持っており、リータが連絡をしてくれているはずだ。

 これも、健人達にとっては追い風だった。必要な二つの書のうち、一つがすでに判明している。

 

「となると、後は血の書ですわね……。場所は分かりますの?」

 

「いえ、書の詳しい場所までは見えませんでした」

 

 健人達一同は、思わずため息を漏らす。

 血の星霜の書の場所も分かれば、すぐに探しに行けたのだが……。

 

「ま、書の場所の問題はまだあるが、とりあえず今日はこの館で休んでいくといい」

 

 話がひと段落したところで、イドグロッドが軽い口調で場を和ませる。

 確かに彼女の言う通り、現状は膠着状態になった。油断はもちろんできないし、吸血鬼達よりも早く血の星霜の書の場所を突き止めなくてはならないが、今すぐどうにかできる問題でもない。

 それに、デキソンを救出するために、健人達もかなりの強行軍だった。一度休息した方がいいのは、確かだった。

 

『ありがとうございます。お世話になります』

 

「気にしなくていいよ。宴も延期になっていたからね」

 

 プラプラと手を振りながらニンマリと笑みを浮かべるイドグロッド首長。

 

「そういえば、そうでしたわね。クレティエン達は、まだこの街に?」

 

「ああ、衛兵や帝国兵、街の男達の何人かがテントに連れ込まれそうになっていたけどね」

 

(あの人は……)

 

「大丈夫でしたの? 裸にひん剝かれて公衆の前でモデルとかやらされませんでした?」

 

「……実行はされなかったよ」

 

「未遂にはなっていたのですね」

 

 知り合いの恥行に頭痛を覚え、健人は思わずこめかみを抑える。

 イドグロッドとしても、クレティエンの扱いには苦慮しているのだろう。

 なにせ相手は帝国貴族だ。おまけに、相当身分が高いときている。

 帝国軍と同盟関係にある側としても、ぞんざいに扱うわけにはいかない。

 まあ、公序良俗には反するが、それでも一定の秩序は守るし、今はコンスタンス・ミッシェルというストッパーもいる。

 平民の苦言と実力行使を受けてもかんしゃくを起こしたりしないので、そう言う意味ではクレティエンは良識ある貴族と言えた。

 だからこそ、イドグロッドもなんとか彼女を受け入れることができている。

 

「ああ、そうだケント。アンタ達が出て行っている間に、客人が来ていたよ」

 

(客人?)

 

「誰ですの?」

 

 イドグロッドがにんまりと笑みを浮かべて部屋の入口に目を向ける。すると、ガチャリと扉が開き、大柄なノルドの男性とブレトンの女性が入ってくる。

 

「ケント、セラーナ、久しぶり!」

 

「無事なようだな!」

 

 男女はドーンガードを説得するためにレッド・ウォーターの泉で別れたガンマーとソリーヌだった。ソリーヌは片手を上げながら満面の笑顔を浮かべ、ガンマーも仏頂面の口元に笑みをこぼしている。

 

「よかった。そちらも無事でしたのね」

 

「お互いにね。まあ、イスラン達は無事とはいいがたいけど……」

 

『何かあったんですか?』

 

「それは、本人から聞いた方がいいだろう」

 

 ガンマーが開いたままのドアの奥に向かって手招きをすると、促されるように三人の男達が入ってきた。

 ちょび髭の若いノルド、中年のオーク。そして、頭を剃り上げたレッドガード。アグミル、デュラック、イスランの三人だ。

 彼らが入ってきた瞬間、緊張が走る。

 以前、セラーナが吸血鬼と知られたことで、彼らと健人は刃を交えたことがある。その時の記憶は、健人の印象にも深く残っている。

 張り詰めた空気の中、視線をぶつけあう両者。先に口を開いたのはイスランだった。

 

「リフトの森以来だな」

 

「……ええ、そうですわね。それで、二人からお話は聞いているのでしょう?」

 

 声が出ない健人の代わりに、セラーナが会話する。

 硬い口調ではあるが、ガンマーとソリーヌの様子が比較的穏やかであることから、彼女の声にも、どこか期待を思わせる熱がこもっていた。

 

「ああ。お前の父親、ハルコンが率いるヴォルキハルと、奴らが成そうとしている予言についてもな」

 

 イスランは「はぁ……」と深く息を吐くと、組んでいた腕を下ろす。

 

「結論だけ言おう。私は君たちに協力することに決めた。ただ、あくまで私たちは吸血鬼ハンターだ。君が民の血を無差別に吸うようになるのなら、容赦なく君を処理しよう」

 

「よかったですわ。なら、問題ないと思います。今のところ、彼以外から血を貰うとは思いませんから」

 

 セラーナの流し目に釣られるように、イスランと健人の視線が合う。

 

「こうして会うのは二度目だな。色々あったが、ガンマー達の話を聞いて、君に協力することにした。よろしく頼む」

 

 寡黙なレッドガードらしく、強面の顔からは感情は読み取れないが、イスランの声色に敵意の色はない。

 それに健人も、今は一人でも多くの協力者が欲しい。

健人は小さく頷くと、イスランに右手を差し出した。

 協力を求める握手。

 それを前にイスランはその強面を僅かに崩すと、健人の手を固く握りしめた。

 

「一つ、話しておかなければならないことがある。残念だが、少し前にドーンガードは壊滅してしまった」

 

 ドーンガードの壊滅。

 それを聞いて、ソリーヌ達に目を向けると、彼女達もイスランの言葉を肯定するように首肯した。健人は唇を嚙みしめる。

 

「私の留守中にヴォルキハルの吸血鬼に襲撃されてな。襲ってきたのは、ヴィンガルモとオースユルフという名の吸血鬼だ」

 

「父の側近ですわ。よく逃れられましたわね」

 

「ソリーヌとガンマーのおかげでな。それから、この二人は妙な首輪をしていた。二人に聞いたところ、デイドラの呪物のようだったが……」

 

「もしかして、嘆きの首輪ですの?」

 

 セラーナがソリーヌに尋ねると、彼女は小さく頷く。

 嘆きの首輪がヴィンガルモとオースユルフにつけられたことを知り、セラーナは一瞬驚いた様子を見せるも、直ぐに納得したように細い指を口元にあてた。

 

「二人はヴォルキハルの中でも野心家でした。おそらく、その過ぎた野心が父の勘気に触れたのでしょう」

 

「残ったのは我々だけだ。情けない話だが……」

 

『いえ、貴方だけでも生き残ってくれたのは幸いです。協力してくれるなら、とても頼りになります』

 

「ふ、本当に襲ったことを気にしていないのだな。分かった、吸血鬼の脅威を取り除くために、全力を尽くすとしよう」

 

『ソフィ、ウィンドスタッドにいるヴァルディマーに話を通しておいてくれ』

 

「分かりました」

 

 ソフィはアスルフルから羊皮紙を受け取ると、手早く手紙をしたためる。

 書き終わると、健人とソフィの連名でサインを入れ、イスランに手渡す。

 

「ありがとう。君の信頼に感謝する」

 

 イスランが手紙を受け取ったところで、イドグロッドが話を切り替えるように、パン! と手を叩く。

 

「さ、色々まだまだ問題は山積みだが、今日くらいは騒いで英気を養ってくれ」

 

「これから宴がありますけど、貴方達はどうします?」

 

「だが、いや、我々はすぐに動くとする。時間が惜しい」

 

 セラーナがイスランに尋ねると、彼は寡黙な表情で辞退してきた。

 

「え~~!? ここまで必死に逃げてきたんだから、今日くらい休みたい!」

 

「何を言っている。我らは追われる身なのだ。パーティーに参加している暇など……」

 

「ぶ~~ぶ~~ぶ~~」

 

 イスランがもっともなことを言うが、ソリーヌは引かずに抗議の声を上げる。

 ガンマーとデュラックは特に変わらぬ表情だが、アグミルの方は少し不満そうな様子を見せていた。

 

「疲れているのは貴方達も同じでしょう? 次の戦いのためにも、休息は必要と思いますわ」

 

「……わかった。世話になる。ただ、宴には参加せず、宿屋で休ませてもらうことにするよ」

 

 一応、健人の帰還を祝う場なので、自分たちが参加するのは違うという意識がどうしても残るのだろう。

 健人としても、疲れている彼らに無理をさせるのは気が引けた。

 

「デキソン殿はどうする?」

 

 イドグロッドの視線が、次はデキソンに向けられる。

 

「もしよければ、参加させていただきます」

 

「そりゃよかった。宴の人数は多い方がいいからね」

 

「ありがとうございます。再開闢の英雄と共に一時を過ごせるなど、これ以上ないほど名誉です」

 

 その言葉に、一瞬その場の空気が固まった。

 健人が再開闢の英雄であることを知っているのは、ごく一部の人間だけだ。

 それをなぜ、一度も面識がないデキソンが知っているのだろう。

 

「あの、お爺さん。どうしてケントが、その……」

 

「聖蚕会は、タムリエルの中でもっと多くの星霜の書を保管しております。当然、三年前の“瞬きの闇”で何が起きたのかも、把握しているのですよ」

 

 カシトの質問に対するデキソンの答えに、一同は納得した。

 聖蚕の僧侶が星霜の書を読む者達であるのなら、健人とアルドゥインとの間に何が起きたのか知っていても不思議ではない。

 

「この世界の再構成については、三年前の時点で既に聖蚕会は把握していました。しかし、混乱を避けるために皇帝タイタス・ミード2世によって徹底的に秘匿されていたのです」

 

 そう言うデキソンの視線は未だにまっすぐ健人を捉えていた。

 白く濁った瞳の奥にうねる、隠し切れないほどの興奮。健人は思わず慄く。

 

「光を失ったからでしょうか。本来、目に見えるはずのないものが良く見えるのです。貴方様はまるで、星霜の書を思わせる虹色の光を湛えている」

 

 視力を失ったからなのか、それとも、星霜の書に触れたからなのか。どうやらデキソンは、健人の存在だけははっきりと感じとれるらしい。

 

「世界を飲み込んだアルドゥインと戦い、彼を倒してタムリエルを救った英雄。できるなら、一度お会いしたかった」

 

『別に俺は……』

 

 そこまで黒板に書いたところで、健人は目が見えないデキソンには、筆談を読めないことに気づいて手が止まる。

 その間にもデキソンの言葉は続いた。

 

「そんな貴方様に、伝えなければならないことがあります。闇の奥から忍び寄る、静かな危機の予兆について」

 

(危機?)

 

「そもそも、私がこの地に来た理由は、聖蚕会で保管していた星霜の書に、ある予言が現れたからです」

 

“夜のとばりが降り、血の霧に包まれた冬の地で、雪の春が訪れる時、竜の咆哮と共に、創世の片割れが帰還する”

 

「三年前より、全ての星霜の書に刻まれた予言になります。どなたを指しているのかは、お分かりかと……」

 

 全員の視線が、デキソンから健人に向かう。

 言うまでもない。彼の帰還を示した予言だ。

 一方、自身のことが星霜の書の予言に刻まれていたことに、健人は何とも言えない微妙な表情。世界を救うことになったとはいえ、元は彼の目的は義姉を憎悪の連鎖から解放するという自分のわがままから。

 世界が呑み込まれた後は、ただ悔いのないようにしたかった。それだけなのだ。

 だから、称賛されるのは正直、心苦しい。

 

「ですが、本当に問題となったのは、この次に読まれた予言になります」

 

“回帰した竜魂が血の穢れに触れ、神々の戯れが交わる時、ほころびた時の守りが砕かれ、永遠の夜が訪れ、世界は終わりを迎えるだろう”

 

 だが、そんな健人の内省も、次にデキソンが漏らした言葉に吹き飛ばされた。

 

「世界の終わり……ですか」

 

 場の空気が、一気に冷え込む。

 まるで氷河に閉じ込められたかのような寒気に、身震いをする者もいた。

 聖蚕の僧侶の言葉は、この世界では非常に重い。

 数千年の歴史の中で、聖蚕の僧侶たちは大きな代償を払いながら、タムリエルに降りかかる闇を予見してきたからだ。

 その聖蚕の僧侶が、はっきりと滅びについて明言した。

 

「永遠の夜とは、おそらく父が目指している太陽の専制を示していると思われますわ……」

 

 セラーナの深刻な口調に、健人達も頷く。

 

「血の穢れは、健人に掛けられたモラグ・バルの魂縛だろうね」

 

「…………」

 

 イドグロッドの視線は、白いマフラーを巻かれた健人の首に向いていた。

 元凶であるセラーナは黙り込み、小さく唇を噛んでいる。

 

「この予言の予兆は、少し前から現れています。その片鱗は、皆さんも私が囚われていた洞窟で目の当たりにしたかと思いますが……」

 

「ちょっと待ってくださいまし。もしかしてそれは、メリエルナが召喚した……」

 

 健人、セラーナ、ソフィ、カシトの脳裏に、メリエルナが遺跡で召喚した巨大デイドラの姿が蘇る。

 あのタイタンがもつ魔力はあまりにも破格だった。

 本来なら、あんな洞窟や遺跡など、早々に破壊しつくされ、健人達は消し炭になるか、崩落した瓦礫に飲まれて生き埋めになっていただろう。

 上半身だけの召喚な上に拘束されていたから、あの程度で済んだのだ。

 

「はい、あのレベルのデイドラを召喚することは、本来どんな存在にも不可能なはず。それができたのは、竜神アカトシュの障壁が綻び、消えかけているからです」

 

 その言葉に、健人達は今度こそ言葉を失った。

 

 

 

 




と、いうことで、第二章エピローグの前半です。
エピローグが二万文字近くになったので、二つに分けました。此方はシリアス寄り。

主な出来事はドーンガードの合流。そしてデキソンからアーリエルの弓の存在と、不穏な予言についてでした。
再び世界の危機が星霜の書に記されていたということで、一同茫然としております。
後編は確認が終わり次第、投稿します。

以下、用語説明

・アーリエル
 エルフの神であり、アカトシュと同一視されている存在。
 アーリエルの弓は彼の神具であり、DLCドーンガードではカギとなるアーティファクトだった。
 ロルカーンとの戦いでは戦神に貸し与えられ、かの神の心臓を引き抜いた際に飛ばすため用いられている。
 その心臓が落ちた場所が、モロゥウィンドのレッドマウンテン。


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