【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第三話 グレイビアードと追跡者達

 健人達の目の前には、雪に半ば埋もれたような、石造りの寺院が佇んでいる。

 長い間、風雨にさらされてきた影響なのか、建材の石は所々欠けたりひび割れたりしており、雪崩などに巻き込まれたら倒壊しそうな雰囲気である。

 ハイフロスガー。

 世界のノドにある七千階段と呼ばれる険しい山道を越えた先に存在する、スカイリムで最も尊ばれているグレイビアードが住む寺院である。

 世界のノドはタムリエル大陸の中で最高峰の山であり、長く急勾配の山道と吹き付ける強風が、登山者の体温と体力を容赦なく奪っていく。

 吐く息が凍り付き、息を吸うだけで肺が痛むほどの厳しい登山。

 しかし、ノルドですら厳しいこの山道を、健人はリータ達の力を借りて何とか乗り越えた。

 

「ここが、ハイフロスガー……」

 

「行くぞ」

 

 先行したドルマが、重厚な扉を開けると、健人達の目の前には、広い広間が広がっていた。

 装飾などは全くない。

 寺院の中は静寂に満ちており、彼方此方に設けられた松明や火床の薪がパチパチとはぜる音だけが響いている。

 

「ほう、この時代の変わり目にドラゴンボーンが現れるとはな」

 

 唐突に掛けられた声に、リータ達は広間の奥に目を向けた。

 明かりの影から、特徴的な導師服を纏った老人が四人、姿を現す。

 

「あなた達がグレイビアード?」

 

「そうだ。お前の“声”を聞き、ここに呼んだのだ。お前が真に恩恵を授かったものか確かめるためにな」

 

 四人の老人のうち、一人が一歩前に踏み出してくる。

 重ねてきた年月を示すかのような皺に覆われた顔と、先を纏めた豊かな髭が特徴的な老人だ。

 

「私はアーンゲール師。グレイビアードの声だ。見せてみよ。我らにお前の声を味わわせよ」

 

 アーンゲールと名乗ったグレイビアードは、両手を広げて、リータにシャウトを自分に放てと誘ってくる。

 リータはしばらく逡巡した様子を見せていたが、やがて覚悟を決めたような表情を浮かべると、一度大きく息を吸いこみ、丹田に力を込めて“声”を放った。

 

「ファス!」

 

 衝撃波がアーンゲールに叩き付けられ、豊かな髭と導師服が勢いよく煽られる。

 背後にある壺が吹き飛ばされ、次々に割れていく中、アーンゲールはどこか恍惚とした表情を浮かべていた。

 

「間違いない、ドラゴンボーンだ。内なる恩恵がある。ハイフロスガーにようこそ」

 

 リータの声に特別な力を感じ取ったのだろう。

 アーンゲールはゆっくりと両手を下すと、リータに歓迎の言葉を贈る。

 

「ドラゴンボーンよ。お前は我らに何を求める?」

 

「ドラゴンボーンの力は何なのか、この力を持つ意味を知りたい……」

 

 リータがこの場所に来たのは、自分が秘めている力。ドラゴンボーンの力について知るためだ。

 竜の血脈ともいわれるこの力は、タムリエルの歴史の中で、何度も表舞台に出てきている。

 もっとも古くは、第一紀250年前後の聖アレッシアと龍神アカトシュの契約にまで遡る。

 聖アレッシアは神々であるエイドラの長アカトシュと契約し、王者のアミュレットの力によってオブリビオンの扉を閉じた。

 この契約は第三紀の終わりまで続くことになるが、この事実はタムリエルのだれもが知る確固とした史実として、認識されている。

 リータ達が生きている時代は、第四紀の201年。

 第二紀は約800年、第三紀は約400年続いており、聖アレッシアが生きた第一紀に至っては2400年程。

 つまり、数千年という遥か昔から、ドラゴンボーンという存在は、この世界に影響を与えてきたのだ。

 アーンゲールはリータの言葉を聞き、しばしの間、熟考するように顎髭を撫でると、おもむろにリータの問いに答え始めた。

 

「ドラゴンは生まれつき、声の力で外界に働きかけることが出来る。そして、倒した同族の力を吸収できる」

 

 アーンゲールの言葉では、ドラゴンの言葉はそれ自体が極めて強力な魔法の言葉であり、また、ドラゴンはどうやら同族の力を吸収できるらしい。

 健人の脳裏に、リータがミルムルニルを倒した時の光景がよみがえる。

 燃え尽きるように光ったミルムルニルの亡骸は骨だけになり、ドラゴンの遺体から溢れた光をリータは吸収した。

 その時、ミルムルニルの体から漏れ出した光は、おそらくはかのドラゴンの力。魂そのものだったのだろう。

 

「定命の者の中にも、同じような力に目覚める者もいる。それが恩恵なのか呪いなのかは、数世紀にわたる議論の的であった。そしてドラゴンボーンは危機の時に神々より遣わされたのだと信じる者もいる」

 

 どうやらドラゴンボーンの存在意義については、未だに明確な答えが出ていないらしい。

 さらにアーンゲールは、ドラゴンボーンの具体的な力についても話し始めた。

 

「才ある常人が数年かけて学んだものを、お前は数日で理解してしまう」

 

「でも、私は言葉を学んだことなんてなかったのに、シャウトを使えましたが……」

 

「そうか……。心当たりはある。ドラゴンボーンは竜の魂をその身に持つ者。おそらくだが、そのドラゴンが使っていた言葉を、お前は既に聞いたことがあったのではないか?」

 

「…………」

 

 アーンゲールの言葉に、リータは小さく頷いた。

 リータがミルムルニル戦で使っていた言葉は“ファス”。

 “力”を意味する言葉であり、外界に働きかける根本的な要因を表す言葉だ。

 そして、ミルムルニルもまた、この言葉をホワイトランでの戦いで使っていた。

 

「おそらく、お前の中の竜の魂が、お前が最も欲した“力の言葉”に反応したのだろう。遥かな昔、オラフ王がヌーミネックスと戦った時も、彼は学ばずしてシャウトを使ったという伝説がある」

 

 オラフ王とヌーミネックスの伝説は、スカイリムの中でもよく知られた話だ。

 ドラゴンボーンであるオラフ王が、ドラゴンであるヌーミネックスを、その“声”でもって屈服させたという伝説。

 その伝説の中にあるヌーミネックスとの戦いの中で、突然シャウトに目覚めたオラフ王の姿が描写されている。

 

「それでどうする? “声”について、学ぶ気はあるか?」

 

「はい。教えてください。この“力”について」

 

 即答で答えるリータの言葉に、アーンゲールは少し眉をひそめたが、やがて静かに頷いた。

 

「いいだろう。己の“運命”を遂げるために恩恵を使うにはどうするべきか、我々が最善を尽くして教えよう」

 

 グレイビアードの協力を得られることに、リータは少し安堵しつつも、アーンゲールの言葉が引っ掛かっていた。

 

「あの、ドラゴンボーンの運命って、一体……」

 

 運命。

 科学技術を基盤とした生活を送っていた健人には胡散臭いと思える言葉だが、ドラゴンボーン本人であるリータにとってはとても気になる言葉だった。

 

「ドラゴンボーン、それはお前が見つけるべきものだ。我らは道を示すことは出来るが、目的地は示せない」

 

 坦々としたアーンゲールの返答は、やはりどこか雲をつかむような捉えどころない物だった。

 声を通して修練を積む修験者ゆえの言葉なのだろうが、己が伝説のドラゴンボーンと知ったリータにとっては、遠回しなアーンゲールの言葉に、どうしても焦燥を感じてしまう。

 だが、今は気にしても仕方ない事は事実。

 リータは一度瞑目し、深呼吸をして気持ちを切り替える。

 

「……分かりました。修練を始めてください」

 

「ではお前に修練を受けるための意思と能力があるか、見せてもらおう」

 

 そして、リータの“試練”が始まった。

 アーンゲールはリータを広間の真ん中へと案内しながら“声”と“ドラゴンボーン”について、講義を行う。

 

「鍛練がなくとも、お前は既に声をスゥーム、シャウトとして放出するための一歩を踏み出している。

 叫ぶとき、お前は竜の言葉でしゃべることになる。お前の竜の血脈が、言葉を学ぶための内なる力を与えているのだ」

 

 既にリータは、シャウトを使うという事自体は出来ている。

 それはやはり、彼女の中の竜の血脈故であるらしい。

 

「すべてのシャウトは三つの力の言葉で形作られている。言葉を一つずつ習得していけば、お前のシャウトも順に強くなっていく」

 

 健人はアーンゲールの話を広間の端で聞きながら、シャウトについて考えていた。

 アーンゲールの話では、シャウトは三つの言葉を揃えることでより強力になっていくらしい。

 実際、ミルムルニルはシャウトを放つ際、三つの言葉を使っていた。

 一方、リータが使う衝撃波を放つスゥーム“揺るぎ無き力”は、まだ一節しかない。

 グレイビアードの一人が前に出て、床に向かってシャウトを放った。

 

「ロゥ……」

 

 地面に、三本の鉤爪で引っ掻いたような、奇妙な文字が現れる。

 

「これが“ロゥ”。均衡を意味するドラゴンの文字だ。読んでみるがいい」

 

「あ……」

 

 床に刻まれた文字を見た時、リータは己の心臓がドグンと高鳴るのを感じた。

 臓腑の奥から湧き上がる熱が、全身に広がっていく。

 それは、リータが取り込んだミルムルニルの魂から、力と言葉の意味を引き出した瞬間だった。

 煮えたぎるように熱くなる体とは別に、澄んだ水のように、脳裏に力の言葉が涼やかに響く。

 

“ロゥ”

 

 拮抗、膠着、バランス。それを意味するシャウト。

 

「ウィ……ロ、カーーン!」

 

 グレイビアードの一人が、リータ達が聞いたことのないシャウトを放つ。

 続いて、うっすらと影を思わせる人形が現れた。

 どうやら、幻影を出現させるシャウトのようだ。

 

「ドラゴンボーンよ、その声を解き放ってみるがいい」

 

 生み出された幻影を指さし、アーンゲールがリータに力を使ってみるよう促してくる。

 アーンゲールが促すままに、リータは新しく覚えた力の言葉を解放した。

 

「ファス……ロゥ!」

 

 生み出された衝撃波は、先ほどアーンゲールに放ったものよりも遥かに強力になっていた。

 一撃で幻影を消し飛ばし、背後にあった壺や調度品を吹き飛ばす。

 吹き飛ばされ、壁に叩きつけられた壺や調度品がガシャガシャと割れる光景に、アーンゲールは静かに頷いた。

 

「なるほど、お前の言葉は正確だ。次は、新しいスゥームをどれだけ早く身に付けられるか試してみよう」

 

 そう言うと、アーンゲールはリータ達についてくるよう促し、寺院の奥へと歩き始めた。

 広間の奥の階段を上り、大きな両開きの扉を抜けると、そこは外に続いていた。

 雪の積もった外には、一際高い塔と、奥の登山道へと続く門が見える。

 塔の手前には、なぜか鉄の扉だけが存在し、グレイビアードの一人が、門の傍で控えていた。

 

「初めにウルフガー師が“旋風の疾走”のスゥームを実演する。見ているがいい」

 

 ウルフガーと呼ばれたグレイビアードは前に出ると、奇妙な門と相対する。

 そして、門の傍に控えていたグレイビアードが門を開けた瞬間、文字通り“旋風”となっていた。

 

「ウルド、ナ、ケスト」

 

 旋風の疾走。

 術者を風のごとく前へと押しやるシャウト。

 風となったウルフガーは、瞬く間にリータ達の前から消え去り、雪上に一直線の軌跡だけを残して門を通り抜けていた。

 

「どうだ、ドラゴンボーン?」

 

 リータは突然目の前から消えたグレイビアードの速度に驚嘆しながらも、深呼吸をして己の内にある竜の魂に意識を集中する。

 先程のウルフガー師がシャウトを使っていた時に、彼が使っていた単語は三つ。

“ウルド”

“ナ”

“ケスト”

 その言葉の意味を探るため、自分が取り込んだ魂に命じる。

 力を、力の言葉を教えろと。

 内なる魂から彼女が聞いた言葉は一つだった。

 

「…………」

 

 リータは無言で前に出て、先ほどウルフガー師がやったように、奇妙な門と相対する。

 

「門が締まる前に、旋風の疾走を使って駆け抜けよ」

 

 アーンゲールの言葉を皮きりに、門が開かれた。

 

「ウルド!」

 

 刹那、リータは“風”になった。

 力の言葉が意味するままに旋風となったリータは、十メートルの距離を瞬く間に走破し、門の間を駆け抜けた。

 

「見事だ。お前の声は正確だ。これほどの速度でシャウトを使えるようになるとはな。

 まさに恩恵を授けられし者。これからが楽しみだなドラゴンボーン」

 

 アーンゲールが上ずったような声を上げる。

 厳とした表情そのままだが、頬の皴が僅かに深くなっているところを見ると、どうやらかなり興奮しているようだった。

 長年悟りを開くために修練し、鍛練を続けている者がこれほどの興奮を露わにするという事は、それだけドラゴンボーンの力が驚異的であることの証だった。

 

「さて、本格的な修練を始める前に、お前にはやって貰わなければならないことがある。

 ウステングラブの遺跡に向かい、われらの始祖、ユルゲンウインドコーラーの角笛を取ってくるのだ」

 

「爺さん、俺達には時間がない。そんな事よりも、早くリータにもっと修練を受けさせてほしいんだが……」

 

 アーンゲールの言葉に、ドルマが待ったをかける。

 リータとしても、内心ではすぐさまシャウトの鍛練を始めたかった。

 しかし、アーンゲールは首を振って、ドルマの言葉を否定した。

 

「ダメだ。これは修練の一つだ。遺跡にはシャウトを正しく使うことで進める。言葉の力を正しく使う事を学ぶ意味でも、この修練は必要だ」

 

「今この瞬間にも、ドラゴンに襲われている人たちがいるかもしれません。その人達を救うためにも、リータには早く鍛練を……」

 

「お前達の焦りは分かる。だがそれは、私達にとって問題ではない」

 

 健人もリータの修練を始めてくれるように懇願するが、アーンゲールの返答はにべもないというものだった。

 

「ちょっと待って下さい! 問題ではないっていったいどういうことですか!」

 

「我らグレイビアードは、声の道により静寂と鎮静を究めること目的とする。故に、世俗と関わることを良しとしない」

 

「でも、人が死んでいるんですよ!」

 

「人はいずれ死ぬ。遅いか、早いか、悟りを開いたか開いていないかの違いのみだ。

 それに、我らが使う“声”は、人の間で生きるには強すぎる。囁くだけで、無辜の民まで殺しかねん」

 

 グレイビアードは、日本における、修行を重ねる修行僧と同じだ。

 世俗との関わりを断ち、欲を克服し、悟りを開くことを目的とする集団。

 同時に、シャウトを争いには使わないと誓った人間達だ。

 そんな彼らにとっては、ドラゴンの復活と人類の粛清も、自然の流れの一つなのである。

 同時に、彼らが持つ力が大きすぎるというのも理由の一つだ。

 シャウトの力があまりに大きすぎるからこそ、世界のノドという世俗から隔離された地で修練を行っているのである。

 

「……分かりました。角笛を取ってきます」

 

 アーンゲールの言葉に、リータは仕方なくウステングラブへ向かうことを決める。

 彼女の返答を聞いたアーンゲールは静かに頷くと、寺院の奥へと消えていった。

 

「ウステングラブは、モーサルの北側です。一旦イヴァルステッドまで戻り、モーサルに向かう事にしましょう」

 

 リディアの提案に、リータ達は頷くと、即座に下山のための準備を始める。

 下山後、一行はウステングラブに向かうため、イヴァルステッドには泊まらず、すぐさま北へと向かって旅立って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 健人達がウステングラブへ向かうために、モーサルへと向けて旅立った数日後。

 イヴァルステッドの宿屋の主、ウィルヘルムは、奇妙な客を出迎えることになった。

 黒を基調とした仕立てのいいローブを着た、長身の男性。所々に金の刺繍が施された それを羽織る人物は、その細長く、白い顔を店主に向けながら、不遜な態度で質問をぶつけてきた。

 

「それで、ドラゴンボーンの一行はここを通ったのか?」

 

「さてね。高尚なエルフ様こそ、どうしてこんな田舎の宿屋に?」

 

「質問に答えろ。ドラゴンボーンを名乗る女はここを通ったのか!?」

 

 アルトマー。このタムリエルで最も魔法に長けた種族。

 人間たちの間ではハイエルフと呼ばれ、タムリエル大陸の西側の海に存在するサマーセット島に住むエルフだ。

 サマーセット島を拠点としてアルドメリ自治領という勢力を形成しており、その軍事力は他の追随を許さないほど強力なものである。

 このアルドメリ自治領との戦争の結果、帝国は大きな打撃を受け、結果、帝国の支配力は大きく減退。

 白金協定でハンマーフェルの南側を割譲させられた上、さらにタロス崇拝を禁止される羽目になる。

 そして、彼らはアルドメリ自治領を実質支配している組織、サルモールの人員だった。

 サルモールはエルフ至上主義を掲げた過激派であり、200年前のオブリビオンの動乱で台頭してきた経緯がある。

 また、ハイエルフは過去にノルド(正確にはその祖先であるネディク人)を奴隷にし、ノルドは今の帝国建国時にアルドメリ自治領にとある超兵器を使用して攻め込んでいたりと、両種族は古代からの怨敵同士でもあった。

 

「こんな寂れた宿屋の店主に向かって、大声を上げるなよ。思わずチビッちまう」

 

 宿屋の店主は突然やってきた迷惑な客に対して軽い言葉を返すが、内心では本当に恐怖でチビりそうだった。

 サルモールは、自分達に逆らうものに対して容赦はしない。

 特に人間に対しては、その残虐性を剥き出しにし、帝都がアルドメリ自治領に占領された時は、その血で帝都中央にそびえ立つ白金の塔が紅く染まった、なんて話すら出たくらいだ。

 

「そ、そうだなキラキラの光物でも見せてくれるなら、あまりの眩しさに何か思い出すかもしれないな」

 

「卑しい俗物め……これでいいだろう。小娘がどこに行ったのか、さっさと話すんだ」

 

 恐怖に駆られながらも、精一杯虚勢を張ろうとしているのは、ノルドのプライドの高さ故なのかも知れない。

 一方の高官は金銭の要求を馬鹿正直に受け止めたのか、豚を見るような視線を店主に向けながらも、懐から金貨の入った小袋を取り出して、カウンターの上に放り投げた。

 宿屋の主人がカウンターの上に放り投げられた小袋を恐る恐る手に取ると、ずっしりとした重さが彼の手に掛かってきた。

 

「ええっと……確か、ハイヤルマーチのモーサルの方に行くとか言っていたな。ウステン……何だったかな? そこまでは覚えてない」

 

「ふん……」

 

 サルモールの高官は宿屋の主人から一通りの情報を聞き出すと、さっさと踵を返して外に出た。

 宿屋の外には、彼に付き従っていたハイエルフの兵士が待機していた。

 宿屋の近くには彼らが乗ってきたと思われる馬が繋がれている

 兵士たちは金に似た光沢のある軽装鎧を纏っており、何事かと様子を窺ってくる村人達を、嫌悪感たっぷりの視線で睨みつけている。

 サルモールの兵士だけあり、やはりこの兵士たちも、人間達に対して蔑みの感情を隠そうとはしていなかった。

 

「目標はモーサルだ。すぐに移動するぞ」

 

 サルモールの高官の指示のもと、兵士たちは馬に乗ると、次の目的地に向かうためにイヴァルステッドを後にした。

 

「しかし、あの話は本当なのでしょうか?」

 

 兵士の一人が、高官に対して質問をしてきた。

 質問を受けた高官は、つまらない事を聞くなと言うように鼻を鳴らすと、吐き捨てるように部下の質問に答えた。

 

「真偽はこの際どうでもいい。人間どもをつけ上がらせるような存在は、邪魔にしかならん」

 

 彼らの目的は、最近噂になっているドラゴンボーンの確保だ。

 ドラゴンボーンの存在は、アルドメリ自治領にとっても無視できない。

 何故なら、第二紀の終わりにアルドメリ自治領との戦争で、彼らの魔法艦隊を完膚なきまでに壊滅させたのが、そのドラゴンボーンだったからだ。

 タイバーセプティム。後にエイドラに昇神し、タロスとなったドラゴンボーン。

 ハイエルフにとっては、許しがたい怨敵である。

 そして、この時期に再び、そのドラゴンボーンが現れた。

 しかもその人物は、ハイエルフにとって天敵ともいえるタイバーセプティムと同じノルド人。

 このような事を、エルフ至上主義のサルモールが黙って見過ごせるはずもなかった。

 早急に真偽を確認し、手段を選ばず確保するべきだという話になり、その尖兵としてこの高官達が派遣されることになったのだ。

 

「汚らわしい人間が、アカトシュの加護を受けるなど……忌々しい。いくぞ。ウステングラブの遺跡でドラゴンボーンを名乗る愚か者を殺す」

 

 しかし、命令を受けたこの高官は、ドラゴンボーンの確保など考えていなかった。

 その存在を確認でき次第、殺すつもりであった。

 ハイエルフゆえの過剰な自尊心と、かつては悪神を崇めていたくせに、龍神アカトシュの加護を受けた人間に対する嫉妬心を滾らせる。

 その金の瞳に憤怒の炎を揺らめかせながら、サルモールの一行はドラゴンボーンを追って、モーサルへと進んでいった。

 




ハイフロスガーへの道中は、文章量の都合でバッサリカット!
道中のトロールさん涙目。
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