【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
ちょっと短いですが、閑話を書きましたので投稿します
亡霊の海に面した小村、ウィンドスタッド。海からの冷たい風に吹かれ続けるこの場所も、この時期になると、暖かい春の日差しがさし始める。
そんな村の中で、ひときわ大きな屋敷。ウィンドスタッド邸の二階にある一室で、屋敷の主である健人はまどろみから覚めようとしていた。
(ん……)
毛皮の布団の温もりに包まれる中、ゆっくりと昇っていく意識を自覚しつつも、顔に触れる冷気から逃れるように、彼は体を震わせた。
たとえ春でも、スカイリムは日本と比べても遥かに寒い。
ついつい、身を縮こませてしまうのは、この地に来てから常だった。
その時、腕の中にひときわ温かい塊が腕の中で震えた。
まるで綿のように柔らかく、懐炉のような温もりを伝えてくる何か。
(なんだろう、これ。あったかいな~~)
早朝の冷気に追い立てられるように、健人は腕の中の“それ”を抱きしめる。
「んう……みゅう……えへへへ……!」
(……あれ?)
腕の中の塊が、子猫のような甘い声を漏らす。
健人がゆっくりと目を開けると、胸元に顔を押し付けて子猫のようにゴロゴロしているブラウン色の髪を広げた少女の姿があった。
「にゃむにゃむ……あ、兄さん、お早うございます」
布団に潜り込んでいたのは、義妹であるソフィ。
彼女は健人が起きたことに気づくと、うららかな春を思わせる笑顔を浮かべる。
ここ毎朝、いつも目にする光景だった。
安らぎを覚える笑み。だがなぜか、胸の奥でうずく感覚が走る。
その理由に、健人自身、思い当たる節があった。
(まさか、俺が誰かから告白されるなんて思いもしなかった。しかもそれが、ソフィからだなんて……)
『私にとって兄さんは大切な家族です。でもそれ以上に、恩人で、憧れで、目標で、なにより一緒にいて欲しい人です。あの冷たいウィンドヘルムの裏路地で、出会った時から……』
聖蚕の僧侶を助けた後、帰ったモーサルでソフィから“想い”を告げられた。
健人にとっては、完全な予想外。
あの宴からそれなりに時間が経っているが、未だにどこかふわふわと宙に浮いたような感覚を覚えている。
(でも、現実なんだよな……)
『覚えておいてください、兄さん。ノルドの恋は、万年雪を溶かすほど熱いんです。私は必ず、兄さんを振り向かせてみせます』
宴の場で告げられた宣言を思い出しつつ、胸元で甘えてくる義妹を見下ろす。
(とはいえ、さすがにそうなると、一緒に寝るわけにもいかないな)
健人がソフィを妹と思っていても、ソフィが健人を男性として見ているのなら、同衾を続けるのはまずい。
ソフィの年齢は、地球で言えば中学生。一方で健人は、大学生くらいの年齢だ。
さすがに、今の彼女を恋愛対象とするのは、倫理観が咎める。健人はロリコンではないのだ。
(そもそも、血は繋がっていないんだから、もっと注意するべきだったのかもな……)
思い返せば、健人はウィンドヘルムでソフィを引き取って以降、彼女が甘えてくることをよしとしていた。
それは、両親を失い、飢えと寒さ、なにより孤独で傷ついていた彼女に、少しでも元気になって欲しかったからだ。
実際、健人の献身と気遣いのおかけで、ソフィは心を開き、ウィンドスタッドに来る頃には、すっかり年相応の元気を取り戻していた。
しかし、健人のその気遣いが、ソフィの恋慕を加速させていたことは間違いないだろう。
とはいえ、今さら過去を振り返っても仕方がない。
健人は気持ちを切り替え、起きるために、未だにすりすりと甘えてくるソフィの肩に手を置く。
(……ん?)
手に返ってくる柔らかい感触に、健人は思わず首を傾げた。
普段はもう少しごわついた感触が返ってくるのだが……。
手の裏に感じる熱も、妙に温い。
ちなみに、健人のベッドに使われている毛皮は、クロクマのものだ。
ウィンドスタッド付近をうろついていた個体を、ソフィと衛兵たちが仕留めたものらしい。
不思議に思いつつ、健人は体にかかっていた毛布をどける。そして目に飛び込んできた光景に、思わず目をぱちくりさせた。
灰黒色の毛布の下から、一糸まとわぬ滑らかな肌色が姿を現したのだ。
(はい?)
血色の良い、健康的な肌。緩やかな丘隆を描く胸。掴めば惚れそうなほど細い腰と、薄いながらも、熟れつつある脚線美。
子供の皮を脱ぎ、女性になりつつある少女の生まれたままの姿がそこにあった。
「いきなり布団を剥ぐなんて……兄さん大胆ですね」
(ちょ、ソフィ! お前、なんで裸……!)
「女性として見てもらうために一番効果的だと思いまして。どうです兄さん、ドキドキしますか?」
己の裸体を主張するように、ソフィはさらに健人に身を寄せる。
彼女の肌から伝わる体温がいっそう熱を帯び、ススス……と寝間着とはだが擦れる音すら、健人を誘惑しているかのように色香を放ち始めていた。
「私は、とてもドキドキしています。いえ、ずっとドキドキしていました。兄さんに家族として迎え入れてもらって、抱きしめてもらって、頭を撫でてもらう、その度に」
蕩けるような声色で囁きながら、ソフィは健人に顔を寄せていく。
まるで、これから口づけでもするような雰囲気。健人は目見開き、思わず身をのけぞらせる。
(ちょ、おい、こら……!)
夜這いならぬ朝這い。しかも、仕掛けてきた相手が義妹という状況に、健人はさらに混乱していく。
ソフィはそんな兄の反応を見て嬉しそうに頬を染めつつ、さらに顔を近づけた。
「そんな兄さんの顔、初めて見ました。嬉しい……」
同時に、健人の頬が一気に熱を帯びていく。どうやら、ソフィのたくらみは非常に効果的だったらしい。
(……ふん!)
「へぷっ!」
しかし、ソフィの唇が健人に触れる前に、彼は右の手のひらを間に割り込ませた。
手のひらに熱を帯びた柔らかい感触が広がるのを努めて意識の端に放り投げつつ、健人は迫ってきていたソフィを引き離す。
「ぷは! もう、兄さん。ここは男らしく、ガバッと抱きしめるところじゃないんですか?」
(やかましいわ!)
ブンブンと顔を振って健人の手から逃れたソフィが不満そうに唇を尖らせるも、健人は怒声を上げる。もちろん、声は出ないので口パクだ。
朝っぱらからとんでもない襲撃を受け、喉が正常だったころの癖がつい出てしまっている。
というか、なんで朝這いなんて仕掛けてきたのか。
健人は剥がした毛布を裸のソフィに被せつつ、妹を床に正座させた。
そして、枕元に置いてあった黒板に文字を書きなぐる。
『ソフィ、一人前の大人の女性なら、みだりに男の部屋に潜り込んではいけません! まして夜這い、朝這いなんてもってのほか!』
「兄さん以外の男の人に、こんなことしません!」
(兄だから大問題なんだってば!)
思わず、手の平でペシンとソフィの頭を叩く。ソフィの口から「へにゃん!」と気の抜けた悲鳴が漏れた。
さすがの健人も、ソフィのこの行動には説教せざるを得ない。
とはいえ、今の彼は声が出ないので、ジ~~! と無言で睨みつけることくらいしかできない。
「むう、これなら兄さんも私を女性として見てくれると思ったのに……」
一方、兄を篭絡できなかったソフィは口をとがらせ、不満顔。
『いきなり迫られても、驚きと困惑しかないよ! というか、どこでそんなこと覚えたんだ!?』
「え? この恋愛指南書に……」
そう言って、ソフィは一冊の本を取り出し、開いて健人に見えるように差し出してきた。
ついでに、かけた毛布の前をそれとなく開こうとしてきたので、健人は素早く本を取り上げ、片手で毛布の端を抑えつつ、ページに目を走らせる。
一言で言えば、片思いの相手に想いを伝える方法が書かれていた。書かれていたのだが……。
『男と女が最も美しく、自然体であり、かつ深く繋がれるのは、体の交わりを持つときである。それはまさに、剣が鞘に収まり、熱い窯が入れられたパンを焼き、極上のワインが樽の中で熟成するがごとく、至極当たり前の、普遍の事実である』
冒頭から隠す気のない隠語の乱発に、健人は思わず目をぱちくりさせる。
断定口調でいかにも格式高く、それでいて妙に人間心理を突いた細かい指摘もあったりするが、行っていることはただ一つ。
『とりあえず、襲って一発ヤレ!』
(なんだ、このとんでもない恋愛指南書は……!?)
手をしならせ、勢いで本を閉じて表紙を確認する。
そこには、健人も不本意ながらよく知る人物の名前があった。
『寝ぼけホーカー男の盛らせ方 -歴史上の女達は、いかにして男を堕としてきたか-』
著者 クレティエン・キュリオ
(あんの下半身おっぴろげアンポンタン貴族~~~~!)
声にならない絶叫を上げながら、健人は激情に駆られるまま自室を飛び出した。
そのままウィンドスタッド邸を出て、麓の村まで駆けると、村の入口近くに設置されたテント群に飛び込む。
そこは、『蒼の艶百合』のテント群だった。
モーサルでの宴の後、かの旅団はウィンドスタッドまでついてきていた。
淫乱団長曰く、その方が面白そうだからとのこと。
色々と問題を起こす女性であるが、帝国でも有力な貴族である彼女を押し止めることは、イドグロッド首長も難しいらしい。(モーサルでも手に余る問題児を押し付けられたともいえる)
突然駆け込んできた健人に、朝食の用意をしていたルナ達が驚いているが、健人は構わず、一番大きなテントの中に突入する。
「おや、英雄殿。朝からいきなりどうしたのかな?」
テントの中では、クレティエンがディベラの祠を前に、朝の祈祷をしていた。
例によって、布一枚纏っていないすっぽんすぽんで。
「もしかして、私の体が恋しくなったのかい? 起き抜けの姿での情事は正直、女性としては遠慮願いたいが、君が求めてくれると言うのなら私もやぶさかでは……」
振り向き、立ち上がったクレティエンは己の裸身を隠すことなく曝け出し始めた。頬を上気させ、艶めかしく微笑みながら、まるで健人を迎え入れるように両手を広げた。
名の知れた英雄ですら、思わず唾を飲むほど美しい肢体が顕わになる。
(天誅~~~~~~~~~~!)
「ぶべら!」
朝っぱらからこれ見よがしに身をよじらせ、流し目で誘惑してくる淫乱貴族。
だが、この怒りに突き動かされるこの男に、誘惑は通じなかった。
義妹に余計な知識を植え付けた元凶を前に、健人は容赦のない右ストレートを放つ。
世の男性全てを魅了する美神のごとき微笑が、まるでひょっとこのように歪んだ。
「もう、朝からいったい何をなさって……はい?」
「兄さん、お願いします! 思いとどまってください!」
「ああ~~~! 止めてくれケント! それが原著なんだ~~!」
『やかましい!』
数分後、突然の騒音を聞いて様子を見に来たセラーナが目の当たりにしたのは、テント群の前で焚書を試みる健人と、それを必死に止めようとしている親友と村長代理の姿だった。
その後、仲裁に入ったセラーナのおかげで、問題の書は焚書は辛うじて免れた。
この騒動は当然、昼までには村全体に広がり、刺激の少ない村人たちの清涼剤となった。
ちなみに、健人は「せっかくソフィ様が勇気を出したのに手を出さないヘタレ」とされ、男色の噂すら立ってしまい、当の本人を大きく憤慨させたのは余談である。
『おいこら問題児! この変な噂の責任、どう取ってくれる!』
「じゃあ、さっそくベッドの用意を……」
「クレティエン様はダメです! 兄さん、私と結婚してくれれば、変な噂もすぐ消えてくれますよ!?」
『……やっぱ要らん』
「「なんで!?」」
倫理観の差は大きい。
以下、登場人物紹介
ソフィ
とある参考文献をもとに、健人の恋愛対象になるべく、突撃をかました村長代理。ノルドらしく、好意はストレートに口にするタイプ。
村人たちからの信頼を勝ち得ているだけに、村全体が彼女の味方のため、後に健人に変な噂が立ってしまった。
ちなみに、健人が噂をかき消そうとした際には、再度自分との関係を主張している。無限マッチポンプか。
坂上健人
突然、義妹の奇襲を喰らって大混乱した現村長。
タムリエルの中でも、特に恋愛から結婚が爆速なノルドのペースには終始ついていけていない。
戦闘においてはガチで世界最高峰だが、恋愛に関しては経験値ゼロな上、男女平等、晩婚化を経た現代日本の倫理観を持っているのでクソ雑魚ナメクジ。
魅力的に成長した義妹の攻勢に、終始押されっぱなしになっている。
クレティエン・キュリオ
ウィンドスタッド村までついてきた淫乱団長。
モーサルでもいろいろ問題を起こしていたので、健人としてはある意味押し付けられたともいえる。
諸悪の根源……だが、今回はきっかけに過ぎず、主にソフィの行動力の方が原因と言える。
自身が執筆した原著を燃やされかけた際は、割とガチで健人に縋り付いている。