【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
今回も閑話で、セラーナさんのお話になります
川のほとりを、二つの影が並んでゆっくりと歩いている。
一人は坂上健人。革の鎧と外套を纏い、背中には草を編んだ籠を背負い、腰に片刃の剣を差している。
もう一人はセラーナだ、すっかり馴染んだ眼帯と黒のローブを身につけ、手には健人と同じような草で編んだ籠を携えている。
「それでは始めましょう。よろしくお願いしますね」
セラーナの鈴を転がしたような声に、隣を歩いていた健人は小さく頷く。
二人が今いる場所は、ウィンドスタッドにほど近い湿地帯。来た理由はセラーナが使う薬の材料採集だ。
セラーナは現在、ウィンドスタッド村で薬師として働いている。
村の人数を考え、もう少し薬のストックを作っておきたいと考えたのだ。
健人が同行している理由は、吸血鬼である彼女を一人で村の外を歩かせることを心配したから。
吸血鬼、その中でも最上位の血を持つセラーナを害せるような存在はまずいないだろう。しかし、何かのきっかけで正体が露見するのはマズい。
つまるところ、なんだかんだで心配性な健人が気に掛け、同行を申し出た結果だった。
『ああ。大丈夫かと思うけど、そっちも気を付けて』
「ふふ、分かっておりましてよ」
案じてくる健人に、セラーナは微笑みを返す。
気品に満ちた、だが同時に無垢さも漂わせる笑みだった。
ウィンドスタッドの湿地帯には、寒冷なスカイリムの中では比較的多様な生物群が自生している。
そのため、錬金術で使えるような素材も豊富にあった。
錬金術の素材を集めるには、うってつけの場所であることもあり、健人とセラーナは次々に素材を採集していく。
(あ、あった)
健人は今しがた見つけた青い花を摘み、背中の籠に放り込む。他にもリュウノシタ、ベラドンナ、ナミラキノコ、地衣類等々。とにかく使えそうな素材を取っていた。
しかし、全ては取らず、三分の二は残す。後々また採集できるようにするためだ。
健人は素材を採集しつつ、セラーナの様子を窺う。
彼女も健人と同じように、ある程度残しつつ、テキパキと採集をしていた。
(これなら、思ってたより早く終わるかもな)
セラーナも健人も、錬金術の知識を持つ者。素材の選別や採集の手は早い。
そうこうしていると、一時間と立たずに籠の中素材でいっぱいになった。
「思った以上に早く終わりましたから、選別と洗浄もやっておきましょうか」
セラーナの提案に健人も頷く。
二人は湿地の傍まで歩いていくと、持っていた籠から素材を降ろした。
そして湿地に水で素材についている余分な土などを洗い、種類分けして紐で縛っておく。これをしておくだけで、帰ってからの手間がかなりなくなるのだ。
(ん~~~~! こんなもんか)
全ての素材を選別し、最後の青い花を紐で縛って籠に放り込むと、健人は一息入れるように大きく背伸びした。
「これで全部、ですわね。少し休憩してから戻りません?」
セラーナの言葉に、健人は空を見上げる。
気がつけば、太陽は南の空高くに上っていた。確かに、少し休憩してもいい頃だろう。
その時、健人の腹がグーッと鳴った。思わず腹に手を当てる。隣に視線を向けると、セラーナが口元に手を当て、苦笑を浮かべていた。
「ふふ、そうですね。そろそろお腹も鳴るころですか」
『帰らないと』
採集も終わったので、帰るにはいい頃だろう。
気恥ずかしさを誤魔化すように、黒板に文字を書きなぐって掲げる健人に、セラーナが言葉を重ねる。
「いえ、その必要はありませんわ」
首を傾げる健人をよそに、セラーナは湿地から少し離れた小高い丘を指さす。
そこには、丘の上にいくつか映えているパインの木があった。
そこまで健人を連れて行くと、彼女は休むにちょうどよさそうな木陰に腰を下ろす。
そして、手にした籠の中から、二つの包みとポットを取り出した。
「時間がかかるかもと思って、用意しておりましたの」
どうやら、態々弁当を用意してくれていたらしい。
驚き、思わず目をぱちくりさせる健人。
セラーナは元お姫様だ。それも比喩ではなく、ガチの王族である。
当然、料理などすることはなかったはず。
健人が茫然としている中、セラーナは包みの一つを健人に手渡し、被っていたローブをはだけ、眼帯を外す。
瑞々しい唇から、ふう……! と息が漏れる。開放感からか、その頬には美しい微笑が浮かんでいた。
見ほれた健人が手にした弁当を落としそうになる中、セラーナは手早くお茶を作り始める。
魔法で氷の塊を作り、ポットの中に入れる。続いて『火炎』の破壊魔法で手のひらほどの火を生み出し、ポットを加熱。
元々、ポットの中に茶葉を入れていたのだろう。数分と立たずに、良い香りを帯びた湯気が、ポットの口から漂い始めた。
「どうぞ」
まだ驚きが治まらない健人をよそに、セラーナは籠の中から今度はカップを二つ取り出し、ポットの中身を注いで差し出す。
ためらいがちにお茶と包みを受け取りながらも、彼はセラーナの隣に座って包みを開く。中に入っていたのは、おおきめのサンドイッチ。
挟まっているのは肉と野菜、そしてローストしたと思われる肉だ。
(……ん?)
手渡されたサンドイッチを頬張る。
硬めのパンを食いちぎり、咀嚼すると硬い感触が口の中に広がった。
続いて、パリパリと乾いた枯葉を踏んだような音が耳に響き、苦みが口の中に広がる。
「ちょっと、微妙でしたわね……」
隣で同じようにサンドイッチを食するセラーナも微妙な顔。
先ほどまで緩んでいた目じりも、気がつけばスン……と真一文字になってしまっていた。
そんなセラーナの表情に、健人は思わず含み笑いを漏らす。
サンドイッチにかじりついたままのセラーナが、何か言いたげな様子で睨みつけてくるが、健人は構わず一気に自分の分を平らげた。
ぱくぱく、むしゃむしゃ、ごくん!
目をぱちくりさせているセラーナに苦笑を浮かべる。
確かに、味はあまりよくはなかった。だが、そんなことよりも大切なことがある。
『ごちそうさま。嬉しかったよ』
嬉しかった。嘘偽りのない本心だ。
慣れない作業だっただろう。セラーナはお客さんという立場だが、決して暇ではない。
そんな中、慣れない料理を自分のために作ってくれた。
それが、健人には心にきた。
「美味しい、とは言わせられなかったですわね」
『リータの料理と比べたら、全然マシだよ?』
「それはそうでしょうが、アレと比較されても嬉しくありませんわ」
ぷんぷんとふくれっ面なセラーナに、健人は思わず声の出ない喉を鳴らす。
コロコロと変わるその顔が、なんだかとても愛おしい。
健人は緩む口元を誤魔化すようにカップを傾けながら、黒板を掲げる。
『次を楽しみにしてる』
「なら、期待に応えると致しますわ」
気勢を新たに、セラーナもお茶を飲み干す。
錬金術の腕が確かな彼女なら、料理もすぐに身に着けるだろう。
そのまま二人は、木陰で並んですわり、静かに景色を眺める。
眼下に広がる湿地帯。弧を描く岸を辿っていくと、遠くにウィンドスタッド村の街並みが、立ち込める霧の隙間から顔を覗かせていた。
健人が少し視線を横に向けると、北国特有の涼しい春風が、セラーナの髪を優しくたなびかせている。
穏やかな様子で、先程の健人と同じように遠くを眺めるセラーナ。
木陰で湯気の立つカップを傾けるその様は、まるで絵画のように美しい。
(そういば、この状況。まるで、デートみたいだな……)
健人自身、現代日本で誰かとデートした経験は皆無だが、街を歩いている恋人たちの姿というのは何度も目にしている。
二人っきりの男女が、誰も邪魔してこない時間を共有する、ということ考えたら、何故かそんなことが頭に浮かんだのだ。
そんなことを考えている健人の視線に気づいたセラーナが、お茶を飲みながら尋ねてくる。
「どうかいたしましたの?」
『いや、ちょっとデートみたいだなと思ってね』
「ぶふ!」
(ちょ、汚な!)
健人の言葉に、セラーナは思わず飲んでいたお茶を噴き出す。
綺麗な佇まいから舞うお茶に、健人は思わず身をのけぞらせる。
「……! っ! っっ!!」
気管にお茶が入ったのか、思いっきり抗議の視線で健人を睨みつけるセラーナ。口元を抑えつつ、咽ながら叫ぶという器用なことをやっている。
そんな彼女の様子に思わず苦笑を漏らす健人だが、彼女の目じりがさらに吊り上がった。慌てて謝罪文を黒板に書きなぐって掲げる。
『すまん』
「謝らなくてもよろしいですわ。貴方が、わざわざ手をかけて昼食を用意した女性をからかうような殿方とは思いませんでしたけど」
『だから、すまなかったって……』
健人としてはからかうつもりはなかった。
つい、思ったことを書いてしまっただけなのだ。
しかし、まだセラーナの機嫌は直らない。
「本当に反省しておりますの?」
(してるしてる)
ジト目を向けてくるセラーナに向かって、健人はコクコクと何度も首を縦に振る。
一応、義理とはいえ姉と妹がいる身である。この手の類のスネ方をしている女性に対しては、下手に言い訳をしないことが肝要ということは、理解していた。
しばらく、健人睨んでいたセラーナ。だが、すぐにその口元が面白そうに弧を描いた。
あ、なんか嫌な予感がする。
そんな思考が健人の脳裏によぎった時には、既に彼女は口を開いていた。
「なら、確かめさせていただきますわね」
(うお!)
セラーナの手が健人の頭にのび、そのまま勢いよく引っ張られた。
抵抗する間もなく、前かがみになった健人は、そのまま横倒しにされる。
そして気がつけば、彼の頭はセラーナの太ももに置かれていた。
『どういうつもり?』
「以前、貴方のお姉さんの家で私にしましたよね。結構恥ずかしかったので、仕返しをしようかと……」
ホワイトランにあるリバーウッド邸で、リータのポイズンクッキングでダウンした彼女を介抱したときのこと。
確かに、健人はこの時セラーナに膝枕をしている。
(いや、仕返しって……。嫌なら嫌って言ってくれればよかったのに)
「で、どうです?」
感想を求めてくるセラーナに、健人は言葉を失う。
(いや、さすがにこれはちょっと……)
膝枕など、幼い頃に亡くなった母親にしてもらって以来だ。
改めて自分の状況を自覚し、健人は全身が熱を帯びていくのを感じた。
頬に触れる柔らかくて暖かい太ももの感触、楽しげに見下ろしてくる絶世の美女。これで意識するなというのは、さすがに無理である。
「あ、逃げてはダメですよ」
逃げるように身を起こそうとするも、セラーナは頭を押さえて無理やり押さえ込んでくる。吸血鬼である彼女に、力で勝てるわけもない。
逃げられない彼を見てさらに気をよくしたのか、セラーナはさらに健人の頭を撫で始めた。
まるで宝物に触る様な手つき。さらには時折、手の甲で頬にも触れてくる始末。
『恥ずかしいから、やめて?』
「ダメですわ」
『頭、撫でないで』
「イヤですわ」
取り付くしまがない。
要求を一切受け入れる気がないセラーナに、健人は悪態と共に白旗を上げるしかなかった。
『セラーナ。君もなんだかんだで、性格悪いね』
「ふふ、デリカシーのない貴方に言われたくはありませんわ」
そうこうしている間も、セラーナは楽しそうに健人の頭を撫で続ける。
先ほどの不満顔はもうなく、浮かぶのは無邪気な笑み。
結局、セラーナはそのまま30分ほど、健人の頭の感触を楽しみ続けるのだった。