【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
健人がウィンドスタッドに帰還してからしばらく経った後。
ウィンドスタッド邸の邸宅にある自室の机で、彼はソフィからここ三年でウィンドスタッドがどのような経緯を経て村と呼べる規模まで大きくなったのかをソフィから聞いきつつ、関係書類を確認していた。
「これが、ここ三年のウィンドスタッド村の記録になります」
この地に最初の村人が来たのは、健人がリータを追って世界のノドに向かった一か月後。
イドグロッド首長の紹介で、住む場所を求めていた者達十人を受け入れたのが始まりだったらしい。
人数としては、男五人、女三人、子供二人で、彼らのほとんどが農業を生業としていた。
当然ながら、村として最初の事業も、農業からスタート。
具体的には、小麦とキャベツ、ジャガイモ、ニンジンの栽培から始まった。
どれも比較的種が手に入れやすく、栄養価も比較的いい。スカイリムで日常から食べられている食品である。
その後、住人が増えるにしたがい農地拡大を続け、現在に至っているとのこと。
当然と言えば当然だ。食料がないと、そもそも人は生きていけない。
(問題は、農地拡大にともなう治水だな。沼地は近くにあるが、そこから水を畑に運ぶのは少々手間だ)
農地が増えれば、当然広大な畑に水を供給しなくてはならない。
井戸を掘るにしても、人の手で水をくみ上げるのはかなりの重労働だ。
『風車とかを使う予定はあるの?』
「はい。ですが、正直職人がいなくて……」
ウィンドスタッドの問題点は、専門的な職人の不足である。
実際、鍛冶ができる者が足りず、村長である健人が槌を握る必要が出てきているくらいだ。
『いきなり立派なものは作る必要はないよ。まず、小さな風車から作ろう』
健人は、近くの羊皮紙に軽く風車の概略図を描く。
高さは三メートルから五メートルほどで、自動風向調整型の風車だ。
風車の基部を回転させる軸と、風上に向かわせるための尾翼を取り付けたタイプであり、日本でも大正時代から昭和初期にかけて、灌漑風車として使われている。
日本の堺などには再現したレプリカなどもあり、写真を見たこともあったので、比較的正確に描けていると健人は思っていた。
「なるほど、この大きさなら、数人で組み上げられますね」
『ついでに、井戸を掘る方法もいくつか考えておくか。上総堀りなんかは少人数でできると思うし』
「かずさ、ぼり?」
上総掘りも、日本で使われていた井戸掘りの方法だ。
直径三メートルほどの車輪を人力で回し、掘削穴に粘土と水を混ぜて注入。そこに弁付きの鉄管を挿入し、車輪で何度も上下させて掘っていく。
人力での井戸掘りは、精々数十メートル程度だが、この方法なら、一気に数百メートルまで掘れる。しかも、作業に必要な人数は二、三人。
もちろん健人も、今すぐ使えるとは思っていない。
必要な道具を全て作るにはそれなりに時間がかかるだろうし、何度か失敗もするだろう。
だが、大切なのは『概念』だ。『概念』を伝えれば、後は現地の者達が形にできる。
(しかし、記録を見てみると分かるけど、すごいな……)
概略図を簡単に書き終わると、健人は改めてウィンドスタッド村の人口動態と食料等の生産量を見比べてみる。
完ぺきではないが、おおむね民草が生きていけるだけのカロリーは確保できているのか、餓死者がほとんどいない。
多くは、事故や獣の襲撃によるもの。
二年目、三年目と人口が増えていったが、それにも素早く対応。
特に三年目には大量の移民が来たが、二年目に多少ため込んでいた食料をすべて開放し、モーサルに食料援助と職人の派遣を要請。さらにウィンドスタッド邸をしばらく開放し、体の弱い老人や子供を住まわせるなどして、可能な限り死者が出ないようにしている。
その際、自分の部屋も領民に使わせ、ソフィは彼らの家ができるまでの間、地下の隠し倉庫で寝ていたらしい。
(そういえば、あの隠し倉庫、一応できてたんだ。もう使うことは無くなっちゃったけど)
かつて、健人が持っていた黒の書、白日夢。
それを保管するために、彼はウィンドスタッド邸の地下に隠し倉庫を作っていたが、完成前に世界のノドに向かうことになってしまったため、放置せざるを得なかった。
倉庫自体は完成しているらしいが、白日夢がアルドゥインとの戦いで消えていることから、もう使うことはないだろう。
(本当に、よくやってくれていたんだな……)
改めて実感する、義妹が積み上げてきた三年間の功績。
隣で背筋を伸ばして立つソフィを横目で覗き見ながら、健人は思わず感嘆の息を漏らす。
行動力や根気もそうだが、なにより考え方や行動が非常に洗練されている。
この厳しい時代の民たちは何を求めているのか、彼らの心をつかむには、どうすればいいか。何より、上に立つ者として、彼らを導くにはどうすればいいかを熟知し、自分から率先して動いている。
本当に、ウィンドヘルムの片隅で震えていた十歳の少女とは思えない。
『あとは、家畜とかを増やせるといいな。特に牛とか』
「そうですね。その辺りも喫緊の課題です」
牛、馬は特に重要な家畜だ。
肉や乳だけでなく、農作業での労働力として期待できる。
現在、ウィンドスタッド村にある馬は5頭、牛は4頭であり、まだ少ない。
もちろん、ヒツジや鶏などほかの家畜もいるが、その数はまだまだ少なかった。
「後は、肥料ですね。正直、足りなくなってきています。家畜の少なさが足を引っ張っているようで……」
基本的に、この地の肥料は家畜のフンである。
休耕中の畑に家畜を放ち、生えた草を食べさせ、その排泄物を使う方法だ。
しかし、これでは効率が悪い。
家畜が少ないウィンドスタッドのことを考えれば、もっと効果的に施肥する必要があった。
(鉱物肥料を探すにしても、今すぐは無理だし。化学肥料なんて到底無理。となると、現状あるものを使うしかないよな)
『よし、ちょっと力を借りに行こう』
「兄さん?」
机の上に広がっていた資料をまとめ、健人はソフィを伴ってウィンドスタッド邸を後にする。
向かう先は、村唯一の酒場『霧飲の巨人』である。
健人が入店すると、セラーナは錬金台の上で薬を調合していた。
「あら、どうかいたしましたの?」
乳棒で青い花の花弁をすりつぶしていた彼女は、恩人の来訪にコテンと可愛らしく首を傾げる。
『少し実験したいので、付き合ってください』
「はあ……」
そうして、健人はセラーナ、ソフィを伴って村の家畜小屋へと向かう。
家畜小屋にいた村民から蓋つきの桶を借り、そこに牛の糞を入れて畑へ。
そして、小麦畑の端で糞入りの桶を置くとセラーナに黒板を掲げながら、置いた桶を指さした。
『これに、他者回復をかけてもらえますか?』
「は、はあ……。かまいませんが、何をなさるおつもりで?」
『ちょっと実験をしたいと思いまして。うまくいけば、効率的な肥料作成ができるかなと』
「ま、まあ。いいですわ。では、いきますわよ」
鼻につく硫黄臭にちょっと引きつつも、セラーナは他者回復を桶の中身にかけ始めた。
健人の狙いは、回復魔法で微生物を活性化し、堆肥化を促進するというもの。
現代日本人なら、おそらく誰もが考える方法だろう。
しばらくすると、牛の糞の中にいた微生物が一気に活動を始めたのか、フシュ~~、と空気が抜けるような音が流れ始める。
(あ、ヤバいかも……)
「うっ、これって……」
直後、猛烈な悪臭が漂い始めた。
これまでの人生で嗅いだことがないほど濃密で、猛烈な悪臭。
思わず胃がひっくり返り、内臓が口からはみ出そうな吐き気に、健人は思わずえずく。
「に、にいしゃん……」
「も、申し訳ありません、さすがに、この臭さはちょっと……うえぇ!」
ソフィも口元を押さえ、涙目で後退る。
セラーナに至っては耐えきれなかったのか、踵を返して逃げ出す始末。
(考えてみればそりゃそうだ。完全発酵に数か月とか半年とかかかるなら、その間の分の臭いが一気に出るってことだよな。気づけよ俺!)
健人はとりあえず、桶に少しずらして蓋をし、近くに落ちていた枯れ木を手に取ると、ソフィに頼んで火をつけてもらう。
そして、蓋の隙間に炎をかざす。
すると、ぼっ、ぼっ! と断続的に炎が噴き出し始める。発生したメタンガスなどが燃えているのだ。
炎の色も、橙色だったり青色だったりと多種多様。
(あ、意外と面白い……なに考えてんだ俺は……)
悪臭の影響か、思わず思考がオブリビオンに跳びそうになる健人。
だが臭気の成分自体ははかなり燃えてくれているのだろう。先ほどまで立ち込めていた悪臭が、幾分か和らいでいくのを感じた。
とはいえ、臭いものは臭い。まだ燃え切れていない臭気物質もあるのだろう。
ちなみに、臭いと感じる成分は全体の1パーセントほど。他はほとんどが窒素、酸素、水素、二酸化炭素、メタン、硫化水素などである。
そして時間にして五分から十分もすると、悪臭はすっかり消え去った。
セラーナの魔力が膨大で、さらに卓越した魔法使いであることから、微生物の活動が非常に活性化されたこと。屋外で風が吹いているなどが理由だろう。
健人が恐る恐る、臭いが消えた桶を確認すると中身は水分も消え、軽く揺らすと、ほどよい感じで崩れてくれる。
「あ、臭かったけど、良さそうな感じの肥料になってますね。臭かったですけど」
「ええ、確かに。臭かったですわ。下水道の方がましと思えるくらいには。あれでは城の悪食な犬も逃げ出すでしょうね」
健人に続いて肥料の出来を確かめるソフィ。彼女から見ても、出来は悪くないらしい。
セラーナの方は覗き込む勇気はないのか、二人から数歩離れて様子見をしている。
(二人とも、そんなに何度も臭い臭い言わなくてもいいじゃん……。まあ、ちょっと嗅いだことないレベルの悪臭だったけど)
とはいえ、ある程度成功したと考えていいだろう。
「大きな穴を掘って、そこに人糞やら家畜のフンやらを入れて作れば、一気に大量の肥料が手に入りそうですね」
「魔力の問題もありますから、付呪か何かを使って、マジカを込めるだけで魔法を持続できるようにいたしましょう」
『悪臭は蓋にガス抜きの穴を作って、蝋燭で適宜燃やすとしよう』
そうして二日後、村のはずれに人が数人余裕で入れる穴を掘り、肥料作成が始まった。
マジカを使える者がいることが前提とはいえ、一度に大量の肥料を作る方法を得たことで、ウィンドスタッド村の肥料事情はかなり改善することになった。
ちなみにこの後、蓋を完全に締め切ってしまい、圧力超過で肥溜めが爆発したり、悪臭防止のための蝋燭がガス抜きの穴に落ちて爆発したり、燃屁反応という名の炎色反応が面白くてイタズラしていたカジートがこれまた爆発させたりするトラブルが発生するのだが、甚だ余談である。
どうしてこうなった? という内容の閑話。
本来なら、二人っきりで執務をしている状況にかこつけたソフィがあれやこれやアプローチしたり、仕事がひと段落して昼寝している健人にすり寄ってキスマーク付けたりするはずだったのに。
ちなみに、汚物を肥料にするという話は異世界転移ものでよく聞く内容だが、その中で疑問だった点をネタにしてみた。
ちな、発酵途中の肥料は細菌、バクテリアの塊であり、マジで兵器レベルの汚さなので、肥溜めに落ちた時は感染症に気を付けましょう。
爆発四散した飛沫を浴びるのもヤバいです。