【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
ブリナ達を捕まえた健人達は、より詳細な情報を得るためと、彼女達が連れていた民間人の保護のため、ウィンドスタッドに帰還した。
とはいえ、今のウィンドスタッドに数十人を一度に収容する施設はない。
仕方なく、怪我人と弱っていた民間人は治療のため宿屋に収容し、残りをウィンドスタッド邸の離れに拘束することにした。
正直、かなり一杯一杯で、ベッドを並べるスペースもないことから、数日の間は床にベッドロールを敷いて雑魚寝してもらうことになる。
しかし、元帝国兵のブリナはもちろん、元ストームクローク兵達も特に不満げにすることもなく、むしろ安堵した表情を浮かべていた。
よほど野宿生活が堪えていたのだろう。
「サカガミ卿、感謝する」
ウィンドスタット邸のリビング。そこにあつらえた長テーブルの前で、ブリナに続き、隣に控えるホリック、ジョットが深々と頭を下げる。
彼らの前には、湯気の立つお茶とハニークッキーを乗せた皿が並べられていた。
一応、捕虜という名目になっているが、健人自身は彼女達をそのように扱う気はない、という意志表示であった。
『卿って?』
「貴方は、ここの領主なのだろう? ならば、卿と呼ぶのが相応しいと思うが?」
(ああ、そういえば。ものすっごい違和感)
拭いきれない違和感を伴う呼ばれ方。いずれ慣れていく必要があるのだろうが、誤魔化すように、健人は自分の皿にのせられたクッキーを頬張る。
サクサクとした食感に続き、ほんのりと甘い香りが舌の上で広がり、溜まった疲労が癒えていく。
この部屋には現在、健人の他にヴァルディマー、ソフィ、カシト、そしてイスランを始めとしたドーンガードの主要メンバー達が控えている。
「食料と薪の手配は終わっています。怪我人たちも、セラーナさんが治療を施してくれています」
書類を手にテキパキと報告してくるソフィ。
見た目は中高生なのに、仕事ができる女のオーラをビンビンに放っている。
「それから、モーサルに衛兵の派遣を要請しました。ほどなく到着するかと。また、私達が監視している間なら、邸内の庭に限り、自由を認めます。これは、兄さんの意志です」
ウィンドスタッド村に捕虜を収容するような施設はないし、そもそも監視するための十分な衛兵もいない。
だから、健人達はモーサルに増援を要請し、彼らにブリナ達を引き取ってもらうことにした。
ブリナ達を拘束しないのも、それをするだけの十分な兵力がないからだ。
それに、長時間野宿生活をしていた彼らに、この村を壊滅させるだけの戦力はそもそもない。
「本来なら敵方の我らに寛大な処置を施してくださり、重ねて感謝する」
健人の配慮に、ブリナは再度頭を下げた。
彼女からすれば、捕虜として鉄籠のような牢に入れられ、野ざらしにされることは当然だし、なんなら十分な監視ができないから人減らしの為に斬り殺す、くらいは十分あり得ると考えていた。
そんな中、行動は制限されるとはいえ、屋根付きの部屋を用意してもらえるとは思わなかったのだ。
「それでは、改めてドーンスターとストームクロークの現状を聞きたいのですが」
『ソフィ、少し待ってくれ』
尋問の前に、健人が待ったをかける。
ソフィが首を傾げていると、リビングの扉が開き、ローブを被った男性が姿を現した。
まるで人目から逃れるような恰好。ローブの男性は後ろ手に扉を締めると、頭深くかぶったローブを脱ぐ。
現れたのは、スカイヘブン聖堂にいるはずのエズバーンだった。
「ドラゴンボーンよ、来たぞ」
「あれ? エズバーンさん? どうしてここに?」
「ストームクロークの捕虜を捕まえたから、彼らの情報を確認するために呼ばれたのだ」
エズバーンは元ブレイズとして逃走生活をしている中で、独自の情報網を作り上げている。それを活用しない手はない。
『まず、現在のドーンスターの状況と、スカルド首長の近況についてもう一度話してくれ』
「分かった」
その後、一時間ほど話をした中で、健人達はある程度ドーンスターの現状を把握した。
基本的には、捕縛時に聞いた話の通り。
スカルド首長はドーンスターの住人、特にノルドではない者達を排他し、鉱山に送り込んでいる。
他にも、「ウルフリックは貧弱なダークエルフと愚かなアルゴニアンを隷属させ、ウィンドヘルムを拡張し、兵力を増強している。近々、ストームクロークは再び立ち上がり、今度こそ帝国を完膚なきまでに叩き潰すだろう」と、帝国に与しているホールド、すなわちハイヤルマーチに侵攻すると宣言しているとか。
「この話、本当ですか?」
「ペイルホールドの兵がヨルグリム湖西に集合しているのは確かだ。他にも、食料などの物資をホールド中からかき集めているというのもな」
『侵攻の準備?』
「ああ。目的地はハイヤルマーチだろう。この情報は帝国軍もつかんでいる。だから、リッケと彼女の軍がモーサルに来ているのだ。だが……」
(だが?)
ブリナからの情報を補足しつつも、異なる意見を匂わせるエズバーンの言に、健人は思わず耳をそばだてる。
「ダークエルフとアルゴニアンの隷属については、私の見解と異なるな。ウルフリック・ストームクロークはタロス信仰の復活を求めてはいるが、ノルド主義についてはここ数年、かなり穏健になっている」
『そうなんですか?』
「ああ。ヴィントゥルース襲撃による大火からの復興ついでに、ウィンドヘルムを拡張しているのは確かだ。だがそれは、ダークエルフやアルゴニアン達の住居を新たに作るためだ」
(そうなのか……意外だ)
「ウルフリックの内面としては、確かにノルド主義はあるだろう。タロス信仰を認めろという主張も変わっていない。だが、彼は冷徹な現実主義も併せ持つ。少なくとも、現在のストームクロークに、異種族を排他するだけの余力はない。ならば、ダークエルフにしろアルゴニアンにしろ、取り込んだ方が有益と考えたのだろうな」
エズバーンの言葉に、健人だけでなく、ブリナも目を見開いている。
どうやら、彼女達もこの情報は知らなかったらしい。
無理もない。
話を聞く限り、ドーンスターはかなり閉鎖的な状況になっている。逃亡した後も人目を避けるように野宿生活をしていたことを考えれば、外部の情報には触れる機会は全くなかっただろう。
『じゃあ、スカルド首長がやっている排斥活動は、ストームクロークの方針とは反する?』
「ああ、独断である可能性が高いな」
健人は顎に手を当てつつも、小さく頷く。
ストームクローク全体の意志ではないのなら、まだ止められるかもしれない。
だが、同時に別の疑問も湧いてくる。
なぜ、ウルフリックはスカルドの暴政を止めないのか、という点だ。
(いや、違うな。止めないんじゃなくて、止められないんだ)
スカルドはまかりなりにも、ストームクロークを支えるペイルホールドの首長。彼に離反されては、帝国軍に付け入る隙を与えてしまうから。
(これは……状況が思ったよりも深刻だぞ)
下手をすれば、帝国、ストームクローク共に、望まない形で戦争が再開される。
「ケント、どうするの?」
「………………」
カシトの問いかけに、健人は答えることができなかった。
帝国、ストームクローク双方、現状スカルドを止めることができないとなれば、残りはもう一つの『要因』の解決が事態を好転させることに掛けるしかない。
『ブリナさん、ドーンスターで蔓延しているという、未知の病とは?』
「人が眠ったまま、目覚めなくなるという病気だ。その予兆は、三年前にさかのぼる」
ドーンスターで蔓延した奇病。
ブリナの話では、村に住む住人達が次々に『悪夢』を見るようになったらしい。
はじめは数人。大したことではないとされていたが、やがて街のほぼ全員が毎日悪夢にうなされるようになった。
結果、街全体の治安や生産効率が悪化。人心が揺らぎ、治安が著しく悪化したらしい。
「当時、街の民たちが共通して悪夢を見るという状態になった。それは三年前に一度落ち着いたのだが、一年ほど前に再び発生し、それから眠った後に目覚めなくなる人が続出し始めた」
「ふむ、あの街に行くと悪夢を見るという噂は、確かに数年前に一時流れていた。しかし、眠ったまま目覚めない者が出ているという話は、初めて聞いたな」
ドーンスターに行くと悪夢に囚われる。
悪夢の情報はエズバーンも聞いていたが、昏睡したままというのは、今回が初めてらしい。
『ブリナさん、悪夢はまだ見ますか?』
「今か? 場所が場所だったからな。寝つきがよかったことはないし、悪夢を見ないわけではなかったが……」
「ちょっと失礼いたしますわ」
(セラーナさん?)
そこに、ローブを被ったまま、口元を真一文字に引き締めたセラーナがリビングに入ってきた。
鬼気迫る、といった様子の、真剣味を帯びた表情。
最近、健人は眼帯をしていても、セラーナの感情が何となくわかるようになってきていたが、こんなに切羽詰まった様子の彼女は、ほとんど見たことがない。
「なに? どうかしたの?」
「ドーンスターの方々を診ていて、少し妙なことに気づきましたの。確認のため、ブリナさん達も診察させていただきたいのですわ」
ツカツカと早足で入ってきたセラーナが、ブリナの前に立つ。
ブリナは思わず息を飲む。
部下の手前、努めて平静を保ってはいたが、歴戦の戦士である彼女が思わず気圧されるほどだった。
何度かジェットたちと視線を交わすと、ブリナは戸惑い気味に頷く。
「私は構わないが……」
「私もだ」
「ありがとうございます。失礼いたしますわ」
いうが早いか、セラーナはブリナの隣しゃがみ込むと、手をかざす。
セラーナの手に、マジカの光が灯る。そのまま彼女は手のひらをブリナの背中から頭へ移していく。
そして頭頂部からこめかみへと移動させたところで、「あっ……」というように、セラーナの唇が小さく振るえた。
続いてホリック、ジョットにも同じようにマジカを帯びた手をかざした彼女は、確信を帯びた表情で口を開く。
「やはりそうですわね。ドーンスターから来たという方々、全員に特徴的な魔法の影響が残っています。頭のここ。奥の方ですわね」
そう言うと、セラーナはブリナの耳の裏をトントンと叩く。
『頭の奥。小脳のあたりか? もしくは大脳辺縁系? 海馬、偏桃体とか?』
脳の奥。小脳は人間の肉体動作、大脳辺系は、感情や本能行動、記憶を司り、海馬や偏桃体も大脳辺縁系に含まれる。
「大脳辺縁系? 何を言っているのかはよく分かりませんが、記憶や夢を司っているところです。そして、このマジカの気配は、デイドラ特有のものですわ。」
その一言に、健人を含めた一同に緊張感が走る。
ドーンスターで流行っている病。それは、悪夢を見た後に眠りから目覚めなくなる、というもの。
記憶や感情、夢などの生理的な本能は、デイドラとも深くかかわる部分だ。そこにデイドラからの干渉が確認されたともなれば、ほぼ間違いなく黒だろう。
「本人のマジカに似せて気づきにくいようにしておりますし、既にかなり弱くなっていますから、時間が経てば自然と消えるかと。しかし影響を受け続けていたら、おそらく夢と現実の区別がつかなくなるか、昏睡状態になっていたと思われますわ」
セラーナの分析も、ドーンスターでの病での症状と一致した。
『他に気になったことはありませんか?』
「……そういえば、三年ほど前にマーラの司祭だというダークエルフが来て、デイドラがどうとか言っていたような。彼の名前は、なんだったか?」
「エランドゥル、という司祭だったと記憶しています」
「ああ、そんな名前だったな」
ブリナ達の話では、三年ほど前にマーラの司祭と名乗るダークエルフが、ドーンスターにデイドラの脅威について警告していたらしい。
しかし、街のほとんどの人が耳を傾けなかった。その司祭がダークエルフだったからだ。
ダークエルフは、元々デイドラを信仰していたエルフである。
もちろん、そうでないダークエルフもいるのだろうが、基本的にデイドラロードであるボエシア、アズラ、メファーラを信仰している者達が圧倒的に多い。
そのため、偏見に晒されることは珍しくはないのだ。
特にここはスカイリム。エルフと犬猿の仲であるノルドの地であり、ノルドは基本的にエルフを嫌う。
ダークエルフも例外ではない。むしろ、歴史的には最も敵対していたエルフ種族の一つだ。
「……その司祭はどういたしましたの?」
「いつの間にかいなくなっていた。確か、ドーンスター東にある塔を妙に気にしていたな」
「その塔というのは……」
「失礼する」
話の途中で、リビングに張ってくる者がいた。
勇ましい装飾が施された帝国軍の鎧を纏った、壮年のノルドの女性。
少し前にウィンドスタッド邸に来ていた、リッケ特使だった。
「リッケ特使……」
「先日ぶりだな、ドラゴンボーン。いい加減、覚悟は決まったか?」
相も変わらず、健人に帝国軍への入隊を迫るリッケ。
ペイルホールドから逃れてきた者達を保護したことを聞きつけてきたのだろう。
健人もまた、嘆息を漏らしながら、黒板に白墨を走らせる。
『帝国軍に入る気はない。ただ、停戦を壊す可能性は無視できない』
「ということは、スカルドの行動を知ったのだな。それで、どうするつもりだ?」
『ペイルに行く。今内戦が再燃するのは、ヴォルキハルの吸血鬼クランに対抗するためにはまずいからな』
行くのは、あくまで停戦を協力した者として。決して帝国軍のためではない。
頑なな健人の様子に、リッケは仕方ないと言うように肩をすくめる。
「変わらずか。まあいいだろう。だが忘れるな。いつまでも引き延ばすことはできないぞ」
『ペイルでデイドラが暗躍している痕跡が確認された』
「ほう……」
デイドラの干渉。それを聞いて、リッケの瞳の奥が僅かに揺れる。
『今回のスカルド首長の暴走も関係している可能性がある。なら、ストームクロークと抗戦した場合、デイドラの思惑通りになる可能性が……』
「なるほど、分かった。だが、それはあくまで可能性だ。どのような理由であれ、スカルドが協定を脅かすなら、排除する。それが帝国、ひいてはスカイリムのためだ」
(だめか……)
リッケから少しでも譲歩、ないしは慎重な対応を引き出せるかと思ったが、それでも彼女の意見は変わりそうにない。むしろ、更に気炎を上げている。
健人は仕方なく、説得を諦めざるを得なかった。
これ以上は何を言っても、彼女を刺激し、強硬な姿勢を強めるだけだろう。
「リッケ」
そんな中、口を開いたのはブリナ・メリリスだった。
リッケはブリナの姿を確かめると、吊り上げた目元を僅かに綻ばせた。
どうやら、この二人は顔見知りだったらしい。
「ブリナ、久しぶりだな。大戦以来か」
「そうだな。お前も私も、随分と歳をとった」
「大変な目に遭ってきたそうだな。どうだ? 帝国軍に復帰しないか?」
「……悪いな。私はあの土地に命を捧げると決めたんだ。戻ることはできないよ。それに、その器でもない」
「そうか? 君なら、スカルドを排除してペイルを正しい道に戻せると思っているのだが?」
煽るようなリッケの勧誘に、ブリナはまるで鉛を吐き出すような、重く、深いため息を漏らした。
痛みに耐えるように、口が真一文字に引き締められる。
後悔に満ちた沈黙。
これまでの苦難を示すように皺の刻まれた唇の奥で、歯を食いしばっている様がありありと浮かんでいた。
「三年間だ。三年間、何もできなかった。つくづく、自分の力のなさを痛感したよ」
それは間違いなく、ブリナの本音だっただろう。
スカルドの暴走、それを前にしながら、現状を変えることができなかった。
もちろん、彼女なりにどうにかしようとした。
スカルドへ話し合いを申し込み、少しでも領民の状態を改善すると同時に、帝国への行き過ぎた悪感情を治めようとした。
しかし、暴走したスカルドには何の効果もなく、逆に彼の怒りを買い、飼い殺しにされ、自由を奪われていった。
ブリナの立ち位置は、スカルドにとって脅威でしかないが、同時に、あからさまに排除することもできなかった。それだけ、彼女への支持は大きかったのだ。
だが、それも三年という月日の中で切り崩された。
親しい人達はストームクロークや鉱山へと送られ、少しずつ、周りの味方を削られていったのだ。
「思い出せるよ。鉱山やストームクロークに送られ、失望と絶望に染まった彼らの眼差しが……」
削られ続けた三年間は、ブリナに強烈な無力感を突きつけた。
何度も、何度も、見せられたのだ。首長をどうにかして欲しいと懇願してきた領民たちが、兵士達に無慈悲に引きずられていくのを。
結局助けられたのは、ペイルに住む者達の中でも、本当に僅かな数。
なぜそうなったのか。それは、ブリナにスカルドを止められるだけの『力』がなかったからに他ならない。
その事実は、かつて屈強な帝国兵だった彼女の精神を折るには、十分すぎる出来事。
「今の私は、目に映る民達を守るくらいが相応だ」
擦り切れ、疲れ切った声に、リッケは眉に深い皴を刻みながら沈痛な表情で肩を落とす。
「……残念だ。本当に残念だよ」
おそらく、リッケは期待していたのだろう。ブリナが立ち上がり、民を率いてスカルドを倒すことを。
そうなれば、ペイルを帝国側へと引き込むことができ、同時にウルフリックがいるイーストマーチが丸裸となり、ウィンドヘルムへの道が開けることになるからだ。
しかし、その希望は無くなった。
リッケはもう用はないと言うように、踵を返す。
「スカルドの戦意を確認できた以上、私は軍を招集する。あの男の暴走がデイドラによるものかどうかなど関係なくな。動くなら早くすることだ、ドラゴンボーン」
それだけを言うと、リッケは屋敷を出ていった。
「どうするの?」
カシトの問いかけに、健人は唸る。
どうにかして、スカルドを止めなくてはならないが、思った以上に状況が悪い。
『まずはドーンスターへ行って、デイドラの干渉を止める。そうしないと、いくらスカルドに話をしても無意味だろう』
「そうですわね。下手に近づけば、捕らえられてしまいますわ」
「カギは、行方不明になっているマーラの司祭か……」
「だいぶ前の出来事のようですし、生きているかどうかも……」
『とにかく、ドーンスターに行く。今すぐに』
時間がない。今はとにかく行動するしかないだろう
健人の提案に、セラーナは小さく、しかしはっきりと頷いた。
しかし、そこで健人は義妹が口元に手を当て、難しい表情で考え込んでいるのに気づく
いったいどうしたのか。尋ねるように視線を向けると、ソフィは一瞬視線を宙に泳がせた後、小さく口を開いた。
「兄さん、今回私は村に残ろうと思います」
「あら? どうしてですの?」
「えっと、その……。スカルド首長の動向が怪しいことがほぼ確実になりましたし、ペイルから難民がいる今、村長と村長代理、どちらも長く村を空けるのは少しマズいなと思いまして……」
(確かにな……)
ブリナ達は確かに難民であるが、元ストームクロークの兵達もいる。
(ヴァルディマー)
「お任せを……と言いたいですが。さすがに今回は数が数です。正直、私だけでは目が届かないところも出てきます」
主からの目配せに、ヴァルディマーは率直な意見を述べた。
彼の言うことはもっともだった。
元々、衛兵が三人しかいない村なのだ。ドーンガードの面々の協力を得たとしても、圧倒的に人が足りない。
『分かった。よろしく頼む。メンバーは俺とセラーナ、カシトの三人は確定。ドーンガードからは、どれだけの人数を回せますか?』
「この村の防衛を考えるなら、精々二人だろう」
健人からの質問に、イスランは数秒考えた後に答える。
ドーンガードも、今は人数が激減してしまった。
相手がデイドラとなれば、可能ならその脅威を排除したい。しかし、隙を突かれて拠点であるドーンガード城を壊滅させられたことを考えれば、デイドラの干渉を受けた者達を放置することもできなかった。
「なら、私とガンマーね。トロールを連れて行けば、戦力も多少足りるでしょ」
『分かりました』
ドーンガードからは、ソリーヌとガンマーがついてきてくれることになった。
確かにこの二人なら、力量も確かである。健人としても、心強い。
「私も協力しよう。魔法関係なら、いくらか力になれるはずだ」
エズバーンもまた、健人が留守の間、ウィンドスタッドの守りについてくれるそうだ。
サルモールの追跡を何十年も躱し続けた彼もまた、卓越した魔法使いである。
魔法使いが少ないこの地では、大きな力になってくれるだろう。
『感謝します。エズバーンさん』
健人からの感謝の言葉に、エズバーンは満足そうに頷く。
ブレイズとしての本懐を成せることが、誇らしいのだろう。
「あの……僕も連れて行ってもらえませんか?」
だがそこに、懇願する声が割って入ってきた。この村の衛兵であり、レッドガードのアレサンだ。
ドーンスターで世話になった人たちのことが気になるのだろう。この場にいる者達の視線が、一斉に彼に向かう。
アレサンは一気に注目を浴びたことで、僅かに肩を震わせるも、この場のリーダーである健人に向かって、改めて自分の意思を述べる。
「今のドーンスターが、どうなっているか確かめたいんです。そしてできるなら、ソーリングさん達を助けたい」
アレサンの声は怯えを含みながらも、覚悟を決めたもの特有の力強さを秘めていた。
相当な覚悟を持っている。
(確かに、案内役は必要だが……)
健人はドーンスターに行ったことがない。
時間がない今、土地勘がある者の協力は確かに必要だった。
しかし、正直なところ、アレサンはデイドラを相手にするには未熟過ぎる。
それに今回の健人達はペイルに入れば終始、隠密行動を求められるのだ。かなり厳しい旅路になることは、容易に想像できていた。
「少しいいか?」
そこに、更に割って入る者がいた。
健人達の話を横で聞いていた元ストームクローク兵のジョットだ。
「案内役が必要だと言うなら、俺がやろう」
ジョットの提案に、健人を含めた全員が息を飲む。
確かに、ジョットなら適任だ。
問題なのは、彼が元ストームクローク兵。さらには、スカルドの右腕だったこと。
「難しいということは理解している。しかし、タダでさえペイルは限界なんだ。これ以上、主の暴虐を見過ごすことはできない。もちろん、武器はいらない。少しでも怪しいと思ったら、斬り捨ててくれて構わない」
ジョットが立ち上がり、健人の前へと進み出る。
交差する視線。
その目に迷いはなく、死を覚悟したもの特有の光が、瞳の奥に輝いていた。
同時に、健人は確信を持った。了承しなければ、彼はこっそり身一つでペイルに戻るだろう。
それに、ジョットは歴戦の兵士だ。アレサンよりも、確実に生き残る力を持っている。
『分かりました、ジョットさん。案内役、よろしくお願いします』
「感謝する、ドラゴンボーンよ。この命、貴方に預ける。ペイルの為に、その力を貸してほしい」
健人が了承したことに、ジョットは喜びを顕わにすると椅子から立ち上がり、健人の前で胸に手を当てて静かに俯いた。
一方のアレサンは、切羽詰まった様子で健人に詰め寄る。
「村長、僕は……」
「兄さん、連れて行ってもらえませんか? ブリナさん達の方は、村の皆さんと協力すればどうにかなると思いますから」
そんな中、アレサンの背中を押したのはソフィだった。
アレサンと同じ孤児だった彼女。貧困にあえぎ、手を差し伸べてもらった経験を持つ者同士。だからこそ、恩人たちの危機を見過ごせない。
健人もまた、この世界に一人飛ばされ、訳が分からないまま死にかけたところを助けてもらった経験がある。だから、アレサンの気持ちはよく分かった。
今一度、健人はアレサンの瞳を覗き込むように見つめる。瞳の奥には、ジェットと同じく光を宿していた。ならば、これ以上どうこう言うのは無粋であろう。
『分かった』
「っ、ありがとうございます!」
健人が了承すると、アレサンは涙ぐみながら膝をついて頭を伏せる。
大仰な礼をする彼に健人は苦笑を漏らしつつ、「よろしく頼む」というように、ポン、と彼の肩を叩く。
顔を上げたアレサンの目には、先程よりさらに強い意志の光が宿っていた。
(……あれ? なんか視線が妙に熱いんだが?)
それは純粋な敬意の目。
普通に考えれば、一領主がアレサンのような新兵の懇願など受け入れてくれるはずがない。いや、下手をすれば、衛兵の任を解かれていてもおかしくはないのだ。
しかし、健人は彼の願いを受け入れてくれた。
さらにアレサンに対して期待を示してくれた。生意気だと、不敬だと罵ることなく、ただ自然体のまま。
それが、この緊張でガチガチになっていた若い衛兵の心をどれだけ解きほぐしただろうか。
アレサンはレッドガードだ。彼らの生き方に密接にかかわる「円環の書」には、こう記されている。
後に来る者たちが、砂に残されたあなたの足跡に畏敬の念を抱くようにせよ。
アレサンにとっては、この瞬間、健人は“恩人の兄”から“敬愛する主”へと変わっていた。
一方、焼けるほどの熱視線を向けてくるアレサンに、健人は「気負いすぎなきゃいいけど……」などと考えつつ、視線をセラーナ達へと向けていた。
『準備をしてくる。セラーナさん達も用意を』
「ええ、分かりましたわ。必要な薬を取ってきます」
「オイラは食料を用意してくるよ」
そして、健人達はペイルへの遠征のため、各々準備を整え始める。
健人は一度自室に戻り、装備を身に着けていく。
革の鎧と盾、オリハルコンのブレイズソードと落氷涙。そして、ソリーヌが作ってくれていた改良型グラップリングボウ。
グラップリングボウは後ろのベルトに落ちないようにひっかけておく。後は、必要な道具や消耗品を詰めたリュック。
てきぱきと準備を進めていると、部屋の扉が「コンコン」と遠慮気味に叩かれた。
誰だろうかと扉を開けると、黒髪の相方が立っていた。
(セラーナさん?)
「申し訳ありません、ケント。少し話がありまして」
(話?)
「やあケント、お邪魔しているよ」
いうが早いか、健人とセラーナの間に割り込んでくる女性がいた。
旅芸人の一団『蒼の艶百合』の団長であるクレティエンだ。
このタイミングで、いったいどうしたのか。
『話があるのは、クレティエンか?』
「まあね、君達が旅立つ前に話をしたいと思ったんだ。でも、あまり時間がないみたいだね」
いつもとは違う、神妙な雰囲気を纏うクレティエン。
おふざけに来たわけではないらしい。
真面目な話であるなら、聞かないわけにはいかないだろうと、健人は二人を部屋に招き入れた。
というわけで、いかがだったでしょうか?
原作と異なる点は、本来、帝国側が勝利したら首長と鳴るはずのブリナが、三年間の中で心折られてしまったこと。
そして、ドーンスターへ行くメンバーにジョットとアレサンが参加する形になりました。