【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
準備を終えた健人達は、セラーナの半月の船でウィンドスタッドの北岸を東進。
ジョットの案内でドーンスター近くの岩場に船を隠した後、徒歩でさらに東へと進んでいく。
残雪残る丘陵地帯を上ると、湾に面した港町が目に飛び込んでくる。
(あそこが、ドーンスターか)
港町らしく、桟橋には帆をたたんだ船が幾隻も着き、屈強な男達が荷を降ろし、荷上場には木箱や樽が山のように積まれている。遠目からでも、その忙しなさは伺い知れる。
街の入口にはストームクローク兵の鎧を纏った衛兵が立っており、外敵に目を光らせていた。
「見たところ、変わった様子はないようですけど……」
「いえ、街全体に妙なマジカが漂っておりますわ。ブリナ達に纏わりついていた者と同質の……」
丘の上から覗き込むように街の様子を窺っていたアストンには感じ取れていないようだが、セラーナは街を包み込むように広がっている魔力を敏感に感じ取っていた。
「眠りを誘う香料のような、甘いマジカですわね」
マジカの臭いについては健人には分からないが、彼も異質な雰囲気は感じていた。
ピリついた、肌に針先が触れるような感覚。以前、ミラークの“服従”の影響下にあったソルスセイムで感じた空気と、なんとなくよく似ている。
「で、これからどうするの?」
『街に入って調べよう。ジェットさんとカシト、アレサンはここに残ってくれ。夜になったら、宿屋の裏で落ち合おう』
カシトの質問に、リーダーである健人は簡潔に答える。
一度、街の中の様子を確かめておく必要はあるだろう。だが、知人がいるアレサン、ストームクロークから離脱したジェットが昼間に街に入るのはまずい。
カジートであるカシトも目立つことを考えれば、不適格だろう。
「潜入なら、少人数の方がいいでしょうね」
「残るのは俺かケント、セラーナ、ソリーヌの四人だが」
ガンマーとソリーヌの会話に、その場にいる者達は頷く。
「ガンマーはトロールの世話があるし、私とケントはノルドじゃない。となるとセラーナくらいしかいないわよ」
「人数的には、もう一人欲しいな」
「なら、ケントにお願いいたしますわ。女性だけの旅というのは、かなり不自然ですし」
セラーナの意向で、ドーンスターに潜入するのは健人とセラーナの二人に決まる。
「では、少し対抗策を講じますわね」
(対抗策?)
いうが早いか、セラーナは手早く詠唱を済ませると、“灯火”に似た光を手の平に生み出した。丸く球体の光は数秒ほどで弾け、健人達に降り注ぐ。すると、淡い燐光が全身を包みこんだ。
「二日くらいは、街を覆うマジカを防いでくれるはずです」
『助かるよ。ありがとう』
「ふふ、どうしたしまして」
健人達はともかく、ジョットはウィンドスタッドを出る時はまだ、ドーンスターを包むマジカの痕跡が残っていた。
精神に影響を与える術の厄介さは、健人もソルスセイムで経験している。
セラーナの対抗策は、非常に助かるものだった。同時に、健人は改めて彼女が、卓越した魔法使いだと実感する。
「とりあえず私達の設定ですが、休戦が続いている今の間に、売れるような品をさがす旅の商人という設定で行きましょう」
(まあ……無難かな)
セラーナの提案に、健人はうなずく。
基本的に、外様の人間が辺境(一応ペイルホールドの中心的都市だが、立地的にはタムリエル大陸の北端)を尋ねる理由としては、そのくらいしかない。
「あの、村長。その……」
一通り打ち合わせが終わったところで、アレサンが、遠慮しがちに声をかけてきた。
ドーンスターで世話になった恩人のことが気になっているのだろう。
健人は小さく頷くと、安心させるように微笑みながら、黒板を掲げる。
『まかせろ』
「あ、はい。よろしく、お願いします……!」
健人としても、部下であり、義妹を支えてくれる村民の頼みであるなら、断る理由はない。
それに、情報収集に宿屋は定番のスポット。どの道、訪れる予定であった。
「では、参りましょうか」
健人とセラーナは丘の陰から出ると、互いに並んでドーンスターへと足を進める。
しばしの間、サクサクと残雪を被った草木を踏みながら、歩いていく。
北風に吹かれる中、健人はちらりと後ろを振り返った。
丘の上で待機しているカシト達が視界に入る。そして意識は自然と、その向こうにあるウィンドスタッドの村に残った義妹達。更には、最大の脅威である吸血鬼の王と、彼に仕えることを決めた元同僚達へと移っていく。
自然と、大きなため息が漏れた。
(ウィンドスタッドに戻ってから、色々と考えることが多すぎて頭がパンクしそうだ)
ヴォルキハルの脅威、刻まれたモラグ・バルの魂縛、そして、再燃しかけている内乱の火種。
ここ最近、次々降りかかってくる問題。ため息も出るというものだ。
そんな健人の様子を横目で窺っていたセラーナが、静かに口を開く。
「……何か気になることがありますの?」
(え?)
「なにか、難しい顔をしておりましたから」
健人は気づかれていないと思っていたのか、一瞬目を見開き、続いて難しい表情を浮かべた。
どの問題も、今すぐどうにかできることではないし、これからドーンスターに潜入しなければならない。
無理に話題にする必要もないのではないか?
そんな考えが浮かんでは沈むを繰り返す。
だがそんな健人に、セラーナは柔らかな言葉を重ねてくる。
「ほんの少しでも話してみませんか? 幸い、街に着くまで少し時間がありますし、解決しなくても、少しは楽になるかもしれませんわよ?」
確かに。解決しなくても、伝えておくことは必要かもしれない。
健人はそう思い直すと黒板を取り出し、少し躊躇いながらも白墨を走らせる。
『まあ、あると言えばある。ハルコンの事とか、魂縛の事とか。あと、星霜の書のもう一巻は、どこにあるのかなってね』
ヴォルキハルの脅威を退けるために必要な、『血』の星霜の書の在り処。
目下のところ、ハルコンの野望を阻止するために一番必要なものだ。
健人はその書をヴォルキハル城から持ち出したのが、セラーナの母親、ヴァレリカだと言うことは既に聞いていた。そしてセラーナを封印したのが、彼女であることも。
「……ああ、そうですわね。そちらも早急に見つけ出さないといけませんわ」
一方のセラーナは、母親の話題に声を落としつつ、視線を遠くへ向けていた。
ほんの僅かなトーンの変化。しかし、健人にはそのわずかな変化の中に複雑な感情が込められているように思えた。
怒り、憎しみ、悲しみ、諦観。それら全てを混ぜこぜにしたかのような、ドロリとした熱情。
ヴァレリカはセラーナを星霜の書と一緒に数千年間封印した人物。
健人自身、家族で会ったリータに拒絶された経験があるゆえに、彼女の気持ちは痛いほどよく分かった。
(しかも、俺なんかよりも比較にならないほど長い間、セラーナはあの痛みを感じ続けているんだよな……)
澱のように胸の内に溜まったその感情は、早々拭えるものではないだろう。
セラーナ自身も母親への怒りは自覚しているのか、しばしの間、二人の間で沈黙が流れる。
「そのことなのですけど。心当たりというか、もしかしたら……と思えることがあります」
二十ほど歩を重ねた後、突然セラーナが沈黙を破った。
彼女としては、数千年間行方不明だった母親の行き先に思いつく場所があるらしい。
健人は息を飲み、小さく頷いて話の先を促す。
「母は、父を憎悪するほど嫌っておりましたが、同時に父の性格を熟知しておりました。そしてヴォルキハル城に戻った時に見たのですが、父はどうやら長い間、母が管理していた城の区画を放置し、近づいていないようです。もしかしたら……」
そこに、彼女はいるのではないか。
セラーナの言葉に一瞬「馬鹿な」と思いつつも、否定する要素がないことに、健人は開きかけた口を閉じた。声が出なくなっても、驚いた時は健常だったころの癖が出るのは相変わらず。
(灯台下暗し、というやつか……)
普通ならあり得ないと一蹴するが、それを娘であるセラーナが口にするとなると、俄然信ぴょう性が増す。
それに現状、他に手がかりがありそうな場所も思いつかない。
もしヴォルキハル城にヴァレリカが隠れているなら、普通の隠れ方ではないだろう。
感覚の優れた吸血鬼の王の目を誤魔化すくらい、相当入念な準備をしているはず。
同時に、もし調べに行くとしたら、相当な危険行為である。なにせ、相手の本拠地だ。
事実、健人は初めてあの城に行った時に大立ち回りして捕らえられた挙句、モラグ・バルの魂縛をかけられている。
『嘆きの首輪』を掛けられて拷問されていた時のことを思い出し、健人は渋顔を浮かべた。
『危険だな』
「はい。ですが、城の下水道を使えば、父に知られることなく、城の中へ入れるはず。ガンマー達がハルコンに囚われた貴方を救出するため、一度そこから城に入ろうとしたことがありますから」
(あの三人、そんなことしてたんだ……)
カシトがいたことを考えると、かなり騒がしかっただろう。
先ほどの苦い記憶を忘れ、健人は思わず含み笑いを漏らす。
「この件を片付けたら、イスラン達に相談して参るとしましょう」
現状、他に手がかりが手に入りそうな場所はない。
静かに首肯する健人に、セラーナもまた静かに頷き返した。
「それで、他には?」
(え?)
「まだありますわよね? ドーンスターに来るまでの間、チラチラとウィンドスタッドの方に視線を向けておりましたわ」
『そうだった?』
「はい、そうでした。ですので、キリキリ話してくださいな」
(いや、そんなこと言われても……痛!?)
ほらほら早く、というようにゲシゲシと肘でついてくるセラーナ。眼帯越しの視線でも、グイグイと圧をかけてくる。
口元は緩やかな弧を描き、奇跡的なシンメトリーを描く美顔も相まって、有無を言わさぬ雰囲気があった。
なんとなく、咎められているような感じがして、健人は思わず半歩距離を取ろうとする。
しかし、その行動もセラーナにグイっと腕を引っ張られることで防がれてしまい、健人は仕方ないというように首を振ると、再度黒板に白墨を走らせる。
『ソフィがウィンドスタッドに残った理由。他にも何かある気がして……』
ソフィはずっと、健人の隣に立つことを目標に努力してきた。
その願いがこの間、聖蚕の僧侶を探す際にようやく叶った。
本人の希望として、健人はソフィが一緒に来ると思っていた。もちろん、村の守りもおろそかにはできないが、一言でいえば、肩透かしを食らったような気になったのだ。
ただ、その後に少し思い直してみると、村に残るといった義妹の様子に、違和感を覚えるようになっていた。
なぜか? と聞かれると、明確な答えは浮かばない。
ただ、奥歯に小骨が引っかかったような感覚になるのだ。
そして、タムリエルに来てからの経験的に、こういう時は、何か自分の知らないことがあるのだという実体験がある。
『何か知ってたりする?』
「……いえ、聞いてはおりません。ただ、ソフィさんはとても責任感が強い方です。ドーンガードが壊滅した理由もイスランから聞いているみたいですし、今後のことを考えてのことだとは思いますわ」
(まあ、確かにそうかもしれないけど……)
ソフィの責任感の強さを、健人も疑うことはない。
だからこそ、何かを隠していないか、知らないうちに負担をかけていないか気になってしまう。
「そろそろ衛兵がこちらに気づきますわ。話は私がしますから、怪しまれないようにしていてくださいな」
しかし、悩んでばかりもいられなかった。
気がつけば、健人達はドーンスターにかなり近づいており、街の周囲を巡回している衛兵達が彼らを指さしている。
(仕方ない、気持ちを切り替えるか)
健人は考えるのは後だと割り切り、意識を切り替える。
そうしていると、セラーナがそれとなくスッ……と身を寄せてきた。
(……え? なに?)
「お前、達……。何者だ……」
問いかける間もなく、衛兵が健人達に話しかけてくる。
数は二人。ストームクローク特有の青いキュライスを身に纏い、一人は腰に剣を、もう一人は背中に弓矢を背負っている。
だが、その声には活力が感じられなかった。
衛兵の顔を見てみれば、無気力な声色に相応しい顔面蒼白。
明らかに憔悴している様子が見て取れる。
「申し訳ありません。旅の者ですが、食料などを買いたく思い、寄った次第です。街に入ってもよろしくて?」
セラーナが内心を全く悟らせないアルカイックスマイルで、衛兵に対応する。
この手の感情制御は、彼女が最も慣れたものの一つ。
しかし、それでも衛兵は陰った顔に疑念を張りつけ、健人とセラーナを交互に凝視していた。
眼帯付きの美女と、タムリエルでも見ない顔の異邦人の組み合わせとなれば、怪しむなというのも無理である。
「……変な、顔の人間だな。なんでお前は喋らない」
衛兵の注意は健人の方に向いた。
どうやら眼帯よりも、ノルドではない、という点が彼らの中で引っかかったらしい。
健人はとりあえず、セラーナと話し合って決めていた商人設定を書こうと黒板を取り出す。しかし、彼が白墨を走らせる前に、セラーナが口を開いた。
「私はセラーナ。こちらは夫のケントですわ」
(……ん? 夫?)
突然耳に入ってきた台詞に、健人の思考はフリーズした。
ということで、続きです。
ようやくドーンスターに到着した主人公一行。
街の状況を探るべく、潜入することに。
ソフィがウィンドスタッドに残った理由が気になりつつも、残った星霜の書について、セラーナと話をする健人。
しかし、その後の夫扱いに思考が明後日の方向へ。
以下、用語説明
・ドーンスター
スカイリムの北方、ペイル地方の主要都市。
首長スカルドが直接投資ている街でもある。
北に港を持つ港町であり、交易の船たちの補給地点となっている。
ゲームでは、デイドラロード・ヴァーミルナのアーティファクトの影響で、街の人達は悪夢を見る街となっている。ちなみに、当デイドラクエストでは、非常に優れた回復魔法のトレーナーを見つけることが出来たりする。
本小説では、三年間の時間経過の結果、その症状は悪化しており、街の人達の言動にも影響が出ている様子。