【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
健人達はカイネスグローブを目指すために、一路東へ向けて旅をしていたが、さすがにハイヤルマーチからイーストマーチまでの道のりは長い。
その日、健人達は途中の宿屋ナイトゲートで一泊することに決めた。
かなり割高な宿屋なのだが、この先ドラゴンと戦う事になるかもしれない以上、英気を養っておく必要があると考えたのだ。
この宿屋には泊まっている客は美食家と呼ばれるオーク一人だけだったが、美食家なんて呼ばれる人物が泊まるだけあり、料理はおいしさも量も満足できるほどだった。
食事は牛の肉と野菜をよく煮込んだビーフシチュー、鶏の胸肉のグリル、新鮮なサラダとパンだ。
ナイトゲートの周りには大きな都市はなく、食事等の味には大抵期待できないものだが、リータ、ドルマ、リディア、そしてデルフィンの四人は、思いがけない場所での美味に、各々舌鼓を打っていた。
「そういえば、ケントは何所の出身なのかしら? 見たところインペリアルでもノルドでもブレトンでもないみたいだけど……」
シチューにつけたパンを蜂蜜酒で流し込みながら、デルフィンは唐突にリータに尋ねた。
リータは、少し逡巡する様子を見せていたが、口の中のものを飲み込んだ後、ゆっくりと語り始めた。
「分からないわ。ケントは自分の記憶がないの。私達が出会うまでの事を覚えていないらしくて、最初は言葉も通じないくらいだったのよ」
「そうなの?」
言葉すら分からなかったという話に、デルフィンが目を見開く。
リータの隣にいたリディアも、健人の出生は気にしていたのか、じっとリータの言葉に耳を傾けていた。
その顔には、デルフィンと同じように驚きの色が窺える。
リディアも、健人がまさか言葉まで通じなかったことは知らなかったらしい。
「そういえば、彼は今何を?」
「おそらく、外で稽古をしているはずです」
「そう、精が出るわね」
リータは外で鍛錬している健人が気になっているのか、チラチラと宿屋の扉を覗き見ている。
そんなリータの様子を横目で眺めていたデルフィンは、悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「彼が心配?」
「ええっと、健人は私なんかよりも要領がいいですから。ちょっと前まで戦い方なんて全然知らなかったのに、今は盾の扱い方も様になってきましたから」
デルフィンの質問に、リータは誤魔化すような笑みを浮かべて視線を逸らす。
「それもとても頭がいいですし、勉強家です。毎日夜が更けてもダニカ殿から貰った本を読んでいますし、わずかな期間で、魔法を習得するくらいなんですから」
「それは……すごいわね……」
リータの言葉を聞いたデルフィンの目が、純粋な驚嘆の色に染まる。
その極めて意外な反応に、リータも得意げに鼻を鳴らした。
魔法の習得には時間がかかる。
これは詠唱を覚えたりするだけでなく、術式の把握などに高度な知識や算術が必要となるからだ。
また、術者の想像力も問われ、明確なイメージができない魔法は、総じて失敗することが多い。
魔法使いの中には、そのイメージを補うために、詠唱の際の指の形などにも言及する者たちもいるくらいなのだ。
しかし、健人はこの問題を容易く……とはいかないが、現地人から考えれば、信じられないほど短期間で乗り越えている。
これも、あらゆる刺激に溢れた現代日本の影響だが、そんなことを知らないタムリエル勢にとって、健人はある種の天才に見えるのだ。
もっとも、彼個人が特に天才というわけでもない。
生まれた環境の違いが、そう感じさせているのだ。
その時、食事をしていたドルマが突然立ち上がった。
「あれ? ドルマ、どうしたの?」
「俺は寝る。お前もさっさと休んでおけ」
憮然とした表情で部屋に帰っていくドルマをリータは怪訝な顔で見送った。
一方、デルフィンは妙に鋭い視線で、健人がいるであろう外へと続く宿の扉を見つめていた。
リータたちが宿で食事を取っている中、健人は日課の鍛錬に精を出していた。
少しでも早くリータたちに追いつかなくては。
そんな焦りにも似た感情に急かされるように、剣と盾を何度も何度も振るう。
イメージするのは、ウステングラブで戦ったサルモール兵士だ。
しかし、イメージの中での戦いでは、鍛錬として自分を追い込むことは難しい。
イメージのなかに、自分の願望が混じってしまうからだ。
だが、いくら甘く想定したところで、健人には自分が正規兵に勝てるというイメージが湧くことはなかった。
眉を顰めながら、せめてイメージの中だけでもと剣を振るうが、その刃は想像の中の敵にすら届かない。
胸の内から溢れる焦燥が、健人の剣をさらに鈍らせる。
呼吸が乱れ、体幹の軸が揺れ、切っ先がブレる。
エルフの盾は鉄製の盾に比べて軽く、取り回しはいいが、崩れた動きで剣を何度も振るっていれば、疲労は加速度的に蓄積する。
雪の中、剣を振るい続ける健人だが、やがて限界に達した。
筋肉が悲鳴を上げ、寒さと疲れで持てなくなった剣が、指から滑り落ちて雪に沈む。
「はあ、はあ、はあ……」
「すこし、いいかしら?」
「はあ、はあ、デルフィンさん?」
疲労で上がらなくなった腕をだらりと下ろして息を整える健人に、デルフィンが声をかけてきた。
何か話があるような雰囲気に、健人は首をかしげながらも、震える手で剣を持ち上げ、一旦鞘に収める。
剣を収めた健人に、デルフィンは手招きして、ついてくるよう促す。
健人はデルフィンが促すまま、彼女の後に続いた。
デルフィンが案内したのは、宿屋ナイトゲートのそばにある池の桟橋だった。
彼女は桟橋の端に腰かけ、健人に座るよう促してくる。
健人は何の話があるのか気になったが、とりあえずデルフィンに促されるまま、彼女の隣に腰かけた。
「ドラゴンボーンから聞いたけど、貴方、昔の記憶がないのよね?」
「え、ええ」
唐突な質問に、健人は思わず“記憶がないというの嘘である”ということがバレたのかと思い、全身を強張らせる。
しかし、健人の緊張をよそに、デルフィンは考え込むように口元に手を当てると、続けざまに質問をぶつけてきた。
「どうして、ドラゴンボーンと旅を? ホワイトランで待っていればいいじゃない」
自分の出生を怪しんでいるのではないかと考えた健人だが、どうやらデルフィン本人は健人の出生について知ることは、それほど重要視していないらしい。
健人は自分の過去について追及されなかったことに内心安堵する。
「ホワイトランで待っているだけじゃあ、リータを守れません」
健人の言葉を聞いたデルフィンの目に、呆れの色が浮かぶ。
それを見て、健人も少しムキになった。
「デルフィンさんが言いたいことは分かります。俺が足手まといという事もわかっています。
それでも、俺は家族を守りたいんです」
健人自身も、自分がこの一行で一番の足手まといであるということは自覚している。
この厳しい世界で生きてきた人間と、現代日本で多少の不幸に遭ったとしても、食べることには困らなかった人間とでは、あらゆる面で差が生まれることも。
だけど、それでも健人には、諦めるという選択肢はなかった。
子供じみた意地なのかもしれない。
それでもリータは、彼に残された最後の家族なのだ。
その家族が過酷な運命に巻き込まれそうなときに黙って待つなど、出来るはずもなかった。
「デルフィンさんはどうなんですか? どうしてリータに協力しようと?」
「それが、ブレイズの使命だからよ」
「使命……それは何ですか?」
「ドラゴンボーンの同行者でしかない貴方に言う必要があるのかしら?」
「…………」
自分に対する悔しさを誤魔化すように、健人はデルフィンに同じような質問をぶつけるが、デルフィンは健人の質問を軽く流す。
まるで相手にされていない。
デルフィンにとって、健人はかなり特殊な存在であれど、特に気にかけるような人間ではないのだ。
その事実を自覚し、歯噛みしつつも、健人は決してデルフィンから目は逸らさない。
ここで目を逸らしたら、自分の信念まで嘘になるような気がしたからだ。
そんな健人の視線に、デルフィンの頬が僅かに吊り上がる。
「私たちブレイズは皇帝直属の隠密組織だったけど、その本質はドラゴンガード。ドラゴンの脅威から人々を守り、そして究極のドラゴンスレイヤーであるドラゴンボーンを守る事よ」
多少威圧しても目を逸らさない健人を多少見直したのか、デルフィンは少しだけ自分の本心を語る。
ブレイズの本当の存在理由は、竜の血脈であるドラゴンボーンを守護し、補佐すること。
帝国の歴代皇帝に仕えていたのも、偏にドラゴンガードとしての本分を全うするためだ。
そして帝国皇帝がもっていた竜の血脈が、第三期の終わりに断絶した今、ドラゴンガードたるブレイズが守護するのは、再臨したドラゴンボーンであるリータだと、デルフィンは語った。
「貴方、強くなりたいのよね。はっきり言って、今のまま鍛練しても強くなれないわ。
いえ、強くなれるかもしれないけど、それには相当な時間がかかるわ。この旅が終わるまでには、到底間に合わないでしょうね」
デルフィンの言葉がグサリと健人の心に刺さった。
彼自身も、自覚はしていたところはある。魔法にしても剣にしても、師がいない今の状況では、旅をしながらの鍛錬では限界があるのだ。
「ノルドの剣術は、貴方の体には合っていない。貴方の体は、ノルドのような膂力がものを言う戦い方には向いてないわ。どちらかと言うと、技を重視した戦い方が向いているタイプよ」
この言葉は正しい。
健人の体には、どう考えてもノルドの剣術は合わない。
それは、リディアとの鍛錬でも自覚していた。
自分の現状を改めて突き付けられ、健人は悔しさから唇を噛み締め、拳を握り締めた。
「……もしよければ、私の剣術をあなたに教えてあげてもいいわ」
そんな健人を横目で眺めていたデルフィンの唐突な申し出に、健人は驚く。
確かに、デルフィンの使う剣術は、健人には向いている。
彼女はブレトンであり、ノルドのような先天的な戦士の才を持つ種族ではないが、その力量はずば抜けている。
それは、彼女の剣術が膨大な修練を基盤とし、万人に使えるよう体系化されたものだから。
同時に、これは健人にとっても利となる提案だった。
強くなるために健人に一番必要なものは、剣術を含めた全てにおいて、的確に指導してくれる師の存在であるからだ。
「……本当ですか?」
「ええ、貴方がドラゴンボーンの力になりたいというのなら、協力しない理由はないわ。それに、ブレイズは盾も使うから、ドラゴンボーンの私兵から受けた教えも、無駄にはならないわよ?」
ブレイズの標準装備には盾も含まれている。
当然ながら、デルフィン自身も盾を十全に扱うことはできるのだ。
「どうして、鍛錬をしてくれるんです? ブレイズの剣術とか、教えてもいいんですか?」
「あなたを鍛える理由も、ドラゴンボーンの為よ。彼女はあなたを気にかけているみたいだし、これからの戦場に足手まといを連れていく余裕はないでしょうね。その為にも、貴方には少しでも早く力をつけてもらわなければならない。
後者についても、問題ないわ。ブレイズは隠密組織だけど、すでに瓦解しているから、今更門外不出とか意味はないわ」
健人はデルフィンの思いがけない提案に、しばしの間、黙考する。
デルフィンの剣術の腕や戦闘技量は、疑いようがない。
健人たちが苦戦したサルモール兵たちを、瞬く間に駆逐したのだ。その剣の技量。健人から言えば刀の技量は、今のリータ達と比べても頭一つ以上飛び抜けていると感じた。
さらに、彼女はサルモールのブレイズ狩りも生き残ってきている。
聞いた話では、サルモールがブレイズを狩り始めたのは大戦からの話。
つまり、彼女は何十年もサルモールの目を逃れてきた、生粋の隠者でもある。
生き残るための知識や技能にも当然長けているだろう。
戦うこと、生き残ること。この事に関して、彼女の右に出るものはそういないだろうと確信できる人物だ。
この弱肉強食な世界で、一人では生き残ることすら難しい健人にとっては、これ以上ない指南役だ。
「……分かりました。よろしくお願いします」
もちろん、少し前に会ったばかりの人物に師事することに、不安がないわけではない。
デルフィンの態度に、何か含むものがあるのも感じてはいた。
しかし、健人は強くなるために、頭に浮かんだ懸念を蹴飛ばしても、強くなることを選択した。
健人の答えに、デルフィンが笑みを浮かべる。
「決まりね。なら、この剣を渡しておくわ」
そう言って、デルフィンは自分が腰に差しているものとは別のブレイズソードを手渡してきた。
健人は鞘から抜いて、刀身を確かめてみる。
やはり、日本刀に似ている。
鍔や拵えに微妙な違いがあるが、やや反りのある刀身や、波打つような特徴的な刃文は完全に日本刀と同じものに見えた。
もしかしたら、製法も似ているのかもしれない。
この異世界に、日本刀と同じような作りの剣があることに改めて驚きながら、健人は抜き身の刀を鞘に戻した。
「使い方も、手入れの仕方も、明日からきちんと教えるわ。まあ、カイネスグローブでの一件が片付くまでには間に合わないでしょうから、本格的な鍛練が始まるまでは、今まで使っていた剣を使いなさい。」
「分かりました」
「それじゃあ、おやすみなさい」
話は終わり。
そう告げるように、デルフィンは立ち上がると、スタスタと宿屋に戻っていく。
健人は自分の手にあるブレイズソードを見つめながら、改めて強くなることを、自分自身に刻み込んでいた。
「ケント……」
「リータ」
その時、ナイトゲートの陰からリータが姿を現した。
どこか愁いを帯びたリータの顔に、ケントは胸が締め付けられるのを感じる。
一方、リータはしばしの間瞑目していたが、やがてスタスタとケントの隣まで歩いてくると、ストンと隣に腰を下ろした。
「ねえケント。やっぱりデルフィンさんに弟子入りするの?」
「やっぱり聞いてたの?」
「うん、ごめんなさい……」
盗み聞きしていたことが後ろめたいのか、リータは遠くに視線を向けたまま、肩をすぼめて小さくなる。
伝説のドラゴンと正面切って戦うことができる勇ましさとは正反対の、どこか年相応のリータの姿に、健人は思わず笑みを浮かべた。
「弟子入りはするよ。このまま足手まといは嫌だから……」
「ケントは、足手纏いなんかじゃないよ」
自分を足手纏いといった健人の言葉に、リータが気に入らないとばかりに頬を膨らませる。
「わかっている。それでも俺は、強くなりたいんだ」
ノルドでは戦士としての力量が尊ばれる。
だからこそ、リータも強くなりたいと思っている健人の気持ちが理解できる。
だが、ケントの気持ちが理解できる一方、リータは自分の胸の奥で、言いようのない淀みがこみ上げてくるのも感じていた。
どこか浮世離れしていて気弱だが、優しく、常に一生懸命な人。リータに残った、唯一の家族。
そんな彼が消えてしまいそうな予感が、リータの胸の奥で渦巻いていた。
「へっくし!」
その時、健人がくしゃみをした。
突然のくしゃみに、目をばちくりさせていたリータだが、やがて口元に笑みを浮かべる。
「汗をかいたまま外にいるからだよ。ほら、中に入ろう」
「うん。さ、寒い……」
「もう、しょうがない弟だなぁ……」
汗をかいたまま、スカイリムの寒風が吹きすさぶ外に居続ければ、体が冷えるのも当然だ。
どこか抜けている義弟の姿に笑いを堪えながら、リータは自分の着ていた外套を震える健人に羽織らせると、彼の腕を引いて立ち上がらせる。
そのまま二人は寄り添うように、ナイトゲートへ向けて歩き始めた。
「ねえ、ケント、ホワイトランに……」
“戻ってはくれないのか?”
リータの胸の奥で疼く淀みが、再び喉の奥から漏れてきそうになる。
だが、義弟の決意を聞いてしまった今、リータは己の淀みを言葉として紡ぐ事ができなくなっていた。
健人とリータが話をしている一方、宿屋に戻ったデルフィンを出迎えたのは、リディアだった。
玄関の扉を入ったホールでリディアは腕を組み、厳しい視線をデルフィンに向けている。
「……どういうつもりですか?」
彼女もまた、健人とデルフィンの会話を聞いていたのだろう。
真意を問い詰めるようなリディアの言葉に、デルフィンは肩をすくめ、軽い調子で返す。
「どういうつもりとは? 私は必要だと思ったから彼に提案しただけよ」
「良く言います。どんな教え方にしたって、間に合うはずはありません」
リディアの言葉は、健人の鍛錬の核心を突くものだった。
武術の動きを体に馴染ませるには、膨大な量の訓練と時間が必要だ。そのどちらもが、今の健人には足りていない。
つまり、彼は戦士としては“普通の鍛錬”ではどう頑張っても、この旅の中で大成することはできないという事だ。
「仲間に対して、随分な言いようね。まるで彼に“これ以上は無理だから諦めなさい”と言っているみたいよ?
それに、学習能力の高い彼のことだから、思わぬ成長を遂げるかもしれないわ」
デルフィンのその言葉に、リディアの視線が一層厳しくなる。
それはつまり、デルフィンは普通ではない鍛練を健人に課すかもしれないという事だ。
それこそ、鍛練の途中で死ぬことも当たり前とされるようなものを。
「もし、ケント様に危害を加えるなら……」
リディアの手が、自然と腰に差した剣に伸びる。
既に、デルフィンはリディアの刃圏に入っている。
リディアがその気なら、それこそ一息でデルフィンを斬り殺す事が出来る距離だ。
「安心しなさい。私は貴方と同じ、ドラゴンボーンに仕える人間よ。
それに、過保護は毒よ? 彼も、それを望んでいないでしょう?」
しかし、デルフィンは向けられる殺気を特に気にした様子は見せず、ポンと軽くリディアの肩を叩く。
余裕すら見せたデルフィンに対し、リディアは動けない。
戦士としてのリディアの本能が、無防備なはずのデルフィンに対し、最大級の警報を鳴らしていた。
それは、デルフィンがこの状況でもリディアを打倒できるほどのものを持っており、同時に戦士として、デルフィンがリディアよりも高みにいることの証左でもある。
何より、リディアが動けなかったのは“健人が守られることを望んでいない”という言葉が、真実であることを敏感に感じ取ったからだ。
リディアはリータの私兵であり、彼女と彼女の家族を、命を賭して守ることが使命である。
しかし、戦士でもあるリディアは、強くなりたいという健人の願いもまた、十分に理解できてしまうのだ。
ノルドにとって、強くなることは至上命題であり、戦士が戦いの中で命を落とすことは名誉だ。
そして健人は今、家族を守れる戦士となることを願っている。
そのノルドとしての在り方と、私兵としての使命が、リディアの胸の奥でぶつかり合っていた。
「それじゃあ、おやすみなさい」
懊悩するリディアをよそに、デルフィンはさっさと隣を素通りして、宿屋の奥へと戻っていく。
手を振って自室に帰っていくデルフィンの背中を、リディアは睨みつける事しかできなかった。
いかがだったでしょうか。
今回のお話は閑話としての意味合いが強いですが、同時に次章にも繋がる色々なフラグが立っています。
第二章はおそらくあと二話くらいで終わるかと思いますが、楽しんで頂けたら幸いです。