【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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注意!

本話の最後から、この小説のオリジナル展開に入ります。



第八話 華やかなパーティーの裏で

 尋問室に入った瞬間、健人の耳に低く縋るような声が届いてくる

 

「よせ、頼む! 他には何も知らないんだ。もう全部話したじゃないか!」

 

 扉を潜ってすぐの右側には手すりがあり、下の階を覗き込めるようになっていた。

 眼下には独房と檻の中に入れられた囚人、先程上に上階にいたサルモール高官と兵士一人がいる。

 囚人は独房の中で檻に繋がれ、彼の前にはサルモールの兵士がメイスを持って立っている。

 

「静かに、ルールは分かっているだろう。話かけられた時以外はしゃべるな。これからルリンディル氏が質問する」

 

「やめてくれ……。頼む、もう洗いざらい話したんだ」

 

 囚人を前にした兵士がメイスを振り上げる。

 

「やめてくれええええ!」

 

 肉を殴打する音が、二、三度、独房に響いた。

 初めて目の前で行われる拷問を前に、健人は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。

 兵士がひとしきり殴った後、ルリンディルと呼ばれたサルモール高官が、囚人に話すよう促す。

 

「もう一度、最初からだ」

 

「はあ、はあ……リフテンに住んでいる年寄りがいる。彼がアンタの探しているエズバーンかもしれないが、断言できない。ちょっとイカれて見えた。知っているのはそれだけだ」

 

(エズバーン? 報告書にあった、ドラゴン復活の情報を知っている人か?)

 

「それで、その老人の名前は?」

 

「名前は知らない。もう何度も言った通り……あああああ!」

 

 再び、兵士のメイスが振るわれる。

 のたうち回るような囚人の悲鳴が、再び響く。

 

「どうすればいいか分かっているな。質問に答えればいいんだ。その老人はどこにいる?」

 

「言った通り知らない! ラットウェイで見かけただけだ。あそこに住んでいるのかもしれないが、確かなことは分からない!」

 

 ラットウェイ。

 リフテンのどこかにある場所の名前らしい。

 

「今のところ、それで質問は全部だ。非協力的な態度は相変わらずだな、失望している。次はもっと協力した方がいいぞ」

 

「これ以上どうしろと? もう洗いざらい話したんだ。なあ、自由にしてくれたらリフテンまで案内するよ。実はそこに……」

 

「黙れ、囚人!」

 

「ぐああああああ!」

 

 最後の一撃を加え、兵士が独房から出てくる。

 健人は尋問が終わったことで、ルリンディルが再び上に戻るかもしれないと考えた。

 このまま上に向かう扉の前に居たら、鉢合わせてしまう。

 すぐに移動しようとしたその時、運悪く健人が立っている床が音を立てて軋んだ。

 

「ん、誰だ? っ!」

 

(見つかった!)

 

 ルリンディルの視線が、上から様子を覗いていた健人を捉えた。

 見つかったと気付いた健人。考えるよりも先に体が動いた。

 素早く手すりを乗り越えるとブレイズソードを抜いて逆手に構え、刃の切っ先を相手に向けたまま、体ごとぶつかるようにルリンディルに跳びかかる。

 

「侵入……ごあ!」

 

「ぐう!」

 

 ブレイズソードの切っ先は鎧を纏っていないルリンディルの体を貫通し、そのまま床に深々と突き刺さって、彼の体を磔にしてしまった。

 健人の方も、着地の際に体勢を崩して倒れ込む。

 

「ルリンディル特使! おのれ!」

 

 残ったサルモール兵士が、激昂して手に持っていたメイスを振り上げ、健人に襲い掛かってきた。

 ルリンディルを貫いたブレイズソードはかなり深く床に刺さっており、引き抜くのは容易ではない。

 健人は即座に剣を抜くのを諦め、代わりに右手で腰から短剣を逆手で引き抜く。

 さらに、両足に力を入れ、振り下ろされるメイスに合わせて自分からサルモール兵士に向かって突っ込んだ。

 間合いの内側に滑り込まれたことで、サルモール兵士のメイスの威力が減ずる。

 健人は左手の小手で振り下ろされたメイスの柄を抑えて、相手の打撃をいなしながら、右手の短剣をサルモール兵士の首に突き立てた。

 

「グッ、ごぷ……」

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

 首を貫かれたサルモール兵士が、血の泡を吹きながら崩れ落ちた。

 健人は暴れ馬のように荒れる呼吸と心臓を鎮めようと、胸に手を当てて、しばしの間、目を瞑った。

 奪った人の命、戦闘の緊張と興奮で荒れる呼吸。

 血を流して事切れたルリンディルとサルモール兵士の姿が、ヘルゲン脱出の際に己が焼き殺した兵士達に重なる。

 だが、数度の深呼吸で、健人の心臓はすぐに平坦な鼓動を刻み始めた。

 

「アンタ、一体……」

 

「……話は後。拘束を解くぞ」

 

 茫然とした囚人の声に、健人は冷淡な返事を返し、硬直していた体をゆっくりと動かして囚人を拘束していた拘束具を外した。

 

「あ、ああ、感謝するよ」

 

 思わぬ助けに感謝を述べる囚人。

 健人は脳裏に浮かんだ過去の光景を思考の片隅に追いやり、ルリンディルに突き刺さったブレイズソードを回収してから、彼の遺体を探ってみる。

 すると、一本の鍵と一冊の書物が出てきた。

 鍵はおそらく、デルフィンから聞いた、この部屋から脱出するための落とし戸の鍵だろう。書物の方はルリンディルがまとめたと思われる報告書だった。

 健人は報告書の冊子を開き、中身を読んでみる。

 

“サルモール調査:エズバーン”

 

 報告書にはエズバーンはかつてのブレイズの一員で、サルモールは彼がドラゴンについての記録を持っていると考え、最優先の捕獲対象に認定している事が書かれていた。

 そして、エズバーンは現在、リフテンに潜伏しているらしいことも。

 サルモールの報告書を読んだ健人は、先程の尋問で気になった事を囚人に尋ねてみる。

 

「なあ、エズバーンという奴についてだが……誰か来た、隠れろ」

 

 だが、健人が囚人にエズバーンについて尋ねようとした時、コツコツと、誰かが上階の階段を下りてくる音が聞こえてきた。

 誰か他の大使館の人間が、この尋問室にやって来たのだ。

 健人と囚人はとりあえず、ルリンディルとエルフの兵士、二人の遺体を暗がりへと隠した。

 ガチャリと上階へ続く扉が開かれる。

 入ってきたのは二人のサルモール兵士と、健人が大使館に侵入するために協力したウッドエルフ……マルボーンだった。

 マルボーンは両手を縛られ、二人の兵士に挟まれる形で尋問室へと降りてくる。

 

「よく聞け、お前は囚われの身だ。共犯者もすぐに捕まえる。降伏して洗いざらい話すか、共犯者と仲良く死ぬか、どちらかだ」

 

「好きにしろ。自分は死んだも同然……」

 

「黙れ、裏切り者!」

 

 協力者であるマルボーンが、このままサルモールに捕まったままである事は、健人達にとっても良くない。足が付く可能性がある。

 しかも、マルボーンを拘束した兵士達が尋問室の異常に気付くのは避けられない。

 死体は隠したが、床にはルリンディル達が流したばかりの血が残っているからだ。

 拷問を行っている場所だけあり、尋問室の彼方此方には赤黒い血の跡も残っているが、ルリンディルの血は流したばかりで固まってすらいない。

 健人は右手にブレイズソードを保持し、同時に詠唱を開始。マジ力を捻りだし、左手に魔法を構築する。

 

「ん? これは……」

 

 案の定、マルボーンを連行してきた先頭の兵士が床の異常に気付いた。

 先頭の兵士の意識が床に向いた瞬間、健人は暗がりから飛び出した。

 相手が剣を抜く隙を与えぬまま、ブレイズソードを先頭の兵士の首めがけて一閃させる。

 

「がっ!」

 

「伏せろ!」

 

 健人の呼びかけに、マルボーンは咄嗟に身を屈める。

 続いて健人が左手の魔法を解放。

 素人クラスの破壊魔法である“火炎”が、マルボーンの後ろにいたサルモール兵士に襲い掛かった。

 だが、さすがは魔法に長けたハイエルフ。

 咄嗟に“魔力の盾”を使い、健人の火炎を防ぐ。

 しかし、その魔法は元々囮だった。健人自身、自分の脆弱な魔法が簡単にハイエルフに通じるとは思っていない。

 健人はその隙に間合いを詰め、刀を横薙ぎに振り抜き、サルモール兵士の鎧に守られてない内股を切り裂いた。

 

「ぐああああ!」

 

 足を切られたサルモール兵士が、四つん這いに蹲る。

 刀を振り抜いた健人は素早く刃を切り返し、上段からサルモール兵士の首めがけて刀を振り下ろした。

 切断された首がごろりと転がり、頭を失った胴体から勢いよく血が噴き出す。

 健人は自分が斬った死体から出来るだけ目を背けつつ、マルボーンに声を掛ける。

 

「……大丈夫ですか?」

 

「あ、ああ、助かったよ。だがこれで、サルモールから一生狙われ続けるだろうな。それだけの価値があったならいいが……」

 

 マルボーンの言葉に、健人も言葉に詰まる。

 今ここで、健人は四人の命を奪った。

 ヘルゲンで、そしてモーサルで経験しているとはいえ、粘つくような嫌悪感は消えない。

 

「……とにかく、脱出しましょう。死体を片付ける落とし戸から、外に出られるはずです」

 

 湧き上がる嫌悪感を押し殺しながら、健人は腰のポーチにあるポーションでマジ力を回復させ、落とし戸に手をかける。

 死体を廃棄する落とし戸の蓋には鍵がかかっていたが、ルリンディルのローブのポケットに入っていた鍵で解除できた。

 落とし戸の扉を開けると、風が下から吹いてきた。外に繋がっていることは間違いないなさそうだった。

 手近にある椅子を壊して松明を作り、梯子を下りて暗い穴の先に向かう。

 穴の底にはサルモールの犠牲者たちの遺体が散乱していた。

 白骨化した死体だけでなく、齧られた跡もあるところを見ると、どうやらここで破棄された死体を食べている動物がいることが推察できた。

 大型の捕食動物の可能性もあることから、健人達は出口を目指し、足早に駆ける。

 しばらく洞窟を進んだ先に、出口が見えてきたが、外はまだ暗く、吹雪いており、松明に照らされた雪が横殴りに飛んでいるのが見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 賊の侵入を聞いたエレンウェンは大使館の尋問室で、煮えたぎるような怒気を露わに、その場に集まった警備兵たちを睨み付けていた。

 

「これはどういう事かしら?」

 

 静かに、しかし、有無を言わせぬ圧力を伴った声が、その場に集った兵達を脅えさせる。

 このスカイリムで、サルモールにとって最も重要な拠点。その一つに、こうも容易く浸入され、重要な文書を盗まれた上に要人を殺された。

 エレンウェンにとっては絶対に許容できない事態であり、その苛立ちが状況を未然に防げなかった警備兵たちに向けられる。

 誰もが委縮している中、エレンウェンの前に出たのは、碧水晶の鎧を纏ったハイエルフの偉丈夫だった。

 

「申し訳ありません。エレンウェン第一特使。どうやら賊はパーティーの参加者に扮して侵入し、重要文書をいくつか持ち去ったようです」

 

「それは分かります。すぐに追いなさい。そして、侵入者を私の目の前に連れてくるのです。尋問は私がします。

 殺された同胞への慰めとこの館で狼藉を働かれた汚名、この館に入り込んだ愚か者に同胞達が味わった数千倍の苦痛を、私が与えることで禊とするのです」

 

「はっ! 続け!」

 

 部隊長と思われる偉丈夫の呼びかけに、部下が一斉に続く。

 

「至急、いなくなった参加者を確認しなさい。私は無くなった文書から、侵入者の狙いを特定します」

 

 追撃部隊が、健人達の脱出した落とし戸に次々と入っていく中、エレンウェンは侵入者の特定のため、残った部下にパーティー参加者の確認を命じ、自分は見えざる敵の正体を看破すべく、自らの執務机に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 健人達が洞窟から脱出した出口の先には、デルフィンが馬車を用意して待ち構えていた。

 デルフィンは無事だった健人達を出迎えると、労うように笑みを浮かべる。

 

「とりあえず、生きて帰ってきたようね。マルボーン、無事?」

 

「ああ、何とか。それじゃあ、俺はこれで消えるよ。お互い、もう会う事はないだろうがな」

 

「ええ、助かったわ。ありがとう」

 

 それだけの言葉を交わすと、マルボーンはどこかへと走り去っていった。

 健人は一瞬、マルボーンも一緒に逃げないのかと考えたが、今後サルモールに追われることを考えれば、相手の注意を逸らすためにも別れて行動する方が効率的なのだろう。

 助け出した囚人もいつの間にかいなくなっている。

 元がどんな仕事をしていた人間だったのか健人には分からないが、逃げ足は相当速いようだった。

 

「それで、成果はあった?」

 

「これを」

 

 デルフィンが成果を尋ねてきたので、健人は懐に納めていたサルモールの各報告書を、彼女に手渡す。

 デルフィンは素早く中身を確認し、そして驚愕とも呆れとも取れるような溜息を洩らした。

 

「まさか、サルモールが何も知らないなんてね。おまけにエズバーンが生きていたなんて。死んだと思っていたわ、あの変人」

 

「変人……」

 

 この女傑が変人という辺り、健人はそのエズバーンという人物はどんな人だったのだろうかと首を捻る。

 しかし、サルモールが血眼になって追いかけている以上、重要な人物であることは間違いない。

 

「エズバーンは、ブレイズの公文書保管人だったわ。サルモールが大戦で私達をボロボロにする前にね」

 

 ブレイズは帝国の皇帝直属の諜報部隊。

 そんな機密だらけの組織で、公文書の保管を任されていたという事は、そのエズバーンという人物は相当量の知識と秘密を持っていることは間違いない。

 サルモールが血眼になって追いかけるのも納得できる。

 

「リフテンのラットウェイ……行ってみるしかないわね。幸い、コネはあるし」

 

「コネ……一体、そのラットウェイには何が?」

 

「ラットウェイの先には、盗賊ギルドの本拠地があるわ。ええ。スカイリムで色々と動くには都合のいい、互いに利益を共有できる相手よ」

 

「盗賊ギルド……」

 

「ちなみに、ドラゴンボーンとの連絡を取るのにも、一役買ってもらっているわ」

 

 盗賊ギルド。

 名前からして、明らかに犯罪者の集団であることが推察できる。

 しかも、デルフィンは“スカイリムで動くには都合がいい”と言った。

 つまり、スカイリム中に根を張るだけの大きな組織という事だ。

 そんな組織と伝手がある自分の師に、健人は改めて驚嘆した。

 だがその時、健人達が脱出してきた洞窟の奥から、金色の鎧を纏った集団が出てきた。

 

「いたぞ! 侵入者だ」

 

「っ!サルモールの追跡部隊!」

 

 姿を現したのは、大使館内の異常を察したサルモールの追跡部隊だ。

 尋問室にあったルリンディルたちの遺体や、囚人が消えている事から侵入者の存在に気付き、健人達の脱出路から追ってきたのだ。

しかも数が多い。

 合計で十人以上。高位の魔法使いであることを推察される黒いローブや、他の兵士とは明らかに格が異なる碧水晶の鎧を纏った兵士もいる大部隊だ。

 

「数が多い! 逃げるわよ」

 

 デルフィンが馬車に飛び乗り、馬に鞭を入れた。

 嘶きを上げて駆け出す馬車の荷台に、健人は慌てて飛び乗る。

 

「逃がすな!」

 

 追跡部隊の隊員たちが、一斉に魔法を唱え始めた。

 極寒の吹雪の中、健人の背中に氷柱を突き立てられたような悪寒が走る。

 

「デルフィンさん、後ろから魔法が……!」

 

「っ! 飛び降りなさい!」

 

 荷台を引き、鈍重な馬車に殺到してくる無数の魔法を回避する術はない。

 健人はデルフィンの指示のまま、荷台の縁に足を掛けて飛び降りた。

 次の瞬間、サルモール兵達の高位魔法“エクスプロージョン”が馬車に着弾した。

 

「うわあああああ!」

 

 爆風に煽られ、荷台が爆散。荷馬は焼かれながら吹き飛ばされて絶命した。

 更に悪い事に、流れ弾が街道周囲の木を巻き込み、燃え盛ったまま倒れこんで、健人とデルフィンを分断してしまう。

 

「デルフィンさん、無事ですか!」

 

「逃がすな! 追え!」

 

「くそ!」

 

 デルフィンの安否を確かめたいが、後ろからはサルモールの追跡部隊が迫っている。

 健人は止むをえず、追跡部隊を巻くために森の中へと駆け出した。

 

 




というわけで、外交特権のクエスト最後にサルモール追跡部隊に追われるというオリジナルの展開となりました。

ここから、今章の物語はかなりメインクエストから外れていくことになります。
メインクエストに沿わないことに賛否両論あるかと思いますし、オリジナルの展開は二次小説にはいかがなものかとも思いますが、よろしくお願いいたします。


以下、登場人物紹介

囚人
前話でチラリと出てきた、エチレンという人物。本編では名乗っていないため、囚人になっている。
ラットウェイにいるエズバーンを知っている盗賊ギルドの人間。サルモールに捕えられ、拷問の末にエズバーンの存在を話してしまった。

サルモール追跡部隊長
本小説のオリジナル展開である、追跡部隊の隊長。
以前ウステンクラブで襲ってきた部隊の隊長とは違い、碧水晶の鎧をまとった、剣士風の人物。

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