【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第3章のエピローグです。


第3章最終話 黙したままの別れ

 リータから決別を言い渡された健人は、リディアに連れられるまま、ソリチュードにやってきていた。

 吹雪はすっかり止み、空は青々と晴れ渡っているが、健人の心はまるで真冬の湖のように凍りついたままだった。

 目の前で家族の手で殺された、友達のドラゴン。

 更に、これまで必死に足掻いてきたすべてを否定された健人は、呆然自失となって、何かを思考する気力すら削がれていた。

 

「ケント様、私は馬車を手配してきますので、ここでしばらくお待ちください」

 

 リディアが健人を連れてきたのは、ソリチュードの正門近くにある農園。

 ここから馬車に乗って、ホワイトランに帰るつもりなのだ。

 

「それから、これを。ケント様の剣です」

 

 リディアが手渡してきたのは、健人が落としたブレイズソードだった。

 無言のまま、しかし決して受け取ろうとしない健人に、リディアは無理やりブレイズソードを握らせると、腰を下ろして視線を合わせ、健人の手をギュッと握りしめた。

 

「ケント様、従士様は、貴方様のことを大変心配していらっしゃいました。助力は要らないと申しましたのも、貴方様の身を想えばこそでございます。どうか、それだけは勘違いされないでください」

 

 言い聞かせるように呼びかけるリディアの言葉に、健人の手が僅かに動いて、手渡されたブレイズソードを握りしめた。

 健人が剣を受け取ったことを確かめたリディアは、今度こそ馬車を手配するために、駆け出していく。

 一人になった健人は地面に座ったまま、呆然と空を見上げていた。

 

「俺、何でここにいるんだろう……」

 

 約束を果たすために、強くなろうとした。そして、それなりには強くなった。

 しかし、その強さは何も守れなかった。

 自分の事情を知ってくれている、おそらく唯一の存在。

 数少ない友人といえた存在すら、助けられず、家族との約束も拒絶された。

 健人の脳裏に、背を向けるリータと、怒りの瞳で見下ろすドルマの姿が思い出される。

 ここに居たくない。自分がいた地球に帰りたい。

 それが無理なら、せめて誰も知らない、どこか遠くへ……。

 そんな追いつめられた気持ちに急かされるように、健人は立ち上がり、フラフラと目的地もなく彷徨い始めた。

 眼下には、大きな港がある。

 ソリチュードは元々タムリエル各地と行き交いする船があり、この交易がソリチュードの経済を支えている。

 そんな港に停泊している大小様々な船の中の一つに、健人は足を向けていた。

 健人が向かったのは、今まさに出港準備をしている船だった。

 船の型は地球でいうところのヴァイキングのロングシップ船によく似た幅広の船腹をもつ帆船で、船の側面には漕ぐためのオールが用意されている。

 おそらく行き交う船が多い湾内では変針に手間のかかる帆走はせず、人力で漕いで湾外まで出るつもりなのだろう。

 

「お前、何をしている」

 

 ボーっと見つめてくる健人に気付いた船乗り。おそらく船長と思われるノルドの男性が、健人に話しかけてくる。

 

「この船に、乗せてもらえませんか?」

 

「あ? 何言ってやがる。そんな話……」

 

 船に乗せてほしい。

 突然の申し出に、怪訝な顔を浮かべた船長は、馬鹿馬鹿しいと断ろうとする。

 船は元来、非常に狭い世界であり、新参者に対しては警戒心が強い。

 よく知りもしない第三者が、出港直前に乗せてくれといったところで、了承するわけがない。

 だが、まるで枯葉のようにやつれた健人の表情を見て、船長は声に詰まってしまった。

 

「お願いします。仕事は何でもしますから……」

 

「……まあ、ちょうど船員が一人降りて足りないところだ。一番下っ端としてなら、いいだろう。船代は、仕事の賃金と相殺だ」

 

 船長の言葉に健人は頷くと、そのまま桟橋を渡って船に乗り込む。

 船員の一人が健人にオールを漕ぐようにと、空いた漕ぎ手の席に座らせた。

 漕ぎ手の椅子は適当な木箱で、専用の椅子があるわけではないようだった。

 

「よしお前ら! 出港だ!」

 

 もやいを解き、船が離岸すると、合図に合わせて漕ぎ手がオールで水を掻き始める。

 健人も他の漕ぎ手に倣い、拙いながらも櫓を漕ぎ始めた。

 

「そういえば、この船はどこに行くんです?」

 

「お前、行先も知らずに乗ろうとしたのかよ……。この港で荷物を積んだ後は、ドーンスター、ウインドヘルムを経由して、さらに東に行く」

 

 健人は前で漕いでいた船員に、行き先を尋ねる。

 尋ねられた船員は健人が行き先すら知らずに船に乗り込んできたことに呆れ、荒々しい口調でありながらも、丁寧に教えてくれる。

 

「東、ですか?」

 

「ああ、最終的な行先は、ソルスセイム島だ」

 

 ソルスセイム島。

 それはスカイリム北東に存在する島であり、スカイリムと同じ寒冷で厳しい気候に晒されながらも、ノルドとは少し違った風習が根付いた土地だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 健人の乗る船が今まさに出航しようとしていたその頃、ソリチュードの正門前で、一人のカジートが不満の声を上げていた。

 

「にゃー! なんでオイラはまだ帝国軍にいなきゃいけないんだ!」

 

 カシト・ガルジット。

 以前ヘルゲンに配属されていた帝国兵士であり、アルドゥインの襲来を生き延び、ホワイトランの西の監視塔でドラゴンと戦った経験のある腕利きの戦士だ。

 彼はミルムルニルとの戦闘で亡くなったハドバルの遺体をリバーウッドに届けた後、ドラゴン復活の事実を帝国軍に伝えるためにソリチュードに戻り、自らが闘ったドラゴンの脅威を報告した。

 本来であるなら、カシトはドラゴンの報告を終えた後に退役するはずだったのだが、なぜか彼は未だに、こうして帝国軍でこき使われている様子だった。

 

「喚くなカシト。お前は数少ない、ドラゴンとの戦闘経験者だ。そんな人材を放逐できるわけないだろ」

 

 カシトの不満に答えたのは、帝国軍のリッケ特使。

 彼女はスカイリムの帝国軍を指揮するテュリウス将軍直属の部下であり、右腕と呼ばれている人物だ。

 カシトは今、ホワイトランでのドラゴンとの戦闘経験を買われ、リッケ直属の部下になってしまっていた。

 

「おいらは、もう、上官から、帝国軍の指揮下から外すと言われてるの! 自由の身なの!」

 

 リッケはテュリウス将軍直属の副官だけあり、そんな彼女の配下に抜擢されたことを考えれば、間違いなく大出世である。

 リッケやテュリウス将軍としても、ドラゴンとの戦闘経験がある兵士は貴重だ。

 部下として囲い、その経験を活かしたいと考えるのは当然のことである。

 なまじ、カシトが戦士としても優秀だったことも災いした。

 しかし、カシトとしてはドラゴンの報告をしたら晴れて退役。そうしたらホワイトランの健人の所に行けると思っていただけに、カシトはこれ以上ないほど不満顔だった。

 

「だが、ハドバルがお前の指揮をしていたのは、それが緊急時だったからだ。こうして帝国軍に帰還したからには、元の部隊に再配属されるのが当然だ」

 

「オイラが守りたいのはケントなの! 帝国じゃないの!」

 

「誰だ。そのケントっていうのは……。まあ、少なくともドラゴンをどうにかするか、兵役期間が終わらない限り、帝国軍を抜けるのは無理だな。諦めろ」

 

「むうう……」

 

 元々帝国に対する忠誠心など欠片も無いだけに、現状はカシトにとっては不満でしかない。

 とはいえ、ここで脱走するのは、ハドバルの最後の気遣いを無碍にするような気がして、できそうにもなかった。

 割と他種族の常識には囚われないカジートだが、彼らは義理や人情、恩義をとても大切にする種族でもある。

 カシトも、命を捨てて自分を逃がそうとしてくれたハドバルに対しては、内心無碍にできないくらいの恩義を感じている。

 だからこそ、不満を抱きながらも、未だに帝国軍に残っているのだ。

 

「ほら、次の任地へ行くぞ。場所はドラゴンブリッジだ」

 

 リッケに促されながら、カシトは諦めたように大きく肩を落とす。

 

「はあ、ホワイトランは遠いなぁ。何時になったら自由になるんだよぅ……ん? あれ?」

 

 その時、カシトの目が信じられないものを見つけた。

 厳つい船乗り達に混じって、オールを漕ぐ小柄な青年。

 周りの漕ぎ手と比べても拙いオール捌き。カジートとして優れた視力を持つカシトの目に、その青年は非常によく目立っていた。

 彼が見たのは、今まさに港を出港したロングシップに乗り、櫓をこぐ友人の姿。

 

「ケント? ケント!?」

 

 一瞬、自分が見たものが信じられなかったカシト。ゴシゴシと目を擦ってもその友人の姿が消えなかったことに、思わずその場で飛び上がって喜ぶ。

 

「ケント、ケント! オイラだよ! ちょっ、その船待って!」

 

 大声を張り上げて健人の名を呼ぶカシト。

 しかし、肝心の健人にはカシトの声は届いていないのか、全く気付く様子がない。

 そうこうしている内に、健人の乗った船はどんどん水路を進み、ソリチュードから離れていく。

 健人に自分の声が聞こえていないことに気づいたカシトは、慌てて健人の乗る船を追いかけようと駆けだした。

 

「あ、おいこら! カシト、戻ってこい!」

 

「リッケ、ゴメン! オイラ今この瞬間、帝国軍を辞めるよ!」

 

「はあ!? ちょっと待て! そんなことできるわけ無いだろ! そもそも、お前はこれから任務が……」

 

「ケント~~~!」

 

「ちょっ! こら、待ちなさい!」

 

 突然大声を上げで走り出したカシトに面食らったのは、彼の上司であるリッケ特使だ。

 慌てて呼び止めるも、肝心のカジートは上司の制止などどこ吹く風というように、港目指して全力ダッシュしていった。

 

 

 




これで、第三章は終了となります。
リータと仲違いし、決別を言い渡された健人。失意に落ちた彼は船に乗ってスカイリムを離れ、ソルスセイム島へ。
はい、DLCドラゴンボーン。ひいては、感想などでも切望されていたデイドラとの遭遇フラグが立ちました。


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