【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
反乱軍ストームクロークの首魁、ウルフリック・ストームクロークの捕縛。
その情報は、驚愕と共にヘルゲン中に駆け巡った。
話を持ってきた街人によると、帝国軍が僅かな手勢で隠密行動中だったウルフリックの本隊を奇襲し、捕縛を成功させたらしい。
健人達が宿屋の外に出ると、既に反乱軍の兵を捕えた馬車が、続々と街の帝国軍砦前にやってきていた。
到着した馬車からは青い皮のキュイラスをまとったストームクローク兵達が次々とおろされ、砦の前に並べられていく。
そして砦前には斧を持った大男がおり、その男の前には斬首台が置かれていた。どうやらここで、処刑を行うらしい。
砦前にはすでに重苦しい空気が満ちており、周囲には帝国兵の他に、見物人と思われる街人たちもいた。
平和な日本では絶対に目にしない光景に、健人は思わず息を飲む。
その時、健人の目に見慣れた人物が飛び込んできた。
捕虜たちを下している馬車の後に並び、馬から降りる一人の帝国兵。こげ茶色の髪と彫りの深い顔立ちが特徴的なノルドだ。
「あれは、ハドバルさん?」
「ホントだ。最近うちの店に来ていなかったけど、任務だったんだ……」
健人の視線の先にいるノルドに、リータも気付いた。
ハドバルは、ここヘルゲンの帝国軍に所属しており、スカイリム派遣軍総司令官であるテュリウス将軍にも一目置かれている兵士である。
リータの宿屋にもよく蜂蜜酒を飲みに来る常連でもあった。
「ハドバルさん!」
馬から降りたハドバルに、リータが声をかける。
ハドバルの視線が、駆け寄るリータ達を捉えた。
「リータにドルマ、それにケントか」
「任務だったんですね。無事でよかったです」
健人に対してはしかめっ面しか見せないドルマも、ハドバルに声をかけるときは、口調は柔らかく、言葉も選んでいる。
一戦士としても兵士としても熟練しているハドバルに対しては、ドルマも礼を失するような言動はしない。
戦士としての生き方を重んじるノルドらしい態度だった。
「まあな。困難な任務だったが、テュリウス将軍のおかげで反乱軍の首魁を捕えることができたよ」
ハドバルが並ぶ馬車の一台を、チラリと一瞥した。
彼の視線の先にある馬車には、他の捕虜たちとは明らかに格が異なる鎧を身にまとった偉丈夫がいた。
他の兵士達と比べても頭一つ飛び出る長身と、恵まれた体躯。豊かな金色の髪と髭をもつ、典型的なノルド。
「あれが、ストームクロークのリーダーですか?」
「ああ、裏切り者のウルフリック・ストームクロークだ」
「あの、なんで猿轡を?」
よく見ると、ウルフリックだけ口を覆うよう猿轡をかけられていた。他の捕虜は両手を縛られているものの、ウルフリックのような猿轡はかけられていない。
健人の疑問に、ハドバルが答える。
「ウルフリックはシャウトの使い手だから、あんな猿轡をかけているのさ」
「……シャウト?」
「ああ、お前は知らないんだったな。シャウトはノルドに伝わる極めて強力な魔法だ。ウルフリックはそれを使って、上級王トリグを殺したんだ」
その結果、この内戦が勃発した。とハドバルは言葉を続ける。
シャウト。
現在タムリエルで主流の魔法とは違う、古代ノルド達独自の魔法。
通常魔法とは、魔力と詠唱を必要とする。だがこのシャウトは、ただ“声”を発するだけで相手を殺傷できるほどの威力を発揮できる。
別名“声秘術”。古代ノルド人の中には、空を震わせ、地を砕き、時を歪める者もいたらしい。
「古代の昔話じゃあ、この声の力で、敵の城門を砕いたなんて話があるくらい強力な術だよ。
もっとも、エルフ由来の魔法と比べて習得は遥かに困難だし、膨大な時間もかかる。今はこの秘術を使う者は、ウルフリックを除けば、世界のノドの寺院にいるグレイビアードくらいさ」
「だから、ウルフリックは猿轡をされているんですね……」
「ああ。この場にはテュリウス将軍も来ている。彼を上級王トリグの二の舞にさせるわけにはいかないからな……」
上級王トリグとは、このスカイリムすべてのホールドに対して絶対的な権力を持つ王であり、実質的なスカイリムの統治者だった人物の事だ。
ハドバルの話では、ウルフリックは古代ノルドの伝統に従い、上級王に対して決闘を申し込み、トリグはこれを受けた。
そして、ウルフリックはこの上級王を決闘で殺し、そしてそれがこのスカイリムでの内乱のきっかけとなっている。
ただ声を発するだけで人を殺せるなら、両手を縛られていたところで、問題などないだろう。
健人はそのように考え、ウルフリックがあのような猿轡を掛けられていることに納得する。
次に健人の目に留まったのは、処刑台の傍に控えている男性。
ノルドのように筋骨隆々というわけではないが、短く切りそろえた銀に近い白髪と、鋭いカミソリのような視線が特徴的な男性だ。
他の帝国軍兵士とは違って明らかに格上の装いの鎧に身を包んでおり、彼もまたウルフリックと同じように、常人とは思えない風格をまとっている。
「あちらの豪華な鎧を着ている人がテュリウス将軍ですか?」
「そうだ。彼の采配のおかげで、ウルフリックを捕えることができたんだ」
ハドバルの話では、ウルフリックの反乱を鎮圧するために、帝都シロディールから派遣されてきたインペリアルの将軍らしい。
インペリアルとは、このタムリエルの主要な人族の一種であり、交渉などに長けた人たちで、主にタムリエル大陸中央部に住んでいる。
元々は古代ノルドの先祖から分かれた人種であり、古代ではエルフたちの奴隷として扱われていたが、そのエルフたちを反乱で追い出し、自治を獲得したらしい。
現在はノルドとは違う人種とみられているが、元々は同じ人種を起源に持つという事で、その関係は決して悪くはないらしい。
「なんだかストームクロークじゃない人も交じっているみたいですけど……」
捕虜たちをよく見てみると、ストームクロークの鎧を纏っていない者もいる。
「ああ、作戦中に偶然捕まえた馬泥棒だ。それよりも、これから処刑だ。近づかないほうがいい……」
ハドバルは改めて健人達に忠告すると、馬を木につないで処刑場のほうに足を進めようとする。
その時、捕えた捕虜を下している馬車を見るハドバルの目が、わずかに細められた。
処刑場に進めていたハドバルの足が止まる。彼の視線の先には金髪の長髪と髭を生やし、左側のもみあげを編んだノルドがいた。
「ハドバルさん。あのストームクロークの人がどうかしたんですか?」
「ああ、レイロフってやつなんだが……俺と同じリバーウッドの出身で、幼馴染なんだよ」
「……え?」
ハドバルの言葉に、健人は思わず言葉を失う。
一方のハドバルは、呆れたような、痛ましいような、微妙な表情を浮かべて首を振った。
「ウルフリックの夢想に踊らされたんだよ。馬鹿な奴だ」
幼馴染がこれから殺されるというのに、ハドバルの口調には諦観の色はあれど、処刑そのものを拒むような雰囲気はない。
ある種の達観ともいえるハドバルの反応に、健人は思わず口を開いた。
「あの、その……。ハドバルさんは、いいんですか?」
「何がだ。アイツが俺の敵になっていたことか? それとも、これから奴の処刑を実行しようとしていることか?」
「えっと、その……」
やや強い口調のハドバルの言葉に、健人は言いよどむ。
ハドバルの言葉からは、明らかに拒絶の色が見て取れた。
何よりも、立派な体躯から発せられる威圧感が、言葉を挟もうとする健人の意思に冷や水をかける。
「どんな理由があるにしろ、あいつは帝国を裏切った。まがりなりにも、このタムリエルを平和にしてきた帝国をだ。それは絶対に許されることじゃない」
「それは、そうですが……」
平和な日本ではまず経験することのない、本物の兵士が持つ威容が、健人の口を凍らせる。
命と命のやり取りを繰り返したものが持つ圧力は、十代の高校生が跳ね返せるようなものではない。
それでも、健人は口元をゆがめながらも納得していない表情だった。
健人自身今では会うことができなくなってしまったが、彼にも家族はいるし、少ないながら友人もいた。
もしその人達が自分の目の前で死んだら、どうだろうか? まして、自分の手にかけなければならなくなったら……。
そんな想像が頭によぎり、健人は自分の心臓が万力で締め付けられるように痛み、同時に苦いものが口一杯に広がるのを感じていた。
何か言わないと。そんな考えが頭に浮かび、健人は思わず口を開く。
「おいケント。それ以上口を開くな」
「…………」
しかし、その最後の意思も、ドルマの言葉によって、さらに押し止められた。
「そんな事、ハドバルさんが考えなかったわけねえだろ。他所者のお前が考えることなんてとっくに納得して、ハドバルさんは剣を取っているんだ。
中途半端な気持ちで、この場で口を開くんじゃねえ」
ドルマの言葉が、痛みに耐えていた健人の胸をさらに激しくかき乱す。
彼の言うとおり、健人が先ほど言おうとしたことは中途半端な気持ちからだった。21世紀の日本人の大半が持つ、偽善ともいえる。
健人自身も、今の自分の気持ちが日本人特有の甘っちょろい考えだということは理解できている。
しかし、健人自身はどうしても納得できなかった。
死という日本の日常からはほぼ無縁な、しかし、生きているうえで不可避な事象に対する拒絶感が、健人の胸の奥で渦巻き続ける。
黙したまま、健人は唇を強く噛み締めていた。
「…………」
「お前、いい加減に……」
「ドルマ、そこまでにしろ」
納得した様子のない健人に、ドルマがさらに詰め寄ろうとするが、ハドバルが間に入って押し止める。
「……分かりました。ハドバルさんがそういうなら、黙っています」
ドルマは一瞬ムッとした表情を浮かべるが、すぐに息を吐いて後ろに下がった。
ハドバルは下がったドルマを見てフゥ……と溜息を吐くと、健人の前に立つ。
「ケント、気にするな。帝国軍に身をささげると決めた時から、こんなことがあるかもしれないとは覚悟してきた」
ドルマの言葉には健人に対する嫌気をありありと感じ取れたが、ハドバルの声からは別にそのような悪感情は感じられなかった。
「それに、アイツだって下手な同情や情けなんて望んじゃいないさ」
穏やかな口調で、ハドバルは健人に語り掛ける。まるで弟に言い聞かせるような、優しい声色で。
その言葉に、健人の強張っていた肩から力が抜ける。
ハドバルはそれ以上何も言わず、健人達から離れて捕虜達の前へと足を進めた。
馬車の前では小隊長らしい女性が控えている。
そしてハドバルは懐から捕虜の名簿を取り出し、これから処刑を行う者達の名前を読み上げていく。
「ウインドヘルム首長、ウルフリック・ストームクローク」
まず初めに呼ばれたのは、やはりストームクロークの首魁。
ウルフリックは猿轡を嵌められたまま、処刑台の前に並んでいる捕虜たちの列に並ぶ。
処刑台の前では、既に血糊で錆びた大斧を持った処刑執行人が待機している。
「リバーウッドのレイロフ」
次に呼ばれたのは、ハドバルの幼馴染。
彼らは互いに視線も交わさない。
ハドバルは淡々と罪人となった幼馴染の名を淡々と呼び、レイロフはこれから身に降りかかる死の恐怖など微塵も感じさせず、処刑台の前に並ぶ。よく見れば、他のストームクローク兵達も、皆胸を張って前を見据えていた。
「ロリクステッドのロキール」
次に呼ばれたのは、ボロを纏った馬泥棒。
彼だけは他の捕虜達とは違い、明らかに脅えた様子だった。
「お、俺は反乱軍じゃない! やめてくれ!」
“自分は処刑されるような罪人じゃない”そう喚くと、彼は一目散にその場から逃げ出した。
後先など考えない、死の恐怖と生存本能に突き動かされた逃避だった。
「弓兵、逃がすな!」
しかし、そんな逃亡を帝国軍が許すはずもなく、小隊長の号令によって、すぐさま控えていた兵が弓を射かける。
「ぐあ!」
放たれた矢が勢いよくロキールと呼ばれた馬泥棒の背中に刺さり、彼はうつぶせに地面に倒れ込む。
「いやだ、いやだ、死ぬのは嫌だ……」
刺さった矢で即死しなかったのか、ロキールは何とか逃げようともがく。しかし、駆け付けた帝国兵が、腰から抜いた剣をその無防備な背中に、無慈悲に突き立てた。
「っ!?」
背後から心の蔵を貫かれたロキールは、血の泡を吹ふき、それでも死にたくないと呟き続ける。
しかし、その声もすぐに擦れ、ロキールの体は数度の痙攣を繰り返し、そして動かなくなった。
「他に逃げたい者はいるか!?」
小隊長の怒号が処刑場に響く。
処刑場に並べられたストームクローク兵は全く動ずることなく、怒号を上げた小隊長を睨みつけていた。
そして、処刑が開始される。
最初に選ばれた捕虜が処刑台に送られた。
処刑台の前には処刑人の他にも司祭がいる。処刑される捕虜に、最後の祝福を授けようというものだ。
「聖女マーラの名のもとに……」
「さっさとやれアバズレ。昼になっちまうだろうが」
「っ! お望みのままに!」
しかし、ストームクローク兵はその祝福をあっさりと拒絶する。
お前達からは、何も受け取る気はない! という考えを誇示するように。
そして、処刑人の大斧が振り上げられた。
「祖父たちが微笑んでいるのが見えるぞ帝国。お前たちも同じことが言えるか!?」
その言葉を最後に、その捕虜の命は振り下ろされた斧によって断ち切られた。
死を前にして、その兵士が見たものはなんだったのか。
切断された頭部がごろりと転がり、勢いよく鮮血が噴き出す。
そして首を失くした遺体が、小隊長によって無造作に蹴り飛ばされて、処刑台からどかされる。
「うっ……」
その光景を見ていた健人の喉の奥から、猛烈な嘔吐感が込み上げた。
「ケント、大丈夫?」
「う、うん……。だ、大丈夫……」
リータが、えずく健人に心配そうな声を掛ける。
健人は何とか声を返すが、その様子はとても大丈夫そうには見えなかった。顔面は蒼白になり、瞳は不規則に震えている。
一方、周囲の街人達は熱に浮かされたような大声を上げている。
(なんて、命が軽い世界なんだ……)
容易く刈り取られる命を前にして、健人は改めて自分のいる世界が血生臭く、そして無慈悲なものであることを突き付けられていた。
彼自身、分かったつもりではあった。この世界に迷い込んですぐにオオカミに襲われて食われかけたことで、この世界が日本とは比較にならないくらい危険に満ちていることを体感していたから。
しかし、この処刑は、今まで健人が体験してきた危険とは全くの別種のものだった。
動物でもない、自然でもない、人が人に死を齎す場。
それは 、まるで破城槌のように健人の脆弱な心を打ちのめしていた。まるで体を虫が這いずり回るような嫌悪感と違和感、そして拒絶感が、震えとなって健人の全身に走る。
一方、衝撃を受けている健人を他所に、処刑は淡々と進む。健人だけ置き去りにしながら。
「次、リバーウッドのレイロフ」
次にハドバルが読んだのは、彼の幼馴染の名前。
ここで彼らはようやく、互いに顔を上げて視線を交わした。
「お前にふさわしい最後だな。レイロフ」
「言っていろハドバル。今日、俺はソブンガルデに行く。英雄たちの末席で、道に迷うお前の姿を笑うさ」
交わす言葉はほんの僅か。レイロフは先に逝った兵士と同じように、淡々と処刑台へと歩いていく。
処刑台の前に来たレイロフを、小隊長が跪かせ、彼の首を処刑台の上に乗せる。
そして処刑人が大きく斧を振り上げた。
「っ!?」
その斧が振り下ろされる前に、健人は目を背けた。
もう見ていられなかったのだ。
人が人を殺す。その光景が齎す嫌悪感と忌避感は、未熟な健人の心にはあまりにも重すぎた。
だが、目を背けたその視界の端に、黒いものが映った。
雲間から、巨大な何かが覗いたような気がした。
健人が見えたものが何か確かめようと目を凝らした瞬間、それは雲海の隙間から姿を見せる。
「……え?」
健人の目に飛び込んできたのは、空を切り裂きながら舞い降りてくる漆黒の翼。
震える風が天に吹き荒れ、処刑に集中していたヘルゲンにいた人達もまた空を見上げ、その顔を驚愕の色に染める。
「なんだ、アレは!」
舞い降りてきた巨躯が、処刑台の後ろの塔に地響きを立てて舞い降りる。
爬虫類を思わせる体に、背中から生えた闇を練りこんだような暗黒色の翼。二十メートル以上あるその巨大な体躯は、黒炎を思わせる鋭い鱗に覆われている。
口には名刀を思わせる鋭い牙がずらりと並び、血のように赤い瞳が健人達を睥睨していた。
それはまさしく、創作物でしか見たことがなかった異形の姿。
「ドラゴンだ!」
誰かが大声を上げる。その声に、あまりに現実離れした光景に固まっていた人々が、慌てふためいて逃げ出し始めた。
処刑場は一気に大混乱に包まれ、右往左往する人達があちこちでぶつかり、怒号と悲鳴が木霊する。
“――ッ――ッ――――ッ!!”
その竜が何かを叫んだ瞬間、空が震え、炎に包まれた。直後に天から無数の炎塊が降り注ぐ。
落下した隕石は次々と爆発し、熱波が周囲にいた人も家も家畜も纏めて吹き飛ばす。
人が木の葉のように吹き飛ばされ、千切れ、あらゆる物が炎に包まれていく。その光景は、さながら絨毯爆撃のようだった。
まるで世界そのものを焼き尽くすように、炎が瞬く間に広がっていく。
「な、なんだよ、これ……」
逃げ惑う人々の中で、健人は一人、呆然と立ち尽くしていた。
健人はこの世界に、地球にはいない生物がいることをリータ達から聞いてはいた。
サーベルキャットやトロールのような猛獣だけではなく、さらにはドラウグルやスケルトンといったアンデッドの存在もいる。そしてそれらの脅威が、健人を襲ったオオカミ等とは比較にならないほど危険なものであることも。
だが、今健人の目の前にいる存在は、どう見てもそんなレベルの脅威ではなかった。
「衛兵、前へ!」
テュリウス将軍の号令とともに、帝国兵たちが一斉に隊列を組み、塔の上のドラゴンめがけて吶喊していく。
ドラゴンに立ち向かおうとする彼らの隊列は、まるで定規で引いた線ように乱れなく、覇気に満ちていた。
まさしく精鋭と呼べる者達。
だがその精鋭を、漆黒のドラゴンは羽虫を払うように容易く排除した。
“ファス、ロゥ、ダッ!”
ドラゴンが何かを叫ぶと、その口から不可視の衝撃波が放たれた。
衝撃波は衛兵たちを飲み込み、精緻にして堅牢な隊列を紙のごとく引き裂き、塵芥のように吹き飛ばす。
「がっ……!」
偶然、衝撃波の進路上にいた健人もまた、衛兵たちと同じように吹き飛ばされてしまう。
彼が石畳に叩きつけられ、意識が朦朧とする中、漆黒のドラゴンは翼をはためかせ、再び空を舞い始める。
「弓兵と魔法兵を呼べ! ドラゴンを叩き落とすんだ!」
テュリウス将軍の指示が飛ぶ。
痛みで蹲る健人を余所に、衛兵達は飛んでいるドラゴンに対して次々と矢を射かけ、魔法を放つ。
しかし、その攻撃は上空のドラゴンにはほとんど届かず、僅かに当たった矢も魔法も、漆黒の鱗に傷一つ付けられずにいた。
“ヨル……、トゥ、シュール!”
逆にドラゴンは上空から炎を浴びせ、衛兵たちを瞬く間に焼き殺し始めた。
空からは隕石が途絶えることなく降り続け、逃げ惑う人達や家を吹き飛ばし、堅牢な岩の砦を打ち砕いていく。
その現実とは思えない光景を、健人はただ茫然と見上げるしかなかった。
「起きろクズ! いつまで寝てやがる!」
突然、健人の手がすごい力で引っ張られる。
彼を起き上がらせたのは、ドルマだった。怪我をしたのか顔の半分が顔を真っ赤な血に染められている。
急に強烈な力で引かれたために足をもつれさせながらも、健人はなんとか立ち上がった。
「リータ、逃げるぞ!」
「待って、お父さんとお母さんが!」
「お、おい……!」
リータは両親が心配なのか、自分の家の宿めがけて走り出した。
ドルマが慌てた様子で彼女の後を追う。
「ふ、二人とも待って……うわ!」
落ちてきた隕石によって健人の傍にあった石壁が崩れる。
健人はとっさにその場から離れた。先ほどまで健人が立っていた場所に、崩れた瓦礫が散乱する。
その光景を目にした健人はごくりと息を飲むと、大急ぎで二人の後を追いかけた。
というわけで、アルドゥインの登場です。
さらに、肝心の主人公たる囚人がいないという有様。
こんなオリジナル改変をぶち込むあたり、やはりこの小説は相当な地雷なんだと自覚します。
ところで、一話当たりの文章ですが、長くないですか?
文字数が8千から3千文字前後とかなり隔たりがあるので、少し気になるところ。