【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
桟橋からレイブン・ロックの街に入った健人は、砂の舞う街の中で、目的の宿屋を探していた。
レイブン・ロックの街並みはスカイリムで見てきたものとはまるで違う。
砂の混じった風が舞い、巨大な甲虫の殻と思われる建材で建てられた家々が軒を連ね、道の橋には真っ赤なアロエのような植物が生えている。
砂の舞う光景は何となく、地球に居た頃にテレビで見た中東や中央アジアの砂漠地帯を思わせる光景だが、明らかに地球の砂漠とは植生の異なる植物や異彩を放つ建物が、健人にこの街がスカリムとは全く違う異邦の地であることを、これ以上ないほど感じさせていた。
おまけに、砂漠を思わせる光景だが、気温は低い。
ソルスセイム島自体が、タムリエルの中でも北に位置しているだけに、風や空気には、北国独特の冷たさが残っている。
健人は街をさ迷い歩く中、目的の宿屋を見つけると、日本人にはつらい寒さから逃げるようにその扉を潜った。
「いらっしゃい。お客さん。レイブン・ロック一の宿屋、レッチング・ネッチ・コーナークラブへようこそ。もっとも、宿屋はこの街ではここしかないんだけどな」
扉を潜り、正面に見えた階段を降りると、陽気な雰囲気を醸し出すダンマーの男性が、健人を出迎える。
ダンマーの男性は、この宿屋「レッチング・ネッチ・コーナークラブ」の店主、ゲルディス・サドリと名乗った。
店内は健人が降りてきた階段の左側にカウンターが設けられ、カウンターの裏には酒樽が幾つも用意されている。
店内は丸いテーブルや椅子が乱雑に置かれていて、ソリチュードのような優美さとは無縁だが、天井から吊るされた丸いランタンに照らされた店内は温かい光に包まれており、どこか場末の居酒屋を思わせる安堵感に満たされていた。
「一泊したいんですが、いいですか?」
「もちろん、いいぞ。お客さんは歓迎だ。部屋は奥の通りの突き当りにある。食事はどうする?」
「お願いします」
ゲルディスがいるカウンターにゴールドを支払い、泊まる部屋のカギを受け取った健人は、そのままカウンターの椅子に腰かけて食事をすることにした。
ゴールドを受け取ったゲルディスは、しばらくの間、カウンターの裏で料理を準備していたが、すぐに香り立つ器を持って健人の前に戻ってきた。
「ほれ、アッシュヤムのシチューに、ホーカーのローストとパンだ」
出されたのは、焼いた肉とシチューにパンという、ごくシンプルなものだった。
ホーカーとは、地球でいうところの鰭脚類に属する海牛によく似た動物だ。
パンもスカイリムで食べられていたものと大差ないもの。
異彩を放つのは、アッシュヤムと呼ばれる芋を使ったシチューだった。
アッシュヤムは“灰の芋”の名の通り、モロウウィンドで栽培されていた芋である。
灰の中でも育つ生命力を持つ植物であり、ダンマーにとって主食ともいえる作物だ。
健人はまずはアッシュヤムのシチューに匙を差し、そっと口に運ぶ。
トロトロになるまで煮溶かされたアッシュヤムのうま味と、熱々のシチューの熱が、一緒くたになって臓腑に落ちる。
具材にはアッシュヤムだけでなく、ホーカーの肉も使われており、植物の持つうま味と肉の煮汁が混ざり、舌の上で暴れまわる。
健人は思わず感嘆の息を漏らした。
船旅の上での食事といえば、硬いパンと塩漬けの肉、それから腐敗防止のために酒精を入れられた水くらいだ。
健人が料理をできたために、簡単なシチューや揚げ物等も作ってきたが、それでも健人から見れば味気のない食事だった。
そんな粗末な食事が続いていたこともあるが、異国情緒に溢れるこの宿の料理は、スカイリムの料理しか知らない健人にとっては、とても新鮮なものだった。
「それからスジャンマはどうだい?」
「スジャンマ?」
「サドリ・スジャンマ。俺特製の、この店自慢の酒だ」
「それじゃあ、それを下さい」
健人の注文に笑みを浮かべたゲルディスが、棚から一本の酒を取り出し、カウンターに乗せると、中身をコップに注いで健人に差し出してきた。
渡されたコップの中の酒から湧きたつ豊潤な香りを嗅いだ後、ゆっくりと杯を傾ける。
「くっ……かなり強い酒だな」
でも旨い。
何より、この酒精の強さが、今の健人にはありがたかった。
この世界に来る前には酒を飲む習慣などなかったこともあり、健人はスカイリムに来てからも、機会がない限りは酒を飲むことはなかった。
だが、それなりに長い船上生活の中では、飲料水にすら腐敗防止の酒精が混ぜられており、それを飲んでいる内にすっかり酒を飲む事が習慣付いていた。
否、手放せなくなったのだ。
酒が無いと、どうしようもないほど深く落ち込んでしまうからだ。
リータが健人に言い放った“要らない”という言葉、自分を友人と言ってくれたヌエヴギルドラールを守れなかった事実。それが胸の奥で、ザクザクと無数の鋭利な針となって突き刺さり続けるのだ。
健人は胸に走る痛みを忘れるように、コップの中のスジャンマを一気に飲み干す。
焼けつくようなアルコールの熱が、胸に走る痛みを一瞬だけ忘れさせてくれた。
「この島は、どんな島なんですか?」
コップの中のスジャンマを飲み干した健人は、とりあえずレイブン・ロックという街について、店主のゲルディスに尋ねてみた。
これからしばらくは、この街に滞在することになる。
その為にも、この街について知っておく必要があるのだ。
「ああ、元々ここは、スカイリムに属していたが、レッドマウンテンの噴火で、ダンマーが譲り受けたのさ。
ここレイブン・ロックは黒檀の鉱山として栄えたが、鉱山が枯渇した今じゃあ、すっかり閑古鳥が鳴いている。
それから、北にはスコールという民族の村がある」
「スコール?」
「ノルドとよく似た人族だが、また違う風習が根付いた村さ。もっとも俺たちダンマーから見ても閉鎖的で、あまり交流はないけどな」
ゲルディスはソルスセイム島の地図を引っ張り出し、健人に丁寧に説明してくれた。
スコールという民族は、元々ソルスセイム島の先住民族で、ダンマーがレイブン・ロックに住む前からこの島で生活しているらしい。
また、このソルスセイム島は元々スカイリムの領土だったらしい。
だが、数百年前に隕石が落下し、レッドマウンテンと呼ばれるタムリエル最大の火山が大噴火を起こした。
この大噴火によって、モロウウィンドは壊滅的な被害を受け、さらにモロウウィンド南側から、アルゴニアン達が襲来。
アルゴニアンは元々、ダンマーによって奴隷と扱われていた過去があり、レッドマウンテンの災害に乗じて、侵攻を開始した。
凄惨な戦いの果てにアルゴニアンの撃退には成功したものの、モロウウィンドは壊滅状態。
そのため、当時のスカイリム上級王との交渉の末、ソルスセイム島をダンマーの避難民を受け入れる土地として割譲されたのだ。
「……それから、仕事はありますか?」
あと一つ、健人が聞きたかったのは、日雇いの仕事があるかどうかだった。
今はノーザンメイデン号で貰った賃金があるが、いつまでも有るものではない。
この街でしばらく生活する以上、収入が必要だった。
「いや、黒檀の鉱山が枯渇して以来、大した仕事はないよ。精々、そこら辺の野原や森で、狩りをするか、ボートで漁をするくらいだ」
元々、このレイブン・ロックには、黒壇と呼ばれる鉱物が採掘できる鉱山が存在した。
黒壇は武具としてだけではなく、付呪の素材としても最高の鉱物であり、その値段は鉄の十倍近く、金より高価である。
その為、このレイブン・ロックは第三期に建設されてから、鉱山の町として大きな繁栄を手にした。
しかし、第四紀の初めにレッドマウンテンの噴火により、防衛を担っていたフロストモス砦が壊滅。
さらに黒壇の鉱山が数十年前に枯渇。今では狩猟や漁業、農業で、どうにか生計を立てているのが現状らしい。
つまるところ、街の外に出て狩りをするか、魚を獲るか、鍬を振るくらいしか金を手に入れる手段はなさそうだった。
(なら、明日の朝にでも、仕事をくれそうな街の人を回ろう。無理なら、狩りや採集をするしかないな)
健人が明日の予定を考えている時、ゲルディスが気になることを言ってきた。
「だけど、最近は町の外は物騒だ。砂の怪物が出たり、ドラゴンが復活するくらいだ」
ドラゴンという言葉に、健人は眼を見開く。
先ほど酒と一緒に飲み干した苦々しさが、喉の奥から込み上げてくるのを感じた。
「ドラゴン……この島にもいるんですか?」
「ああ、最近、島の北の方で見たという話を聞いている。物騒な話さ」
脳裏に蘇る、スカイリムに残っている家族と、殺された友人の姿。
健人はぶり返してきた胸の痛みを忘れるために、黙したまま、再び傍に置かれたスジャンマの瓶に手を伸ばした。
レイブン・ロックに来てから、二週間目の朝。
健人はレッチング・ネッチ・コーナークラブを出ると、仕事を探して街の人達に声をかけた。
健人がこの街に来てから半月ほど経っている。
彼は一日に何度も街の広場に赴き、仕事を探していたが、結果はどこも芳しくなかった。
「悪いけど、手は足りているよ」
「外来の人間に手を貸してもらう必要はない」
レイブン・ロックは元々、鉱山で成り立っていた街だけに、その産業が廃れてしまった今、経済活動自体が委縮してしまっており、仕事の担い手は余っているのが現状だった。
鉱山労働者すら余っているのに、よそ者の健人にお鉢が回ってくるはずもない。
だが幸い、この日は違った。
街の錬金術師であるミロール・イエンスから、ネッチゼリーを採集して欲しいという依頼があったのだ。
健人は直ぐに宿屋で装具を整えると、昼前からネッチを探して、レイブン・ロックの街から外に出た。
「それで、ネッチってどんな生物なんだ? 一応、イラストは描いてもらったけど……」
ネッチは見た目からして、どんな生き物か判断しづらい生物である。
一応、依頼主のミロールにネッチがどんな生物なのか絵を描いてもらったが、健人にはどう見てもエイリアンにしか見えない。
胴体はアルマジロのような甲殻を持ち、足の代わりに触手が生えていて、おまけに宙に浮いているときた。
宙に浮いている時点で、地球人には理解できない生態を持つ生物であることが確定である。
健人としては捕まって体液を吸い尽くされたり、卵を植え付けられたりしないか心配だが、話によるとこのネッチ、非常に大人しいらしい。
「嫌だぞ。ミイラになるのも、エイリアンの苗床になるのも……」
地球でその手の類の映画や映像も見ているだけに、現地人に“大人しい”といわれても、健人としては不安が募る。
そうこうしながら海岸線を歩いていくと、波打ち際で浮遊している三つの影が、健人の目に飛び込んできた。
「いた。あれがネッチか。本当に宙に浮いているよ……」
健人の視線の先では、どう見ても未確認生物としか思えない奇妙な生物が三匹、浜辺に浮いている。
外観は貰ったイラスト通りである。甲殻を背負った胴体、足代わりの触手、そして胴体からちょこんと突き出た小ぶりな頭部。
三匹の内、二匹は番いの大人なのか、人間の倍ほどの大きさがある。
一方、三匹目は小柄なネッチであり、先の二匹の傍に寄り添っていることからも、子供であることが推察できた。
健人は浜辺の砂丘の陰に身を潜めながら、三匹の様子を観察する。
「さて、ネッチゼリーの採集と言われたけど、どうしよう。狩るしかないと思うんだけど……」
今の健人が遠距離での戦闘に使えるのは素人クラスの攻撃魔法くらいである。
リータと別れてからすぐにノーザンメイデン号に飛び乗ったために、弓などはスカイリムに置いてきてしまっていた。
ネッチが人の倍ほどの体格であるから考えても、健人の魔法で仕留めきれるとも思えない。
しかも、相手は三匹。
ネッチの性質などは聞いてはいるものの、どう考えても、正面から戦うのは無謀である。
相手を観察しながら健人が考え込んでいるその時、子供のネッチの頭部が、健人がいる砂丘に向けられた。
「ん、見つかったのか? いや、近づいてきた?」
砂丘を眺めていた子供のネッチが、フヨフヨと浮遊しながら、健人のいる砂丘に近づいてきた。
見つかったことに気づいた健人は、仕方なく立ち上がり、腰のブレイズソードを抜いて子供のネッチの前に姿を現す。
抜いたブレイズソードを構え、神経を研ぎ澄ませる。
子供とはいえ、野生生物の膂力は侮れない。おまけに相手は浮いており、触手のような腕を持っている。
相手がどんな反応をするか不明である以上、十分な警戒をしておく必要がある。
健人が警戒心を露わに剣を構える一方、子供のネッチは首をかしげるように体を揺らすと、そのままフヨフヨと健人に近づいてくる。
あまりにも無警戒な子供のネッチの行動に、健人もどうしたらいいか一瞬判断に迷った。
そして、健人が迷った間に、子供のネッチが興味深そうに、健人が構えているブレイズソードの刀身に触手の先を絡ませた。
「っ!?」
子供のネッチの予想外の行動に、健人は思わず触手を振り払おうと、両腕に力を込めた。
だが、健人の剣は、まるで万力で固定されたようにビクともしなかった。
(っ! 引けない。なんて力だよ!?)
「くっ!」
ネッチの予想以上の力に、健人はとっさに剣を手放し、後ろに飛んで詠唱を開始する。
だが、子供のネッチは、健人と自分が取ったブレイズソードを交互に眺めるとフルフルと体を震わせ、自分が奪った剣の柄を差し出してきた。
「……返すのか? おいおい、警戒心無さすぎるだろ」
まるで、“返すよ!”というようなネッチの行動に健人は首を傾げつつ、差し出された柄を握る。
「って、うお!」
すると、またネッチが力を入れて、健人の剣を奪い取った。
再び体をフルフルと震わせ、剣の柄のほうを差し出してくる。
「遊んで、いるのか?」
健人の言葉が理解しているのかどうかは分からないが、子供のネッチは催促するように体を震わせている。
健人が再び柄を握る、子供ネッチが奪う、体を震わせる、柄を差し出して催促する。
こんな行動が数度繰り返される。
さすがに健人も、このネッチが遊んでいることは理解した。
何となく幼児を相手に遊んでいるような感覚に、健人の頬も自然と緩む。
(ちょっと、可愛いかも……)
どう見てもキモい外見の生物だが、無邪気な姿を見せられている内に、健人もこの未確認生物が少しだけ可愛く思えてきた。
とはいえ、彼の今日の依頼はネッチゼリーの採集。つまり、このネッチをどうにかして狩らないといけないのだ。
「狩らないと採集できないよな。何だろう、すごい罪悪感が……」
引っ張り合いで剣を手放す度に無邪気に喜んで“もっともっと!”とせがんでくる子供ネッチの姿に、健人は自分がこのネッチの家族にしようとしたことを思い出し、物凄い罪悪感を覚えていた。
健人が懊悩しながらそんな遊びを数分続けていると、親ネッチが響くような低い声を発した。
親の鳴き声に呼ばれたのか、子供ネッチは名残惜しそうに健人を眺めると、剣に絡めていた触手を放して、両親のもとへと向かっていく。
途中で健人に振り返って、体を震わせると、別れを告げるように一鳴きして、三匹はそのまま海岸線の向こうまで飛んで行ってしまった。
「ネッチゼリーは取れなかったけど……ま、いいか」
ネッチゼリーの採集には失敗したが、健人としてはそんなことが気にならないくらい、晴れやかな気持ちだった。
ネッチの子供との戯れを、健人自身も驚くくらい楽しんでいたらしい。
リータに拒絶されてからささくれ立っていた心が少しだけ、楽になった気がした。
「おいそこの兄ちゃん、持っているものを全部出しな。そうすれば命だけは助けてやる」
そんな穏やかな雰囲気をぶち壊すように現れたのは、身なりの汚い三人のおっさんだった。
ダンマーとインペリアルとノルドという、人種もバラバラな三人は、盾やら剣やら、傍から見ても物騒な物を健人に向けて、ニヤついている。
明らかに強盗とか山賊とか追剥ぎとか、その手の類のイケナイ人達である。
「…………」
「へへ、ブルっちまっているのか? 安心しな、おとなしく身ぐるみ全部置いていくなら、命だけは助けてやるぜ」
せっかくネッチとの戯れで穏やかな気分のところに、氷水をぶちまけられた健人が押し黙っているのを怯えているのだと勘違いしたのか、強盗団達がいきり立つ。
「ったく……。どこにでもいるんだな、こういうのは。もしかしてあの親ネッチ、こいつらの事に気づいていたのか?」
とはいえ、害意のある第三者の接近に気づかなかった時点で、健人自身にも問題がある。
この強盗団達はアホなことに声をかけてきたが、相手が慎重な腕っこきだったら、一方的に不意打ちされていたかもしれなかったのだ。
警戒心が無かったのは子供のネッチではなく、自分の方だったと、健人は額に手を当てて天を仰いだ。
(心地いい場所にいて、少し、弛んでいたな)
ノーザンメイデン号と、レッチングネッチ、そして、先ほどの心穏やかな子供のネッチとの戯れ。
心折られてささくれ立っていた健人にとっては、砂漠の中で見つけたオアシスのような時間だった。
だからこそ、こんな三下の接近にも気づかないほど弛んでしまっていたのだろう。
健人は、大きくため息を吐きながら、己を戒める。
ここはタムリエル。穏やかな日常のすぐ裏に、死が蔓延っている世界なのだ。
健人が自戒した瞬間、長い船旅の中で錆びついていた健人の戦闘意識が目を覚まし、カチリと入れ替わる。
全身から余計な力が抜け、世界最高峰の隠者仕込みの戦闘者の顔が表に出てくる。
「出さねえなら仕方ねえ。死にな」
飛び掛かってきた盗賊団のダンマーが、上段から思いっきり剣を振り下ろしてくる。
明らかなテレフォンスラッシュを、片足を引いて体を半身にしただけで躱した健人は、そのまま左手で強盗団の顎を打ち抜いた。
「がっ……」
脳を揺さぶられ、意識を失ったダンマーが砂の上に倒れこむ。
「て、てめえ!」
「やっちまえ!」
激高した残りの強盗団が、健人に躍りかかる。
しかし、健人には微塵の焦りも存在しない。
ワザと盾持ちのノルドに自分から突っ込み、体当たりを敢行。
強盗団のノルドが足を踏ん張って自分の突進を受け止めた瞬間、盾の端を掴んで下に回り込み、両足を刈る。
「うわ! ぶべ!」
もんどりうって倒れたノルドの顔を踏み抜き、意識を刈り取る。これで残り一人。
「死ねやああああ!」
背後から振り下ろされた剣に合わせるように、体を前方にスライドさせながら振り返り、ブレイズソードを掲げる。
振り下ろされた相手の剣の軌道にブレイズソードを添わせながら、タイミングよく手首を返し、切っ先を振り上げる。
すると、強盗団の剣はすっぽ抜けるように彼の手から離れ、宙を舞った。
「……へ?」
突然両手から剣の感触がなくなった強盗団が、呆けたような声を漏らした。
元々、握りが甘いところに、タイミングよく健人が力を加えたことで、本人の意図しない所で剣が飛ばされたのだ。
「あ、あれ?」
呆けている強盗団に、健人はブレイズソードの切っ先を突き付ける。
ひ弱なウサギと思っていた相手は、実のところ、爪を隠した鷹だった。
健人の放つ殺気に、呆けていた強盗団はようやく相手との実力差を理解し、降参と言うようにオズオズと両手を上げた。
「あのネッチの親子から剥ぎ取るのは罪悪感にまみれるけど、お前らなら別にいいよな。さっきの言葉をそのまま返す。身ぐるみ全部置いていきな。そうすれば命だけは助けてやる」
是非もなし。
唯一意識を保っていた強盗団員は、即座に自分から下履き姿になった。
今回は初日の続きと二週間後のお話。
ちょっと中途半端な時間分けですが、文字数の都合という事で……。