【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第四話 無力感に流されながら

 健人が衛兵の詰め所を出ると、空には既に太陽が昇っていた。

 新鮮な空気を胸いっぱいに吸い込み、大きく背を伸ばす。

 

「はあ……。何やってんだ俺は。情けない……」

 

 今回の一件は、健人にとっても苦いものだった。

 酒に酔ってずいぶんと恥ずかしい醜態を晒してしまった。

 

「もう、忘れなきゃいけないんだ。忘れなきゃ……」

 

 とはいえ、懊悩自体が消えたわけでもない。

 脳裏に蘇るスカイリムでの出来事、それを忘れようとすればするほど、相変わらず苦々しい思いが喉元までこみあげてくる。

 とはいえ、いつまでも懊悩しているわけにもいかない。

 収入が不安定な今、少しでも仕事をして貯蓄する必要がある。

 

(船長の顔にも泥を塗ってしまったな……)

 

 ノーザンメイデン号は、既にレイブン・ロックを離れている。

 報酬に関しては折り合いが直ぐについたのか、数日と経たずに再びスカイリムへと向けて出港していった。

 健人はとりあえず、一度宿屋に戻ってから街の広場に行ってみようと思い、レッチング・ネッチ・コーナークラブを目指す。

 目的の宿屋の前まで来たとき、宿の扉が開いて、一人のダンマーが姿を現した。

 

「あれ? ゲルディスさん。いったいどこへ……」

 

 宿屋のオーナーであるゲルディスは、健人には気づかないまま、どこか朦朧とした様子で、街の通りを広場に方へと向かっていく。

 ゲルディスの様子に奇妙な違和感を覚えた健人は、彼の後を追ってみることにした。

 宿屋を出たゲルディスは、広場を抜けて、街の西側に突き出た海岸へ。

 そこには、健人がこの街に来てから目の当たりにした、奇妙な岩と、その周りを囲む作りかけの構造物がある。

 作りかけの構造物の周りには、相も変わらず街の人達が作業をしており、その作業員の中に、ゲルディスも交じっていった。

 

「これは、エイドリルさんが言っていた大地の岩。一体何が……」

 

 この街に来てから、この岩に抱いていた嫌な予感ゆえに近づいていなかった健人だが、こうして近くで目の当たりにすると、その異様さがよく分かった。

 

「ここは彼の祠……」「人々は忘れてしまったが……」「ここで我々は苦役する」

 

 作業に従事している人達の表情は虚ろで、まるで夢でも見ているような雰囲気だ。

 なによりも、その口からは奇妙で理解しがたい言葉が紡がれ続けており、一心不乱に大地の岩を囲む構造物を作り続けている。

 

「原因は、この岩か?」

 

 中央にそびえる大地の岩の前まで歩み寄った健人。

 嫌な予感は相変わらず消えない。

 この岩に関わることに躊躇する心が、健人にこれ以上足を踏み出すことを拒んでいる。

 やっぱり帰ろうか?

 そんな心理が鎌首をもたげ、スッと元来た道へと戻ろうとしたとき、健人の目が思いがけない人物達の姿を捉えた

 

「エイドリルさんやヴェレス隊長まで……」

 

「その記憶は消え去らない」

 

「我々は夜を取り戻す」

 

 彼が目にしたのは、つい先ほど、衛兵の詰め所で別れたエイドリルとヴェレス隊長だった。

 彼らもまた、多くの作業員たちと同じように、奇妙な言葉をつぶやきながら、構造物の建築作業に加わっていく。

 ここにきて、健人は腹を決めた。

 ダンマーの街であるレイブン・ロックでは健人はいい顔はされていない。

 それでも、この街で良くしてくれたゲルディスやヴェレス隊長が誰かに操られているような状況を看過することは、出来なかった。

 意を決して、健人は大地に岩に触れる。

 

“ゴル、ハー、ドヴ……”

 

「うあ……」

 

 次の瞬間、健人の意識は真っ暗な闇の中へと引きずり込まれていった。

 

「世界は記憶することになる」

 

 黒に塗りつぶされた視界の中で、口だけが自然と言葉を紡ぎ続ける。

 塗りつぶされた視界の所々に虫食いのような穴が開き、健人は今自分が何をしようとしているのかが見えていた

 体は勝手に槌を握りしめ、建材となる大岩に振るわれる。

 

「かつて見えなかったお前の目も、かつて怠惰だった我々の手は今、今や、私の意思を伝えている」

 

 疑問も、疑念も思い浮かばない。

 それが正しく、当たり前のことだと認知してしまっている。

 だが、闇に包まれた視界は、まるで目の前を彗星が横切ったように、突然クリアになった。

 

「はっ……!」

 

 突然回復した自意識に、健人は思わず数歩後ずさった。

 手には朦朧とした意識の中で振るっていた土木作業用の槌が握りしめられている。

 その槌と、目の前で加工された建材が、つい今しがたまで自分の身に起こっていたことを、健人に自覚させていた。

 

「驚いたな。岩に触れた後は、他の連中のように、何者かに操られていたようだったのに。どうやらお前は、他の連中とは違うようだな」

 

 突然背後から掛けられた声に、健人は反射的に振り返る。

 声をかけてきたのは、老獪そうな一人のダークエルフだった。

 レイブン・ロックでは見たこともない奇妙な文様が描かれたローブを纏った男性。

 ローブの肩と小手にあたる部分にはキチンの甲殻が取り付けられ、首や体にはターバンのような赤い布を巻きつけている。

 

「貴方は……」

 

「私か? 私の名はネロス。テルヴァンニ家において、いや、このタムリエルで最も優れたマスターウィザードだ」

 

 ネロスと名乗ったウィザード、つまり魔法使いは、己を最も優れたと自称するだけの豪胆さをもって、健人に名を名乗る。

 まるで、自分がどれだけ高名で偉大か知っているだろう? とワザと問いかけているような自己紹介だった。

 

「これは一体、どういう事ですか? ゲルディスさんや街の皆に一体何が……」

 

「さあな。だが、ここしばらく前から、このソルスセイムを得体のしれない力が覆っている。その力に操られ、何かを作ろうとしているのだろう」

 

 淡々としたネロスの口調。

 その声色には、レイブン・ロックに起こっている現象に対する憂慮は含まれていないように健人には感じ取れた。

 

「止めないんですか?」

 

「止める? 何故だ? そんなことしてしまったら、この現象の帰結を見ることが出来なくなるではないか」

 

 どうやらこのネロスという人物は、健人が感じたとおり、レイブン・ロックの住人に対する心配は微塵もなく、只々人が操られているという現象に対する興味しかない様子だった。

 健人の胸の奥から、言いようのない憤りが湧き上がる。

 

「人が、操られているんですよ?何とも思わないんですか!?」

 

「だから、それが何だというのだ? 別に助けを求められたわけでもない。

 どうにかしたいと思うなら、自分でやる事だ。一々他人につっかかるのは、お門違いというものだろう」

 

「操られているのなら、助けを求めようもないでしょう!」

 

「ふむ、確かに言うとおりだ。しかし、私はこの興味深い現象を止める気はない」

 

 いくら健人が声を荒げても、ネロスの口調は相変わらず超然としている。

この類の頑固者は多少のことでは梃子でも動かないだろう。

 レイブン・ロックを覆う深刻な事態に対して、無干渉を決め込んでいるネロスに対して、憤りを覚えるものの、健人は早々に説得を諦めた。

 とりあえず健人は、手に持った槌で、大地の岩を壊そうと試みる。

 彼自身が大地の岩に触れたら操られたことを考えれば、この岩に原因があると考えるのは自然なことだ。

 この大地の岩を壊せば、街の人は元に戻るかもしれないと考えたのだ。

 

「……ぐっ!」

 

 だが、振り下ろされた槌は岩を砕くどころか、逆に槌自体が粉々に砕け散ってしまった。

 

「無駄だ。この岩はソルスセイムの地と深くつながった特別な岩だ。この地から湧き立つ力の集約点。人の身で壊せるものではないし、もし壊してしまった場合、この島がどうなるか見当もつかん。

 海に沈むか、それとも別の世界に飛ばされるか。それはそれで面白そうだがな」

 

 この土地自体の力が集約しているなら、一個人である健人にはどうすることもできない。

 健人の胸の奥底で燻っていた無力感が、再び鎌首をもたげる。

 

「そもそも、よそ者のお前がどうして彼らの心配をする。

 お前は、恐らくホーカーの尻を追いかける船乗りか、旅人という名の浮浪者だろう。どう見てもダンマーではないからな。ということは、この街の住人にもあまりいい顔はされなかっただろう」

 

「煩い……」

 

 そんな健人の懊悩を知ってか知らずか、これ以上ないほど見事なタイミングでネロスが傷口に塩を塗りこんできた。

 込み上げてくる無力感と、虚ろな空虚感に飲まれそうになる。

 

「なんだ、図星を指されて怒ったのか? それはすまなかったな。ついつい本音が出てしまうのだ」

 

「…………」

 

 壊れて柄だけになった槌を放り捨て、健人は踵を返す。

 

「おや、諦めるのか?」

 

「だから、煩いと言っている」

 

 相変わらず人の神経を逆なでるネロスに恨み節を吐きながら、健人は覚束ない足取りで大地の岩を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大地の岩を後にした健人は、その足で鍛冶屋を訪れ、頼んでいた装備を受け取ると、レイブン・ロックの街を出た。

 やはり、街の中の幾人かが操られた状態で作業し、他の人間はそれに気がつかないようになっているようだ。

 健人としても、あの大地の岩にいても自分にできることはなさそうだったし、何よりも未だに胸の奥で燻る無力感と虚無感を、少しでも癒したかった。

 街を出た健人はひたすらに北へと歩き続けた。

 途中で廃墟となった家や灰に埋もれた森を通り過ぎると、やがてスカイリムでもよく見かけた白い雪が積もる山肌が見えてきた。

 灰が降る範囲を超えたということは、同時にレイブン・ロックからかなり離れてしまったことを意味している。

 

「少し遠出しすぎたな……」

 

 肌を裂くような寒気の風を感じながら、健人はもう少しだけ登ってみようと、足を動かす。

 このソルスセイムの中央にそびえる山。気晴らしで登るにはちょうどいいと思ったのだ。

 だが、山頂近くまで来たところで、健人の目に見たこともない遺跡が姿を現した。

 黒い岩で作られた、巨大な遺跡。

 円形の闘技場を思わせる建造物が、山頂近くの山肌から顔をのぞかせている。

 

「ここは……神殿? それに周りにあるのは、ドラゴンの骨?」

 

 見たこともない遺跡に近づいてみると、遺跡の外壁には、どこかの神殿を思わせる装飾がびっしりと施されている。

 その装飾は、何となく、大地の岩の周辺に建てられていた構造物に似ている気がした。

しかも、遺跡には何者かが建てたと思われる木製の櫓などが設置されている。

 何よりも健人の目を引いたのは、遺跡の周りに散乱した無数のドラゴンの骨だ。

 ざっと見ただけでも、十体以上のドラゴンの遺骨が、遺跡の周りに散乱している。

 遺跡自体が土に半ばまで埋もれていることを考えれば、ここで死んだドラゴンの数は、もっと多いかもしれない。

 明らかに長い間、土の下に埋もれていたと思われる骨と、今ソルスセイムで起こっている現象と関係があると思われる遺跡。

 健人の脳裏に、己がレイブン・ロックで操られた光景が思い出される。

 

(ここから離れよう)

 

 櫓を半ばまで登ったところで、健人はそう思い、元来た道を引き返そうとする。

 だがその時、誰かが叫ぶ悲痛な声が響いてきた。

 

「皆お願い、目を覚まして!」

 

「声?」

 

 遺跡の中央から聞こえてきたと思われるのは、必死に誰かに呼びかける女性の声だった。

 誰かいるのかと思い、少し逡巡した後、健人は櫓を登ってみる。

 遺跡は、やはり古代のコロセウムのような円形のすり鉢状の構造をしており、中央にはレイブン・ロックにあった大地の岩とよく似た形状の岩が屹立している。

 その岩の周辺ではレイブン・ロックと同じように、何者かに操られた人達が、遺跡の修復をしていた。

 違うのは、操られている人達はダンマーではなく、厚い灰色の毛皮の服を纏った人族であることだ。

 そして、その人族の傍で、必死に呼びかけている女性がいる。

 女性はスカイリムでは見たこともない銀色の装いをした重装鎧を纏っており、両腰には同じ色の金属で作られた片手斧を二本、携えている。

 健人の気配を察したのか、女性の視線が、遺跡の上から見下ろしている健人を捉えた。

 視線が合ったことに気付いた健人は、面倒なことになったと思ったが、このまま立ち去るのもどうかとも考え、遺跡の階段を下りて女性に歩み寄った。

 

「誰? いったいどうやって正気を保ったままこの神殿に……いえ、この際誰でもいいわ。お願い、力を貸して!」

 

「力を貸してくれって言われても……」

 

 突然、切羽詰まった様子で助力を求めてくる女性に、健人は狼狽える。

 見たところ、この女性はノルドと同じ身体的特徴を持っている。

 高めの身長と、金色の髪、色素の薄い肌。

 この島に住むノルドかと思ったが、身に付けている鎧は明らかにスカイリムで見てきたものと違っていることに、健人は首を傾げる。

 

「レイブン・ロックの人達の力を借りたら?」

 

「無理よ! 彼らはこの力に対する防御方法を持っていない。私も父に貰ったペンダントがなかったら、ここに来るのは無理だったわ!」

 

 健人は女性の胸に、キラリと光るペンダントを見つけた。恐らくそのペンダントが、この島を覆っている奇妙な力を防いでくれているらしい。

 この島を襲っている事態を今一理解していない健人だが、どう考えても厄介事だろう。

 その時、ガコン! と何かが動く音とともに、遺跡中央の螺旋階段から、ヒトデかイカを思わせる奇妙な仮面を被ったローブ姿の二人が、姿を現した。

 

「いたぞ! 我らを嗅ぎまわっているスコールの娘だ!」

 

「ミラークの手下ね。村の皆を返してもらうわ!」

 

(スコール? 彼女が? それにミラークって……)

 

 スコールといえば、ゲルディスから教えてもらった、ソルスセイム島の先住民族だ。

 さらに健人は、ミラークという名前に耳をそばだてる。

 おそらくは、この事態の関わる人物なのだろうが、健人が確かめる前に、仮面人の二人が、スコールの娘と呼ばれたノルドの女性に襲い掛かろうとしている。

 おまけに仮面人の敵意は、ノルドの女性の隣にいる健人にも向けられた。

 

「あの見慣れない小僧はどうする?」

 

「スコールの娘と一緒にいる奴だ。まとめて始末してしまえ」

 

「おいおい、俺は関係ないだろ……くっ!」

 

 仮面を被った二人組は、それぞれが腰に携えたメイスを抜き、ファイアボルトの魔法を撃ち放ってきた。

 健人は横に跳んで炎弾を躱すが、どうやらこの二人に敵認定された以上、戦うほかない様子だった。

 

「仕方ないか」

 

 健人は背中に背負った盾と腰のブレイズソードを引き抜いて構える。

 戦いが避けられない状況に、健人の意識が切り替わる。

 詠唱を終えた仮面人が、再びファイアボルトを放ってきた。

 

「死ね!」

 

 放たれたファイアボルトを、手入れを施してもらったキチンの盾で受け止める。

 受け止める際に、魔力の盾で威力を減衰させることも忘れない。

 はじかれて砕け散り、舞い散る炎の欠片を視界の端に眺めながら、健人は踵に力を込めて一気に間合いを詰める。

 驚きに身を震わせた仮面人がメイスを振るうが、その動きは明らかに遅い。

 

「温い魔法に、メイスの軌道も見え見えだ」

 

 シールドバッシュで振り下ろされたメイスを弾き飛ばし、首に一閃。

 切り落とされた首が、遺跡の床にごろりと転がった。

 隣に視線を向けると、ノルドの女性の方も、手にした斧を仮面人の脳天に振り下ろして始末していた。

 

「がっ……」

 

 頭蓋を割られた仮面人の体から力が抜け、グッタリと横たわる。

 叩き込んだ斧を引き抜き、スコールの女性は付着した血を払うと、腰の留め金に手に持った二本の斧を納める。

 見たところ、この女性は両手に二つの斧を持つ二刀流のようだが、彼女の体からは魔法と思われる淡い燐光が輝いている。

 おそらくは、変性魔法のオークフレッシュやストーンフレッシュに相当する、魔力の鎧を術者に纏わせ、防御力を底上げする魔法の類と思われる。

 健人はまだ変性魔法を身に付けてはいないが、知識自体はデルフィンとの講義で知っていた。

 

「珍しいな。ノルドが戦いにおいて魔法を使うなんて」

 

「ノルドじゃないわ。私たちはスコール。そっちも、大した腕ね」

 

 純粋に健人の力量に感嘆したのか、裏表のない笑みを口元に浮かべたスコールの女性が、健人に賛辞を送ってくる

 しかし、健人は無力感に苛まれているためか、素直に彼女の賛辞を受け取れなかった。

 

「別に、こんな程度じゃな……」

 

 しばし、両者の間に沈黙が流れる。

 気まずそうに頬を掻いていた女性だが、気を持ち直し、改めて健人に助力を懇願してきた。

 

「……それはそうと、答えを聞かせてくれない? お願い、力を貸して」

 

「…………」

 

 力を貸すべきかどうか、一瞬逡巡する健人。

 無力感に苛まれている健人だが、同時にこのままではいけないとも思っている。

 今一度、自分自身に問いかけるように瞑目し、深呼吸した健人は、改めて自分を見つめてくるスコールの女性を向き合う。

 力強く、芯のある光を宿した瞳。

 だが、その瞳の奥に、僅かな不安の影が揺れているように見えた。

 そして、その彼女が抱く影が、燻っている健人の背中を押した。

 

「……分かった。その代わり、そっちが知っていることについて話してもらう。いいな?」

 

「ええ、もちろん! 私はスコールの呪術師、みね歩きのストルンの娘、フリア。貴方の名前は?」

 

「健人、ただの健人だ」

 

 助力を受けてくれた健人に晴れやかな笑顔を返すフリア。

 懊悩はいまだ消えず、虚ろな無力感は健人の胸の奥でザクザクと鋭い棘を突き立てている。

 だが健人は、虚ろな虚無感の奥で、未だに小さく震え続ける“熱”を感じ取っていた。

 その熱が、今この場でフリアに協力することを決めた。

 胸の深奥で燻るそれが何なのか、健人にもまだよく分かっていない。

 それでもこの瞬間、健人はもう一度、小さな、しかし大きな始まりの一歩を踏み出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 スカイリムのウインドヘルム。

 ウルフリックストームクロークの統治下にあるこの都市の港町に入港していたノーザンメイデン号は、荷を積んで再びソルスセイムに向かおうかとしたその時、奇妙な客を乗せることになった。

 それはフードと皮の鎧を纏ったカジート。

 出港準備が整うノーザンメイデン号の傍で、彼は船が接岸した桟橋の先に佇みながら、彼の親友がいるであろう大海原の先を眺めている。

 

「それじゃあ船長、お願いね」

 

 カジートの名前は、カシト・ガルジット。

 持ち前の口八丁手八丁で帝国軍から別行動する許可をもぎ取り、こうして健人を追ってソルスセイム島を目指すところだった。

 元々、健人を追ってきただけあり、彼がソリチュードで乗った船を探してウインドヘルムにたどり着き、こうして目的の船を見つけたというわけだ。

 

「わかった。それにしても、ケントの知り合いとはな」

 

「へへっん。オイラの親友はすごいんだぜ?」

 

「ああ、知ってるよ。いいからさっさと乗りな。すぐに出港だ」

 

「ホイホイ了解」

 

 ノーザンメイデン号のグジャランド船長が、健人の知り合いと名乗るカジートに船に乗るよう促す。

 もやいを解き、ノーザンメイデン号は再びソルスセイムへ向けて出港した。

 

「ケント、もう少しだからね……」

 

「おらカジート、いいからさっと艪を漕げ」

 

 カシトがソルスセイム島への思いを抱いているまさにその時、カシトは巨大なオールの傍に座らせられ、さっさと漕ぐように命令された。

 

「あれ? オイラ船代払ったよ?」

 

「たった百ゴールドで足りるわけないだろ。足りない分はしっかり働いて払うんだな」

 

 カシトがグジャランドに払ったゴールドは、ソルスセイムまでの船代には到底及ばなかった。

 彼は資金をウインドヘルムに来るまでに、ほとんど使い果たしてしまったのだ。

 もっとも、その理由がドーンスターの宿での賭け事や、途中で出会った同族キャラバンでの賭け事など、すべてがギャンブルで消えていただけに、同情などできるはずもない。

 

「あの、オイラ、ケントの知り合い……」

 

「あいつの親友なら、尚の事しっかり働きな。アイツは十分以上に働いてくれたぜ」

 

 カシトは健人の親友であることを理由に船代をまけてもらおうと試みるが、グジャランドに一蹴された。

 健人が船員生活中に、グジャランドの期待以上の働きをしていたことも、カシトの期待を打ちのめす原因となった。

 

「みゅう……」

 

 情けない鳴き声を漏らしながら、カシトは尻尾をしゅんと垂らして櫂を漕ぎ始める。

 この後、彼は慣れない船上生活で様々なトラブルを招いた結果、グジャランドから直々に“何もするな”と言われ、完全なお荷物として船倉に閉じ込められる羽目になるのだが、それはまた別のお話である。

 

 

 

 

 

 

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