【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
仮面人が出てきた扉は遺跡の奥へと続いており、健人とスコールのフリアは、この島を包む力の正体を探るべく、遺跡の奥へと足を踏み入れた。
「この島で、何が起こっているんだ?」
「ハッキリとしたことは分からないけど、私の父の話では、ソルスセイムにミラークが戻ってきたと言っていたわ。正直、普通に考えたらありえないと思えるけどね」
「なぜ?」
「ミラークは、もう死んでいるからよ。何千年も前にね」
ミラーク。
先ほどの仮面人のセリフにも出てきた名前だ。
しかし、数千年前に死んでいるという話に、健人は首を傾げる。
「ミラークは、竜戦争時代のドラゴンプリーストよ。この遺跡はミラークの聖堂。彼の権勢を示すために作られた、巨大な神殿」
フリアの話では、ドラゴンプリーストとはその名の通り、ドラゴンに仕える神官であり、ドラゴンから力と名前を与えられることで、絶大な力と権力を誇っていた人間の事らしい。
かつて、地上のすべてを支配していたドラゴンが、己の統治を円滑に進めるために選んだ代弁者であり、生贄の選定や実質的な統治を任されていた。
また、ドラゴンプリーストを介したドラゴンの統治は苛烈で容赦のないものだったらしく、無数の生贄が捧げられ、逆らう者たちは“力”を与えられたドラゴンプリーストや、ドラゴン自身の“声の力”ですべて焼き滅ぼされたらしい。
「ドラゴンプリースト……ここでもやはりドラゴンか。じゃあ、遺跡の周りにあるドラゴンの死骸は、一体……」
ここで健人の脳裏に疑問が浮かぶ。
ドラゴンプリーストがドラゴンに仕える神官であり、ミラークもまたドラゴンに仕えていたというのなら、この遺跡にまわりにあった無数のドラゴンの死骸は何だったのだろうか? と。
「よくは知らないけど、ミラークはドラゴンを殺して、その力を奪えたらしいわ。まるで伝説のドラゴンボーンみたいにね。そしてドラゴンの権勢が最も強かった時代に、ドラゴンに対して反旗を翻したらしいわ……」
「っ!」
ドラゴンの力を吸収できる。
健人にとっては心当たりのありすぎる話に、思わず眉をひそめた。
しかも、ドラゴンに反旗を翻したということは、聖堂の周りの死骸はすべて、その時の戦いで殺されたドラゴンだろう。
あれだけの数のドラゴンを相手取り、殺しきれるような存在など、健人には思い当たる節がない。
当然ながら、ヌエヴギルドラールの洞窟で相対した、今代のドラゴンボーンであるリータにも不可能のように思えた。
「とにかく、今はこの遺跡を調べましょう。今のところ、村の仲間にも、樹の岩にも、何もできなさそうだから。注意して、聖堂の中にはトラップも多いと思うわ」
「分かった……」
樹の岩とは、このミラーク聖堂の中央にある、大地の岩と酷似した岩のことである。
元々このミラーク聖堂は、土の中に埋もれおり、樹の岩だけが地表に出ていたが、最近の地殻変動で、樹の岩の下にあった遺跡が露わになったらしい。
遺跡の先に進むと、最初に見えたのは会議室と思われる円卓。
その部屋の通路を挟んで向かい側には、燃え盛る焚火と炎に炙られる檻を収めた部屋があった。
「火がついているってことは、さっきの仮面人がまだいるのかな?」
「おそらくいるでしょうね。これを見て」
フリアが円卓の卓上に置かれている羊皮紙を取り、健人に手渡してきた。
そこには聖堂の周りを嗅ぎまわるフリアを始末するように指示された命令書と、命令を下したと思われるミラーク教団の名前が記されていた。
「ミラーク教団……」
「ミラークがドラゴンに反旗を翻したときに作り上げた、自らを神格化させた教団の事よ。彼らが身に着けているのはミラークがドラゴンに反旗を翻したときのローブを象ったもの。おそらくこの聖堂は、その教団の根拠地みたいね」
命令書を懐にしまった健人は、フリアに続く形で遺跡の奥へと向かう。
途中でミラーク教団のローブを纏った狂信者が数人襲ってきたが、フリアと健人に一蹴された。
フリアの戦い方は両手に斧を持った超攻撃型ともいえるもので、変性魔法で己の防御力を上げ、相手に攻撃を与える間もなく圧倒するという、なんとも勇ましいものだった。
「ミラークはおそらく、樹の岩を介して、ソルスセイムの土地の力を手に入れようとしているのでしょうね」
「分かるのか?」
「なんとなく。こう見えても、呪術師の父に色々と習ったから」
数多くの罠を抜け、信者たちを倒しながら先に進んだ健人たち。
一際大きな両開きの扉をくぐると、大きな縦穴が目に飛び込んできた。
螺旋状の縦穴の中央には幾つもの檻が天井から吊り下げられ、中には白骨化した遺体が放置されている。
「この部屋で何が起きたのか、考えたくはないわね。檻の中に、どれほどの気の毒な人たちが閉じ込められたのか」
ドラゴンの苛烈な統治を想像させる光景に、健人は息を飲む。
健人もスカイリムでは、ウステングラブなどの遺跡に潜った経験があるが、竜戦争時代ほどの昔の遺跡に入るのは初めてだ。
ウステングラブはどちらかと言うと試練の為の遺跡という感じだったが、ミラークの聖堂内は、ドラゴンの統治による凄惨な時代を、色濃く感じさせる。
「ミラークの手で、どんな拷問を受けたのか、そして何の為にそんな事をしたのか」
「ドラゴンの為か、それとも自分の為か……」
人間に対して苛烈ともいえる統治を行ったドラゴン。そして、そのドラゴンに仕えながらも反旗を翻したミラーク。
彼が何を思い、ドラゴンに反逆したのかは健人には分からないが、この遺跡の中の所業や、今まさにソルスセイムで行われている洗脳が彼によるものなら、少なくともミラークはドラゴンに対し、より以上の恐怖で以って対抗しようとしたことは想像に難くない。
「ミラークがどんな理由で反乱を起こしたのかは分からない。でも彼の道は、険しいものだったのでしょうね」
フリアの言葉に、健人は静かに頷いた。
ドラゴンに対して反逆する。それがこの世界において、どれだけ厳しい道であるのかは、実際にドラゴンと戦った経験がある健人には嫌と言うほどわかる。
それに彼には、ドラゴンを滅ぼすと決めた義姉がいるのだ。
この過去に行われたであろう凄惨な儀式の跡を垣間見れば、健人にもミラークが定めた道の険しさは想像できた。
だが、今健人達は、この島を覆う力の正体を確かめるためにここに来ている。
いつまでも立ち止まっているわけにもいかない。
健人とフリアは互いに視線を合わせて頷くと、縦穴の奥へと足を踏み入れた。
縦穴の先はさらに通路が続いていた。
ウステングラブと比べても深く、長い通路。さらに道中に仕掛けられているトラップの数も尋常ではない。
自動式の圧力感知型が主な罠だったが、毒や吊るし丸太、無数の針を射出する物など、その種類は多岐に亘る。
逆に言えば、それだけ奥には知られたくないものがある事が推察できる。
「この道、いったいどこまで続いているのかしら。ミラークの力が凄かったのは聞いているけど、これほどの権勢を誇っていたなんて……」
しかも、道中には明らかに最近人が入った形跡がある。
土埃がほとんどない場所や、まだ新しい蝋燭、更には保存食など、ミラーク教団の信者がここで生活していたことが感じ取れる状況証拠が山のようにあるのだ。
襲い掛かってくる信者やドラウグル達を倒しながら、奥へ奥へと道なりに進んでいく健人とフリア。
そして二人は、道の先に一際明るい灯りがともされているのに気づいた。
ついに最奥に到達したのか。
意を決して、健人とフリアが明かりに近づいていくと、二人の目に巨大な影が飛び込んできた。
「ドラゴンの骨? 吊るされている……」
二人の目に飛び込んできたのは、剥製のように天井からつるされたドラゴンの骨だった。
しかも、完全な形で残っている骨である。
ドラゴンの骨の周りは円形の祭壇になっており、周囲には正面に一つ、右側に、二つの石棺が壁に立てかけられている。
まるで標本のようにつるし上げられている竜骨。ここまでの道の広さを考えれば、巨大なドラゴンが入れるはずもない。
この骨は明らかに、死んで骨にされた後に、ここに運び込まれてきたのだ。
「ミラークが、竜教団を裏切ったことは知っていたけど、死骸をこんな風に晒すなんて。ドラゴンが知ったら、完全に激怒したはずよ……どうかしたの?」
「風の音が、聞こえる」
「風?」
「ああ、以前も確か、聞いたような……」
地下で感じることのない、風の音。その音は、竜骨標本の左側。薄暗い影がある場所から聞こえてきていた。
そこにあったのは、ウステングラブでも見かけた形の石壁だった。
石壁にはドラゴン語と思われる爪で引っ掻いたような様な文字が刻まれており、ウステングラブで見かけたものと同質の石壁であることが推察できた。
「竜の言葉? いや、ここがドラゴンプリーストの神殿なら、あっても不思議じゃないけど……」
だが健人は、その石壁に刻まれた言葉に、妙な感覚を覚えていた。
ウステングラブで見かけた時とは、少し違う感覚。
耳に響く風の音に交じって、何か聞きなれない音が混じっているような気がするのだ。
“ム…………”
「ん? なんだ? 気のせいか……?」
一体何が耳に響いて来ているのか確かめようと健人が石壁に近づくが、健人が傍に近づくと石壁はまるで何もなかったかのように沈黙した。
何がどうなっているのかわからず、首を傾げる健人。
その時、地鳴りのような振動が、ミラーク聖堂全体に響いた。
続いて祭壇の奥の壁に置かれた石碑の蓋が、音を立てて開かれる。
「っ! ドラウグル!」
現れたのは、三体のドラウグル。
特に健人とフリアの危機感を煽ったのは、正面の石棺から現れたドラウグルだった。
天を突くような一対の角を持つ漆黒の兜をかぶり、同じような黒に染められた防具と片手剣を持つドラウグル。
纏う雰囲気も明らかに異質なもので、死しているにもかかわらず、背筋が凍るほど強烈な覇気を纏っている。
「こいつ、ただのドラウグルじゃない!」
「デス・オーバーロード! ドラウグルの中でも最も危険な奴よ、気を付けて!」
ドラウグル・デス・オーバーロード。
ドラウグルの中でも最高位に属するアンデッド。過去の英雄が死者となって蘇った存在だ。
その力量は凡百なドラウグルなど歯牙にもかけず、一体で精兵の部隊を容易く滅ぼす、死の化身。
アンデッドとして、間違いなく最高峰に位置する難敵の一種だ。
「番人というわけか!」
デス・オーバーロードが大きく胸を反りかえらせる。
敵のその行動に強烈な悪寒を感じた健人とフリアは、反射的に通路の端に飛んで壁に張り付いた。
“イーズ、スレン、ナス!”
「フロストブレス!? いや、違う……」
放たれたのは、かつて相対したドラゴン、サーロタールが使用したシャウトにも似た、極寒の吐息。
ただ、こちらはフロストブレスに比べて遥かに強い冷気を放っていた。
通路の中央を駆け抜けた極北の吹雪は、瞬く間に床を凍らせ、進行方向の床に剣山のような氷の氷柱を無数に作りあげる。
“氷晶”のシャウト。
一瞬で対象を凍らせ、行動不能にするスゥームだ。
「気を付けて、マトモに浴びると全身氷づけにされるわ!」
「ああ、似たようなのを体験済みだ!」
息を合わせたように、健人とフリアはドラウグル達に向かって駆けだす。
強大な存在であるデス・オーバーロードを前にしても、健人とフリアは怯まない。
いや、怯んだ時点で、即座に死が自分に舞い降りることを理解しているのだ。
デス・オーバーロードのシャウトをこの狭い通路の中で躱すことは困難であり、同時にその威力から防ぐことも難しい。
ならば、相手の剣の間合いに入ろうと、接近するしか活路がないのだ。
そうして、二対三の戦いが始まった。
健人とフリアを囲むように展開しようとするドラウグル達。
そうはさせじと、狭い祭壇内を目一杯広く使い、相手を逆に押し込もうとする健人達。
祭壇の間は、先のない行き止まりの構造になっている。
幸い、デス・オーバーロードと違い、他二体のドラウグルの動きは、決して速くはない。
デルフィンの地獄のような鍛練を乗り越え、モヴァルス、そしてサルモールの精兵と渡り合った健人なら、問題なく対処できるレベルだ。
「ふっ!」
配下のドラウグルでデス・オーバーロードの射線を遮りながら、相手の側頭部に盾による一撃を加える。
体勢を崩した相手に対し、そのまま流れるようにブレイズソードを突き入れて胸板を貫き、すぐさま抜きながら一閃。
斬り捨てられた配下のドラウグルの体が力を失い、持っていた剣が地面に落ちる。
健人はすぐさまデス・オーバーロードとの間合いを詰めるべく疾走する。
しかし健人の眼前に、手のひらを向け、今まさに発動直前の状態となったデス・オーバーロードの姿が飛び込んできた。
「氷雪の魔法!? しまった!」
健人は咄嗟にキチンの盾を前に突き出す。
ドラウグルの武器はシャウトだけではない。生前習得した魔法を使う個体も存在する。
そして、今の健人達の相手は、そのドラウグルの中でも最高位に位置する、デス・オーバーロード。シャウトと魔法を同時に使う事など、造作もなかった。
発動されたのはアイスストーム。
フロストブレスにもよく似た、直線上を薙ぎ払うように氷の吹雪が駆け抜ける氷雪の破壊魔法だ。
効果範囲は“フロストブレス”や“氷晶”には及ばなくとも、その威力は紛れもなく一級。
障壁魔法を展開する暇すらなかった健人に、強烈な冷気の渦が叩きつけられる。
「ぐっ!」
瞬く間にスタミナが奪われ、健人の動きが鈍る。
健人の隙をフォローすべく、もう一体のドラウグルを斬り捨てたフリアが背後からデス・オーバーロードに斬りかかるが、デス・オーバーロードは素早く刃を切り返してフリアを迎撃。
その枯れた体躯に見合わぬ腕力でフリアの斬撃を弾き飛ばすと、その腹に強烈な蹴りをかました。
「ぐっ!」
フリアが苦悶の声を漏らし、女性としては大柄な体が一瞬浮き上がる。
しかし、今度は冷気から回復した健人が、再びデス・オーバー‐ロードに斬りかかる。
デス・オーバーロードは、アンデットは思えぬ機敏さと器用さを見せ、足元に落ちていた倒れた仲間の剣を蹴りあげて取ると、薙ぎ払われた健人のブレイズソードを弾く。
「くそ! 死体のくせになんて器用な奴!」
「手を止めないで! このまま押し切るわ!」
二人で挟み撃ちにしながら、この難敵を討ち取ろうとする健人とフリア。
一方のデス・オーバーロードは、かつての英雄の力量そのままに、数千年前の死体とは思えぬ鮮やかな剣舞で二人の剣撃を凌ぎ続ける。
しかし、手数は圧倒的に健人達が勝る。
二本の剣に対し、三本の刃と盾。
デス・オーバーロードは健人とフリア、二人の猛攻を防ぎ続けているが、攻勢に出る事はできず、倒されるのは時間の問題のように見えた、
だが、二人の思惑は、デス・オーバーロードの“声”によって破られることになる。
“スゥ、ガハ、デューーン!”
激しき力。
己の得物に風の刃を纏わせ、その威力や速度を劇的に高めるスゥーム。
先ほどのフロストブレスとは違う、接近戦の為のシャウト。
高められたその速度で持って、デス・オーバーロードは嵐のような剣戟を繰り出し始めた
「くそ、マズイ……」
滑らかに流れるような、しかし、濁流のように繰り出される双剣。
先程まで追い込んでいた健人とフリアが、今度は逆に一方的に押し込まれる形となる。
激しき力による圧倒的な攻撃速度は、三本の刃と一つの盾を、二本の剣で容易く押し返すことを可能にしていた。
「くっ、捌き、きれなくなる……」
数十合もの剣戟が交わされる中、先に動きが鈍り始めたのは健人だった。
先ほどのアイスストームで、著しくスタミナが削られたことが原因だ。
健人の動きが鈍ったことを察したデス・オーバーロードが、健人を先に始末すべく猛攻をかけ始める。
デス・オーバーロードの剣を受け止めていたキチンの盾が軋み、裂傷が刻まれる。破壊されるのは時間の問題だった。
「この……ぐっ!?」
デス・オーバーロードの意識が健人に向いたことで、叩きつけられる圧力が緩くなったフリアが、一気に決着をつけようと踏み込もうとするが、彼女の動きを察したデス・オーバーロードは器用に後ろ蹴りを放つ。
咄嗟に双斧を交差させて受け止めるが、デス・オーバーロードの膂力の前に、フリアは僅かに後ろに後退する羽目になる。
そしてその数秒の空白が、僅かな間、趨勢を一気にデス・オーバーロード側に傾けた。
“激しき力”によって増強された膂力と速度をもって、デス・オーバーロードが健人に猛攻を仕掛ける。
もはや視認すら困難な斬撃の雨が、健人に襲い掛かる。
健人はデルフィンによって培われ、モヴァルスとの戦闘で開花した反射的な防御行動で、何とかデス・オーバーロードの猛攻を凌ごうとするが、スゥームで強化されたこのドラウグルの剣は、モヴァルスと比べても比較にならない速度だ。
超高速の斬撃が、健人の防御を瞬く間に削り、そしてほぼ同時に繰り出された袈裟斬りと切り上げが、ついに健人の盾を大きく上にはね上げた。
がら空きの胴体が、デス・オーバーロードに晒される。
“殺される……!”
健人がそう直感した瞬間には、がら空きの銅を薙ぎ払う黒檀の剣が、健人の目には映っていた。
明確な死を目の前に、健人の目には自身に迫る黒檀の剣が、恐ろしいほどにゆっくりに見える。
「させない!」
だが、黒檀の剣が健人の胴体を両断する直前に、デス・オーバーロードの背後から、片手斧が投げつけられた。
フリアがデス・オーバーロードの注意を逸らすために、手に持っていた双斧の一つを投げつけたのだ。
デス・オーバーロードが、反射的に半身を逸らし、左手の剣を背後に迫っていたフリアの斧を弾き飛ばす。
ドラウグルの猛攻が、ここに来て一時的に止まった。
「ああああああ」
健人が盾を構えたまま、咄嗟に踏み込んで体当たりを敢行する。
剣も魔法も相手の独壇場なら、さらにその内側まで踏み込むしかないと本能的に察したが故の行動だ。
密着状態になった健人とデス・オーバーロード。この状況を嫌ったのか、デス・オーバーロードが風の纏った剣を逆手に構えて、健人の頭上から振り下ろす。
「っ!?」
健人は盾を掲げたまま身を低くし、盾の陰に身を滑り込ませる。
振り下ろされた剣が盾越しに健人の肩を軽く裂き、刀身に纏わりついた風が鎧の一部を弾き飛ばす。
その瞬間、痛みと共に全身の力が抜けるような虚脱感が襲ってくるが、健人は歯を食いしばって痛みと虚脱感に耐えながら、さらに押し込んでデス・オーバーロードの猛攻に歯止めをかけようとする。
デス・オーバーロードの体が、ふわりと浮いた。
(軽い?……そういうことか!?)
「フリア、思いっきり突っ込んでこい!」
「は、はあ? いったい何を……」
「いいから早く!」
「グウウウウ」
突然の健人の指示に一瞬戸惑うフリア。一方、デス・オーバーロードは健人の思惑を理解したのか離れようとするが、健人は右手のブレイズソードを手放し、相手の兜の角をつかんで逃がさない。
「はあああ!」
雄叫びを上げながら思いっきり加速をつけて、フリアはデス・オーバーロードと健人めがけて突撃する。
次の瞬間、女性としては少々大柄なフリアが、健人とデスロードに激突した。
フリアとデス・オーバーロード。二人分の体重、そして突進の勢いが、強烈な負荷となって健人の両足に襲い掛かる。
「くうう……ああああああ!」
押しつぶれそうになる足に必死に力を込めながら、相手の重心を制御し、圧し掛かってくる力の方向を、柔術の要領で変化させる。
さらに健人は、デス・オーバーロードの股に右足を差し込み、そのまま腰に相手の体を乗せ、差し込んだ右足を振り上げる。
デス・オーバーロードが必死に逃れようと抗うが、健人とフリアに両側から挟み込まれている以上、逃げようがなかった。
「この、倒れろおおおお!」
柔道の内股を思わせる要領でデス・オーバーロードを宙に浮かせた健人は、右手で相手の兜をつかんだまま、顔面を石床に生えた、剣山のように逆立つ氷柱めがけて叩き落した。
「ガウウウゥウゥ……」
グシャリと肉が潰れる音が、祭壇の間に響く。
顔面を複数の氷柱に貫かれたデス・オーバーロードの目から、命の光が失われる。
己のシャウトが作り出した氷原によって二度目の生を絶たれたドラウグルの体は、今度こそ永遠の眠りについた。
「ふう、ふう、ふう……シャウトの余波で出来た氷柱を使うとか……随分と綱渡りね」
「はあ、はあ、勝ったからいいだろ。助かったよ。フリアが相手を抑えてくれなきゃ無理だった」
戦いの緊張感から解放された健人とフリアが、軽口を叩き合う。
デス・オーバーロードの体裁きは軽業師のように軽やかだった。フリアが背後から抑え込まなければ、逃げられていただろう。
「よく、投げられると思ったわね」
「あいつの体、思った以上に軽かったからな。まあ、干からびているんだから当然なんだけど……」
健人がこの策を思いついたのは、体当たりをした際に、予想以上に相手の体が軽いことに気づいたからだ。
そもそも、人間の体は7割が水で出来ている。
ドラウグルは腐敗防止の為、例にもれず、水分がほとんどないミイラ状態になっているため、いくら鎧を身に着けているとはいえ、軽いのは当然だった。
荒い息を整え、立ち上がる健人とフリア。
その時、健人の目にデス・オーバーロードが使っていた剣が飛び込んできた。
健人は石床に落ちた剣を拾い上げる。
「黒檀の剣か……」
武器としても、付呪の素材としても、ごく一部を除き、最高位の剣。
おまけに刀身には何らかの付呪が込められているのか、淡い燐光を放っている。
「持っていったら? 予備の武器は必要でしょ?」
「そうだな、何か有用な付呪が手に入るかもしれないし……」
付呪された剣を持っていくことを決めた健人は、鞘を取り外そうと、デス・オーバーロードの体に手を伸ばす。
「……ん?」
鞘の留め具を外し、ベルトごと鞘を外そうとしたその時、デス・オーバーロードの体から、小さな鍵が地面に落ち、チャリン……と小気味いい音を立てた。
「なんだ、この鍵」
地面に落ちた鍵を手に取って眺めてみる。
鍵は普通のものとは違い、錠前を解除する鍵のピンが鍵芯から円状に突き出ており、鋭角な角度も付けられている。
一目見て、特別な鍵であることがわかる。
「見たところ、特別な鍵みたいだけど……ちょっとまって」
健人の手から鍵を受け取ったフリアが、デス・オーバーロードが眠っていた棺に近づいていく。
何かを探すように棺の中を矯めつ眇めつしていたフリアだが、棺の背板の中に小さな穴を見つけ、そこに鍵を差し込んで捻った。
すると、ガチャリとロックが解除される音とともに、棺の背板が両開きになり、さらに奥の通路が姿を現す。
「やっぱり、このドラウグルの入っていた棺、隠し扉になっているわ」
「ということは、こいつはこの隠し通路を守る門番だったってことか……」
「恐らくそうでしょうね。これほどの腕を持つ戦士をドラウグルに仕立てて守るものっていったい……」
「……行ってみよう。この先に、ミラークとかいう奴の力の秘密があるかもしれない」
健人の言葉にフリアは頷く。
デス・オーバーロードの剣を右の腰に取り付けた後、二人は慎重に隠し扉をくぐり、聖堂のさらに奥を目指した。
ゲーム上では、付呪された武器に“激しき力”のシャウトは使えませんが、本小説では使えるという設定です。
また、激しき力も攻撃速度だけでなく、纏わりついた風で攻撃力も上がるというオリジナルの設定を組み込んでいます。
これは、確かゲーム中の書物の中に、激しき力についての描写に、刃を研ぎ澄ませるという文言が入っていたため加えた設定です。
次話は直ぐに投稿されるはずです。