【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第六話 二人のドラゴンボーン

 隠し扉の先は大食堂を思わせる広い部屋であり、さらに奥にもう一つの隠し扉が隠されていた。

 二つ目の隠し扉は螺旋階段へとつながっており、健人達はさらに地下深くへと足を踏み入れる。

 これほど厳重かつ綿密に施された隠匿に、健人もいよいよ最奥が近い予感がしてきていた。

 螺旋階段を降りると、奇妙な形の灯篭が健人達を出迎えた。

 

「なんだ、この灯篭は?」

 

 まるで、深海魚の頭か、魚卵を思わせる奇怪な灯篭。

 気味の悪いレリーフが施されていることもあり、その異様さは思わず全身に鳥肌が立つほどだった。

 

「ハルマモラの眷族ね。確か、ルーカーとかいう魚頭の巨人よ」

 

「ハルマモラ?」

 

「ええ、知識の悪魔。あなた達の言葉では、ハルメアス・モラという名前よ」

 

 ハルメアス・モラ。

 この世界に存在する、デイドラロードと呼ばれる、神々と等しい力を持つ存在の一柱。

 神々と言われても、宗教が日常生活に浸透しすぎて無自覚になっている日本人である健人には想像がつかないが、知識としてならデルフィンから教えられている。

 知識を求めるデイドラロードであり、彼の持つ領域の名は“アポクリファ”。無尽蔵の知識を内包した領域だ。

 十六柱存在するデイドラロードの中でも特異な容貌をしており、その姿は消える泡や、鋏を持つ触手などと例えられ、運命の流れや星読みなどから過去や未来を読み解き、知識や記憶という財宝を所有していると言われている。

 神という言葉や存在に馴染みのない健人でも、埒外の存在であることを察せられる権能だ。

 そもそも、星読みや知識を司る存在は、地球の神話の中においても、非常に強力な存在として描かれている。

 知識の神として有名な神といえば、エジプトのトト神や北欧神話のオーディンやミーミル、日本神話のスクナビコナなどである。

 詳しい神格は知らずとも、サブカルチャーなどでは一度は聞いたことがある名前だ。

 

「ミラークの聖堂にハルメアス・モラの眷族の像があるってことは……」

 

「恐らく、ハルマモラもミラークと何らかの関りがあるということね」

 

 ドラゴンに反逆をしたミラークが、己の力を蓄えるために、デイドラロードと関りを持った。

 そう考えるのは、自然なことと言える。

 もし知識と未来視の能力を持つ存在の協力を得られるなら、強力極まりない力を手にできるだろう。

 健人は、ドラゴンボーンの持つ常軌を逸した成長力を知っている。

 ミラークがもし生きているとしたら、彼は竜戦争から数千年もの間、力を蓄えていたことになる。

 その力は今、いったいどれほどの領域に達しているのか、想像もできない。

 健人は改めて、ミラークとその背後にいるであろう存在の強大さを自覚し、息を呑む。

 とはいえ、ここまで来た以上、引き返すことはできない。

 健人は意を決して、先を目指す。

 そしてついに健人達は、聖堂の最奥に到達した。

 

「なんだ、この気味の悪い部屋は」

 

「この部屋、闇の魔法が働いている、注意して」

 

 最奥の部屋は、一言で言って“異様”としか表現できない部屋だった。

 全体としては古代ノルドの様式がところどころ残っているが、内壁にはアーチ状のレリーフが刻まれ、部屋の中央の床には円形の祭壇が設けられている。

 祭壇には木根が網目状に張った床が張られ、祭壇の下が透けて見えており、眼下にはまるで底なし沼のような空間が広がっている。

 そして、その祭壇の上には、ここに来るまで目にしてきたハルメアス・モラの眷族を思わせる像が彫刻された台があり、台上にはこの部屋で一番“異質”といえる、真っ黒な本が置かれていた。

 

「この黒い本は一体……」

 

「奇妙な本ね。これが探しているものかも……」

 

 まるで漆を塗ったような黒い背表紙の本は、健人にはまるで瘴気を思わせる黒い霧を放っているように見えた。

 緊張で体を強張らせつつも、健人はゆっくりと祭壇に上がり、その黒い本の前に立った。

 すると突然、風もないのに、その本の背表紙が開かれた。

 書かれていたタイトルは“白日夢”。

 バラララ! と、すごい速度でめくられるページに、健人は思わず後ずさる。

 

「い、いったい何が……うわ!?」

 

「ケント!?」

 

 続けて出現したのは、醜悪な濃緑色の触手。

 黒い本から飛び出した触手は健人の体に巻き付くと、健人が抵抗する間もなく、彼の意識を暗い深淵へと連れ去っていった。

 

 

 

 

 

 朦朧とする意識と視界の中で、健人は耳に響く奇妙な声を感じた。

 

「間もなく時が訪れる……」

 

 それはまるで、待ち焦がれた故郷を前にした旅人のような、哀愁と郷愁、そして切望を込めたような声。

 徐々にはっきりとしてくる健人の視界と共に、声の主の姿や周囲の状況が、徐々にはっきりとしてくる。

 空は気味の悪い緑色の雲に覆われ、雲の隙間から巨大な触手が顔を覗かせている。

 周囲の建物や床はまるで木の根を出鱈目に編んだようなものであり、建材の所々に泥で固められた本が埋め込まれている。

 そして健人の目の前には、金の肩飾りや刺繍が編み込まれたローブやブーツを身に着けた男性の背中が映っていた。

 ローブの男性の両隣には襤褸を纏った異形が浮いており、さらに奥には濃紺色のドラゴンが控えている。

 

「ん? 誰だ!」

 

「がっ!」

 

 背後の健人に気が付いたのか、ローブの男性が振り向き、紫電を放ってくる。

 叩きつけられた雷による激痛が健人を襲い、彼に膝をつかせる。

 

「ここに入り込むとは、何者だ」

 

 雷を放ったローブの男性が、侵入者である健人を睥睨しながら近づいてくる。

 その男は、海の怪異を思わせる奇怪な仮面をかぶっており、素顔はまるで分らなかったが、その“声”には、抗いがたい重圧が込められていた。

 いや、どちらかというと、この男性は健人が突然現れたことに戸惑っているようにも聞こえた。健人が重圧を感じたのは、それだけこの男性の声が異質かつ強力であることの証だ。

 そして、そんな重圧を感じる“声”の持ち主について、健人は一人しか心当たりがなかった。

 

「お前が、ミラーク……ソルスセイム島を襲う異変の元凶なのか?」

 

 ミラーク。

 今このソルスセイムで起こっている異変の元凶であるドラゴンボーン。

その名を口にした瞬間、健人にはローブの男性が驚きでピクリと体を震わせたように見えた。

 

「そうだ、私こそがミラーク。この世界で最初の、そして最も強大なドラゴンボーンだ」

 

 そして、奇怪な仮面の男は、己がこの島の人々を操っている元凶であると名乗った。

 突然相対した元凶の姿に、健人は思わずゴクリと唾を飲んだ。

 一方、地に伏した健人を見下ろすミラークは、健人を眺めながら何か考え込むように口元に手を当てている。

 やがて得心が言ったというように上げていた手を下すと、健人に向かって信じがたい言葉を口にした。

 

「お前は……ああ、“ドラゴンボーン”だな。感じるぞ」

 

「な、に? 一体、何を言って……」

 

 ドラゴンボーン。それはリータやこの仮面男の存在を示す名前だ。

 竜神アカトシュの加護を受けた、時代の担い手たる存在。

 常軌を逸した能力と成長を見せる、この世界の特異点だ。

 当然、この世界とは本来関りのない人間である健人には当てはまるはずもない。

 世界最初のドラゴンボーンに“お前はドラゴンボーンだ”と言われた健人の頭は、混乱の坩堝に叩き落とされる。

 そんな健人の混乱をよそに、ミラークは新たに現れたドラゴンボーンを品定めするように眺めると、やがてつまらないというように、息を吐いた。

 

「だが……生まれたばかりの赤子ではないか」

 

 健人を取るに足らない存在と断じたミラーク。

 その声色には、無力な同族を嘲る色があからさまに含まれている。

 ドラゴンボーンとは、竜の魂をその身に宿す人間。スゥームという真言を操る人型のドラゴンだ。

 そしてドラゴンにとって強さとは、スゥームの強さと同じであり、当然、今の健人には全く使えない力である。

 世界最初のドラゴンボーンとして、この世界で最も長くスゥームと触れてきたミラークから見れば、シャウトを一言も扱えない健人の姿は、まさしく言葉を話せない新生児と同じだったのである。

 

「ドラゴンボーンの真の力など、お前には分かるまい」

 

「お前、何で、ソルスセイムの人達を操って……」

 

「何故それをお前ごときにいう必要がある? それに力なき者が我のために奉仕するのだ。むしろ、喜ばしく思ってほしいくらいだ」

 

 力があるものこそが、全てを支配する。

 ドラゴンらしい言葉だが、それをドラゴンボーンが口にすることに、健人は納得と違和感が同居する、奇妙な感覚を覚えていた。

 しかし、その奇妙な感覚も、すぐに怒りに塗りつぶされた。

 力による支配を容認するその姿に、この世界で理不尽な目に遭い続けた健人の記憶を呼び起こす。

 アルドゥインによって惨殺されたティグナ夫妻。

 ミルムルニルによって焼き殺されたハドバル。

 静かに暮らしていたモーサルを力で支配しようとしたモヴァルス。

 己の傲慢を他種族に押し付けるサルモール。

 そして、自分のリータ(家族)に殺されたヌエヴギルドラール(友達)。

 今までこの世界に迷い込んできてから、目にしてきた悲劇と憤りを思い出し、健人の腹の底から、マグマのような怒りがこみ上げる。

 怒りは圧し掛かるミラークの無言の重圧を一時的に跳ねのけ、当惑に揺れていた瞳に光が戻り、崩れ落ちた彼の体に一時的な活力を呼び戻す。

 だがその健人の怒気も、眼前に佇む伝説のドラゴンボーンの前では、そよ風のようなものだった。

 

“ムゥル、クァ、ディヴ!”

 

 ミラークが、力の言葉を叫ぶ。

 放たれた強力な声と共に、全身に圧し掛かっていた重圧感が、一気に増す。

 スゥームによって隆起したミラークのドラゴンソウルは、虹色の光麟となって彼の体を包み込み、光り輝く鎧を形成する。

 それは、ミラークが有するドラゴンソウルの力そのものが現出した光景だった。

 ドラゴンアスペクト。

 自らのドラゴンソウルを隆起させ、己の能力を劇的に高めるスゥーム。

 溢れ出たドラゴンソウルが心理的だけでなく物理的な圧力となって、健人を押しつぶす。

 

「ぐ……がっ、は……」

 

 まるで、アルドゥインと間近で相対したような圧力を前に、健人は息をすることすら出来なくなり、その場で体を震わせることしかできなくなる。

 

「お前など、何の障害にもならん。所詮無力な赤子でしかない。だが、見逃す理由もない。始末しろ」

 

 ミラークの指示に反応したのか、彼の両隣に控えていた襤褸を纏った異形が、前に出てくる。

 襤褸を纏った異形は四本の腕とタコを思わせる容貌を持ち、己の主の指示を忠実に実行した。

 

「ぐっ、ああああああああああ!」

 

 力の波動が立て続けに健人の体を襲い、その命を奪わんとしてくる。

 健人の悲鳴が、アポクリファに響く。

 叩き付けられる衝撃に激痛が走り、キチンの鎧がメリメリと異音を上げ、装甲となっていた殻が剥げていく。

 ミラークは己の配下が侵入者を排除し始めたのを確かめると、これ以上用はないというように、控えていたドラゴンの背に乗り、その場を飛び去って行った。

 健人は去っていくミラークを睨みつけながらも、やがてその視界は全身に走る痛みを前に真っ白に漂白されていった。

 健人も意識だけは失うまいと唇を食い破るほど必死に噛み締めながら抗うが、彼には抵抗する力は既に残されていなかった。

ここで死ぬのか。

 白く染まった視界がやがて暗黒に飲まれていく中、そんな言葉が健人の脳裏に浮かぶ。

 やがて意識そのものが闇に飲まれていく。

そしてついに、意識の尾が立たれるその瞬間、聞いたこともない耳障りな声が健人の脳裏に響いてくる。

 

“フフフ、力を求める者が、また一人、わが領域に足を踏み入れたか。歓迎するぞ、異界のドラゴンボーン……”

 

 誰とも知らない、しかし、忘れることのできない声を聴きながら、健人の意識は今度こそ闇の中へと落ちていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その存在は遥かな高空。ムンダスと呼ばれる宇宙を超えた先から、その星を眺めていた。

 ニルン。彼らが不死を対価に作り上げた、小さな箱庭。

 箱庭の中では、彼らが生み出した子供達が、時に戦い、時に愛を育み、時に憎しみの果てに無益に死をまき散らしながら果てていく。

 その全てが、彼には楽しく、悲しく、喜ばしく、そして愛おしかった。

 だが、楽しんでばかりいるわけにもいかない。

 彼は自らが司る理から、再び、愛しい大地に視線を向け続ける。

 彼が最初に生み出した子供たちは、随分と数を減らしたが、今まさに、滅ぶかどうかの瀬戸際に来ていた。

 彼が作り上げた、最高傑作の帰還。

 ある目的のために彼が最初に作り上げたその子供は、死した他の子供達を蘇らせ、英雄達の魂を食らいながら、再び己の権勢を取り戻そうとしている。

 そして、彼自身が祝福を与えた定命の者もまた、己の運命と試練に立ち向かいながら、来るべき決戦の時の為にその“声”を磨いている。

 そんな中、彼は今また一つ、自らの子の命が尽きるのを感じた。

 元々弱々しいが、同時に自分の力をある意味最も色濃く受け継いだ息子。

 決して何も語らず、誰とも向き合うことがなかった可哀そうな子供。その傍には、彼自身も見たことがない小さな穴が存在していた。

 我が子の傍にいた小さな穴の正体は、異質な小人。

 本来干渉する必要すらなく、自然に消え去り、修復されるはずの穴だ。

 だが、愛しい子供が最後に願った。

 この小さな友人に祝福を……と。

 その願いを受けて、大いなる父は、ほんの僅かな祝福を、我が子の生涯の友人となったその小人に与えた。

 それは、彼が時代の変わり目に与えてきた祝福と比べても、小さな、小さな恩恵でしかない。

 小さな種火は例え芽吹いたとしても、その小人に分相応の小さな幸せを運ぶ機会を与える程度のものでしかなかった。

 だがそれは、間違いなく竜神の祝福。そしてその小人は、この世界の理では存在しえない異質な魂だった。

 異質な魂に埋め込まれた小さな祝福は、無力感に苛まれる小人の叫びを糧に、竜神すら見通せない穴の奥で異質な変化を遂げ、今まさに真の意味で、このタムリエルに生れ落ちようとしていた。

 

 

 




というわけで、本小説最大の転換点の一つです。
正直に申しまして、このお話のミラークのセリフを書きたいがために3章くらい書いてきたようなものです。
同時に、投稿予定の分もここまで。書き溜めたらまた投稿しますので、お待ちください。
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