【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
サエリングズ・ウォッチで一時の休息を取った健人とフリアは、その足で風の岩へと向かった。
風の岩はスコール村の西、雪と岩に囲まれた、なだらかな丘陵に存在している。
健人たちが風の岩に到着すると、そこにはレイブン・ロックで大地の岩周辺で建てられていた祠と同じものが造られている最中だった。
「ここは彼の祠……」
「すべては失われてしまったが……」
特徴的なスコールの防寒具を着込んだ村人たちが、祠の周囲で一心不乱に槌を振り下ろし、ミラーク復活の要を造り続けている
その光景は、レイブン・ロックで見た光景と同じもの。
家族同然の仲間たちが操られている姿を見つめながら、フリアは辛そうな表情を浮かべる。
健人にはその瞳が、うっすらと潤んでいるようにも見えた。
「みんな……。健人、お願い」
「ああ」
フリアの願いを受けて、健人は祠と向き合う。
大きく深呼吸をして、己の内にある魂に語り掛ける。
取り込んだドラゴンソウルは、今でも健人の胸の奥で胎動している。
必要な言葉はサエリングズ・ウォッチで手に入れた。学んだ言葉の意味も理解した。
ならば、出来るだろうという確信が健人にはあった。
健人は、胎動するドラゴンソウルの更なる内側に意識を向け、学んだスゥームを引き出そうと試みる。
“従え、服従しろ……”
「っ!?」
次の瞬間、健人は強烈な“従わせたい”という、強迫観念にも似た欲求が胸の奥から湧き上がるのを感じた。
スゥームを使うということは同時に、そのスゥームに宿る概念を己の内に取り込むということ。
健人が感じたのは、服従のシャウトを作り上げたミラークの情念。
強力な“服従”の概念を持つ言葉は、圧倒的な全能感と麻薬のような陶酔感をもって、健人を飲み込もうとしてくる。
ギリッと、奥歯をかみしめながら、健人は逆に、自ら湧き立つ強迫観念を飲み込む。
彼の内で胎動するドラゴンソウルが教えていた。
拒絶してはいけない。概念も含めた言葉の意味を全て飲み込まなければ、声を発したとしても意味はないと。
(大事なのは、何を従えようとするか……)
健人が従え、打ち消したいのは、この岩を汚す力そのもの。決して、この場にいる囚われた人達ではない。
成すべき事は、無理やり意思を奪い取り、無実の人達を奴隷とするこの鎖を断ち切ることだと心を震わせ、強い意志で“服従のシャウト”を逆に従わせる。
そして、震える心が示すままに、言葉によって導かれる未来を脳裏に描き、声という形をもって外界に解き放った。
「ゴル!」
健人がシャウトを放つ。
世界が震え、放たれた光が風の岩に吸い込まれていく。
健人が放った服従のシャウトは、岩を汚染していたミラークの服従のシャウトを包み込む。
続いて、地鳴りのような音が響き、風の岩を囲んでいた祠の表面に無数のひびが入ったかと思うと、突然爆発した。
「うわ!」
「なに!?」
突然の爆発に、思わず驚きの声を上げる健人とフリア。
衝撃で四散した建材は、瞬く間に霧となってい消えていく。
続けて、ミラークのシャウトで操られていた人達が、糸の切れた人形のように、その動きを止めた。
そして、ロボットのような生気のない瞳に意志の光が宿り、当惑した表情で辺りを見回し始める。
「あ、あれ? 私達は一体……」
「みんな、よかった!」
自意識を取り戻した村人達。
フリアは感極まった表情で駆け寄ると、一人一人の頬に手を当てて、覗きこむように様子を確かめて回る。
興奮しているのか、その手つきは少し荒々しかった。
操られていた人達は自分たちの置かれた状況に当惑してはいるものの、皆一様に怪我などをしている様子も、体調を崩しているようにも見えない。
一人の村の仲間の無事を確認する度に、フリアの顔に安堵の笑みが浮かび、感極まった様子で村人達を抱きしめている。
そんな彼女の様子を眺めながら、健人は言いようのない達成感を感じていた。
「バルドール、大丈夫?」
村人達の様子を確かめて回っていたフリアが最後に声をかけたのは、立派な髭を蓄えた壮年の男性。
バルドールと呼ばれた男性はフリアの問いかけに頷くと、彼女の後ろに控えている健人に視線を向けた。
「ああ、大丈夫だが……。フリア、一体何が起こっているんだ? それに、その男は誰だ?」
「彼は私の友人で、協力してくれる仲間よ。詳しいことは父のストルンが話すけど、貴方たちは操られていたの。古代のドラゴンボーン、ミラークによって」
「ミラーク? 名前は聞いたことはあるが、本当なのか?」
バルドールの言葉に頷くと、フリアはこれまでの状況を操られていた村人たちに説明し始めた。
古代のドラゴンボーン、ミラークが、復活の為にソルスセイムの岩をその声の力で穢し、人々を操っている事。その裏にいるであろう、知恵の悪魔、ハルマモラの事。
事情を聞かされたバルドールを初めとした村人たちは、皆一様に深刻な表情を浮かべている。
「そうか、俺達に何が起こっていたのかはっきりしたよ。
どうも最近おかしいと思っていたんだ。眠っている間、誰かの声が聞こえているような気がしていた。
朝起きたら体が異常に疲れていることもあったし……そういう事だったんだな」
得心が行ったというように、バルドールは額に手を当てて天を仰ぐ。
彼自身、操られていた間の記憶はないが、祠で作業をした際の疲労など、体に違和感はあったらしい。
自分達の身に起こっていた出来事を聞かされたバルドールたちだが、チラリとフリアの後ろにいる健人に視線を向けると、皆頷いて、ゾロゾロと健人の周りに集まり始めた。
「え、ええっと、何ですか?」
突然周りを囲まれたことで、健人は驚きと戸惑いの表情を浮かべる。
周りを囲んでいたスコールの民達の中から、バルドールが健人の前に一歩踏み出すと、その厳つい表情に更なる真剣味を漂わせながら、口を開いた。
「ありがとう、異邦の旅人よ。君のおかげで、私達は悪魔の呪縛から逃れることが出来た。本当に、ありがとう……」
「……え?」
バルドールの口から出た言葉は、健人に対する感謝の言葉。
嘘や偽りどころか、回りくどい遠回りな言い回しなど一切入らない、直球のお礼である。
健人の人生で、これほどまでに真っ直ぐな礼を言われたことなど、ほとんどない。
厳しい雪原で生きる民として、常に死を身近に感じ取ってきたからこそ言える、本当の意味での“感謝の言葉”だった。
「い、いえ。その……」
一方、礼を言われた健人は、自分の周りを囲むスコールの民たちから向けられるお礼の言葉に、しどろもどろと言った様子を見せている。
モーサルでの吸血鬼騒動を収めた時もそうだが、やはり彼自身、このような状況には慣れないらしい。
しかし、彼が浮かべている戸惑いの表情の中には、どこか喜びを覗わせる色があった。
人情味の薄い日本の現代生活に慣れているからこそ、健人には彼らのストレートな言葉は不慣れであり、同時に何よりも心の芯に響くのだ。
「俺はスコールの鍛冶師のバルドール・アイアンシェイパーだ。何か力になれることはあるか?」
健人の前に出ていたバルドールが、何か助力が出来る事はないかと健人に尋ねる。
バルドールが鍛冶師と聞いた健人は、自分の身に着けていた鎧などに目を落とした。
アポクリファで異形に受けた魔法で損壊したキチンの鎧だが、先のドラゴンとの戦闘でこれまた酷い有様になっている。
仮止めしていた布地や装甲は剥がれ、左手の小手はボロボロ。
盾に至っては噛み砕かれたせいで、完全なスクラップだ。
早急に、代わりの防具を用意する必要がある。
「壊れた装具なんかを直していただければ……あ、あとそれから」
健人は腰に差していた、折れたブレイズソードを取り外し、バルドールに差し出した。
ドラゴンの眼孔に打ち込んだ刀身を含めて、折れた剣はサエリングズ・ウォッチを離れる際に回収していたのだ。
「この剣、直りますか?」
バルドールは差し出されたブレイズソードを鞘から抜き、日の光に当てて刀身を確かめはじめる。
鍔元から剣の中ほどまでの剣身の腹を、凄みを効かせた瞳で確かめると、刃を返して反対の刀身を確かめる。
さらに鞘の中に差し込んでいた折れた切っ先を取り出し、轢断した個所を確かめると、二つの剣身を合わせて、歪みを確かめるように鍔元から覗きこむ。
「なんだ、ずいぶんと珍しい剣だな。だが、使われている技術は相当高度だ。この剣はなんだ?」
「ブレイズソードという剣です。直せそうですか?」
健人の質問に、バルドールは難しそうに口元を歪める。
一拍置いて息を吐きだすと、バルドールは抜いていたブレイズソードを鞘に戻した。
「無理だな。完全に芯から折れてしまっている。それに見えづらいが、刀身にも無数の傷がある。直すのは不可能だろう」
「そうですか……ドラゴンに潰されたから、無理もないか」
健人自身も予想はしていたが、やはり修理は無理のようだった。
しかし、実際に直せないという言葉を聞くと、落胆の声が漏れてしまう。
「ドラゴン?」
「ええ、サエリングス・ウォッチで遭遇したわ。ケントが倒したけど」
「ドラゴンを倒したのか!?」
バルドールの瞳が、驚きで見開かれる。
周りのスコールの村人達も、ドラゴンを倒したというフリアの話に、皆一様に当惑している様子だった。
「ええ、彼はミラークと同じドラゴンボーン。その魂を喰らい、声の力を行使できる人間よ」
「まさか……いや、風の岩を浄化できたのなら、当然か……」
健人は、自分がミラークと同じドラゴンボーンであると知ったスコール村の人達の反応が気になった。
自分達を操った人物と同じ存在であることが知られたのだ。もしかしたら手の平を返される可能性もある。
「大丈夫だ、異邦の旅人よ。君は私達を助けてくれた恩人だ。私達を操った、あのミラークとは違う」
しかし、そんな健人の心配を察したのか、バルドールが健人の肩を叩いて、人懐っこい笑みを浮かべた。
よく見ると、他の村人達からも、悪意は感じられない。
健人は己の心配が杞憂であった事に、ほっと胸を撫で下ろした。
「今使っているのは、そっちの剣か?」
バルドールの視線が、健人の腰に差してあるもう一つの剣に注がれた。
「え、ええ。予備の武器ですが……」
健人は黒檀の片手剣もベルトから外し、バルドールに見せた。
バルドールは先ほどと同じように剣を鞘から抜くと、再び矯めつ眇めつするように、その刃を確かめる。
「ふむ、黒檀の片手剣か。いい武器だが、少々お前さんには合わないな」
「分かりますか?」
「こう見えて鍛冶師だ。この折れた剣を見れば、どんな奴がどんな風に使っていたかすぐに分かる」
しばらく黒檀の片手剣を見つめていたバルドールだが、やがて剣を鞘に戻して健人に返す。
健人は受け取った剣を腰のベルトに戻しつつも、悩ましげな表情を浮かべている。
彼がこのタムリエルで身に付けた技量を十分発揮するには、やはりブレイズソードが必要だ。
剣の振り方、体の動かし方などは、その基盤にブレイズであるデルフィン仕込みの闘術がある。
戦士として、一皮も二皮も剥けている今の健人なら、普通の直剣でもそれなりに戦えるだろうし、体力吸収が付呪された黒檀の片手剣という希少な剣が手元にある。
だが、それでも健人としては、自身が十全に扱える得物が欲しかった。
「この折れた剣だが、直す事は出来ないが作り方は大方予想できる。折れた剣と同じ新しい剣を作ることはできるだろう。時間はかかるだろうが、君に相応しい武器を私が必ず作ろう」
「本当ですか!?」
「ああ」
そんな健人の不安を察していたのか、バルドールがブレイズソードを作ることを約束してきた。
ブレイズソードはブレイズだけが使用している剣なだけに、もう手に入らないと思っていた健人の喜びも一入だった。
「ありがとうございます!」
「礼は要らない。助けてくれた礼だ。スコールに味方してくれた友のために、俺も全力で槌を振ろう」
そう言ってバルドールが差し出してきた手を、健人はしっかりと握りしめた。
健人と固い握手を交わしたバルドールは、改めて健人の折れたブレイズソードを預かると、解放された村人たちを引き連れてスコール村へと戻って行った。
健人とフリアはもう少し、この風の岩を調べる予定だ。
ミラークの力が残っている可能性を危惧しての事だ。
風の岩の安全を確認した後、健人とフリアは一度ストルンの元に戻り、事情を説明した後、残りの岩を浄化するつもりだ。
「剣、よかったわね」
去っていくバルドール達を見送りながら、フリアが徐に声を掛けた。
彼女の言葉に、健人は小さく頷く。
「ああ。もう手に入らないと思っていたから、嬉しかったよ。それに……」
フリアがチラリと横目で健人の顔を覗き見ると、彼の瞳から、一筋の涙が零れ落ちていた。
「ケント……。どうしたの?」
「ごめん、少し感極まった」
健人は溢れた涙を親指で拭い、再び自分たちが助けた村人達の背中に視線を向ける。
まるで救われたのは自分であるかのような光を宿した健人の瞳に、フリアは思わず目を奪われた。
「俺はリータに……家族に要らないと言われて、飛び出して、この島に来たんだ」
去っていく村人達の姿を眺めながら、健人は滔々と、このソルスセイム島に来ることになった事情を話し始めた。
「俺はさ、家族がいなかった。いや、父親はいたけど、ほとんど会えないような生活だった。その父親とも会えなくなった俺を、リータ達は受け入れてくれた」
寄る辺を無くした自分を受け入れてくれたティグナ夫妻。
自分を家族同然に扱ってくれたリータ。
ヘルゲンでの平和な生活の中でできた、小さな幸せの中で、少ないながらも友人も出来た。
その恩人達をドラゴンの王であるアルドゥインに殺され、彼らの忘れ形見を守りたくて、強くなろうとした。
「俺を助けてくれた人達に何かしたくて、力になりたくて、彼女が死ぬ姿を見たくなくて、必死に頑張って……」
強くなりたくて、旅の途中で出会ったデルフィンに弟子入りし、死んでもおかしくない鍛錬と実戦を潜り抜けた。
強くなっていく自分を実感しつつも、張り詰めた糸のように摩耗していく自分自身を感じていたが、それでもやめようとは考えなかった。
それは偏に、残った唯一の家族を守りたいがためだった。
ヘルゲンから逃げる羽目になってからの道のりは険しく、いつ死んでもおかしくはなかったが、自らの寄る辺が何もないこの世界で、少しずつ、居場所ができ始めてもいた。
「そんな時に、あの友達に出会った……」
ヌエヴギルドラール。
ドラゴンのくせにドラゴンらしからぬ友人を思い出し、健人の涙腺が再び緩む。
「出会った友達はドラゴンで、でも、全然ドラゴンらしくなくて。カジートの友達みたいにバカ騒ぎして……」
ドラゴンが友達だったという言葉に、フリアは目を見開く。
スコールの民である彼女としても、ドラゴンと友人になるような人間がいたという話は聞いたことはない。
大抵は、竜戦争以前のドラゴン統治時代のようにドラゴンに従わされるか、かのタイバー・セプティムやミラークのようにドラゴンを従えるかのどちらかだ。
友人という対等な関係を結ぶ人間など、聞いたことはなかった。
そんなフリアの驚きをよそに、健人は言葉を続ける。
「そんな友達を、ドラゴンボーンになったリータは殺した。俺も、友達が殺されるのを、見ている事しかできなかった。だから、バルドールさん達を助けることができて、本当に良かった……」
自分達の家へと帰って行くスコール村の人たちを眺めながら、健人は笑顔を浮かべながらそう呟いた。
ずっと胸の奥で燻り、身を焼いていた無力感と虚無感。それがようやく、癒えたような気がしたのだ。
そんな彼を横目で眺めながら、フリアはどうして自分がこんなに彼を信頼しているのか理解した。
友人とはいえ、ドラゴンが殺されたことすら涙を流す健人。彼は他者の判断に、種族や属する集団を見ていない。
唯々、その人となりを見ている。
人によっては甘い、世間知らずと看做されるような気質だが、過去の因果が複雑に絡み合っているこの世界では、あまりにも異端で……そして、同時に眩しいもの。
スコールとして、ノルドやダンマー達よりもさらに閉鎖的な生活をして、自らの属する集団の因果を知るからこそ、その眩しさはフリアの胸を打った。
「ごめん、少し情けないところを……どうかしたの?」
「……え?」
話し終えた健人に声を掛けられ、フリアはようやく自分が健人の顔に見惚れていることに気づいた。
キョトンとした無警戒な瞳が、フリアを見つめてくる。
フリアは急激に、自分の顔が熱くなっていくのを感じた。
「なんだか、少し顔が紅い気が……」
「……気にしないで、冷たい風に当てられたのよ。それより、風の岩を調べましょう」
「え? あ、ああ」
顔の熱を誤魔化すように踵を返し、風の岩へと足早に向かうフリア。
後からついてくる健人の足音に気恥ずかしさと頼もしさを感じながら、風の岩を確かめる。
幸いな事に、風の岩を汚染していた力は綺麗に浄化されていたが、調べている最中、フリアは健人に顔を向けることが出来なかった。
というわけで、風の岩の浄化完了。
本来、ゲーム上で出てくるはずのルーカーは省略。いきなり出すより、もう少し筋道を立てて出そうと思った次第です。