【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第三話 解放されたレイブン・ロック

 大地の岩を解放し、ミラークが配置した番人を倒した健人とフリアは、この街の代表であるレリル・モーヴァインの家に招かれた。

 謁見の部屋では、一番奥の中央の椅子にこの街の代表であるモーヴァイン議員が座り、その両隣を腹心であるエイドリルと彼の奥方であるとシンディリ・アラーノが固めている。

 彼の自宅は街の代表が住むにはこじんまりとしたもので、レイブン・ロックの逼迫した経済状態を表しているようだった。

 しかし、健人とフリアを出迎えたモーヴァイン議員は、そんな厳しいレイブン・ロックの状態をおくびにも出さず、静かに微笑んで街の恩人たちを出迎えた。

 

「そんな事態になっていたとはな。レイブン・ロックを代表して、感謝の意を示そう」

 

「いえ、お礼を言われることではありません」

 

「スコールとしても、今のソルスセイムを覆う事態を放置することはできませんでしたから……」

 

 ひとしきり自己紹介と挨拶を済ませた健人とフリアは、レリル・モーヴァインに単刀直入に質問をぶつけてみた。

 聞くことは当然、ミラークに関連した事柄である。

 

「お聞きしたいのですが、ミラーク、もしくはハルメアス・モラや黒の書について、何か知っていることはありませんか?」

 

「いや、私もそれらについては詳しくはない。我らダンマーも、ハルメアス・モラと関わろうとする者は少ないだろう」

 

「そうですか……」

 

 ダンマーはデイドラ信仰で知られている種族だが、全てのダンマーが全てのデイドラを信仰の対象としているわけではない。

 特にレドラン家は武家としての側面が強い為、知識のデイドラであるハルメアス・モラは信仰の対象にはなりづらいようだ。

 同時に、今ソルスセイムを覆っている危機についても、新しい情報は持っていない様子だった。

 そもそもつい先ほどまで操られていたのだから、新しい情報を持っている可能性は元々少なかった。

 

「だが、テルミスリンにいるネロスなら、何か知っているかもしれない。彼はダンマーの大家の中でも、最も知識欲の強いテルヴァンニ家に属している。おそらく何か手がかりが知っているだろう」

 

「ありがとうございます。やっぱり、テルミスリンに行くしかないですね……」

 

「確かにマスターネロスは人格には問題があるが、彼はダンマーの中でも随一の魔法使いであることは本当だ。少なくとも魔法の腕について、自らを呼称する彼の言葉に偽りはない」

 

 結局、ダンマー達の意見も、テルミスリンのネロスに助力を仰ぐのが一番だということだった。

 健人はこの街で出会った偏屈なダンマーの老人を思い出し、大きくため息を漏らした。

 何かと人の神経を逆なでる人物だっただけに、健人としてもできるなら会いたくない人物だ。

 しかし、この街を治め、ダンマーが誇る大家の一員であるレリル・モーヴァインの言葉が、ネロスの魔法の腕や知識は保証できると断言している上、今の健人達は少しでも情報や活路が欲しい。

 ならば、答えは決まっていた。

 

「それで、君たちはこれからどうするのだ?」

 

「とりあえず、まずは残った岩の解放ね。その後にテルミスリンかしら?」

 

「ええ、とにかくミラークの力について、もっと調べていこうと思います」

 

「そうか、分かった。少し待ちたまえ、渡すものがある」

 

 ミラークの情報を知るために、テリミスリンに赴く。

 そう断言した健人とフリアにレリルは頷くと、出ていこうとする彼らを止め、おもむろに取り出した羊皮紙に何かを書き込み始めた。

 羊皮紙に何かを書き込み終わると、彼は蜜蝋を入れた容器を取り出し、傍にあったロウソクで温め始める。

やがて温められた蜜蝋がドロドロに溶けたのを確認すると、羊皮紙に蜜蝋を数滴落とし、指に嵌めていた指輪を外して蜜蝋に押し付け、印を押した羊皮紙を健人に差し出してきた。

 

「これは?」

 

「今日、君達が成した事を証明するための書だ。大地の岩で起こった仔細と、君たちの功績、そして私の家紋が押してある。ネロスは疑り深いし偏屈な男だが、レドラン家の一員である私の家紋を無視することはできないだろう。彼の助力を得る一助になると思う」

 

 レリル・モーヴァインは、このレイブン・ロック、ひいてはソルスセイムを治めるダンマーの領主だ。

 その家紋を使って印を押したということは、この街の領主、ひいてはレドラン家が、健人とフリアの功績を認め、ネロスに協力するように正式に要請したということだ。

 これはネロスの協力を得る上で、間違いなく大きな一手となる。

 健人は差し出された羊皮紙を恭しく受け取ると、丁寧に懐に収めた。

 

「あ、ありがとうございます。それでは、失礼します」

 

 受け取る際に声が少し上ずってしまっていたが、とりあえずこれで、健人達の目的はまた一つ前進した。

 健人はレリルに一礼すると、静かにモーヴァイン家の邸宅を後にする。

 扉の向こうへと消えていった健人を見送ったレリルは口元に笑みを浮かべると。隣でずっと謁見の様子を見守っていた腹心に目を向けた。

 

「彼が、君が言っていた異邦人かい、エイドリル」

 

「はい」

 

 レリルは健人について、エイドリルからある程度の報告は受けていた。

 とはいっても、健人の報告をレリルが受けたのは少し前、健人がレイブン・ロックを初めて訪れたころの話で、その時はこの街の恩人としてではなく、一介の異邦人という形での報告だった。

 当然ながら、健人がこの街で巻き込まれた騒動や事の顛末、ヴェレス隊長の健人に対する印象なども、聞いている。

 

「なるほど、良い人物のようだ。自らの功績を誇らず、我らダンマーに貸しを作ったにも関わらず礼を忘れない人物など、珍しい」

 

 初めて健人と相対したレリルの印象は、かなりの好印象だった。

 ダンマーはデイドラを信仰するが故に、九大神を信仰する他種族からは蔑視される傾向が強い。

 また、先のオブリビオンの動乱を起こしたのがデイドラだけに、一時期デイドラや魔法に関する事柄は忌避されていたこともある。

 その悪感情は当然、ダンマーにも向けられた。

 レリルもそんな自分たちの種族の業は理解していたために、恩が出来たことをいいことに高圧的な態度を取られる可能性も考慮していた。

しかし、肝心の健人の言葉は、決してダンマーをなじるようなものはなく、協力を受けられたことを喜ぶ色しかなかった。

寂れた鉱山の街を統べる領主としては、珍しく謀を警戒する必要のない対話だった。

 

「そうですね。歓迎すべき稀人かと……」

 

「エイドリルが手放しで褒めるのも珍しいな」

 

「ふふ、いつも眉間をこんな風にしていますものね」

 

 レリルの隣に控えていたエイドリルの妻であるシンディリ・アラーノが、可笑しそうに自分の指で眉を吊り上げて夫の真似をした。

そんな彼女の隣では、主であるレリル・モーヴァインが、面白そうに含み笑いを押し殺している。

 そんな妻と主を見て、エイドリルは深々と溜息を漏らした。

 

「レリル、シンディリ、揶揄わないでほしい」

 

「分かっているよ」

 

「ごめんなさい、あなた。とても珍しいものが見れたから、つい……」

 

 ミラークの影響から解放されたとはいえ、枯渇した鉱山の街、レイブン・ロックの問題は山積みだ。

 難事は絶えることがなく、経済的にも心理的にも苦しい毎日だった。

 しかし、常に苦しいばかりでもない。

 ほんの一時の安らぎ。それだけで人はまた立ち上がれる。

 小さな領主の家の中に、久方ぶりに安堵に身をゆだねた三人の笑い声が響いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 モーヴァイン邸から出た健人達を出迎えたのは、この街の宿屋、レッチング・ネッチ・コーナークラブの店主、ゲルディス・サドリだった。

 モーヴァイン邸の前で目的の人物を待っていたゲルディスは、健人の姿を確かめると、手を挙げて彼の名を呼んだ。

 健人もまた、ゲルディスの姿を確かめると、頬に笑みを浮かべる。

 

「よう、ケント」

 

「ゲルディスさん、大丈夫ですか?」

 

「ああ、おかげさんでな。なんだか頭もすっきりしたよ。世話になったな」

 

「いえ、気にしないでください。俺もゲルディスさんにはお世話になりましたから」

 

 健人はレイブン・ロックに来たばかりの頃、ゲルディスの店で部屋を取っていた。

 スカイリムからソルスセイムに逃げてきたばかりの時という事もあり、当時の健人は精神的に余裕がなかったが、このあけすけで遠慮のない宿屋の店主のおかげで随分と楽になった自覚があった。

 一方、ゲルディスは相変わらず下手に出てくる健人の態度に、思わず顔を綻ばせる。

 

「律儀だな。これからどうするんだ?」

 

「とりあえず、島にある他の岩を解放してから、テルミスリンに向かおうと思います。この事態を解決するのに、マスターネロスの協力が要るみたいですから」

 

「そうか、あのテルヴァンニ家のウィザードは色々と変な噂もあるし、気を付けろよ」

 

「ええ、肝に銘じます」

 

 ゲルディスもネロスについては良い話を聞いていないのだろう。

 その時、ゲルディスが何かを思い出したように手を叩いた。

 

「そうだ。そういえば、最近お前を尋ねてきた奴がいたんだけど、知り合いだったのか?」

 

「俺を訪ねてきた人?」

 

 訪問者の存在に、健人は怪訝な表情で首をかしげる。

 元々異世界人である健人に知り合いはほとんどいない。

 脳裏に浮かぶのはせいぜい、ソリチュードで振り切ってきた義理の姉の従者であるリディアくらいだ。

 

「ああ、確か名前は、カシト……とか言ったか?」

 

「……え!?」

 

 しかし、ゲルディスの口から出てきた名前は、健人が全く予想していない人物のものだった。

 カシト・ガルジット。

 かつてヘルゲンで一緒に働いた同僚であり、色々と世話を掛けさせられたカジートだ。

 彼はホワイトランがミルムルニルに襲われた後、帝国軍に合流するために健人と別れている。

 そんな彼が、なぜこの島にいるのだろうか? 

 健人の表情に大きな驚きと歓喜が浮かぶ。

 

「やっぱり、知り合いか?」

 

「ええ、ヘルゲンにいた時の友人です。でも、何でソルスセイムに……。それで、カシトは何所に?」

 

「さあな。健人の居場所を聞いて、帰ってきていないことを知ったら、大慌てで街から出ていったよ。行先については知らないな」

 

 健人は頭を抱えた。

 ソルスセイムは島ではあるが、その広さはスカイリムの一ホールドに並ぶほど大きい。

 簡単に人一人を見つけられるような狭い島ではないのだ。

 

「そう……ですか。分かりました。ありがとうございます」

 

「ああ、俺もあのカジートに会えたら、無事だって伝えとくよ」

 

 ゲルディスが伝言を申し出てくれたことに、健人は少しだけ安堵した。

 この街は、ソルスセイムの中でも最も大きな街だ。

 カシトが再び戻ってくることも、十分に考えられるし、その時に連絡が取れるなら願ってもいないことだ。

 

「よろしくお願いします。それじゃあ、俺はこれで……」

 

「休んでいかないのか? アンタなら、連れも含めてタダでいいぜ」

 

 踵を返して、街の外へ向かおうとする健人を、ゲルディスは思わず押し止めた。

 彼は今しがた、街の脅威を排除し、戦闘を終えたばかりだ。

 見たところ怪我などはないようだが、少しくらいは休憩をして行ったほうがいいと思ったのだ。

 しかし、健人はゲルディスの提案を丁寧に固辞する。

 

「いえ、すぐにでも他の岩を回りたいので、これで失礼します」

 

 そう言い切った健人の隣にいたフリアもまた頷いた。

 ゲルディスはそのしっかりとした健人の返答に、驚きに目を見開く。

 彼が見てきた健人は、すさまじい力量を持ちながらもどこか不安定で、それはさながら今にも消えそうな生霊を思わせた。

 しかし、今の健人にはまるで砂嵐をものともせずに進むシルトストライダーのような存在感がある。

 少し見ない間に、いったいこの少年に何があったのだろうか? とゲルディスは当惑に揺れる瞳で健人を見つめる。

 しかし、その表情もすぐに穏やかなものに変わる。

 

(多分、こっちが本物の此奴なんだろうな……)

 

「わかった。ちょっと待っていろ」

 

 健人にここで少し待つように言うと、ゲルディスは自分の店の中へと消えた。

 数分して店から出てきたゲルディスは大きな袋をもっており、その袋を無造作に健人に手渡す。

 

「これは?」

 

「店で使う食材や保存料、調味料だ。助けてもらったんだ。これくらいはさせてくれ」

 

 健人が袋の中身を多あしかめてみると、中にはアッシュヤムやニンジン、干し肉などが一杯に詰まっていた。

 二人なら、しばらくは食べていける量である。

 

「ゲルディスさん、ありがとうございます」

 

 健人が礼を言うと、ゲルディスは少し気恥しそうに頬を搔き、気にするなというように手を振る。

 

「気を付けてな。アンタにアズラの加護があらんことを……」

 

「ゲルディスさんも、気を付けて」

 

 ゲルディスにペコリと頭を下げた健人は、次の岩へと向かうためにレイブン・ロックの出入り口へと足を進めた。

 ブルワークの門をくぐったところで、フリアが徐に声をかけてくる。

 

「それで、ケントはどうするの? その友達、先に探す?」

 

「……いや、まずは岩を浄化しよう。カシトの事は気になるし、少し心配だけど、大丈夫だよ。あいつ、何だかんだで強いし」

 

 実際、カシトは強い。

 彼と共に戦ったのは、リバーウッドからホワイトランへ向かう道中で遭遇したオオカミくらいだが、彼はその時、帝国軍の精兵であるハドバルと同じくらいのオオカミを仕留めている。

 普段の気の抜けた態度からは想像もできないが、当時のリータやドルマよりも強者なのだ。

 しかし、カシトの力量を自覚しても、健人は自分の胸の奥に浮かぶ一抹の不安を拭い切れないのも事実だった

 そんな力量をすべて台無しにする騒動を引き起こすのも、カシトがカシトたる所以であるのも事実だったからだ。

 

「……多分」

 

「ちょっとケント……」

 

 そんな事を考えていたからだろうか。不安になった健人の胸中が、つい口から溢れてしまう。

 健人が漏らした言葉を聞いて、フリアがジト目で健人を睨み付けた。

 

「と、とにかく! 今はどうしようもないから、次の岩を目指そう!」

 

「……ええ、そうね」

 

 取って付けたように言いつくろう健人に、フリアがため息を押し殺したような顔を浮かべる。

 実際のところ、広大なソルスセイム島において、カシトの正確な居場所がわからない以上、探しようがないのは事実である。

 

(大丈夫……だよな?)

 

 今一度、己の内に問いかけながら、健人はレッドマウンテンから噴き出す灰に染まった空を見上げる。

 健人の目には空を覆う雲に“大丈夫!”と言うようにキラリと歯を輝かせてサムズアップする友人の姿が浮かんでいたが、過去の彼の所業に巻き込まれてきた健人としては、胸の奥の不安を加速させるものでしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここどこーーーーー!」

 

 健人がレイブン・ロックの街をミラークの力から解放している頃、カシトは島の北側にある氷の洞窟で迷子になっていた。

 健人を探してレイブン・ロックの町から飛び出したはいいものの、健人の手がかりなど何もないカシトがまっすぐにスコール村やミラーク関連の遺跡にたどり着けるはずもなかった。

 島の西側に沿って北上したカシトであったが、途中で吹雪に遭ったのが不運だった。

 彼はやむを得ず近くの洞窟に逃げ込むも、洞窟は意外と深く、奥へ奥へと行く内にすっかり迷ってしまっていたのだ。

 カジートは目がよく、暗闇でも周囲を見ることには事欠かないが、だからと言って洞窟で迷った状態ですぐに脱出できるかというと話が別である。

 何度も何度も行き止まりにぶち当たり続け、精神的にも肉体的にも疲労が蓄積している。

 そして今しがた、最も長い通路の先にあったのは、またまた行き止まり。

 今までで最も長い通路だっただけに外に出られると期待していたカシトは打ちひしがれ、その場に腰を落としてしまう。

 

「うう、寒いよう、お腹減ったよう、ケントに会いたいよう……」

 

 シクシクと目に涙を浮かべて地面に丸まりながら、弱音を吐く。

 人間大の猫が丸まっているような様は端から見ても少し異様で、同時に哀愁を湧き立たせるものだった。

 同時に、空っぽの腹が食べ物を催促して“グ~!”と抗議の声を上げた。

 あまりに空腹だったカシトはこの際何でもいいとばかりに、近くにあったものに手を伸ばす。

 

「ああ、ケントのハニークッキー……むぐ!? かひゃい……」

 

 かつて親友がくれた甘味を思い出しながら、適当に拾った物をかじるが、歯には無機質で硬質な感触が返ってくるのみ。

 この洞窟は氷で閉ざされているが、明らかに何者かの手が加えられており、中にはなぜか皿や壺など、一見よくわからないものであふれている。

 しかし、生憎とカシトが求める食料は見当たらない。

 カシトはさめざめと涙を流しながら、今しがた齧った物に目を向ける。

 

「……なに、これ。骨? 見た事ない形の頭蓋骨だけど、何だろ」

 

 それは奇怪な形の頭蓋骨だった。

 ヤギのような角があるが、額にはまるで石をはめ込むような窪みがついている。

 一体これは何かとカシトが矯めつ眇めつしていると、突然耳障りな大声が洞窟に響いた。

 

「ムワサスーー!」

 

「うわ、一体何!?」

 

 大声とともに現れたのは青い肌をした緑色の小人だった。

 小人は驚くカシトを見て、もう一度大声を張り上げる。

 

「ムワサスーー!」

 

「む、むわさす?」

 

 おそらく挨拶をしているのだろうと判断し、カシトはつたないながらも彼らの言葉をまねて挨拶をしてみる。

 その挨拶が通じたのか、5人の小人の中でひときわ大きな体躯の小人が前に出てきた。

 

「オマエ、ダレ、ダ?」

 

「オイラ? オイラはカシトだよ」

 

 彼は何かの毛皮で作った服をまとい、手には小ぶりの石槍を携えている。

 リークリング。

 ソルスセイム島に住む青い肌を持つ小人であり、独特の文字や言葉を使う種族だ。

 リーダー格のリークリングが纏う服は他のリークリングと比べても豪華であり、頭には動物の骨でできた兜を被っている

 リークリングは特に人食いの習慣があるわけではないが、元々が人間やエルフ、亜人と比べても異彩を持つ文化を有しているため、接触が控えられてきた。

 もちろん、中には血を見るような衝突をしたこともあるため、今すぐ襲われないからと言って、油断はできない。

 カシトが内心でどうやって逃げようか算段をつけていると、配下のリークリングの内の一体が突然大声を上げ始めた。

 

「オウ、サマ! オウ、サマ!」

 

 大声をあげていたリークリングが指さしていたのは、カシトが持つ頭蓋骨。

 それに気づいた他のリークリングもまた、大声をあげて騒ぎ始める。

 

「オウ、サマ! オウ、サマ!」

 

「王様? 一体何のこと?」

 

 彼らが言う王様に皆目見当もつかないカシトが首をかしげる中、リーダー格のリークリングが突然カシトの手を取って引っ張り始めた。

 

「オマエ、オウサマ、ミツケタ! コイ!」

 

「ええ? おいらケントを探さないといけないんだけど……」

 

 一刻も早く健人を探し出したいカシトにとっては、リークリングに時間を取られることは避けたい。

 元々文化体系がまるで違う種族だ。下手に関わり合いを持つべきではないというのが、カシトの考えである。

 もし逃げるのが難しかったら、手に持った頭蓋骨を渡してさっさと立ち去るつもりだった。

 

「オマエ、オウサマ、ミツケタ、コイ!」

 

「だから、オイラはケントを……」

 

 そんな時、再びカシトの腹の虫が泣いた。

 言いようのない沈黙が、カシトとリークリングの間に流れる。

 

「うう、お腹減ったよう……」

 

「コイ、タベモノ、アル。オウサマ、ヨミガエル。タベモノ、タベラレル。コイ!」

 

「食べ物!? よし、オイラ付いて行くよ! さあ行こうすぐ行こう今すぐ行こう!」

 

 食べ物という言葉を前に、カシトの警戒心はあっという間に霧散した。

 頭蓋骨を渡して去るという選択肢も、速攻で頭の中から消え失せた。

 彼らが案内するにまかせるまま、意気揚々と後に続くカシト。

 この後、彼は自分の愚かさに恨み節をぶちまけながら、すさまじい化け物と無数のリークリングに追われる羽目になるのだが、それはまだ健人が知らない話である。

 

 

 




大地の岩浄化後のレイブン・ロック。そして健人、カシトの存在を知るお話でした。
次話はおそらくテルミスリン。他の岩の浄化はすっ飛ばす予定です。
ちなみに、次話以降は更新未定。それほど時間がかからずにお届けできたらと思いますが、リアル次第なのでご容赦を。

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