【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
レイブン・ロックを発った後、健人とフリアは島の西側の水の岩と、ミラーク聖堂南東にある獣の岩を浄化した。
その後、テルミスリンへと向かいながら太陽の岩を浄化。
当然ながら、ミラークは他の岩にも番人を配置しており、健人達は岩の浄化の度にルーカーと戦う羽目になったが、健人とフリアの前に一蹴された。
そして二人は今、テルミスリンへと続く灰の大地を進みながら、岬の端に聳える巨大なキノコを見上げていた。
「ここがテルミスリンか……」
「相変わらず、奇妙な形の家ね」
「キノコの家って、物語とかでは聞いたことあるけど、実際に見ると……デカいな」
十階建てのビルの相当するのではと思えるほど巨大なキノコは、獣の岩からでもよく見えていた。
今の健人達はテルミスリンの麓まで近づいている為、尚の事、その巨大さが目に留まる。
健人やフリアは知らないが、この巨大キノコはモロウウィンドに自生している特殊なキノコを、テルヴァンニ家最高の秘術をかけて育てたものである。
元々テルヴァンニ家はダンマーの五大家の中でも魔法研究に特化した大家であり、その魔法技術力はタムリエル大陸の中でも突出している。
だが同時に、テルヴァンニ家はあまりにも魔法研究に没頭しているため、他家からはかなり忌避されている一面もあった。
健人はとりあえず、一際大きなキノコの麓まで歩いていき、キノコの茎に設けられていた扉を叩いて、中に入ってみる。
「失礼します……。なんだこれ、魔法陣?」
健人の目に飛び込んできたのは、上へと続く長い縦穴。そして、縦穴の床一面に描かれた大きな魔法陣だった。
魔法陣からは蛍のような燐光がわずかに漏れ出しており、起動していることが窺える。
見たこともない魔法陣を前に逡巡する健人だが、後ろから魔法陣の様子を覗き見ていたフリアが、おもむろに陣の中に足を踏み入れた。
「きゃ!」
「フリア!? うわ!」
魔法陣に足踏み入れた瞬間、フリアの体が浮き上がり、あっという間に縦穴の上へと昇っていく。
突然の出来事に驚いた健人も、咄嗟にフリアの体をつかもうと陣の中に足を踏み出してしまった。
健人が“しまった!”と思った時には、一瞬の浮遊感とともに、彼の体はフリアと同じように縦穴を昇り始めていた。
しかし、彼の体が浮いていたのはほんの数秒。魔法陣の力で縦穴を昇らされた健人とフリアは放り出される形で、テルミスリン縦穴の頂上に降り立った。
縦穴の頂上で咄嗟に着地した健人が見たのは、円形の広間。
あちこちにテーブルや付呪台、錬金台が置かれ、魂石や書籍が散乱した、いかにも不精な研究者の部屋と言った空間だった。
部屋の奥には豪奢なローブを纏った気難しそうなダークエルフ、ネロスが、付呪台の傍で何か作業をしている。
ネロスは浮遊エレベーターを昇ってきた健人達の姿を確かめると、これ見よがしに眉間にしわを寄せた。
「塔に招いた覚えはないがな、一体何者だ?」
威圧的な態度を隠そうともせず、作業を止めて、自宅に侵入してきた不審者を確かめるネロス。
健人の顔を確かめると、ネロスは眉間に依った皴を幾分緩め、意外なものを見たような表情を浮かべた。
「ほう、お前か。テルヴァンニ家のマスターウィザードの私に不遜な態度を見せ、岩の浄化をして私の観察の邪魔をしていた者が、態々テルミスリンを訪れるとは、どういう風の吹き回しだ?」
健人は自分がネロスに覚えられている事に、少し驚いた。
この人物の性格上、ほんの少し話をしただけの人間の事を覚えているとは思わなかったのだ。
「お久しぶり、というべきなんですかね? というか、なんで俺達が岩の浄化をしているって知っているんです?」
「ふん、私の執事がレイブン・ロックで聞いてきたからに決まっているだろう。せっかく興味深い事象だったのだがな……」
心底残念だというネロスの態度には、相も変わらず他者の被害への配慮など微塵も感じられない。
そんなネロスの言動に、健人の隣にいるフリアが眉をひそめたのを感じていた。
スコールの民、ひいては、ソルスセイムを降りかかるミラークの脅威から救いたと願っているフリアにとって、ネロスの言動は癇に障るものであることは間違いない。
とはいえ、それを言葉にしないあたりは、彼女もネロスの重要性を心得ているといえた。
「それで、いい加減この邸宅に来た理由を聞かせてくれないか? 邪魔者がいては研究に支障が出る」
相も変わらず高圧的なネロスの口調に、健人もすぐに用事を終わらせたほうがいいと考え、おもむろに腰のポーチに忍ばせていた黒の書を取り出した。
「この本について、知っていることを聞かせてほしい」
健人が持つ黒の書を見た瞬間、不機嫌だったネロスの瞳に、強い興味の色が灯る。
「ほう、黒の書か。これは珍しい。中も見たのだろう? 目を見ればわかる」
「見たというより、引きずり込まれたんだ。それより質問に答えてほしい。この書について何か知っているのか?」
「無限の知識を内包した書。正確には、知識を内包した領域へと続く書だ。ハルメアス・モラが世界中にばら撒いた物で、私も持っている。危険なものだが使い方によっては有用だ。」
ネロスもこの書を持っているという話を聞き、健人はこれである程度の情報が得られる確信を得た。
魔法研究に命を捧げているような人物が、この書について調べないはずはない。
一方のフリアは押し黙りつつも、どこか警戒心を持ってネロスを眺めている。
黒の書はスコールにとっては忌まわしい力の源であるが故に、彼女の反応も無理はない。
健人はとりあえず、単刀直入に黒の書を求めている理由について、ネロスに話すことにした。
「この書とミラークの関係、奴の力について、すべてが知りたい。奴と相対するには、奴の力についてもっと知らなければならないんだ」
「ミラークというと、街民達が口にしていたあの名前だな。ハルメアス・モラと何らかの関係がある者がこの島に干渉していることは知っていたが、この島の中央にある聖堂と同じ名前の者だったとはな」
「あの聖堂の主について知っているのか?」
「当然だ。史上最初のドラゴンボーンにして、竜族に反旗を翻したドラゴンプリーストの事だろう」
ネロスもミラークについてはある程度推察していたようだが、彼は健人が思っている以上に、古代のドラゴンボーンについて知っている様子だった。
健人の質問に答えたネロスは、今度は自分の番とばかりに、健人に問いかける。
「なぜ、その力を追い求める? 奴はドラゴンボーン。この世界で最初にアカトシュの祝福を得た、世界最初の竜の血脈だ。その力は到底、並の人間が体得できる領域ではない」
「俺が、ドラゴンボーンだからだ」
「ほう……」
ドラゴンボーン。その言葉を聞いた瞬間、ネロスの瞳にさらなる興味の色が浮かんだ。
先程までのネロスの興味は健人の持つ黒の書だけに向けられていたが、ここにきて健人本人にも興味を示し始めた。
怠惰で鬱陶しさを全面に出していた雰囲気は既になく、その瞳はねめつける様に健人を見つめている。
健人は無遠慮に突き刺さるネロスの視線をあえて無視しながら、レリル・モーヴァインから渡された書を懐から取り出し、ネロスに手渡す。
ネロスは押された家紋を見て“ふん”と鼻を鳴らすと、無造作にレリルがしたためた書を広げて読み始める。
書を読み終えると、ネロスはレリル・モーヴァインの書簡を丸めて健人に放り投げた。
「なるほど、どうやら嘘は言っていないようだ。黒の書を読んだ……いや、呼ばれたことを考えれば、お前がドラゴンボーンであることは真実なのだろう。ハルメアス・モラは未知の知識や存在には強い興味を示すからな。おまけに、あの石頭のレドランの家に取り入るとは。なるほどなるほど……」
レドラン家は武家としての思想やダンマーの伝統を重んじる大家のため、魔法研究一辺倒のテルヴァンニ家とはそもそもそりが合わない。
魔法に対してあらゆる手段、それこそ、人目に憚れるようなことも場合によっては容認するテルヴァンニ家からみれば、レドラン家のダンマーは保守的過ぎるのだ。
一方でレドラン家も、ダンマーとしての伝統を重んじすぎるが故に、他種族を認めることはほとんどない。
しかし、レドラン家のレリルがしたためた書の中では、健人について、ネロスが考えていた以上に褒め称えられていた。
排他的なレドラン家の評議員に認められたその事実も、ネロスの健人に対する興味を刺激していた。
「ミラークの力について書かれた書はこの島にあるが、私は持っていない。だが、心当たりはある。チャルダックだ」
「チャルダック?」
「島の東にある、水没したドワーフの遺跡だ。ドワーフは知識を追い求めた種族で、かの星霜の書からも知識を得ようと奮闘している。当然、黒の書についても研究していた」
ドワーフ。
この世界ではドゥーマーと呼ばれている種族。
地球から来た日本人ならば、トールキンの指輪物語に出てくるような顎髭生やした小さなおじさんたちを思い浮かべるかもしれないが、このタムリエルにおけるドワーフとは、エルフ種の一種である。
彼らはこの科学技術が未熟な世界において、常識を超えた技術力を持っていた種族であった。
そして同時に、既にこの世界から完全に姿を消した種族でもある。
ドワーフが姿を消したのは、第一期、ダンマーとの戦争中のことだったらしい。
理由は未だに不明だが、彼らドワーフはその戦争の最中、一夜にして一人残らず、ニルンから姿を消した。
その事実は確固とした歴史であり、数多の文献に記されているが、その原因について書かれた書物は、健人が知る限り聞いたことはない。
だが、彼らがこの世界での常識を超えた技術力を持っていたことは間違いなく、彼らの遺跡の中では、未だに稼働しているものも数多く存在している。
同時にそんな遺跡には、侵入者を迎撃するためのシステムも生きており、不用意に中に入った者の命を容赦なく刈り取っている。
健人もドワーフの遺跡の危険性については、デルフィンの講義で聞いていた。
「……よし、そこに行こう」
健人はドワーフの遺跡に潜った経験はない。
しかし、たとえ経験がないからと言って、引き下がるつもりもない。
元より、健人はドワーフなどよりもよほど危険な存在を相手取らなければならないのだから。
「だが、お前達だけでは遺跡には入れない。扉はあるが、私が閉ざしたからな」
だが、そんな健人の決意にネロスが水を差す。
「どうしてそんなことを?」
「あれは有用な遺跡だ。お前たちのような無知な輩が入り込んで荒らされてはたまらないからな。私がカギとなるものを取り外し、遺跡を封じたのだ。ついでに言えば、前に遺跡に行った際に、汚れ役を行う小間使いが必要だと思ったことも大きいな」
「ああ、そうですか……」
遺跡を封印したというネロスのセリフに、健人は一瞬、彼がドワーフの遺跡の危険性を鑑みて遺跡を封印したのかと思ったが、やはりこのダンマーが遺跡を封じたのは、自分の研究の為だったらしい。
ついでに丁稚奉公を必要とする辺り、家格と研究意欲とプライドが高い五大家のマスターウィザードらしいといえる。
ネロスのセリフに思わず健人が肩を落としている中、肝心のマスターウィザードは懐から奇妙な四角い箱を取り出した。
金色を基調とした奇妙な彫刻を施されたその箱は、健人が文面で見たドワーフ関連の遺跡によく出土する物品と似通った特徴を持っている。
「これがそのカギとなっている制御用のキューブだ。お前たちがどうしてもと言うのなら、協力してやってもいいぞ。条件があるがな?」
「条件とは?」
「簡単なことだ。私を同道させ、その黒の書を私にも見せることだ」
自分にも黒の書を見せろと言ってくるネロスに、健人は眉を顰める。
「危険な書だと言っていなかったか?」
「確かに、黒の書は無知な者が扱うには過ぎたものだ。だが、知識は知識。故に有用だ。使い方さえ理解していればな」
暗に“お前には使いこなせるのか”と聞いてくるネロスに、健人は額の皺を深める。
健人があの書を見たのはほんの僅かな間のことだ。
書に引きずり込まれてからすぐにミラークに追い出されたために、黒の書の詳細まで調べている時間はなかった。
危険性についても、迂闊に触れてはいけない代物だと分かっていても、その詳細まで知ってはおらず、かなり漠然としているのも事実だ。
だが同時に、健人は知らないからこそ、知らなければならないと考えていた。
元より、ミラークと相対する道が平坦な道程だとは思っていない。とうに決意は固めていた。
「それでも、俺は黒の書を読みます。そう決めていますから。フリア、この偏屈爺さんの話、受けようと思うけど、いいか?」
ミラークを止めるために、彼の力の源を知り、そしてもう一度“強く”なる。
かつて味わった挫折を糧に、もう一度立ち上がると、胸に刻んだ決意を今一度思い出しながら、健人は試すようなネロスの視線を正面から受け止めつつ、相方に問いかける。
「是非もないわね。仕方ないわ」
フリアもまた健人の決意を理解し、そして己のやるべき事を定めていた。
スコール村の皆を、そしてソルスセイムを守るために、恩人であるドラゴンボーンと共に戦うと。
即答ともいえる健人とフリアの言葉に、ネロスは満足そうに笑みを浮かべ、浮遊エレベーターのほうへと歩き始めた。
「決まりだな。では、行こうか」
先を行くネロスの背中を見つめながら、健人とフリアも互いに視線を交わし、無言で頷くとマスターウィザードの後に続いてテルミスリンを後にした。
目的地はチャルダック。
かつて百の塔の街と呼ばれた、ドワーフ有数の大遺跡である。
今回はテルミスリンへの訪問と、ネロスとの再会になりました。
人を食ったようなネロスの言動や性格が再現できているといいのですが……。
文章量の都合で、今回は少し短いです。
正確には、次のお話が少し長くなったために切りが悪くなったのです。
ですが、次の話もほぼ完成していますので、時間をかけずにお届けできるかと思います。