【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第六話 チャルダック 前編

 

 テルミスリンから北へ向かった、ソルスセイム島の東側の海岸。

 北海の荒波が打ちつける波頭に、その遺跡は存在した。

 百の塔の街、チャルダック。

 かつてドゥーマー達の手によって繁栄していた街は、今では波間に覗く、僅かな数の尖塔を残すだけとなっていた。

 外壁は長年の波の浸食を受けてフジツボや海藻が覆い、おそらく空中回廊であったであろう通路は崩れかけたまま放置されている。

 かつての荘厳さと、どこかもの悲しさを感じさせる遺跡は、水平線に落ちていく太陽と相まって、幻想的で静謐な雰囲気に包まれている。

 

「ここがチャルダックだ。中は複数の階層に分かれていて水没している場所もある。

 遺跡内のポンプを動かせば、先に進むことができるだろう」

 

 チャルダックの遺跡は中央に一際大きな尖塔が海面から突き出しており、周囲を囲むように崩れた塔が軒を連ねている。

 幸い、中央の尖塔へと続く空中回廊は崩れていないのか、ネロスは慣れた様子でそちらへと足を進めていく。

 中央の尖塔の前には少し大きな広間があり、檻を思わせる覆いで塞がれた巨大な門と、何かを置くための台座が据え付けられていた。

 ネロスが懐からテルミスリンで見せた制御用キューブを取り出して台座に嵌めると、制御用キューブが青い光を放ち始める。

 続いて門を塞いでいた檻が音を立てて動き、塞がれていた門の全容を健人たちの前に曝した。

 健人はドゥーマーの遺跡に入った経験はない。

 初体験の緊張感に、思わず唾を飲み込む。

 一方、この手の遺跡に慣れているネロスは、悠々とチャルダックの門をくぐり、中へと足を進めていく。

 健人とフリアがネロスの後に続いて門をくぐると、半円形の巨大な部屋が二人の目の前に広がっていた。

 

「ここが閲覧室だ」

 

 部屋のあちこちには人の胴体よりも太いパイプが張り巡らされていた。

 パイプは部屋の奥へと続き、何かの装置と思われる台座へと繋がっている。

おそらくはこの機械が恒常的に動いていたのだろう。

 だが、健人の目を引いたのは、半円形の部屋の中央にある、床に填め込まれた円形のガラス。

 ガラスの床の下には、今の健人が追い求めていた黒い背表紙の本が鎮座していた。

 

「こんな所に黒の書が……」

 

「腹立たしいほど近くにあるが、生憎とどんな魔法でも開けることが出来ないのだ。書を取り出すには、遺跡内部の装置を動かし、この部屋に蒸気を供給する必要がある」

 

 部屋の奥に会った装置をネロスが動かそうとするが、動力が来ていないのか、装置はウンともスンとも言わない。

 ネロスは忌々しそうに閲覧室に張り巡らされたパイプを睨みつけると、閲覧室の横にある小部屋へと歩き始める。

 

「口で言うほど簡単ではないだろうな。ボイラーはこっちだ」

 

 健人とフリアはとりあえず、ネロスに促されるまま後に続く。

 閲覧室の横の小部屋には調度品と呼べるようなものは何もなく、岩の床から何かのスイッチと思われる棒が迫り出している。

 ネロスがその棒を倒すと、一瞬の浮遊感とともに、小部屋の床が下へ通り始めた。

 健人とフリアの瞳が、驚きに染まる。

 特に、地球でその手の装置に乗ったことのある健人の驚愕は一入だった。

 エレベーター。人や荷物を高層階へと運ぶ運搬装置。

 テルミスリンの浮遊装置も健人には驚くべきものだったが、まさか地球とほぼ同じ機械仕掛けの昇降装置が、こんな遺跡に存在するとは思っていなかった。

 

「まさか、エレベーターがあるなんて……。それにボイラーに蒸気ってことは、この遺跡って蒸気機関で動いているのか? 魔法ではなく態々蒸気を使うなんて、なんだか非効率的なような気もするけど……。いや、蒸気タービンなら別か?」

 蒸気機関というと、日本人は蒸気機関車のようなレシプロタイプの蒸気機関を思い出してしまうかもしれないが、蒸気機関を始めとした外燃機関自体は、今でも発電などで用いられている。

 火力発電や原子力発電などで使われている、蒸気タービンがそれだ。

 

「ケント、どういうこと?」

 

「これだけ大規模な遺跡となると、個人の持つマジ力で動かせると思えないから、人の力に依らない装置が必要だ。なら、蒸気機関を使ってもおかしくない。でも、どうやって蒸気を作り続けるんだ? それだけのエネルギー供給はどこから……」

 

 ここで問題となるのは、蒸気を生み出す熱源である。

 現代の発電装置は、重油の燃焼や核物質の崩壊熱を熱源としているが、どれも有限で、寿命のあるものだ。恒久的に膨大な熱を得られるものではない。

 

「まあ、アイレイドでもない限り、この規模の遺跡を魔法で動かすことは不可能だろうな。

 ドワーフは治金技術にも優れていた。溶岩に埋めても解けない金属を使い、地下のマグマにパイプを通し、無尽蔵の蒸気を自動で得る技術も持っていたのだ」

 

 健人の疑問に答えたのは、ネロスだった。

 蒸気タービンは、電気を生み出す機関の外部に熱源がある、外燃機関である。

 ドワーフはマグマを熱源に蒸気を得て、地熱発電を行っていたらしい。

 さらに、ドワーフの技術は地球の地熱発電の更なる発展版ともいえる。

 地球の地熱発電は地下のマグマによって暖められた地下水の蒸気、もしくは噴き出す高温の温泉を取り出して蒸気を得ているが、この世界のドワーフは溶岩から直接蒸気を得ていたのだという。

 

「マジかよ。どんな技術力を持っていたんだ……」

 

 なまじ現代日本の知識があるだけに、健人にはドワーフが持っていたあまりにも高度な技術力に、当惑を覚えていた。

 地球でも、地下のマグマから直接熱エネルギーを得る手段は確立されていない。

 そもそも、マグマが存在する地下深部は膨大な圧力と熱により、大半の金属がその形を保っていられない。

 また、地下のマグマにパイプを通すということは、パイプに通る装置自体も強烈な圧力と熱に晒されることになる。

 だがこのチャルダックはドワーフ達が消えてから今日まで、未だに稼働している状態にある。

 つまりそれは、地下からの熱エネルギー供給が、数千年経っても正常に行われていることの証左だ。

 地下のマグマの熱と圧力に数千年単位で耐えられる金属と装置。

 もしその金属の一片でも地球に持ち帰ることができるなら、あちらの世界であらゆる分野で革命が起こるだろう。

 それが理解できているからこそ、健人は現在進行形で眩暈を覚えているのだ。

 

「ドワーフの遺跡に使われている金属は、大半が数千年経ってもほとんど経年劣化しない。彼らが姿を消してから、未だにこのような施設が稼働していることを鑑みても、彼らの技術には敬意を覚える。

 それにしても……」

 

「……ん? なんだよ」

 

 ねめつけるようなネロスの視線が、健人に向けられる。

 ネロスの視線を感じた健人は、居心地悪そうに眉をひそめた。

 

「意外だな。無知な若造と思っていたが、思いの他、面白い考察をしてくる。お前、どこの出身だ? この大陸で、マジ力に依らない装置についての見解を示す人間はほとんどいない。特に、これだけ大規模な遺跡を動かすものとなると皆無だろう。

 見たところノルドでもインペリアルでもレットガードでもないようだが……」

 

 ネロスの目には、これ以上ないほど健人に対する興味が窺えた。

 現代日本の知識を持つ健人の予想外の考察に触れたことで、これまで以上に好奇心を刺激されたらしい。

 

「俺の出身なんてどうでもいいだろ」

 

「ということは、自分自身がこの大陸で異端であることは自覚しているわけか。ふむ、大陸出身ではないドラゴンボーン。ハルメアス・モラがお前に興味を示すのも納得だな」

 

 “聞くな”と突き放すつもりだった健人の態度は、逆にネロスの推理を加速させ、その好奇心をさらに掻き立てる結果になってしまった。

 面倒臭くなったと、漏れるため息を隠そうともせず、健人は肩を落とす。

 そうこうしている内に、下降していたエレベーターが停止した。どうやら、下の階に到着したらしい。

 エレベーターから降りると、健人達の目の前にまるで監視モニターのような四角い枠を持つ長い机がズラリと並んでいた。

 地球の液晶画面のようなモニターはないが、四角い枠内には何やら図面と思われる絵が描いてあり、さらに枠内で無数の歯車が規則的に動いている。

 さらに監視モニターの先を進むと、水没した巨大な縦穴が広がっていた。

 監視モニターがあった階層からは水没した縦穴に続く通路があり、下にはまだ遺跡の施設があることをうかがわせる。

 

「……そんなことより、どうしてこの街は水没しているんだ?」

 

「言い伝えによると、古代にノルドがこの街を攻めた時、ドゥーマーは敵を諦めさせるためにこの街を沈めたらしい。私は疑っているがな。

 だが、この街がドゥーマーの技術の粋を集めて作り上げられた事は間違いない。今ではこの有様だが……」

 

 下の階層へと続いているであろう通路。その入り口の脇には、チャルダックの門のそばにもあった制御用の台座が二つあった。

 ネロスは制御用の台座に近づくと、持っていた制御用キューブを台座に乗せる。

 

「見ての通り、街の下層はほとんど水没している。だが、希望がない訳ではない。見ろ」

 

「水が引いていく」

 

 制御用キューブが台座に置かれた瞬間、ゴゴゴ……という音とともに、縦穴を満たしていた水が引き始めた。

 どうやら、この台座は遺跡の排水ポンプを動かすための物らしい。

 

「そうだ。この制御用のキューブを使えば、ポンプを動かし、水を排出することができる。遺跡に溜まった水を抜けば、下層の探索ができる。それに、あれを見ろ」

 

 ネロスが指さした先には、他と比べても一際太い4本のパイプが、水面から部屋の天井へ向かって伸びていた。

 

「あのパイプ、上層に通じている?」

 

「ああ、おそらく、閲覧室に蒸気を送るものだろう。あれを動かせば、本の保護ケースを開けられる」

 

 さらにネロスは、天井へと繋がっているパイプの根元を指さした。

 4本のパイプの根元には何やら太い円柱形の装置が取り付けてあり、さらに制御用の台座が設けられている。

 

「あれはボイラーだ。制御用の台座は5つ。ボイラーを動かすのに4つ、上層に蒸気を送るポンプを動かすのに1つ。つまり、残り4つのキューブを集める必要がある」

 

 ネロスの話では、上層に蒸気を送るためには、合計5つのキューブが必要らしい。

 健人達にボイラーを見せた後、ネロスは先ほど通ってきた部屋にあった監視モニターらしい机を覗き込む。

 

「ふむ、残りのキューブは下層に移されているのか。多分、この街を放棄する際に浸水に対処しようとしたのだろうな」

 

 ネロスが機械仕掛けのモニターを眺めながら、遺跡内のキューブの保管場所を把握する。

 やはりあの机は、この遺跡の監視モニターだったらしい。

 

(ということは、この大部屋は間違いなく、この遺跡の制御室なのだろう。俺達が入ってきたのは、この施設の最上階だったんだろうな……)

 

 遺跡全体が水没していることを考えれば、健人の推察はおおよそ正しいといえる。

 中に入るために、この施設のカギともいえる制御用キューブが必要だったことを考えても、健人の推察を補強する理由になっていた。

 

「ふむ、興味深いな。つまりレッドマウンテンでの動乱が起こる前に、この街は放棄されていたのか。もしくはドゥーマーの従者達が、創造主が消えた後も街を保全しようとしたのか……。

 とりあえず、近くにあるキューブから手に入れるぞ」

 

 そういいながら、ネロスは制御室の脇にあった扉に向かい始める。

 扉はこの施設に入ってきたときと同じような檻で封鎖されていたが、傍にあった制御用台座にキューブを置くと、封鎖はすぐに解除された。

 先に進むと二股の通路が存在し、片方の通路はパイプから噴き出す炎で塞がれていた。

 炎で塞がれた通路の手間には制御用の台座に置かれたキューブが存在し、健人がキューブを外すと、通路を塞いでいた炎も治まった。

 

「これが、制御用のキューブか」

 

「意外とすぐに見つかったわね」

 

「他のキューブもこの位簡単に見つかるといいが、ドゥーマーの事だ。そう上手くはいくまい」

 

 炎が収まった通路を健人が覗いてみると、丸焦げになった巨大ネズミの死体が散乱している。

 

「スキーヴァか?」

 

「どうやら、遺跡の防衛システムに引っかかったらしいな」

 

 おそらく、この遺跡のどこかにあった穴から内部に侵入し、そしてこの通路でトラップに引っかかったのだろう。

 健人達が丸焦げになったスキーヴァを一瞥してから、先へ進もうとした時、突然、ガコン!という、何らかの作動音が通路に響いた。

 

「なに、今の音……」

 

 突然通路に響いた音に、健人とフリアが警戒心を高ぶらせる。

 耳をすませば、先ほどまで炎で塞がれていた通路の先から、ガシャガシャと耳障りな金属音が複数聞こえてくる。

 金属音は徐々に大きくなってきており、音の発生源が健人達に近づいていることが考えられた。

 何者かが近づいてきている事に、健人とフリアが無言で得物を抜いた。

 そして、薄暗い通路の先から、音の発生源が姿を現した。

 黄土色の金属によって構成された、小さな体躯。

 六本の足で地面をけりながら進んでくる姿は、まるで蟻か蜘蛛思わせる。

 大きさは人の膝程くらいだが、数が多く、見えるだけでも5体存在している。

 

「ふむ、ドワーフ・スパイダー・ガーディアンか。ドゥーマーの遺跡を守る玩具だな。この通路の防衛機能を司っていたキューブが外されたことで起動したのだろう」

 

 健人達が見たのは、ドワーフの遺跡を巡回するオートマトンの一種、ドワーフ・スパイダー・ガーディアンだった。

 魂石を動力源に動くドゥーマー製の自動人形で、監視ドローンのような役目を負っている。

 どうやらネロスの言う通り、台座からキューブが外されたことで、異変を察知して確認に来たらしい。

 

「私達に気づいたみたいね。来るわよ!」

 

 侵入者である健人達に気づいたのか、接近してくるドワーフ・スパイダー・ガーディアンの速度が上がった。

 さらに臨戦体制に移行した自動人形達は健人達との距離を詰めると、一斉に跳びかかってくる

 

「ち、硬い!」

 

 跳びかかってくる機械蜘蛛を黒檀の片手剣で弾き飛ばしながらも、健人は手に帰ってくる固い衝撃に、思わず舌打ちした。

 全身に金属を使っているだけに、ドワーフのオートマトンは総じて固い。

 切れ味を重視した健人の得物との相性は最悪と言えた。

 一方、膂力に優れたフリアは、振り下ろした片手斧で機械蜘蛛の胴体を力づくで叩き潰している。

 

「金属の守護者か。厄介ね……」

 

「気を付けることだ。ドワーフ・スパイダー・ガーディアンは力こそないが、動力源から供給される魂力で雷撃を放ってくることもあるぞ」

 

 健人達の背後にいたネロスがそんな言葉を発した瞬間、機械蜘蛛の胴体のパーツが開き、眩い一条の紫電が健人に向かって放たれた。

 

「うわ!」

 

 咄嗟に身をかがめて紫電を回避した健人。しかし雷撃を放ったドワーフ・スパイダー・ガーディアンは、第二撃の準備に入っていた。

 再び機械蜘蛛の胴体に紫電の光が灯る。

 

「くそ! ウルド!」

 

 健人はとっさに“旋風の疾走”を唱え、一気に機械蜘蛛との間合いを詰めて、露出した核に片手剣を突き刺した。

 

「はあああああ!」

 

 突き刺した片手剣を思いっきり捩じり、機械蜘蛛の動力源である魂石を破壊する。

 紫電を放とうとしたドワーフ・スパイダー・ガーディアンはガクガクと痙攣し、やがて完全に沈黙した。

 

「止まった……」

 

「こっちも終わったわ」

 

 健人が雷撃を放った機械蜘蛛を倒している間に、残りのガーディアンはフリアが片付けていた。

 愛用の斧を腰にしまう彼女の足元には、見事に胴体がひしゃげた機械蜘蛛の残骸が広がっている。

 

「ドワーフのガーディアンは総じて頑丈で疲れを知らない。おまけに使われている金属の影響か、雷撃以外の魔法は効果が薄い。だから小間使いが必要なのだ」

 

「ただの小間使いができるような仕事じゃないわよ!」

 

「何を言う、きちんと出来ていたではないか?」

 

「そもそも、俺達はお前の小間使いじゃないんだが……」

 

 後ろで見ているだけだったネロスの言葉に、フリアが甲高い声で文句を述べる。

 実際、小間使いが出来るような仕事ではない。

 雷撃を打ち出してくる機械仕掛けの猟犬など、戦闘技能のない一般人が相手できるはずもない。

 さらに悪いことに、機械蜘蛛たちが現れた通路の先から、今度はゴロゴロと何かが転がるような音が複数聞こえてきた。

 

「ち、またかよ!」

 

 先ほどのドワーフ・スパイダー・ガーディアンとは違う音だが、少なくともこの遺跡の防衛機能の一種であることは予測がつく。

 姿を現したのは、直径80センチ位の丸い球体型のオートマトンが六体。

 おそらくは何らかの走行機能が備わっているのか、先ほどの機械蜘蛛とは比較にならない速度で健人達に向かってきている。

 一見すると、ただの球体の機械。

 しかし、近づいてきた球体群は、健人たちとの距離を詰め始めると、一気にその形態を変化させた。

 球体上部の殻が左右に分かれ、人型ロボを思わせる上半身が球体内部からせり出してくる。

 人型ロボの腕には鋭い剣やボウガンと思われる発射機が据え付けてあり、明らかに戦闘を意識した機械である事を窺わせた。

 

「ドワーフ・スフィア。人型のオートマトンだな。監視を担っていた自動人形が倒されたことで、本格的な番兵をよこしてきたか。それでどうする?そこのスコールの娘はともかく、お前は倒せるのか?」

 

「……やらなきゃ死ぬ。なら、倒すさ。あんたも働けよ」

 

「やれやれ、肉体労働は得意ではないのだがな」

 

 面倒くさそうに溜息を吐いたネロスだが、次の瞬間、隣にいた健人が目を見開くほど膨大な魔力がその体から放たれた。

 放出した魔力はネロスの詠唱とともに彼の右手に集約し、眩いばかりの光を放ち始める。

 詠唱の終了と共にネロスが魔力を充填した右腕を振り下ろすと、風のない遺跡内部につむじ風が吹き、一体の砂のゴーレムが姿を現した。

 

「砂の、ゴーレム? 召喚魔法か?」

 

「アッシュ・ガーディアン。私の研究成果の一つだ」

 

 現れたのは、砂の精霊。

 召喚魔法と呼ばれる魔法によって生み出された先兵だ。

 召喚魔法によって呼ばれる精霊は、その難度や属性によって、大きく力が異なる。

 ネロスが召喚した砂の精霊は、召喚魔法でも精鋭魔法クラスに位置する雷の精霊と同格の魔力を持っていた。

 さらにネロスは、左手にも魔力を充填し、近づこうとしてきたドワーフ・スフィアに向けて左手を掲げると、おもむろに構築した魔法を放った。

 次の瞬間、先ほどのドワーフ・スパイダー・ガーディアンの雷撃とは比較にならない強烈な雷光が走った。

 目標となったドワーフ・スフィアに直撃した雷撃は、ズドン!と雷が至近距離に落ちたような轟音を立てながら、機械仕掛けの人型を吹き飛ばす。

 

「今のはサンダーボルトか? なんて威力だ……」

 

 ネロスの驚異的な威力の雷を浴びたドワーフ・スフィアは遺跡の壁に激突。

 鼻につくオゾン臭を伴った煙を上げて、完全に機能停止している。

 サンダーボルトは、破壊魔法の中でも最上位に近い熟練クラスの魔法だ。

 魔法のランクとしては、かつて健人がミルムルニルに対して使った魔法の杖に込められていたエクスプロージョンよりも上位である。

 腕の立つ破壊魔法の使い手でも極一部しか使えない、真の意味での破壊魔法を体現していると言える。

 

「さて、お前も働いたらどうだ? 相方に負担をかけるのは本意ではあるまい?」

 

「分かっている……さ!」

 

 ネロスの挑発に答えるように、健人は前線に向けて駆け出す。

 前線では錬成魔法の鎧を纏ったフリアが、3体のドワーフ・スフィア相手に奮闘している。

 

「ふっ!」

 

 健人はフリアの右側面に陣取っていたドワーフ・スフィアの首筋に、黒檀の片手剣を振り下ろすが、やはり硬質なドワーフ製のガーディアンの体を切ることはできなかった。

 

「くっ! 俺の力じゃ満足にダメージを与えられないか……なら!」

 

 自分の膂力が足りないなら、他で補えばいいとばかりに、健人は己の内に問いかける。

 欲するのは刃。あらゆる盾、あらゆる鎧、あらゆる武器を斬り裂く、鋭い刃だ。

 健人の求めに、彼の内で息づくドラゴンソウルが答える。

 言葉は知っている、意味も今知った。ならば、その“力”は既に健人のものとなっている。

 

「スゥ、ガハ、デューーン!」

 

 唱えたのは“激しき力”のシャウト。

 かつてミラーク聖堂の番人が使っていた、極限まで己の刃を研ぎ澄ます風のスゥームだ。

 健人の力の言葉によって生み出された風が、鋭い刃となって黒檀の片手剣の刀身に纏わりつく。

 

「なるほど、あれがシャウトか……」

 

「はあ!」

 

 健人が風を纏わせた刃を振るう。一息で十を超える斬撃が繰り出され、速度と鋭さを増した剣が、ドワーフ・スフィアの体を瞬く間に斬断する。

 さらに健人は、フリアの背後をすり抜けながら、左側面のドワーフ・スフィアを一刀両断して残骸に変える。

 前線3体の内、二体を瞬く間に失ったドワーフ・スフィアだが、機械らしい無機質さでもって、戦闘を継続しようとする。

 後ろに控えていた二体のドワーフ・スフィアが、立て続けに矢を放つ。目標はもちろん、前線になっている健人とフリアだ。

 しかし、健人は自分に向かってくる矢を、体幹をずらして躱すと、風を纏わせた刃を一閃。

 フリアに殺到していた矢群を、一撃で斬り裂き、吹き飛ばす。

 その間に、フリアとアッシュ・ガーディアンが前衛を担っていたドワーフ・スフィアを破壊。

 さらにネロスの雷撃魔法が、ボウガン持ちのドワーフ・スフィアを黒こげのスクラップに変え、ドワーフ・スフィアの部隊は全て沈黙した。

 

「なるほど、少しは使えるようだな。安心したぞ」

 

「あんたこそ」

 

「当然だ。私はテルヴァンニ家のマスターウィザードだぞ」

 

 相も変わらず鼻持ちならないネロスだが、このウィザードの実力は疑うべくもなかった。

 ネロス自身も、シャウトという希少魔法を目の当たりに出来たが嬉しかったのか、その声色にはどこか喜悦の色が含まれている。

 とりあえず、前哨戦を終えた健人達。

 3人は残骸となったオートマトンたちを尻目に、残りのキューブを探し出すため、遺跡の奥へと足を踏み入れていった。

 

 




というわけで、今回はチャルダック編。
チャルダックは遺跡自体も長いので、あと一、二話くらい使うと思います。
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