【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

58 / 130
今回はドワーフ・センチュリオン戦の続きになります。
また、毎回誤字報告をしてくれる読者の方々、本当にありがとうございます。
この場をお借りして、お礼申し上げます。


第八話 チャルダック 後編

 巨大な体躯にふさわしい歩幅と出力で、あっという間に健人達との間合いを詰めてくるドワーフ・センチュリオン。

 健人、フリアもまた素早く得物を抜き、ネロスは詠唱をこなす。

 突進してくるドワーフ・センチュリオンを最初に迎え撃ったのは、ネロスのアッシュ・ガーディアンだった。

 灰の嵐を吹きかけ、続いて滑るように間合いを詰めると、ドワーフ・センチュリオンの胴体めがけて腕を薙ぎ払う。

 しかし、ドワーフ・センチュリオンはアッシュ・ガーディアンの殴打に痛痒すらも感じないのか、淀みない動作でその腕を振り上げ、灰の精霊の上に振り下ろす。

 巨大な槌の形をした腕はアッシュ・ガーディアンを一撃で粉砕し、その体をただの砂へと返した。

 その隙にネロスがサンダーボルトを浴びせるが、ドワーフ・センチュリオンは僅かに身じろぎしただけで、直ぐに進行を再開する。

 

「さすがドワーフの最終防衛機能。私の魔法も大した効果がないな。アッシュ・ガーディアンも足止めにならん」

 

 距離を詰めてきたドワーフ・センチュリオンが、再び腕を振り降ろす。

 前衛を担っていた健人とフリアが打ち下ろしの軌道から退避した瞬間、巨大な槌が先程まで健人達がいた床に打ち込まれ、粉砕された無数の岩片をまき散らす。

 

「ぐっ!?」

 

 体にぶち当たる岩片に、健人は思わず顔をしかめる。

 さらにドワーフ・センチュリオンは、両腕を水平に薙ぎ払う。

 健人とフリアはさらに後退。相手の間合いの外に一時退避し、敵の強撃をやり過ごす。

 その間に、再びネロスがサンダーボルトを放つ。

 ネロスの放った轟雷が、再びドワーフ・センチュリオンに命中するが、やはりダメージを与えた様子はない。

 

「ふむ、やはり効果がないな。機体各部の絶縁処理は完璧のようだな。」

 

「なら接近戦しかないな!」

 

「ええ!」

 

 ネロスの魔法が効かない様を見て、健人とフリアは思いきって前に出る。

 後衛として一番の火力を持つネロスの魔法が効かなかった以上、他に選択肢がない。

 おまけに、健人達が今いる場所は、ボイラー装置があった足場であり、それほどスペースがない。

 押し返さなければ、瞬く間に追い詰められる。

 もちろん、それは非常に危険な行為だ。

 しかし、健人とフリアはドワーフ・センチュリオンの腕撃の間合いに迷いなく踏み込み、鮮やかな動きで振り回される槌を躱して斬撃を叩きこむ。

 巨躯の人型の敵は、二足歩行をしていることから、間合いの内側に入ればその脅威は半減する。

 巨人やルーカーであるなら、間合いの内側に入ってきた敵を掴んで、力づくで圧殺することも出来るのだろうが、ドワーフ・センチュリオンの両手は槌の形状になっていて、掴むなどの細かい事は出来ない。

 岩の浄化の際にルーカーと戦ってきた経験が活きていた。

 しかし、健人やフリアの攻撃もまた、大した効果を上げることはできなかった。

 相手はルーカーよりも遥かに硬い金属製の体を持つ巨大オートマトン。

 関節部も当然金属製で、斧や剣では効果がない。

 健人とフリアが攻めあぐねていると、ドワーフ・センチュリオンの頭部。口にあたる部分からガシュ、ガシュっと蒸気が漏れ出した。

 

「っ! 避けろ!」

 

 ネロスの警告に反応した健人とフリアが、反射的にその場から飛び退くと、次の瞬間、高温の蒸気が、ドワーフ・センチュリオンの口から噴き出した。

 高温の蒸気は、触れるだけで危険だ。

 晒された皮膚は瞬く間に爛れ、吸い込めば喉を焼き、呼吸困難に陥れる。

 健人とフリアはドワーフ・センチュリオンの側面に回り込んで吐き出された蒸気を回避したが、元々狭い足場の中では、動ける範囲も限られる。

 健人は振り回される巨大オートマトンの腕を必死に回避しながら、打開策に思考を巡らせる。

 破壊魔法は効果が薄い。ウィザードとして最高峰のネロスの魔法がほとんど効かなかった時点で、この機械仕掛けの巨人を破壊魔法だけで黙らせることはほぼ不可能だ。

 物理攻撃も、大して効いていない。

 フリアならば、今までのオートマトン位なら腕力で破壊できるが、これだけ巨大なオートマトンとなると、さすがに無理がある。

 外側を壊すことはほぼ不可能。

 ならば、何とかして内部を破壊するしかない。

 

「ネロス! こいつの動力源はどこだ!」

 

「胸の装甲の下だ! そこにダイナモコアと呼ばれる動力源がある。だが生半可な手段では装甲板は突破できんぞ!」

 

 健人はドワーフ・センチュリオンの胸部に目を向ける。

 胸部には巨大な装甲が隙間なく張り付けてあり、各部をボルトでしっかりと止めているように見える。

 

「貫けないなら、引きはがす!」

 

 健人は素早くドワーフ・センチュリオンの右側面に回り込む。

 側面に逃げた健人を迎撃しようと、巨大オートマトンが右腕を振り上げるが、健人は黒檀の片手剣の切っ先を掲げ、突きの体勢を取る。

 ドワーフ・センチュリオンの腕が振り下ろされた。

 ドワーフ・スフィアも一撃でペシャンコにするほどの一撃が、健人の脳天に迫る。

 だがドワーフ・センチュリオンの腕撃が健人の脳天を捉えるその瞬間、健人はおもむろに力の言葉を解放した。

 

「ウルド!」

 

 切っ先を掲げたまま、旋風の疾走で一気に加速。

 狙いは振り上げられた腕の根本、脇の下だ。

 健人の刃は正確にドワーフ・センチュリオンの右脇、腕の付け根に精確に吸い込まれた。

 

「ぐっ!」

 

 ガイン! と硬質な激突音と共に、慣性によって放り出された健人の体が宙に舞う。

 健人は空中で素早く体を入れ替えて、四肢を地面につけるように着地するが、彼の手に黒檀の片手剣はない。

 フレームの隙間を正確に縫うように突き入れられた健人の剣は、ドワーフ・センチュリオンの右の脇の下に完全に固定されてしまっていた。

 

「ギ、ギギ……」

 

 異物が関節駆動部に挟み込まれた所為か、ドワーフ・センチュリオンの動きが目に見えて鈍る。

 二足歩行を日常的に行う人間には意識しづらいが、二足歩行と言うのは自然界の中でも極めてバランスの悪い行為だ。

 重心が高い上に接地足が二本しかない二足歩行は、普段の歩くという行為ですら、実は極めて緻密な全身のバランスによって成り立っている。

 ドワーフ・センチュリオンは片腕が満足に動かなくなったことで、体全体のバランスが取れなくなっていた。

 現にドワーフ・センチュリオンは左腕を振り回して戦闘を継続しようとしているが、右半身の機能低下が著しいのか、右腕を引きずるような体勢になっている。

 

「フリア、何とか斧を脇腹の装甲に打ち込んでくれ!」

 

「え、ええ! 分かったわ!」

 

 健人の要請に素早く応えたフリアが、自分の斧をドワーフ・センチュリオンの右脇腹に叩き込む。

 右脇腹には装甲の繋目がある。

 装甲自体が固くとも、その接合部はどうしても強度が落ちてしまうのは自明の理だ。

 現にフリアが幾度か斧を打ち込むと、メキャリ! と耳ざわりな異音と共に装甲を止めていた鋲が飛び、斧の刃が装甲の隙間にめり込んだ。

 更にフリアは打ち込んだ斧をこねり、装甲の隙間を広げていく。

 

「ガガガ……!」

 

「フリア! 避けろ」

 

 自らの装甲をはがそうとするフリアを迎撃しようと、ドワーフ・センチュリオンが彼女に蒸気を吐きかける。

 フリアは打ち込んだ斧を放棄して地面に身を投げ出し、吐き出された蒸気を回避する。

 しかし、右半身を機能不全にされたドワーフ・センチュリオンは、蒸気による攻撃に重点を置き始めた。

 四方八方に蒸気を吐き出し、健人とフリアを近づけまいとする。

 健人とフリアは素早く蒸気の範囲から離脱するが、元々ボイラーが設置されていた足場は狭い。

 吐き出された蒸気が瞬く間に狭い足場を覆い始める。

 このままでは高熱の蒸気に晒され、蒸し焼きになってしまうだろう。 

 

「ガシュガシュ……」

 

 さらに大量の蒸気を吐き出さんと、ドワーフ・センチュリオンの口部が動く。

 障壁を張る魔力の壁では防ぎきれない。あれは前方にのみ障壁を張る魔法。

 高圧、高温の蒸気に体全体を覆われてしまえば、蒸気は障壁を回り込み、健人達を焼くだろう。

 ならば、“押し返す”しかない。

 健人は再び、自分の内側に息付くドラゴンソウルに語り掛ける。

 力が欲しい。求める声の意味を教えてほしいと。

 健人の内に取り込まれたドラゴンソウルが、健人の求めに呼応する。

 脳裏に、言葉の意味が浮かんだ。

 

「ファス……」

 

 それは、彼の義姉が一番最初に身に付けたスゥーム。

 力を最も体現した、言葉の一つだ。

 ドラゴンとしての健人の魂が力を欲して震え、その響きに呼応したドラゴンソウルが、引き出した力をさらなる高みへと押し上げる。

 体の内で響き合う魂の熱は瞬く間に臨界を迎え、紡がれる言葉と共に、押し出されるように現実世界に現出した。

 

「ロゥ、ダーーーー!」

 

 揺るぎ無き力。

 紡がれた力の言葉により生み出された衝撃波が、ドワーフ・センチュリオンが吐き出した蒸気を押し返し、足場を埋め尽くしていた蒸気もろとも吹き飛ばす。

 

「ふっ!」

 

 蒸気の晴れた足場を、健人がドワーフ・センチュリオン目がけて疾走する。

 目標は、フリアが突き立てたまま放棄した片手斧。

 しかし、ドワーフ・センチュリオンが、再び蒸気を吐き出さんとしている。

 だが、巨大オートマトンが再び蒸気を吐き出す前に、巨大な影が健人の脇を疾駆し、ドワーフ・センチュリオンの頭部を掴んだ。

 先行したのは、ネロスが再召喚したアッシュ・ガーデイアン。

 元々召喚魔法で呼ばれていた灰の精霊は、召喚者のマジ力が十分残っていれば、再び召喚できるのだ。

 再召喚されたアッシュ・ガーディアンは、ドワーフ・センチュリオンの頭部を無理矢理あさっての方向に向け、吐き出した蒸気を無効化させる。

 

「何をするのか知らんが、さっさとやれ、ドラゴンボーン」

 

 相も変わらず癪に障る口調のネロスの言葉を背中に浴びながら、健人は疾駆し、フリアが打ち込んだ斧を抱きかかえるように引っ掴む。

 しかし、ドワーフ・センチュリオンは、今度は残った左腕で健人とアッシュ・ガーディアンを薙ぎ払おうとしてきた。

 

「ふっ!」

 

 だが、ドワーフ・センチュリオンの腕が薙ぎ払われる前に、フリアが左腕に飛びつき、押し止める。

 

「ケント、早く!」

 

「ムゥル!」

 

 フリアの呼びかけに答えるように、ドラゴンアスペクトを使用。

 魂の隆起に伴って現出した光の小手。

 健人は劇的に高まった腕力で思いっきり装甲の隙間に打ち込まれた片手斧を引っ掴むと、抱きかかえるように体に固定する。

 

「ウルド!」

 

 そして、旋風の疾走を発動。

 次の瞬間、バキン! と甲高い音と共に、ドワーフ・センチュリオンの胸部装甲が弾け飛んだ。

 健人の体に固定されたまま、旋風の疾走によって無理矢理加速されたフリアの斧は、脆くなっていた接合部の鋲を、引っかけていた装甲板諸共、力ずくで引き剥がしたのだ。

 引き剥がされた装甲の穴からは、紅く光る動力部が見て取れる。

 

「ネロス!」

 

「よくやったぞ、ドラゴンボーン!」

 

 健人の叫びと共に、ドワーフ・センチュリオンの頭を抑えていたアッシュ・ガーディアンが、その腕をむき出しになった動力部に突き立てた。

 メリメリ! という金属が捩じ切れる音がドワーフ・センチュリオンの胸部から響き、巨大オートマトンの体がビクビクと痙攣する。

 そして、アッシュ・ガーディアンが勢いよく突き入れた腕を引き抜くと、ドワーフ・センチュリオンは糸の切れた人形のようにその場に倒れこむ。

 アッシュ・ガーディアンの手には、赤く光るドワーフ・センチュリオンの動力部が握られていた。

 

「ふむ、倒したか」

 

「ふう、寿命が縮むかと思ったわ」

 

 最後の番人を倒したことに、フリアが安堵の声を漏らす。

 

「それが、動力部か?」

 

「ああ、ダイナモコアと呼ばれる、ドワーフ・センチュリオンの動力源だ。これは、この手の類の巨大オートマトンにしかつけられていないもので、非常に興味深いものでもある。ドワーフ関連の研究者なら、喉から手が出るほど欲しいであろうな……」

 

 一方、健人とネロスは、アッシュ・ガーディアンが引きずり出したドワーフ・センチュリオンの動力部を眺めていた。

 紅く光る靄が漏れだす回転部を抱いた、地球儀のような動力部。

 ダイナモコアと呼ばれるその装置は、ドワーフの技術によって作られた動力部であり、未だに解析ができない動力源でもある。

 健人としても少し興味が惹かれるものではあるが、目下の目的は、黒の書を手に入れる事だ。

 健人は改めて、パイプの伸びたボイラーに目を向ける。

 

「それで、これで閲覧室に蒸気が行ったのか」

 

「ああ、ボイラーもポンプも正常に動いている。これで、閲覧室にある黒の書を手に入れる事が出来るだろう」

 

「そうか、良かった……」

 

 ネロスの言葉に、ケントもようやく一息つくと、ドワーフ・センチュリオンの脇の下に打ち込んだ黒檀の片手剣を回収し、鞘に納める。

 そして三人は、目的を果たすためにエレベーターに乗り、閲覧室へと戻った。

 閲覧室に戻ってみると、室内の機械が規則正しい機械音を奏でていた。

 どうやら、きちんと蒸気が供給されているらしい。

 ネロスが閲覧室のスイッチを押すと、保護カバーが開き、黒の書を安置していた台が精出してきた。

 

「いよいよだな。苦労が報われるといいが。さて、最初は譲ろう。読んでみるがいい」

 

 ネロスに促されるまま、健人は黒の書を手に取ってみる。

 

「わかっていると思うが、それは非常に危険なものだ。多くの人間の正気を奪ったとも言われている。ハルメアス・モラに会ったら、よろしく伝えてくれ」

 

「ケント、気を付けて……」

 

 二人の言葉に小さく頷くと、健人はおもむろに黒の書を開いた。

 題名は“手紙の書き方に関する見識”

 表紙を開いた瞬間、無数の気色悪い文字の羅列が健人の瞳に飛び込んでくる。

 そして、本から無数の触手が飛び出し、彼の意識を深淵の奥底へと引きずり込んでいった。

 

 

 

 

 

 

「ぐっ……」

 

 グルグルと回る意識と視界の中で、健人は自分が目的の世界に戻ってきたことを察していた。

 アポクリファ。

 ハルメアス・モラが持つ、無限の知識が内包された世界。

 健人は視界が完全に元に戻り、意識がはっきりしたところで、再び周りを見渡してみる。

 空は相変わらず薄暗い緑色の雲が覆い、樹脂を固めたような床と無造作に積み上げられた尖塔が、毒々しい沼の上に屹立している。

 ただ、今健人が立っている場所は、以前に彼が迷い込んだ広い広間のような場所ではなく、狭い小島の上だった。

 さらに、この小島は周囲を壁でおおわれており、外に出られるような出口も見当たらない。

 健人はとりあえず、周囲の状況を確認してみる。

 周囲の壁は木の皮を網目のように張り巡らせた感じの壁だが、一か所だけほかの壁と違う場所が存在していた。

 その壁は本来まっすぐに立ててあるはずの壁を、あえて丸く丸めたような形をしており、壁の前には何やら気味の悪い台座が存在している。

 更に網目状の壁の向こう側には、なにやら尾を振る蛇のような通路が存在している。

 台座の形を一言で言うなら、黒色の気味の悪い花だろうか。

 毒々しい黄痰色の三つの花弁が開き、花の中心からは雌しべのような茎が一本生えている。

 しかし、生命体特有の気配は感じられず、何か装置のような無機質さを漂わせている花だった。

 健人が恐る恐る、花の中心に生える茎に触れてみる。

 すると、茎の先にあった球がするりとは花の中に消え、開いていたか弁が閉じた。

 同時に丸まっていた樹皮のような壁が開き、まるでかけ橋のように、蛇のように蠢く通路に架かる。

 どうやらこれは、橋を架けるための装置だったらしい。

 先が見えたことで健人がとりあえず、先へと進もうとしたその時、健人の全身に強烈な悪寒が走った。

 まるで、無数の氷柱を突き立てられたかのような感覚に、全身が強張る。

 

「何だ、これは!?」

 

 健人の目の前の空間が歪み、毒々しい無数の泡と触手の群れた姿を現した。

 空間に広がった泡の染みの中心から、一際大きな瞳が現れる。

 ゆっくりと瞼が見開かれ、∞の形をした奇妙な瞳が、目の前の健人を睥睨していた。

 

「知識を追い求めるものは、遅かれ早かれ、我が元を訪れる」

 

 今まで感じたこともない強烈な圧力。

 汗腺から一気に汗が吹き出し、自然と息が荒くなっていく。

 それはまるで、ライオンと相対したネズミになったかのような感覚。

 ミラークと出会った時に感じた時と比べても遥かに強力な重圧を前に、健人は息をすることすら忘れ、視線さえ動かせなくなりそうだった。

 しかし、ゴクリと唾を飲み、喉の奥に力を入れて折れそうになる心と体を踏みとどまらせる。

 これまで経験してきた困難と、ドラゴンボーンとしての自覚と急成長が、デイドラロードという、このタムリエル最高峰の超越存在との対面でも、意識を保つだけの胆力を与えていた。

 

「ハル、メアス・モラか……?」

 

「そうだ。私が、ハルメアス・モラ。運命の王子であり、人を手に入れし者、運命を司る者……」

 

 絞り出すように漏らした健人の言葉に、ハルメアス・モラは淡々とした返事を返す。

 

「ここはアポクリファ。全ての知識が貯蔵されている。歓迎するぞ“異世界”のドラゴンボーン」

 

「っ!? 異世界って……なんで……」

 

 異世界、その言葉に、健人は思わず我を忘れて問い返そうとする。

 何故このデイドラロードは、自分がこの世界の出身ではないことを知っているのだろうか? と。

 

「無限の知識を収めた私の図書館で、知識欲を満たすがいい。もっとも、見つけられればの話だが。この領域の最奥部に来たその時、お前の問いに答えるとしよう」

 

 しかし、健人が疑問を口にする前に、ハルメアス・モラはまるで泡が消えるように、空間に溶けて消えていった。

 健人の目の前に残ったのは、蠢く通路へと架かる橋のみ。

 彼の脳裏にはミラークの事情と力、そして “異世界”という言葉が残響のように残っていたが、健人は一旦その疑問を胸の奥にしまい込む。

 最奥部に来たら答えると言ったのなら、健人としては先を進むしか選択肢はない。

 

「……行くぞ」

 

 架け橋の先に広がる毒の沼地と通路、そして尖塔を見つめながら、健人はミラークの力と真実を確かめるために、未知なる異界の領域へと足を踏み出した。

 

 




健人、ついにハルメアス・モラと対面しました。
次回は、黒の書“手紙の書き方に関する見識”での話になるかと思います。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。