【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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第十一話 力の差

 ドラゴンスケールの鎧に身を包んだ健人は、違和感なく全身にフィットする鎧に感嘆の声を漏らしていた。

 

「ケント、着心地はどうだ?」

 

「全然苦しくないです。それに、すごく軽い……」

 

 そのゴツい外観に反して、ドラゴンスケールの鎧は驚くほど軽かった。

 それに全身を無理なく包み込んでくれる鎧のフィット感は、言い知れぬ高揚感を湧き立たせる。

 ドラゴンスケールの盾も、健人の体格に合わせて調整してあるためか、とても手になじむ物だった。

 何度か背中の留め具につけたり外したりして感触を確かめてみるが、無理なく、素早く扱うことができる。

 腰に差した二本の刀も含め、これなら盾を投げ捨てることなく素早い武器切り替えができるだろう。

 これだけの装具を作り上げ、担い手に一度着つけただけでその出来を実感させるあたり、バルドールの鍛冶の腕はやはり傑出しているものだと健人は実感していた。

 

「これなら大丈夫です。行けます」

 

「そうか、鍛冶師の俺が出来るのはここまでだ。後は、お前に任せるよケント。全創造主の加護があることを願っている」

 

「ありがとうございます。行ってきます」

 

 今一度、贈られた鎧を一撫でして、健人は海岸付近での戦いに目を向けると、一気に駆け出した。

 海岸線付近でギリギリの攻防を重ねているフリア達と、上空から悠々とシャウトを浴びせるクロサルハー。

 長大なネロスの詠唱が終わり、反撃とばかりに放たれた極大の雷撃がクロサルハーに直撃したが仕留めきることはできなかった。

 逆に激高したクロサルハーがカシト達に向かってその牙を突きたてんと、三人のいる場所めがけて海面スレスレを疾駆している。

 今すぐにでも、クロサルハーの意識をこちらに向ける必要があった。

 健人の脳裏に、ハルメアス・モラの言葉が蘇る。

 

“お前は、理不尽なこの世界に対して怒りを抱いている。その怒りはミラークと同質のものであり、かつての彼と同じように、力を欲してもいる”

 

 怒りを抱き、力を求めている。

 健人自身が見ようとしてこなかった負の面。

“お前はミラークと同じだ”と指摘された事実を思い出し、健人はギリ……と奥歯を噛み締めた。

 誤魔化すことも、目を背けることももう出来ない。

 突き付けられた事実はジクジクと、健人の心を軋ませてくる。

 だが、ハルメアス・モラによって己の負の面を突き付けられたとしても、健人の胸の内にある芯は変わらない。

 

「それでも、今は力が……」

 

 欲しい。強くなりたい。

 そうでなければ、自分が大切だと思うものが失われる。

 再び目の前に舞い降りた理不尽、否定しようのない純然たる事実を前に、健人は湧き上がる嫌悪感を飲み込みながら、シャウトを唱える。

 

「ムゥル、クゥア……!」

 

 叫ぶのは、ドラゴンアスペクト。

 “鎧”の意味を内包した二節目までを唱えられたスゥームは健人の魂から更なる力を引き出し、上半身を覆う光鱗となって現出する。

 同時に、爆発的に高められた脚力が、駆け出した健人の体を一気に加速させる。

 今は力を。更なる力を。

 己の内なる声が示すまま、石床を踏み砕き、空中回廊を一気に踏破する。

 

“っ!来たか、ドヴァーキン!”

 

 健人の強大な気配を察したクロサルハーは、首を横に回し、己を追いかけるように駆ける健人を確かめると、クルリと空中で身を翻し、体ごと健人と相対する。

 胸を大きくのけ反らし、シャウトを放とうとしている。

 

“ファス、ロゥ、ダーーーー!”

 

 クロサルハーの“揺ぎ無き力”が再び健人に襲い掛かる。

 健人が今いる場所は、狭い空中回廊の残骸の上だ。

 吹き飛ばされれば海面に一直線に落ち、自由の利かない海の上で今度こそなぶり殺しにされるだろう。

 懊悩はある。胸の奥にできたシコリは毒となり、健人の行動を縛ろうとしてくる。

 

「それでも、今は、力を!」

 

 迷えば死ぬ。ならば、今はその一切を断ち切ろう。

 自らの迷いを振り払おうと魂を震わせ、新たに受け取ったドラゴンスケールの盾を掲げながら、健人もまた、己の声を解き放った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クロサルハーが放った“揺ぎ無き力”のシャウト。

 自分自身に襲い掛かってくる強烈な衝撃波を前に、健人はドラゴンスケールの盾を掲げる。

 

「ウルド……ナー、ケスト!」

 

 唱えるは旋風の疾走。

 ドラゴンアスペクトで激増した脚力と相まって、健人の体がズドン! と衝撃波を伴いながら、一気にクロサルハーめがけて撃ち出される。

 あまりの加速に視界の端が引き伸ばされていく中、健人の体はクロサルハーの揺ぎ無き力と激突するが、あまりの加速で撃ち出されたために一瞬で衝撃波を突き破り、空中のクロサルハーに踊りかかる。

 健人は素早く左手の盾を背中の留め具に引っ掛けながら、右手で腰の黒檀のブレイズソードを引き抜く。

 鮮やかな刃文を描く刀身が日の光の下に晒され、人目を惹きつける妖しい反射光を放ちながら、滑らかな軌跡を描いでクロサルハーの背に突き立てられる。

 

“ゴア! 貴様!”

 

 クロサルハーの背中に刃を突き立てた健人は、そのままもう一本のスタルリムの短刀を逆手で引き抜き、先程と同じようにドラゴンの背中に突き立て、体を固定する。

 

「アイツ、飛んでいるドラゴンに体当たりして飛び乗りおったぞ……」

 

「相変わらず無茶するわね……」

 

 飛んでいるドラゴンの背に飛び乗るという奇想天外な行動を実行した健人に、ネロスとフリアが溜息交じりの声を漏らしている、

 一方、今の健人の実力と常軌を逸した行動を目の当たりにしたカシトは、ホゲーと、口をあんぐり開けて呆けている。

 

“矮小な定命の者め、我が背に刃を突き立てるとは何たる不遜! 振り落としてくれる!”

 

「ぐっ!」

 

 健人に飛び乗られたクロサルハーは、背中の闖入者を振り落とそうと縦横無尽に飛び回る。

 激しく左右に体を揺らし、急上昇と急降下を繰り返す。

 空中に螺旋を描きながら海面スレスレで水平飛行、さらに遺跡の空中回廊を縫うように飛び回る。

 視界がグルグルと回り、急激な加減速と旋回によるGが健人を襲うが、ドラゴンアスペクトで上昇した身体能力でクロサルハーの背に打ちこんだ二本の剣をがっしりと掴んで離さない。

 

“ええい、しつこい奴め、ならば!”

 

 むやみやたらな飛行を続けるだけでは健人を振り落とせないと悟ったクロサルハーは、翼をはためかせて一気に加速した。

 海面から突き出したチャルダックの尖塔の一つめがけて飛翔すると、おもむろに空中を背を丸めて“旋風の疾走”のシャウトを発動させた。

 

“潰れろ! ウルド、ナー、ケスト!”

 

 クロサルハーの体が加速し、背中にいる健人を尖塔に叩きつけようとしてくる。

 

「ファイム!」

 

 だが、尖塔に激突する直前、健人が“霊体化”のシャウトを一節だけ唱えて、物理攻撃の一切を無効化した。

 時間は一秒にも満たないが、高速で尖塔へと向かっていたクロサルハーは止まることも避けることもできずに尖塔に激突した。

 

“なっ!?グゥアアアアア!”

 

 衝突した尖塔の外壁が砕け、衝撃で塔そのものが崩壊する。

 崩れる瓦礫と土煙に巻かれながら、クロサルハーは海岸近くの地面に激突。

 ゴロゴロと衝突の慣性で地面を転がりながらも、爪を地面に突き立てて削りながら体勢を立て直す。

 健人もまた地面に降り立ち、舞い上がった土煙を切り裂くようにクロサルハーめがけて駆け出していた。

 

“ヨル……”

 

 クロサルハーの全力でシャウトを放とうとしている気配を感じ、健人は左手のスタルリムの短刀を鞘に戻し、背負っていた盾を取り出して構える。

 

“トゥ、シューーール”

 

 次の瞬間、クロサルハーのファイアブレスが放たれ、獄炎が健人を包み込んだ。

 だが、“鎧”のシャウトを纏った健人には、クロサルハーのファイアブレスは通用せず、痛痒すら与えられない。

 健人は盾を構えたまま一気に炎の奔流を駆け抜けると、自らの炎を突き破ってきた人間に目を見開いているクロサルハーの左眼球に、黒檀の刃を突き立てた。

 

“ガアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!”

 

 目に刃を突き立てられ、暴れるクロサルハーの首を左手で無理矢理抑え込みながら、健人は今一度黒檀のブレイズソードを捻って内部を抉り、一気に引き抜く。

 左目から鮮血を吹き出しながら、クロサルハーが大きく仰け反る。

 健人は再び盾を背に戻し、スタルリムの短刀を引き抜きながら、シャウトを唱える。

 

「スゥ、ガハ、デューーン!」

 

 “激しき力”のシャウトが発動し健人の双刀が風の刃を纏う。

 

「トドメだ……」

 

 健人は風の刃を纏った双刀を構え、グッと腰を落として跳躍、剥き出しのクロサルハーの首めがけて躍りかかる。

 黒檀のブレイズソードとスタルリムの短刀が、風の刃を纏いながら閃く。

 一太刀で硬質な鱗と柔軟な筋肉を切り裂き、二太刀目で首の骨の隙間に短刀を滑り込ませて延髄を切断。

 最後の三太刀目でクロサルハーの首を完全に切断した。

 空中に跳躍した健人が地面に着地して風の刃を纏わりつく血液ごと払い、抜身の双刀をゆっくりと鞘に納めると、首を失って力をなくしたクロサルハーの体がズシン! と地響きを立てて崩れ落ちた。

 

「な、なに? 一体、これ、どういう事?」

 

 ドラゴンボーンとしての健人の力を目の当たりにしたカシトが驚きの声を漏らす中、クロサルハーの遺骸がパチパチと音を立てて燃え上がり始める。

 ドラゴンの魂がドラゴンボーンに取り込まれる際に起こる現象だ。

 だがその時、燃え盛るクロサルハーの遺体の前にズドン! という炸裂音とともに閃光が弾けた。

 

「なっ、なんだ!?」

 

 弾けた閃光が収まると、そこには仮面をつけた一人の人間が腕を組んで佇んでいた。

 海洋生物を思わせる金色の仮面と、藍色のローブを纏った人物。

 アポクリファで健人が遭遇した、この事変の元凶たるドラゴンボーンだった。

 

「ミラーク……」

 

「あれが……」

 

「ほう……」

 

 初めてミラークの姿を目の当たりにしたフリアが気色ばみ、ネロスが興味深そうな視線を向ける。

 健人もまた突然現れたミラークに警戒心を露にしながらも、腰を落とし、いつでも剣を抜けるように構えている。

 

「見たところ、精神体のみでニルンに来ているようだな。本体はまだ、おそらくはアポクリファにいるのだろう」

 

「精神体?」

 

 よく見ると、ミラークの体はほのかに光を放っており、どこか幻影のようにも見える。

 ネロスの話が本当なら、本体はまだアポクリファに囚われているのだろう。

 一方、ミラークは健人に倒され、炎に包まれつつあるクロサルハーの遺体を一瞥すると、フリア達を一切無視し、目の前の同族に視線を戻した。

 

「クロサルハーを倒したか。存外、成長していると見える。だが、お前の魂はまだそれほど強くないようだな」

 

 次の瞬間、クロサルハーの体から炎と共に現出したドラゴンソウルが、倒したはずの健人にではなく、ミラークに注がれ始めた。

 本来なら、クロサルハーの魂は彼を打倒した健人に注がれるはずである。

 予想外の光景に、健人達は目を見開く。

 

「なっ!?」

 

「ドラゴンの魂を吸収するには、強い精神を必要とする。こうして、倒してもいない私が魂を吸える時点で、お前の精神が私よりも劣る証明だ」

 

「くっ!?」

 

 お前は弱い。

 目の前で証明された現実を否定しようと健人が黒檀のブレイズソードの柄を掴む。

 しかし、その前にミラークが動いた。

 

「ゴル、ハー、ドヴ!」

 

「なっ!?」

 

 健人が腰の刃を抜き放とうとした瞬間、ミラークの“服従”のシャウトが健人に襲い掛かった。

 脳裏に刻まれたのは“自らの刃で仲間達を切り裂いた後、己の喉元に突き立てろ”という命令。

 思わず刃を振り抜いてフリア達に斬りかかりそうになる自分自身に驚きながらも、健人は舌を噛んで頭に刻まれた命令に抗う。

 

「ぐっ、ぐぐぐ……」

 

「ふむ、仲間諸共自害するように仕向けたのだが、存外抵抗できると見える。だが、所詮若造だ。私の敵ではない。ファス、ロゥ、ダーーーー!」

 

 口元から血を滴らせながらも服従のシャウトに抗う姿に、ミラークは素直に感嘆の声を漏らしたが、己との力の差を再び健人に見せつけるように“揺ぎ無き力”を服従のシャウトに抗うことに手一杯な健人に叩きつけた。

 

「がっ!?」

 

 ピンボールのように吹き飛ばされた健人の体は背後に岩にぶつかり、さらに宙を舞って地面に叩きつけられる。

 ドラゴンアスペクトのシャウトも効果時間が切れたのか、健人の体を覆っていた光鱗も霧散した。

 

「随分と姑息な時間稼ぎをしたようだが、所詮は悪あがきにすぎん。間もなく私は復活する。その時こそ、このソルスセイム、そしてタムリエルの運命は我が物となるのだ」

 

 ミラークの精神体が、再び閃光と共に消えていく。

 やがて光が完全に収まると、そこには骨と化したクロサルハーの遺体だけが残されていた。

 

「ケント、大丈夫!?」

 

「……ああ、体は、大丈夫だ」

 

 いの一番に健人に駆け寄ったのは、カシトだった。

 カシトは地面に倒れていた健人に肩を貸して起こすと、久方ぶりの親友との再会に満面の笑みを浮かべた。

 

「久しぶりだね! ケント、すごく強くなっていたんだね。オイラ驚いちゃったよ」

 

「ああ、久しぶり。強くなったか、どうなんだろうな……」

 

 相も変わらずあまり物事を深く考えないカシトは、ミラークの事も気になってはいたものの、それ以上に健人との再会出来た事が喜ばしかった。

 カシトは純粋に健人の成長と再会を喜んでいるが、肝心の健人の表情は暗い。

 自分の力は、未だにミラークには届いていない上に、服従のシャウトに抗うのが精一杯だった。

 あのザマでは、到底ミラークには勝てない。

 なんとなくは想像してはいたものの、こうして現実として叩きつけられたことで、健人は胸に杭を打たれたような焦燥感を味わっていた。

 

「なるほど、あれがミラークか。さすがは人類最初のドラゴンボーンといったところか。あのシャウトを直接浴びてしまえば、私ですら精神を保っていられる自信はないな」

 

 傲慢で自分の力に絶対の自信を持つネロスですら、ミラークの服従のシャウトの前では正気を保っていられる自信はないらしい。

 沈黙が健人達の間に流れる。

 

「スコール村に戻ろう……。ストルンさんに話をしてみる」

 

「っ! 待って! それは……」

 

 スコール村に戻る。

 健人の言葉に宿る意思に、フリアが思わず声を上げた。

 しかし、実際に目の前でミラークの姿と力を前にしたフリアも、閲覧室の時のように声高に反対の意を唱えることは難しい様子だった。

 

「っ…………」

 

 懊悩を押し殺すように歪んだフリアの表情が、彼女の葛藤を物語っている。

 健人とフリアは互いに目を合わせることができないまま、己の無力感に身を震わせていた。

 

「お~い、大丈夫か?」

 

「バルドールさん……」

 

 その時、チャルダックの門前にいたバルドールが健人達に合流してきた。

 彼の手には、健人が落した黒檀の片手剣が握りしめられている。

 

「ケント、お前が落とした黒檀の片手剣、拾っておいたぞ……。どうしたんだ?」

 

 健人とフリアの間に流れる言いようのない重苦しい空気を察したバルドールが、怪訝な表情を浮かべる。

 

「道すがら話します。行きましょう」

 

 バルドールから受け取った黒檀の片手剣を背中の留め具にかけながら、健人は首を振った。

 彼の声に促されるように、一行はスコール村へと足を進め始めた。

 その胸に隠し切れない懊悩を漂わせながら。

 肌を裂くような冷たい風が、彼らの行く末を示すように吹き付けてくる。

 空には分厚い雲が漂い始め、嵐が来そうな空模様をしている。

 裁定の時は、すぐそこまで迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アポクリファ、白日夢の中央に屹立する巨大な塔の頂上で、ミラークは再び相対した異質なドラゴンボーンを思い返していた。

 

「まさか、我が服従のスゥームに抗えるほどの精神力を持っているとは……」

 

 服従のシャウトを浴びながらも、その強制力に抗って見せた健人。

 表情や態度には決した表には出さなかったが、ミラークはその姿に、言いようのない戦慄を覚えていた。

 ありえないと。

 彼がほんの少し前にこのアポクリファに迷い込んだ時、彼はまだ覚醒すらしていない状態だった。

 取り込んだドラゴンソウルの量も、ミラークには遠く及ばない。

 にもかかわらず、健人は腹心の上位ドラゴンを倒し、ミラークが直接浴びせた服従のスゥームに抵抗してみせた。

 それは躍進とか飛躍という言葉ですら表現できないほどの成長速度だった。

 

「あれほどの成長速度、ハルメアス・モラが手引きしたとしても早すぎる。運命は、あの小僧を選ぶのか?」

 

 ミラークは己の半生を思い返しながら、アポクリファの薄暗い空を見上げて独白していた。

 彼の記憶がある限り、彼は“ミラーク”以外の自分の名前を知らない。

 本来つけられた人間としての名は、ドラゴンによって“ミラーク”の名をつけられた時点で、両親の記憶ごと消されてしまった。

 記憶を消された彼を育てたのは、彼から名を奪ったドラゴン。

 彼の養父はミラークを人間としてではなく、ドヴァーとして育てた。

 全ては、ドラゴンによる治世をより円滑に、効率的に進めるため。

 だが、そうしてドラゴンに従うドヴァーとして生きていくことに、ある時、疑問が浮かんだ。

 なぜ、自分と同じ姿の生き物を、同じ姿をした自分が殺しているのだろうか?

 ドヴだからか? しかし、自分の姿は養父とあまりにも姿形が違いすぎる。

 彼は養父のような“剛力”も“鱗”も“翼"も無いドラゴン”だった。

 小さな疑問は坂を転がる雪玉のように大きくなっていき、やがてその疑問は養父へと向けられる。

 ある時、彼は養父に尋ねてみた。なぜ自分は、自分と同じ姿の生き物を殺しているのだろうか? と。

 そして養父はこういった。

“それが、お前の名が示す運命だ”と。

 最初はそれで納得した。

 しかし、納得したつもりにはなっても、彼もまた人間であり、積もり続ける疑問はやがて臨界点を迎える。

 そして自らの名の真の意味を知り、疑問や養父に対する忠誠は怒りへと変わった。

 そして彼は怒りのまま、養父だったはずのドラゴンを殺し、その魂と力を簒奪した。

 彼の怒りはドラゴンに従う人間達にも向けられた。

 ドラゴンに従うしかない人間の弱さそのものが許せなかったし、ドラゴンが絶対の権勢を誇っていた時代、ドラゴンに対抗するには、それ以上の力による恐怖が必要不可欠だったのだ。

 そして、彼は怒りのまま力を求め、自らに接触してきたハルメアス・モラと契約し、養父の異変を察知したドラゴンと、それに盲目的に従う人間達を虐殺し、服従のシャウトで屈服させていった。

 その時、彼は運命が自分に味方しているのだと感じていた。

 しかし、待ち受けていたのはハルメアス・モラという、自分ですら比較にならないほど強大な看守に仕え、アポクリファという監獄に閉じ込められるという未来だった。

 自由と自らの運命を求めながらも、結局彼は自らの名に縛られた。

 そして数千年間、アポクリファで力と知識を蓄えつつ、今度こそ自由になるべく行動を起こせば、彼の間に立ちはだかったのは、おおよそ信じられない成長速度をみせる異質なドヴだった。

 彼の脳裏に、再び牢獄に縛られた己の姿が思い起こされ、彼はそんな悪夢を振り払うように頭を振った。

 

「っ! そんなはずはない! 私は必ず運命を取り戻す!」

 

 彼の行動原理は全て、自分を縛り付ける運命への反逆だ。

 ミラークは健人と名乗っている同族もまた、ハルメアス・モラに目を付けられ、自分と同じように運命に翻弄されている人間だと見抜いている。

 だが彼は、自分と同じように抗う者を踏みつぶしたとしても、必ず自由を手に入れると己に定めていた。

 アポクリファのどこかで自分を睥睨しているであろうデイドラロードを睨みつけながら、ミラークは吠える。

 今一度自分の運命(名前)をこの手に……と。

 




やっとここまで書けた。後はクライマックスまで一直線!といきたいところですが、果たしてどうなるやら……

ミラークの過去については、完全にオリジナルです。
ゲーム中ではミラークの過去は断片的なので、作者独自に肉付けしてます。

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