【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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お待たせしました。ハルメアス・モラ戦中盤です。
今回は文章上の都合で少し短いです。


第十八話 真の頂を目指して

 健人達がいる塔を囲むように進軍してくる、数百に及ぶデイドラ勢。

 蜂の群れを思わせるシーカーの軍勢が塔の頂上にいる二人めがけて殺到し、塔の下では基部に辿り着いたルーカー達が次々と塔の壁を這い上がり始めている。

 

「ファス、ロゥ、ダーーー!」

 

 健人は頂上の縁から眼下を覗いて這い上がってくるシーカーの群れを確かめると、“揺ぎ無き力”のシャウトを上ってくるルーカー勢に叩きつける。

 強烈な衝撃波に飲まれたルーカー達が塔の外壁から弾き飛ばされ、下から登ってくる後続を巻き込みながら落下していく。

 地面に叩きつけられたルーカーは汚らしい臓物をまき散らしながら絶命していくが、 ルーカーの軍勢は叩き落される仲間の事は一切顧みずに、死した仲間達の屍を踏み越えながら、まるで砂糖に群がる蟻のように押し寄せ、塔の頂上を目指して登り続ける。

 ミラークもまた飛んでくるシーカー勢を長射程のライトニングテンペストで薙ぎ払うが、シーカー達はかなり間隔を広く取って向かってくる為、上手く減らす事ができていなかった。

 

「ヨル……トゥ。シューーール!」

 

 健人がミラークの討ち漏らしたシーカー達を迎撃しようとファイアブレスを放つ。

 真言として吐き出された炎の渦は一直線にシーカー群に突入し、十数体を纏めて火だるまに変えるが、やはり広域に散らばっているシーカー達を一掃することはできない。

 

「グオオオオオオオオ!」

 

 さらに、いつの間にか塔の反対側から登ってきたルーカーが頂上に到達し、健人とミラークに襲い掛かってきた。

 健人は強化された身体能力で塔を上ってきたルーカーに吶喊して瞬殺した上で、後続のルーカーを“揺ぎ無き力”で纏めて塔の頂上から叩き落す。

 とりあえず上ってきたルーカー達を排除した健人が、再び塔の縁から眼下を見下ろすと、塔を包み込むように上ってくるルーカーの軍勢は、既に大半が塔の中ほどまで登り切っていた。

 

「ミラーク、シーカー達は頼む。俺は下のルーカーをどうにかする」

 

「どうにかすると言うが、どうやってこの頂上から……って、おい!」

 

 言うが早いか、健人は迷うことなく塔の縁から跳躍し、空中に身を躍らせた。

 重力に引かれた健人の体が落下し、視界に塔を這い上がってくる数百のルーカーの群れが迫ってくる。

 

「ファス、ロゥ、ダーーーー!」

 

 落下しながら“揺ぎ無き力”のシャウトを放つ。

 塔の外壁に沿って直進していく衝撃波がよじ登ってくるルーカー達を纏めて引き剥がし、叩き落していく。

 

「落ちろ!」

 

「グギャウ!」

 

 健人は“揺ぎ無き力”の余波を受けながらも、片手で何とか外壁にしがみ付いていたルーカーに目をつけて着地し、蹴落としながら体の軸をずらして、外壁に沿うように再跳躍。

 外壁にへばりついているルーカーの群れの背中に容赦なく双刀を振るい、その命を刈り取っていく。

 しかし、飛ぶための翼をもっていない健人は、空中で方向転換ができない。

直線に跳躍するだけでは、健人の体はすぐに空中に放り出されることになってしまう。

 

「ウルド!」

 

 だが健人は、空中で“旋風の疾走”を一節だけ唱え、無理やり方向転換。

再びよじ登っていくルーカーの群れに再突入し、両手に携えた刃を振るい、塔の頂上を 目指すルーカーを斬り裂いて眼下に叩き落していく。

 ついでに大きくて重いルーカーの体を器用に足場にしつつ、三度跳躍する。

 まるでピーラーでニンジンの皮を剥くように、ルーカー達を叩き落していく健人。

 “ハウリングソウル”と“ドラゴンアスペクト”によって激増した身体能力とシャウト行使能力は、翼を持たない健人が、足場のない断崖絶壁で空中戦を行えるほどの能力を授けていた。

 

「数だけは多いな、まるでナミラの眷属のようだ」

 

 一方、ミラークは塔の頂上でシーカー達を迎撃していた。

 ミラークのライトニングテンペストの被害を受けず、自分達の魔法の射程距離に到達したシーカー勢が、次から次へと衝撃魔法をミラークに撃ち出し始める。

 

「無駄だ」

 

 だが、シーカー達が放った魔法はミラークの障壁魔法に阻まれて四散。

 逆に吸収シールドの技能でシーカー群が放った魔法の魔力をミラークは逆に吸収し、反撃の破壊魔法で敵軍を消し飛ばす。

 しかし、いくらミラークがシーカー達を落としても次から次へと現れるシーカー達は、確実にその数を増やしていた。

 

「手が足りんな。なら、相応の力を使うまでだ」

 

 言うが早いか、ミラークがシャウトを唱える。

 使う力は、最も広域殲滅に特化したスゥーム。

 この状況において、圧倒的な数の差を覆す可能性を持つシャウト。

 

「ストレイン、ヴァハ、クォ!」

 

 ミラークがストームコールのシャウトを唱えた瞬間、健人達のいる塔を中心とした超巨大な積乱雲が発生する。

 渦を巻く雲の層が強烈な雷を発生させ、毒々しい雲に覆われたアポクリファの空を瞬く間にスカイリムの嵐で塗りつぶしていく。

 蓄えられた無数の紫電が、眼下のデイドラ勢めがけて撃ち落され、範囲内のシーカー達を焼き尽くしていく。

 

「ち、ストームコールでも止めきれんか!」

 

 だが、ハルメアス・モラが招集した配下のデイドラ勢は、既にミラークのストームコールでも殲滅しきれないほど膨大な数に及んでいた。

 数百だったデイドラの数はいつの間にか数千を超え、万に届こうかというほどに増えていた。

 自分達の損害も顧みずに直進してくるデイドラ達の姿は、ある種の不気味さを掻き立てる。

 ミラークが持つ最大級の殲滅特化シャウトでも止められないシーカーの軍勢。

 それを前にミラークが焦燥の声を漏らした時、ミラークとは別の声で紡がれたストームコールがアポクリファに響いた。

 

「ストレイン、ヴァハ、クォ!!」

 

 天候操作という強大なシャウトを唱えたのは当然、ミラークに匹敵するドラゴンボーンとして成長した健人である。

 ミラークのストームコールを二度も聞いた彼は、既にその言葉の意味を、己の内で隆起している竜の魂から引き出していた。

 塔の外壁でルーカー達を叩き落していた健人は、まだルーカー達が進出していない塔の上部付近の外壁まで一時退避し、スタルリムの短刀を外壁に突き刺して体を固定。

 その上で、ミラークのストームコールに重ねるように、己のストームコールを唱えていたのだ。

 重なった二つのストームコールは、驟雨のごとき雷雨をさらに激しいものへと変える。

 超広域に間隙なく撃ち落とされる雷雨は、まるで分厚い壁のように塔の全周を覆い、一撃で百匹のシーカー達を纏めて消し炭に変え、万に届こうかという軍勢を押し止める。

 塔を中心に発動したストームコールの余波は、塔を登ろうとしていたルーカーの軍勢にも波及し、雷撃に撃たれた不幸な巨人が後続の仲間たちを巻き込みながら落下していく。

 ハルメアス・モラが召喚した万の軍勢は、たった二人が守る塔すら落とすことができずに、無残に討ち取られていた。

 だが、ルーカーとシーカーの軍勢は、このムンダスにおいて絶対者として君臨する邪神、ハルメアス・モラに魅入られ、絶対の忠誠を誓った者達。

 己の命など微塵も顧みることなく、最後の攻勢に出た。

 

「あれは……」

 

 塔の外壁に佇んでいた健人が、雷雨の奥にその存在を見た。

 巨大な雲を思わせる程に密集したシーカーの軍勢。

 バッタの蝗害を連想させるデイドラ群はさらに一点に集合し、巨大な蛇のようにのた打ち回り始めた。

 それはさながら、襤褸を纏った巨大な蛇。

のた打つシーカーの巨蛇は毒の海にその頭を突っ込み、泳いでいたルーカー達すらも飲み込みながら、健人達のいる塔めがけて向かってくる。

 

「っ!? 戻れケント! あれは拙い!」

 

「ウルド、ナー、ケスト!」

 

 向かってくるデイドラの集合体を前に、健人が即座に旋風の疾走で塔の頂上へ戻る。

 頂上から見れば、向かってくるデイドラ集合体の異質さが、改めてよく分かった。

 健人とミラークのストームコールが既に何百何千とデイドラ集合体を撃っているが、痛痒を感じた様子がない。

 目を凝らして見ると、集合体を包む襤褸の隙間から、巨蛇の表面に取り込まれたルーカー達が鱗のようにへばり付いているのが見えた。

 雷の直撃で鱗となっているルーカー達が剥がれ落ちるが、即座に集合体の中に取り込まれている残りのルーカー達が穴を塞ぐ。

 無数に寄り集まって、まるで巨大な蛇のごとく一つの生物と化したデイドラの集合体は、今度こそ主神の命を果たさんと健人達に向かって突撃してくる。

 

「くそ! こっちに突っ込んでくるぞ!」

 

「私がやる!」

 

 ミラークが詠唱を開始する。

 持ちうる全ての魔力を両手に展開した術式に叩き込み、向かってくる巨蛇を迎撃せんと咆える。

 立ち上る魔力が渦を巻きながら収束し、ミラークの全身が強烈な紫電を纏い始めた。

 

「貫け!」

 

 ライトニングテンペスト。

 達人魔法の中で最高位の極雷が、迫りくるデイドラ集合体に直撃する。

 今、シーカー達はストームコールの被害を最小限にするために、極度の密集状態になった上でルーカー達を取り込んでいる状態だ。

 貫通力に優れるライトニングテンペストなら、上手くいけばここでデイドラの軍勢を一掃できるかに思われた。

 

「っ!?」

 

 だが、そうはならなかった。

 仮面の下のミラークの表情が、驚愕に染まる。

 正面から激突する形になったライトニングテンペストとデイドラ集合体。

 だが、ミラークの極雷はデイドラ集合体を貫くことはできず、四方に散りながら集合体の外皮を舐めるのみだった。

 よく見れば、集合体の前面にルーカー達が連なり、まるで盾のようにライトニングテンペストを受け止めている。

 ミラークの極雷は数十階建ての塔すら倒壊させるほどの威力があり、ルーカーの盾は瞬く間にその数を減らしていくが、表層のルーカー達が息絶える前に、集合体内部で新たに作られた盾が次々と前面に迫り出してきていた。

 

「ぐううう……!」

 

 このままでは先にミラークの魔力が尽きる。

 そう判断した健人は、即座に駆け出していた。

 

「ケント!?」

 

 前に飛び出した健人の姿に、ミラークが驚きの声を上げる。

 健人のシャウトでも、ミラークのライトニングテンペストに匹敵するだけの火力を瞬間的に出すことはできるだろう。

 だが、ミラークのように持続的な照射はできない。

 そのようなシャウトを、健人はまだ学んでいないのだ。

 だが、問題はない。

 既に健人は、必要となる力の言葉を知っている。

 それは、今この瞬間にも、彼の深奥で猛り続けるスゥーム。

 あらゆるものを震わせるそのシャウトなら、あの堅牢で醜悪ながらも一つの生物のように振る舞う集合体の統率を揺るがせることができるはず。

 

「モタード……ゼィル゛!」

 

 ハウリングソウル。

 今この瞬間も己の内側で響かせているその声を、外界へと向かって叫ぶ。

 文字通り魂すらも震わせる強烈な真言は、声という形で発せられた瞬間、強烈な振動波となって集合体を飲み込む。

 多少集合体の動きを鈍らせ、堅牢な盾に綻びを作れればいいと思っていた健人だが、次の瞬間、たった二節のハウリングソウルは予想以上の効果を発揮した。

 集合体の盾となっていたルーカー達の装甲が全て弾け、柔らかい肉質がまるで電子レンジにかけた卵のように破裂する。

 しかも、健人のハウリングソウルの影響は前面に展開していたルーカーだけでなく、集合体全体に波及していた。

 巨蛇の表面や盾となっているルーカー達だけでなく、予備として巨蛇の体内に納められていたルーカー達や集合体を構築していたシーカー達が次々に爆散し始める。

 さすがにその巨体全てを爆散させることは出来なかったが、健人のハウリングソウルによってルーカーの盾はすでに役立たず同然なものとなり果てた。

 そして、その巨体をミラークのライトニングテンペストが貫く。

 健人のシャウトで機能不全に陥っていた巨蛇は、今度こそ命脈を絶たれ、爆発四散。

 残ったデイドラ達もストームコールの雷撃によって、死に絶えていった。

 やがて、全てのデイドラ達の動きが消えると共に、ストームコールの効果時間が切れ、全天を覆っていた雷雨が晴れていった。

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

「ぜぇ、ぜぇ……」

 

 健人とミラークの荒い呼吸が、静寂を取り戻した塔の頂上に流れて消えていく。

 押し寄せってきていた万を超えるルーカーとシーカーの軍勢は、すべて倒されていた。

 気が付けば、シャウトと魔法の余波で塔は半壊状態。

 外壁のあちこちに穴が開き、頂上の一部は崩れ落ちている。

 塔の基部周辺には無数のルーカーの死体が折り重なり、毒の海にはシーカー達が纏っていた襤褸が数えきれないほど漂っている。

 

「まさか、この領域にいた我が配下の全てを倒しきるとはな……」

 

 空に漂う多数の単眼が、健人とミラークに驚きに満ちた視線を向けている。

 その声色にも、純粋な驚嘆に満ちていた。

 

「見事、という他ないな。だが、ここまで暴れられて、放置することはできん」

 

 だが、その声色もすぐに平坦で、抑揚のないものへと変わる。

 今までは興味と好奇に身を委ねていたハルメアス・モラが、白日夢内の配下全てを殺されたことで、ついに重い腰を上げたのだ。

 次の瞬間、アポクリファの空を覆う雲海を斬り裂くように、巨大な単眼が空から降りてきた。

 巨大な単眼の周囲には泡のように浮かんでは消える無数の小さな目があり、その瞳は瞬く間にアポクリファの空全域を覆いつくす。

 

「ふ、ついに本体のお出ましか……」

 

 今まで健人達の周囲に浮かんでいた単眼とは比較にならない大きさの巨大な瞳を見上げて、ミラークが呟く。

 次の瞬間、本体の巨眼にある∞を思わせる瞳孔が怪しい光を放ち始めた。

 すると、ハルメアス・モラの前面の空間に、幾重にも重なるような曲線で形作られた光の球体が現れ、さらに空中に巨大な魔法陣が描かれる。

 球形に折り重なる魔法陣は純白の光を放ち、唯々優美で静謐な光を放っている。

 一方、球形の魔法陣を抱き、全天を覆う魔法陣はどこまでも毒々しい光を帯び、陣の彼方此方には濁った汚泥を泳ぐ蛭のように、無数の意味不明な文字が羅列されている。

 

「なんだ? あの巨大な魔法陣は……」

 

 見たこともない巨大な二つの魔法陣。

 空中に展開されたそれは、オブリビオンというニルンとは異なる世界での出来事である事を鑑みても、明らかに異質だった。

 ミラークの魔法も強大だったが、ハルメアス・モラが展開した魔法陣は、明らかに人の領域を超えた規模の魔法を使う事を想定された陣だった。

 

「っ! 来るぞ! ケント、こっちに来て障壁の影に……なっ!?」

 

 ミラークが上空に向けて障壁を展開しながら、健人に退避するようにせっつく。

 しかし次の瞬間、なぜかミラークが展開した障壁が霧のように掻き消えた。

 

「ぐっ、これは……」

 

 続いて、強烈な倦怠感が健人とミラークの体に襲い掛かる。

 何事かと上空に目を向けてみれば、ハルメアス・モラが展開した魔法陣に向かって四方八方から魔力の源である精霊光が集まっている。

 

「まさか、ハルメアス・モラが周辺一帯全ての魔力を……」

 

「“消し飛べ”」

 

 ハルメアス・モラが宣言した瞬間、その言葉を形とするように強烈な衝撃波が上空から襲い掛かり、ミラークの塔を一撃で粉砕した。

 

 

 




というわけで、ハルメアス・モラ戦中盤でした。
ハルメアス・モラの戦闘シーンは本編中では存在しないのでほぼ全てオリジナルをぶち込んでいます!

次のお話はほぼ書き終わっていますので、そうそう時間もかからず投稿できると思います。



ハウリングソウルについて

ハウリングソウルは共鳴させる対象によって効果が異なり、前回は健人は己の内に向けてシャウトを放って自身の能力を激増させたが、今回のお話では外界に向けて放つことで、強烈な振動波を発生させている。

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