【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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予想以上にウインドヘルム編が長くなったので、再び章を分割!



第6章最終話 幼き家族の誕生

 ダークエルフ達が使う氷雪の破壊魔法は、街を炎から守る上で大きな力となった。

 健人の予測通り消火効率は跳ね上がり、生き延びた人達も加わることで、さらにその速度は増した。

 健人達が消火活動を開始してから二時間後、ヴィントゥルースが齎した大火災は、その全てが完全に消し止められていた。

 ウィンドヘルムという大都市を襲った大火の規模を考えれば、信じられないほどの速度である。

 生存者の救助も健人がオーラウィスパーのシャウトを使う事で迅速に行われ、不眠不休で救助活動が続けられた結果、日が変わり、朝になるまでにはほぼ全ての救助活動を終えていた。

 残ったのは遺体の回収くらいであり、救助活動を終えた健人達は城内に割り当てられた部屋で仮眠を取った。

 そして目が覚めた健人は、カシトと一緒に出迎えに来た兵に連れられ、ある人物と面会していた。

 

「ご苦労だったな、ドラゴンボーン。ウィンドヘルムの主として、礼を言おう」

 

 ウルフリック・ストームクローク。

 健人はヘルゲンで処刑場に送られそうになっている彼を一度見ているが、こうして面と向かい合って話をするのは初めてである。

 彼の隣には執政のヨルレイフと副官のガルマルが控えている。

 面会した場所はウルフリックの私室。

 現在、王の宮殿の大広間は避難してきた避難民で埋まっているためだが、功績を上げた健人と面会するには人気が少ない。

 この部屋にいるのは、健人とカシト、そしてウルフリックとガルマル、ヨルレイフのみ。

 王の私室という特別な場所に案内しながらも人気を避けている辺り、健人という存在が、いかにウルフリックにとっては扱い辛い存在であるかを窺わせる。

 

「街を救ってくれた褒美を送ろう、受け取るがいい」

 

 ウルフリックの隣に控えていたヨルレイフが、恭しく報酬の入った袋を健人に手渡してくる。

 その大きさは、両手に納まるくらい。

 ドラゴンを退けた報酬にしてはやけに軽いものだった。

 

「なんだ、随分少ないね~」

 

「カシト……謹んで頂きます。ウルフリック首長」

 

 カシトの文句を聞き流したウルフリックが頷くのを確かめ、健人は素早くに受け取ったものを懐にしまう。

 街を救った英雄にしては殊勝な健人の態度に、執政のヨルレイフはほう……と感嘆の声を漏らした。

 事を荒立てるのを嫌う日本人らしい態度であるが、健人としては報酬も辞退したかった。

 これだけの災禍に見舞われた街から報酬を分捕るのは気が引けたのだ。

 だがこのような権力者からの褒美となれば、受け取らないのも後々問題となる事を考えると、出された物を突き返すことも出来なかったのである。

 

「……出来る事なら、宴を開きたいところだが、今はそんな暇も余裕もない。街の被害も大きく、渡せる報酬も少ない事を許して欲しい」

 

「いえ、多くの民が家を追われているこの状況です。私への報酬よりも、少しでも早く避難民に必要な物資が行き渡る事が肝要かと……」

 

 ウルフリックの言葉に、健人もまた礼儀正しい口調で返す。

 

「ドラゴンボーンの高潔な心に感謝しよう。だが、ドラゴンを倒した者に対して渡すには、あまりの報酬が少なかったことも事実。

 故に首長として、君をウィンドヘルムの従士に任命し、この街で土地を買う権利を与えよう。また私ができる限りで、ドラゴンボーンが求めるものを出来る限りの望みを叶えようと思う。

 何か望むものはあるか?」

 

 しかし、ウルフリックとしても、ドラゴン撃退と言う戦果に対して十分な報酬を用意できないということは体面にかかわる問題だ。

 だからこそ、ウルフリックは従士という名誉職と土地を買う権利を健人に与え、さらに彼が願う望みをかなえると言ってきた。

 健人の活躍は既にウィンドヘルムの民の多くに知られている。

 ドラゴンを逃がしたことに関しては、一部の民が反発してはいるものの、ヴィントゥルースを撃退したその力と功績は疑いようがなく、従士となるための要件は満たしている。

 

「ありがとうございます。では、もう一人のドラゴンボーン、リータ・ティグナについての情報を求めます。

 従士については、私はウィンドヘルムに留まるわけにはいかず、土地に関しては資金的な理由から、どちらも後の機会とさせて頂きたい」

 

「分かった。首長の権限において、君が望む時ウィンドヘルムの従士に任命し、同時に土地を買う権利を与えよう」

 

 従士の称号については、明確に帝国と敵対しているウィンドヘルムの従士になってしまった場合、従士の名でウィンドヘルムに縛られる可能性がある事から、健人は辞退した。

 ウルフリックもドラゴンボーンという戦力は欲しいだろうが、ヴィントゥルースを正面から倒した健人は自分の身に余る戦力と考えているのか、特に引き留める様子もなく健人の願いを受け入れた。

 ウルフリックとしては、とりあえず健人に対して出来る限りの報酬を与えようとする態度を見せることが出来た時点で、自分の権威は十分示せたと言える。

 

「それから君の姉だったか?」

 

「ええ、血は繋がっていませんが。私は彼女に会わなければなりません」

 

 土地に関しては、“壊れた白日夢”という爆弾持ちの健人にとっては、街中の家は好ましくないことからやんわりと辞退した。

 実のところ、資金云々というのは、健人が断るための方便である。

 ウルフリックには資金が足りないと言った健人ではあるが、意外な事に、実は彼はちょっとした小金持ちなのだ。

 なぜなら、レイブン・ロックのセヴェリン邸をモーヴァイン評議員に売り払ったりしていたからだ。

 他にも健人はちょっとした収入の当てがあり、今はそれほどお金には困っていない。

 だからこそ、代わりに健人が欲したのは情報。姉であり、同じドラゴンボーンであるリータの居場所に関する情報だった。

 

「ふむ、残念だが、そちらの方ではあまり力にはなれそうにない。冬前にリーチで何かを探しているという話を聞いたことがあるくらいだな。後は、件のドラゴンボーンは既に、リーチを離れているという事くらいだ」

 

 ウルフリックもリータの居場所に関しては知らないらしい。

 だが健人としては、リータがリーチホールドから去ったことが分かっただけ御の字だ。

 最悪の場合、一度リーチまで行って足跡を追わなければならない可能性もあったのだ。

 問題は、彼女の行き先だ。

 ドラゴンレンドを求めて世界のノドへ向かったか、もしくは別の場所を目指しているのか。

 その情報を得なければならない。

 

「そうですか。時間も惜しいですので、私は直ぐにこの街を去ろうと思っています。出来る事なら……」

 

「街の正門先の厩を訪ねれば、馬車もあるだろう。しばらくすれば、新しい情報も入ってくるだろう。もし入れば、そちらに最優先で送ろう」

 

 ウルフリックも健人が求めている情報については、最優先で送ってくれると約束してくれた。

 彼としても、金銭や物資に依らない報酬は懐を傷めない事から、歓迎している様子だった。

 

「ありがとうございます。ウルフリック首長、少しお尋ねしたいことがあります」

 

「ふむ、なんだ?」

 

「今回の災禍、多くの建物が焼かれました。ですが、それでも被害は最小限度にとどまったと思われます」

 

「……そうだな。それは疑いようがない。お前のおかげだとガルマルから聞いている」

 

「確かに、私は微力を尽くしました。ですが、街の消火が迅速に行えたのは、ダークエルフ達の協力があったからです。

 彼らの魔法がなければ、これほど迅速な消火と救助活動は不可能だったでしょう」

 

「……何が言いたいのだ、ドラゴンボーン」

 

「言葉にする必要はありません。功には褒美を、仁には義を。望むのはそれだけです。それでは、私はこれで……」

 

 ウルフリックの返答を聞かずに、健人は一礼して、謁見をしていたウルフリックの私室を後にする。

 廊下に出て扉を閉めたところで、健人は安堵から大きく息を吐いた。

 

「ふう……」

 

 健人としては、三人目の首長との対面であった。

 ホワイトラン、モーサル、そしてウィンドヘルム。

 レイブン・ロックのモーヴァイン評議員との対面を含めれば、四人目。

 首長という立場が領主、もしくは国王だと考えれば、地球にいた時には考えれられないほどのコネクションを持ったことになる。

 とはいえ、気質がまっとうな地球の一般市民である健人には、権力者との対面は何度やっても気が滅入るものであった。

 受け取った報酬が入った小袋を懐から出して放り投げて弄びながら、今一度大きく息を吐く。

 空中で舞う小袋からはカラカラと軽い音が響いてくる。

 どうやら金銭ではなく、宝石などの貴金属が入っているらしい。

 荷物をできるだけ少なくしたい健人としては、旅をする上で嵩張らない宝石などは、報酬としてありがたい。

 

「それにしても、ドラゴンを撃退した割に報酬がシケてるよね~」

 

「言うな。この街の惨状を考えたら、しかたないさ」

 

 とはいえ、袋の中の宝石はどう見積もっても、ヴィントゥルースという強大なドラゴンを撃退した報酬には見合わないだろう。

 ヴィントゥルースのシャウトで壊滅的な被害を受けたウィンドヘルムは、復興に多大な金子を必要とする。

 だからこそウルフリックは従士の称号や土地を買う権利等を代わりに提示してきたのだ。

 健人としても、あれだけの被害を受けた街から報酬をふんだくるのは気が引ける。

 

「でもあの首長、称号とか権利とかを差し置いても、健人のそんな性格も含めてワザと報酬少なめにしたんじゃない?」

 

「多分な。でも、その辺はどうでもいいよ。街の中の土地を買っても今は活かせないし、資金に関しては今、それほど困っていない。それよりも、リータ達に関する情報を得られる可能性を高める方がいいさ」

 

「首長は何とか権威と資金を保ち、ケントは情報を得る、か。まあ、落としどころはそんな所だろうね」

 

 今回のドラゴンとの戦闘で、ウルフリック達はかなりの被害を被った。

 破壊された街は元より、ドラゴンに対して有効な手段を取れなかった事も、ウルフリックの威厳に影を残すこととなるだろう。

 だがウルフリックは、健人に称号と土地を買う権利を与えようとすることで、多少ではあるが、己の威厳を保つことに成功した。

 ウルフリックの執政下であり、帝国との戦争中であることを考えれば、本来ならノルドであっても、他所の人間に土地を買う権利が与えられるはずもない。

 当然、従士の称号は言わずもがな。

 今までのウィンドヘルムの状況を考えれば、法外と呼べる報酬なのだ。

 

「カシト、俺の最後の一言は余計だったかな?」

 

「どうだろうね。でも、今のウルフリックは健人の言葉を無視することは難しいと思うよ。でもまあ、その辺の問題はどの道、この街の人間達がどうにかしないといけない話だね。

 オイラ的には、別に態々言う必要もなかったと思うけど……」

 

 ノルドが支配し、他の全ての種族が冷遇される街の支配構造。だがそれらは、今回のドラゴン襲撃で大きな影響を受けた。

 そしてドラゴンの襲撃は、この街の支配構造だけでなく、ストームクロークが掲げていた大義の根幹であるノルド主義にも巨大な楔を打ち込んだ。

 ウルフリックが掲げていた理想だけでは、自分達の街を守り切れないと証明されてしまったのだ。

 そしてウィンドヘルムは大打撃を受け、経済活動はほぼ停止状態。

 今後の見通しは暗く、物資は慢性的な枯渇状態になる事はほぼ確定だ。

 これから先、この街は、あらゆる困難に見舞われる事になるだろう。

 それはノルドだけで解決できることではなく、ましてダンマーやアルゴニアンだけでも不可能だ。

 これから彼らが向かう道は暗い。選択を誤れば、即座に破滅の坂道を転がり落ちる結果になるだろう。

 だが、災いは転じれば福になることもある。

 この困難を乗り越えるために、ノルド、ダンマー、アルゴニアン達のあらゆる力が試されることになるのだ。

 同時に、この街で健人ができることはもうなくなった。

 彼は強大な戦力ではあるが、食べ物を作ることも、崩れた建物を直すこともできない。

 後は、この地に生きる人たちが頑張っていくしかないのだ。

 

「そうか……。さて、あと一つ、やるべきことをやっておこう」

 

 健人はカシトを連れて王の宮殿の広間へと向かう。

 王の宮殿の広間とその正門前には、多くの避難民達で溢れている。

 特に宮殿内の謁見の間には、怪我人が所狭しに並べられていた。

 今では落ち着いているが、少し前までは城の宮廷魔術師や、回復魔法を使える者達が、必死の治療を行っていた。

 回復魔法を使えない者も、ノルドやダンマー、アルゴニアンなどの種族に関係なく、傷を負った者達を必死で癒していた。

 扉を無くした王の宮殿正門をくぐれば、崩れた外壁と急ごしらえのテント、そして瓦礫を片付けている人達が見えてくる。

 テントの傍では大鍋で炊き出しが行われ、作業が一段落した者達が代わる代わる食事を取っており、食事を終えた者から再び作業に戻っていく。

 そこでも、ノルドもダンマーもアルゴニアンも関係なく、皆が出来ることを精一杯こなしていた。

 今までならダンマーやアルゴニアンに拒絶反応を示していたストームクロークや衛兵たちも、何も言わずに彼らと一緒に作業をしている。

 

「…………」

 

 健人にはその光景が、この街にこれから降りかかる闇を払う光になってくれることを願わずにはいられなかった。

 だがその時、城から出てきた健人は、自分に向けられる憤りと憎しみに染まった視線に気づいた。

 向けられる視線を追えば、そこには宮殿の広間でヴィントゥルースを抑え込んだ際に、健人に詰め寄ってきた衛兵達がいる。

 彼らの廻りにいる人達から向けられる視線も、どこか複雑な感情が入り混じったものだった。

 おそらくは、宮殿内で健人がドラゴンを逃がしたことを聞いたのだろう。

 ノルド、アルゴニアン、ダンマー等、この街に住むすべての人種がいるが、特にノルド達から向けられる視線は迷いや戸惑いに満ちたものが多い。

 自分達を助けてくれたが、元凶となるドラゴンを逃がした者。

 無論、健人がいなければ被害はもっと大きく、この街が壊滅していたことはほぼ間違いないし、彼らもこれだけの被害を前にしてその事実に気付いていないはずがない。

 だが、理性で分かっていても、感情は近視眼的に元凶を求めずにはいられず、同時に彼らの目が“ドラゴンを逃がす”という行為を行った健人に向けられるのは必然といえた。

 

「…………」

 

 針の筵のような視線の雨を、健人は正面から受け止める。

 彼としては、この状況は想定していたことだった。

たとえ憎まれようとも、それでも声を上げると決断した。そして行動を起こした以上、その結果は甘んじて受けなければならない。

 だがその時、戸惑いの視線を向ける者達の中から、一組のノルドの夫婦が歩み出てきた。

 

「ありがとう。君のおかげで、妻を失わずに済んだ。本当にありがとう……」

 

「え……」

 

 歩み出てきた夫婦は健人の前に立つと、満面の笑みを浮かべて健人の手を取り、深々と頭を下げてきた。

 その夫婦に触発されたのか、ダンマー、アルゴニアンだけでなく、他のノルドの中にも、城から出てきた健人に駆け寄り、礼を述べてくる者達が出始めた。

“ありがとう!”“貴方のおかげで生き延びることが出来た”“もしも今度ウィンドヘルムに来ることがあったら、何か礼をさせてほしい”

 中には今度産まれてくる子供に健人の名前を付けさせて欲しいという者もいた。

 無論、宮殿前にいた全ての人が健人に礼を言ったわけではない。中には衛兵と同じように、怒りの視線を向けてくる者もいる。

 しかし、いっそウィンドヘルムに住む全ての人達に恨まれる事を覚悟していた健人としては、彼らから贈られたお礼の言葉は、思わず困惑の声を漏らしてしまうほどのものだった。

 確かに、ドラゴンを逃がした健人を恨む者もいる。だが同時に、感謝してくれる者もいるのだ。

 その当たり前の事実に気付かされ、健人は鼻の先がツンとしみる感覚と共に、自然と笑みを浮かべた。

 

「ケント様、お疲れ様です。ウルフリック首長とのお話は終わりましたか?」

 

 城から出てきた健人達を見つけたリディアが、周囲の喧騒をかき分けるように出てきてケントの側に歩み寄ってくる。

 彼女の傍にはソフィの姿もあった。

 

「ええ、終わりました。ソフィも大丈夫かい?」

 

「う、うん……」

 

 はにかむように俯いたままのソフィに、健人は膝を立てて目線を合わせる。

 これから健人は、彼女に聞いて確かめなければならないことがあった。

 

「さて……ソフィ、君はこれからどうする?」

 

「……え?」

 

 唐突に振られた質問に、ソフィが戸惑いの声を漏らした。

 

「君にはいくつか選択肢がある。この街に残るか、それともリフテンの孤児院に行くか……」

 

「……」

 

 これから先。

 そんな事、ソフィは考えたことはない。今まで一日一日を生きるのが精一杯だった彼女に、自分の未来を考えられる余裕などなかった。

 当然ながら、健人の質問に押し黙り、何も言えなくなってしまう。

 健人に尋ねられた事でソフィはようやく自分のこれからについて考え始めるが、当然ながらすぐに結論など出るはずもない。

 しかし、それでも彼女は一か月近く、この厳しい街で生きてきた少女だ。

 提示された選択肢をすぐに自分の頭の中で反芻するが、どれもしっくりと来ない。

 ウィンドヘルムに残る……最後の肉親がなくなり、辛い思い出しかないこの街に残りたいとは思わなかった。

 リフテンの孤児院へ行く……リフテンには行ったことがない。孤児院にいる人もどんな人かわからない。そんな場所に行くのは、不安しかなかった。

 考えても結論が出なかったソフィは、寂しさとやるせなさを秘めた瞳で、健人を見つめた。

 冷え切った自分の心と体を温めてくれた人。

 ドラゴンを逃がしたことを悪く言う人もいたが、彼女にとって健人は英雄だった。

 出来る事なら、この人と一緒に行きたい。でも、ソフィには自分からその言葉を口にはできなかった。

 なぜなら、彼は自分から見てもあまりにも遠い存在であり、提示された選択肢の中に健人についていく、というものはなかったから。

 たとえ大人であろうとも、提示された選択肢以外の道を選ぶ勇気のある者は少ない。

 それでも、ソフィの願いは彼女が口に出さずとも、その瞳は雄弁に彼女の願いを叫んでいた。

“一緒に行きたい!”と。

 口に出来ない願いを秘めたソフィの眼差しに、健人は静かに口を開く。

 

「もしくは……俺達と一緒に行くか?」

 

 健人が口にした言葉が一瞬信じられず、ソフィは思わず目を見開く。

 

「……いいの?」

 

「見てしまったからね。今更見捨てるなんてことは出来ないよ。ただ、道中は長いし……とても危険だ。それに獣も出るし、俺に至ってはこの街を襲ったドラゴンに襲われる身だ。それでも、一緒に……」

 

「っ!?」

 

「わっ!……っと」

 

 健人の言葉を言い切る前に、ソフィは健人に抱き着いていた。

 彼女の喜びを示すように、首に回されたか細い手にギュッと精一杯の力が込められる。

 

「行く……」

 

「そうか、分かったよ。これからよろしく、ソフィ……」

 

「うん、お兄ちゃん」

 

 健人は抱き着いてくるソフィの背をポンポンと叩きながら、彼女を抱き上げて立ち上がる。

 健人に抱き上げられ、首筋に顔を埋めるソフィの顔は、安堵と喜びに満ちた表情を浮かべていた。

 

「リディアさんは……」

 

「もちろん、ご一緒します。それで、どこへ向かうのですか?」

 

「……モーサルです。リータがリーチから出た事は分かったので、リーチに近いホールドで情報を探そうかと思います。

それからもう一つ、どうしてもやっておかないといけない事があるんです」

 

 ソフィを抱き上げながら、健人は次の目的地について語る。

 モーサル。

 かつて健人が修行を行っていた場所であり、霧に包まれた幽玄の街である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 健人が去ったウルフリックの私室では、首長のウルフリックと執政のヨルレイフ、副官のガルマルが今後について話し合っていた。

 

「良かったのですか? あのドラゴンボーンを従士に任命できれば……」

 

「私としても彼の力は惜しい。だが彼は有能な戦士ではあれ、私に忠実な戦士にはならないだろう。

 それに力でドラゴンボーンをこの街に留めることは出来ないし、今のウィンドヘルムは、彼を受け入れられるようにはなっていない」

 

 ヨルレイフがドラゴンボーンを手中に収めなかったことに異議を唱えるが、彼の言葉はウルフリックに止められた。

 ウルフリックにとっても、ドラゴンボーンは希望になりえるが、使い方を誤れば自分の権威を落とし、ウィンドヘルムに崩壊を招く可能性がある。

 これはドラゴンボーンそのものが反乱を起こすと言うよりも、ノルドではない異種族である彼を旗頭として、ダンマーとアルゴニアンが反旗を翻す可能性だ。

 ウルフリックとしては、健人の性格が反逆や反乱を起こすようなものとは考えにくいと思っているが、ノルドに対して常日頃から不満を抱いてきたダンマーとアルゴニアン達は別だ。

 ウルフリック自身も他種族を排斥することで自分の権威を確立してきたことは自覚があるだけに、事を誤ると即座に自分の首が飛ぶことも理解している。

 

「とにかく、一刻も早く破壊された街を直さなければならん。今から頭が痛いのう……」

 

「はあ……全くです」

 

 ガルマルの呟きに、ヨルレイフが同意する。

 取りあえず、今は破壊された街の修復を終えることが急務である。

 幸い、元々石造りの家が多いウィンドヘルム。

 サンダーブレスによる被害は別として、火の廻りは健人達の尽力により早期に消火できた。

 ストームコールで焼けた家はその被害は屋根などに集中しており、屋根に空いた穴などをどうにかすれば、とりあえず住むことは出来る。

 問題となりそうな灰色地区の被害も街の西側に比べれば軽微であり、一般人のノルドが住む住宅地も半分近い家がまだ人が住めそうな程度の被害で収まっている。

 逆に酷かったのが市場や高級住宅地などで、特に北西の高級住宅地の建物は、健人とヴィントゥルースが闘ったことでほぼ壊滅状態だった。

 

「幸い、街道の雪は解け始めている。リフテンとドーンスターに援助を求めるしかないな……」

 

「はあ、支払いを考えただけでも頭が痛いですな……」

 

 執政のヨルレイフは援助の見返りを考え、頭が痛そうに額に手を当てて天を仰いだ。

 

「早急に始めねばならん。街の修復が終わるまでは、ダークエルフもアルゴニアンも我が民達と同じように扱うのだ。今異種族に反乱を起こされるわけにはいかん」

 

「幸い、港の施設は無事だ。アルゴニアンはそう問題ないだろうが、問題はダークエルフか……」

 

「そうだ。今サルモールや帝国に付け入る隙を与える訳にはいかない。この危機を乗り越えるために、頼むぞ」

 

 ウルフリックの言葉に、ガルマルとヨルレイフが臣下の礼で答える。

 

(この機会を、帝国もサルモールも逃すはずがない。それでも私は……)

 

 北の街の首長は内心から湧き上がる不安を、厳つく、憮然とした表情で押し殺しながら、今一度、己の守るべきものを胸の奥で反芻していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 真央の月の1日。

 地球の暦に当てれば6月に当たる月の始りの日、リータ達はスカイリム北の混沌の海を訪れていた。

 正確には、混沌の海に広がる氷原である。

 すでに季節は春になっているが、北の混沌の海に面するこの場所にはまだ分厚い雪や氷が残っている。

 リータ達がこの地に来たのは、もちろん、ドラゴンレンドの為だ。

 ドラゴンレンドを手に入れるために必要な星霜の書。それを見つけるために、とある人物を探してこの地に来たのだ。

 そしてリータとドルマは、目的の人物を見つけていた。

 

「掘れよドゥーマー! はるけき彼方へ。お前の失われた未知なるものを知り、私はお前たちの深淵まで至る」

 

 セプティマス・シグナス。

 ウィンターホールド大学で最も星霜の書について知る人物であり、同時に自分の研究に没頭するあまり大学を出奔した奇人であった。

 リータとセプティマス。二人が対面している脇の陰で、黒い泡がコポリと湧きたっていた。

 




というわけで、ウインドヘルム編は終了です!(ヤケ
いや、ほんとに長くなっちゃったよ。こんなに長くする気なかったのに……。
そしてようやく登場したリータはセプティマスと邂逅しています……。
とりあえず、続きは次章ということで、今回はここまで! ああ、ちっくしょう!



そして気が付けば、この小説を一年以上書いていた……。

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