【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル 作:cadet
ウィンドスタッドは、モーサルの北、ハイヤルマーチホールドの中でも外れに位置する場所である。
北の荒海に突き出す形で存在する半島。
人があまり寄り付くような場所ではないが、湿地帯からはやや離れた位置にあり、人の往来が困難な点を除けば、ハイヤルマーチの中でも農業が可能な、数少ない土地である。
そんなウィンドスタッドに、ケント達は訪れていた。
目的は、ここに拠点となる家を建てることである。
家の間取りなどは、既にヴァルディマーや製材所で働いているソンニール、フロガーに相談した上で決めていた。
ソンニールとフロガーは家の建設まで手伝ってくれるらしく、船に木材を積んで、モーサルからウィンドスタッドまで往復を繰り返してくれている。
建築に使われる木は、伐採後に十分乾かす必要がある。あらかじめ木の中の水分を十分抜かないと、歪んだり、ひび割れを起こしてしまうのだ。
周辺の木を切って使うには時間がかかりすぎる。そのため、健人は手間がかかっても、適した木材を購入することを選択していた。
また、重機などがないこの世界では、家の建築は全て人の手によって作られる。
故に、家の設計が決まり、施工が始まった段階で、健人達はウィンドスタッドに滞在しながら建築作業を開始していた。
「ケント様、梁の固定に釘が要ります。残っていますでしょうか?」
「ああ、さっき作ったやつがそこの桶に入ってるから、持ってって」
健人の主な仕事は、建築に必要な釘やヒンジ、錠前などの部品を作ること。
モーサルには専業の鍛冶師がおらず、このような建築を行うときは、もっぱら各々の家が行うことが主だった。
健人はソルスセイム島滞在時、スコールの鍛冶師から鍛冶の技術を学んでいる。
その為、健人は鍛冶に集中し、他のメンバーも、それぞれが適した作業を割り当てられていた。
「従士様、正面扉のヒンジがガタついているようです。調整が必要かと……」
「あれ? 芯棒とプレートのかみ合わせが悪かったか? 持ってきてくれ、調整するから」
ノルドであり、力のあるリディアとヴァルディマーは家の基礎の構築や、柱、梁の設置を担当していた。
スカイリムの家も、日本や北欧で多く用いられている、木造軸組工法を採用している。
基礎の上に木製の柱と梁を組んで家の躰躯を構築し、そこに外壁や扉を施工していく方法だ。
「んしょ、んしょ」
「よいしょ、よいしょっと……」
カシトとソフィが担当しているのは、外壁に使うレンガや粘土の作成。
さらには、湿地帯に生える繊維質豊富な草や木を使用し、土壁の下地となる小舞にも似た枠を作っている。
スカイリムの家には、日本の古民家の建築に似た部分がある。
泥や粘土、草を使った外壁などは、異世界でも共通のようだった。違うのは、木材や土の比率くらい。
ちなみに、基礎をつくるための土台には天然のセメントを使用したコンクリートが使用されている。
コンクリートの歴史は古く、地球でも9000年前には使われていた。
その後、ローマによってコンクリートは一時期大変使用されてきたが、その後衰退。近代になって大量生産の仕組みが確立したことで、復活した歴史がある。
ちなみに、古代ローマと現代のコンクリートではそれぞれ性質が異なる。
これはコンクリートを作る際に使われる混和剤と呼ばれるものがカギとなっており、ローマ・コンクリートでは火山灰、現代のコンクリートでは用途に応じて高炉スラグや化学薬品などを使い分けている。
ちなみに、経年劣化に対する耐久性では、ローマ・コンクリートは現代のコンクリートの遥か上を行く。古代ローマの建造物が現代でも残っている辺りが、その証左でもある。
代わりに、ローマ・コンクリートは乾燥に長い時間と手間がかかるなどの欠点も抱えているのだが。
とにかく、コンクリート自体はこのタムリエルにも存在していたため、健人は家の基礎にコンクリートを使う事に決めた。
「おうケント、経過は順調か?」
「ああ、ソンニールさんどうも。ええ、今のところ、問題は起きていませんよ」
突然掛けられた声に、健人が振り返ると、湿地帯側からやってくる集団がいた。
先頭にいるのは、モーサルの製材所で働いているソンニールとフロガー。彼らは健人の注文で、製材所から追加の木材をボートで運搬してきたのだ。
「フロガーさんも、ありがとうございます」
「相変わらず、律儀だな。それから、食料も十分に持ってきた。もしよければ……」
「ええ、ちょうどこれから昼飯を作るつもりだったんです。良ければ食べて行ってください」
「ありがたい。ごちそうになるよ」
健人の返答に微笑んだフロガーは、直ぐにボートに積んだ木材の積み下ろしと運搬に戻っていった。その背中は活き活きとしたオーラが滲み出ている。
モヴァルスの一件で落ち込んでいたフロガーだが、今では随分と持ち直している様子だった。
特に製材所の仕事に精を出しているようで、モーサルでも指折りの働き者として、再び街の人達に受け入れられている。
「さて、それじゃあ昼飯を作るか。ソフィ、手伝ってくれるか?」
「うん!」
ハツラツな笑みを返してくるソフィに、健人も頬を緩めながら、二人で食事の準備を始める。
今回は人数が多い。その為、手早く作れて、大人数で食べられるものをチョイスする必要がある。
健人は具材を切るのをソフィに頼み、自分は小麦粉の生地を伸ばして薄い円板を作る。
円板ができると、その上にソフィが切った具をバラまき、削ったチーズをのせて、鍛冶の炉に併設されている窯に入れる。
作るのはピザ。地球でも大人数のパーティー御用達のメニューだ。
高温の炉の中でパチパチとチーズが音を立て、食欲を誘う香りが窯の周りに立ち込め始める。
ついでに、以前作ったコンソメ擬き入りのスープも作っておく。こちらも体を温めるにはもってこいの品である。
「お兄ちゃん、そろそろいいかな?」
「ああ、皆に伝えて来てくれ」
食事ができたら、ピザを適当に切り分け、大皿の上に乗せて並べておく。
後はスープを盛る器と皿を人数分用意しておけば準備は完了だ。
そうこうしている内に、作業を終えた皆が戻ってくる。
そして各々、用意された器と皿を取ると、スープやピザを盛り付けて食事を始めた。
「おお、従士様の所の料理はやっぱり美味いな!」
「ああ、嫁にも教えてやりたいくらいだ」
作業員やソンニール達が、満面の笑みを浮かべながら、次々に料理を口にしていく。
追加のピザは今でも焼いているが、あまりの勢いで食べていくので、健人としては補給が消費に追いつくのか少し心配になっていた。
一方、少し遠慮気味に食事をしているのがヴァルディマーである。
「従士様、大変ではありませんでしたか? やはり私達がやるべきでは……」
「適材適所だよヴァルディマー。量は確かに多いけど、ソフィが手伝ってくれるからね。彼女、元々料理が上手いし。それに、ここに来る前もずっと、料理当番は俺だった。今更気にしないよ」
「それは、そうかもしれませんが……」
健人と主従関係となった今、主に食事の準備をさせるのに戸惑いがある様子だった。
そんな彼とは対照的に、リディアはソンニール達に混ざって、容赦なく食う側に回っている。ピザ三枚を口に入れてなお、両手にスープと追加のピザを抱えている辺り、本当に遠慮がない。
ちなみに、隣ではカシトが全く同じ事をやっている。
「リディア殿……」
「ははは、まあ、こっちとしては美味しそうに食べてくれるだけで十分だよ」
「ん、ん、ん~~!」
健人がちらりと隣に視線を映せば、ソフィがハムハムとハムスターのようにピザを頬張っている。
幸せ一杯の笑顔を浮かべる彼女の様子に、健人とヴァルディマーも自然と笑みを浮かべた。
そうこうしながら終わった食事タイム。腹ごなしにソフィと一緒に屋敷の建設地付近を歩いていると、少し離れた林の中から、ピイピイというか細い鳴き声が聞こえてきた。
「あれ? お兄ちゃん、この鳴き声……」
「なんだろう。鳥の鳴き声みたいだけど」
痩せた雑草の生えた草むらをかき分けていくと、手で包み込めるほどの小さな真っ白の体躯の雛が、折れて重なった雑草の上に横たわっていた。
「お兄ちゃん、この子……」
「これって、鷹の雛か? それにしても白いな」
よく見れば、真っ白な体毛の反面、瞳は真紅の色をしている。
先天性色素欠乏症。俗にいうアルビノと呼ばれる遺伝子異常疾患だろう。
おまけに、体付きも小さい。体毛はおろか羽も生えそろっておらず、明らかに生まれたばかりであることが窺える。
「助けなきゃ!」
「いや、ちょっと待った。親が近くにいるはずだ」
駆け寄ろうとするソフィだが、健人が待ったをかける。
近くの木の上を窺うと、重なった枝の奥に円形の巣が見える。さらに目を凝らせば、枝の影に擬態するようにこちらを窺う親鳥の姿もあった。
「居たな。少し高いけど、あのくらいなら大丈夫かな?」
健人は落ちていた雛を手に取ると、木を上り始めた。
巣に近づこうとする健人を警戒しているのか、親鳥は睨みつけるようにジッと健人を見つめている。
健人はどうにかして親鳥の警戒を解けないかと考えるが、そもそもいきなり現れた人間を警戒するなという方が無理だ。
よく見れば、巣の中には他の雛が三羽もいる。
どうすれば、警戒心を和らげることができるだろうか。
そんな事を考えている時に、健人の脳裏にヌエヴギルドラールの言葉が蘇る。
それは“スゥームは本来自らの意思を具現し、種族の関わりなく相手に意思を伝えるためのものだ”という言葉だ。
(ちょっと、試してみるか)
「コス、ボルマーズ、ファード。ニ、ガイザー、ドロ、ダール゛、キン」(落ち着け。雛を戻すだけだ)」
取りあえず健人は、声量を落したスゥームで親鳥の警戒を解けないか試みてみる。
脅えさせないように、可能な限り込める力を落して。
シャウトは戦いの中で使われてきた歴史があるが、友達だったニート竜の言葉を借りれば、元を辿れば言葉の違う他種族に自分の意思を伝えるための真言。それなら、親鳥の緊張を宥められるかもしれないと思ったのだ。
「クアー! クアア――――!」
「ピイピイピイピイ!!」
「うおわ!」
しかし、健人の願いとは裏腹に、彼のスゥームに巣の中にいた雛鳥は悲鳴を上げ、親鳥は翼を広げて健人に飛びかかって来た。
そもそも、スゥームはドラゴン達が使う魔法の言葉。魂の声で直接世界に干渉するものだ。
その力は強大で、声の達人が放つスゥームは、他者の命を容易に奪える。
そして、ミラークの力と知識を取り込んだ健人のスゥームが持つ力もまた、既にタムリエル史の中でも極めて上位に位置するといえた。
鷹たちの視点から見れば、眼前に最上位クラスのドラゴンが迫ってきたのとまったく同じ状況なのだ。いくら害意は無いと伝えたとしても、怯えるなという方が無理である。
「カ、カ―――ン!」
こりゃダメだと、健人はカイネの安らぎのスゥームを唱える。
動物の闘争本能を抑えるシャウト。紡がれたキナレスの声に、親鳥たちは一様に警戒心を解いた。
「すまないな」
シャウトの効果が残っている内に、健人は素早く雛鳥を巣に戻す。
巣の中にはやはり、産まれたばかりの雛が三羽ほどいた。
「よし、これで大丈夫……」
「あっ!」
地面に素早く降りた健人が安堵を漏らしていると、まだ巣を見上げていたソフィが突然驚きの声を漏らした。
彼が振り返ると、なんと巣に戻した雛を、親鳥が咥えて巣の外に捨てていた。
捨てられた雛を、健人は慌てて受け止める。
「どうして……」
ピィピィと、健人の手の中で親鳥を求めて鳴く雛鳥を見つめながら、ソフィは茫然と呟いた。
「そうか、親鳥は育てられないと判断していたのか……」
ソフィが茫然とする一方、健人は親鳥がこの雛を捨てた理由を察していた。
アルビノは基本的に体が弱い。紫外線などから身を守るための色素を作ることができず、複数の疾患を併発する可能性が高い。
親鳥は厳しい自然界の中で、アルビノの雛が生き延びる可能性と他の雛の可能性を天秤にかけ、後者を取ったのだ。
おそらく、健人のスゥームに警戒を解かなかったのも、既にこの雛を見捨てていていたことが理由だ。親鳥は自分の子供ではなくなった雛が、巣に戻ることを許さない。
故に、親鳥は健人が巣に戻した雛を、外に捨てた。他の雛や自らの栄養の為に、アルビノの雛を食べなかったのは、親鳥のせめてもの慈悲なのか、それとも同族食いを嫌悪したからなのかは分からない。
ただ、この雛は捨てられた。そして、このままでは、生き残れる可能性はゼロであることが確定したのだ。
「お兄ちゃん……」
悲しげな声を漏らすソフィ。健人も何とも言えない気分で、手の中で鳴き続ける雛を見つめていた。
他の兄弟たちを生かすために捨てられた命。冷酷な野生の世界に、庇護無く置いてきぼりになった、孤独な雛。
「仕方ない、か」
健人がソフィに視線を向けると、彼女も何かを心に決めたように頷いた。冷たい風に震える雛を守るように手の平で包み込み、そっと抱き寄せる。
「育てるのは、多分とても大変だろうな」
「私も協力するよ。いいよね、お兄ちゃん」
「ああ、よろしく頼むよ」
人知を超えた事象により、親と二度と会う事ができなくなった健人。理不尽な戦争で親を亡くしたソフィ。声に出さずとも、二人の答えは決まっている。
「これからが大変だろうな~~」
鳥の雛の育成は、非常に多くの労力と根気がいる。
一度に多くの餌が取れない雛には、一日に何度も給餌する必要がある。十分にえさを与えられなくては、体温すら保てず、一気に衰弱死してしまうだろう。
それに、餌の取り方や、危険な動物についても教えないといけない。それらは本来、親鳥から教わる事だからだ。
只体を大きくすることが育てることではない。この雛鳥が生きていけるようにすること、命を全うするための指針を示すことが必要なのだ。
「差し当たっては、名前を考えなきゃな。さてさて、どんな名前がいいかな」
「私、可愛いのがいいな!」
「可愛いのって言うけど、この雛、雄なのかな、雌なのかな?」
手の平に伝わる小さな熱に想いを馳せながら、二人は建設現場に戻る。その背中を、雛の親鳥たちが見守るように見つめていた。
ハースファイアであったペットイベント。私なりに加えてみました。
鷹にしたのは、鳥系のペットが鶏しかいなかった為。つまり、私の好みです。