【完結】The elder scrolls V’ skyrim ハウリングソウル   作:cadet

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今回は久しぶりのリータサイドのストーリー。


第十一話 断ち切る未練

 

 

 イヴァルステッド。世界のノドの麓。七千階段の始まりがある小さな村を、リータ達は三度訪れていた。

 

「どうだい、ドラゴンボーン、新しい鎧は」

 

「すごい……」

 

 既に何度も止まった宿屋で、リータは新たな装具を受け取っていた。

 美しくも禍々しい漆黒の鎧。女性らしい優美な曲線を描きながらも、所々に施された鋭い突起と真紅のラインが、見る者に強烈な威圧感を与える。

 デイドラの鎧。おおよそ、人に作れる中で最高峰の装具。使用していた黒檀の鎧が 限界を迎えたリータの為に、デルフィンがスカイリム一の鍛冶師であるエオルンド・グレイメーンに作ってもらった鎧だ。

 作成してもらったのは鎧だけではなく、他の武器も一新している。

 デイドラの片手剣、そして、デイドラの両手斧。どちらもリータ用の武器として製作、調整された品であり、間違いなくタムリエル最高位の武器達だった。

 

「それから、貴方の分も作ってもらったわ。さすがに素材の関係からデイドラの装具は無理だったけど、黒檀の鎧は用意できたわ」

 

「あ、ああ……」

 

 一方のドルマも、新しい装具を受け取っていた。

 以前にリータが使っていたものと同じ、黒檀を素材とした鎧と両手剣である。

 

「それからドラゴンボーン、確認しておきたいことがある。パーサーナックスについてよ」

 

 パーサーナックス。その名前を耳にした時、リータは己の胸の内がざわつくのを感じた。

 

「ドラゴンレンドが手に入ったら、パーサーナックスに用はないわ。今後の事を考えれば、殺すべきよ」

 

 ドラゴンは殺すべき。その言葉には、リータも全面的に同意している。あれは悪辣な獣であり、人類の天敵である。

 殺さなければ、こちらが殺される。共存などあり得ない、絶対悪なのだ。

 

「……」

 

 だが、胸の奥のざわつきは収まってはくれなかった。

 込み上げ続けるドラゴンに対する敵意と殺意で塗りつぶそうとしても、違和感は乾いた血痕のようにこびり付き、消えてくれない。

 

「どうかしたの、ドラゴンボーン?」

 

「……なんでもない。早く行こう、時間がもったいない」

 

 デルフィンの要望に応えることなく、リータは七千階段へ向かおうとする。

 常にドラゴンに対して殺意を隠さなかったドラゴンボーンが見せた、僅かな間。それをデルフィンが問い質そうとする前に、ドルマがリータの前に立ちふさがる。

 

「リータ、ちょっと待て」

 

「大丈夫、大丈夫だから……」

 

「……いや、今日は泊まろう」

 

 大丈夫だと言い張るリータを、ドルマは押し止め、今日はここに泊まるべきだと述べた。

 

「でも……」

 

「アルドゥインを倒す事を考えれば、ここからが本番なんだ。だから英気を養うためにも、ここで一晩泊るべきだ。いいな?」

 

 リータは不満そうに押し黙るが、ドルマも退かない。漆黒の鎧を纏った二人の視線がぶつかり緊迫した空気が流れる。

 

「リータ」

 

「分かった、分かったよ……」

 

 先に折れたのはリータの方だった。

 それでも不満を隠しきれない彼女は、ドルマの視線から逃げるように背を向けると、イヴァルステッドの宿屋へと戻っていく。

 リータが宿屋の中に戻ったのを確認したドルマは、今度は傍にいたデルフィンに咎めるような視線を向けた。

 

「あまり急かせるな」

 

「随分と気を使うようになったのね。今までは彼女の行動には何も言わなかったのに」

 

「うるせぇ……。今のアイツは焦り過ぎてる。見ればわかるだろ」

 

「まあ、いいわ。確かに、ここまで来るのに結構な強行軍だったから」

 

 実際、ムザークの塔で星霜の書を手に入れた後、彼女達は休むことなく、このイヴァルステッドに戻ってきていた。

 ブラックリーチの探索にも長期間かかっていたことを考えれば、良く保っていたと言える。

 だからこそ、ここで一度休息を取る必要があったことは、デルフィンも認めざるをえない。

 

「それともう一つ聞かせろ。なんでそこまでパーサーナックスを殺すことに固執する」

 

「あら? あのドラゴンの罪については話したでしょ。それに、ドラゴンは人類の敵よ。たとえ今は内にある欲と衝動を抑えられていたとしても、いつそのタガが外れるかわからないわ」

 

「そうなれば、アルドゥインに次ぐ脅威となるだろう。その前に殺しておくべきだ」

 

 デルフィンの言葉に同意するように、エズバーンもまたパーサーナックスの殺害に同意の声を上げる。

 パーサーナックスの過去については、ドルマも聞かされている。

 彼もまたドラゴンに故郷であるヘルゲンを破壊された人間。故に、ドラゴンに対する恨みや脅威については、全く否定する気はない。

 しかし、デルフィン達の言葉に、どうしても拭いきれない違和感を覚えているのも事実だった。

 デルフィン達とドルマの繋がりは、完全な利害一致から始まったが、今でもそれは変わらない。

 健人と旅をしていた時は、最初は嫌悪感と不信感を抱きながらも、次第にそれは薄れていった。

 しかし、ドルマはデルフィン達との間には利害関係以外の感情は全くわかない。既に時間だけなら、健人と一緒にいた時間よりも長い間、ブレイズ達と行動を共にしているにも関わらずである。

 

「それから……ちょっと来なさい」

 

「なんだよ」

 

 ドルマの内心を知ってか知らずか、デルフィンは彼手を引っ張り、宿屋から離れた人気のない廃屋の傍まで彼を連れて行く。

 

「聞かせておくことがあるわ。ケントがこのイヴァルステッドに向かってる」

 

「なに?」

 

「盗賊ギルドから情報が入ったのよ。間違いなく、ドラゴンボーンに会うためでしょうね。それで、分かっているのでしょう?」

 

 念を押すようなデルフィンの言葉に、ドルマは表情を硬め、奥歯を噛み締めながら、己の決意を思い返す。

 健人はほぼ間違いなく、ハルメアス・モラに魅入られた。それがドルマの考えであり、だからこそ彼は、そんな健人とリータの接触が、彼女の精神を致命的に壊してしまう予感があった。

 ドルマの脳裏に、ハルメアス・モラと取引をした結果、ブラックリーチで狂っていたセプティマスの姿が蘇る。

 本来意思疎通が不可能なはずのファルメルを操り、封印されていた伝説級のドラゴンを復活させ、そして死んだ狂人である。

 死の間際まで高笑いをしていた狂人の姿が、健人の姿へと変わる。

 

「ケントがドラゴンボーンと接触する前に、カタを付けるわ。いいわね?」

 

 健人を殺す。

 一度覚悟を決めたつもりだったのに、胸の奥からどうしようもない程の不快感が込み上げる。

 喉の奥から込み上げてくる気持ち悪さ、腹の奥に重苦しい鉛があるような嘔吐感に、ドルマの表情が苦々しそうに曇る。

 

「分かっているでしょ。迷えば死ぬわよ。貴方だけでなく、下手をしたら貴方が守ろうとしている彼女までも……」

 

「ああ、分かっているさ……先に宿に戻る」

 

 そんなドルマの表情から彼の心情を察したデルフィンが畳みかける。

 デルフィンの追及に投げやりな返事を返しながら、彼はブレイズ達の脇を抜け、逃げるようにその場を後にしようとした。

 

「ええ、分かったわ。でもこれだけは伝えておく。私達は山道でケント達を迎え撃つわ」

 

「……そうか」

 

 微妙な空白を漂わせた後、デルフィンの宣言にドルマは振り返ることなく答えると、今度こそ宿屋の方へと消えていった。

 立ち去っていくドルマの背中を見送ったデルフィンに、エズバーンが小さな声で話しかける。

 

「あの男、協力すると思うか?」

 

「ええ、彼の第一はドラゴンボーン。色々と余計な思いを抱えているけど、そこは変わらないわ」

 

「それで、どこでそのケントとやらを迎え撃つのだ?」

 

「ハイフロスガーよ。途中の山道は狭くて不意打ちには向かないけど、あそこなら隠れるためのスペースが十分にあるわ。ケントにはあの石頭な従者や他にも仲間がついているみたいだから、確実に仕留めるなら奇襲は大前提よ」

 

 険しい山道で道幅も狭い七千階段の道中は、奇襲には向かない。ある程度限られる空間となると、候補は限られる。

 さらにデルフィンは、盗賊ギルドからの報告で、健人に同道しているカシトやリディアの存在も知っていた。

 

「グレイビアードはどうする?」

 

 残る問題は、ハイフロスガーに住むグレイビアード達だ。

 彼らは四人全員がスゥームの達人であり、同時にこのスカイリムでも非常に高い尊敬と敬意を集める存在である。

 

「少し眠ってもらうわ。彼らの権威を考えれば、傷つけるのは論外。悪いけど少しだけ薬で眠ってもらうわ」

 

 そう言いながら、デルフィンは懐から紫色の液体が入った小瓶を取り出した。

 

「これは嗅いだ者を眠りに誘う薬よ。揮発性も高い。ハイフロスガーの寺院は密閉構造になっているから、これを近くの焚火の傍にでも置いておけば……」

 

「彼らを傷つけることなく、排除できるという事か。問題は無いな。それでデルフィン、できるのか?」

 

「ええ。ケントが私達と、私達のドラゴンボーンの道を塞ぐというのなら。そして、その可能性はとても高いでしょうね」

 

 最終確認とも取れるエズバーンの問い掛けに、デルフィンは迷うことなく答える。

 しかしエズバーンは、坦々と紡がれる彼女の声の端に残る、僅かな悲哀を感じ取っていた。

 エズバーンは察していた。デルフィンにとって、健人と過ごした日々は、決して悪いものではなかったという事を。

 エルフとの戦いで仲間をすべて失い、自ら孤独となることで生き延びたデルフィン。そんな彼女に出来た弟子が、健人だった。

 たとえリータに取り入るためだったとしても、自らが鍛え上げ、期待していた弟子。

 弟子と同じように血の滲むような鍛練を重ねて身に付けながらも、逃亡の為に秘さなければならなかった数多の技術。それを伝えることが、孤独だった彼女にとってどれだけ救いになっていたのだろうか。

 

「私はやるわ。全てはブレイズの為に」

 

 しかしそれでも、デルフィンの固く閉じた心を解くには至らなかった。

 全身から肌がヒリつくほどの剣気を発しながら、デルフィンはエズバーンに宣言する。数十年前の大戦ですべてを失った彼らに唯一残った矜持。それを果たさんがために。

 固い意思を秘めた瞳に、エズバーンもまた深く頷く。

 彼もまた、ブレイズの逃亡者。デルフィンの悲しみを理解しながらも、同じようにブレイズの矜持に縋りついているが故に、自らの心が抱えた歪みに気づかぬ者。無意識に気付かぬようにしている者だった。

 悲しいかな。悲壮と絶望、そして苦痛に塗れた長すぎる逃亡の中で凝り固まった彼らの心を解せる者は、この場には誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「く、うう……はぁ……!」

 

 押し殺した、苦悶の声が漏れる。

 宿屋のベッドに寝ころびながら、リータは掻き毟るように頭を抱えていた。

 脳裏に響く、ドラゴン達の怨嗟。それは徐々に大きくなり、少しずつ、しかし確実にリータの心を蝕んでいた。

 

「うるさい、うるさいうるさい……」

 

「リータ、大丈夫か?」

 

 リータの呻き声に気づいたのか、ドルマがリータの部屋に入ってくる。

 彼の手には湯気の立ち上るコップが握られていた。

 

「ドルマ……」

 

「宿屋の主人から貰ってきた。飲んどけ」

 

 差し出されたのは、温められたハチミツ入りのホットミルク。

 コップを受け取り、口を付けて傾ければ、人肌ほどに温められたミルクの熱とハチミツの甘さが、ふわっと口の中に広がる。

 ミルクが強張っていた心を解してくれたおかげか、幼馴染が傍に来てくれたおかげか、頭の中に響くドラゴン達の怨嗟が、少し和らいだ。

 

「ありがとう……」

 

「気にすんな。コケそうなお前の腕を引っ張るのには、慣れているからな」

 

 ドルマの皮肉っぱい笑みに、リータは失った故郷での日々を思い出し、僅かではあるが、彼女の口元に笑みが戻る。

 健人を拒絶し、リディアに託した今、復讐のための旅の中で、唯一温もりを感じられる瞬間が、この不器用な幼馴染とのやり取りだけだった。

 そしてドルマにとっても、想い人と唯一語り合うことができる話でもあった。

 

「ねえ、ドルマ。ケント、許してくれるかな?」

 

「あ?」

 

「私、凄く酷いこと言っちゃった。酷く傷つけちゃった。本当は、そんなことしたくなかったのに……」

 

 硬く、硬く閉ざしていたリータの心の鎧が、僅かに綻ぶ。

 リータは健人の話題に関して、ハーフィンガルで喧嘩別れして以降、話をしたことがなかった。

 だが今は、こうして弱めを漏らすほど消耗している。

 

「ホワイトランに戻っても、しばらくは口をきいてくれねえだろうな」

 

「……やっぱりそうかな?」

 

 不安と諦観に満ちたリータの言葉に、ドルマは相も変わらず笑い飛ばすような皮肉っぽい口調で答える。

 

「ああ、俺だったら絶交するな。お人よしのアイツなら、なんて答えるかは知らねえが……」

 

「そっか。ふふ、そっか……」

 

 自分とは違うから、違う答えが返ってくるだろう。ドルマの回りくどすぎる返答に、リータの頬が緩む。

 リータは、自分がどれだけ健人を傷付けたのか理解している。

 だから、罵られるのも、なじられるのも別にかまわなかった。それは、健人が持つ、当然の権利だと思っている。

 最後に許してくれるなら、その可能性が砂粒ほどの可能性でもあるなら、リータには十分だった。

 そして再び、リータとドルマの間に沈黙が流れる。

 ブラックリーチ探索以降、二人での会話も減っていた。

 それは、ドルマが健人について、リータに話せない秘密を抱えたことが理由であり、そしてリータもそんなドルマの様子に気づいていたからに他ならない。

 しばらくの間、二人の間に沈黙が流れ、ホットミルクをすする音だけが部屋に響く。

 

「ねえドルマ、何か隠していること、ない?」

 

「あん?」

 

「あるでしょ。隠していること」

 

 確信を帯びたリータの追及に、ドルマは静かに息を吐く。

 

「……あるな。でも、話してやらん」

 

「なんで?」

 

「話したくねえからだ」

 

 身も蓋もない返答に、リータは不満げに頬を膨らませる。

 一方、そんな彼女の表情に、ドルマは思わず含み笑いを漏らした。年の割に子供っぽいところのあった彼女は、ヘルゲンではドルマに揶揄われる度に、こんな表情を浮かべていたからだ。

 

「全部終わったら話してやる。だから、ちゃんと生き残れよ」

 

「……ほんと?」

 

「ああ、本当だ。なんだ、疑っているのか?」

 

「ううん。ドルマ、色々と口は悪いけど、約束したことはきちんと守るから」

 

 ふるふると首を横に振る少女に、ドルマも笑みを返す。

 

「そうだろう? だから、いいな」

 

「うん。その代り、この戦いが終わったら、隠していること全部、話してもらうから」

 

「……ああ、分かっているさ」

 

 ドルマの隠し事を追及しなかったのは、リータなりのドルマへの信頼だったのだろう。

 もしかしたら、ある種の依存だったのかもしれない。

 しかし、「戦いが終わったら」というその言葉は、ドルマにはどこか遠くのものであるように聞こえた。自分がこの戦いで生き延びる姿を、どうしても彼は想像できなかった。

 再び横になったリータに、そっと毛布を掛けてやる。

 しばらくすると、規則正しい寝息が聞こえてきた。

 

(すまねえ、リータ、ケント)

 

 自分達が健人に対して行おうとしている行為。それを彼女に知られることは、絶対に避けなければならない。

 それは、信を尊ぶノルドにとっては、唾棄すべき行為であることも理解している。

 リータに対する思慕、健人へのライバル心と罪悪感、復讐の渇望と己が行おうとしている行為への不快感、尊ぶべきノルドの矜持。

 相反し、渦巻く感情を全てのみ込みながら、ドルマはゆっくりと眠りに落ちたリータの髪を手で梳く。

 

(オブリビオンに堕ちた後に、もし会うことを許されたのなら。その時は、詫びさせてくれ……)

 

 穏やかに眠る想い人を目に焼き付けながら、

 顔を上げた時、ドルマの目に既に迷いはなく、悲壮な覚悟だけが浮かんでいた。

 そして一週間後、彼らは再会する。

 スカイリムの中心、世界のノドで。

 

 




リータ、デイドラの装具を手に入れる。そしてドルマは、覚悟を決めると。

いや~どうしてこういうすれ違いのシーンを書いていると興奮するんでしょうね。
あまりやり過ぎると読者の方々のストレスがマッハになるので、気を付けないといけないのですが……。

リータサイドはこれで終了。次回はいよいよ再会です。
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