七夕に投稿できなかったので、七夕(旧暦)に投稿。
うん、七夕だからセーフです。

グラン×ロザミアの妄想小説です。(健全)
独自設定を含みます。苦手な方はお戻りください。



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祈願

「バンブーレンジャー、参上!!」

 

騎空艇の中に突如として現れた巨大な装飾……

その中心には、団のみんなに笑顔を振りまくウェルダーがいた。

 

「なにしてるの?」

 

通りがかったロザミアが尋ねる。

ウェルダーには幹の長くて堅そうな植物のようなものがたくさん刺さっていて、歩くのも大変そうだ。

 

「おお、ロザミアか!

これは俺の故郷に伝わっている『ツァナバツァ』という風習なんだぜ」

 

「風習? また新しい仮装でも始めたのかと思ったわ」

 

「ははは。

そうだ、ロザミア。お前もなんか書いてけよ」

 

ウェルダーが言うには、ツァナバツァという風習はバンブーと呼ばれる植物に願いを書いた紙を吊るす行事なのだという。

 

「……なんで私が」

 

あからさまに面倒くさそうな顔をするロザミア。

 

「いいじゃねぇかよ。お前にだって願いごとの一つや二つぐらいあるだろ?」

 

ロザミアの塩対応にも、バンブーレンジャーはへこたれない。

イベントの大好きなウェルダーの笑顔に、

 

「断ってもしつこく食い下がってきそうだし、書いてあげるわ」(しょうがないわね)

 

溜息をついて、ロザミアはウェルダーから紙と筆を受け取る。

 

「相変わらずだなぁ」

 

ロザミアの反応にウェルダーが苦笑いすると、

「は?」ロザミアが聞き返してくる。

本音と建前が逆さまだったことに気付いていないようだ。

 

「いやぁ、なんでもない。ははは」

「……けど、急に願い事を書けと言われても、困るものね」

「別になんでもいいんだぜ。簡単なことでも、今したいことでも」

「そうね……」

 

少し悩んでみせたかと思うと、ロザミアはサラサラと筆を滑らせる。

 

「はい、書けたわ」

「それじゃその『ツァンザク』を、俺のバンブーに吊るしてくれ」

 

「そんなことしたら、他の人にも見られちゃうじゃない。恥ずかしいわ」(なんでそんなこと……)

 

「はははっ、心配ご無用っ!! 最後にはこのバンブーを燃やして空へ願いを届けるんだ。

だから、誰かに見られる心配なんてないんだぜ」

 

「そ、そうなの……じゃあ」

 

そう言ってロザミアはイスを使って、ウェルダーから生えるバンブーのできるだけ上方にツァンザクを吊るす。

見れば様々な願い事が書かれたツァンザクが同様に吊るされている。

 

「それで、ロザミアはなんて書いたんだ?」

 

「見たら殺すわよ」(恥ずかしくて言えるわけないじゃない)

 

「うわぁ……」

 

彼女の口から漏れる本音に、ウェルダーの背筋に冷たいものが走った。

 

 

 

「おぉ、ウェルダーにロザミアじゃねぇか。なにしてんだ?」

 

やって来たのはグランとビィ。

 

「おぉ、お前ら。いいところに来たな」

 

手を上げて挨拶を交わすウェルダーとグランであったが、ロザミアは少しソワソワしている。

 

「また面倒なのが来たわね」(べ、別になにもしてないわ)

 

「相変わらず本音がだだ漏れなねぇちゃんだぜ」

 

ビィがうんざりしたような顔をすると、

 

「は?」

 

ロザミアが怪訝そうにビィを眺め、ハッとした表情で自らの口に手を当てた。

 

「今更遅いっての。なぁなぁ、ウェルダーのその恰好はなんなんだ?」

 

「今日の俺はバンブーレンジャーだぜ」

 

ビシッとキメポーズを取るウェルダーではあるが、高く伸びる飾りのせいで少しよろけ気味である。

 

「なんだそれ」

 

唖然とするグランとビィに、ウェルダーはロザミアにしたのと同じようにツァナバツァの風習を説明する。

ふむふむと彼の説明を楽しそうに聞く2人に、ロザミアの胸が少し痛む。

 

「なぁなぁ、ウェルダー。オイラたちにもその『ツァンザク』ってやつを書かせてくれよ」

 

「おう。じゃあこれに書いてくれ」

 

ウェルダーが違う色のツァンザクをグランとビィに渡す。

 

「ふむふむ。これに願い事を書くのか」

 

なにを書こうか、なんて笑いながらビィと相談している姿は年相応の少年らしい。

屈託のない少年の笑顔が、眩しくて心が痛む。

 

(私は、彼と一緒に居てもこんな風に楽しそうに……できない)

 

無意識に一歩後ずさったロザミアに、ビィが笑顔で話しかけた。

 

「ところで、ねぇちゃんはなに書いたんだ?」

 

「見たら殺すわよ」(内緒よ)

 

「うげぇ」

 

「なぁ、グランはなに書くんだ? オイラはやっぱリンゴがたくさん食べられますように、かなぁ」

 

ビィらしいなぁ、と言いながらグランが書き上げたツァンザクをみんなに見せる。

そこには

 

『みんなとずっと楽しくやっていけますように』

 

と少し下手くそな文字で書かれていた。

 

「相変わらずだなぁ。もうちょっと欲ってのを出してもいいんじゃないか?」

 

ビィがグランの頭を小突く。

照れ臭そうに笑うグラン。

彼の全てを独り占めする気はないけれど、自分以外の人に笑顔を向けているのだと思うと少しだけ寂しい。

 

「じゃあオイラがひとっ飛びして、このツァンザクってやつをてっぺんに括り付けてきてやるよ」

 

言うが早いか、ビィが体に似合わない小さな羽を使い、器用に飛び上がっていく。

頼むよ、と笑顔で見送るグラン。

 

ズキリ、とロザミアの心が再び痛む。

 

(私は……こんなにも無垢で優しい彼の隣にいてもいいのだろうか)

(私の体も心も、呪いと復讐と返り血で染まっているのに……)

 

ロザミアの沈鬱な表情に気づいたグランが彼女に小さく合図を送る。

 

(……なに?)

 

ロザミアの問いかける眼差しに、グランは後ろ手に隠し持っていたツァンザクを小さく掲げた。

 

『ロザミアとずっと一緒にいられますように』

 

ズキリと心臓が痛む。それは喜びの痛み。

――求められている。

その実感がロザミアの心の傷を癒し、少しだけ大胆にさせる。

 

「バカね……わたしはもう、どこにも行かないわ」

 

ロザミアがグランの隣へ移動して、腕を絡ませる。

顔を明後日の方向へ逸らせたグランを見て、ロザミアは微笑んだ。

 

「恥ずかしがるなら見せなきゃいいのに」

 

少しいじけたような表情をすると、グランがロザミアの耳元で何事かを囁く。

 

「え……私?」

 

ロザミアは一瞬だけ動揺するとすぐにそれを隠し、

 

「言えるわけないじゃない。私も『あなたとずっと一緒に居たい』って書いただなんて……」(内緒よ)

 

と気付かずに本心を暴露した。

 

「なにニヤニヤしてるのよ。気持ち悪い」

 

「ほんと、気持ち悪いやつだな」

 

いつの間にかビィまで降りてきている。

 

「なぁグラン、それも飾って来てやるよ」

 

ビィがもう一つのツァンザクを持って、再びバンブーの頂上目指して飛び上がる。

まいったな、と照れながら頬を掻くグランに、ロザミアはそっと囁きかける。

 

「ねぇグラン……。今夜はあなたの願いを叶えてあげるわ」

 

「ずっと一緒にいてあげる、って言ってるのよ」

 

その表情を見て、グランが息を飲む。

ロザミアが最高の笑顔をしていることを、彼女自身はまだ知らない。

 

(こんなにもあなたに思われて、私は今、とても幸せよ)

 

ツァナバツァは星空に願いを託す祭り。

きっと彼らの願いは叶うことだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

(いやぁ、俺もいるんだけどなぁ……)

 

2人きりの世界に遠慮して気配を消したバンブーレンジャー。

彼もまた、いつだってみんなの幸せを願っているのだ。

 

 

 



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