ある少年には友人がいた。
強がりで素直じゃなくて気難しくていつも眉に皴が寄っている、そんな親友が。
これは少年少女が願いを望む、ちょっとしたIFの小話。

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皆、仲良しなんです。ホントですよ?

 何時もの日常、そういえる平和で平穏な毎日。

凄くいい子だけども目を離せない妹と、ちょっと気難しい友人を持ったおかげで色々刺激的な毎日を送れているが、それでも彼にとってその一日もまた、いつもの日のはずだった。

 

「おっはよー、ジュリアン!今日も眉間にしわ寄ってますな~?」

「余計なお世話だ……お前、いつも引っ付いてるのはどうした?」

「吸盤みたいな扱い止めてくんない?可愛い妹様なら、いつも通りクラスにお連れしたさ」

「そうか」

「そうさー」

 

 同じ年齢とは思えないほど冷めているようで、その実他人を見ているそいつは、放っておくと厄介ごとに首を突っ込んでいく。

この間も女の子を助け――いや、あれは男の子のほうが気に入らなかったのだっけ?

まぁともかく、気づけば誰かのヒーローになってしまうコイツは、やはり見ていて飽きないのである。

 

「俺はお前のおもちゃじゃねぇぞ?」

「アレ?声に出してた?」

「丸聞こえだ、バカ」

 

 軽口を叩ける程度には仲が良い、と自負している自分たちはその日も揃ってクラスへ向かう。

 

「そっちこそ、いっつもジュリアンジュリアンって、後ろ付いてくるあの子はどうしたよ?」

「さぁな……」

「はぐらかしやがって、何か知ってんだろ~?」

「知らん……えぇい、うっとおしい!」

 

 教えろこのやろーって肩を突っつくと、振り払おうとしてくる。

全然ダメージが無い辺り、加減してくれてるんだなぁ。

 

「あ、今日皆で遊び行こうぜ。鍛えたゲームの腕、見せてやる!」

「お前は遊んでないで勉強してろ……それに今日は用事がある」

「そうかい、残念」

 

 その日、ジュリアンは珍しく一人で帰路についた。

もしかしたら、どこかへ寄ったのかもしれない。

案外、告白の呼び出しだったり?

 

「明日になりゃわかるか」

「お兄ちゃん、何が分かるの?」

「ん~、なんでもねぇよ~」

 

 帰宅道を妹の長い髪を撫でながら帰る。

明日があると、明日になればまた会えるからと―――疑いもしなかった彼らは、その日【()】を見た。

 

 

■■■

 

 

 目が覚めると、よく分からない部屋にいた。

やけに豪華で、正直落ち着かない。それと、なぜか裸。なんでさ。

 最後の記憶は、闇に呑まれる直前――妹を()から逃がすため放り投げた、辺りで途絶えている。記憶が正しければ、半身呑まれたような?

そしてその妹は、自分の手を握りしめて寝こけていた。

涎を垂らしている姿に愛らしさを感じ、思わず笑ってしまう。

 

「……起きたな」

「……ん、ジュリアン?」

「あぁ。調子はどうだ?」

 

 友人が近くの椅子に座ってこちらを見ていた。

 どこか様子がおかしいと気づいたけれど、それ以前に状況が呑み込めていない彼は友人の声に従って体を少し動かしてみる。

 

「問題ねぇぞ~。てか服くれね?」

「後でな。それより、どこまで覚えている?」

「んー、いつも通り()と帰って、なんか黒い壁みたいなのに飲み込まれそうになって……あれって天変地異か?というか、俺無事なんだな?」

「……お前を連れてきた妹に、感謝するんだな。日時は?」

 

 雰囲気はずいぶん暗いけど、眉間にしわ寄せながらこっちの言葉に返してくれるところは、変わらずジュリアンのままだった。

 

「六月七日が最後の日付だな」

「通ってる学年と学校」

「穂群学園小等部六年!で、お前のクラスメイトだ」

「余計なことはいい。クラスメイトの名前は?」

「あー、遠坂とか柳洞とか、あとって全員言わないとダメなのかこれ?」

「覚えてるならいい。自宅の住所と、家族構成」

「冬木市の――あれ?」

 

 住所が浮かんでこなかった。

おっかしいなぁと思いながら、家族構成の方も話す。

 

「母さんと父さんだろ、それに妹!」

 

 ぽんぽん、と頭を撫でる。

未だのんきに寝てるのが可愛くて、気づけば撫でてしまう。

 

「……………名前は?」

「え?えっと……――あれ?」

「…………そうか、お前の欠損(・・)はそれか」

「おぉ……これが巷に聞く記憶喪失ってやつか」

「呑気な奴だ。それとも、危機感すら欠損したか?」

「はは、そこらへんはほれ、こいつがいるからな」

 

 妹が居なければもっと取り乱していた自信があった。

いや、今でもよく分からない現状に緊張している自分がいる。

 

「……記憶が正しければ、半身呑まれた気がしたんだが?」

「あぁ、そうだ。半分になったお前(・・・・・・・・)を、それでもどうにかしてほしいと、病院が機能しない中お前の妹が引きずって、色んなやつに頼み込んでたよ……」

「あーそっか……で、偶然お前にあってお前がどうにかできた、と」

 

 本当に偶然だがな、とジュリアンが愚痴った。

きっとこいつが寄った近くだったのだろう。妹も火事場の馬鹿力を発揮したのか、半分になったとはいえよく兄貴を連れまわせたものだ。

 

「本当はもっと色々酷い欠損があるんだろうがな。連れてきた半分(・・)使ったからか、話している限り、お前の欠損は自分と家族の名前、それに死んだ時の記憶か」

「いんにゃ、それはある。ハッキリ半分消し飛んで死んだって認識はあるぞ」

「となると、死への嫌悪、忌避か」

「さぁねぇ……っていうか、ジュリアン」

「なんだ?」

 

 さて、それでは事ここに至って一番しなければいけないことを質問しようじゃないか。

 

「お前、魔術師だったのか……」

「こっちの台詞だ。お前のためとはいえ、お前の妹が往来で魔術を使ったことは驚愕したぞ」

「いや、まぁハハ」

 

 なんでも止血の為に魔術を使ったらしい。

半分になった時点で止血も何もないだろうに、必死だったのだろう。

 

「つっても、魔術師ってより魔術使いって感じだけどな。うち、一応先祖の言いつけで色々受け継いじゃ居るけど、深淵だのなんだのは求めちゃいないんだわ」

「だろうな。お前みたいに呑気に学生してるやつが、そうだとは思ってねぇよ」

「じゃなきゃ、助けなかった?」

「………さぁな。服を持ってくる」

「あぁっとその前にもう一つ良いか?」

「なんだ?」

 

 話しているうちに幾分か柔らかい雰囲気になったジュリアンに、自分の名前も思い出せない少年は尋ねた。

 

それ、大丈夫か(・・・・・・・)?」

「っ」

 

 一瞬瞳を揺らがせたかと思うと、ジュリアンはそっぽを向いて――そのまま部屋を出ていった。

 

「あぁー……たく、しょうがねぇなぁ」

 

 その拒絶が巻き込まないためなのか、それともアレ(・・)を直視してほしくなかったのか、よくは分からない。

ただ、どうやらあの()かそれ以上の厄介ごとにぶつかっているらしい。

 

「さぁて、どうしようかね?」

 

 観測なら一家言ある彼は、視えたモノをどうしようかと頭を悩ませたのだった。

 その数秒後、起きた妹にガン泣きされて別の意味で困ったことになった。

兄貴としては齢6歳の妹にこうも心配かけた上に救われたとか、色々立場無いので暫く言うことを聞く羽目になったりするのは蛇足だ。

 

 

■■■

 

 

 あれから数年、彼は家が消失したためジュリアンの城……そう、城に住んでいる。

ビックリだった、城だった。しかも周りから見えない城、なぁにこれ?お城ってお前、お城って、とツッコんだのは懐かしい記憶だ。

アレから彼らは学校に復帰した。エミヤシロウっていう友人も新たにできて、毎日がにぎやかに過ぎていく中、ジュリアンは焦っていた。

 

――人類を救う。

 

 彼は本気で言っているし、やる気である。

ただそれを叶えるだけのものが無いらしい。

どん詰まりのこの世界(・・・・・・・・・・)を救える何かがあの日、()を晴らしたらしいのだが、その何かをジュリアンは持ち得ていなかった。

 それを探すために、人が多く出入りする学校、それも生徒会なんてものに所属している。

人口密度が低くなったこの街では、この程度の立場でも情報が手に入る。

 

「つっても、早々見つかるわけはなかったんだが……」

 

 それは、ある日偶然見つかることとなった。

衛宮士郎……彼の義妹が、その求める者、聖杯だった。

 ちなみにジュリアンにも妹がおり、その妹と彼の妹は仲良く今日も遊びまわっている。

アイツに妹を紹介されたときは驚いたが、それ以上に暇そうにしていた妹に友人が出来て嬉しい限りだ。

 

「で、良かったのか?」

「良かったに決まってんだろ」

「そうかい」

「……言いたいことがあるなら、言え。口数が少ないお前は気持ちが悪い」

「ひっでぇー」

 

 ジュリアンはもっと色々言っていいと思っている。

もっと色々、思って感情のままに動いてもいいと思う。

でもそれが出来ない。彼に猶予が無い、世界に時間が無い。

 

衛宮(アイツ)、今日も来てたよ」

 

 置換魔術で触れることすらできないこの空間に、必死に剣を振るっていた。

義妹を連れ去られてから、此処を発見してから、あいつは毎日ここへ通っている。

 

「いいのか、何もしなくて」

「する必要ないだろ」

「必要かどうかじゃなく、やりたいかどうか、って話なんだが?」

「――ッ……勘弁してくれ」

「悪い」

 

 そう、暇も時間もない。

必要のないことに手間をかけるほど、余裕がないのだ。

 

「そろそろ、限界だ」

「あぁ」

 

 ジュリアンがジュリアンでいられる時間は、日に日に短くなっている。

今日も奇跡のような時間は、あっという間に過ぎていく。

もしかしたら、もうこうやって安定した時間は訪れない可能性もあった。

 

「その、まえに――これを」

 

 渡されたのは、二枚のカード。

 

「お前たち用だ」

「英霊のカード、だったっけ?」

「いや、それはまだどこにもつながっていない。お前たちの適正に合わせて、繋がるようにしてある」

「いいのか?」

 

 既に戦争のためのカードは配っているはずだ。

屑カードと呼ばれるものですらなく、まだ何者にもなっていない、何者かになる(・・)特別なカードを渡すなんて。

これが当たりである可能性もあるというのに。

 

「いい。俺はお前が気に入ってる」

「おいおい、変に素直になるなよ」

「きけ」

「……あぁ」

 

 ジュリアンの声色を聞いて、気づいた。

そうか、これは――。

 

「俺は、お前たちが気に入ってる。お前ら兄妹は本物の絆を持ってて、そこに俺を、俺たちを加えてくれたことに感謝すらしている」

 

 

 ――遺言、それに等しい言葉なのだと。

 

 

「ありがとう」

 

 

 次の日から、ジュリアンがジュリアンでいられる時間が目に見えて減っていった。

それでも近くにいると、あの女の子は言っていた。

貴方はどうする、と問われて――どうしようかと考えた。

 

 まず、ジュリアンを救うには色々問題がある。

この聖杯戦争は彼の本位から逸れて行われている……いや、まぁ聖杯を使おうとしているのはジュリアンではあるのだが、まぁそれは置いといて。

人類も救わなければいけない。個人を救ったところで、その個が住まうための環境が無ければ意味がない。

そもそもジュリアンを救うのに聖杯で足りるのかも分からない。

 

 つまり、救うのならば聖杯が複数いることになる。

 

 奇跡は一つしかない。

どちらかしか救えず、どちらを救おうにも末路は目に見えている。

 

「どうするの?」

「んー……」

 

 妹に問われ、どうしようかと考える。

どうしようもない、我儘を叶えるには通すための力が必要で……それは此処にある。

移動は妹が、暴力は自分が――あとは、決意を決めるだけ。

 

「その前に、やることがあるよな――な、士郎?」

「……」

 

 この道の先には聖杯(彼の妹)がある。

だからここを通るだろうと、そう思ってここを張っていた。

ジュリアンも何か言いたいのか、時間を割いてこの先に待っている。

 

「妹ちゃん、救いに来たんだろ?」

「あぁ」

「奇麗な子だったな、遠目にしか見たことないけどさ。羨ましいやぶぇ?!ちょ、ゴメ、拗ねないで一番の妹は俺の中で確定済みだから!」

……(プイッ)

 

 妹に拗ねられてしまった。あとでご機嫌を取るとして、改めて彼へ視線を向けた。

 

「ハハ、邪魔するならぶっ殺すって感じだな」

「っ」

 

 否定はしなかった。肯定も、しなかった。

殺したくはない、だが邪魔をするなら蹴散らす、といった所か。

 

「お前、願いは決まってんだろ?」

「……あぁ」

「分かってんのか?それがどういう叶え方をするのか」

 

 同じシスコンの兄貴だからこそ、こいつの願いを理解できていた。

妹の幸せを願うのは、当たり前のことだから。

でもこの世界では叶えられない。聖杯一つに世界の救済と自分の幸せ、その二つを叶えることは、不可能だ。

 きっと、こいつの願いは別離として叶えられるだろう。

聖杯の性質からして、それは容易に想像できた。

 

「いいのか?」

「構わない」

「……はーあっきれた。お前もか」

「?」

 

 即答するのはジュリアンもだ。

こいつらは、信念が固すぎる。

 

「頑固者どもめ。お前ら、似た者同士だよ」

「………」

「アハハ、複雑そうな顔して……しょうがないなぁ」

 

 決めた、決まった。

世界を救って、ジュリアンを救って……こいつらを仲直りさせてやろう。

真面目で頑固者でその癖義理堅い、そんなこいつ等が笑っていられる未来を望もうじゃないか。

 

「行けよ、結末はどうあれ、これはお前たちの喧嘩だ。一回さっぱりしてこい」

「お前……」

「何度でも喧嘩しろ。どうにかしてやっから」

「あぁっ」

 

 士郎はすれ違いに、一言だけ残して行った。

 

「ありがとな」

 

 振り返りはしない。止めるなんてこともしない。

さぁやることは決まった。では、それを叶えるにはどうすればいいだろうか。

 

「士郎の願いに相乗りさせてもらう、っきゃないよな。大冒険になるかもしれないぞ、大丈夫か?」

「ん、準備おっけー」

「おー、流石我が愛しの妹!頼りにしてるぜ?」

 

 カードを取り出し、二人言葉をそろえる。

 

「「夢幻召喚(インストール)!」」

 

 二人の姿が変貌していく。

兄は髪は赤に、瞳は蒼に変わり豪華なマントに身を包む。

これから渡るのは世界。故に、これ以上ないほどピッタリの英霊――フランシス・ドレイクの霊基をその魂に纏った。

妹は金髪碧眼になり、その額に鍵穴(・・)が出現した。彼女の背後には円環に繋がれた大きな鍵が存在している。

その英霊はアビゲイル・ウィリアムズ、本来はあり得ない存在しえない英霊を、相性で引き寄せた――否、引き合った(・・・・・)結果だ。

一は全であり全は一、あらゆる者である存在に通じている性質を利用し、世界を跳び越えるであろう士郎の妹についていくこととする。

 

「んじゃ、行こうか?」

「えぇ、行きましょお兄ちゃん」

 

 彼が望むは友の笑顔、ついでに世界救済。

妹が望むのは彼の存在、その願いの成就。

それらを叶えるために、彼らは冒険を始める。

 

 

 

 全ては我らの願いの為に――望むは、奇跡なり。

 

 

 

 跳んだ先で妹たちが仲良くしたり、兄貴は妹の成長に涙しつつ英霊と戦ったりするのだが……これは、幸せな未来を望む話。

これから先は、未だ未知数。

故にこの兄妹は果たして一体何を成すのか、成せるのか、それは未確定の未来のみが知っている。




「ナナシの兄」
 冒頭から死んでしまった主人公。
死を認識しても気分を悪くしないのは、喪失ではなく元々「死」を良しとしているから。一応、恐怖心諸々はあるが、死に対し元から受け入れる姿勢であるためそこに関してはあまり取り乱さない。
人形に人格を置換したものではなく、ホムンクルスを作る要領で彼の下半身の細胞を色々コネコネして作り直した肉体に再度魔術をかけた状態。
欠損が少ない理由は元の肉体を使っているだけでなく、妹の魔術で存在を認識し、置換魔術の効果で人格だけでなく魂etcもちゃんとした状態で引っ張ってこられたからである。
「兄の妹」
 兄がナナシのため名前が語られなかった可哀そうな可愛い妹。
外見は黒髪黒目のアビゲイルちゃんを思い浮かべてもらえればいいです。
兄の細胞を培養してホムンクルスを作れる天才児、というか麒麟児。下手をすれば彼女だけで深淵に至れる、かもしれないほどの才能を持っている。
家系的に観測の魔術が得意というのもあり、認識することが得意だった彼女は兄を認識、
 兄の傷を不認識し世界へ干渉することで止血したりしていた。下手すれば色々な人や存在が動き出す案件である。
 カードを初めて使用した時、素質だけで決まった兄と違って彼女はカードの先を認識していた。その認識の先で出逢った少女(・・・・・・)と意気投合、結果フォーリナーというカードが誕生する。


《作者のあとがき》
 兄も十分強キャラなのだが、それ以上に妹が最強系チートキャラ(未熟)という……妹より強い兄などry
プリヤ10巻を見て衝動的に書いてしまいました、ジュリアン達と昔から親しい人がいて欲しいなぁという……。
ジュリアンにとって偽物でも嘘でもなく、確かなシスコ、でもなくブラコ、でもなく……兄妹として想い合っている二人の輪に巻き込まれ(・・・・・)、色々影響を与えられたりしてます。その最もが遺言擬きですね、強がりな彼が唯一影響を受けた心を少しだけ、本当に少しだけ晒したシーンとなってます。




 ………実は「いあっいあっ」な妹もそうだけどそれ以前に主人公が真人間ではなく半人間な時点でバッドエンドフラグもしっかりしているっていう(ボソッ

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