ガンダムビルドレイヴンズ(自称)   作:葉川柚介

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2期が始まったので、構想だけはあった採集決戦(意図的誤字)を書いてみました。


人の欲望が力なら、傭兵の欲望は全てを破壊し、全てを繋ぐ

「サラ、もう少しだよ! あと少しで、サラを……!」

「うん、リク。私も楽しみ」

 

 第二次有志連合とビルドダイバーズとの戦いは終わった。

 激闘に次ぐ激闘の末、チャンピオンを下したリクはサラをその手に取り戻し、GBNの世界と少女の未来を救う権利を手にした。

 あとは、サラをビルドデカールの力で現実世界へと送り出すだけ。そのために、ログアウトポイントのあるベースへと向かうワールド移動の最中。

 異次元空間を思わせるワープゲートの中、リクたちビルドダイバーズの胸中にはサラを救うために用意した手段が成功するかというわずかな不安と、それをはるかに上回る希望に満ちていた。

 きっと助かる。きっとみんなでまた笑いあえる。その未来を信じて戦い、今こうしてその新たな一歩を踏み出そうとしているのだ。躊躇いなど、障害などあるわけがない。

 

 あるわけがない。

 彼らには。

 

 しかし世界は、バグに侵されたGBNは、再び少年少女に牙を剥く。

 

 

◇◆◇

 

 

――オオオオオオォォォォォ!!!!

 

「なに、あれ……?」

「ベースのビルに巻き付いてる……モビルアーマー? いや、大きすぎる。デビルガンダム……ヴェイガン系みたいなデザインだけど……」

 

 たどり着いたベースエリア。

 本来いかなる戦闘も行われない安全地帯であるはずのそこに、見慣れた高層ビルに、まとわりつく巨大な異形。

 龍のように長大な尾。禍々しい鉤爪の伸びた手。黒く空を覆う巨大な翼。そして邪悪な意思を秘めた凶暴な頭部の様相。

 それがモビルスーツどころではない巨体を以て、ビルに巻き付き空に威容を示している。

 一目でわかる。アレは、敵だと。

 

「見たことがある。レイドボスだ。……だが、あそこまでの巨大さはなかったはず……まさか!?」

「! やべえ、散れ! 攻撃してくるぞ!」

 

 シャフリヤールたち歴戦のダイバーはその姿に見覚えがありつつも違和感を抑えられない。

 多数のプレイヤーが徒党を組んで挑む強大な敵、レイドボスとして戦った覚えのあるデザインでこそあるが、それでは説明のつかないサイズと出現場所。本来非戦闘エリアであるはずのベース付近で攻撃を繰り出してきたうえに、それが周囲のビルに着弾するや冗談のような破壊をまき散らす。

 

 何かが起きている。

 そのことは、間違いがなかった。

 

 

◇◆◇

 

 

「大変です! 各地のベースにレイドボスが発生! エネルギーを極東ベースの個体へ送るとともに、極東ベースの本体からメインシステムへ干渉! ダイバーたちがログアウトできない事態に陥っています!」

「メインシステム、浸食止まりません! バグの影響でレイドボスの強制停止不能! このままでは……!」

 

「むぅぅ……」

 

 事態は運営側も把握していた。

 地球エリア各地のみならず月面エリアのベースにも全て同様にレイドボスが発生。

 ステータスまで改変され、冗談のような耐久値と再生能力を備えた、もし正式実装しようものならユーザーからの苦情で炎上不可避な凶悪エネミーと化していた。

 

 運営として事態の収拾を試みたが、今のところその全ては不発。

 ELダイバーの発生に伴い生まれ、蓄積されたバグの集大成ともいうべきこのレイドボスは一切の操作を受け付けず、むしろ逆にGBNのシステムを我が物にせんと暴走を続けている。

 このままの状態が続けば、この世界は終わる。その確信が芽生えるに十分な異常事態だった。

 

 

 だが、取れる手は少ない。

 運営側からのアクセスをほとんど受け付けないとなれば、残る手段はわずか。

 

 たとえば、そう。

 

 システムとルールに則り、あのレイドボスを撃破する、などという荒唐無稽な手段しか、残されてはいなかった。

 

 

◇◆◇

 

 

 極東ベースのビルドダイバーズをはじめ、GBN内のダイバーたちはレイドボスとの交戦を開始した。

 とはいえ、戦況は不利の一言。

 尋常ならざる高耐久。

 必殺技を叩き込んで損傷させたとしてもあっさりと元通りになる無限再生。

 デビルガンダムのガンダムヘッドのように次々湧き出るサブユニット。

 反撃に転じる隙のない苛烈な攻撃。

 

 まだ状況を把握しきれていないダイバーたちの中から運営クソだろという怨嗟の声が上がるほど、その戦いは激しかった。

 次々に蓄積するダメージ。

 追い込まれるダイバーとガンプラ。

 このままでは世界が終わるかと思われた。

 

 

 しかし、GBNの世界に潜むのが「人」なれば。

 

 

「ヒャッハー! 無限に再生するってことは、無限にボーナスが出るってことだよなぁー!!」

 

 そう、レイドボスが世界を壊そうとするというのなら、それと戦うのは「世界」そしてその世界を愛する「人」全て。

 

 各地での戦いが始まった。

 第二次有志連合の構成メンバーがチャンピオンとロンメルの呼びかけにより、そのまま各地のベースへと散って交戦を開始。

 事情はその他のダイバーにも通知され、続々と戦線へ参加する戦力が増えていく。

 

 無数のミサイルが、ビームがレイドボスへと殺到し、極東ベースへのエネルギー供給が滞り始めた。

 レイドボスが通常の10倍の攻撃を繰り出すのなら、ダイバーたちはその100倍の数で押し返す。

 GBNに参戦するガノタたるもの、「戦いは数だよ兄貴!」という言葉は常に胸に刻まれている。暴力を越える暴力が、全てを焼き尽くそうとしていた。

 

 しかし。

 

 

「まずいぞ、キョウヤ! 各地の戦線が押し返されつつある! このままでは……!」

「くっ、まだ足りないのか!」

 

 それでも、システムレベルで理不尽な存在となりつつある敵にはまだ足りない。

 全世界の戦闘状況すら把握するロンメルが告げる形勢不利の情報に顔をしかめるチャンピオン。

 全ダイバーの力を結集してなお倒せないレイドボスの脅威に歯噛みした、その時。

 

 

「――失礼、前を開けてくれ!」

「!?」

 

 

 レイドボスに数発のミサイルが突き刺さった。

 それだけならば驚くことなど何もない。この状況では狙撃も流れ弾もいくつもレイドボスに着弾し、しかし大した成果を上げられずにいた。

 

 はずなのに。

 

「再生が止まった!?」

「急にダメージ通るようになったぞ!?」

 

 変化は如実に表れた。

 これまでは瞬きの間に再生していたボスの損傷が、再生途上で失敗したように崩れ落ちる。

 攻撃に比して通るダメージ量も明らかに増え、何かが起きたことは誰の目にも明らかなものとなり。

 

 誰もが振り向くその先に、姿を見せたのは第二次有志連合の放送でも姿を見せた、ゲームマスターだった。

 

「修正パッチを応用したワクチンプログラムだ。一時的だが、変異体の再生を阻害する。各戦場でもこれと同じミサイルを導入している。今なら変異体に大ダメージを与えられるぞ」

「ゲームマスター!?」

 

 それは、GBNの秩序を守る番人。

 そして少年と少女の奇跡を祈る、優しい大人だった。

 

「加えて、運営から緊急ミッションを発令した。変異体との戦闘に関わった全てのダイバーは自動的にこのミッションを受領したものとみなされ、戦果に応じた報酬が支払われることとなる」

 

 だから、さっきから妙に参戦するダイバーが増えたのかと納得するリク。

 それはそうだろう。ウィンドウに表示されたミッション参加報酬ははっきり言って破格。

 リソースもレア素材も唸りをあげて、このミッションでそれなりの戦果を挙げれば当分豪遊できるだろう程の桁数がずらりと並んでいた。

 

 おそらくそれはとんでもない決断で、そうまでして世界を守りたいと願ったゲームマスターは、それこそ使えるものなら何でも使うという大人としての決断にも満ちていて。

 SDガンダム姿のアバターですらわかるほどに苦々しい表情を隠し切れず。

 

 

「……これでいいのだろう、<傭兵>!!」

 

 

『――ああ。その依頼、請け負った』

 

 

 ヤツが、来た。

 

 

◇◆◇

 

 

「レイヴンさん!?」

「やあさっきの依頼人。変則的だが依頼になるらしいから、仕事しに来た」

 

 リクとゲームマスターのすぐそばをすさまじい勢いで飛び去って行く影。

 通信の声からも明らかなとおり、それはさきの第二次有志連合戦でも力を貸してくれたにもかかわらずいまだによくわからないダイバーだった。

 そういえば有志連合と戦った後に姿を見ていなかったなと今さらながらに思い出し、さらにその後のレイドボス戦でも見かけなかった。

 それが今になって出てきたということは、と想像が形を成していく。

 

 このダイバー、世界の危機であるにも関わらずミッションになっていなかったから戦闘に参加しやがらなかったのだ、と。

 

 

 だがまあそれは置いておく。何をやらかすかわからない、何をしてくれるかわからないからこそ心強いのだと、とにかくそう思い込むことにする。

 

 今もそうだ。

 さっきまでの黒くどこか禍々しくすらあった機体から打って変わり、棒のように細い手足を持った異常なほどの軽量機体。おそらく、レイドボスの高密度の弾幕をかいくぐるためのセッティングなのだろう。すさまじい速度で飛んできたと思ったら、左右に吹き飛ばされるような勢いで機体を操って攻撃を回避しながらすさまじい勢いでレイドボスへと迫る。

 そのままいかにして倒す気なのか。それも明白だ。

 

「……ねえ、リク。なんであのガンプラの右肩についてる大きな塊、ガンプラの左腕を引きちぎるの?」

「……さあ」

「…………あっ、塊がなんか広がってから揃えられてぐるぐる回り始めた」

「…………強そうだね」

 

 特に被弾していないにも関わらず勝手に満身創痍になったガンプラは、体当たりのような形でレイドボスへと突撃を敢行。

 軌跡を炎の轍で飾り、たたきつけた右腕の巨大な振動ブレードの束は弱体化したとはいえレイドボスとして十分な耐久値を誇っていたはずの胴体を貫き、抉り、爆発と見まがうほどの火花を散らし、単騎としては信じられないような勢いでレイドボスのHPゲージを削っていた。

 

 

「耐久値がいくらあろうともなぁ! コレは! 多段! ヒットだから! 死にます!!」

 

 

 その叫びの直後、レイドボスの胴体に風穴があいた。

 

 

◇◆◇

 

 

 GBNは救われた。

 なんやかんやの末、チャンピオンのガンプラを使って発動したリクの必殺技がレイドボスを両断。

 全てのダイバーとリクたちの努力と思いが、勝利を掴んだ。

 

 ちなみに、傭兵はレイドボスの胴体に風穴を開けた後、「崩れたビルから降ってきた柱かなんかを引っ掴んで殴り倒す」というこれまた信じられないことまでやらかしたが、割愛する。

 

「やった、倒したぞ!」

「俺たちの勝ちだ!」

「……え、てことはボーナスもうもらえないの?」

「殺したいだけで、死んでほしくなかったのに!」

 

 まあ、勝ったとはいえガンダム作品のお約束よろしくそれでも結局人ってさぁ、みたいな発言があちこちで叫ばれたりもしたような気がしたが、とにかく勝利だ。

 ダイバーたちは勝利の喜びを分かち合い、プレゼントボックスに放り込まれた目を疑うような豪華報酬を目にして運営への愛を叫び、GBNが喜びに満ちた。

 

 ベースではサラを現実世界へ送り出すべくビルドダイバーズたち一同が見送りに顔を揃え……当然のように、傭兵の姿はそこになく。

 

 

 その後数か月してGBNが安定を取り戻し、サラがGPDのシステムとブレイクデカールを応用した現実世界での肉体を手に入れて平和を謳歌するころになっても、GBNに姿を見せることはなかったという。

 

 

◇◆◇

 

 

 それは、ごく一部のダイバーの間で語られる伝説。

 元々それなりに名を知られていたが、GBNを揺るがすELダイバー事件の最終局面において唐突にビルドダイバーズに協力し、変異体の本体に対して単騎特攻を仕掛けて胴体をブチ抜いた一人のダイバー。

 依頼さえあればどんなフォースにも協力し、ガンプラは常に目的に合わせたカスタマイズをされ、<傭兵>と呼ばれた男。

 特定のフォースに属さず報酬だけを理由に力を貸す傭兵プレイもいいんじゃね? という認識が適性のあるダイバーの中に芽生え始めるきっかけになった、とも言われている。

 

 

 では、そんな伝説の男はどうなったのだろう。

 GBNの歴史に名を刻んだ、自身からはアバター名を名乗る事すらほとんどなかったその傭兵は、一体どこで、何を。

 

 

◇◆◇

 

 

「はい、はい……いえ、お役に立てたなら何よりです。またよろしくお願いします。……それでは」

 

 携帯電話の通話を切る。

 電話越しの会談は非常に有意義な成果を収め、これでまた一つ夢に近づいた確かな手ごたえがあった。

 

 GBNという名のフルダイブアーマードコア(自己洗脳完了)で得られたものは数多い。

 この世界では接種できなかったアーマードコア感の補給。

 空気の中に漂っている気がするコジマ粒子の堪能。

 あらゆるガンプラパーツやその他規格外パーツすらガンプラへ装備可能とするプラモ製作技術。

 

 そして。

 

「お疲れ様です、マスター。KT社との電話打ち合わせが終わったということは、次はファクトリーアドバンスとの交渉ですね」

「ああ。とはいっても既に大筋の合意は得てるから、実質契約のハンコを押しに行く日を決めに行くくらいさ」

 

 椅子ごとくるりと回って振り向いた先。

 俺に声をかけてきた子の姿が見える。

 

 机の上に立ち、隣に並ぶガンプラと変わらぬ身長。

 それでいて自身の意思で動き、声を出し、思考し、笑う。

 

 ELダイバーとは異なる自然発生ではない、しかし成長型AS(アーティフィシャル・セルフ)を有するガンプラのようでガンプラではないプラモデル的なものを着込んだ少女っぽいナニカが、そこにいる。

 

 

 俺は、ELダイバー事件の折りにビルドダイバーズ側として参戦した。当然、傭兵として。

 ビルドダイバーズが俺好みの依頼文で、きっちり報酬も用意してくれたのだから何ら不思議なことはない。

 

 ――その依頼を受ける以前に、件のELダイバー本人であるサラ自身からビルドダイバーズからの依頼を受けるよう依頼されていたのもまあ、事実だが。

 

 結果、俺はビルドダイバーズからGBN内での資金やリソース、資材などの報酬を受けるとともに、サラ自身からも報酬を得た。

 

 自然発生した電子生命体(ファンタズマビーイング)のデータという、値千金の情報を。

 

 

 GBNなどというシステムを実現可能な昨今、人間と普通にコミュニケーション可能な人工知能の作成はそれこそ秒読み段階と言ってよかった。

 そこに降ってわいた天然物の情報。いち早く手に入れれば開発に弾みがつくこと請け合いで、関連企業は喉から手が出るほど欲しがっている。

 それはもう、そんなものを手土産にすれば俺のような若造の事業計画も真摯に聞いてくれるほど。

 ……まあ、話を持ち込んだファクトリーアドバンス社並びにその盟友たるKT社がそもそも大分アレだった、というところもあるんだけど。

 

 結果、こうしてELダイバーのデータをもとに完成したAS搭載機試作型の教育係を任され、忙しい日々を送っている。

 

「そうです、マスター。さきほどファクトリーアドバンスから連絡がありました。今後続々ロールアウトされる新機種たちもマスターのところで預かって欲しい、だそうです」

「……電力会社に相談して電源容量増やしてもらおうかな」

 

 

 ……そう、全ては夢見た明日のために。

 もういいだろう?

 十分に飢えた。GBNで可能性があることを知った。

 協力も得られた。未来へつながる道ができた。

 

 ならば、行かねばならない。

 体はこんなにも闘争を求めている。

 

 テーブルに置いていた書類を手に取る。体裁も条件も、すでにおおむね整っている。

 あとは関係各社の印を押すだけ。そうすることで一つの会社が発足し、プロジェクトが動き出す。

 

 そう、俺の行く道はただ一つ。

 GBNに参戦しても、ガンプラを作っても、バトルをしても、その全てで常に俺はこう思っていた。

 今こそ。

 

 

 

「俺は……アーマードコアの新作を、作る!!」

 

 

 契約書は企画書を兼ねる。

 表紙に刻まれた新たな世界の名は。

 

 

 アーマードコア V I (ヴァーサス・インフィニティ)という。


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