ガンダムビルドレイヴンズ(自称)   作:葉川柚介

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ELダイバー87人もいるんなら12人くらいください(願望)

 風が吹き、木々がざわめく。

 大地を覆いつくすのは黒々と葉を茂らせる針葉樹。彼方の雲から空を抜け、稜線のくっきりと浮かび上がる山を下って流れてくる冷たい空気が揺らす、幾多の木々。

 雄大にして平穏。大自然かくあれかしというその景色はとても尊く貴重なものであり。

 

――ズンッ!!!

 

 しかし、無慈悲な爆炎によって無残にも抉り吹き飛ばされる宿命にあった。

 

 なぜならば、ここは戦場。

 数多のガンプラ駆け巡る電子の地平。ガンプラバトル・ネクサスオンラインのフィールドなのだから。

 

 

 

 

「なんだよこれ!? ミッションはもう終わったのに、追撃があるなんて聞いてないぞ!」

「ギャー! いま狙撃かすったー! やられるー!!」

「あはははははは! ヤバいってこれ負けイベじゃね!?」

 

 森の中を駆け、飛んでいくガンプラの一団。

 彼らはごく普通にGBNを楽しんでいたダイバーであり、今日もまた常と変わらずミッションを受領し、フォースの仲間たちと協力してクリア。当たり前に帰還する……はずだった。

 

 ミッションクリア直後、アラートが鳴り響いた。

 そのこと自体は、驚きはしたものの異常ではない。

 GBNのシステムが生成する豊富なミッションの中には、ミッションクリアによって派生する追加オーダーというものも存在する。

 おそらく、今回の自分たちのミッション中の行動が何らかの条件を満たして追加の敵が増援に現れたのだろう。これすらもクリアすれば、さらなる報酬が得られるはずだ。

 期待と緊張に気合を入れなおし、現れた敵と対峙して。

 

 

 それが間違った判断だったと気付いたのは、すぐのこと。

 

 敵機はガンプラとしては奇異な姿をしていた。

 片方はガンタンクを筆頭に少ないがいくつか例のあるタンクタイプ。ただし両手の携行火器が尋常ならざる弾幕を展開し、しかも肩に備えたミサイルまで放り込んでくる高火力の機体。

 もう一方は、ガンダムシリーズではそうお目にかかれない四脚タイプ。バクゥのような機動力を発揮するための獣型ではなく、安定のみを狙ったような大地を踏みしめる構造で、スナイパーライフルによる遠距離狙撃の精度は肝が冷える。

 明らかに通常のガンプラとは違うその敵は、今の機体構成で敵うような相手とはとても思えず、とにかく一時撤退して接近の策を練らなければどうしようもない。

 しかし、ミサイルが木を根元から吹き飛ばし、そうしてできた隙間を縫って神業のような狙撃が関節部を狙ってくる。

 明らかに、人間業ではない。

 

 

「だー! なんだよあのエイム正確過ぎる!?」

「やめてー! 死にたくないんです私! 待ってる人がいるんです!」

「それフラグじゃね?」

 

 軽口をたたきながらも必至で逃げ続けるダイバーたちの脳裏に、一つの推測が像を結ぶ。

 最近ダイバーたちの話題に上る、謎のダイバーたちの噂だ。

 

 

◇◆◇

 

 

 ELダイバー。

 いわば電子生命体。

 GBN内に日々発生する膨大な量のデータと、そこに乗せられた人の思い、感情。

 それらが結合し、生まれたのがそう呼ばれる存在だった。

 

 最初の発見例は、個体名を「サラ」という。

 当時実力トップのフォース<AVALON>を中心に結成された第二次有志連合が彼女の確保と消去によるGBN世界の救済を目的とした第一事例たるELダイバーであり、その後フォース<ビルドダイバーズ>によって助け出され、安定した存在を勝ち取った。

 そして、ELダイバーは原理上サラのみならず他にも発生することが予想され、事実第二次有志連合から2年の歳月が経ったいま、87人の存在が確認されている。

 当初こそGBNのシステムを崩壊させかねない重大なバグと見なされていたが、今は回避策も確立され、通常のダイバーたちと変わらずGBN内や専用の筐体を使って現実世界での生活を営んでいる。

 

 

 そう。

 ELダイバーは「原理上、今後も発生が予想され、それどころか未確認の個体が現時点で多数存在しても不思議はない」のである。

 サラのように人間と遜色のないコミュニケーションが可能な者や、あるいは意思があるか不明瞭な者や。

 

 ガンプラバトルの場たるGBNにふさわしく、ひたすら戦いを求める個体も存在するのではないかという仮説を、否定できる者は誰もいなかった。

 

 

 いつごろからか、ダイバーたちの間で噂が広まった。

 曰く、ミッションのあとや途中に乱入してくるダイバーがいる。

 異常な強さとガンプラらしからぬ外観で、言葉はわかるが会話が成立しない。

 機体のデザイン傾向は似ているので、おそらく同一人物の別機体か、あるいはフォースの類。

 

 白を基調とした機体に黄道十二宮をモチーフとしたエンブレムを描く通称<ゾディアック>。

 黒にワインレッドを基調とした機体に武器を持った獅子のエンブレムの<死神部隊>。

 

 都市伝説のように、その存在が噂されていた。

 

 

◇◆◇

 

 

『あーら、期待外れ。こんなもんなのね、ダイバーって。心なんてものを持ってるからよ。勝てるなら、そんなものいらないじゃない。ねえ?』

『さあな。それが強さに繋がることもあった……ような気もする』

 

「ちくしょう、言葉はわかるのに会話が成立しねえ!」

「えっ、なにもしかして私たち心とか脳みそとかぶっこ抜かれちゃうの!?」

「やべー、こっわ。敵こっわ」

 

 木の上を飛べばタンクの弾幕に晒される。森の中を縫って飛ぶのももう限界だ。

 一手一手が確実な「詰み」に向けられているという自覚がある。だが今の装備と疲弊した状況では打開策がなく、追い詰められるがままになるしかない。

 何か、状況を覆すための異常でもなければ。

 

 「イレギュラー」でもなければ、このまま終わる。

 

 

『――見つけた』

 

 

 広域通信に割り込んだ誰かの一言。

 その瞬間に起きたことは数多い。

 

 まさか更なる敵の増援か、と身構える乱入された側のフォース。

 突如として肩に備えたミサイルを狙いもつけずに乱射するタンクタイプ。

 脚部から地面にパイルを打ち込んでまで狙撃のために機体を安定させていた四脚機が狙撃ポイントを即座に放棄して移動。

 

 そして、森を焼き尽くす勢いで数多着弾するミサイルと砲弾の、雨あられ。

 

 

「こんなところにいたのか<ゾディアック>。探したぞ」

「マスター、相手は2機だけのようです。指揮機も見当たりません」

「上からも見つからないし、本当にそいつらだけみたいよ」

「えー、つまんなーい」

 

 さっきまで襲撃を受けていたフォースのダイバーたちは声もなく、突如降りたった4機の機影を見る。

 

 肩に1門の滑腔砲を備え、脚部のキャタピラで走ってきた陸戦機。

 ジェットエンジンらしきもので空中を飛行する青い機体。

 ミノフスキードライブか何か、謎の動力で浮遊する白いエースらしき見た目の機体。

 

 そして。

 

「あの黒くてうねうねしたの……まさか、<傭兵>!?」

 

 そこそこ知られているその異形。

 ガンプラらしからぬ機体を以てチャンピオンに牙を剥いた理外の徒。

 第二次有志連合にて秩序を壊す側と見なされていたビルドダイバーズに、義理もなく故もなく依頼があったから、というだけの理由で参戦したイレギュラー。

 

 通称<傭兵>の機体だった。

 

 

「すまんね、そこのフォースの人たち。これはミッション外だし、あいつらは俺たちの獲物なんだ。譲ってもらえるとありがたい」

「……マジかよ」

 

 異常に異常が重なると、もはやまともな反応は返せなくなるのだと彼らは知った。

 だが無駄なロストを避けられるのは間違いなく、この話に乗らない理由もまたなかった。

 

 引かれる後ろ髪などないが、疑問は数多残る。

 もしかすると、またGBNの中で何かが起きているのかもしれない。フォースネストに帰って落ち着いたら、噂を調べるべきだろうか。

 そんな違和感を胸にしながらも襲撃にあったダイバーたちは撤退を選択。今はこれしかないと信じて。

 

 

 かくて正常なダイバーは無事帰路につき、ガンプラとは思えない異常な機体のみが残された。

 

 

◇◆◇

 

 

「まさかそっちから連絡あるとは思いませんでしたよ、えーと……」

『ゲームマスター、と呼んでくれて構わん。私はいま、あくまでGBN運営として君と話をしている」

 

 第二次有志連合から、早いものでもう2年の歳月が過ぎた。

 あれから俺は自身の計画に邁進し、GBNは最近あまりプレイしていない。まあ、毎日似たようなものは仕事として堪能しているわけなのだが。

 そんな俺の元に突然舞い込んだ珍しい連絡。その相手こそ、GBNの運営者の一人であるゲームマスター。第二次有志連合の時にちょっとだけ話した、あの人からだった。

 

 電話越しの声はあの時聞いたものそのもので、今もってGBNの世界を守ることに情熱と使命感を燃やしていることが感じられる。

 俺はなんだかんだこの人のことが嫌いではないのだが、あっちは俺のことを苦手に思っているっぽい。こうしてわざわざ連絡してきても、声がすごく事務的に固いし。

 

『君は最近あまりGBNにログインしていないようだから知らないものとして説明する。……近頃、GBN内に正体不明のダイバーが散見されているのだ』

「ダイバーの噂になってる、んじゃなくて運営側が把握してないというならおかしな話ですね。ブレイクデカール再びですか?」

 

 まあ、内容がこんな胡散臭い厄介ごととなればそれも致し方のないことか。GBNも苦労してるんだな。最近俺もその辺ちょっとわかってきたけど。デバッグとかもうヤだ……。仕様とかバグ技ってことにしちゃおうよ……。

 

『それはない。GBN全体に影響を及ぼしうるようなスキルや改造の類への対策はアップデートを重ね、盤石になりつつある。……つまり、この正体不明のダイバーは、ただのダイバーではない可能性が非常に高い』

「つまり、ELダイバーだと。そういえば最近増えてるらしいですね? 月に3、4人くらいのペースで見つかってるとか」

 

 しかも、運営側が手綱を握り切れない部分があるならなおのことだろう。

 

 

 GBNにおいてELダイバーの発生が加速している、という話は俺も聞いている。

 第二次有志連合の時に渦中の存在となったサラをきっかけに、すでに100人が見えつつあるほどの数のELダイバーが確認されているのは公式発表されている純然たる事実だ。

 となると、当然のことながら運営が把握しきれていないELダイバーが今この瞬間も生まれ、蠢いていると想定しておくべきだろう。

 その話を俺にする理由はわからんのだけど。

 

『しかもそのELダイバーは他のダイバーたちに、「ガンプラらしからぬガンプラ」でバトルを挑んでくるという。……心当たりはないか』

「うちの『製品』が影響してるんじゃないかって? 結論から言うと、ありえませんね。あいにくとうちの製品はまだ完成してない。それどころかオープンテストすらまだのクローズドなシステムです。どうやってそっちにデータ流れるってんですか」

『そう、か……』

 

 もー、ゲームマスターってば第二次有志連合で俺が使ってた機体がガンプラっぽくないからって、そういう案件は全部俺のせいにするー。

 ……まあ、気持ちはわかるけどね。

 ガンプラとは傾向の違う見た目の機体が、ミッションの途中で「乱入」して来る。

 「そういう類のミッションを実装する予定か」「そのミッションの敵として高度なAIを搭載した、電子生命体(ファンタズマビーイング)とすら呼べるレベルの存在を投入する気か」と聞かれていたら、全力で誤魔化さなきゃならなかったし。

 

 ともあれそういう話なら俺はあくまで愚痴聞き役くらいにしかなれない。

 こっちはこっちで開発に忙しいわけだし、いまさら首を突っ込むような理由もないわけだしね。

 GBNは最近ご無沙汰とはいえ、こっちは毎日似たような世界でのテストプレイという名のお仕事中だ。……お仕事だよ。めっちゃ楽しいだけで。体は闘争を求めるから入り浸ってるだけで。

 てなわけで、本業を疎かにはできないから、話はこの辺で……。

 

『では、言い方を変えよう。君にはこれら謎のELダイバーの捜索と確保を頼みたい』

「いや、話聞いてましたかゲームマスター。俺が関わる筋合いは……」

『つまり、これは、「依頼」だ』

「――話を聞こう」

 

 

 ……なんか、第二次有志連合後のあれこれで完全に俺の扱い方を把握された気がするなあ。

 

 

◇◆◇

 

 

「いっけええええええ! MAボール!!!!!」

 

「……なんで、あれでELダイバーが捕獲できるんでしょうか」

「GBNの運営からもらったっていうし、そういう機能があるんじゃない?」

「いいなーマスター。次やらせて!」

 

 適当に弱らせたELダイバーっぽい奴らに、ゲームマスターからもらったモビルスーツの掌サイズのRB-79ボールっぽいナニカを投げつけると、光と化したELダイバーが吸い込まれ、しばらくじたばたともがいた後におとなしくなった。

 どういう理屈なのかはわからんが、なんか捕まえられるんならそれでいいとしよう。

 捕獲と同時に解析されたデータによると、こいつは間違いなくELダイバーだとのこと。ゲームマスターの推測は正しかった、という証明だ。つまり、依頼成功。

 だが、「このテのよくわからないELダイバーが、なぜGBN世界に生まれたのか」という疑問は残る。

 

「んー、この子たち、なんとなく私たちに近い気がするー」

「やはりですか。装甲形状も似てますしね」

「えぇ……私、こいつらと一緒にされるのヤなんだけど」

 

 そして、お供に来てもらった子らの抱いた印象によると、GBNよりむしろ「俺たち」の側に近いという。

 まあ、それは俺も思っていたことだ。だってほら、どう考えてもゾディアックだしなこいつら。

 

 

 だがそれは、一体どういうことなのか。

 あからさまにうちのシステム、あるいは俺の「知識」に影響を受けているっぽいが、そんなことはあり得ない。

 いまだオフライン状態での開発をしているのだからして、何がどうあったところでGBNに影響を与えることなどあろうはずもない。

 

 もし、そんなことがあるとしたら。

 

 

 GBNとうちのシステムを繋ぐ、全く未知の世界でもあるかのようで。

 

 

「……いやはや、期待が高まるな?」

 

 だとしたら、ぜひともお邪魔させていただきたい。

 そんなものがあるとしたら、それはきっと人知の及ばぬ電子の世界。

 ELダイバーか、あるいはそれともまた違った「ナニカ」のひしめくだろう地平に思いを馳せるのが止まらない。

 いいなあ。遊びに行きたいしぜひともそっちでスカウトとかもしたい。

 そんなところの住人達を誘うことができれば、きっとあのゲームはもっと素晴らしいものになってくれるだろうから。

 

 ……あと、こうして捕まえたELダイバーをスカウトしてうちのゲームのメインシステムを守る守護者として配置できるしね! アホほど強化して、いずれシステムが暴走してプレイヤーを襲うときに恐ろしい尖兵になってもらわなきゃ!

 

 

「さて、とりあえずELダイバーゲットを続けるか。そうしていれば、原因もわかるかもしれないし。フォース<レイヴンズネスト>。行くぞ」

「了解です、マスター」

 

 

 GBNの世界はゲームながら広く、深い。

 自動生成されるミッションの数と内容はもはや運営すら把握しきれるものではなく、未確認ELダイバーの捕獲はこうして特殊なミッションとして依頼されるほどに発生している。

 

 なら、もっと他の者もあるのではないか。

 未知なるもの、傭兵なるもの。そういうナニカ。――本当のファンタズマ・ビーイング。

 

 ……どうやら、この世界は思った以上に俺好みのものだったようだ。

 全く、人生が楽しくて仕方ない。

 

 やはり、この世界こそが。

 

 

 俺の、俺たちの、魂の場所だ。

 

 

◇◆◇

 

 

「ところでマスター。なんでフォース名を以前使っていたという<カラード>から変更したんですか?」

「第二次有志連合戦のあと即フォース破棄したから。なんかその後別の誰かに同じ名前使われたらしくて別の名前考えなきゃならなくなったんだよ……」

「フォース名に愛着一切ないのね」

「マスターらしいねー」

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