第一艦隊、抜錨せよ   作:黒助2号

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第2話

第2話

 

1

 

居酒屋『鳳翔』。

前提督鷺宮の秘書艦『鳳翔』が艦娘の福利厚生の充実を図るため立案し、鷹津が許可したこの店は美味しい料理と数多くの酒。そして女将を務めるのは前線を退いた艦娘『鳳翔』。

この店は出される料理が絶品なのは言わずもがな、彼女の穏やかな気性も相まって早くも鎮守府内で人気を博していた。

 

「ああ~、しんどい。辛い。何もしたくない……」

 

誰もが笑顔で過ごす憩いの空間で鷹津はただ1人、やつれた顔でカウンターに突っ伏していた。そのくたびれ様は金剛に対して格好つけていた人物と同一人物だとは思えないほどである。

 

「お疲れ様です、提督」

 

そんな労りの声と共に鷹津の前にキンキンに冷えた特大ジョッキが差し出される。

 

「うひょう♪ アザーッス鳳翔さん!」

 

言うや否や大ジョッキをゴクゴクと喉を鳴らして一気に飲み干した。

 

「カァーッ! 染みわたるぅ!」

 

豪快にビールひげを拭うや否やお通しに出した鳥皮ポン酢を頬張る鷹津に鳳翔は微笑ましい気持ちになった。

 

「流石鳳翔さんまた腕を上げましたね! これ、サイコーっす!」

「ふふっ、喜んで頂けて良かったです。もう一杯いかがですか?」

「いや、もうすぐ加賀さんが来るはずなので、あとはそれから――っと噂をすれば」

 

小料理亭の扉が開き声をかけようとして目を見張った。

美しい。

艦娘としての装束である道着ではなく、珍しく私服だ。白いコートの下には黒いタートルネックシャツと青いスカート。全体的に華美になりすぎないシックなコーディネートは冷静で真面目な加賀にこれ以上ないほど似合っている。薄化粧を施された素朴ながら清楚な顔は口紅の赤をより一層と引き立てられ、不思議な色香を醸し出していた。

 

「遅れてしまい申し訳ありません」

「あ、いや……」

「似合い、ませんか……?」

 

鷹津の煮え切らない返事に、加賀はわずかに動揺した面持ちで鷹津を見上げた。滅多に感情を表に出さない彼女にしては極めて稀な事である。鷹津からしたら思わぬ不意討ちをまともに受けて動揺しただけなのだが、言葉にせずに理解してもらおうなど、甘えに過ぎない。

誰もが誤解なく簡単に分かり合えるのであれば、どれだけの悲劇が防げるのであろうか。

 

「……似合うな。すごくいい」

「……か、からかわないでください」

 

薄く塗られたファンデーション越しにでもわかる程顔を赤くして照れる加賀。

何故だろうか。普段クールな人が照れると最高に可愛い。押し倒したくなる。

 

「いや、本心さ。加賀さんのイメージぴったりだ」

 

爛れた本音は紳士という仮面で隠す。分かり合えることは確かに素晴らしい。

だが、分かり合えないこともそれと同じくらい素晴らしいのだ。

 

「こ、これは二航戦の子たちが……『提督とのデートだから』と言って無理やり」

 

飛龍・蒼龍グッジョブ!

脳裏でテヘペロ☆ と舌を出す二航戦の二人組に今度特別ボーナスを出そう。

悦に入っている鷹津を余所に加賀は鞄の中からA4サイズの茶封筒を取り出すとそれを鷹津に渡した。

 

「例の件の報告書です。遅くなってしまい申し訳ありません」

「おぅ、ご苦労さん。鳳翔さん、貴女もこちらへ」

「それは?」

「鷺宮先輩から引き継いだ帳簿と大本営から渡された帳簿で計算の合わない部分があったんです。加賀さんにはその内偵を頼んでいたんですよ」

 

補給部隊が運んでくる資源資材と鎮守府が受け取った資源資材。

必要な補給物資を大本営に要請していたにも関わらず、必要量の7割程度しか支給されてなかった。理由は戦線の激化による物資不足と要請物資と鷺宮の戦果が釣り合わないことだという。一見、もっともらしい理由ではあるが、少し待ってほしい。

鷺宮は軽空母、軽巡洋艦、駆逐艦しか配備できない言ってしまえば貧弱な編成で数多くの提督が攻略に失敗した『魔の海域』と呼ばれる『沖ノ島』周辺の戦線を維持してきたのだ。これは十分な戦果だと言えるのではないだろうか。そもそも戦力の的確な補充なしに『攻勢にでろ』などと宣ったとしたら、そいつは相当な愚物だ。

更にこの書類には鷺宮が必要と判断した量の補給物資を輸送部隊が受け取ったと記されている。

 

「おかしいと思って調べてみたら案の定だ。こいつら資源を横流しして不当に利益を得ていやがった」

「すでに監査部に告発してあります。彼らは数日以内に関係者は軍法会議にかけられるでしょう」

 

軍規によれば軍の物資を横領した者は銃殺となっている。

それを知っている鳳翔は沈痛な表情を浮かべた。加賀はそんな彼女を気遣う様にそっと肩に手を添える。

 

「鳳翔さんが気に病む必要はありません。先輩がこいつらの横領に気付いていなかったとも思えません。こんなご時世です。彼らの生活を慮ったんでしょう」

 

無論、軍人として厳格に処断しなかった鷺宮に非がなかったとは言わない。彼は優先すべきことを誤った。この鎮守府を預かる『提督』であるならば、彼らを厳粛に処罰し、健全な艦隊運営を行うべきである。その責めを負うべきであろう。だが、

 

「先輩の優しさに付け込んだこいつらに同情の余地などない。自分の愚かさを後悔しながら死んでいけばいい」

 

鷹津は鷺宮ではない。自分は彼ほど優しくなれない。

鷹津光一は艦隊を預かる提督であり、人類生存の為に全身全霊を尽くすと誓った身である。

その妨げになるのなら、たとえ味方であっても容赦は出来ない。

 

切り替えるように鷹津は艦隊資料を手に取り微笑した。

 

「それにしても見事ですね。戦艦、正規空母こそいないものの、この鎮守府の生え抜きの艦娘達はどの子も練度が高い」

 

それは鷺宮が提督としては3流であったとしても参謀としては間違いなく一級品であったという証左であろう。

 

「艦隊の調子はいかがですか?」

「ん~……、正直良いとは言えません。彼女たちの信頼を勝ち得るにはもう少し時間が必要かもしれませんね」

 

鷹津は加賀の問いにそう答えると枝豆を口に運んだ。

生え抜きの艦娘にとっては鷹津光一という男、及び彼と一緒にこの鎮守府に配属された艦娘達は艦隊に入り込んだ異物という扱いである。

警戒。不信。拒絶。遠巻きに送られる視線にはそれらが入り混じっている。無論、鷹津はそれを咎める気は毛頭ないが、いつまでもそのままでは困る。艦隊戦という命のやり取りが行われる場において、互いへの不信感は遅効性の毒となりえる。気づいたら内側から崩れて致命傷になっていた等冗談ではない。

唯一の救いは鷺宮の秘書艦であった鳳翔が鷹津達に好意的であるということであるが、それでも現状を打開するにはもう一押しほしいところだ。

 

「ま、気長にやっていくさ」

「くれぐれもご無理をなさらないでください。貴方に倒れられては私たちも困ります」

「心配してくれてるのか?」

「…………まあ……、私も認めてはいますから」

「加賀さんがデレたー!」

 

大はしゃぎする鷹津の隣で顔を真っ赤にした加賀は冷酒を一杯呷った。

そんな二人のやり取りを微笑ましい気持ちで見守っていた鳳翔はふと2週間前のことをことを思い出していた。

 

2

 

大本営より下された任務を終えた鷹津はその日のうちに軍病院に入院中の鷺宮の見舞いに赴いた。鷺宮が入院しているという軍病院の一室を訪れた鷹津をまず出迎えたのは鷺宮の主席秘書艦である軽空母『鳳翔』だった。

 

「鷹津提督、お待ちしておりました」

「鳳翔さん、お久しぶりです。先輩の容態は……?」

「お医者様が言うには統合失調症とのことです。……ここのところ心身共に無理をなさっていましたから」

 

いつも穏やかで感情的になるところなど見たことのない鳳翔が苦渋に満ちた表情を浮かべた。それだけで鷹津には彼女たちの胸中を察して余りあった。

 

「あの人はずっと貴方を待っていました」

 

個室からは無聊の慰みにと植えられたあたり一帯を覆う花畑が一望できる。しかし、今はカーテンに覆われ一切見ることが出来ない。眠っている鷺宮を伺う。

青白い顔色。痩せこけた頬。濃く浮かび上がっている目の下の隈。

いったい今日までどれほどの苦労を背負い込んでいたのだろうか。

 

「提督。鷹津少将がお見えです」

 

鳳翔が優しく呼びかけると鷺宮は眼を開き、ゆっくりと起き上がった。

 

「やぁ、鷹津。よく来てくれたね……」

「話は鳳翔さんから聞きました。大変でしたね」

「聞かれてしまったか。いやぁ僕なりに頑張ったんだけど、力及ばず。ははは……情けない。才能の壁は厚かった」

 

鷺宮は努めて明るく笑っていたが、やがて俯き肩をワナワナと震わせた。

 

「悔しいよ……。本当に悔しい……」

「……先輩、貴方は自分が焼き切れるまで頑張ったんです。だから今は少し休みましょう」

「そうだよ。精一杯やった……。でも、全然駄目で……僕が愚図だったから、……皆を一杯傷つけて……鳳翔にも、みんなにも酷いことを……」 

 

鷺宮の目から大粒の涙がとめどなく流れてくるのを鷹津は見た。

 

「提督、誰も貴方を責めたりしていません。今はそれよりも体を治すことを最優先に――」

「いや。もう駄目だ……」

 

虚ろな視線は宙を彷徨い、鳳翔を通り過ぎて鷹津に向いた。

 

「わかっているんだ。僕は鷹津の様な素晴らしい『提督』にはなれない。」

 

そんなことはない、という言葉を鷹津はかろうじて飲み込んだ。

才能をいう壁に抗い続けてきた鷺宮がどれほどの葛藤と覚悟を経てそう言ったのかわからないほど愚かではないつもりだ。

 

「君に頼みがある。大事なことだ」

「……聞きましょう」

 

鷺宮が言葉を発するまで時間がかかった。それはまるで何かを重大な決断するかのような長い長い間だった。

 

「……頼む。君が彼女たちを引き取ってくれ」

 

鷺宮が発した言葉に鳳翔は思わず彼を見た。嘘であってほしい。そう願いすらしたが、鷺宮の表情を見て彼が真剣であることを悟った。

 

「知っているだろう。我々『提督』の中には艦娘を消耗品程度にしか見ていない奴らがいることを……」

 

実際には多く『提督』は有用だが得体のしれない艦娘を恐れ『兵器』としてしか扱わない。自分たちのような親艦娘派は未だに少数だ。そして、マイノリティはいつだって弾圧される。

幸いにも鷹津は提督としての能力に恵まれていた上、非常に性格が悪い。そういった妨害を躱した上に戦果を重ねることで自身の足元を固めてきた。

だが、鷺宮は違う。

彼はいつだってそうだ。どんな汚いものの中からも美徳を見いだそうとする。こんな状態になってまで決して人のことを悪く言おうとしない。だが、今回はそれが裏目に出た。

その優しさが彼を蝕んだのだ。

 

だからこそ、鷺宮は鷹津に後を託そうとしている。だが、

 

「いいのですか? 艦娘との契約を俺に譲ってしまえば、貴方は二度と『提督』として復帰出来なくなります」

 

艦娘との縁は一度切ってしまえば再び結び直すことは出来ない。

今まで苦楽を共にしてきた彼女たちを放逐することを彼が後悔しないとは到底思えない。

 

「僕は彼女たちの信頼に背いてしまった」

「違います! 提督、それは――」

「何も違わないさ。どれだけ追い詰められていようと僕は彼女たちを死に追いやるような命令を出してはいけなかったんだ」

 

一度失った信頼を取り戻すには莫大な時間を要する。しかし、鷺宮にはその時間は残されていない。遠からず艦隊は解体され、部下だった艦娘達は別の鎮守府へと配属されるだろう。

配属先の提督が人道的であればいい。しかし、そのような人物など本当に一握りしかいないという事を鷹津も鷺宮もよく知っている。

 

「僕の指揮下ではその力を十分に発揮できなかったけど彼女たちはみんな出来る娘ばかりだよ。君なら彼女たちの能力を、彼女たちが人間として生きられる場所を作れると」

「本当にいいんですね……」

 

目を閉じて彼女たちと築いてきた思い出を反芻する。

隼鷹と飲み比べをして二人して二日酔いでダウンしたこと。

その醜態を見た霞にこっぴどく怒られたこと。

こんな不甲斐ない自分をいつだって近くで優しく、そして強く支えてくれた鳳翔。

 

霞、君に謝ることが出来なかったことが心残りではあるが……。

 

彼女たちが自分を許してくれなくても、せめて人間らしく生きていてほしい。

信頼できる人間に彼女たちを託す。

提督として不甲斐ない結果に終わった自分ができる唯一のこと。

 

「後悔をしないわけない。僕はこれから先、ずっとこの選択を悔やみ続けるだろう。だけど、それでも、これが僕にできる最後の仕事だ」

 

鷹津は逡巡した。

寄せられる信頼が重い。鷺宮は自分を買いかぶりすぎている。『鷹津光一』という男は彼が言うほど大した男ではない。

艦娘を使役する術者を養成する提督養成。その中にいたのは高い能力と人間性が反比例したクズばかり。どいつもこいつも選民意識と英雄願望に凝り固まり自分の手柄のことしか頭にない。そしてその中でも百年に一人の天才と持て囃されたとびきりのクズが鷹津光一だった。

鷺宮仁に出会わなければ、他の提督と同じように艦娘を道具や兵器としてしか見做さない唾棄すべき存在に成り下がっていただろう。

鷹津は鷺宮の優しさが好きだ。だが、同時にそんな彼の優しさに劣等感を覚えている。世間では天才などと持ち上げられているが、自分ひとりが優れているだけの自分と、他者の心に影響を与えその心を変えていく鷺宮と一体人はどちらを求めるだろうか。はっきり言って彼の艦隊を預かる自信がない。しかし、――

 

鷹津は固く拳を握った。

 

しかし、この人が安心して休むためには、鷹津光一は大丈夫であらねばならないのだ。

 

「先輩、あとは任せてください。貴方の意思は俺が引き継ぎます」

「……ありがとう。鳳翔、君も鷹津と一緒に行くんだ」

「そんな……! 私は最後まで提督にお供します」

「君が抜けたら誰が橋渡しになるんだい」

 

今まで鷺宮艦隊は軽空母鳳翔と駆逐艦霞が艦娘達のまとめ役を担ってきた。だが、今回の件で裏切られたと感じた霞は間違いなく鷹津に反発するだろう。

事実あの事件以降霞は同じ艦娘の鳳翔とすら目を合わせようとしない。鷺宮が不信感を植え付けてしまった所為だ。

鷹津が彼女たちの信頼を勝ち取るまで、旧鷺宮艦隊の面々をまとめ上げられるのは同じ艦娘であり、他艦娘達からの信任の厚い鳳翔しかいない。

 

「こんなこと、君にしか頼めない」

 

鳳翔は辛そうに瞑目した。震える細い手と唇からは彼女の悲しみが伝わってくるようだ。

鷹津は何か言おうとしたが、自分の出る幕ではないことを悟り飲み込んだ。

静寂はほんの少し。やがて鳳翔は意を決したかのように口を開いた。

 

「貴方はずるい人ですね。そう言われてしまったら私は断れないではありませんか」

「……すまない」

「許してあげません」

 

鷺宮は瞼をぎゅっと閉じた。

しかし、誰よりも近しい鳳翔に言われると辛かった。

 

鳳翔は唇を引き結んで鷺宮に近づいた。いくら温厚な彼女といえども、きっと愛想をつかしたに違いない。

胸が張り裂けそうなほど痛い。腹の底から何か嫌なものが込み上げてくる。

覚悟はしていたつもりだ……。

 

それが彼女たちを裏切った自分への罰なら受けるほかない。

だが、次の瞬間にかけられた言葉は鷺宮の予想もしていなかったものだった。

 

「すべてが終わって平和になったら、2人で小さなお店を開きましょう」

「…………え?」

 

呆然としながら鳳翔を見あげると彼女は優しく微笑んでいた。

 

「一緒に船旅でもしながらいい土地を探して、メニューも色々考えなくてはいけませんね。店の内装も話し合って……。ふふっ、今から楽しみです」

「待って、僕はもう――」

「まさか私たちの前からいなくなるなんて言いませんよね」

 

穏やかな、しかし断固とした口調で図星をつかれ、思わず目を逸らした。

バチン、と鳳翔が鷺宮の両頬を叩く。心理的空白から強制的に引き戻され、鳳翔が至近距離から自分を真っすぐに見据えていた。

 

「そんなことをしたら私は貴方を絶対に許しませんよ」

「けど、だけど……」

「貴方はあの時私たちは『人類の守護者』だと言いましたよね」

「違う! それは――! それは…………」

 

弁解の言葉など言えるはずもなかった。

霞が大破し、轟沈のリスクが高いにも関わらず進撃を命じたあの時。確かに鷺宮はそう言い放った。頭に血が上っていたとはいえ、自分はなんということを言ってしまったのだろう。罪悪感で胸が食い破られそうな程痛い。

鳳翔は穏やかに言葉を続けた。

 

「その通りです。私たちは深海棲艦を倒すために生まれ、提督を愛するように作られています」

 

艦娘は提督を愛するように出来ている。

友愛。親愛。慈愛。情愛。

それは艦娘ごとに違う種類で現れるがそれは全ての艦娘に備わっている。『愛』とは一見耳当たりの良い言葉ではあるが、それは裏切り防止の精神的なブロックという負の側面がある。自分自身の心が操作されたものである、という恐怖は想像しただけでも筆舌に尽くしがたいだろう。

だが、それでも――

 

「ですが、貴方を想うこの心だけは、私自身のものです」

 

鳳翔はその恐怖を知っても尚、この気持ちが自分のものであると宣言する。

堂々と宣言するその姿は威厳と慈愛に満ち溢れていた。

 

艦娘にも心がある。

鳳翔にとってこの気持ちが作られたか、どうかなど関係ない。

自分が鷺宮仁という男を愛おしく思った。それは自分自身から湧き出た感情だと確信していた。

 

鷺宮の目から涙が溢れた。

どうして君たちはそんなに強く、優しいんだ。

こんな弱くて情けない自分が彼女たちの近くにいてはいけない。いけないはずなのに――

 

「僕では君を不幸にするだけだ」

「貴方に捨てられたらそれこそ私は不幸ですよ」

 

何故想うことをやめられないのだろう。

 

「たとえ縁は切れても、私は貴方の艦娘です」

 

体を二つに折って鷺宮はただ泣いた。涙と一緒にこの暗澹たる感情が洗い流されていくようだった。救われた。不甲斐ない自分に過分な言葉をくれた彼女の為にも強くなりたい。心からそう願った。

 

いつか言おう。君に出会えて良かった。

僕もずっと君を愛している、と。

 

 


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