インフィニット・オルフェンズ!   作:札切 龍哦

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オルシャルを目指して初投稿です


クラスメイトは全員女+オルガ

「なぁ、どうしてこんなところにいるんだろうな」

 

 

電車・・・モノレールとかいうスムーズに動く乗り物の座席にどっかりと座る、銀髪褐色の男・・・いや、『IS学園一年生』オルガ・イツカは、今まで幾度となく漏らした所感を、溜め息と共に・・・隣にいる分厚い参考書を黙々と読んでいる大切な相棒、三日月・オーガスにぼやきながら呟き、広がる青空、白い雲を、身体を傾け逆さまに眺める

 

「此処も俺達の辿り着く場所だったんでしょ。止まらないで行こうよ、オルガ」

 

駅前の売店でチョコレートを買い占め、火星ヤシを黙々と食べながら、俺達が向かう学園・・・『IS学園』より渡された分厚い参考書、必読と書かれたその資料を黙々と読み進め、口数少なくも真摯に真面目に読み解いている

 

「ミカお前・・・順応も適応も早いんだな。すげぇよ、ミカは」

 

「そう?別に普通でしょ。立ち止まらない限り道は続くし、オルガは何処にだって連れてってくれるんだから、俺は俺の出来ることをやるよ」

 

ミカは特に驚異も不安も持っていないらしい。俺がいるなら大丈夫だ、俺がいるなら心配ない。そんな、当たり前の絶大な信頼を寄せている

 

・・・自分達は正確にはこの国の・・・日本の住人、いやもっと言えばこの世界の人間ですらねぇ。ミカも俺も元の世界から・・・ギャラルホルンもヒューマンデブリ、んで勿論、俺達鉄華団の存在もない

この世界へとどういう訳か迷い込んだらしい

 

「俺達が止まんねぇ限り道は続くとは言ったがよ・・・こういう裸一貫で放り出されるとは流石に予想外だったな。いや、止まらなきゃいいわけだが」

 

「辿り着いた場所があるんだから、もう俺達は何処へだって行ける・・・もしかしたら、そう言うことなのかもね、オルガ」

 

「いや、辿り着く場所なんていらねぇって」

 

「俺達は、もう辿り着いてたんだ」

 

「「・・・・・・」」

 

ま、まぁ・・・俺達がこうしていることが大切なんだ。俺とミカは相棒同士。そいつが分かってるなら、構いやしねぇ。何だって出来る

 

・・・もっと言えば、どっちの世界でも俺達はくたばっちまってる。ヒットマンに打たれ、ダインスレイヴ・・・禁止兵器を打ち込まれ・・・俺達は、その命を元の世界で落としてる繋がりって訳だ

 

「異世界転生って言うらしいよ。俺達みたいなの」

 

駅前で参考書を片っ端から買っていたミカはやけに理解が早い。読み書きは大丈夫なのか?という問いにはどういう訳か読めるらしいという答えが帰ってくる

 

「この国では学ぶことが大切なんだって。遠出や出張だと思って、色々やってみようと思う」

 

座席に身を預け、懸命に参考書を読み耽るミカのポジティブさに・・・自分も細かいことを考えるのを止め、現状を把握することに努める事とする

 

この世界では・・・徹底的な女性優位の社会基盤が敷かれてる。女子が、女がひたすらに強く、様々な事を主導し、様々な事を優先し、率先して事を運んで行く。男はどういう訳か、その立場が徹底的に弱い。社会的にも、権利的にもだ。情けねぇ・・・そう思いもしたが、そうならざるを得ない武器、得物ってやつが、女には与えられていたんだ

 

IS・・・インフィニット・ストラトスとかいう、なんか女しか付けられねぇ鎧だかなんだかが、女しか付けられない、だか・・・女しか起動できないだかで、肉体的な強さの優位はあっという間に覆されたらしい。その武装はISコアを主軸としてだのなんだのって・・・

 

「正直ピンと来ねぇ」

 

「オルガ何言ってんの」

 

そんな中、俺達は気が付いたらそのISの試験会場に突っ立ってた。訳も分からずに試験に巻き込まれた俺ら。其処で、有り得ない事が──世界的に有り得ない事が起こったのだ

 

『女しか起動できないISを、男が動かした』・・・そんな有り得ない、不可解な事象が巻き起こり。無一文な俺達はあれよあれよという間に試験を受けさせられた。俺とミカはISによる模擬戦を申し付けられ・・・

 

「手加減してくれよミカ・・・」

 

「殺さないようにって、難しいね」

 

・・・其処での結果と事例にて、そんな特殊な事例を見逃される筈もなく。俺達は身柄と身元をIS学園にて保護、入学を決められることとなった。ガンダム・バルバトス・・・MSを動かせるミカはともかく、その格落ち以下の自分が上手くやっていけるのかどうか・・・正直不安な所もある・・・が

 

「だがな!ミカ、すげぇぞ!俺達の学園には、俺達を除いて女しかいねぇみてぇだ!名瀬の兄貴なんて目じゃねぇ!何て言うんだっけか、こういうの・・・」

 

「ハーレム」

 

「それだ!あぁそうだ、学園生活で・・・薔薇色の生活も毎日も、決まったようなもんじゃねぇか!」

 

そうだ、ドブネズミみたいに這いずり回る必要もねぇ、誰かの顔色を伺って怯えることもねぇ、シノギも、取り分もケジメも落とし前も考えることはねぇ!最高だろ!上手く行きゃあ・・・彼女や、一生もんの嫁さんだって手に入る!どうやら神様ってのは俺達を見捨てた訳じゃねぇようだ!

 

「薔薇色の生活!地位も名誉も、全部手に入る!見ろよミカ、実は前々から考えてた、学生になったら何をするかっていう企画書を──」

 

取り出した、『オルガ・イツカ学園エンジョイ計画』のメモ帳を・・・ミカは無言でひったくり、ビリビリに破り捨てる

 

「な──何やってんだミピギュッ!?」

 

俺が抗議をするより早く、ミカは俺の胸ぐらを掴み上げ。悪魔のような瞳と能面のような表情で俺を真っ直ぐに見詰めてくる

 

「それを決めるのはオルガじゃないんだよ。IS学園に入学してからの、俺達の頑張り次第なんだ」

 

「ミカ・・・」

 

「公共の場で騒いじゃダメだよ。そのゴミ、きちんと片付けよう。一緒に」

 

・・・正論と諫言を共に俺に突き刺し、いそいそとミカは破り捨てた紙を拾い始める

 

「・・・勘弁してくれよミカ・・・」

 

とことんまで正論を叩きつけやがって・・・これじゃあ、俺が浮かれに浮かれた馬鹿みたいじゃねぇか・・・アホみたいな行動の落とし前は、きっちり付けるからよ・・・

 

IS学園に辿り着く迄のモノレールで、白い目線に晒されながら俺達はひたすらに紙屑を拾い上げ続けた。・・・すまねぇ、ミカ・・・

 

 

──────

 

IS学園に着いた俺達は、そのままクラスに押し込められた。クラスナンバーは見てねぇが・・・まぁ、一年生だって事が分かってるなら大した問題にはならねぇだろう。ミカも俺も、用意された座席に座って、クラスを見渡す。俺は大分後ろの席で・・・ミカはその真後ろの席だ。しかし、こいつぁ・・・

 

(夢かなんかとも疑ったが・・・マジに女しかいないんだな。ISを学ぶ学園なんだから、当たり前っちゃ当たり前だが)

 

右を見ても左を見ても女、女、女・・・泥臭い臭いなんて何処にもねぇ、鼻に効くような香水やらなんやらの香りがツンツンと臭ってくる、中々に刺激的な場所だ。・・・まぁ、いいんじゃねぇの?

 

(・・・いや、そうでもねぇか)

 

前の座席。そう、教壇の真ん前にいる、『俺ら以外の男性IS操縦者』・・・名前は確か、オリムライチカ・・・だったか。アイツは中々にキツそうだ。まぁ無理もねぇか。性別違いで、まともに話も合うかも解らねぇ場所に放り込まれちゃ・・・不安も募るってもんだ

 

(その内、声でも掛けてやるか。同じ男同士、話し相手くらいにはなってやれるだろ)

 

そんなお節介を考えていると、クラスの扉が開き、眼鏡を掛けた女の先生・・・先生だよな。黄色い服にピンクのインナーを着けた眼鏡の女が現れる。あれは・・・

 

「皆さん、入学おめでとう!私は副担任の『山田真耶』です!」

 

・・・・・・喋る度に揺れやがる・・・すげぇよ、あのデカさは・・・何を食べりゃああなるんだろうな。やっぱ豊かな国は違うんだな・・・

 

そんな中、その自己紹介に拍手一つ起こさない空気にいたたまれなくなったのか、山田先生は生徒の自己紹介に移る事にしたらしい。あ、から始まる女生徒連中から、一人ずつ教壇に登り自己紹介を果たしていく

 

(・・・しかし、こんなしっかりとした学習、こんなしっかりとした設備で。俺らがまともな勉強を出来る日が来るとはな)

 

 

 

 

ねぇ、オルガ。次はどうすればいい?

 

 

生きるために、盗み、逃げ回り、時には殺さなければいけなかった、ゴミ屑みたいなあの頃から、ちっとは前に進めてる・・・のかは正直解らねぇ。しかし、こうやって落とした命を拾えたなら、まごついたり止まったりしてる場合じゃねぇ

 

「──くん!イツカくん!」

 

そうだ、止まんねぇ限り、道は続く。今度こそ、今度こそ俺達は、進み続け・・・ん?

 

「・・・?」

 

「もう、やっと返事してくれた!大声出しちゃってごめんね?」

 

幼少の思い出に浸っていて、山田先生に呼ばれていた事に気付かなかったらしい。周りの女連中に笑われていることに気付き、照れ混じりに頭を掻く。いけねぇ、嘗められちまったか・・・クソ、これからに響かなきゃいいんだがな・・・

 

「でも、あ、から始まって今、お、なんだよね。オリムラ君はやってくれたから、イツカくんの番なんだけど・・・自己紹介してくれるかな?ダメかな?」

 

そうか、自分も自己紹介か。・・・ついうっかり礼儀を欠かすとこだった。一年付き合う仲間なんだ、きっちり身元を証明しとかねぇと

 

「おぉ、忘れてた」

 

てなわけで、俺も壇上に上がり、背筋を伸ばしてきっちりと挨拶をビシッとかます。ハキハキと、壁の向こうに聞こえる声でな

 

「オルガ・イツカ。鉄華団の団長だ」

 

そう告げた。告げたんだが・・・どうもクラスの連中の視線がおかしい。期待していたものとは違うような、なんか・・・芸人に求められたものを出してもらえてない、みたいな、そんな感じの・・・

 

「は?・・・は?」

 

「模範的な挨拶だったが・・・このバカどもの期待していているモノとは違ったようだ」

 

そう俺に告げてくるのは、黒いスーツに身を包んだ、パリッとした感じの女・・・確か担任の、オリムラ・チフユとかいったか。となると、この目の前にいるオリムラ・イチカの・・・姉弟なのか?

 

「お前はIS操縦試験において抜群の『生存性』と『不滅性』を示している」

 

──げっ

 

「期待しているのはそれなようだ。・・・すまないが、見せてやってくれ。世界唯一の『希望の華(ワンオフアビリティ)』をな」

 

・・・それを聞いて理解する。あぁそうかよ、そういう事かよ。コイツらが求めてるのは、『元気溌剌』な俺じゃねぇって事が、よーく解ったよ!

 

いいぜ、やってやろうじゃねぇか!俺が身体を張るくらいで空気を和ませられるってんなら、いくらだって身体を張ってやるよ!お前らの学園生活のスタートに、景気よく華を添えてやるよ!

 

「あぁ解ったよ!!──ミカァ!やってくれるかぁ!?」

 

その言葉を聞いたミカ、参考書を読み終わりかけているミカが──ノールックで拳銃を取り出し、ノールックで俺の身体を正確に撃ち抜いてくれる

 

「ぐぅうぅっ!!」

 

一発。確かにぶちこまれた俺の身体からとめどなく血が流れ出す。あまりの虚脱感と、失血から来る目眩と疲労で両ひざをついちまったが・・・こんくらい、こんくらいなんてこたぁねぇんだ。心配ねぇ、俺は止まらねぇ。止まるわけがねぇ

 

「俺はァッ・・・鉄華団団長ォッ・・・オルガ・イツカだぞぉッ・・・こんくらい、なんてこたぁねぇ・・・!」

 

満足・・・っつうか満身創痍な挨拶だか、必死に言葉を紡いでいく。死ななきゃ満足に自己紹介も出来ねぇ野郎だがよ、皆、気楽に話しかけてくれて構わねぇ

 

感じる視線が、期待通りのモノに高まる。コレコレ、これが見たかったのと言わんばかりのキラキラとした目線。──目論みは当たったらしい。向こう一週間は、話のネタには困らねぇだろう

 

「あぁ・・・分かってる」

 

お前らの学園生活を、面白いもんにしてやる。これから過ごす何年間を、最高に楽しいもんにしてやる。──あぁ、ひょっとしたらこの為なのかも知れねぇ。不安ばかりのこいつらを、笑顔にしてやるために、俺は・・・

 

もう三発。俺の身体に、相棒のミカが全てを理解した様子で、答えを聞かずに撃ち込んでくれる。吹き飛ぶ血肉、倒れる俺。同時に此処にいる全員の頭の中に、希望の華が咲き、荘厳な、魂を癒す曲が流れ出す

 

「だからよ──」

 

左手を伸ばし、俺の魂を乗せた血液の一筋が真っ直ぐと伸び、止まらない俺の意志を乗せ、何処までも流れ、落ちていく

 

辛いことも、苦しいことも、沢山あるかも知れねぇ。だが、挫けんな、足を止めんな。その先に──俺はいる。そんな思いを込めて・・・

 

「止まるんじゃねぇぞ──」

 

魂を込めた自己紹介を終え、どうにかこうにか生き延びた俺を待っていたのは・・・

 

「「「「「キャアァアァアァーッ!」」」」」

 

悲鳴・・・ではなく、莫大な歓声だった。・・・おい、大丈夫かコイツら。一応、目の前で人が死んだんだぞ

 

「本物よ!本物の『希望の華』だわ!私の頭の中に響いてきたわ!団長命令!」

 

「私、あなたに憧れて来たんです!北九州から!けして散らない鉄の華!鉄血のオルフェンズ!凄いわ!本物よーっ!」

 

・・・いや、あの。反響は嬉しいんだがよ、こいつは文字通り死ぬ気で身体を張らないと出来ねぇっつうか、なんつうか・・・心待ちにされると、心苦しいっつうか・・・死ぬっつうか・・・

 

「・・・勘弁してくれよ・・・」

 

そんなもみくちゃな雰囲気のなか、チフユ先生が割りに入るまで喧騒は続き・・・俺は一躍『不死身のオルガ』として名を馳せる事になっちまった

 

・・・なぁ、ミカ。これで良かったのかよ。自己紹介・・・

 




授業、一息付いた一幕にて

オルガ「あくてぃぶなんちゃら・・・広域・・・広域・・・?」

ミカ「・・・」

「・・・正直ピンと来ませんね・・・覚えんのかよ、これ全部・・・」

「当たり前じゃん」

「マジかよそいつぁ・・・」

真耶「えぇっ!?オリムラくん、ほとんど全部分からないんですか!?」

「お・・・」

「仲間がいたよ、オルガ」

「・・・イチカじゃねぇか・・・」

「い、今の段階で分からない人は、どれくらいいますか?」

無言。誰もが、これに理解を示している。・・・マジかよ、皆頭いいのかよ・・・

「別に、これくらいの把握は学生なら普通でしょ」

「・・・すげぇよ・・・ミカは・・・」

オリムラのヤツは、チフユ先生に入学前の参考書は読んだかと問い詰められている。ミカが読んだヤツか。あれは必読なんだっけか・・・

「いや、間違えて捨てました・・・」

ガツン、と出席簿で音を立ててイチカのヤツが殴られた。後で再発行してやるから一週間後に覚えろ、ときた。・・・端から見ても無茶な話だ

「いや、一週間であの厚さは」

「やれといっている。いいな」

有無を言わさず、視線で黙らせる。・・・気に食わねぇな。教師の立場からしては正しいんだろうが、それにしたって横暴が過ぎるんじゃねぇのかよ?

「ホント、上から目線だよな・・・」

つい、口にしてしまった言葉。それが切っ掛けで

「おばさん」

俺の頭に、雷みてーな拳骨が落ち、意識が遠退き、何故か全身出血を行い・・・

「だからよ・・・止まるんじゃねぇぞ・・・」

俺の意志を乗せた、最期の団長命令が、一同の頭に響き渡った・・・


「うぅ、どうすりゃいいんだ・・・」

頭を抱えるイチカに、三日月が歩み寄る。チョコレートを食べながら、それを渡す

「あげる。もういらない。覚えたから」

「え、これ・・・参考書!?覚えたって・・・」

「参考書は見付けたって言えばいい。じゃ、代わりに再発行してもらってくる」

すたすたと歩き、オルガを蹴り飛ばして起こしながら、教室を出ていく三日月

「あ、ありがとう!えっと、三日月!」

「ん?」

「休み時間になったら、ジュース奢るからな!帰ってこいよ!オルガも、頼むな!」

「解った」

それだけを告げ、クラスを出ていく二人 

「オルガ・イツカに・・・三日月・オーガスか・・・いい奴等なんだな・・・」

イチカは、学園生活がそう苦難まみれではないことを、ぼんやりと感じるのだった

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