前線日記   作:へか帝

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ドルフロリリース直後に書いた没原稿を発掘したのでちょっとだけ手直しして投げちゃう
デート回はお預けです




閑話

「聞いてくれM4! 今日はなんと22秒も指揮官と話せたんだ!」

「やりましたね姉さん! 最高記録更新じゃないですか!!」

 

 グリフィンの基地の庭園、ピロティと呼ばれる軒下の空間で二人の戦術人形が話しこんでいた。

 上気した表情で嬉々とした表情で語っている方がM16、それを自分の事のように喜んでいるのがM4である。

 

「いやあ至福の時間だった。一瞬のようにも、永遠のようにも感じられる18.37秒だった」

「ずいぶん正確ですね!」

「録音したからな! 前回の会話から実に16時間28分48秒ぶりの会話だ!」

「ちなみにどんなお話をされたんですか?」

「え、M4の話とか……。あと、M4の話と……あっ、M4のこととかも話したぞ!」

「うーんまるで成長してないですね!」

「うっ……」

「……ち、ちなみに指揮官はそれを聞いてどんなことを仰っていましたか?」

 

 M16が無言で録音デバイスを再生する。淀みない手つきだった。

 

『そうだなあ、M4は健気で良い子だか「う゛っ!」

 

 録音された音声を認識したのと同時に胸を抑えてえづくM4。そして険しい顔のまま一言。

 

「ま"っぅぇっ……。ま、待って……無理……しんどい……」

「え、M4?」

「ね、姉さん……そういう事前に心構えが必要な刺激物は予め相手の合意を確認してからでお願い……」

 

 それからしばらく大丈夫、大丈夫としばらくぶつぶつ呟いたあと、元の調子を取り戻した。

 

「なら話を戻すが……浮かれてばかりもいられない状況になったんだ」

「え? これ以上状況が悪化するようなことがありえるんですか?」

「お? さては私たちの中で既に見解の相違が起きているな?」

「今はようやく最底辺から数ミリ浮上できたくらいですね」

「うーん我が妹ながら辛辣」

 

 どうやらM16と違ってM4は現実をよく見えているらしい。戦闘では、いや戦闘以外でも自慢の姉なのだが、いまこの瞬間はあまりにも頼りない。ことあの指揮官が関わってしまうともう本当にどうしようもない。特に直接顔を合わしてしまうとこうだ。

 そうして呆れつつも、話の続きを促す。

 

「そんなことよりなにがあったんですか」

「ああ、うん。AK-47っているだろ?」

「ああ、あの豪気な」

 

 AK-47といえば、いかにも歴戦の傭兵のような風体のワイルドな戦術人形だ。その外見に相応しい戦闘のスペシャリストである。グリフィン内においても確かな地位を築いており、銃そのものの知名度も相まって彼女を知る人は多い。

  

「それが、そのAK-47が近頃指揮官に対してよそよそしくてな。これは、非常に由々しき事態だといえる」

「え、それのどこがいけないんですか? むしろ距離を置いているというのであれば一種のチャンスなのでは」

「今までは任務から帰投したら指揮官の肩に腕を回して軽口を言い合っていたのだが」

 

 あの指揮官は意外とグリフィンの人形たちとの距離が近い。このグリフィンに用務員として転属してまだ日が浅いが、出撃から帰投した人形をねぎらいがてらよく世間話をしている。時期的にはもう彼との会話を楽しみにしている者がいてもおかしくない時期だった。

 

「ああ、しょっちゅうやってますよね」

「それが、なんと最近は話すにも遠い距離からひらひらと手を振るに留めている」

「へぇ」

 

 なるほど、確かに一気に距離が離れている。確かにそんな日もあるだろう。

 

「しかも指揮官に会う前に髪を梳いたり身だしなみを整えたりなどしていた!」

「はぁ」

 

 AK-47といえば、あの長い金髪も印象的だ。特に手入れしていないようであちこちの跳ねっ毛が目立っていたが、何か要因があって最近は気にし始めているらしい。 

 

「あまつさえいつもより服装の露出を抑えるようになった! もうわかっただろう、AK-47は誰がどう見ても指揮官を意識している──!!」

「ほぉ」

 

 AK-47の服装は、深緑の切れ布で雑に作られたビキニとホットパンツのみで、かなり露出の高い部類に入る。本人がいかに他人の視線に頓着の無いかよくわかる格好ではあるが、それを改めるということは、やはりそういうことだろうか。

 

 

「すなわち、今や私は予断を許さない状況に置かれているということだ。彼女は図らずしも『恋愛四十八手裏奥義最終項【─押してダメなら引いてみな─】を実現している!!」

「まぁ」

 

 初めて聞いた、何だそれは──などと幼稚な質問をM4はするつもりはない。暴走した姉のあしらい方などはとっくに心得ている。迂闊に藪をつつくべきではない。ただでさえ何かよくわからないものが飛び出している現状でおなかいっぱいなのに、それの全貌など知りたくはない。

 

「指揮官は突然AK-47と精神的・身体的ともに距離が離れたことにより、自然とAK-47を目で追ってしまうのだ。そして目にするのはいつもより女性らしくなったAK-47……! そして指揮官はこう思うのだ。

『あれ、AK-47ってあんなに色っぽかったっけ……?』と! こうして指揮官もまたAK-47を意識し始める!」

「むぅ」

 

 意外にもそれらしいことを言い始めたので、M4は思わず聞き入ってしまった。確かに一理あるかもしれない。あの自由人がそれほど相手を意識しているとは思えないが。

 

「互いが互いを意識し始め、いつもと違う距離感に戸惑いつつも心の距離は静かに近づき、やがて二人は二人は……ならーーーーーーーん!!!!」

「わぁ」

 

 いよいよ佳境に入った妄想の結末が気にくわなかったのか、目を見開いてM16が現実に戻ってくる。暴走した姉はだいたいこんな感じだ。

 

「認めん、そんなことは断じて認めんぞ私はぁぁー!!!」

「あ、いっちゃった……」

 

 雄たけびを上げながら駆けだすM16と、それを見送るM4。

 つかの間の、平和な日常の一幕であった。

 

 





恋愛クソ雑魚お姉さん爆誕

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