HITMAN『世界線を超えて』   作:ふもふも早苗

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『提督業はもうおしまい』の別アプローチです。
今回はターゲットに真正面から向き合ってみようと思います。


HITMAN『提督業はもうおしまい』(もう一つの世界線)

『横須賀へようこそ47』

 

『今回のターゲットはここ、横須賀第3鎮守府の最高司令官、アドミラル・ロクロウ。世間の評判とは裏腹に暴行恐喝収賄セクハラ何でもござれの悪徳軍人。』

 

『依頼主はそのセクハラの被害者である艦娘の一人から。彼の抹殺と彼の悪行の数々が書かれたメモリーカードの奪取。それが今回の任務よ。』

 

『準備は一任するわ』

 

 

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ブゥーン

 

私は今、鎮守府へ向かうトラックの中にいる。今回は新たに配属された憲兵として潜入する。トラックには私の他に新たに配属される2名の隊員が同乗していた。車内での話によれば、今回配属された私を含む3名は今現在配備されている憲兵隊員3名と完全に入れ替わるらしい。彼らが何をやったのか、何を知ってしまったのか、そこまでは情報が手に入らなかったが特に問題はないだろう。簡単な自己紹介を済ませ、軽く世間話をした後はこうしてほとんど無口のままトラックに揺られている。

 

 

「お、見えたぞ」

 

 

助手席に座っている隊員が言った。名を確か阪本と言っていた。阪本は前方に見えてきた鎮守府を自己紹介の段階から“悪の巣窟”呼ばわりしていたが、憲兵にはそれなりの悪評が広まっているようだ。

 

 

「やれやれ。やっとついたか。全く僻地にある勤務先ってのはヤだねえ。せめて電車くらい通っててほしいもんだ。」

 

 

荷台に私と一緒に相乗りしている隊員が言った。名を倉持と言ったか。こちらはガタイの良さが目を引く大男だ。腕っぷしに自信があるのが伺える。そうこうしているうちに鎮守府の正門を通り抜け、トラックは1つの建物の横に止まった。建物の入口では一人の女性が立っていた。

 

 

「お疲れ様です。私は軽巡洋艦 大淀です。案内と引き継ぎ作業の事務手続きを担当させていただきます。」

 

 

軽巡洋艦。つまりは艦娘と言うやつだ。手慣れてる風が有るのでこういった役職は普段からこなしているのだろう。私は他の2人と同じ様に彼女についていった。

 

ドック、工廠、食堂、宿舎。最後に司令部棟と案内されたのち、司令室に通された。司令部棟と言っても地上3階建ての役所のような建物で、それほど広くはない。1階に事務手続きをするフロア、2階に資料室と憲兵詰め所。3階に司令室兼執務室があるそれなりに質素な建物だ。我々は司令室のドアをノックして入室した。

 

 

「本日、大本営より派遣されました第56憲兵小隊、只今参上いたしました。」

「おお、ご苦労さん。私がこの鎮守府の司令官、ロクロウである。」

「お初にお目にかかりますロクロウ閣下。我々としてはすぐにでも業務を開始したく思いますがよろしいですかな?」

「ああ、勝手にやってってくれ。大淀から聞いたと思うが詰め所はこの下の階だ。私のデスクには非常呼び出しボタンがついているのでな。詰め所の非常ランプが点滅したらすぐに駆けつけるように。」

「承知しました。ではこれで失礼いたします。」

「うむ・・・ああ、そうだ。いい忘れていた。この部屋の戸棚にある資料は手を付けないように。手を付けた場合は前任者と同じ運命をたどることになるからな。」

「・・・承知しました。」

 

 

おそらくあの戸棚にある“重要書類”と書かれたファイルに目的の物が入っているのだろう。そうでなくともこの部屋の何処かに有るはずだ。私は2人についていき一旦詰め所に入る。

詰め所は引き継ぎ用の書類などがきれいに整頓だけはされていたが悪く言えばそれ以外に何もなかった。倉持は「お茶を入れるポットぐらい用意してほしいもんだ」と愚痴を言っていた。私はデスクの1つに荷物を置くと見回りに出かけると言って部屋を出た。

 

 

1階に降りると大淀が誰かと話していた。私は掲示物を見るふりをしながら聞き耳を立てた。

 

 

「・・・またですか。ほんとあの提督にも困ったものだわ・・・。」

「いえ、私もわかっていますから。それに夜伽を拒否したら他の人達に迷惑や被害が行ってしまいます。私が犠牲になれば・・・。」

「鹿島さん。辛い役回りですが大丈夫ですか?ピルはこちらで用意しますがそれでも確実とは言えません。」

「大丈夫です。お気遣いありがとうございます。いざとなれば憲兵さんもいらっしゃいますし。1階には大淀さんもいらっしゃるのでしょう?」

「・・・残念ですが。憲兵隊は居ますが私はいません。夜伽が行われる夜9時前後からは司令部棟に他の艦娘や職員は入れないように厳命されているのです。」

####アプローチ発見####

「そうなんですか・・・。少し心細くなりましたけど頑張って耐えてみせます!鹿島がんばります!」

 

 

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『夜9時以降は憲兵隊の3名とターゲット。そして夜伽に向かう艦娘以外は司令部棟から居なくなるみたいね。相当動きやすくなる時間帯だと思うけどどうかしら?私としては夜伽が行われる前に全て片を付けてほしいのだけれど。』

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私はそのまま司令部棟を出て工廠へ向かった。工廠では今現在1隻建造中のようだ。けたたましい音とともに建造が行われているが音と裏腹にあまり作業してる風が見受けられないのは艦娘の建造が特殊な証拠であろう。大きな音が出はするが行われているのはドック中央部の光の玉に資材を投げ入れているようにしか見えない。資材が融合するときに大きな音が出ているようだ。私は工廠に入ってすぐ、入口付近の作業台にスパナが置いてあるのを発見し、それを職員に気が付かれないようにそっと懐へしまった。

 

そのまま工廠を見て回るが、大抵の職員は黙々と作業をしておりこちらに気が付かない。気がついた職員は敬礼を返してくるので返礼をして立ち去る。やはり憲兵隊の服装はどうやっても目立つようだ。私はこれ以上の情報収集は諦めて工廠横にある食堂棟へ向かった。

 

食堂棟は一般的な学校の学食のような作りになっており、広々とした大広間にカウンター式の厨房とその横に券売機が有る。今はすでに昼を過ぎているので食堂はガランとしているが、それでも何人かの艦娘が食事をとっていた。が、ココでもこちらに気がつくと立ち上がり敬礼をしてきた。私は返礼しつつ話を聞いてみることにした。

 

 

「こんにちは。私は今日から配属になったものですが、皆さんココで食事をされるのですか?」

「ええ。いつもはみんなと一緒に食べるんですが、今日は正面海域の対潜掃討任務の後だったのでこの時間に。あ、申し遅れました。軽巡 五十鈴です。」

「よろしくおねがいします。五十鈴さん。秘書艦殿もいつもココで?」

「そうですね。大抵はココで食べると思います。あ、でも夜は司令部棟の方に行ってるみたいね。」

「司令部棟に食べるところがあるのですか?」

「さあ・・・。私は秘書艦になったことはないし、宿舎と司令部棟は間に工廠があるから用がないとあまり行かないので。」

「そうですか。お食事の邪魔をして申し訳ない。ではまた。」

「はい。お疲れさまです。」

 

 

私は話を切り上げ、司令部棟に戻った。詰め所に戻ると大量の書類が机に置かれていた。他の2人もその書類と格闘している。私も書類を一緒になって片付け始めた。

 

書類が片付いたのは夜8時を回ったところだった。他の2人もほぼ同時に終わり、阪本が休憩用に1階に飲み物を買いに行くようだ。

 

 

「私が行きますよ。二人共何がいいですか?」

「じゃあオレはおー◯お茶で。疲れたときにはやっぱお茶だよお茶。」

「では私はコーヒーを。」

「了解です。」

 

「失礼、私も少しトイレにいってきます。」

「おう、行ってきな行ってきな。」

 

 

私は阪本が飲み物を買いに出かけるのを好機と捉え、彼の後を追った。1階の明かりは既に消えており人の気配はない。1階の休憩コーナーで阪本を発見した。

 

 

「あれ?どうしたんです?」

「倉持さんに言われて買ってくるものを伊右◯門に変えてほしいとのことです。」

「マジっすか?弱ったな、もう買っちゃったんだよなあ・・・、」

「でしたらそのお◯いお茶は私がいただきます。」

「そうかい?じゃあそうしてくれ。えーっと伊◯衛門伊右◯門・・・」

 

 

彼が再び自販機で商品を見始めた隙に私は懐からレンチを取り出し、彼の首元を殴打した。

 

ガッ! ギャ! 

ドサッ

 

うまい具合に気絶した彼を自販機横の大型ゴミステーションに隠す。彼のもっていた拳銃とトラックの鍵も拾っておく。私はそのまま2階詰め所の前の廊下に戻った。詰め所のドアは開きっぱなしになっており、中では倉持が何かの書類を読んでいる。私は持っていたレンチを扉の反対側へ放り投げた。

 

カランカラン

ン?ナンダ?

 

私はすぐ後ろの柱に身を隠した。中から倉持が確認しに出てきた。反対側に有るレンチを発見しそれに近寄る時にすばやく背後に付き彼の首を絞め上げた。不意を付かれ、なおかつ書類仕事で疲れが溜まっていたせいも有るのかあっけなく倉持は気絶した。私は気絶した倉持を詰め所中のロッカーに隠した。これでこの建物には私とターゲットと夜伽に訪れる艦娘だけになる。私は司令室につながる階段で夜伽に訪れる艦娘。鹿島といったか。彼女を待った。

 

わりとすぐに1階から足音がしてきた。急いでいるような小走りで駆け上がってくる。上から覗き込むと軽巡大淀が居た。彼女はそのまま駆け上がってきた。私は隠れていた柱から出ると彼女の前に出た。

 

 

「すみません。先程から変な物音がしていたのですが何か知りませんか?」

「申し訳ありません。私の不手際で物を足に落として年甲斐もなく悲鳴を上げてしまいました。しかもその後もう一度落としてしまう不手際まで。ご心配をおかけしました。」

「そうですか。何もなくてよかったです。他のお二方は?」

「阪本と倉持は今詰め所で書類と格闘しています。話しかけられる雰囲気ではなかったですがね。」

「そうですか。では私はこれで。この時間帯は私は本当はココには居てはいけないんですが、どうしても片付けたい書類があったものでして。もう終わりましたけど。」

「それはそれは。ご苦労様でした。提督のお怒りを買う前に早く出たほうが良い。」

「そうですね。では私は宿舎に戻ります。警備お願いしますね。」

「お任せください。誰一人外からは中に入れませんよ。」

 

 

大淀はそそくさと階段を降り、2階の窓から宿舎の方へ小走りで向かう大淀を確認し、改めて鹿島を待った。

 

しばらくすると階下から登る靴音が響いてきた。私は階段横のロッカーに身を隠した。鹿島はロッカーに入っている私に気が付きもせずそのまま前を通り過ぎ司令室に向かおうとした。私は通り過ぎた鹿島を背後から倉持と同じ要領で首を絞め上げた。その煽情的な服装は奇襲的格闘戦をするには向いておらず、また艤装がなければ艦娘は通常の人間と大差ない身体能力しか無いようで、あっけなく鹿島は意識を手放した。私は彼女をロッカーに隠すとシルバーボーラーを取り出し、司令室へ向かった。

 

 

司令室の前に来た私は扉を軽くノックする。

 

コンコン

「やっと来たか。入れ。」

ガチャ

「フフフ、鹿島よ。今日こそはお前に・・・な、何だお前は!この時間はココには入るなと言っておいたはずだが!」

「残念だが鹿島は来ない。すぐそこのロッカーで眠ってもらっている。」

「なんだと?貴様何者だ!」

「誰でもない。ただお前を殺すように命ぜられた一人の“HITMAN”だ。」

「ふざけたことを!」カチッ ピーピーピー

「ははは!非常ボタンを押したぞ!すぐに憲兵が駆けつけて・・・そ、そう言えばお前さっき・・・」

「そうだ。その非常ボタンのこともさっきお前から聞かせてもらった。なので他の憲兵隊にも眠ってもらった。」

「な・・・!」

「お前を守るものはもう誰も居ない。」カチャ

「ま、まて!そうだ!金か!?金がほしいんだろう!?いくらで雇われたんだ?ん?言ってみろ。その倍額を出してやろう!」

「必要ない。私はただお前を殺すことだけを命じられた。その任務を果たすだけだ。」

「私を殺せばこの鎮守府は、いや、この国がどうなると思う!指揮する者が居なくなれば深海棲艦にこの国は滅ぼされてしまうのだぞ!」

「残念だがそれも興味がない。おしゃべりが過ぎた。ココまでにするとしよう。」

「ま、まて!命だけは!命だけは!」

カチリ 

 

パシュン!

 

 

弾は正確にターゲットの額を撃ち抜いた。ターゲットの体はゆっくりと執務机に倒れ伏した。

 

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『ターゲットダウン。流石ね。後はメモリーカードの奪取よ。』

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彼の死体を一瞥しつつ、司令室に有る書類を漁る。急がねばいつ誰が来るやも知れない。奥の戸棚にはびっしりと色々なファイルが並べられている。その中の【重要書類】と書かれたそのファイルの一番後ろのページに目的のメモリーカードはあった。

 

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『見事な手際ね。すべての目標を達成。さあ、脱出して。』

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私はそれを剥ぎ取ると用済みになったファイルを投げ捨て、踵を返して部屋を後にした。朝になればすべてが明るみに出るだろう。私は司令部棟横に止めてあったトラックを、さきほど阪本から奪ったキーを使って動かし脱出した。

 

 

 

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~1週間後~

 

 

「今日からこの鎮守府に着任することになった前橋だ。みんなよろしく頼む。」

パチパチパチ

「着任おめでとうございます。私は前任者の秘書艦を務めさせていただいていた練習巡洋艦 鹿島です。」

「同じく、秘書業務を行っていた、戦艦 長門だ。よろしく頼む。」

「よろしく。実のところ私はまだ提督になって日が浅い。いろいろ不手際もあるかも知れないが一緒に頑張ってくれるかい?」

「もちろんです!」

 

 

「優しそうな方でよかったですね。」

「大淀さん。ハイ。とても優しいお方で、セクハラも暴力も一切なしです!」

「それは良かった。私も大本営に口を酸っぱくして陳情し続けたかいがあったというものです。」

「陳情してくださったのですか?ありがとうございます。でも他の子達はまだ疑心暗鬼みたいで・・・」

「それは仕方ないでしょう。前任者がアレでしたから。でも何処かの誰かが暗殺してくれたおかげでこうしてうちも晴れてホワイト鎮守府ですよ。」

「・・・結局誰がやってくれたんでしょうか?深海棲艦のスパイとかだと問題なんじゃ・・・。」

「それなんですが。証拠はつかめていませんがどうやらICAが動いたらしいのです。」

「ICA?」

「非公式の国際暗殺組織です。各国政府や大企業などが主なクライアントらしく、警察や軍も介入できないんだとか。」

「へえ・・・そんな組織があるんですね。今回もその組織が?」

「ええ、証拠も確証もありませんが、似てるんですよ。」

「似てる?」

「ええ。私が“以前一緒に仕事をした人”のやり方に。」

 

 

 

 

 

 

ミッションコンプリート

・「軍事裁判」    +5000 『ターゲットに発見されている状態でターゲットを射殺する』

・「巡回兵」     +1000 『最低3箇所以上の施設を憲兵か兵士の扮装で訪問する』

・「ドミネーション」 +1000 『司令部棟を完全制圧する』

・「影の司令官」   +2000 『午後8時半以降に軽巡大淀に会う』

 




大淀さんは昔ICAでオペレーターしてそう(偏見)


2019/06/13追記
当初は大淀さんはICAと密接に関わる予定でしたが話を書いていくに連れ他の艦娘はおろか脇役以下という不遇なポジションにw


次回はハルケギニアに向かいます。
城下町で猛威を奮っていたあの小太りくんがターゲットです。

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