『世界樹の木へようこそ。47。』
『とても大きな樹でしょう?それは“世界樹”と言って、この世界で一番高く大きな樹らしいわ。周りを見ればわかるけどこの樹は砂漠のど真ん中のオアシスに立っていてね、オアシスからは生命を司る特殊な力が宿った水が滾々と湧き出してたみたいなの。その水を吸って育った樹はどんどん大きくなって、最後にはオアシス全体を覆うまでに大きく成長したの。それがこの世界樹よ。』
『そんな生命の根源とも言えるような世界樹はその葉っぱを薬にすると死者をも蘇らせられるらしいわ。私達とすれば一度殺してしまえばそれで任務は達成だから、達成後ならいくら生き返ってもらっても問題はないわね。でもその葉っぱを狙って世界中から盗掘者ならぬ盗採者が来るの。本来この樹はエルフが守ってるし、内部には魔物が住み着いてるからそうそう被害には合わないんだけど、最近空から侵入した人間が居るらしいのよ。』
『今回のターゲットはその人間たち。名前はわからないけど、UAVからの情報では3名でいずれも男性。手当たり次第に乱獲してるみたいでこのままでは世界樹から葉っぱがなくなってしまうわ。世界樹には他の人間はいないようだから間違えることはないわね。』
『クライアントはその世界樹を守るエルフの族長、アルフィージャ。報酬額の問題があって一度はお断りしたんだけど、排除してくれたら世界樹の葉を何枚か分けてくれるという話になってね。技術部が欲しがっていたから金額としては格安で請け負うことになったのよ。具体的には一般車数台しか買えない程度の金額でね。そういうわけだからターゲットを始末した後は世界樹の葉を5枚拾ってきてね。それ以上は契約違反になるからダメよ。』
『準備は一任するわ。』
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ギャース!グワー!ゴゴゴ
上から不気味な声が響いている。私は今、エルフが世界樹の根元に作った集落に居る。私は今回、高い樹に登るということで落下防止にも使える金属製ワイヤーロープを持ってきた。宙吊りになることはあっても下に落下することはなくなるだろう。
今回の任務ではこの集落の族長が協力してくれるらしい。早速族長の家に向かう。
族長の家はすぐに見つかった。というのもこの集落、世界樹の防衛を目的としているため建造物自体が族長の家以外は旅人用の宿屋と道具屋と民家一軒くらいしか無いのだ。中では族長が中央に座って待っていた。
「よく来た旅のもの。汝らこの世界樹に登るのか。」
「旅のものではない。依頼を受けやって来た者だ。」
「おお!ではそなたが!今回はよろしく頼みますぞ。情けない話だが、我々は世界樹に地上から入る不届き者は退治できても空からの侵入は想定しておらんでな。私等では内部の魔物を避けて上まで行くことはできんのじゃ。」
「内部の魔物とはどのようなものが居る?」
「“アンクルホーン”や“マヒャドフライ”が主じゃな。“グリーンドラゴン”や“レッドサイクロン”にあったら何にも優先して逃げるのが良いだろう。」
「なかなかに凶悪そうな名前だ。ドラゴンまで居るのだな。」
「そなたのところでは魔物自体いないのであったな?平和な世界で羨ましい限りじゃ。」
「そうでもない。魔物がいなくなれば人間は人間同士で闘いを始めるものだ。」
「なんとも悲しい話じゃ。それはともかく、これは世界樹内部の地図じゃ。」パサッ
「感謝する。中はダンジョンになっていると聞いていたので道に迷わないかどうかが心配だった。」
「全部で5階層あり、不届き者の連中は4階部分に居るようだ。」
「わかった。上からターゲットが落ちてきたときは対処を頼む。」
「その辺りは問題はない。常に周囲は我が精鋭部隊が囲んで巡回しておる。」
「そうか。ではそろそろ行ってくる。」
「健闘を祈っておる。頼みますぞ。」
私は族長の家から出て世界樹の根元の入口を目指した。
世界樹は間近で見るとまた一段と大きい。どうやら1階層がかなり高くなっているらしく、5階建てだというのに高さは100mを優に超えているように見える。階段は通常の建造物よりだいぶ長い。私は内部に入った。
内部は木の内側をくり抜いたような構造になっていた。これだけ切り抜いても木は生きているというのだから木の巨大さがわかる。世界樹にとってはキツツキが穴を開けた程度にしか思ってないのだろう。
非常に入り組んでおり、足元も平らとは言えない。静かに魔物に見られないように進む場合、かなりスローペースになってしまうが得体の知れないドラゴンと一戦交えるよりはマシだろう。
地図によると入り口で二手に分かれていて、左は上に登った後行き止まりになっているようだ。右へ進む。1階から2階へ上がるときも自然にできたのか魔物が作ったのかはわからない階段を登る。そんな階段なので段差は一定ではないし、地面と平行になってるわけでもない。階段というよりは山道といったほうがしっくり来るかもしれない。
ギャース ギャーギャー
2階に上がると離れた広場で魔物同士が争っている。緑色をした翼の生えたトカゲ。あれがおそらく“グリーンドラゴン”だろう。あれが吐いた炎は青白く、かなりの高熱のようだが壁にあたっても壁は燃えるどころか焦げることすらなかった。世界樹の魔力というものなのだろうか。
音を立てないように慎重に大回りで3階への階段がある部屋に通じている外周へ向かう。終始魔物たちは争っていたが、私が広間の出口にたどり着いた頃にはグリーンドラゴンと争っていたケンタウロスの牛バージョンのような魔物が逃げ帰ることで争いは沈静化したようだ。ドラゴンは辺りを見渡していたので見つからないように物陰に隠れながら外周へ出た。
外周部はまさに木の上だ。私は木登りということをあまりしたことはなかったが、なれていない私でも通れるくらいに枝は太かった。おそらく幅1mは超えているだろう。いたるところで葉が生い茂り視界は非常に悪かったが地図のおかげでさしたる困難もなく3階へ上る階段までこれた。
3階も二手に分かれていた。すぐ南側の枝から4階に上がれるらしいがそこは行き止まりのようだ。しかしその方面からなにか話し声が聞こえる。私は枝に移る直前のところで上を覗き込んだ。
「おい!そっちはどうだ!」
「大丈夫ですぜ親分!ちょっと手こずるけど剣でつるを切ってしまえば!」
「葉を傷つけるんじゃねえぞ!一枚いくらすると思ってんだ!」
枝の上の領域で2人ターゲットと思わしき人物が葉を取っていた。葉は取られたところから目に見える速度で再び芽が出て成長していっているが、採取速度に追いついていないように思える。
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『あれが今回のターゲット。2名しか見えないけれどもう1名居るはずよ。気をつけてね。』
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私はひとまず3階から外周部を回って4階へ登ることにした。3階と4階の間は葉が生い茂っており、ほとんど視界は通らないので気付かれずに通ることができた。
4階部分ともなると中心の幹もだいぶ狭くなってきていた。出口は既になんとか通れるレベルだ。しかし幹自体はまだだいぶ太い為くり抜いてある部分が狭いだけだろう。外周部に出ると、出た直ぐ側でもうひとりを発見した。
「ヒヒヒ…これだけあれば一生遊んで暮らせるぜ・・・!親分に内緒で何枚かくすねたっていいだろうしな。」
私はゆっくりと音を立てないように近づいた。手が触れられる距離まで近づくと、後ろから口元を押さえた。
「むぐっ!?んー!?」
ザシュッ
私はそのままナイフを彼の喉元に這わせる。動脈を切られたターゲットの一人は血しぶきを周囲の葉に撒き散らしながら動かなくなった。血は生命にとって欠かせないもの。それを浴びればもう少しこの大木は成長することができるだろうか?
そのまま生い茂った葉の間から下へ落とす。死体は途中途中の枝にぶち当たりながらも地上まで落下していった。一人目完了だ。
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『一人目の排除を確認。素早い仕事は好きよ。ターゲットは後二人ね。』
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私は外周部を進み、先程2人が採取していた地点のさらに内側を慎重に進んで5階へ上がるための枝を目指した。
5階は幹は完全になくなり、枝と葉っぱしか見えなかった。私はそのままターゲット二人の直上付近まで慎重に移動した。途中、枝に何かが刺さった後のような傷があったがそういう傷は修復できないのだろうか?なにか青白い霧のようなものが出ていたのでなにか特別な傷なのかもしれないが。
ターゲット二人の上につくと、私は持参したワイヤーロープを枝にくくりつけた。枝と言っても直径30cmはありそうな普通なら幹と言っても大差ないレベルのものであるが。ロープを固定すると、私はそれを自分にも固定し、枝葉の隙間からゆっくりと二人の元へ降りていった。
二人は依然として目の前の葉を採取することに夢中だ。私はリーダー格の方を後回しにして、もうひとりの子分と思わしき方へ近づいた。頭上からゆっくりと近づいて彼が腰を上げて伸びをするタイミングを見計らって一気に降下、先程と同じく口をふさぎ今度は心臓部分にナイフを突き立てた。
「むぐっ!?」ザシュ
「・・・。」
「んー!んー・・・・・・」ガクッ
これで2人目。そのまま静かに葉の上に下ろしそのまま4階へ着地。もう一方のターゲットを見る。相変わらず向こうを向いて葉をとっている。私はシルバーボーラーを取り出した。
「おい、そろそろ出荷するとしよう!そっちはどのくらい取れたんだ?」
「・・・。」
「おい、聞いてんのか!?」
「悪いが出荷は無期延期だ。」
「え?」
パシュン
彼は突然の聞き慣れない声に思わずしゃがんだままこちらを振り返った。私は振り返った瞬間を狙い、ターゲットの額に向かって弾丸を放った。弾丸は正確にターゲットの額を貫通。そのままゆっくりと倒れ込み、葉の上に血を流して倒れた。
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『ターゲット全員の死亡を確認。お見事だったわ。帰還して頂戴。あ、世界樹の葉5枚も忘れずにね。できれば血がついていないものを。』
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死体はそのまま放置で良いだろう。魔物が食らうか、世界樹が養分とするかはわからないが。
私が5階から降りつ時に使ったワイヤーロープは下からでも外せるようにはなっているのでそのままワイヤーロープで降りることにする。降りる途中の枝葉から世界樹の葉を採取していく。1枚目はすんなり普通の葉っぱと同じ様にちぎれたが、2枚目以降がつるが絡まるようにしてなかなか取れない。仕方ないのでナイフでつるを切って採取した。5枚取った後、再び同じところから生えてくるのを確認し、ワイヤーロープで降りた。
下に降りると族長が駆け寄ってきた。
「先程、賊の一人が落ちてきましたがもしや?」
「ああ。3人共処理した。最上階まで上って確認した。もう乱獲するやつは居ない。」
「ありがたい!なんとお礼を言えばよいか!」
「礼なら既に貰っている。世界樹の葉を5枚。採取した。」
「ええ、ええ。報酬内容に含まれとるからな。どうぞ持っていってくれ。」
「死体は2体上に放置してしまったが良かっただろうか?」
「よいよい。どうせ魔物たちが食らうだろう。奴らは血に飢えておるからな。」
「そうか。」
「ああ、そなたたちの組織の者が南の砂漠で待っておるぞ。空を飛ぶとは不思議な船じゃなあれは。」
「わかった。では失礼する。」
「ああ。達者でな。」
私はICAが用意した迎えのセスナに乗ってこの地域を脱出した。
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~3日後~
『それで?どうなの?』
「これはすごいですよ。葉脈は内部で帯電しているようね。しかもかなりの電圧。AEDの電気ショックくらいなら問題なく出せるでしょう。」
『AED機能付きの葉っぱとは不思議なものね。』
「それだけじゃないわ。養分の中には自己修復機能を極限まで高めるための成分が含まれているようよ。しかしそれだけでは死者をよみがえらせることはできない。いくつかの未知の物質がそれを可能にしているようね。これは研究しがいがあるわ!」
『イキイキしてるわね・・・。せっかくこのために呼んだのだから成果を出してね。』
「わかってますよ!いやあ!ワクワクします!では研究に戻っても?」
『上層部には研究は順調と報告しておくわ。我々の目標は【死者を蘇らせる薬品の開発】よ。そのための重要な資料だから無駄にはしないでちょうだいね。』
「ええ!ええ!では!」
バタン!
『まったく。生物学の権威だと言うから連れてきたけどなかなかにマッドサイエンティストね。
アンブレラ社の研究員はみんなこうなのかしら?』
ミッションコンプリート
・「水やりは適切に」+1000 『ターゲットの血を世界樹に与える。』
・「害虫駆除」 +1000 『ターゲットを世界樹から落下させる。』
・「忍び足」 +3000 『魔物に一度も見つからずに行動する。』
・「ターザン47」 +3000 『世界樹よりラペリング降下する。』
今回は短めに。
次回は別アプローチです。