と言っても行きと帰りは一緒ですけど。
『世界樹へようこそ。47。』
『今回はこの生命を司る大木“世界樹”を荒らし回ってる不届きな3人組がターゲットよ。依頼主は世界樹を守るエルフ族の族長。報酬の一部を“死者を蘇らせられる”と言われる世界樹の葉を5枚で代替されているから忘れずにそれも回収してきてね。』
『準備は一任するわ。』
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これが世界樹か。なるほどたしかに世界一大きいという話もうなずける大きさだ。周りに比較対象物が少ないため断言は難しいが少なくとも100mは超えているだろう。
私は今世界樹の根元にある集落に来ている。私は命綱兼ラペリング用にワイヤーロープを持ってこようとしたが、情報部から樹の内部には魔物が多数生息しているから武装したほうが良い。というアドバイスを受けたのでサプレッサー付きの“TAC-4”を持参した。そのためワイヤーロープを持参するスペースが取れなかった。
脱出方法が実質一つに限られてしまったため事を慎重に運ぶ必要がある。少なくとも魔物と戦闘状態になれば正攻法での脱出は難しくなってしまう。情報を集めるためにもまずは集落の族長の家へ向かった。
「よく来た。旅の者。汝らは…」
「旅のものではない。依頼を受けここに来た。」
「おお、そなたが!今回はよろしくおねがいしますぞ。」
「内部はどうなっている?」
「ああ、ええと・・・。これが地図じゃ。」パサッ
「これは・・・5階しかないのか?」
「ああ。大きく別れてるのはその5階層じゃ。1階層ごとが広いものでな。」
「内部は魔物が多いと聞いたが、魔物の知覚脳力について聞きたい。」
「知覚能力?一番目がいいのはグリーンドラゴンだろう。マヒャドフライはあまり目は見えてるわけではないようだ。」
「コウモリのように超音波で知覚するのだろうか。」
「ちょうおんぱ、とか言うのはよく分からん。だが目で見て行動してるわけでないのは確かだ。」
「なるほど。各魔物の外皮の硬さはどうだ。」
「グリーンドラゴンはかなり硬い。並大抵の剣では刃こぼれを起こすだろう。ほかはそこまで固くはない。が柔らかいことが多いので棍棒などでは有効な打撃にならないと思われる。」
「なるほど。銃への耐性はあるか?」
「銃は試したことはない。話には聞くが見たことも試したこともないのでな。」
「では大砲は?」
「大砲なんぞ持ってきとるのか?大砲くらいなら直撃させればグリーンドラゴンも仕留められるとは思うが、そんなに大きなものをどうやって上まで持っていく気じゃ?」
「いや、大砲を持ってるわけではない。その大砲の弾は丸いのか?」
「・・・?大砲の弾は丸い物以外にも有るのか?」
「わかった。ありがとう。」
どうやら文明レベル的には産業革命前という感じだろうか。大砲は大航海時代に使ってそうな丸型の弾で、拳銃は貴重品。ライフル弾などもなさそうだ。あってもマスケット銃程度だろう。私の持ってるアサルトライフルの5.56mm弾でも魔物の外皮を貫通できる可能性があることがわかっただけで良しとしよう。
「他には魔物に関してなにか情報はないか?」
「奴らは怒り狂うと周囲の仲間を呼ぶ。その際、あまり視野は広くないように感じたな。」
「仲間はどのくらい集まる?」
「刺激を与えた数にもよるが、概ね3~4体じゃろう。魔物は単独行動が主でな。集団でいるのはあまり居ないのじゃ。」
「なるほど。わかった。」
「それで、不届き者の連中は退治できそうかの?」
「問題はない。そろそろ行ってくる。」
「頼みましたぞ。幸運を祈っておる。」
私は族長の家を出て、世界樹へ向かった。世界樹の中へは備え付けられた階段を通って内部に入る。内部はくり抜かれたようになっておりあちこちから魔物の声がする。慎重に私は上っていった。
道中で何匹か魔物を見たが交戦せずになんとか4階までたどり着いた。木の葉が生い茂っているが間から魔物の姿が見え隠れしている。4階にはその中に混じってターゲットの集団の姿も見える。一人だけ少し離れたところにいるようだが、残りの二人は下の階からしか到達できない領域でしゃがみこんで何かをしていた。おそらく葉を採っているのだろう。
離れている一人も更に上へ向かうための枝の近くで葉を採っていた。私はその近くの枝葉の上に牛と人間をかけ合わせたような魔物が居るのを見つけた。おそらくあれは“アンクルホーン”と呼ばれていた魔物だろう。しかしターゲットに背を向け、遠くを見ているようだ。
私はアンクルホーンの左後ろの尻、顔との直線上にターゲットの一人がくるような箇所に向かってシルバーボーラーを1発放った。
パシュン グガア!
アンクルホーンは尻に銃弾を食らった瞬間驚いたように前に少しはねた。そして非常に怒った様子であたりを見回している。私は気が付かれないように葉に身を隠した。
グガァ!ドドドド
「え?なんだ?なんで?!」
アンクルホーンはターゲットの一人を発見した。そのまま凄まじいスピードと重量感でターゲットに突進した。しかしターゲットはそれに気がつき、既の所で避けることに成功したようだ。
「親分!助けてくれ!アンクルホーンがこっちに!」
「なに!?わかった今行くぞ!おい、お前もこい!」
「ヘイ!親分!」
離れたところに居たもう2人に応援を求めたようだ。彼らは一様に剣や杖を持っている。そのまま交戦するつもりのようだ。
「これでもくらえ!“メラミ”!」
「オラ!俺の剣の錆になりやがれ!」
「“バギマ”だ!避けてみな!」
次々に技や呪文を唱えていく。アンクルホーンはかなりのダメージを追ったようで身動きが取れずに居る。
私は近くにいる他の魔物を探した。別の端に丁度よい集団が見えた。私はその集団の端にむかってTAC-4を連射する。
パパパパパ グギャア!ギャアギャア!
集団はグリーンドラゴンの群れだ。3~4は居るだろうか。彼らもどこからともなく行われた攻撃にあたりを見回しているが、私は木の葉の間から隠れるようにして攻撃したため向こうからは見えていないようだ。やがて、ターゲットの3人組を発見したようで、ぞろぞろと4体のグリーンドラゴンはターゲットに向かっていった。
「な、なんだ!グリーンドラゴンまで来やがった!」
「仲間を呼んだような素振りはなかったぞ?!」
「クソッ!とにかく倒さねえとこっちがやられちまうぞ!」
彼らも必死だ。アンクルホーンとグリーンドラゴンの二方面からの攻撃に四苦八苦しながらもなんとか応戦しているようだ。私は彼らの頭上の木の葉の向こうになにかうごめいているのを発見した。何が来るのかはよくわからないが、木の葉は銃弾を貫通するのでとりあえず真下から攻撃が来たように装ってそれらに銃弾を当てた。
ボァー!ボァ!
なんとも特徴的な鳴き声の後、近くの枝葉からそれらは現れた。大きな鎌をもった悪魔という感じの魔物だった。名前は知らないが地獄からやって来た死神のようなフォルムだ。下についたときに開口一番手から炎の弾を出していたのであながち間違っては居ないかもしれない。
「く!なんだよ!どうなってんだよ!」
「この量は・・・流石に・・・」
「親分!逃げましょう!この量は流石に無理っすよ!」
「クソ!撤退だ!」
逃げるつもりのようだ。そうはさせない。彼らの逃げる方向には何やら体が白いなにかに覆われてる赤い不気味な魔物が居た。それらに遠距離からTAC-4を当てる。丁度逃げ出した方向が私のいる方とは逆方向だったので彼ら越しに銃弾を数発浴びせた。
フシャー!フィシャー!
あの白い部分はどうやら霧か雲が高速で回転しているようだ。彼の指先からも猛烈な強風が出ているようで、そのさまはまさに竜巻を発生させているようだ。なるほど、だとするとあれがおそらく“レッドサイクロン”だろう。
「ぐあぁぁぁ!」
「おい!クソ!一人やられた!待ってろ今世界樹の葉で・・・」
グガア!
「クソ!すりつぶして与える暇すらねえ!なんでこんなに集まってくるんだよ!」
「親分!もう魔法の聖水も切れちまいやした!MPがたりな…ギャア!」
「クソ!クソ!くそぉぉぉぉ!!」
ひとり、また一人と倒れていく。最後に残った親分と呼ばれていた者も、枝葉の端にまで追いやられ、やられた味方を世界樹の葉で生き返らせる暇もなく、強風と吹雪と火炎にやられていた。アンクルホーンが突撃体制に入った。
ドドドド
「ぐあぁ!うわぁぁぁぁぁ!!」
ドサッ
アンクルホーンの突進を受けた親分はその衝撃で世界樹の外に放り出された。話に聞くと、“導かれし勇者”とやらならどんな高いところから落ちても安全に着地するという話だが、彼らがその“導かれし勇者”には到底見えない。そのまま地面に向かって落下した。下が砂とは言え高さ80m以上有るこの場所から落ちれば命はないだろう。
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『ターゲット三名の死亡を確認したわ。見事な手際ね。さあ、そこを離脱して頂戴。お土産を忘れないでね。』
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残された魔物たちは死体となって残された2名を取り囲んでいた。かがんでいるところを見るとおそらく食事タイムだろう。私はデザートにはなりたくないので忍び足でその場を離れた。
十分に離れた後、外周部の端にある葉っぱを回収した。1枚目は手でちぎれたが、2枚目以降はシルバーボーラーで茎を撃たなければちぎれなかった。規定の5枚を回収し、私は来た道を戻った。
グガァ?
「・・・。」
グガァー!!!!
しまった。2階へ降りた際に出会い頭に別のアンクルホーンに出くわしてしまった。相手はかなりやる気満々に見え、開口一番私に火炎放射を放ってきた。私は寸前のところでよけると、TAC-4を構え、彼の腹に向かってフルオートで打ち込んだ。
パパパパパパパパ
グガー!
どうやらそれなりに貫通しているようで、かなり苦しんでいる。それでもなお私に向かって突進を試みてくる。鋭い爪が避けた私の前数センチの地面に刺さった。顔が必然的にかなり近くなる。アンクルホーンはそのまま何か吐こうとしたが私のTAC-4のリロードが完了し、その顔面にフルオート射撃するほうが早かった。
パパパパパパパパ
グギャァァァ!!
この世のものとは思えない叫び声を上げた後、アンクルホーンはゆっくりと前に倒れた。なんとか倒せたようだ。倒れたアンクルホーンがなにかキラキラしたものを放ちながら消えていく。消えた後に残ったのは100枚以上金貨が入った袋だった。
ともかく、倒せたのだからさっさとこの場を離れたほうが良いのは確実だ。私は忍び足で、なおかつ若干急ぎ目に出口へ向かった。
その後は魔物に出くわしてもやり過ごすことができ、入ったときと同じ出口から脱出した。出口の外では心配そうな顔のエルフが数人集まっていた。その中に居た族長が駆け寄ってきた。
「おお、無事じゃったか。」
「ああ。任務は完了した。」
「ありがとうありがとう。先程上から不届き者の一人が落ちてきたよ。」
「生きていたのか?」
「いや、地面に叩きつけられたようで既に死んでおった。今はうちの若い連中が処理しておる。」
「そうか。」
「それより大丈夫じゃったか?上はかなり騒がしく、ここからでも魔法の応酬が見て取れたが?」
「問題ない。その応酬は私のものではない。」
「そうなのか?」
「ああ。だがアンクルホーンに道中襲われた。」
「なんと!」
「だが私はそういうときの対処も学んでいる。なんとか倒すことはできた。」
「それはそれは・・・流石というべきかな?」
「普段はああいう戦闘はしない。訓練は受けている。」
「なるほど。それで報酬じゃが。」
「世界樹の葉5枚は回収している。」
「そうか。残りのお金は先程不届き者が落ちてきたのを確認した後、お前の迎えのものに渡したよ。」
「そうか。では私もそろそろ。」
「うむ。今回はありがとう。またいつでもおいでな。」
「運が悪ければ、な。」
私はそのまま迎えのセスナに乗って砂漠を脱出した。
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~1ヶ月後~
『薬が完成したってのは本当?』
「ええ!もちろん!我々の技術力を使えば何のことはないですよ!というかむしろもととなった世界樹の葉よりも高性能と言えますね!」
『高性能、というのは?』
「世界樹の葉はプレキシオンオリゴ核酸に似た配列を持った未知の物質。我々はこれをユグドリアス核酸と命名したんですがね。これがもう一つの未知の物質、イルミスチリスと命名したんですが、それと結合することによってアシルエタノールアミンを含むいくつかの成分を高速かつ確実に減少させていく効果が」
『わかったわかった。専門的な話はともかくとして、結局何ができるようになったの?』
「せっかちですねえ。まあいいでしょう。結論から言えば死者をよみがえらせることはできました。しかも、白骨化した遺体でもその遺骨にこの薬を混ぜるだけで、空気中の鉄分や塵等を核として人体を死亡した瞬間の状態まで持っていくことができるようになったのです!」
『白骨化した遺体でも?それは遺灰とかでも大丈夫なのかしら?』
「もちろん!ただ大部分が欠損している場合、元に戻ったときに若干不具合が生じてしまいますが・・・。」
『不具合?』
「ええ。具体的には頭が半分無かったり、手足が変な形をしていたり。奇形児と思えるような復活を遂げてしまい、そのような場合は思考能力や言語能力にも多大に影響が及ぶことがわかっています。」
『ちょっと想像したくないわね・・・。』
「ですが身体能力の向上が見られたものもいました。これは使えるかも・・・。」
『まあとにかく。できた薬は用法を誤らなければ問題はないのね?』
「はい。少なくとも様々な実験対象で実験済みです。マウス、サル、魚類、甲殻類、ウシ、ウマ、あと提供された死体と南米から連れてきた民間人を殺した直後などですね。」
『血や肉は関係ないの?』
「今の所関係はありません。骨か骨格を形成するものさえ残っていれば問題はないですね。」
『そう。ご苦労だったわ。』
「いえいえ、こちらも重要なデータを得られました!早く本社に戻って色々試したいですよ!」
『そう。アンブレラ社が何に使うのかは関知しないけど、せいぜい親を怒らせないことね。』
「その辺りは我々研究員が考えることではありませんので。それでは!私はこれで!」
『ええ。素敵な製品を作るのを期待しているわ。』
ミッションコンプリート
・「魔物使い」 +3000 『魔物との戦闘でターゲットを暗殺する』
・「未知との遭遇」 +1000 『魔物と戦闘する。』
・「世界樹観光」 +1000 『3種類以上の魔物を見つける。』
・「天罰はいつも唐突」+2000 『ターゲットに発見されてはならない。』
ドラクエの魔物は銃火器には耐性無さそうな気がします。特に近代兵器には。
2019/06/17追記
傘の会社は意外に反響が大きかったのがびっくりした記憶があります。
次回はこの葉っぱを活用しに行きます。