『チューク諸島へようこそ。47。』
『今回のターゲットは、アメリカ第7艦隊に艦娘部隊を創設しようとしている、トーマス・バーミッダム中将よ。クライアントである日本国大本営は自国のアドバンテージ崩壊を恐れて艦娘部隊創設を邪魔したいようね。』
『大本営からはターゲットを暗殺する際には深海棲艦の攻撃に偽装してほしいと要望があったわ。だから今回我々ICAは最近手に入れた非常に機密度の高いある物をあなたに託すことにしたわ。有効に使ってね。』
『準備は一任するわ。』
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私は今基地内部の倉庫に隠れている。表向きには来賓として大本営から支給された特別通行証を提示して入れてもらい、基地内を移動中にここに隠れたというわけだ。
今回、私は情報部より“ある物”を手渡されていた。小瓶と特徴的な無線機だ。たしかにこれがあればことはうまく運ぶだろうが、相変わらずあの情報部はとんでもないものをさらっともってくるものだ。
港湾施設の一部であるこの倉庫は目的の艦、アメリカ海軍のミサイル駆逐艦である、DDG-85“マッキャンベル”が停泊しているところからすぐ側の位置にある。距離にしては数百メートルも離れては居ないが、問題は船内部には艦の左舷中ほどに設置されたタラップによってのみ乗艦できるという点だ。しかもタラップには米兵2名が常駐しており、気付かれずに侵入するのは困難だろう。
私は周囲に人が居なくなったのを確認し、港湾施設に近づく。港はコの字型に入り組んだ場所にあり、私が今いるのは湾の一番奥の部分に当たる。
「今日もいっぱい取れたのー!」
「さっきアジの群れが泳いでるのをみたでち!」
「じゃあそれもついでに取りに行くのー!」
湾内では潜水艦娘達が魚を取っていた。彼女らの声は非常によく通る声である。発見されれば周囲にもその存在が認識されるのは言うまでもない。かと言って海の中の相手に口封じも難しい。私は隠れてしばらく様子を見ることにした。
「ろー!全部あげたでちか?」
「上げたよー!クーラーボックスにもちゃんと入れましたって!」
「じゃあもう一回いくでちよ。今度は湾の外に出るでち。」
「はーい!」
彼女たちは再び海の中へ潜っていった。どうやら湾の外へ漁をしに行くようだ。海から艦に近づくには今しかないだろう。私は周りに気をつけつつ岸壁に近づき、艦をよく観察する。ここからだと艦の後ろ側ばかり見えるが・・・発見した。艦尾の壁面に丸い穴が空いている。おそらく牽引式ソナーを出すところだろう。通常あんなところから侵入するものは居ないため鍵もかかってなければ作戦行動中ではないためソナー自体もないだろう。
私は静かに海に入ると艦尾まで泳ぎ、ソナー牽引口の蓋を内側に押し開けた。予想通り、ソナーは入っておらず、奥の格納庫に通じる扉もロックが掛かっておらず、そのまま慎重に押し開け、無事内部に潜入できた。
船内にはまだ出港まで時間があることもあってあまり人は居なかった。私はまず艦長室を探した。艦内図を見てすぐ上の階にあることを突き止め、足音をなるべく立てずに、ハッチや扉を開けるときは向こう側の音を確認してから慎重に開ける。
艦長室についた。樫の木で作られた荘厳な扉をノックする。・・・反応はない。慎重に扉を開ける。どうやら艦長は不在だったようだ。私は艦長室のあらゆる引き出しを片っ端から調べる。知りたいのはターゲットの部屋だ。
目的の文章は艦長の机の引き出しに入っていた。“本国からの来賓について”。そこにはターゲットに関する情報、部屋割り、食事の内容から好き嫌いに至るまで事細かに記されていた。作戦目的も記されており、やはり目的は艦娘の戦力調査のようだ。この文章によるとターゲットは艦長室のすぐ隣の特別来賓室に滞在することになっているようだ。
私は侵入の痕跡が残らないように書類を元に戻し、部屋を出てすぐ隣の特別来賓室に入った。確認の必要はなかった。既に部屋の扉が内側に向かって開かれていたためだ。来賓室は特になにか荷物が置かれてるわけでもなかった。まだターゲットは来ていないようだ。部屋にはクローゼットや机、パソコンや衛星電話、それなりに上質のベッドまで備えていた。政府高官や要人を迎えるのには十分すぎる装備が整っていると言えよう。
私はひとまず部屋に備え付けられているベッドの下に潜り込んで時を待つことにした。
しばらく待っただろうか、外が騒がしくなってきた。艦長室の扉が空いた音もしたため艦長も帰ってきたようだ。更に近づいてくる足音が聞こえる。
ガチャ
「ゼネラル。今回はこの部屋にお泊まりください。」
「うむ。おお、これはなかなか素晴らしい部屋だな。一人だけ豪華客船気分では部下に申し訳が立たなそうだ。」
「とんでもございません。閣下は本船の重要な賓客でありますので。」
「うむ。うむ。では相伴に預からせてもらおう。もう行って良いぞ。」
「はっ、ではまた後ほど。」
バタン
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『アレがトーマス・バーミッダム海軍中将。艦娘を利用して大統領にでもなるつもりなのかしらね?』
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ターゲットは机に座るともっていたカバンを床において中からノートパソコンを取り出して起動した。机は丁度ベッドのある部屋を背にするように配置されているためこちらからではターゲットの背中が見えるだけとなっている。
しばらく何かを打ち込んでいたが、小一時間たった後。
「ふう・・・一息つくか。・・・お、コーヒーメーカーもあるじゃないか。」
壁際にはコーヒーメーカーまで常備されていた。その脇には綺麗に洗われていつでも使える状態になっているコーヒーカップがあった。
ターゲットはいそいそとコーヒーを入れ始めた。腕時計のタイマー機能を使ってるところを見るとコーヒーの淹れ方には一家言あるようだ。出来たコーヒーを机に持ってきて飲み始めた。しかし、
「ゼネラル。少しよろしいでしょうか。」
「ん?ああ、今行く。」
飲みかけ状態のコーヒーを残し部屋を出ていった。私はベッドから這い出し、情報部に貰った小瓶を取り出した。それを数滴飲みかけのコーヒーに混ぜた。そして持っていた特殊無線機もターゲットのカバンの中に忍ばせた。
下準備は完了した。あとは脱出するだけである。部屋には一応窓はあったが、船にはよくある丸型の小型窓のため私が通れるほどの大きさではない。私はドアに聞き耳を立て、足音がしないのを確認すると慎重にドアを開けた。廊下には幸い誰も居なかったが遠くで慌ただしく作業する音がすることから艦内には相当数の人員が既に乗艦していると見ていいだろう。
私は慎重に廊下を歩く。幸いにしてイージス艦の艦内は多種多様な配管や機器があるおかげで隠れる場所には困らなかった。歩いてくる船員をパイプの隙間に入ってやり過ごしながら私は右舷外周廊下へ出た。外周廊下にも何人か人は居た。しばらくその場で待機し誰も居なくなるのを待った。数分後、左右に居た船員は各々どこかへ歩いていったため私はこのすきに目の前の欄干を乗り越えて海に飛び込んだ。
バシャーン
「ん?なにか海に落ちた音がしたか?」
「確かにしたけど、どうせ艦娘たちだろう?」
「潜水艦娘ってやつか。結構かわいい子多いって話だよな。」
「ああ、お近づきになれたりしねえかな・・・」
飛び込んだときの音が甲板上で作業中の何人かに聞かれたようだがそれほど大事にはなっていないようだ。私はそのままできるだけ水中を泳ぎながら対岸の岸壁まで泳いだ。岸壁伝いに移動し、海から上がった直後に。
プーー
現代艦特有の電子音のような汽笛が鳴った。出港のようだ。あの薬品がうまく効いてくれればよいが、効かなかった場合は戦闘機を借りてターゲットを暗殺しに行かねばならないだろう。
私は若干の不安を覚えながらも出港していく船を見送った。
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~バーミッダムside~
やれやれ。出港直前まで作戦の確認作業とは。艦長も心配し過ぎなのだ。
私は艦長室に呼び出されたあと出港の時間になってやっと開放され、あてがわれた自室に戻ってきた。既に淹れたコーヒーは冷めきっている。私はそのコーヒーを一気に飲み干すと新しく入れ直した。
コーヒーを飲みながら書類を整理する。私は別に書類と格闘したくて軍人になったわけではないのだがな・・・。だがこれも高級士官の宿命であろう。この作戦を成功させれば私は新設される艦娘部隊の総司令官に就任することになる。大将、場合によっては元帥昇格も夢ではないだろう。そのためにも艦娘にする艦は慎重に選ばないといけない。やることは山積みだ。
そこからはひたすらに書類との格闘だ。気のせいか普段よりも小さな文字がよく見える。視力が上がったような気がする。コーヒーで目が冴えているようだ。書類整理はどんどんはかどっていく。
一通りの書類を処理し終えた私はそれらをカバンにしまい、パソコンで本国と連絡会議を行った。そうして出港からはや数時間が経とうとしたところだった。
「ゼネラル。艦橋へお越しください。偵察機が敵艦を補足した可能性があるとのことです。」
「なに!わかった。すぐに行く。」
偵察機、と言っても艦娘たちが使っている零式水上観測機という旧式機ではあるが、深海棲艦を発見するにはそのほうが都合が良いらしい。
ビービービー
“総員。対水上戦闘用意。繰り返す。総員、対水上戦闘用意。”
艦内に警報が鳴り響く。私は艦橋へ着くとすぐにデッキへ出た。
「双眼鏡を貸せ!」
「はっ!どうぞ。」
私は観測員の使っていた双眼鏡を奪うように借りると早速覗き込んだ。艦娘たちは既に敵と会敵しているようだ。
敵は駆逐艦ばかりのようであり、艦娘たちも余裕綽々という感じに対応している。私は自身の高ぶる感情を抑えきれずに居た。
「・・・すばらしい!すばらしいぞぉ!!」
「ゼネラル・・・?」
「これほどの力があれば・・・!これほどのぉ!!!」
「・・・!?ゼネラル・・・!その目・・・・!」
「今いいところなのだ!邪魔をするな!」ブンッ
ドゴォン
「・・・え?」
「こ、この力・・・やはり!」
私は軽く振り払っただけだ。それなのに振り払った手が艦橋にあたっただけで艦橋の一部がえぐれてしまった。何だこの力は!? 艦橋から艦長と副長がやってきた。
「ゼネラル!いや、バーミッダム殿!その目とその力はどういうことなのか説明していただきたい!」
「目?力?」
私はとっさに近くの窓ガラスを鏡代わりに見た。
「め、目が!?私の!私ノメガ!」
「ゼネラル・・・。」
「け、憲兵!武装してここへ!」
窓ガラスに映っていた私の目は青白いオーラとともに謎の稲光を発していた。資料にあった深海棲艦の特徴そのものである。
「コレハドウイウコトダ!イッタイワタシハ!」
「くっ!貴様!まさか深海棲艦のスパイか!」
「こんなところで興奮し正体がバレてしまったようだな!」
「おい!前衛の艦娘たちに緊急伝だ!」
「チガウ!ワタシハ・・・ワタシハ・・・。」
体がどんどん白くなっていくのがわかる。そして私ノ意識も謎の意シキに侵食さレて・・・。
「ウワァァァァァァ!」
「総員!構え!こいつは既にゼネラルでも何でも無い!艦長権限で攻撃を許可する!」
カンムス達もモドッテキた。メノ前ノグンジンタチモ、ワタシニムカッテ銃ヲ・・・。
「撃て!」
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『ターゲットの死亡を確認。正確には変化し始めた時点でターゲットは死んでいたかもしれないけれど。』
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~47side~
通信によってターゲット暗殺が成功したことを知った。我ながら恐ろしいものを持っている。
渡された小瓶には青白い液体が入っていた。鹵獲した深海棲艦の成分を解析し、深海棲艦たらしめる成分を特定し、それを抽出、濃縮したのがこの液体だそうだ。情報部はどこから入手したのかは言っていなかったが、小瓶の側面に書かれている赤と白の傘のマークが説明を不要にしている。
特殊通信機は鹵獲した深海棲艦が体内に持っていた無線装置そのものらしい。安全性に問題はないのだろうか・・・。
ともかく暗殺は成功し、ターゲットは深海棲艦となって米海軍によって処理された。軍上層部に深海棲艦が入り込んでいたと思われる事実は艦娘部隊創設計画を大きく遅らせることになるだろう。もしかしたらそのまま立ち消えになる可能性すらある。
私は基地内を移動していると一台の車を見つけた。この基地にはなんとも不釣り合いなフォルクスワーゲンのタイプ1ビートルだ。その近くには一人の女性がこちらを見ていた。
「ボンジュール。」
「・・・。」
「あら、挨拶くらいは返してもよろしいんじゃありません?」
「私を待っていたのか?」
「ええ、まあ。バーンウッドさんとは古くからの知り合いでして。」
「君は?」
「申し遅れましたわ。私はコマンダン・テスト。ICAの依頼であなたをお迎えに上がりましたの。」
「そうか。これで脱出するのか?」
「これでもちゃんと整備は行き届いていますからちゃんと走れますのよ?」
「そうか・・・。」スタスタ
「あ、運転は私が。」
「君が?」
「あ、その顔。信用していませんわね?これでも国際A級ライセンス持ちですのよ。」スタスタガチャ
「国際A級・・・なるほど。」ガチャ
「では出発しますね。」
私はその不思議な艦娘と共に基地を脱出した。
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~3日後~
「米国はなんと?」
「はい。傍受した内容によりますと第7艦隊への艦娘部隊の創設は無期延期になった模様です。」
「そうか。それはよかった。ICAもうまくやってくれたようだな。」
「ええ。特に内部からスパイが出たのは非常に助かりました。これで計画を円滑に進めることが出来ます。」
「計画は漏れてはいないだろうな?」
「今のところは。深海棲艦たちも人類に対しての侵略者の役割を十二分に果たしてくれています。」
「欧州は比較的簡単に済みそうだが、問題は合衆国だ。」
「ええ。ですので来年度初頭に上陸型深海棲艦を配備いたします。これにてロッキー山脈よりも奥へ深海棲艦を送り届けることが可能になります。」
「山にいるのに深海とはなかなか不思議な状態だ。」
「この上陸型は欧州と中国大陸にも投入される予定です。」
「我が国の対応としてはどうするのだ?」
「艦娘達に頑張ってもらいましょう。少数を投入し、それを艦娘たちに撃退させる予定です。」
「ふむ。よかろう。日本国内閣総理大臣としてこの計画を許可する。うまくやってくれたまえ。」
「了解いたしました。必ずや、世界を崩壊させてご覧に入れます。」
「頼んだぞ。我が日本国が敗戦国から立ち直るには・・・この作戦しかないのだ。」
ミッションコンプリート
・「戸締まり不十分」 +2000 『ソナー牽引口より船内に侵入する。』
・「乗り物酔い」 +1000 『艦の出港時に船内に居ない。』
・「スパイ大作戦」 +5000 『ターゲットを米兵に殺害させる。』
・「GIGNの旧友」 +1000 『コマンダン・テストに会う。』
コマさんはミステリアスな雰囲気も似合うと思います。
2019/06/17追記
コマさん何故出したかと言うと、私の推しだからです(開き直り)
次回は妖怪が住む山へ行きます。