『妖怪の山へようこそ。47。』
『今回のターゲットは妖怪の山を縄張りにしている天狗、それらを扇動している共産主義派閥リーダーの
『準備は一任するわ。』
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まずい。完全に道に迷ったようだ。
私は今、とある河原に佇んでいる。いや、佇んでいると言うよりも途方に暮れていると言ったほうが良いだろう。
私は今回、長距離狙撃が必要になると考え、ICAの倉庫に眠っていた東側の対物ライフルを持参した。“OSV-96”そう外箱には書かれている。消音機能はついていないが約1500m先からも軽装甲車両を破壊するその威力があれば天狗を相手にすることもできるだろう。
しかしそんな高性能な対物ライフルも、地図の代わりにならなければコンパスの代わりにすらならない。目的地にたどり着けなければただの重たい箱でしか無いのだ。
私は澄んだ川の流れを眺めながらどうしたものかと思案していると、何かの気配を感じた。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。そこだ。」パシュ
「ひゅい?!」チュン
私は気配を読み取り、周囲にある一箇所だけ空気の流れがおかしい場所に向かってシルバーボーラーを撃った。案の定、その地点には何かが隠れていたらしく、奇妙な鳴き声とともに姿を表した。
「や、止めてくれよ!謝るから!こっそり近づいたのは謝るから!」
「何者だ。」
「私?私は河童さ!見たところ君は人間?だけどなんか違うような・・・?」
「確かに人間だ。この周辺の住民か?」
「ああ。この川はうちら河童の住処さ。そういうあんたはなんでここに?」
「天狗の集落を目指している。が、道がわからなくなってしまった。」
「天狗様の?止めといたほうがいいよお?妖怪だって不用意にはあそこには近づかない。ましてや人間のあんたが・・・。」
「その天狗からの依頼でな。協力者がいるらしいのだが落ち合えずに居る。」
「天狗様からの依頼?だったら襲われることはないだろうけどまた奇妙なこともあるもんだねえ。」
「そんなに奇妙なのか?」
「ああ。天狗様は基本的に人間は下等生物だからね。私達河童にとっては盟友だけど。」
「盟友?」
「そうさ。あ、そうだ。盟友が困ってるのを黙って見過ごすのもあれだし、さっきのお詫びも兼ねて山麓まで案内してあげるよ!」
「それは助かる。妖怪の山に近づけば千里眼を持つ協力者に見つけてもらえると思うのだが。」
「千里眼・・・それってもしかして椛の事かい?だったら話は早い。あいつと私はよく将棋を指す仲だ。よくいる場所なら知ってるよ。」
「ありがとう。あいにくと礼できるものを何も持ち合わせていないが。」
「いいっていいって。あ、そしたらさっきの鉄砲、ちょっと見せてくれないかなあ?」
「それは無理だ。これは必要なものだ。」
「ちぇー。あ、私の名前、河城にとりっていうんだ。にとりでいいよ。お兄さんの名前は?」
「わかったにとり。私は・・・四郎。そう呼んでくれ。」
「うわぁ、完全に偽名だねそれ。まあいいさ。なにか事情があるんだろう。じゃあこっちだよ。」
「すまない。世話になる。」
川に沿って二人で歩く。にとりは周囲の風景などを身振り手振りで紹介しながら歩いている。私はそれを聞きながらゆっくりと進んでいく。暫く進むと大きな滝壺の湖に出た。
「あ、にとり。」
「お、やっとお出ましだ。」
声が上の方からしたと思ったら白髪に白い尻尾と耳がついた少女が飛んできた。
「にとり、その人は?」
「何でも天狗の集落に用があるんだってさ。椛にも会う予定だったみたいだよ?」
「ということはあなたが協力者?」
「そういう君も千里眼を持つという協力者か。」
「はい。犬走椛と言います。私のことは椛とお呼びください。今回はよろしくおねがいします。」
「こちらこそ。よろしく頼む。私のことは四郎でいい。」
「四郎さんですね。わかりました。」
「じゃあ私は案内を果たしたし、なんか込み入った事案みたいだから退散するよ。椛、また今度対局しようね。」
「あ、ハイ。にとりさんもありがとうございました。」
「世話になった。ありがとう。」
「どういたしまして~。」
そう言うと彼女は湖の水の中に飛び込み、先ほど姿を消したのと同じように水中に溶け込むようにして見えなくなった。
「では参りましょう。集落はこの滝の上流です。」
「わかった。しかし私は飛ぶことが出来ない。道はないのか?」
「道はあるにはありますがすごく遠回りになってしまうので・・・、私が抱えましょう。」
椛は私の脇を抱えて飛び、私はライフルを抱えている格好で飛んでいる。集落はすぐ近くらしく、下ろすよりもそのまま飛んだほうが早いようで、抱えられたまま集落に到着する。
「このまま一旦私の家に行きます。」
「わかった。」
私達は崖をくり抜いて家を立ててある集落の中程の家へ着地した。ここが彼女の自宅らしい。外観は崖に半分ほどめり込んでる以外は茅葺屋根の典型的日本家屋だ。
中に入ると土間と居間があり、私は促されるまま靴を脱いで居間に座った。
「まず今現在の状況を説明します。」
「頼む。」
「はい。現在、
「ふむ・・・。」
「で、こちらが・・・彼らを焚き付けた元凶です。」
「これは・・・資本論?」
「はい。外の世界の著名な政治家が書いた本だと聞いています。我々天狗には理解しがたい理論が大量でした。」
「だろうな。共産主義とは無縁そうだここは。」
「彼らはこれを聖書と呼んでいるそうです。更にもう一種類、ごく最近になって流れ着いたらしいのですが詳細は不明です。」
「聖書・・・。キリストと一番疎遠な思想が聖書を持つとはな・・・。」
「いかがしましょう。現在
「下手に動くと相手側に気取られる可能性もある。確実になるまで行動は避けたいところだ。彼の家は?」
「えっと・・・詳しくは詰め所に行かないとわかりませんがこの集落内にあります。」
「ではまずその家を特定するところからだ。」
「わかりました。ではちょっと詰め所に行ってきます。すぐ戻りますのでここを動かないでください。」
「わかった。」
そういうと彼女は扉から出ていき飛んでいった。その間に私はライフルのチェックを・・・
「もどりました。」
チェックをしようと手をかけたときには戻ってきた。
「・・・。早いな。」
「詰め所はすぐ隣の家ですので・・・。でこれが集落内の住民表です。」
「ふむ・・・これか。」
「はい。丁度3階層上ですね。」
「この横の家は?」
「そこは私の部下の一人の家です。元々は
「ならば君が声をかければどこかへ一時的にでも立ち去ってくれるわけだな。」
「はい。可能だと思います。」
「ではここから狙撃しよう。その前にまずはターゲットの家を見たい。」
「わかりました。」
私は椛に再び抱えられながらターゲットの自宅を訪れた。周囲を抱えられながら滞空する。
彼の家は椛の家よりも2回りほど大きく、一番外側には大広間があるようだ。そして丁度良く隣の部下の家から大広間を覗ける形で窓があった。
私はその状況を見てあるプランを立てた。
「椛。次は君の部下の家に行きたい。」
「わかりました。」
そのまま隣の家に飛んだ。家につくと椛がまず家に入っていった。
「皐、居るか?」
「あ、隊長。何でしょう。」
「済まないが少し部屋の中を見させてくれ。
「なるほど。わかりました。そちらの方は?」
「協力者だ。詳しいことは大天狗様からの密命ゆえに答えられない。」
「わかりました。では私はしばらく外へ出て哨戒しています。」
「すまないな。」
中に居た白髪犬耳狐尾の少女は私に一礼するとそのままどこかへ飛び去っていった。
「入ってください。一応女性の部屋だということをわきまえて。」
「失礼する。」
中は小奇麗に整頓されていた。心なしか椛の家より物が多い気がする。
家の東側に開けられた小窓からターゲットの家を見る。距離にして600m。崖の中腹にあるのもありそれなりに風が強い。が、丁度真ん中あたりに旗のようなものが立っているため風向きと強さの把握はそれほど難しくはないだろう。
しかし肝心のターゲットの家の大広間がわずかしか見えない。奥の土間への入り口は全て見えているがそれ以外の場所が殆ど見えていない。つまりターゲットが土間の入り口の直線上に来なければこの狙撃は成功できないということになる。
「椛。君は・・・目の前で同族が死ぬのを見るのは耐えられるか?」
「はい?」
夕暮れだ。今私は椛の部下の家の窓の前で持ってきたライフルを組み立てている。椛はと言うとターゲットの家の玄関前に居た。
夕焼けの向こうから複数の人影が見える。そのうちの何人かが椛に気が付き近寄っていくのが見える。
「頼むぞ。椛。」
~椛side~
「何でこんなことに・・・。」
ため息を付きながら独り言。協力者の四郎さんから伝えられた作戦は確かに有効だし、私が出来ないとも思わない。しかし気が乗るかどうかは別問題だ。
とにかく、大天狗様からの密命を確実に遂行するためにもこの作戦は失敗できない。私は気合を入れ直す。
「そこのもの!何者か!」
来た。
「わ、私は、」
「おや?白狼天狗哨戒部隊の椛隊長ではないですか。何故ここに?」
「あ、あの。私は・・・。私も、あなた様の思想に賛同したく参った次第です!」
「なんと!それは真ですか!?」
「はい。かねてより自身の待遇に不満を持っていましたがこれも天狗の定めと思っておりました。しかしあなた様の思想に触れ、その考えが間違っていたことを思い知ったのでございます。」
「なるほど!私は嬉しいですぞ!白狼天狗部隊が我が思想に参画していただければこの社会に革命を起こすことも容易になります!ささ!今宵は我が家で宴会を催したいと思っていました!どうぞ中へ!」
「はい。宴会でしたらお手伝いいたします!」
私はうまく潜り込むことに成功した。
「まずは長机を出さなければ!」
「でしたらそれは私がやりましょう。これでも哨戒部隊の隊長です。力仕事はおまかせを。」
「ありがたい!では私は酒とつまみを作ることにしよう!私の我流のつまみ皆も気に入ってくれると思う。」
「ありがたき幸せでございます!」
私は隣の部屋から長机を出す手伝いをした。土間の入り口付近から玄関口に向かって机を並べた。
「犬走隊長殿。この机の並びは?」
「烏鴈丸殿が一番上座なのは言うまでもなく、かの御仁なら皆の顔を一望できるのを望まれると思いまして。」
「なるほど!さすがは白狼天狗随一の実力者!思慮深さも随一ですな!」
「それと私は一番の新参者です。皆様に酌をして回りたいと思いますがよろしいでしょうか?」
「なんと!隊長自ら酌をしていただけるとは!我が一族の誇りになりましょう!」
全員とても上機嫌だ。誰しも宴会前は上機嫌になる。私もいつもなら上機嫌で態度も大きくなっていたかもしれないが今回ばかりはとてもそんな気分にはなれそうにない。
程なくして宴会が始まった。
「烏鴈丸殿。いやこれからは同志烏鴈丸とお呼びしたほうが?」
「ははは!お好きに呼んでください!しかしあなたに酌をしてもらえる日が来るとは私は感無量ですよ!」
「お気になさらないでください。烏鴈丸殿。私は思想に共感したとは言え貴方様のお考えの半分もまだ理解できていない若輩者ですから。」
「そんな謙遜を。私はただ、天狗たち皆が平等に幸せになってほしいと願ったまでのこと。私は皆が幸せになるお手伝いをさせて頂いてるだけなのですよ!」
「烏鴈丸殿・・・。」
「椛殿。昨今の天狗社会は上下関係と階級によって虐げられているものが多すぎる。椛殿も経験がお有りでしょう?」
「はい。幼き頃は白狼天狗と言うだけでいじめられることもありました。」
「同じ天狗同士で差別があってはならない。皆同じ天狗ではないか。私はそういう差別や悲しみを取り払いたい。そのためにこの決起を立案し、今ここに同じ志を持った同志たちが集まっているのです。皆一様に過去に虐げられた経験を持ちます。そのような悲しみを生み出しているのは他でもない、大天狗だ。かの者が己の権力欲のために階級社会を維持し、大衆天狗を虐げている。私は今夜、この長きに渡る負の連鎖を断ち切ることができることに感動を禁じ得ないのです。」
「・・・。」
「・・・椛殿。私は・・・。」
ダァーン!
~47side~
椛はうまく潜り込めたようだ。話している内容は聞こえないが表情はわかる。現時点ではターゲットがどれかわからない為打つことは出来ないが計画では上座の位置にターゲットを連れてくる手はずになっている。
予定通り中に入ったら宴会の準備、長机を窓の延長線上に配置して上座を射線に入れる。椛は諜報員としてもやっていけそうなくらいうまく立ち回っている。彼女と話した天狗は皆上機嫌そうだ。これが情報収集ならばみな喜んで情報をしゃべるだろう。
上座に一人の天狗が座った。それなりに若い男の天狗だ。上座に座ったということは彼が
私は旗を見て風向きと強さを確認する。風の強さを考慮に入れて照準をし直した。ターゲットが椛を見つめ一瞬動きが止まった。私はその機を逃さず、引き金を引いた。
ダァーン!
発射された12.7×108mm装甲貫通弾は風に煽られ軌道を修正し、正確にターゲットの頭部中央に命中した。命中の瞬間一瞬こちらを見た気がしたが、弾は音速以上の速度で彼の鼻面に飛び込み、衝撃で頭部全体が瞬時に霧散した。いくら天狗と言えども頭部全体が爆散しては生きては居ないだろう。
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『ターゲットの死亡を確認。見事な腕前ね。あとはそこから脱出するだけよ。』
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宴会場は一瞬の沈黙の後、
「キャアァァァァァァァアア!!!」
椛のものと思われる悲鳴で騒然とした。私はすぐに家に身を隠し、ライフルを片し始めた。
家は大騒ぎになっているようだ。この幻想郷という世界には対物ライフルはおろか銃自体ほとんど見かけることはない。そのためかターゲットに何が起こったのか、直前または直後の大きな音は何だったのかそれすらわからずじまいのようだ。
私はそのままその家に籠もった。じりじりと待ち続けた。周囲の集落から他の天狗が臨検に来たときは居間の下にあった隠し扉のようなところへ逃げ込んだりもした。そうしてしばらく立てこもり、朝を迎えた。
「四郎さん・・・?四郎さん・・・?」
微かに私を呼ぶ声が聞こえる。私は隠し扉を少しだけ開け辺りをうかがう。
土間には疲れ切ったような表情の椛が居た。私は隠し扉を開けて外に出た。
「椛。」
「ああ、四郎さん。作戦は成功。ですか。」
「ああ。任務達成だ。後は私は脱出するだけだ。大丈夫か?」
「ええ、少し疲れました。そりゃあ目の前で人の顔がいきなり爆散するんですからトラウマにもなりますよ。」
「すまない。もう少し待てればよかったのだが、嫌な予感がしたものでな。」
「嫌な予感?」
「こちらの話だ。それで、私はどうやって帰ればいい?」
「あ、ハイ。私がまた抱えて連れ出します。すぐに出発しますか?」
「そうだな。ここにはもう用はない。ここの家の家主にもよろしく伝えてくれ。」
「わかりました。では参りましょうか。」
私達は未だ警戒に当たる哨戒天狗を避けつつ低空飛行で森を縫うように飛びながら里へ脱出した。
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~翌日~
「そうか。かの者は帰ったか。」
「はい。私が責任を持って里へ送り届けました。話によると“せーふはうす”という家から外の世界に帰れるそうです。」
「ご苦労であった。犬走椛、そなたにも苦労をかけたな。」
「いえ、大天狗様。私はただ命令に従ったまででございます。」
「うむ。今回の一件で私の部下もあの集団に公式に捜査の手を伸ばせるようになった。本案件は収束に向かうであろう。」
「彼らはどうなるのですか?」
「我々天狗に伝わる他人の深層心理を見破る秘術がある。通常は使用は厳禁ではあるが、彼らには再教育を施し、その秘術でもって検査し、共産主義などという馬鹿げた思想がなくなるまで徹底的にしごいてやるつもりだ。」
「なるほど。」
「そなたも疲れたであろう。今はゆっくり休め。定時哨戒も私の方から他のものに回させる。3日ほどじゃが休暇を取らせる。」
「ありがたきお言葉であります。」
「うむ。行って良いぞ。」
「はっ」
バタン
「・・・。これでよかったのだろうか・・・。」
ミッションコンプリート
・「川の便利屋さん」 +1000 『河城にとりと会う。』
・「失われなかった萌芽」+3000 『ターゲットと犬走椛を会わせる。』
・「スイカ割り」 +3000 『対物ライフルでターゲットをヘッドショットする。』
・「お泊まり会」 +1000 『天狗の集落で一晩を過ごす。』
特権は、それ自体、ある場合には不可避である。繰り返すが、それは当分の間、必要悪である。しかし、これ見よがしに特権に甘えることは、悪であるというだけでなく、犯罪である。
- レフ・ダヴィードヴィチ・トロツキー -
2019/06/17追記
2期に続きます。
次回は学園艦に向かいます。