想定より早くできたので連続投稿です。
『黒森峰女学園へようこそ。47。』
『今回のターゲットは最近日本で隆盛してきている軍需産業、佐藤グループのCEO、佐藤孝蔵とその息子、伸二。彼らは戦車道を自分たちの都合のいいように改変しようとしている。しかも息子は遊び人で親の権力を盾にこれまた好き勝手やっているわ。』
『クライアントは西住流家元の西住しほ。戦車道を破壊しようとし散る佐藤グループを壊滅させると共に、自らの愛娘である西住まほに言い寄る佐藤伸二も同時に葬ろうというわけ。』
『今回は以前あなたが生き返らせた元暗殺者の訓練が完了したから、この任務に同行させるわ。協力して任務を遂行して頂戴。』
『準備は一任するわ。』
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ボォー
間もなく出港だ。現在時刻、午前10時丁度。黒森峰女学園学園艦は熊本沖の天草灘を進もうとしている。
今回は以前ICAの新薬“リザレクター”で生き返らせ、組織に引き入れた元暗殺者の少女、名をタバサ。彼女の初陣でも有る。彼女は私の横で離れゆく陸地を見ている。
「これからどうする?」
「まずは情報だ。学園艦の詳細を知りたい。」
「わかった。基本的な情報はこの紙に書かれている。」
「基本情報は収集済みか。訓練の成果だな。」
「基本。この程度なら前の世界でもやっていた。」
私は渡された紙を見る。現在、CEOである佐藤孝蔵は艦橋の特別来賓室に居るようだ。警備が厳重なのは容易に想像できる。変わって息子である伸二の方は市街の高級ホテルに泊まっているようだ。不自然なほど警備が薄いらしく、部屋にはターゲット一人、同じ階どころかホテル自体にもSPは泊まっていないらしい。
私は紙に添付された地図を見る。市街地が中央部に広がっている。艦尾側に若干の森があり、そこから更に艦尾側に小規模な市街地が有る。人口は10万を超えるらしい。艦右舷中央に艦橋があり、艦尾と艦首それぞれ5分の1ずつが広大な演習区画になっているようだ。黒森峰女学園自体は艦尾側の小規模な市街地にあった。
私はその演習区画にあった格納庫に目をつけた。
「タバサ、ターゲットの周辺人物に誰か接触したか?」
「まだ。そこまで入り込むのは危険と判断した。」
「なるほど。では西住流の名を語らせてもらおうか。」
「?」
私は今艦橋に来ている。入り口にはSPと思われる警備員が数名立っていた。近づく私に気がつくと一人が進み出てきた。
「止まってください。ここは関係者以外立ち入り禁止となっています。」
「佐藤孝蔵氏に西住流家元より言伝を預かってまいりました。」
「西住流から?それは・・・。少々お待ちを。」
そう言うと彼は耳につけているイヤホンと胸につけているマイクで何かを話し始めた。おそらくターゲットに確認をとっているのだろう。
「社長はお会いにはなりません。言伝は私から伝えます。」
「わかりました。では“本日夜8時、第1演習場で待つ。できる限り少人数、できれば一人で。”が言伝です。」
「承知しました。確かに伝えましょう。」
「お願いします。では。」
私はその場から離れる。言伝を正しく伝えてくれることを祈るばかりだ。
~タバサside~
私は市内の高級ホテル“ホテル シュヴァイツァー”に来ていた。フロントに向かう。カジュアルな服装をした少女が一人で高級ホテルに入れば否応にも目立ってしまうが問題はないと47は言っていた。
「お嬢様、当ホテルは黒森峰学園艦が誇る高級ホテルでございます。どなたかのご紹介でしょうか?」
「紹介ではない。このホテルに泊まっている“佐藤伸二”という人物へ伝言を預かってきた。」
「佐藤伸二様ですね。少々お待ちください。」
そう言うとフロントのホテルマンは何処かへ電話をかけ始めた。おそらく本人に伝えてるのだと思われる。
「お嬢様、伝言が有ると言われましたね。それはここで私共にお伝えすることは可能でしょうか?私共が代弁しますが。」
「お願いする。伝言は“本日午後8時、第1演習場にて待っています。一人できてください。”宛名は“西住まほ”で。」
「西住まほ・・・!それは・・・しょ、承知しました。確かにお伝えいたします。」
「お願いする。」
私はそれだけ伝えるとホテルを後にし、指定されていた合流場所へ向かった。
~47side~
合流地点の黒森峰女学園前にやってきた。第1演習場は学園のすぐ近くにある。現在時刻午後1時。急がねばならない。
「遅れた。」
「問題はない。下ごしらえと行こう。」
「どうするの?」
「簡単な話だ。戦車道の問題は戦車に片を付けてもらう。」
私達は演習区の外周にあるフェンスを乗り越えた。乗り越える際、タバサのレビテーションとかいう魔法を使った。体を自由に浮かばせられるのはなんとも便利だ。
演習場の端に格納庫があった。私達は格納庫に近づき高い位置にある窓へレビテーションで浮かんで中を覗く。中にはいくつかの戦車が並べられていたが、人影はなかった。私達はそのまま窓から侵入する。
上から見ても人気がなかったので下に降りると、ホワイトボードがあった。そこには一言だけ、“本日の演習は第3演習場にて行います。”とだけ書かれていた。第3演習場は艦の反対側、艦首にある演習場だ。
私達は格納庫内を調べて回った。私はホワイトボードからほど近い位置にあった本棚を調べていると、“戦車道における戦車の仕組み”という本を見つけた。読んでみると通常の戦車と戦車道に使われる戦車の違いが事細かに記されている。別のところを調べていたタバサが近寄ってきた。
「これを見つけた。」
「ん・・・これは鍵か。」
「鍵箱には戦車の名前が記されていた。おそらく戦車を動かすときの鍵。」
「よくやった。それは必要なものだ。それは何という戦車の鍵だ?」
「TIGER。そう書かれていた。」
「Tiger戦車か。非常に強力な戦車だ。使える。少し待て。」
私は再び本に目を戻すと、弾薬の違いについて書かれていたページを見つけた。この本によると、戦車道の弾薬には人感センサーが内蔵されており、有効半径内に生身の人間がいる場合は炸裂しないようになっているらしい。しかし、その人感センサーは砲弾の先端部に後付けで装着されており、それがなければ威力が半分ほどになっているものの、機能としては実弾と大差なくなるようだ。
私は本を一旦置き、あたりを見回す。やはり格納庫には弾薬は置かれては居なかった。まずは弾薬庫を探さなければならない。
「タバサ。戦車自体、燃料、そして弾薬を探さねばならない。手伝ってくれ。」
「わかった。」
それから私達は格納庫の周囲を探索した。燃料はすぐに見つかった。格納庫のすぐ近くに燃料タンクがあったからだ。弾薬庫は少し離れたところ土塁に囲まれている典型的な弾薬庫をタバサが上空から発見した。
私達はまず弾薬庫から88mm砲弾を3発持ち出した。徹甲弾1発、榴弾2発である。一発で終わらせるつもりでは有るが念の為持ってきた。
私は砲弾を格納庫に持ってきて、格納庫内に置いてあった工具を使って先端部分にあるセンサー類を取り外す作業に取り掛かった。その間タバサには戦車自体を探してもらった。見つけたらすぐに通信が来るように言ってある。
カチャカチャ
「・・・。」
カチャカチャ
「・・・。」
トントントン トントントン
何やら視線を感じる。私はタバサにあらかじめ伝えておいた緊急信号を送る。この信号を受け取った場合は格納庫の周囲に我々以外が居ることを示している。それから数分後、
「動かないで。」
「!」
「・・・やはり居たか。」
どうやら視線の主を捕縛したようだ。私は作業を中断し、格納庫をでる。
「あなたは・・・“西住まほ”か。」
「・・・お前たちここで何をしていた。」
「・・・。」
「正直に言おう。私はお前たちが何をしているのか、そして何をしようとしているのかおおよそ見当がついてる。」
「ほう?」
「私は先週、夜食を取りに台所へ行った。その時に深夜にもかかわらず居間のほうで気配がしたのでこっそり聞き耳を立てたんだ。」
「・・・。」
「居間に居たのは母さまだった。何処かと電話していた。しかし母さまはたしかに言った。“佐藤グループ”そして“暗殺”と。小さな声だったからそれ以上は聞き取れなかったがな。」
「・・・。」
「お前たちはその暗殺実行部隊なのだろう?」
「だとしたら?」
「・・・正直、止めるかどうか迷っている。佐藤伸二には困らされているのは事実だし、戦車道を好き勝手改変しようとしているのも知っている。だから殺人という倫理観から外れた行為を行おうとしているお前たちを目の前にしても止める事ができないでいる。」
「・・・。」
「私にはわからないんだ。どうすればいいのか。」
「君は何も見ていないし何も聞いていない。我々は仕事をこなしているだけ。それではダメか?」
「それでは・・・私は今後止めなかったことを後悔し続けることになる。それに耐えられるかわからないんだ。」
この少女は殺人という大罪を前にして己の欲と倫理の間で揺れ動いている。こういうときは基本的に背中を押してやれば後は転げ落ちるだけだ。
私は懐からシルバーボーラーを取り出し、構える。
チャキッ
「な!何を!」
「簡単なことだ。我々の仕事を見られたからには生きて返すことはできないということだ。映画とかドラマではお決まりだろう?」
「殺す?」
「タバサ。黙っていろ。西住まほ、殺されたくなければ言うとおりにしたほうがいい。お前の背後にいる少女も見かけどおりだとは思わないことだ。」
「くっ・・・。」
「さあ、お前の愛車のところまで案内してもらおうか。」
西住まほの愛車、つまりはTigerⅠはすぐ近くの別の格納庫の中にあった。尋問の結果、西住まほは今日は演習に参加せず、自宅で休養を取ることになっていたという。おそらくクライアントである西住しほが手を回したのだろうが、愛娘はそれに素直に従わなかったというわけだ。
タバサはレビテーションでタンク車を引いている。中にはガソリンが満載されている。少しの間戦車を動かすには十分な量だ。私達は戦車に燃料を補給し、そして先程センサーを外した砲弾を積載した。
「じゃあ動かしてもらおうか。それとこれを持っていてもらう。これは小型の対人爆弾だ。リモコン式で私が持つスイッチで起爆する。起爆すれば半径1mは吹き飛ぶ。持っているお前は当然あの世行きだ。」
「・・・。」
「タバサ。装填手席につけ、私は砲手席に着く。」
「わかった。」
渡した自称小型爆弾は先程砲弾から外したセンサーの一部だ。無論爆弾どころか可燃物すら入っていない。しかし傍目には完全密封された金属の箱なので爆弾に見えなくもない。
3人が各々席についた。
「第1演習場の端の森の中へ行け。そこで待ち伏せる。」
「・・・。」
「タバサ。榴弾を装填するんだ。できるか?」
「問題ない。この戦車は以前動かしたことがある。」
「何?訓練施設ではこんな古い戦車の操縦は教えないと思うのだが。」
「違う。前の世界。あの世界でこれと同じものを動かした。その時は先端が赤い砲弾。徹甲弾を使った。」
「そうか。何にせよ使い方がわかるのはいいことだ。」
なぜあの技術後進国しか無い世界にTiger戦車があったのかは疑問だが今となってはどうでも良いことだ。
「では行こうか。何と言ったか?ああそうだ。」
「
Tiger戦車はけたたましい音を出しながらゆっくりと動き出し前進を開始した。現在時刻、午後4時30分。なんとか間に合ったと言える。
私達は第一演習場の隅の森のなかに居る。音で気付かれないようにエンジンは切っている。既にここに鎮座してから3時間が経とうとしていた。
「・・・。」
「・・・。」
「・・・。」
その間ずっと無言のままである。私は慣れているし、タバサも問題はないが、西住まほはそわそわと落ち着かない様子だ。3時間も3人狭い空間に居て一言も喋ってないのだから仕方ないだろう。
更に数十分経ったとき、車長の位置に移動していた私はキューポラから演習場に人が歩いてくるのを発見した。
「そろそろだ。」
「!」
西住まほはビクッと体を震わせた。いきなりの声に驚いたのだろう。そのまま操縦手の窓から外を見る。
歩いてきた人物は若い男性だった。一人でこんな時間にここに来るということはターゲットだ。
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『アレが佐藤伸二。道楽息子で女たらしの戦車道を愚弄する一族の後継者。』
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その直後、演習場に続く道から1台の車が入ってきた。白の高級車だ。中からSP2人と一人の老人が降りてきた。
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『アレが佐藤孝蔵。戦車道を自分の思うままに動かそうと画策する悪の枢軸。役者が揃ったわね。』
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お互いに気がついたようだ。
「む、伸二。お前こんなところで何をしている。」
「父さんこそ。俺はここにはまほさんに呼び出されたんだ。」
「わしは家元にここに来るようにと。わざわざ仕事の合間を縫ってきてやったと言うのにこれは一体どういうことだ。」
「西住まほ。エンジンをかけろ。」
「・・・。」
けたたましい音を響かせてエンジンがかかる。砲塔旋回装置にも動力が行き渡り、私は砲塔を回転させ、彼らの方へ向けた。
いきなり発せられた重低音に驚いてこちらを見ている。が、暗闇でよく見えていないようだ。
「気が付かれる前に終わらせてやろう。タバサ。念のために次弾装填用意、弾種榴弾。」
「了解。」
私は彼らの集まってる地点の足元目掛け照準をし直し、引き金を引いた。
バァァン!
榴弾は少しそれて着弾した。なぜそれたのか疑問だったがその答えはすぐにわかった。
「む!西住まほ。」
「やはりダメだ!やらせない!」
「タバサ。眠らせろ。」
“スリープクラウド”
「ぐっ・・・。」
発射の直前に西住まほが車体を旋回させたのが原因だった。再度照準をし直す。タバサは魔法を使って重い砲弾をすばやく装填する。まるで意思を持って砲に装填されるかのように動いている砲弾は、おそらく人が装填するよりずっと早いだろう。
「な!な!」
「おい!早く乗れ!」
彼らは一様に動揺しているが一瞬だけ伸二のほうが固まった。その隙に私は孝蔵の乗ってきた車へ照準をし直す。彼らは車に乗り込むとすぐさま発進しようとしたが
「装填完了。」
「デッドエンドだ。」
こちらの装填のほうが早かった。
カチッ
ドォォン!
ボォォン!
車は88mm榴弾の直撃を受け爆散。前方向に一回転しながら炎上した。
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『ターゲット2名の死亡を確認したわ。よくやったわ。脱出して頂戴。』
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爆発炎上している車を一応確認する。炎が強く、判別はできなかったが、車内に人影のようなものを4体視認した。最初に確認した人数と一致するので問題はないだろう。
私は戦車に戻り、操縦主席から西住まほを引きずり出した。そのままタバサのレビテーションで運び、格納庫へ戻った。
格納庫へ戻ると転がっていた荒縄できつく縛り上げ、口にガムテープを巻いた。これで発見されるまでは身動きも声をだすこともできなくなる。
私達はそのまま演習場を後にした。爆音と煙を見て誰かが通報したのだろう、消防車とパトカーのサイレンが遠くから聞こえてきた。私達はさらに艦尾に向かい、ヘリポートに駐機していたICAのヘリに乗って脱出した。
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~2日後~
「はい。もしもし。」
「お姉ちゃん。大丈夫?」
「ああ、みほか。大丈夫だ。私はなんともない。」
「よかった・・・。テレビで黒森峰で爆発事件があってお姉ちゃんが巻き込まれたって聞いたから心配で・・・。」
「ありがとう。格納庫で私のティーガーを整備しようと行ったら後ろから急に睡眠薬をかがされたようだ。」
「そう・・・爆発事件のことは覚えてないの?」
「気がついたら救急車の中だ。警察によると縄で縛られて口にはガムテープがされていたらしい。」
「そう。まあ何も覚えてないならその方がいいかもしれないよね。辛いことを思い出すよりは。」
「うむ。」
「何かあったら言ってね。私はいつでもお姉ちゃんの味方だから!」
「ありがとうみほ。私はこれから医者とまた会わなければならない。」
「わかった。ほんとに何かあったら言ってね!絶対だよ?」
「大丈夫だ。じゃあ切るぞ。」
「・・・。」
「止めることができなかった。だから仕方ないんだ・・・。」
ミッションコンプリート
・「特別なパーティ」 +1000 『ターゲット二人を同じ場所に集める。』
・「現役の老兵」 +2000 『ティーガー戦車に乗る。』
・「老兵を支える女神」+1000 『西住まほに会う。』
・「本来の使い方」 +5000 『戦車砲でターゲットを2人まとめて殺害する。』
こっちを本編にしても良かったんじゃないかと思っています。
2019/06/17追記
47に戦車を動かさせる構想は結構早くからありました。どうしても被害がでかくなって警察勢力とドンパチやる方向になってしまってたのでここまで採用が伸びた感じですね。
次回は王宮へ向かいます。