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『トリスタニアへようこそ。47。』
『今回は奇妙な依頼でね。依頼料は余分に支払われているのだけれど、ターゲットの名前が“財務卿”としか書かれていないのよ。でも依頼料の支払いは既に済んでしまっているから断るわけにも行かなくてね。』
『というわけで今回のターゲットはトリステイン王宮にいる“財務卿”の暗殺よ。名前は現地で調べてね。クライアントの詳細は不明だけど現在情報部が捜査しているわ。判明次第追って連絡するわね。』
『準備は一任するわ。』
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トリスタニアに来るのは久々だが、前回よりは商人たちが活気に満ち溢れていると言える。
私は今、王宮を除いてトリスタニア一高い建造物である大聖堂の最上階に居る。現在時刻、午後8時。眼下の町は未だに明かりが灯っており、人々は労働の後の至福のひとときを楽しんでいる。
今回私は情報部に依頼し、大聖堂の最上階、つまりここに王宮侵入用のグライダーを用意してもらった。漆黒に塗装されたグライダーは、夜闇に紛れるには申し分なく、サーチライトも無い王宮の松明の光に目がなれている警備兵には殆ど見えないと推測される。加えて今宵は新月の曇り空。月明かりどころか星明りすらないこの闇夜では見つけることはレーダーでもない限りほぼ不可能だろう。
しかし今の時間帯は流石に人目が多すぎる。もうすこし夜が更けてからでも遅くはない。依頼文には今日明日中と書いてあった。つまり明日になっても問題はないということだ。私はグライダーを組み立てつつ夜が更けるのを待った。
街明かりも消え、王宮の窓で灯っていたロウソクの淡い光もほとんど消えた。時刻は午後11時。そろそろ仕事に取り掛かるとしよう。
私はグライダーを広げた。大聖堂最上階から一気に飛び降り、若干下降し速度を上げたところで引き起こし僅かな風に乗る。うまい具合に高度が上がったのでそのまま王宮へ突入する。
高度が上がりすぎている気もするがそれならばいっその事、城の屋根部分に降り立とうと方針転換。更に引き起こしつつ城の最上階の更に上の屋根をかすめる進路を取る。屋根の上を通過する瞬間にグライダーから飛び降りる。
ガラガラガラガガガ
屋根は小さなタイルのようなものが重ねて貼られていた。そのうちの何枚かを壊しつつ強引に着地する。グライダーはそのまま風に乗って城の向こう側の森へ飛んでいった。
無事屋根に降り立つことはできたのでそのまま滑るように屋根の端まで行く。端から落ちないように慎重に下を除くと少し横へ行ったところにベランダのような場所があった。そこに降り立つことにする。
しかし、ベランダの直上まで来た時にふいにベランダの扉が空いた。
「ふう・・・夜風が気持ちいい・・・」
中からは可憐な美女が出てきた。栗色の髪で王宮の最上階に住んでいる美女。おそらくアンリエッタ女王だろう。私は気が付かれないように息を潜めつつ中に戻るのを待つ。
「しかしデムリ卿はどうなってしまうのでしょう・・・。有能な人材は政争などで失うべきではないのに・・・。」
何やら独り言を言っている。デムリ卿とは誰のことだろうか。
「陛下。声がすると思えばいかがなされましたか。」
「アニエス。いえ、眠れないだけですわ。」
「無理もありません。キロプが王宮の財務を牛耳ったのも昨日のことですから。」
「かの者は以前リッシュモン以下レコンキスタの一派との関係が噂されていた派閥ではないですか。それが何故・・・。」
「あのときは証拠不十分で逮捕すらできませんでしたからね。ですがいつか必ず法定に引きずり出してみせます。」
「期待していますよ。アニエス。私を孫娘のようにかわいがっていただいたデムリ卿のためでもあります。」
「デムリ卿は私に対しても敬意を払って応対していただいた方。私も彼の復活を待ち望んでいる一人でございます。」
どうやら最近政争があったようだ。財務を牛耳った、ということは今の財務卿はそのキロプと言う人物ということになる。しかし依頼が出されたのは先週末。まだ4日しか経っていないとは言え、そのときと財務卿の人物が変わっている可能性がある。一旦上層部に対応を検討してもらったほうが良さそうだ。
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『上層部の判断は一貫してるわ。“いつの時点で”や“個人名”が書かれていない以上、“今現在の財務卿”をターゲットにする他ないわ。』
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本来のターゲットとはおそらく違うが同じ財務卿であることには変わりはない。私は私の仕事をするだけということか。その方がわかりやすくて助かる。
「さあ、姫様。もうこの時期は夜は冷えます。お体を壊されては元も子もございませんよ。」
「わかってるわ。アニエス。もう戻ります。」
そう言うと女王は扉を閉め、シャっという音がしたのでおそらくカーテンも閉めたのだろう。私は更に数分待った後、慎重にベランダに降り立った。通常の賊ならばここで内部に侵入するところだろうが、私の目的はあくまで財務卿の抹殺であり、女王を夜這いすることでも空き巣でもない。
私は更に下に降りるため階下を見渡した。下の階に降りるためには何処かを伝っていかねばならないのだが、雨樋のようなパイプも見当たらない。しかし、私は一つ下の階の窓の上辺が思いの外上の階に近いことに気がついた。窓自体が大きいためこういう作りになっているのだろうが好都合である。
私はベランダから横方向に伸びる出っ張りに手をかけつつ、ぶら下がりながら窓の上まで移動した。窓の上まで来ると足がつくかどうかを試した。幸いにも足が窓枠に引っかかったためそのまま降り立ち、しゃがみ、また窓枠にぶら下がった。窓の向こう側に人影はなく、私は窓にはめられている枠をはしご代わりに降りた。はたから見ればヤモリのようだったかもしれない。
私は窓枠の一番下まで来ると窓を開けた。どうやらここはまだ3階なため窓から侵入してくることを想定していないのか窓が開かないようにするためだけの簡易的な鍵以外鍵と呼べるものはなかった。私は難なく城内に侵入した。
既に寝静まっている城内は静かで、時折巡回の兵が見回りに来るが必ず松明かランプを持っているため接近に気がつくのは容易だった。私はそのまま3階を探索する。
3階には大会議場ほか各大臣の執務室や寝室もあった。しかし目的の財務卿の執務室は見つけることができなかった。おそらくもう一つ下の階にあるのだろう。
私は下の階に降りるために階段へ向かった。すると階段の下から巡回兵が二人上ってきた。私はとっさに近くにあった出窓のカーテンを開けて出っ張り部分に隠れた。通常なら月明かりなどで影ができてしまうが、今夜は外からの光は殆どないため大丈夫だろう。
「でさ、噂はほんとうなのか試しに行ったんだよ。」
「マジか。お前勇気あるなあ。」
「何ちょっと物音立てるだけだもんよ。わけないぜ。でさ、新しい財務卿の怖がり伝説って感じで面白おかしく広めてやろうと思ったのさ。」
「うわ悪質だな(笑)」
「ククク・・・。あいつの寝室の真ん前で真夜中にノックするだろ?そしたらあいつ中で飛び上がって跳ね起きたらしくてよ、すげえ音がしてたぜ。」
「大丈夫なのかよそれ。あいつの心弱すぎだろ。」
「ほんとそれな。で、バタバタしてたから隠れて見てたんだけどよ、あいつ血相変えて飛び出して向かいの執務室に飛び込んでったわ。」
####アプローチ発見####
「あれ?あいつの部屋って防犯用の魔法がいくつもかけられてんだろ?」
「そうさ。入っただけで夜だろうが昼間だろうがすげえ音がなる仕掛けがな。でも自分からそんな防犯魔法かけときながら飛び出してきちゃ意味ないってんだよな。」
「ちげえねえや。ハハハ!」
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『どうやらターゲットは寝室の目の前で音を立てられると飛び起きて執務室に駆け込むみたいね。防犯装置だらけの寝室よりはよっぽどやりやすいんじゃない?』
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そんな話をしながら巡回兵達は廊下を通り過ぎていった。私はカーテンを開け、2階へ向かった。先程の話しによれば財務卿の執務室の目の前に寝室があるようだ。探す手間が省けて非常に好都合である。
2階へ降りるとまたさらに多くの部屋があった。しかしいくつかの部屋はその部屋の入口に何の部屋か書かれていた。厚生局、入国管理局、国税局、財務局。目的の部屋を見つけた。その向かいにある部屋、おそらく少し離れたところにある廊下の向かい側の部屋。あそこだろう。
私はまず財務局内にあると思われる執務室を確認することにした。各部屋は厳重に鍵がかかっており、ロックピックでもうまく開けることが出来ない。仕方がないので外から入ることにする。
財務局は城の角に位置しており、廊下は寝室のさきには窓が一つあって終わっている。その窓を開け、両側を確認する。左側、つまりはターゲットの寝室であるがものの見事に窓がはめ殺しになっている。窓の周囲だけ色が違うのでおそらくつい最近作り変えたのだろう。対して反対側の財務局側は有ろう事か若干窓が開いているのが確認できた。私はそのまま窓から出っ張りの上を伝って、開いている窓から内部に侵入した。
あろうことか開いていた窓の部屋は個室だった。綺麗に整頓された重厚な机、応接用のコーヒーテーブルとソファ。そして壁に飾られている絵画と最近かけられたと思われる肖像画。間違いない。ここが執務室だ。内部から執務室の扉の施錠を開けようと試みたがどうやら外からも内からも特殊な鍵を使っているらしく開かなかった。
まあいい。執務室に入れるのであれば問題はない。私は一旦窓の外を伝い廊下に戻った。軽いタイムアタックと行こうか。
コンコンコン
ドタン!バタン!
私はターゲットの寝室の扉を軽くノックした。それだけで凄まじい慌てようである。私は急いで窓から出て執務室へ向かった。
バアン!
私が執務室に着くと同時に外で扉が開く音がした。そのまま財務局の鍵を開錠しにかかっているようだ。私は扉が内開きなことを祈りつつ扉の横で待ち構えた。
バァン!
「ハアハア・・・ここまでくれば・・・安全だ・・・」
「果たしてそうだろうか?」
「!?!?!?」
執務室に勢いよく入ってきたターゲットは、机に両手を突きながら安心したような声を上げたので、私は一言声をかけ現実に引き戻させてやった。寝巻き姿のままであり、手には鍵しか握りしめていないので杖は持っていないだろう。よって魔法を使われることもない。
「お、おまえ!まさかICAか!」
「ほう?何故わかった?」
「当たり前だ。今回の財務卿暗殺依頼。アレを出したのは他でもない、この私だからだ!」
「・・・。」
「私はこの国の財務を司る役職につき、内部からこの国を崩壊させるためにいろいろ工作を行ってきた。しかしリッシュモンの逮捕によって全てが灰燼に帰した。だから私はデムリ財務卿の暗殺依頼を出し、彼の亡き後にその後釜に座り一からやり直すために様々な根回しと工作をやってきたんだ。」
「・・・。」
「そしたらどうだ!根回しが良すぎたのか知らないがデムリは自ら財務卿の役職を私に譲ると言ってきた!しかも陛下の御前でだ!そのときには既にお前たちへの暗殺依頼を出した後だったのだ!」
「なるほど。それでお前は怯えているわけか。」
「怯えてなど居ない!ただ・・・ターゲットは私ではないということを理解してもらえただろう?デムリは一つ上の階の一番西の端の部屋で寝ているはずだ!さあターゲットはそっちだ!そっちを殺しに行け!」
私は必死に命乞いをしている目の前の男、おそらく名前はキロプ。その眼前にシルバーボーラーを出して銃口を向けた。
「な、何を!私はクライアントだぞ!ターゲットじゃないんだぞ!」
「悪いが依頼文には“財務卿を抹殺してくれ”としか書かれていなかった。その依頼が受理されたときの財務卿は、お前だ。」
「だからアレは間違いなんだ!私はデムリのことを抹殺してほしくて」
「間違いだろうとなかろうと、指示された内容は“依頼文に従って現財務卿を抹殺せよ”だった。現在の財務卿は、お前だ。」
「ま、まて!そうだ!報酬を倍だそう!だから・・・。」
「残念ながらタイムリミットだ。来世で依頼を出すときはちゃんと個人名を書くんだな。」
「や、やめろお!!」
パシュン
弾丸は必死で命乞いをするクライアント兼ターゲットの眉間を正確に撃ち抜いた。
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『ターゲットの死亡を確認。依頼料は全額支払い済みだから問題はないわ。任務完了よ。帰還して頂戴。』
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ターゲットの死体は執務室のコーヒーテーブルの上に大の字になる形で倒れ込んだ。朝になれば全てが明るみに出るだろう。私は彼が開けてくれたドアを通り廊下へ出た。
1階に降り、中庭に出ると巡回兵が思ったより居た。よく見つからずに済んだものだと思うが、私はそのまま城壁の中に入った。
城壁の中でも兵は巡回していた。しかし庭ほど多くはないのでやり過ごすことは造作もなかった。一つの小部屋に入り、中においてあったロープを取った。城壁の上に登り、城壁の外側へ降りるためのロープを垂らして脱出した。
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~2日前~
「やあ、久しぶりだな。元気にしてたかい?」
「ええこっちは大丈夫よ、デムリおじさん。」
「おじさんはよしてくれ。これでもまだ中身は若いつもりなんだから。」
「おじさんはおじさんよ。私の大切なおじさん。今日は知らせたいことがあったの。」
「うん?なんだい?君が知らせてくれることは大抵重要なことだからねえ。」
「ICAって知ってる?暗殺組織なのだけれど、そこにデムリおじさん、あなたの暗殺依頼が来たわ。」
「なんだって!?それは本当かい!?」
「ええ。私がこの目で依頼文を確認したもの、間違いはないわ。でも依頼文には“財務卿を”としか書かれていなかったわ。」
「ううむ・・・一体誰が・・・。はっ!キロプの仕業か!」
「おそらくそう。おそらく自分が財務卿の地位に着くためにデムリおじさんが邪魔ということなんだと思う。」
「何という卑劣な!しかしどうすれば・・・。」
「簡単よ。財務卿の地位をお望み通り今すぐキロプにくれてやればいいのよ。」
「何?・・・そうか!それなら暗殺対象が私ではなくなるということか!」
「そう。私はまだまだデムリおじさんの声を聞きたいし、トリステイン王国にも繁栄してほしいの。」
「ありがとう。君のような孫娘を持って私は幸せだよ。助言感謝する!私は早速陛下にこのことを上申してくるよ!」
「いってらっしゃい。幸運を祈ってるわ。」
「そうだ、前々から聞こうと思っていたんだが、君は何故そんなにも情報をすぐに集められるんだい?」
「ふふふ。じゃあおじさんには特別に教えてあげる。」
「それは、私がICAのオペレーターのひとりだからよ。」
ミッションコンプリート
・「ホークアイ」 +1000 『グライダーで王宮に侵入する。』
・「白百合の噂話」 +1000 『アンリエッタ女王から情報を得る。』
・「こわいこわいおばけ」+2000 『ターゲットが寝ている寝室をノックする。』
・「逆転裁判」 +6000 『クライアントを暗殺する。』
最後の女性はバーンウッドさんではありません。
2019/06/17追記
最後の女性はEDF5の途中参戦サポートオペ子さんが元です。
次回はオーディションへ参加します。